パテント ポートフォリオ 構 築 のための 概 念 俯 瞰 フレームワーク 会 員 大 瀬 佳 之 要 約 複 数 の 発 明 概 念 を 全 体 部 分 関 係, 上 位 概 念 下 位 概 念 の 2 種 類 のつながりで 互 いに 結 びつけること により, 複 雑 な 技 術 知 識 を 探 索 し, 俯 瞰 するためのシステマティックなフレームワークを 提 案 する このフ レームワークにより, 従 来 断 片 的 で 主 観 的 な 独 自 分 類 で 管 理 していた 特 許 群 を 客 観 的 視 点 で 見 える 化 すること ができる これにより, 効 果 的 なパテント ポートフォリオ 構 築 を 行 うことができる また, 本 フレームワークにより 緻 密 に 発 明 概 念 を 定 義 することで, 大 局 的 な 知 財 管 理 のみならず, 個 別 特 許 の 明 細 書 作 成 においても 明 確 で 強 固 な 明 細 書 作 りを 行 うことができる 目 次 1.はじめに 2. 課 題 3. 本 稿 の 目 的 4. 概 念 俯 瞰 のフレームワーク 5. 表 記 法 6. 概 念 俯 瞰 の 活 用 方 法 7. 効 率 的 に 概 念 を 俯 瞰 するためには 8.まとめ 1.はじめに 特 許 庁 による 知 財 戦 略 事 例 集 [1] の 発 行 から 8 年 が 経 過 し,パテント ポートフォリオ 構 築, 群 管 理 が 多 くの 企 業 で 導 入 され, 実 務 者 の 間 でも 広 く 知 られるよ うになった 知 財 戦 略 事 例 集 [1] においては, 複 数 の 特 許 を 何 らかの 観 点 に 基 づいて 集 合 体 と 認 識 して 管 理 することを 群 管 理 と 表 現 し,この 管 理 された 群 が 群 として 管 理 される 何 らかの 目 的 に 対 して 最 適 化 され た 状 態 を 特 許 ポートフォリオと 表 現 する と 定 義 して いる 通 常,パテント ポートフォリオは 企 業 が 生 み 出 した 研 究 開 発 成 果 を 事 業 に 最 大 限 に 活 かすことを 目 的 に 構 築 される 従 来, 群 管 理 手 法 としては, 鶴 見 [2] において, 戦 略 データ ベースという, 各 特 許 に 独 自 分 類 を 付 与 した 特 許 データベースによりパテント ポートフォリオ 構 築 を 行 う 提 案 がなされている また, 概 念 の 扱 い 方 としては, 畑 村 [4], 濱 口 [5] にお いて 概 念 を 整 理 し, 新 たな 発 想 を 導 く 手 法 として 思 考 展 開 図 という 手 法 が 紹 介 されている また,システマ ティックな 概 念 俯 瞰 分 類 の 学 問 として,オントロ ジーという 学 問 体 系 が 存 在 する [6] 2. 課 題 群 管 理 において, 一 口 に 複 数 の 特 許 を 何 らかの 観 点 に 基 づいて 集 合 体 と 認 識 して 管 理 する といって も, 特 許 制 度 が 保 護 対 象 とする 発 明 は, 目 に 見 え ない 概 念 であって,それぞれの 発 明 の 位 置 づけを 把 握 対 比 して 管 理 することは 容 易 ではない 例 えば, 各 特 許 に 対 する 分 類 付 け 作 業 を 行 う 場 合 に は, 通 常, 付 与 担 当 者 の 主 観 に 応 じて 分 類 作 成 が 行 わ れる そのため, 分 類 の 妥 当 性 や, 付 与 ルールの 策 定 などを 含 め, 相 当 の 試 行 錯 誤 が 必 要 となる また, 一 度 付 与 した 分 類 は 時 間 の 経 過 とともに 陳 腐 化 が 始 まる 戦 略 的 な 知 財 経 営 を 実 現 