類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) いわゆる 片 面 的 対 世 効 がある 判 決 の 場 合 を 中 心 として 大 渕 真 喜 子 1 カナダのインサイダー 取 引 規 制 (3) 木 村 真 生 子 25 公 開 買 付 けにおける 敵 対 的 買 収 者 による 株 主 名 簿 閲 覧 謄 写 請 求 権 の 行 使 木 村 真 生 子 37 フランスにおける 代 替 可 能 物 の 担 保 化 直 井 義 典 73 米 国 における 第 2 のインバージョンの 波 本 田 光 宏 103 財 務 諸 表 監 査 と 違 法 行 為 弥 永 真 生 127
目 次 論 説 2... 1 3... 25... 37... 73 2... 103... 127
論 説 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) いわゆる 片 面 的 対 世 効 がある 判 決 の 場 合 を 中 心 として 大 渕 真 喜 子 序 章 1 問 題 の 所 在 2 研 究 の 対 象 手 法 第 1 章 ドイツ 法 第 1 節 総 論 第 2 節 ドイツ 民 事 訴 訟 法 および 株 式 法 1 総 論 2 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 要 件 ( 以 上 10 号 ) 3 既 判 力 拡 張 を 理 由 とする 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 ⑴ 議 論 の 前 提 ⑵ 株 主 総 会 決 議 取 消 訴 訟 の 訴 訟 物 特 有 の 諸 問 題 ⑶ 株 主 総 会 決 議 取 消 訴 訟 における 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 に 関 する 議 論 状 況 と 問 題 の 所 在 ( 以 上 本 号 ) ⑷ 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 と 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 成 否 ⑸ 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 と 二 重 起 訴 禁 止 ⑹ その 他 の 理 由 による 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 を 否 定 する 可 能 性 4 形 成 力 を 理 由 とする 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 5 小 括 第 3 節 ドイツ 行 政 裁 判 法 第 2 章 日 本 法 における 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 第 3 章 総 括 第 1 章 ドイツ 法 第 2 節 ドイツ 民 事 訴 訟 法 および 株 式 法 3 既 判 力 拡 張 を 理 由 とする 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 ⑴ 議 論 の 前 提 ここでは 前 述 のとおり 形 成 訴 訟 においても 既 判 力 が 片 面 的 に 拡 張 され 1
論 説 ( 大 渕 ) る 場 合 があり その 1 つである 株 主 総 会 決 議 取 消 訴 訟 に 関 する 議 論 を 中 心 とし て 形 成 訴 訟 における 片 面 的 な 既 判 力 の 拡 張 を 理 由 とする 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 について 検 討 する 議 論 の 前 提 として ドイツと 我 が 国 との 決 議 取 消 訴 訟 の 訴 訟 面 での 異 同 を 本 稿 の 問 題 に 関 連 する 限 りにおいて 簡 潔 に 触 れる 提 訴 期 間 の 制 限 があること(ただし 我 が 国 は 株 主 総 会 等 の 決 議 の 日 から 3 か 月 であるが( 会 社 法 831 条 1 項 柱 書 ) ドイツは 1 か 月 である( 株 式 法 246 条 1 項 )) 会 社 の 所 在 地 ( 株 式 法 5 条 定 款 が 定 める 地 である)を 管 轄 する 地 方 裁 判 所 (Landgericht)の 管 轄 に 専 属 すること( 株 式 法 246 条 3 項 第 1 文 ) 複 数 の 決 議 取 消 訴 訟 は 同 時 の 弁 論 および 判 決 のために 併 合 することが 必 要 である こと( 同 項 第 6 文 )は 我 が 国 とほぼ 同 様 である つまり 複 数 の 原 告 が 提 起 する 決 議 取 消 訴 訟 が 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 とされる 場 合 は 複 数 の 原 告 が 共 同 し て 訴 えを 提 起 する 場 合 のほか 訴 訟 の 必 要 的 併 