報告 バイオフィリアリハビリテーション研究 (6) 35 褥瘡対策未実施減算導入後の褥瘡褥瘡に関するする報告 長岡健太郎 1 滝沢恭子 1 森田能子 2 滝沢茂男 3 牛澤賢二 4 木村哲彦 5 1 湘南健友会長岡病院, 2 岡山リハビリテーション病院, 3 文部科学省指定研究機関バイオフィリア研究所 4 産業能率大学, 5 日本リハビリテーション専門学校 要旨褥瘡の発生予防を目的に, 障害を負った特に高齢者障害者の褥瘡を実際に無くした施設の現状を, 利用器具, それによる体圧分散の実際, 実現するための計画, 計画の実施と実施体制, 日常的な栄養管理, それらすべてを時系列でデータ化することにより明らかにした. 研究では, 全面的に導入されているプログラム化リハで要介護度に即した例外ないリハの実施と, 褥瘡予防のためのコジャックの法則で求められる患者の 2 時間以内の体位変換と局所圧力 200mmhg 以下の体圧管理を実現していた事が明らかになった. このことにより, 対象となった療養型医療施設における要介護度 5 の入院患者の褥瘡患者は最小で 0%, 最大で 4.7%, 平均 2.8% の実現が可能になったと考察する. キーワード : 褥瘡予防, 療養型医療施設, 体位変換, リハビリテーション, マットレス 1. はじめに 古くて, 新しい課題, 新たな制度上での, 一面では新しい課題 を, 障害を負った特に高齢障害者の褥瘡を実際に無くした施設の現状を, 実際に褥瘡をなくした療養型医療施設長岡病院を研究対象施設に, 利用器具, それによる体圧分散の実際, 実現するための計画, 計画の実施と実施体制, 日常的な栄養管理, それらすべてを時系列でデータ化することにより明らかにし, 褥瘡を無くす標準を構築する研究を行った. 体位変換について, 体位変換用マットレスの利用は当該施設でも明らかになっており, 体圧分散式マットレス等を適切に選択し, 使用する事が効果を生んでいる面もある. 各種マットレスの臨床評価研究から, 松崎らは 1) マットレス利用において褥瘡発生率に有意差はなかったと報告している. マットレス利用は褥瘡の予防に確かに有効であるが, 例示した報告はそれが万全ではない事を示している. 第 9 回日本褥瘡学会では 6500 名を超える参加者により,World Union of Wound Healing Societies の専門家グループによりまとめられた 滲出液の評価及び管理方法 の解説もあり, 多種多彩な内容で, 今後の褥瘡治療の方向性と対策を示唆した有意義な学術集会であったと思われるとの評価がある. すなわち未だに多くの施設において 褥瘡を無くした, 予防を実現した という事実にもとづく手法が確立されていないことを推測させる. 近年の治療技術の進歩は古田 2) の述べるように顕著であり, また近年経験から生まれた鳥谷部 3) の述べる Open Wet Therapy も治療に対する有効性が報告されているが, 予防の重要性はなんら変わっていない. 木村は褥瘡の発生予防は, コジャックの法則 ( 局所圧力 200mhg 以下 2 時間以内の体位変換 ) 実現できるとしている. 4),5),6),7) 我々は褥創予防に成功した療養型医療機関において, コジャックの法則実施が実現されていることとその他の要因を明らかにするべく調査をおこなった. 2. 対象 対象 調査対象は, 療養型医療施設 湘南健友会長岡病院, および入院患者である. いわゆるケアミックスの病院であり, 介護型 医療保険型の両病床をもっている. 対象病院の病床数は 医療保険対応 48 床, 介護保険対応 180 床, 計 226 床, 医師は常勤 5 名非常勤若干名, 看護師 表 1 研究対象者の性別 年代 年齢 女 男 総計 50 歳代 1 1 2 60 歳代 2 5 7 70 歳代 29 13 42 80 歳代 54 11 65 90 歳代 28 3 31 総計 114 33 147 受付日 2010 年 6 月 22 日