するには, 群 を 常 にアップデートしなければならない しかし,アッ プデートはゼロベースの 作 業 であり 根 気 がいる そし て, 群 に 含 まれる 発 明 数 は 事 業 活 動 が 進 むに 従 って 肥 大 化 し, 群 をメンテナンスする 作 業 負 荷 は 年 々 増 大 し てしまう 効 果 的 な 群 管 理 を 実 現 するためには, 属 人 性 を 排 除 した 客 観 的 な 分 類 作 成 と, 容 易 なメンテナン ス 手 法 が 必 要 とされている 身 近 な 事 例 では, 日 常 的 な 個 別 特 許 の 出 願 権 利 化 業 務 においても, 関 連 特 許 の 位 置 づけを 把 握 しながら 権 利 範 囲 を 設 定 したり, 明 細 書 を 充 実 化 させる 技 術 は 経 験 の 長 い 弁 理 士 においても 難 しい 技 術 と 考 えられて Vol. 68 No. 11 99 パテント 2015
おり,そのような 技 術 は 執 筆 者 個 人 の 属 人 的 な 能 力 と 長 らく 考 えられてきた 3. 本 稿 の 目 的 本 稿 で 提 案 するフレームワークは, 群 管 理 に 携 わっ ている 知 財 部 員 に 加 え, 個 別 特 許 の 出 願 権 利 化 活 動 において 活 躍 されている 弁 理 士, 企 業 内 知 財 部 員 など 技 術 知 識 を 扱 う 専 門 職 全 般 に 対 して 次 の 価 値 を 提 供 することを 目 的 とする ア. 特 許 群 の 全 体 最 適 化 発 明 概 念 をシステマティック, 網 羅 的 に 大 局 を 俯 瞰 しながらポートフォリオ 構 築 に 活 かすことができる イ. 個 別 特 許 の 明 細 書 充 実 個 別 業 務 において, 一 件 の 出 願 明 細 書 における 実 施 例, 変 形 例 を 充 実 させることができる ウ. 効 果 的 な 発 明 発 掘 活 動 発 明 面 談 において, 発 明 者 の 暗 黙 知 を 引 き 出 し 充 実 した 特 許 面 談 につなげることができる 4. 概 念 俯 瞰 のフレームワーク 本 稿 で 提 案 する 発 明 概 念 俯 瞰 のフレームワークは 次 のとおりである (1) 種 発 明 の 選 択 このフレームワークを 使 用 する 上 でまずは 種 となる 発 明 が 必 要 である 俯 瞰 したい 対 象 技 術 分 野 から 適 当 な 発 明 ( 特 許 公 報 )を 1 つ 選 べばよい できれば, 群 管 理 対 象 の 複 数 の 特 許 が 既 に 特 定 され ていることが 望 ましい その 中 の 一 つずつに 対 して 本 フレームワークを 適 用 し,それらを 統 合 することで, 複 数 の 発 明 の 一 致 点, 相 違 点 を 比 較 しながら 中 間 的 な 新 たな 概 念 ( 中 間 概 念 )も 含 めて 網 羅 的 に 体 系 的 な 概 念 を 導 くことができる (2) 発 明 分 析 構 造 化 ( 全 体 部 分 関 係 の 見 える 化 ) 選 択 した 発 明 を 構 成 要 素 に 分 割 し, 構 造 化 する 具 体 的 には, 対 象 発 明 を 要 素, 属 性, 関 係 (これ ら,3 つを 構 成 とよぶ)によって, 要 素 どうしのつ ながりとして 把 握 する [7][8][3][6] この 作 業 を 通 じて, 発 明 全 体 と 部 品 ( 要 素, 属 性, 関 係 )とのつながり( 全 体 部 分 関 係,つまり 仕 組 み, カラクリ)を 見 える 化 することができる 具 体 的 に, 要 素, 属 性, 関 係 は, 以 下 のよう に 定 義 される 1. 