合 がなされる 場 合 に 生 じること になる ただし 必 要 的 併 合 がなされるのは ( 日 時 等 で 特 定 される) 同 一 の 株 主 総 会 決 議 が 対 象 となっている 場 合 だけであり 異 なる 株 主 総 会 決 議 が 対 象 となっている 場 合 には 民 事 訴 訟 法 147 条 が 適 用 され 訴 訟 併 合 は 裁 量 的 であ る 58) 訴 訟 物 理 論 として 後 述 の 二 分 肢 的 訴 訟 物 概 念 を 前 提 として 異 なる 生 活 事 実 (Lebenssachverhalt)が 主 張 されている 場 合 に 必 要 的 併 合 がなされる のかについては 見 解 の 対 立 がある 59) これに 対 し 株 式 法 248 条 1 項 第 1 文 が 規 定 する 株 主 総 会 決 議 の 取 消 判 決 の 効 力 は 当 事 者 に 限 られず すべての 株 主 並 びに 取 締 役 及 び 監 査 役 に 有 利 不 利 を 問 わず 及 ぶ 旨 が 規 定 されているのに 対 し 我 が 国 の 会 社 法 838 条 は 会 社 の 組 織 に 関 する 訴 えの 請 求 認 容 判 決 は それら 以 外 の 第 三 者 に 対 してもその 効 力 を 有 する 旨 を 規 定 している 点 が 異 58) Zöllner, in: Zöllner, Kölner Kommentar zum Aktiengesetz, Bd. 2, 1985(zitiert: KölnKomm/Zöllner), 246 Rn. 79, 81; Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 66; Hüffer, in: Goette/Habersack, Münchener Kommentar zum Aktiengesetz, 3. Aufl., Bd. 4, 2011 (zitiert: MünchKommAktG/Hüffer 3 ), 246 Rn. 75; Hüffer, Aktiengesetz, 11. Aufl., 2014, 246 Rn. 39; K. Schmidt/Lutter/M. Schwab, a.a.o.(fn. 43) 246 Rn. 25. 2
類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) なる このほかにもいくつか 我 が 国 の 決 議 取 消 訴 訟 とは 異 なる 点 があるものの 本 稿 での 問 題 との 関 係 では 重 要 ではないので ここでは 取 り 上 げない 60) ⑵ 株 主 総 会 決 議 取 消 訴 訟 の 訴 訟 物 特 有 の 諸 問 題 ア 決 議 取 消 訴 訟 の 訴 訟 物 については 同 訴 訟 特 有 の 様 々な 問 題 があるが 後 記 ⑶のとおり 本 稿 の 問 題 意 識 は 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 が 私 法 上 の 形 成 権 (な いし 公 法 上 の 主 観 的 権 利 )である または それを 基 礎 とするのか それと も 形 成 要 件 であるのかということであり この 問 題 意 識 そのものには 決 議 取 消 訴 訟 の 訴 訟 物 特 有 のこれらの 問 題 が 直 接 影 響 を 及 ぼすものではないと 思 わ れる しかし 決 議 取 消 訴 訟 における 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 成 否 を 論 ずるに 当 たっては 前 提 として 踏 まえることが 必 要 な 部 分 もあるため そのような 部 分 59) 異 なる 生 活 事 実 が 主 張 されている 場 合 には 必 要 的 併 合 がなされないとする 見 解 とし て Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 66; Bork, Doppelsitz und Zuständigkeit im aktienrechtlichen Anfechtungsprozeß, ZIP 1995, S. 609, 613. これに 対 して K. Schmidt/Lutter/M. Schwab, a.a.o.(fn. 43) 246 Rn. 25 は 異 なる 決 議 の 瑕 疵 に 基 づく 場 合 にも(M. Schwab は 異 なる 決 議 の 瑕 疵 は 異 なる 生 活 事 実 であるこ とを 前 提 としていると 解 される Vgl. K. Schmidt/Lutter/M. Schwab, a.a.o.(fn. 43) 246 Rn. 1. Vgl. auch M. Schwab, Das Prozeßrecht gesellschaftsinterner Streitigkeiten, 2005, S. 303ff.) 