36 は 21.6 名, 准看護師 31.7 名看護助手は介護福祉士を含め 51 名である. 褥瘡委員会と褥瘡回診をそれぞれ月 1 回開催している. 褥瘡対策に関する診療計画書は褥瘡有り用と褥瘡なし用とに分けられている. 研究参加の同意を得た入院患者の年齢は平均 82.4 歳, 最高齢 99 歳から 53 歳である. 表 1 に纏めた. 女性 114 名 78%, 男性 33 名 22% となっている. 採血時 (2006 年 1 月 ) 及び リハビリテーション ( リハ ) 実施計画書 (2005 年 9 月から 2006 年 12 月 ) 記載の体重 ( 欠測 37 名 ) は 23.7kg から 66.1kg で, 平均は 39.0kg であり, 身長 ( 欠測 78 名 ) は 130cm から 170cm で, 平均は 147.8cm である. 対象患者の入院経過期間は平均 3.2 年で, 一年未満から 14 年に及んでいる. 詳細を表 2 に示す. また リハ実施計画書 記載の要介護の詳細を表 3 に示した. 不明者を除いた対象患者のうち, 要介護 5 の患者が 67% をしめている. 同意を得た入院者の褥瘡対策に関する診療計画書を, 全て個人情報を秘匿した中で, 研究対象にした. 各計画書には褥瘡対策チームが明記されており, 実現するための計画, 計画の実施と実施体制は, 明確にデータ化が可能である. 日常的な栄養管理も栄養状態の改善方法が明記されており, 明確なデータ化が可能である. 対象となる褥瘡対策に関する褥瘡あり用計画書を図 1, 褥瘡なし用計画書を図 2 に示す. 要介護 5 の入院患者が 67% をしめる状況において褥瘡を有するものは被験者 147 中 2002 年 7 名 4.7%,2003 年 3 名 2%, 2004 年 5 名 3%,2005 年 1 名 0%,2006 年 2 名 1% である. 研究対象者の内, 脳梗塞患者 :44%, 脳出血患者 :18%, 大腿骨頚部骨折等骨折患者 :10%, その他の患者 :18%, 認知症患者 :10% であり, 褥瘡対策に関する診療計画書においては確認できなかった ( 空白 ) が 1% あった. 表 4 に研究対象者の 1 位記載病名と褥瘡の対比を記載した. 表 2 研究対象者の入院経過期間 入院経過期間 年女男総計 0 1 0 1 1 29 13 42 2 24 5 29 3 12 7 19 4 24 4 28 5 8 2 10 6 4 0 4 7 3 1 4 8 3 1 4 10 1 0 1 11 2 0 2 12 2 0 2 14 1 0 1 総計 114 33 147 3. 方法 方法 3.1. 院内手続きと準備どのような病院にすれば, 褥瘡をなくすことが出来るかが明らかにするため, 院内の協力体制を構築については, 理事長としての権限により, 職務に付随するものとして職員の協力体制を構築した. このことにより, 改善を実現した介入ケアやリハを明確にでき, 褥瘡をなくすための職員体制についても明らかに出来きた. 褥瘡対策に関する診療計画書に基づき, 実現するための計画, 計画の実施と実施体制, 日常的な栄養管理, それらすべてを時系列でデータ化するために, 院内の協力体制を構築した. 表 3 要介護度 (2005 年 9 月から 2006 年 12 月の間の 女男総計 要介護 1 4 0 4 3% 要介護 2 4 1 5 3% 要介護 3 10 5 15 10% 要介護 4 14 4 18 12% 要介護 5 64 19 83 56% ( 空白 ) 18 4 22 15% 総計 114 33 147 100% 表 4 調査対象者の1 位記載病名 病名 褥瘡無 褥瘡有 総計 脳梗塞 60 4 64 44% 脳出血 23 3 26 18% 骨折 15 0 15 10% その他 25 2 27 18% 認知症 12 2 14 10% ( 空白 ) 1 0 1 1% 100%