要 素 とは 対 象 発 明 を 構 成 する 部 品 を 要 素 という 特 許 業 界 で 慣 用 的 に 使 われる 構 成 要 素 という 言 葉 に 対 し, 本 稿 における 要 素 は 要 素 同 士 のつながりは 含 まない なお, 方 法 であれば, 方 法 を 構 成 する 工 程 のうち, 意 味 のある 単 一 工 程 (ステップ)となる ま た,プログラムであれば, 意 味 のある 単 一 の 演 算 処 理 を 行 う 関 数 (ファンクション)が 要 素 となる 2. 属 性 とは 要 素 の 性 質 を 絶 対 的 に 規 定 するものを 属 性 という たとえば, 自 動 車 の 色 は 赤 い という 記 載 は, 自 動 車 という 要 素 の 色 を 絶 対 的 な 赤 に 規 定 し ている 属 性 となる 3. 関 係 とは 要 素 間 の 関 連 性 を 相 対 的 に 規 定 するものを 関 係 という たとえば, 自 動 車 は, 車 輪 により 支 持 さ れる という 記 載 は, 自 動 車 という 要 素 と 他 の 要 素 で ある 車 輪 とのつながりを 互 いを 参 照 することで 相 対 的 に 規 定 しているもので, 関 係 となる 驚 くことに 殆 どの 発 明 はこの 3 種 類 の 概 念 の 組 み 合 わせで 記 述 することができる なお, 方 法, 製 法 発 明 における 要 素 は ステップ であり, ステップ の 組 み 合 わせにより 発 明 が 実 現 される 読 者 には, 一 度 適 当 な 特 許 公 報 に 対 してこの 方 法 を 適 用 して 欲 しい 今 まで 見 えなかった,いろいろな 発 見 が 見 つかると 思 う また, 要 素, 属 性, 関 係 に 切 り 分 けると,そ れぞれの 構 成 自 体 は 他 の 発 明 表 現 においても 広 範 に 再 利 用 可 能 となる 明 細 書 執 筆 が 上 手 な 先 輩 弁 理 士 の 技 術 を 習 得 したい 場 合 には, 一 度,その 明 細 書 を 要 素, 属 性, 関 係 に 切 り 分 けて 欲 しい バラバラ に 切 り 分 けた 要 素, 属 性, 関 係 を 習 得 するこ とで, 先 人 の 知 恵 を 自 身 の 今 後 の 執 筆 において 再 現 で きるようになり 執 筆 技 術 のレベルアップにつなげるこ とができる (3) 概 念 探 索 ( 上 位 概 念 下 位 概 念 の 探 索 ) 次 に, 先 ほどの 過 程 で 抽 出 した 構 成 の 要 素, 属 性, 関 係 の 上 位 概 念 と 下 位 概 念 を 探 索 する この 際, 既 存 の MECE フレームワーク( 周 期 律 表,TRIZ, F ターム 等 )を 適 用 することで,モレを 減 らし 想 定 し パテント 2015 100 Vol. 68 No. 11
ていなかった 多 くの 中 間 概 念 を 導 くことが 可 能 であ る 発 明 における MECE フレームワークの 適 用 は 7 (1)MECE フレームワーク にて 後 述 する これは,4(2)において 導 いた 全 ての 構 成 に 対 して 行 う 構 成 が 多 い 発 明 に 対 しては 根 気 のいる 作 業 とな る 上 位 概 念 化 と 下 位 概 念 化 は, 現 在 対 象 としている 発 明 がターゲットとしている 技 術 の 外 縁 程 度 を 包 含 す ればひとまず 充 分 である 概 念 は 無 限 といえるほど 多 く 存 在 するので,あまりにも 遠 い 概 念 を 探 索 する 必 要 はない (4) 概 念 探 索 で 発 見 した 要 素 を, 構 造 化 する 上 位 概 念 化, 下 位 概 念 化 で 見 つかった 新 たな 要 素 を 親 ( 全 体 )として, 再 度 