必 要 的 に 併 合 がなされるとする 60) ほかにも 訴 訟 法 上 の 相 違 点 として 株 主 の 取 消 権 限 の 要 件 被 告 を 代 表 する 者 公 告 の 要 否 提 訴 期 間 を 経 過 するまでは 口 頭 弁 論 を 開 くことができないこと( 株 式 法 246 条 3 項 第 4 文 ) 株 主 が 原 告 側 に( 共 同 訴 訟 的 ) 補 助 参 加 人 として 参 加 できるのは 公 告 から 1 か 月 以 内 に 限 られること( 同 条 4 項 第 2 文 ) 等 の 点 で 差 異 がある また 本 稿 では 決 議 無 効 確 認 訴 訟 を 対 象 としていないが ドイツでは 提 訴 できる 者 が 法 定 されていること 等 が 我 が 国 とは 異 なる また 近 時 株 主 が 提 起 する 決 議 無 効 確 認 訴 訟 については 決 議 取 消 訴 訟 の 提 起 が 株 式 法 246 条 4 項 第 1 文 によって 公 告 された 場 合 には 株 主 は 当 該 決 議 に 対 する 無 効 確 認 の 訴 えを 公 告 から 1 か 月 以 内 にのみ 提 起 すること ができる 旨 の 株 式 法 249 条 3 項 を 追 加 する 改 正 法 案 が 検 討 されていたが(BR Drs 852/11, BT Drs. 17/8989) 委 員 会 審 査 報 告 書 において この 点 を 除 外 すべきであるとされたよう であり(BT Drs. 17/14214, S. 3, 18f. ) 改 正 はなされなかったようである http://dipbt. bundestag.de/extrakt/ba/wp17/412/41281.html 決 議 取 消 訴 訟 および 決 議 無 効 確 認 訴 訟 一 般 に 関 する 邦 語 文 献 として 高 橋 英 治 ドイ ツ 会 社 法 概 説 ( 有 斐 閣 2012 年 )233 254 頁 がある 3
論 説 ( 大 渕 ) を 中 心 として これらに 関 する 議 論 状 況 を 簡 潔 に 述 べておくこととする 決 議 取 消 訴 訟 の 訴 訟 物 に 特 有 の 問 題 としては 1 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 は 同 一 であるのか 2 訴 訟 物 の 個 別 化 がどのような 基 準 によっ てなされるのか 3 同 一 内 容 同 一 瑕 疵 を 有 する 株 主 総 会 決 議 が 再 度 なされ た 場 合 の 処 理 をどのようにするのかという 各 観 点 からの 問 題 がある イ まず 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 とでは 訴 訟 物 が 同 一 であるのか 決 議 無 効 確 認 訴 訟 をどのような 性 質 と 考 えるのかという 点 が 議 論 されている 通 説 61) は 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 が 同 一 であると 考 えてい たのに 対 して 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 の 判 例 62) は 必 ずしも 明 確 ではないが 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 が 同 一 でないことを 前 提 としていたよ うであり 両 者 で 見 解 が 分 かれていた しかし 現 在 では 判 例 も 同 一 の 株 主 総 会 決 議 に 対 する 取 消 訴 訟 と 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 は 同 一 であると 判 示 するに 至 っている 1997 年 2 月 17 日 61) KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 48f., 82ff.; K. Schmidt, Fehlerhafte Beschlüsse in Gesellschaften und Vereinen(Ⅱ), AG 1977, S. 243, 245f.; ders, Zum Streitgegenstand von Anfechtung und Nichtigkeitsklagen im Gesellschaftsrecht, JZ 1977, S. 769f.; Großkomm/K. Schmidt, 249 Rn. 3ff. 21; Hüffer, in: Geßler/Hefermehl/Eckardt/Kropff, Aktiengesetz Kommentar, Bd. 5, 1984, 246 Rn. 19ff.; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 17ff.; Hüffer, a.a.o.