バイオフィリアリハビリテーション研究 (6) 37 図 1 褥瘡あり用診療計画書 図 2 褥瘡なし用診療計画書 1 2004 年 5 月開催の長岡病院倫理委員会において, 調査研究の許可を得た. 2 2005 年 8 月より研究の内容を明示して入院患者ご家族への文書による研究参加依頼を行い,2005 年 10 月から 2006 年 2 月の間に,147 名の同意を得た. 3 褥瘡対策未実施減算導入時よりの研究同意者の図 1.2 に示す 褥瘡対策に関する診療計画書 関するデータを過去にさかのぼり収集した. 個人情報に関する保護はすべてデータをコード化することで確保した. 4 研究同意者の 褥瘡対策に関する診療計画書 データ化のため,DB ソフトファイルメーカーを用いて,2002 年 6 月と 2005 年 11 月の間の提供された合計 491 件のデータを作成し, データベース化した. 内 79 件は 2 件以上の 褥瘡対策に関する診療計画書 提出があった. 5 研究同意者の生化学データは, 本調査のために採血したデータでなく, 対象の診療上必要と主治医が判断した 2006 年 1 月の採血データから,123 名の血液データを対象とした. 血中のアルブミン値などの調査項目と合致した採血項目の検査値を使用するためデータベースを作成した. 6 研究同意者の リハ実施計画書 をデータ化し,2005 年 9 月から 2006 年 12 月の間の提供された合計 180 件のデータをデータベースに加えた. 内 33 名は 2 件以上の リハ実施計画書 提出があった. 3.2. 分析方法エクセル及び SPSS を用いて上記収集データ (491 件,173 項目 ) の分析を行った. 3.3. 体圧分散評価仙骨部の体圧測定を, セロを用いて行っている.
38 介入ケアケアの実際 褥瘡対策に関する診療計画書 の当初計画書から, 褥瘡の有無と, 治療法, 利用器具について分析し, 表 5 から表 8 に纏めた. 最大の特徴は,2 時間毎の体位変換の実施を可能にしているところにある. この点については, 削除 2006 年 11 月開催の委員会で, 本当に実施しているかが議論になり, 長岡病院担当者及び医師に事実を確認した. オムツ換え毎の体位変換を行っており, 座位保持用クッションの 2 次利用も含めて, 病院全体の褥瘡対応エアマットレス数 145 セットが 2 時間毎の体位変換の実現を可能にしている. 4. 介入 4.1. 体位変換 4.1.1 体位変換の実際表 5 に体位変換の実際を纏めた. 褥瘡なし 136 名中報告のない 30 名を除いた 106 名 78% の対象者が 2 時間毎の体位変換サービスを受けている. 4.1.2 エアマットレス利用表 6 に褥瘡の有無とエアマットレス利用を纏めた.69 セット, 研究対象者の 51% が利用していることがわかる. 4.1.3 車椅子乗車時姿勢表 7 は車椅子乗車時にとる座位姿勢指示を纏めた.90 度ルールの座位姿勢を 79 名 53% が実施している. 4.1.4 ギャッジアップ表 8 はギャッジアップによる体位変換の実際を纏めた. 褥瘡を持つ研究対象者が, 全員 30 度ギャッジアップ以下であることが, 分かる. 4.2. その他の介入ケア 4.2.1 栄養栄養ケアの重要性を認め, 褥瘡対策に関する診療計画書 の重要部となっている. 褥瘡と栄養との関係を調査したが, 本稿では概要のみ述べる. 摂食の方法と摂取カロリー, 摂食の方法の明細を調査した. 4.2.2 スキンケアースキンケアー実施結果を調査したが, 細かくスキンケアーを行っている様子がうかがわれた. 4.2.3 リハビリテーション効果についてはこれまでの研究で明らかにされているプログラム化されたリハビリテーション ( 以後リハ ) 8),9) を, 昭和 62 年 4 月より実施している. リハビリテーション訓練を分析のため,1 点, ベッドサイド他動運動, 2 点, 訓練室他動運動 ( 創動運動 ), 3 点, 訓練室創動運動, 4 点, 訓練室筋力強化創動運動, 5 点, 訓練室平行棒内歩行, 6 点, 訓練室平行棒外歩行訓練の別に区分し, 要介護 1, 要介護 2, 要介護 3, 要介護 4, 要介護 5 に対応して分析を試みた. 5. 分析結果 5.1 褥瘡部位と発赤部位 5.1.1 褥瘡部位診療計画書当初分に記載された褥瘡部位を表 9に纏めた. 既往の表記も含まれている. 仙骨部が最も多く91% をしめている. 同時発生部位として大転子部が1 例記載されている. 5.1.2 発赤部位診療計画書当初分に記載された発赤部位を表 10 に纏めた. 既往の表記も含まれている. 発赤部位からも, 仙骨部には 68% が集中し, 褥瘡発生の危険が多い事と分かる.