4(2)の 方 法 に 従 い 全 体 部 分 関 係 を 構 築 する このとき, 愚 直 に 行 うと 要 素 毎 に 多 数 の 構 造 を 新 たに 定 義 する 必 要 が 生 じ, 非 常 に 煩 雑 となる その 際 は,7(2)にて 後 述 する 概 念 の 継 承 関 係 という 特 性 を 利 用 することで, 下 位 概 念 の 定 義 を 簡 略 化 することが 可 能 である( 下 位 概 念 は 上 位 概 念 の 構 造 を 継 承 していると 考 えると, 下 位 概 念 は 上 位 概 念 で 定 義 されていないものを 付 加 的 に 定 義 すれば 足 りる ) (5) 構 造 化 概 念 探 索 構 造 化 を 繰 り 返 す 概 念 が 充 分 に 出 尽 くすまで 4(2) 構 造 化 4(3) 概 念 探 索 4(4) 構 造 化 を 行 う この 際, 構 造 化 は 概 念 の 数 だけ 新 しいツリーが 生 まれてくるのに 対 し て, 概 念 探 索 により 導 いた 上 位 概 念 下 位 概 念 は 1つ のツリーにまとめることができる 群 管 理 対 象 の 特 許 が 既 に 特 定 されている 場 合 には, 全 ての 特 許 がツリー 内 に 割 り 当 てられていることを 確 認 する もし, 漏 れている 特 許 があれば 4(2) 構 造 化 を 行 い, 既 存 のツリーと 4(3) 概 念 探 索 を 通 じて 結 びつける 5. 表 記 法 4. 概 念 俯 瞰 のフレームワーク により 見 つけた 概 念 は, 以 下 の 2 種 類 の 方 法 で 表 記 することで, 見 通 し 良 く 取 り 扱 うことができる (1) ツリー 表 記 多 数 の 概 念 を 表 記 する 方 法 の 一 つとしてツリー 構 造 として 表 記 する 方 法 がある [6] 縦 軸 に 構 造, 横 軸 に 上 位 下 位 概 念 を 割 り 当 てることで 複 数 の 概 念 を 一 つのツリーで 表 現 することができる 以 下 に, 輸 送 機 械 の 実 例 を 示 す ツリー 表 記 は 概 念 を 視 認 性 良 く 俯 瞰 することに 向 いている (2) マトリックス 表 記 ツリー 構 造 として 表 記 する 方 法 は 直 感 的 に 視 認 しや すいが, 大 規 模 構 造 においては 作 業 が 困 難 になる 場 合 が 多 い その 場 合 は, 以 下 のようなマトリックス 表 記 ( 全 体 部 分 マトリックス, 上 位 下 位 概 念 マトリッ クス)で 記 述 した 方 が 概 念 どうしの 関 連 性 を 追 いやす い また,マトリックス 形 式 のデータ 構 造 は 表 計 算 ソ フト,データベース 等 で 実 装 しやすく, 多 数 の 関 係 者 図 1.ツリー 表 記 Vol. 68 No. 11 101 パテント 2015
図 2.マトリックス 表 記 ( 全 体 部 分 マトリックス) 図 3.マトリックス 表 記 ( 上 位 下 位 概 念 マトリックス) で 共 同 作 業 を 行 うのに 適 している プログラムによる 自 動 化 もしやすく, 一 人 の 人 間 の 認 知 能 力 を 超 えた 大 規 模 概 念 も 取 り 扱 うことができる 以 下 に,5(1)の 場 合 と 同 様, 輸 送 機 械 の 実 例 を 示 す マトリックス 表 記 では 行 と 列 にすべての 構 成 ( 要 素, 属 性, 関 係 )を 列 挙 し,それぞれの 構 成 どうしのつな がりをマトリックスで 記 述 する なお,ツリー 表 記 とマトリックス 表 記 の 関 係 は, 所 謂 グラフと 行 列 表 現 ( 隣 接 行 列 )に 相 当 し, 同 じ 対 象 の 異 なる 表 現 方 式 にあたる 6. 