西 讃 地 域 における 乳 質 改 善 の 取 り 組 み 西 部 家 畜 保 健 衛 生 所 西 讃 支 所 高 橋 茂 隆 小 野 耕 一 澤 野 一 浩 真 鍋 圭 哲 1. はじめに 近 年 食 の 安 全 安 心 とともに 牛 乳 の 消 費 低 下 も 加 わって 酪 農 家 には 良 質 な 生 乳 の 生 産 が 求 められて いる そのため 乳 質 の 中 でも 体 細 胞 数 や 細 菌 数 については 規 制 基 準 が 厳 しくなっている そのような 中 で 県 内 で 有 数 の 酪 農 地 帯 である 西 讃 地 域 は 十 分 な 対 策 がとられていなかったこともあり 県 平 均 に 比 べ て 体 細 胞 数 が 高 い 傾 向 にあることから 乳 質 改 善 が 課 題 であった( 図 1) 今 年 度 から 当 所 では 西 讃 地 域 の 乳 質 改 善 に 取 り 組 んできたので 初 年 度 の 概 要 を 報 告 する 2. 平 成 18 年 度 の 取 り 組 み 平 成 18 年 度 は 乳 質 の 中 でも 体 細 胞 数 の 減 少 を 目 的 に 基 礎 的 な 作 業 を 行 った すなわち 1 農 家 に 対 す る 指 導 体 制 の 整 備 2 搾 乳 衛 生 チェックリストを 活 用 した 農 家 への 調 査 3より 確 実 な 治 療 を 期 すための 乳 房 炎 検 査 の 精 度 向 上 と 迅 速 化 の 試 験 の 3 課 題 について 取 り 組 んだ 1 指 導 体 制 の 整 備 西 讃 地 域 では 核 となる 指 導 方 針 指 導 体 制 がなか ったことから 指 導 体 制 の 整 備 を 行 った 家 畜 保 健 衛 生 所 ( 以 下 家 保 )においては グループ 制 による 取 り 組 みを 行 った すなわち 複 数 の 獣 医 師 による 検 査 調 査 指 導 を 重 点 的 に 取 り 組 んだ また 関 係 機 関 と 連 携 し 情 報 の 共 有 化 を 行 った 特 に 家 畜 診 療 所 とは 頻 繁 に 連 絡 を 取 り 合 い 農 家 の 指 導 を 協 力 して 実 施 した 以 上 のことから 農 家 へ 立 ち 入 っての 調 査 や 指 導 に より 細 やかな 対 応 が 可 能 となった 2 搾 乳 衛 生 チェックリストによる 調 査 ( 表 1 2) 1) 調 査 方 法 西 部 家 畜 保 健 衛 生 所 で 作 成 した 搾 乳 衛 生 チェックリ ストを 用 いて 調 査 を 実 施 した すなわち 酪 農 家 20 戸 に 立 ち 入 り 搾 乳 前 の 準 備 搾 乳 手 順 機 器 の 整 備 状 況 などの 28 項 目 が 適 切 に 実 施 できているか 聞 き 取 り 調 査 や 確 認 作 業 を 行 った 表 1 搾 乳 衛 生 チェックリスト 搾 乳 衛 生 チェックリスト 農 家 名 : 1. 搾 乳 前 の 準 備 Yes No 備 考 1) 手 袋 の 装 着 あるいは 手 指 の 消 毒 を 実 施 しているか 2) 搾 る 牛 のところにユニットを 持 ってきてから 作 業 開 始 しているか 3) 前 搾 りをストリップカップを 使 用 して 実 施 しているか 4)プレディッピングを 実 施 しているか 5) 乳 頭 洗 浄 に1 頭 1 枚 以 上 のタオルを 使 用 しているか ( 洗 い 湯 とタオルの 交 換 頻 度 ) 6) 乳 頭 洗 浄 に 殺 菌 剤 を 使 用 しているか( 薬 剤 : ) 7) 乳 頭 洗 浄 のお 湯 の 温 度 殺 菌 剤 の 濃 度 は 適 正 か 8) 乳 頭 のみを 拭 いているか 9)ペーパータオル 等 で 搾 乳 前 乳 頭 を 乾 かしているか 2. 