(fn. 58) 246 Rn. 12ff.; Noack, Fehlerhafte Beschlüsse in Gesellschaften und Vereinen, 1989, S. 88ff.; LM H. 12/2002 241 AktG 1965 Nr. 9, Bl. 2235 m. Anm. Roth; K. Schmidt/ Lutter/M. Schwab, a.a.o(fn. 43) 249 Rn. 2. これに 対 し かつての 通 説 は 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 を 別 個 と 解 することを 前 提 としていた von Godin/Wilhelmi, Aktiengesetz Kommentar, 4. Aufl., Bd.2, 1971, 249 Anm. 4; Schilling in: Aktiengesetz Großkommentar, 3. Aufl., Bd. 3, Lfg. 2, 1972 (zitiert: Großkomm/Schilling), 249 Anm. 8. ただし かつての 通 説 も 無 効 理 由 に 基 づい て 決 議 取 消 判 決 をすることは 認 めていた von Godin/Wilhelmi, a.a.o. 246 Anm. 2; Großkomm/ Schilling, 246 Anm. 5. ドイツにおける 決 議 取 消 訴 訟 および 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 一 元 論 については 岩 原 紳 作 株 主 総 会 決 議 を 争 う 訴 訟 の 構 造 (8) 法 協 97 巻 6 号 (1980 年 )792 796 798 頁 参 照 62) RG Urt. v. 24.9.1942, RGZ 170, 83, 87f.; BGH Urt. v. 27.10.1951, NJW 1952, 98. 前 者 は 協 同 組 合 の 事 案 である 4
類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) 付 け 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 判 決 63) は 有 限 会 社 の 社 員 総 会 決 議 に 対 して 主 位 的 申 立 てを 決 議 無 効 確 認 予 備 的 申 立 てを 決 議 取 消 しとする 訴 えが 提 起 され 第 一 審 ではいずれも 棄 却 されたが 控 訴 審 では 一 部 判 決 として 決 議 無 効 確 認 判 決 がなされ これに 対 する 上 告 がなされたという 事 案 である 適 法 に 一 部 判 決 がなされたとすれば 判 決 されなかった 決 議 取 消 訴 訟 の 部 分 について は 控 訴 審 になお 係 属 していることになるが 上 記 判 決 は 次 のように 判 示 し て 控 訴 審 判 決 を 破 棄 控 訴 を 棄 却 して 全 部 を 棄 却 した 第 一 審 判 決 を 維 持 した すなわち 決 議 取 消 しの 申 立 てと 決 議 無 効 確 認 の 申 立 ては 主 位 的 予 備 的 併 合 の 関 係 にあるのではなく むしろ 決 議 無 効 確 認 の 申 立 てには 決 議 取 消 しの 申 立 てが 含 まれる 両 訴 訟 は いずれもすべての 者 に 対 する 効 力 を 有 す る 裁 判 による 決 議 の 無 効 の 明 確 化 (die richterliche Klärung der Nichtigkeit des Gesellschafterbeschlusses)という 同 一 の 目 的 を 追 求 するものである 決 議 後 1 か 月 以 内 に 同 時 に 提 起 された 両 訴 訟 が 同 一 の 決 議 に 対 する 同 一 の 理 由 付 け (Begründung)に 基 づいているという 本 件 の 場 合 のように 両 訴 訟 が 同 一 の 訴 訟 物 に 基 づき かつ 決 議 取 消 訴 訟 が 提 訴 期 間 内 になされたものであるとき は 株 式 法 248 条 と 249 条 のどちらが 適 用 されるかという 問 題 は 裁 判 所 が 包 摂 (Subsumition)によって 答 えるべき 上 告 審 の 判 断 に 服 する 法 律 問 題 である 両 訴 訟 の 一 方 について 請 求 棄 却 判 決 が 確 定 する 場 合 同 一 の 訴 訟 物 に 基 づく 別 訴 は どのような 形 式 かにかかわらず 許 されない このように 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 が 同 一 であるとして も 後 記 ウのとおり この 訴 訟 物 の 同 一 性 をどの 範 囲 で 画 定 するかは 別 問 題 であり 見 解 の 対 立 がある すなわち 後 記 ウのとおり 二 分 肢 説 に 立 つ 通 説 では 取 消 しから 無 効 確 認 への 申 立 ての 変 更 およびその 逆 は 主 張 される 生 活 事 実 に 変 更 がない 限 りで 訴 えの 変 更 には 当 たらず また 原 告 が 決 議 取 消 訴 訟 提 起 後 に 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 別 訴 を 提 起 することおよびその 逆 は 同 一 の 生 活 事 実 に 基 づく 限 り 前 訴 の 訴 訟 係 属 (Rechtshängigkeit 我 が 国 でいう 二 63) BGH Urt. v. 17.2.1997, BGHZ 134, 364=NJW 1997, 1510, 1511. 5