概 念 俯 瞰 の 活 用 方 法 4. 概 念 俯 瞰 のフレームワーク において 導 き 出 し た 概 念 同 士 のつながりは 知 財 業 務 において 様 々な 活 用 が 期 待 できる 例 えば, 担 当 技 術 分 野 における 概 念 俯 瞰 ができていれば,その 知 識 を 利 用 することで, 未 経 験 の 弁 理 士 でも 経 験 豊 富 な 執 筆 者 に 匹 敵 する 広 い 視 野 をもって 効 果 的 な 明 細 書 を 執 筆 することが 可 能 となる 本 稿 では, 特 に 以 下 の 3つに 焦 点 をあてて 紹 介 する 図 4. 製 品 構 成 マトリックス, 分 類 構 成 マトリックス パテント 2015 102 Vol. 68 No. 11
(1) パテント ポートフォリオの 構 築 群 管 理 を 行 う 場 合 には, 以 下 のように 分 類 と 構 成 と の 紐 付 け(ルール 作 成 )を 作 成 する また, 製 品 ライ ンナップとの 紐 付 けを 行 いたい 場 合 も 同 様 に, 製 品 名 と 構 成 との 紐 付 けを 行 う 特 に, 製 品 を 構 成 する 実 際 の 部 品 番 号 を 下 位 概 念 として 構 成 と 紐 付 けると, 設 計 情 報 と 一 貫 して 特 許 情 報 を 管 理 することが 可 能 となる このようなマトリックスを 構 築 しておくと, 上 位 概 念 下 位 概 念 のツリーを 辿 ることで 個 別 特 許 に 自 動 的 に 分 類 を 付 与 する( 紐 づけする)ことができる しか も,それぞれの 分 類 の 定 義 は 構 造 的 ( 要 素, 属 性, 関 係 )に 厳 密 に 規 定 され, 分 類 付 与 担 当 者 の 主 観 が 入 り 込 む 余 地 はない 分 類 の 位 置 づけや 代 替 技 術 回 避 技 術 もツリーを 参 照 することで 確 認 することができる また, 各 特 許 の 位 置 づけを 考 慮 することで, 権 利 範 囲 にまで 踏 み 込 んでポートフォリオ 構 築 状 況 を 把 握 する ことができる また, 製 品 を 構 成 する 部 品 と, 構 成 との 紐 付 けが 行 われていれば,どの 製 品 にどの 特 許 が 使 われているか も 自 動 的 に 紐 づけることができる 通 常, 製 品 毎 の 特 許 実 施 状 況 を 確 認 するためには, 各 製 品 と 各 特 許 との 1 対 1 の 対 比 が 必 要 であるが,そのような 作 業 は 不 要 である 製 品 ラインナップが 変 更 された 場 合 には, 変 更 箇 所 の 構 成 ( 要 素, 属 性, 関 係 )の 紐 付 けをアップ デートするだけで, 自 動 的 に 製 品 名 と 各 特 許 との 関 連 づけ( 特 許 実 施 状 況 )も 更 新 することができる (2) 個 別 特 許 の 明 細 書 充 実 化 発 明 概 念 を 俯 瞰 することで, 特 許 請 求 の 範 囲, 明 細 書 を 充 実 させることができるとともに,より 明 確 にす ることができる また, 概 念 同 士 の 矛 盾 も 排 除 するこ とができる 例 えば, 明 細 書 においてある 概 念 を 定 義 する 最 も 適 切 な 方 法 は 次 のような 表 現 である 前 段 において 概 念 A の 構 造 的 な 定 義 を 与 え, 後 段 では 例 示 列 挙 により 概 念 A を 定 義 している 概 念 A は, 構 成 1, 構 成 2, 構 成 3 を 備 えるものであれば 足 る 概 念 A としては, 例 えば 下 位 概 念 1, 下 位 概 念 2, 下 位 概 念 3 などがある これは,まさに 