搾 乳 手 順 と 搾 乳 衛 生 1) 前 搾 り 開 始 後 1 分 位 でティートカップを 装 着 しているか 2)ライナースリップを 最 小 にしているか 3)マシンストリッピングを 最 小 限 にしているか 4)5 分 前 後 で 搾 乳 が 終 了 しているか 5) 搾 乳 直 後 にディッピングをしているか ( 製 品 : /スプレー ディッパー) 6)ディッピング 後 牛 はしばらく 立 っているか 7) 乳 房 炎 牛 を 最 後 に 搾 乳 しているか 8) 真 空 を 解 除 してからティートカップを 離 脱 しているか 9) 生 乳 を 逆 流 しないようにクローをもっているか 10) 搾 乳 後 のライナー 消 毒 を 実 施 していないか 3. 搾 乳 機 器 関 係 1) 搾 乳 器 具 の 点 検 を 定 期 的 に 実 施 しているか 2)ライナーゴムは 適 期 に 交 換 されているか( 回 / 年 ) 3)ミルカー パイプラインの 洗 浄 消 毒 を 実 施 しているか 4)バルククーラーの 洗 浄 消 毒 を 実 施 しているか 4. 牛 舎 管 理 1) 分 娩 房 を 使 用 しているか 2) 乳 房 の 毛 刈 りをしているか 3) 乾 乳 前 に 乾 乳 用 軟 膏 を 注 入 しているか 4) 牛 床 の 長 さは 十 分 か( cm) 5) 搾 乳 器 具 は 衛 生 的 に 保 管 されているか 5.その 他 1) 現 在 最 も 関 心 のあることは 何 か
2) 調 査 成 績 全 体 的 には 搾 乳 前 の 準 備 作 業 や 牛 舎 の 環 境 管 理 面 が 悪 かった また 1 農 家 当 りの 実 施 率 は 平 均 6 割 で 搾 乳 衛 生 に 対 する 意 識 の 低 さが 判 明 した( 図 2) 項 目 別 には 1 搾 乳 前 の 準 備 作 業 では 乳 頭 洗 浄 に 1 頭 1 枚 以 上 のタオルの 使 用 プレディッピングの 実 施 ペーパータオルの 使 用 ( 表 3) 2 搾 乳 手 順 では マシンストリッピングの 未 実 施 ポストディッピング の 実 施 ( 表 4) 3 搾 乳 機 器 の 管 理 面 では 器 具 の 定 期 的 な 点 検 ( 表 5) 4 牛 舎 の 環 境 管 理 面 では 乳 房 の 毛 刈 りや 分 娩 房 の 使 用 ( 表 6) 等 が 特 に 実 施 できていなかった
3 乳 房 炎 検 査 の 精 度 向 上 と 迅 速 化 の 試 験 1) 目 的 体 細 胞 数 を 減 少 させるには 乳 房 炎 治 療 は 重 要 な 対 策 であり 適 切 な 治 療 が 必 要 となる それゆえ 乳 房 炎 検 査 には 正 確 性 が 必 要 であり また 他 の 業 務 との 掛 け 持 ちとなることから 検 査 の 精 度 面 や 時 間 的 制 約 が 問 題 となった そのため コロニーを 見 るだけで 簡 単 に 菌 種 の 鑑 別 ができないかということをテーマに 酵 素 基 質 培 地 を 試 験 的 に 使 用 し 検 査 の 精 度 向 上 迅 速 化 を 目 指 した 酵 素 基 質 培 地 クロモアガーオリエンタシオン( 以 下 クロモアガー)では コロニーが 特 異 的 に 発 色 するこ とから 簡 易 迅 速 に 菌 種 を 鑑 別 できるとされ ヒトの 泌 尿 器 系 疾 患 では すでに 利 用 