バイオフィリアリハビリテーション研究 (6) 39 5.1.3 瘢痕部位診療計画書には瘢痕部位も記載されている. 当初記載分の瘢痕部位を表 11 に纏めた. 表 5 体位変換の実際 体位変換 無 有 総計 2 時間ごと 6 0 6 2 時間ごと 30 度側臥位 94 9 103 2 時間ごと 135 度側臥位 1 0 1 2 時間ごと 30 度側臥位 135 度側臥位 2 時間ごと 30 度側臥位 完全腹臥位 4 0 4 1 0 1 ( 空白 ) 30 2 32 表 7 車椅子乗車時姿勢 車椅子乗車時 無 有 総計 90 度ルールの座位姿勢 14 3 17 90 度ルールの座位姿勢 プッシュアップ 60 1 61 90 度ルールの座位姿勢 除圧クッションの使用 0 1 1 プッシュアップ 1 1 2 ( 空白 ) 61 5 66 表 9 褥瘡部位 褥瘡部位 褥瘡無褥瘡有 総計 顔面 腸骨部 1 0 1 仙骨部 1 10 11 腸骨部 0 1 1 ( 空白 ) 134 0 134 表 11 瘢痕部位 瘢痕部位 褥瘡無 褥瘡有 総計 肩甲部 1 0 1 肩峰部 0 1 1 仙骨部 12 2 14 仙骨部, 大転子部 1 0 1 大転子部 4 0 4 踵部 1 0 1 ( 空白 ) 117 8 125 表 6 褥瘡の有無とエアマットレス利用 エアーマットレスの種類無有総計エアドクター 16 5 41 エアドクター 40kg 以下 1 0 1 エアドクター 75kg 50kg(2/22) 1 0 1 エアマットレス 10 0 10 エアマットレス エアドクター 40kg 設定 1 0 1 エアマットレス エアドクター 45kg 2 0 2 エアマットレス トライセル 16 4 20 エアマットレス トライセル50kg/ 1 0 1 モルテン花ゆらぎ 1 1 2 なし 3 0 3 ( 空白 ) 64 1 65 表 8 ギャッジアップの実際 ギャッジアップ 無 有 総計 30 度ギャッジアップ以下 30 9 39 30 度ギャッジアップ以下ギャッジアップギャッジアップ 25 4 0 0 25 4 ( 空白 ) 77 2 79 表 10 発赤部位 発赤部位褥瘡無褥瘡有総計 肩甲部, 肩峰部, 腸骨部 1 0 1 後肘部仙骨部大転子部大転子部 1 0 1 仙骨部 19 1 20 仙骨部, 外果部 1 0 1 仙骨部大転子部肩峰部右鎖骨 1 0 1 仙骨部膝関節部つま先 1 0 1 大転子部 2 0 2 大転子部, 大転子部 1 0 1 腸骨部 1 0 1 腸骨部大転子部 1 1 腸骨部, 腸骨部 1 0 1 腸骨部仙骨部大転子部 1 0 1 背骨の中心あたり 1 0 1 膝関節部 1 1 踵部 1 2 3 ( 空白 ) 104 6 110 5.2 体圧測定表 12 に体圧測定の結果を纏めた. 褥瘡部位で仙骨部が最も多く 91%, また発赤部位からも, 仙骨部には 68% から, 仙骨部の体圧測定を行っている様子がうかがわれる.