論 説 ( 大 渕 ) 重 起 訴 禁 止 )に 触 れることになる 64) 決 議 取 消 訴 訟 の 請 求 棄 却 判 決 確 定 後 であっ ても 異 なる 生 活 事 実 に 基 づく 限 り 同 一 の 原 告 が 提 起 する 決 議 無 効 確 認 訴 訟 は 許 されることになる 65) これに 対 して 少 数 説 では 生 活 事 実 の 変 更 にかか わらず 取 消 しから 無 効 確 認 への 申 立 ての 変 更 およびその 逆 は 訴 えの 変 更 に は 当 たらない 66) 生 活 事 実 が 同 一 であるかにかかわらず 決 議 取 消 訴 訟 の 請 求 棄 却 判 決 確 定 後 同 一 の 原 告 が 提 起 する 決 議 無 効 確 認 訴 訟 は 許 されず また 原 告 が ある 決 議 に 対 して 決 議 取 消 訴 訟 を 提 起 している 場 合 に 別 訴 で 同 一 決 議 について 決 議 無 効 確 認 訴 訟 を 提 起 することはできない 67) 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 が 同 一 であるとすれば 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 との 裁 量 的 併 合 を 規 定 する 株 式 法 249 条 2 項 第 2 文 は 同 一 の 決 議 について 訴 える 限 り 適 切 ではないということになる また 現 在 でも 決 議 無 効 確 認 の 申 立 てと 決 議 取 消 しの 申 立 てが 主 位 的 予 備 的 申 立 てとしてなされることがあるが その 条 件 付 けは 裁 判 所 を 拘 束 せず 判 例 のよ うに 無 効 確 認 の 申 立 てに 取 消 しの 申 立 てが 含 まれると 解 するのであれば 少 な くとも 取 消 しの 申 立 てをすることは 不 要 であることになろう 68) なお 一 部 判 決 の 可 否 については 1999 年 3 月 1 日 付 け 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 64) K. Schmidt, a.a.o.(fn. 61)AG S. 246; ders, Nichtigkeitsklagen als Gestaltungsklagen Thesen zum besseren Verständnis der 43 VwGO und 249 AktG, JZ 1988, S. 729, 733f.; Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 61, 249 Rn. 21, 25; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 23; Hüffer, a.a.o.(fn. 58) 246 Rn. 13. 65) K. Schmidt, a.a.o.(fn. 61)JZ S. 771f.; Großkomm/K. Schmidt, 248 Rn. 15; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 25, 248 Rn. 36; Hüffer, a.a.o.(fn. 58) 246 Rn. 14, 248 Rn. 15; K. Schmidt, in: Scholz, Kommentar zum GmbH Gesetz, Bd.2, 10. Aufl., 2010, 45 Rn. 177. 66) KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 56. 67) KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 85. 68) ただし 株 式 法 の 通 説 (KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 83; Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 57; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 23; Hüffer, a.a.o.(fn. 58) 246 Rn. 13)は 無 効 確 認 の 申 立 てのみがなされているときでも 提 訴 期 間 が 遵 守 されている 限 り 裁 判 所 は 決 議 取 消 判 決 をすることができ 逆 に 取 消 しの 申 立 てのみがなされているときも 決 議 無 効 確 認 判 決 をすることができると 解 する 6