されている また 最 近 牛 の 乳 房 炎 検 査 にも 応 用 できるとの 報 告 1) もあり メーカーによると コリネバクテリウムなどの 例 外 を 除 き 乳 房 炎 の 主 要 な 原 因 菌 は コロニーの 色 調 や 大 きさで 菌 種 の 鑑 別 は 可 能 とのことであった 2) 方 法 まず 農 家 や 家 畜 診 療 所 から 依 頼 された 乳 房 炎 検 査 について 細 菌 分 離 および 薬 剤 感 受 性 試 験 を 実 施 した さらに 検 査 の 精 度 向 上 迅 速 化 を 行 うためにクロモアガーを 用 いて 細 菌 培 養 を 行 った Ⅰ) 乳 房 炎 検 査 延 18 戸 の 農 家 から 採 取 した 87 検 体 の 乳 汁 について 他 の 家 保 で 実 施 している 検 査 方 法 により 行 った す なわち 羊 血 液 寒 天 培 地 DHL 寒 天 培 地 マンニット 食 塩 培 地 の 3 種 類 の 培 地 を 用 いて 37 24~48 時 間 培 養 を 行 った さらに 分 離 した 細 菌 について ペニシリンやセファゾリン 等 の 7 種 類 の 抗 生 剤 を 用 いて 薬 剤 感 受 性 試 験 を 実 施 した Ⅱ) 検 査 の 精 度 向 上 迅 速 化 試 験 さらに 乳 房 炎 検 査 と 平 行 して 乳 汁 をクロモアガーに 接 種 し 37 24~72 時 間 培 養 を 行 った 後 菌 の 発 育 の 有 無 やコロニーの 形 態 等 を 比 較 検 討 した 3) 成 績 Ⅰ) 乳 房 炎 検 査 ⅰ) 細 菌 分 離 成 績 ( 図 3) ブドウ 球 菌 やレンサ 球 菌 コリネバクテリウム 等 116 株 を 分 離 した その 内 32%が 伝 染 性 で 68%が 環 境 性 であった また ブドウ 球 菌 とレンサ 球 菌 を 合 計 するとは 全 体 の 63%を 占 めた ⅱ) 薬 剤 感 受 性 試 験 成 績 ( 図 4) ペニシリンやアンピシリンでは 6 割 以 上 の 菌 が 耐 性 であった また セファゾリンやセフロキシムといっ たセフェム 系 薬 剤 は 最 も 感 受 性 が 高 く また 耐 性 菌 の 割 合 は 1 割 強 であった
Ⅱ) 検 査 の 精 度 向 上 迅 速 化 試 験 ⅰ) 細 菌 培 養 まず ブドウ 球 菌 は 中 型 のコロニーで 24 時 間 の 培 養 で 発 育 した メーカーによると 淡 黄 色 のみとのこと であったが 今 回 SAは 全 て 淡 黄 色 CNSは 白 紫 水 色 と 多 様 性 を 示 した( 表 7) レンサ 球 菌 は 発 育 が 悪 いものの 24 時 間 で 小 型 のコロニーが 確 認 できた 色 調 はメーカーと 同 様 に 青 緑 色 と 白 色 であった( 表 8) 次 に 大 腸 菌 群 については 例 数 は 少 ないもののメーカーと 同 様 な 結 果 となった( 表 9) メーカーが 発 育 しないとしているコリネバクテリウム( 以 下 コリネ)は 48 時 間 の 培 養 で 微 小 な 紫 のコ ロニーを 確 認 した( 表 10) コリネは 血 液 寒 天 培 地 でも 発 育 が 遅 く 他 の 種 類 の 菌 が 多 いと 検 出 できない 可 能 性 がある 実 際 クロモアガーで 培 養 48~72 時 間 後 に 再 確 認 することにより 分 離 できた 事 例 もあり 検 出 率 は 向 上 した なお グラム 染 色 でコリネと 区 別 がつきにくいアルカノバクテリウムは 水 色 のコロニーが 観 察 され 区 別 が 可 能 であった 他 の 菌 についても 特 徴 のあるコロニーが 観 察 された( 表 11)