全 体 部 分 関 係 と 上 位 概 念 下 位 概 念 をそのまま 文 章 にしたものである 概 念 を 俯 瞰 することで, 新 規 出 願 時 の 権 利 範 囲 を 効 果 的 な 位 置 へ 置 くとともに, 明 確 で 強 固 な 明 細 書 作 りにつなげ ることができる (3) 効 果 的 な 発 明 発 掘 活 動 周 辺 概 念 を 俯 瞰 しておくことで, 新 規 発 明 の 面 談 時 においても 発 明 者 の 暗 黙 値 を 引 き 出 すことができる そ れにより, 特 許 面 談 を 充 実 したものにすることができる 7. 効 果 的 に 概 念 を 俯 瞰 するためには 4. 概 念 俯 瞰 のフレームワーク において, 以 下 の 2 点 を 意 識 することで 効 率 的 に 概 念 探 索 を 行 うことができる (1) MECE フレームワーク 適 切 に 概 念 を 俯 瞰 するためには, 4(3) 概 念 探 索 ( 上 位 概 念 下 位 概 念 の 探 索 ) においてどれだけ 適 切 な 中 間 概 念 を 見 つけられたか 否 かがポイントとなる 適 切 な 中 間 概 念 を 見 つけることができればモレの 少 ない 効 果 的 な 概 念 探 索 を 行 うことができる 中 間 概 念 を 導 く 方 法 として MECE フレームワーク を 紹 介 する MECE は Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive の 略 であり,ロジカルシンキ ングのフレームワークとして 既 に 多 くのビジネス 書 が 存 在 する 本 稿 では 特 に 発 明 概 念 に 対 する 適 用 事 例 に 絞 って 説 明 する 上 位 概 念 下 位 概 念 探 索 における MECE フレーム ワークの 使 い 方 (ルール)は 以 下 の 通 りである; 1. 同 じレベル( 階 層 )の 概 念 同 士 の 相 違 点 が 同 じ 軸 ( 縦 軸 )に 乗 るように 設 定 する 2. 同 じ 軸 に 乗 る 複 数 の 概 念 を 包 括 する 概 念 に 対 し て, 新 たなラベルを 設 定 する( 中 間 概 念 を 創 る) MECE フレームワークを 利 用 することで, 先 人 が 築 き 上 げた 科 学 知 識 を 自 身 の 概 念 俯 瞰 にそのまま 利 用 す ることができる 代 表 的 なものでは, 相 ( 固 体, 液 体, 気 体 ), 周 期 律 表 ( 元 素 の MECE), 導 電 性 ( 導 体, 半 導 体, 絶 縁 体 ) 等 がある その 他 に, 特 許 庁 の F ター ム,FI 分 類 等 も 体 系 的 な 分 類 体 系 が 作 成 されており 利 用 価 値 が 高 い (2) 概 念 の 継 承 関 係 に 係 る 特 性 下 位 概 念 は, 原 則 として 上 位 概 念 のすべての 構 成 を Vol. 68 No. 11 103 パテント 2015
図 5.MECE フレームワークの 使 い 方 備 える( 継 承 している)ことから, 上 位 概 念 において 既 に 定 義 された 構 成 を 新 たに 明 示 的 に 定 義 する 必 要 は ない 例 えば, 自 動 車 が タイヤ を 備 えており, ガソリン 自 動 車 が 自 動 車 の 下 位 概 念 であれば, ガソリン 自 動 車 は 必 ず タイヤ を 備 えていること がいえる つまり, 下 位 概 念 を 定 義 する 際 は, 上 位 概 念 におい て 既 に 定 義 された 構 成 は 省 略 してもよい 下 位 概 念 は 上 位 概 念 を 参 照 することで, 以 下 ア オのいずれか 一 つま たは 複 数 の 組 み 合 わせとして 必 ず 表 現 することができる ア. 