40 5.3 その他の介入ケアの結果 5.3.1 栄養経口摂取は併用を含め 68% である. また経管栄養には褥瘡がないことが分かった. 摂取カロリーは経管栄養の 500 カロリーから経口摂取 1616 カロリーまで記入があった. 摂食方法に対応した摂食具体説明では, プロッカゼリー, カロリアンの記述が多いことが確認できた. 5.3.2 スキンケアー調査の一例を示す. オムツによる湿潤防止のため, パルン挿入中車椅子乗車にて食事摂取し, 離床回数を増やす. 短時間で. などの記述があった. 5.3.3 褥瘡と血液総蛋白, アルブミン, 血色素の各々を褥瘡の有無別に分析したが, 血液中の各要素はいずれも褥瘡に対して差が認められなかった. 5.3.4 リハビリテーション今回介護度とリハ実施内容をコード化したリハ点数のクロス集計を実施し, 検定を行った. その結果要介護度によってリハ点数に差が認められた.(P<0.001) すなわち, 介護度にしたがって, リハの内容を変えていることが反映されていることが分かった. 内容は, バイオフィリアリハビ リテーション学会で研究が続けられている本院で実施中の創動運動を中核としたタキザワプログラム 10),11) に従っており, 詳細を滝沢 12) らが報告している. 5.4 褥瘡発生と完治の状況 褥瘡発生と完治の状況の詳細を表 13 に示す. 褥瘡を持つ人数は延べ人数であり, 同一人が完治 再発生を見たとき, 再度人数として加算した. 6. 考察 表 12 体圧測定結果 体圧測定 無 有 総計 仙骨 30mmHg 以下 10 0 10 仙骨 40 mmhg 以下 17 0 17 仙骨 50 mmhg 以下 6 5 11 仙骨 53.8 大転子 23.1 1 0 1 仙骨 55.1mmHg 0 1 1 仙骨 59.0 1 0 1 仙骨 59.0( 仰臥位 ) 0 1 1 仙骨座位 61.5 1 0 1 仙骨 65.4mmHg 1 0 1 仙骨 66.7mmHg 2 0 2 仙骨 67.9mmHg 1 0 1 仙骨 68.8mmHg 1 0 1 仙骨 73.1mmHg 1 0 1 仙骨 76.6mmHg 1 0 1 仙骨 78.2mmHg 2 0 2 仙骨 79.5 1 0 1 仙骨 82.0mmHg 1 0 1 仙骨 85.9mmHg 1 0 1 仙骨 101.3mmHg 1 0 1 仙骨 103.8 0 1 1 ( 空白 ) 87 3 90 表 13 褥瘡発生と完治の状況 完治年 褥瘡発生年 2002 年 2002 年 3 2003 年 5 2004 年 0 2005 年 2 ( 空白 ) 0 総計 10 2003 年 0 0 0 1 1 2 2004 年 0 0 0 2 0 2 2005 年 0 0 0 0 1 1 2006 年 0 0 0 0 2 2 総計 3 5 0 5 4 17 考察我々は湘南健友会長岡病院 ( 当院 ) において, 褥瘡対策未実施減算制度の導入と共に開始した褥瘡対策実施状況に関し研究を行なった. 全診療計画書 (2002 年 6 月 3 日から2005 年 11 月 11 日まで ) をデータ化した. この間最初の計画書に褥瘡があった患者は 7 名, 最後の計画書に褥瘡があった患者は 2 名であった. これらの患者に関し, 褥瘡計画書データベース, リハ実施報告書データベース, 血液検査結果データベースを作成し, 分析を行った.