ⅱ) 有 用 性 の 検 討 ( 表 12) 以 上 の 成 績 から クロモアガーは 乳 房 炎 の 主 要 な 原 因 菌 が 分 離 でき 菌 種 ごとにコロニーに 特 徴 があるこ とから 汎 用 性 や 特 異 性 の 点 で 優 れていた また 他 の 培 地 と 比 べると 発 育 が 悪 いレンサ 球 菌 やコリネの 検 出 率 がアップし 精 度 が 向 上 した しかし 本 培 地 は 菌 の 増 殖 性 が 悪 く 汎 用 性 の 高 い 血 液 寒 天 培 地 との 併 用 が 必 要 であった また 経 費 面 では クロモアガーは DHL 寒 天 培 地 と 比 較 すると 約 2 倍 高 くなるが 血 液 寒 天 培 地 と 併 用 した 場 合 他 の 家 保 で 行 っている 他 の 3 種 類 の 培 地 を 使 用 した 経 費 と 同 程 度 になる 一 方 迅 速 性 に 関 しては 課 題 として 残 った というのは 現 在 のところデーターが 少 ないことや メーカ ーのプロトコールと 異 なる 成 績 であることから 更 なるデーターの 集 積 が 必 要 であると 思 われる なお デ ーターの 集 積 次 第 では 将 来 的 には 検 査 の 迅 速 化 は 十 分 可 能 であると 考 える 表 12 クロモアガーの 特 徴 と 課 題 クロモアカ ー 血 液 寒 天 DHL マンニット 汎 用 性 特 異 性 増 殖 性 ー ー 経 費 総 合 評 価 1 レンサ 球 菌 やコリネの 検 出 率 向 上 2 血 液 寒 天 培 地 との 併 用 が 必 要 3 迅 速 性 の 点 では 更 なるデーターの 集 積 が 必 要 3.まとめ 効 率 的 な 検 査 調 査 指 導 のため 家 保 の 体 制 整 備 や 関 係 機 関 との 連 携 を 強 化 した そのため 農 家 へ 立 ち 入 っての 調 査 や 指 導 により 細 やかな 対 応 が 可 能 となった 乳 房 炎 検 査 で 環 境 性 乳 房 炎 が 大 半 を 占 めたことや 搾 乳 衛 生 チェックリストによる 調 査 で 搾 乳 衛 生 に 対 す る 意 識 が 低 く 中 でも 搾 乳 前 の 準 備 作 業 ができていないことや 牛 舎 環 境 が 悪 いなどの 問 題 点 が 抽 出 されたこ とから その 点 を 重 点 的 に 指 導 した
また 検 査 では 発 育 が 悪 いレンサ 球 菌 やコリネの 分 離 率 が 上 がり クロモアガーの 有 用 性 や 検 査 精 度 の 向 上 を 確 認 した 一 方 迅 速 化 にはデーターの 集 積 が 課 題 として 残 った 以 上 の 成 績 をもとに 来 年 度 から 特 に 体 細 胞 数 の 高 い 農 家 に 対 して 1 搾 乳 衛 生 チェックリストによる 農 家 ごとの 問 題 点 の 分 析 と 指 導 による 搾 乳 衛 生 の 徹 底 2クロモアガーのデーターの 集 積 に 努 めるとともに そのデーターを 活 用 した 的 確 な 原 因 菌 検 索 を 行 い かつ 乾 乳 期 治 療 を 徹 底 することを 基 本 方 針 として 重 点 的 に 指 導 する 予 定 である 最 後 に 調 査 や 検 査 にご 協 力 いただいた 関 係 各 位 に 深 謝 します 参 考 文 献 1) 福 井 祥 悟 ら: 家 畜 診 療,53(11),651-656(2006)