類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) 判 決 69) が 上 記 判 決 を 踏 まえて 複 数 の 株 主 が 決 議 無 効 確 認 訴 訟 および 決 議 取 消 訴 訟 を 提 起 する 場 合 決 議 無 効 確 認 または 決 議 取 消 しのみについての 一 部 判 決 および 一 部 の 原 告 のみに 対 する 一 部 判 決 は 許 されないと 判 示 している 前 段 については 訴 訟 物 の 一 部 についても 一 定 の 場 合 には 一 部 判 決 が 可 能 であ るが この 判 決 は 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 が 1 つであるこ とを 前 提 としつつ そのような 場 合 に 該 当 しないことを 判 示 し 後 段 について は 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 であるため 一 部 の 原 告 のみに 対 する 一 部 判 決 はでき ないことを 判 示 するものである この 問 題 については そもそも 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 法 的 性 質 をどのように 解 するのか 訴 訟 の 権 利 保 護 形 式 は 異 なると 解 する 場 合 にも 同 一 の 訴 訟 物 を 考 えることができるのかなどの 解 釈 上 の 問 題 がある 通 説 判 例 は 決 議 無 効 確 認 訴 訟 を ( 民 事 訴 訟 法 256 条 の 通 常 の 確 認 訴 訟 とは 異 なる) 形 成 的 な 性 質 を 有 するものとしつつも あくまで 確 認 訴 訟 であるととらえている 70) その 上 で 権 利 保 護 形 式 が 異 なることを 前 提 としつつも 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 との 間 に 存 する 共 通 点 ( 対 世 的 効 力 を 伴 う 決 議 の 無 効 の 明 確 化 を 目 的 とし 最 終 的 な 効 果 として 決 議 の 無 効 が 生 じること 71) 判 決 効 が 株 式 法 248 条 69) BGH Urt. v. 1.3.1999, NJW 1999, 1638f. なお 後 掲 の 2002 年 7 月 22 日 付 け 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 判 決 以 前 になされた この 判 決 では 同 一 の 事 実 の 範 囲 で 既 判 力 が 認 められるとしている 70) KölnKomm/Zöllner, 249 Rn. 25; Hüffer, a.a.o.(fn. 61) 249 Rn. 3, 7; MünchKommAktG/Hüffer 3, 249 Rn. 4; Prütting, Vom deutschen zum europäischen Streitgegenstand, in: Festschrift für Beys, Bd.2, 2003, S.1273, 1279; M. Schwab, a.a.o.(fn. 59) S. 272ff.; K. Schmidt/Lutter/M. Schwab, a.a.o(fn. 43) 249 Rn. 1; Becker Eberhard in: Krüger/Rauscher, Münchener Kommemtar zur Zivilprozessordnung, 4. Aufl., Bd. 1, 2013 (zitiert: MünchKomm/Becker Eberhard), vor 253 Rn. 45. 従 前 の 判 例 ( 前 掲 注 62 参 照 )も 決 議 無 効 確 認 訴 訟 を 確 認 訴 訟 であると 解 しており また 例 えば その 後 の BGH Urt. v. 23.10.1998, AG 1999, 180, 181 も 株 式 法 249 条 の 判 決 を 確 認 判 決 であると 述 べている 71) ドイツでは 我 が 国 と 異 なり 決 議 取 消 判 決 が 確 定 した 場 合 が 無 効 理 由 として 規 定 さ れており( 株 式 法 241 条 5 号 ) 決 議 取 消 判 決 の 主 文 も 決 議 の 無 効 を 宣 言 する という 内 容 になっている 7
論 説 ( 大 渕 ) 1 項 第 1 文 で 規 定 する 者 も 含 めてすべての 者 に 及 ぶこと 72) ) あるいは 決 議 取 消 訴 訟 は 確 認 的 要 素 を 含 み 決 議 無 効 確 認 訴 訟 は 形 成 的 要 素 を 含 むという " 内 在 的 類 似 性 (innere Verwandtschaft)" に 着 目 して 訴 訟 物 の 同 一 性 を 導 こう とする 73) 当 然 のことながら 権 利 保 護 形 式 が 異 なるにもかかわらず 決 議 取 72) 形 成 判 決 であれば 株 式 法 248 条 1 項 第 1 文 で 定 める 者 に 拡 張 される 既 判 力 以 外 に す べての 者 に 及 ぶ 形 成 力 があることになり 確 認 判 決 では 同 文 が 定 める 者 に 拡 張 される 既 判 力 以 外 に すべての 者 に 