バイオフィリアリハビリテーション研究 (6) 41 6.1. 他の報告から見る褥瘡の有病率に関する考察大浦は 13), 褥瘡有病率を宮地らの 1997 年調査結果 4.2%, 大浦らの 1998 年全国の病院, 施設の入院患者 98,093 人に対しする調査結果 5.8%, 阿曽らの調査結果 1999 年 7.6%, および関西の一般病院入院者 12,178 人に対する調査結果 9.5% を示し, 本邦における病院, 施設の褥瘡有病率は 4.2~9.5% 程度といえるとした. さらに, 平成 19 年 3 月に厚生労働省の第 3 回介護施設等の在り方に関する委員会 ( 平成 19 年 3 月 12 日 ) 資料が公開されているが, そこでは, 医療及び介護双方の療養病床全体で,4.8% が褥瘡処置を受けていることが明らかになっている. そこでは要介護 5 が 53.6% であることが明らかにされている. 6.2. 長岡病院から見る褥瘡の有病率に関する考察当院では要介護 5 の患者が 56% を占めるなかで, 表 13 に明らかにした通り,2002 年が最大で 4.7%, 2005 年には最小で 0%,4 年間の平均では 2.8% の発生率となっている. 6.3. 対照して原因を探る 6.1 に記載した研究ではエアーマットの数や病床に対する割合及び入院中のリハのあり方などについては記載が見つけられない. 当院では 106 名 78% の対象者が 2 時間毎の体位変換サービスを受けており, 体位変換は数多くのエアーマットを準備し,2 時間以内の体位変換実施に対応している事が分かった. その方法は我々は今回の調査で,2 時間ごとに体位交換を実施している事実を知り, どのように実現しているのか, 書いてあるだけではないかなどの疑問を抱いた. 病院担当者に確認したところ,1 多数のエアーマットを利用して, 定時に体位交換を心がけている.2 その他ベッド上で看護師 介護職員が随時体位交換を行っている. の 2 点が理由で実際 2 時間ごとに体位交換がほぼ実現できていることが明らかになった. 6.4. 介入 リハの充実対象となる病院で他と比して特異な点として, 要介護度に即した例外ないリハ, タキザワ式 11) と呼ばれる創動運動を主とした運動リハを実施している. このリハはシステム化されており, そのプログラム 11) はすでに明らかになっている. 訓練室ではマットを用いた他動運動を実施せずに, 器具を用いて, 患者自身の健側の運動による患側の運動 ( 創動運動 ) により実施している.5.3.23 に述べたように, 実施しているリハが見事に介護度と関連しており, 介護度毎に内容の異なったリハが個別に, 必要とする全員に行われていることが明らかになっている 12). さらに, 入院者の多くがリハ室において個別リハを受けるが, 座位によるリハが中心となっており, 座位保持用の車椅子クッションをほぼ全員が持っており, ベッドにいるときにも体位変換に利用している. 14),15),16),17),18),19) また栄養の管理も経管栄養の状態での入院者が多い中, 個別の栄養管理が行われ, 経口摂取への転換が進められている状況を併用者の数から確認できた. 以上から, 当院の患者の体圧管理は局所圧力 200mmhg 以下を実現しており, コジャックの法則 ( 局所圧力 200mmhg 以下 2 時間以内の体位変換 ) を満たすことにより褥瘡実現していると推測させる. 褥瘡対策未実施減算制度の導入は, われわれの研究を可能にし, 当院の有効な褥瘡対策実施を可能にしたと思われる.