上 位 概 念 にさらに 要 素 を 付 加 したもの イ. 上 位 概 念 の 要 素 を, 当 該 要 素 の 下 位 概 念 に 置 き 換 えたもの ウ. 上 位 概 念 の 要 素 に 属 性 を 付 加 したもの( 例 : 車 色 彩 がある 車 ) エ. 上 位 概 念 の 要 素 の 属 性 を, 下 位 概 念 の 属 性 に 置 き 換 えたもの( 例 : 色 彩 がある 車 赤 色 の 車 ) オ. 上 位 概 念 の 要 素 間 に, 新 たに 関 係 を 規 定 したもの 複 雑 なシステムにおいても 7(1)MECE フレーム ワーク において 適 切 な 中 間 概 念 を 作 成 することで, 下 位 概 念 の 定 義 を 相 当 程 度 簡 略 化 することができる たとえば,ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジ ンを 単 独 で 定 義 しようとすると 構 成 が 多 く 非 常 に 複 雑 となるが, 上 位 概 念 であるレシプロエンジン(ガソリ ンエンジン,ディーゼルエンジンの 上 位 概 念 )からの 継 承 関 係 を 利 用 すれば,それぞれ, 単 に 点 火 機 構 の 違 いのみを 規 定 すれば 足 りる 8.まとめ 本 稿 では 発 明 概 念 を 俯 瞰 するためのフレームワーク と, 群 管 理 および 明 細 書 作 成 等 における 活 用 手 法 につ いて 説 明 した 実 際 の 実 務 においては, 群 管 理 対 象 と なる 特 許 毎 の 表 現 不 統 一 などにより 骨 が 折 れる 作 業 と なる 場 合 が 多 い 効 果 的 なパテント ポートフォリオ を 構 築 するためには,そもそも 特 許 群 の 出 願 前 に 概 念 を 俯 瞰 し 一 貫 したルール, 用 語 をもって 体 系 的 に 構 築 していくことが 望 ましい また, 本 稿 で 提 案 するフレームワークは 特 に 複 数 の 知 財 担 当 者 が 共 同 して 単 一 のパテント ポートフォリ オを 構 築 する 際 に, 互 いの 技 術 知 識 を 共 有 するツール としても 有 効 である 体 系 的 に 知 識 を 共 有 することで 効 率 的 に 大 規 模 なパテント ポートフォリオ 構 築 も 行 うことができるようになる 参 考 文 献 1. 経 済 産 業 省 特 許 庁, 戦 略 的 な 知 的 財 産 管 理 に 向 けて 技 術 経 営 力 を 高 めるために [ 知 財 戦 略 事 例 集 ],2007 年 4 月 2. 鶴 見 隆,パテント ポートフォリオの 構 築 方 法, 知 財 管 理 2009 Vol.59,No.2,P123 133 3. 畑 村 洋 太 郎 2005 年 畑 村 式 わかる 技 術 講 談 社 192 ページ 4. 畑 村 洋 太 郎 2003 年 創 造 学 のすすめ 講 談 社 232 ページ 5. 濱 口 哲 也 2009 年 失 敗 学 と 創 造 学 日 科 技 連 出 版 社 174 ページ 6. 溝 口 理 一 郎 古 崎 晃 司 來 村 徳 信 笹 島 宗 彦 2006 年 オ ントロジー 構 築 入 門 オーム 社 195 ページ 7. 糟 谷 洋 治, 請 求 の 範 囲 の 文 体 と 作 文 技 法 の 考 察,パテン ト 1999 Vol.52,No.5,P19-26 8. 大 瀬 佳 之, 対 象 発 明 の 理 解 を 通 じたクレーム 作 成 方 法 の 提 案,そしてその 応 用,パテント 2013 Vol.66,No.13,P45 60 ( 原 稿 受 領 2015. 8. 19) パテント 2015 104 Vol. 68 No. 11