及 ぶ 判 決 効 はないはずである しかし 通 説 判 例 は 決 議 無 効 確 認 訴 訟 を 確 認 訴 訟 であるとしつつも 株 式 法 248 条 1 項 第 1 文 の 既 判 力 以 外 に すべて の 者 に 及 ぶ 判 決 効 を 認 めている(Zöllner は この 判 決 効 は 基 本 的 に 形 成 力 であると 考 え られているとする) このような 判 決 効 を 認 める 根 拠 は 取 消 理 由 は 無 効 理 由 より 軽 い 瑕 疵 であるにもかかわらず より 軽 い 瑕 疵 である 取 消 理 由 に 基 づく 決 議 取 消 判 決 が より 重 い 瑕 疵 である 無 効 理 由 に 基 づく 決 議 無 効 確 認 判 決 よりも 広 い 範 囲 に 判 決 効 が 及 ぶというの は 理 解 し 難 いこと(KölnKomm/Zöllner, 249 Rn. 40) 実 務 上 無 効 確 認 申 立 てが 主 位 的 取 消 申 立 てが 予 備 的 になされるが 主 位 的 請 求 認 容 の 場 合 の 判 決 効 が 予 備 的 請 求 認 容 の 場 合 よりも 狭 いということは 理 解 し 得 ないこと(MünchKommAktG/Hüffer 3, 249 Rn. 25) 判 決 確 定 後 はもはや 無 効 をもたらす 方 策 が 重 要 なのではなく 実 体 法 上 の 評 価 が 重 要 なのであり 相 対 的 にのみ 及 ぶ 無 効 であることを 支 持 するものは 何 もないこと(Hüffer, a.a.o.(fn. 58) 249 Rn. 17)などが 挙 げられている BGH Urt. v. 17.2.1997, BGHZ 134, 364=NJW 1997, 1510, 1511; BGH Urt. v. 13.10.2008, NJW 2009, 230; KölnKomm/Zöllner, 249 Rn. 40f.; MünchKommAktG/Hüffer 3, 249 Rn. 25; Hüffer, a.a.o.(fn. 58) 249 Rn. 17; Noack, a.a.o.(fn. 61)S. 96. これに 対 して von Godin/Wilhelmi, a.a.o.(fn. 61) 249 Anm. 4は 決 議 無 効 確 認 判 決 に 第 三 者 に 及 ぶ 判 決 効 を 否 定 し Baumbach/Hueck, Aktiengesetz, 13. Aufl., 1968, 249 Rn.4 は 第 三 者 は たとえ 実 際 に 決 議 が 無 効 でなかったとしても 決 議 無 効 確 認 判 決 が 少 なくとも 将 来 にわたって 決 議 を 除 去 したという 事 実 を 承 認 しなければ ならないと 述 べるにとどまる 決 議 無 効 確 認 訴 訟 (および 決 議 取 消 訴 訟 )の 訴 訟 物 と 確 認 訴 訟 一 般 の 訴 訟 物 との 関 係 が 必 ずしも 明 らかではないため 株 式 法 248 条 1 項 第 1 文 の 既 判 力 拡 張 とここで 認 められてい る 対 世 効 とは 効 力 が 及 ぶ 範 囲 が 違 うだけで 同 じ 内 容 であるのか 否 かも 明 らかではない しかし このような 対 世 効 を 明 文 の 規 定 なく 決 議 無 効 確 認 判 決 に 認 めるのであれば 決 議 無 効 確 認 訴 訟 を 確 認 訴 訟 とすることにますますそぐわないものであり 端 的 に 形 成 訴 訟 と する 方 が 理 論 的 には 素 直 ではないかとも 思 われる なお 決 議 無 効 確 認 判 決 の 対 世 効 につ いては K. Schmidt, a.a.o.(fn. 64)S. 735 も 参 照 73) 前 者 につき MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 21 後 者 につき KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 48ff., 83ff.; 249 Rn. 25f. 8
類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 が 同 一 であるとすることに 対 する 批 判 があ るが 74) 民 事 訴 訟 法 での 一 般 的 見 解 との 整 合 性 がほとんど 全 く 検 討 されていな いという 問 題 もある すなわち 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 は 法 律 関 係 権 利 の 存 否 等 であり 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 は 後 述 のとおり 私 法 上 の 形 成 権 を 基 礎 とす るという 民 事 訴 訟 法 での 一 般 的 見 解 との 整 合 性 が 本 来 検 討 されなければなら ないにもかかわらず 株 式 法 での 議 論 は 何 らこの 点 に 触 れられておらず ま た 訴 訟 物 の 定 義 自 体 もあいまいにしかなされていない 