42 参考文献 1) 松崎由美子 (2002) 大腿骨頸部骨折術後患者におけるリバーシブルマットレスと上敷エアマットレスの臨床評価, 第 4 回日本褥瘡学会学術集会, 演題 115, 金沢市 2) 古田勝経,(2006), 褥瘡外用療法のヒミツ, - 事例で学ぶ極意 - 薬局 Vol.57 2006 年 8 月臨時増刊号, 南山堂 3) 鳥谷部俊一,(2005), 褥創治療の常識非常識ラップ療法から開放性ウエットドレッシングまで, 三輪書店 4) 木村哲彦,(1975-76) 褥瘡の病理 予防 治療,1)-12), 看護学雑誌,vol.39(2)~40(1) 5) 木村哲彦, 今井銀四, 金子仁, 光田健児 (1968) 対麻痺患者における陳旧性褥創の検索 - 第 1 報悪性腫瘍発生母地としての褥創,P791-796, 医療第 22 巻第 7 号 6) 木村哲彦, 富田忠良, 今井銀四郎, 松尾明, 光田健児 (1969) 対麻痺患者における陳旧性褥創の検索, 第 2 報体圧分布と褥創好発部位との関係について,pp48-54, 医療第 23 巻 11 号 7) 木村哲彦, 皮膚の湿潤 不潔 摩擦, 栄養と褥瘡予防, 臨牀看護,P477,April 1990 へるす出版 8) 滝沢茂男編著 (1996) 寝たきり老人を歩かせる シビル出版 星雲社 9) 木島英夫, 飯塚健児, 今井重信, 加藤俊明, 渡辺仁美, 金井司郎, 滝沢恭子, 滝沢茂男 (1998) 我々のすすめているリハビリテーションと関連訓練器について 臨床整形外科医会誌 23(58)186-191 10) 木村哲彦, 緒言, 褥瘡対策未実施減算導入後の褥瘡に関する研究報告書 (17590458),P1,2007.5.25 11) Takizawa,S and Takizawa, K, Method for managing exercise for function recovery and muscle strengthening, US Patent 7153250, 2006.12.26 12) 滝沢茂男, 武藤佳恭, 木村哲彦, 牛澤賢二, 滝沢恭子, 長岡健太郎, 褥瘡予防とリハビリテーション実施に関する研究,PP11-18, バイオフィリアリハビリテーション研究 (5),(2009 年 )( 査読論文 ) 13) 大浦武彦, (1999) 本邦における褥瘡の現状と問題点, 褥瘡会誌 (Jpn J PU), 1(2): 201-214 14) 滝沢恭子, 長岡健太郎, 滝沢茂男, 岡本雄三 (2002) 良姿位保持, 体位変換, 褥創予防目的に開発した楔状クッションの利用経験, バイオフィリアリハビリテーション研究, 1, 35-36 15) 長岡健太郎, 滝沢茂男, 木村哲彦 (2003) 座位姿勢保持と褥瘡予防に適応する 5 角クッションの開発と利用. 第 40 回日本リハビリテーション医学会学術集会学術集会抄録集,pp 313 16) 滝沢茂男, 長岡健太郎 (2003) 新開発クッションの褥瘡対策に関する診療計画書への対応, pp15 バイオフィリアリハビリテーション学会第 7 回大会予稿集, 大分 17) 長岡健太郎 木村哲彦 森田能子 滝沢茂男, 座位姿勢保持と褥瘡予防に適応する 5 角クッションの開発と利用,PP5-8, バイオフィリアリハビリテーション研究 (4),(2007 年 )( 査読論文 ) 18) 村上亜紀, 木村哲彦, 滝沢茂男, 牛澤賢二, 高田一, 森田能子 (2008) 褥そう対策の成果についての自由記入分析結果, 第 12 回日本バイオフィリアリハビリテーション学会予稿集, pp8 19) 長岡健太郎, 木村哲彦, 滝沢茂男, 牛澤賢二, 山下和彦, 村尾俊明, 岡本雄三 (2006) 褥瘡対策未実施減算導入後の褥瘡に関する研究, 第 10 回バイオフィリアリハビリテーション学会予稿集 22. 謝辞この論文は 2005-2006 年度科学研究費補助金 ( 基盤 (C))(17590458 研究責任者木村哲彦 ) 褥瘡対策未実施減算導入後の褥瘡 により行った研究結果の一部を引用した. 科学研究費補助金の助成と, 湘南健友会長岡病院従業者の全面的な協力が本研究を可能にした. また本稿の概要 19) 発表時には貴重なご意見をいただいた. 関係各位に深甚な感謝を申し上げる.