75) これに 対 し Karsten Schmidt は 通 説 と 同 様 対 世 的 効 力 を 伴 う 決 議 の 無 効 を 目 的 とし 最 終 的 な 効 果 として 決 議 の 無 効 が 生 じることや 判 決 効 はすべ ての 者 に 及 ぶこと 等 を 理 由 としつつも 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 とを いずれも 破 毀 の 訴 え(die kassatorische Klage)に 属 する 形 成 訴 訟 ととらえて いる 76) 形 成 訴 訟 のメルクマールからすれば 無 効 理 由 を 有 する 決 議 であって も 判 決 確 定 まで 当 該 決 議 が 無 効 であることを 主 張 することができないことに 74) Sosnitza, Nichtigkeits und Anfechtungsklage im Schnittfeld von Aktien und Zivilprozeßrecht, NZG 1988, 335, 337; Großkomm/K. Schmidt, 249 Rn. 3. 訴 訟 物 に 権 利 保 護 形 式 が 含 まれるとすれば 訴 訟 物 は 異 なることになる 75) 1997 年 2 月 17 日 付 け 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 判 決 も 具 体 的 な 訴 訟 物 の 内 容 については 明 示 的 な 判 断 がないが 同 判 決 が 述 べる すべての 者 に 対 する 効 力 を 有 する 裁 判 による 決 議 の 無 効 の 明 確 化 を 求 める 原 告 の 要 求 であると 定 義 するものもある (MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 18; Raiser, in: Ulmer/Habersack/Winder, Gesetz betreffend die Gesellschaften mit beschränkter Haftung Großkommentar, Bd.2, 2006 (zitiert; GroßkommGmbHG/Raiser), Anh. 47 Rn. 216) ま た 例 え ば Zöllner は 訴 訟 物 を 株 主 総 会 決 議 が 瑕 疵 を 有 すること(Mangelhaftigkeit) (KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 85)または 裁 判 によって 株 主 総 会 決 議 が 瑕 疵 を 有 すること (Mangelhaftigkeit)の 明 確 化 をもたらすという 訴 訟 上 の 目 的 (Zöllner, in: Baumbach/Hueck, Gesetz betreffend die Gesellschaften mit beschränkter Haftung, 20. Aufl., 2013, Anh. 47 Rn. 166)として 株 主 総 会 決 議 の 違 法 性 という 形 成 要 件 に 相 当 するものを 訴 訟 物 とするかの ように 述 べる 一 方 で 訴 訟 物 を 株 主 総 会 決 議 の 違 法 性 に 基 づく 裁 判 による 無 効 の 確 定 (Statuierung) ( KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 84, 249 Rn. 26)と 述 べるとともに 規 範 となる 取 消 理 由 は 訴 訟 物 ではないとしており(KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 20) 明 確 で はない 9
論 説 ( 大 渕 ) なるはずであるが 77) Karsten Schmidt は 決 議 無 効 確 認 訴 訟 によらないで 無 効 を 主 張 すること( 株 式 法 249 条 1 項 第 2 文 参 照 )を 許 容 するため 78) 決 議 無 効 確 認 訴 訟 を 形 成 訴 訟 と 解 することとの 整 合 性 あるいは 形 成 訴 訟 のメルク マール 自 体 を 再 検 討 する 必 要 性 が 問 題 となる ウ 次 に 訴 訟 物 の 同 一 性 を 画 する 基 準 について 株 式 法 の 通 説 は 給 付 訴 訟 確 認 訴 訟 についての 判 例 通 説 である 二 分 肢 的 訴 訟 物 概 念 (der zweigliedrige Streitgegenstandsbegriff) 79) すなわち 訴 訟 物 は 申 立 ておよび 申 立 てを 理 由 づけるために 主 張 される 生 活 事 実 を 同 等 の 要 素 として その 双 方 によって 構 成 されるという 見 解 を 前 提 として それをそのまま 形 成 訴 訟 に 転 用 している すなわち 株 式 法 の 通 説 は 訴 訟 物 は 原 告 が 主 張 する 事 実 に 基 づいて ある 特 定 の 株 主 総 会 決 議 80) の 無 効 宣 言 (または 無 効 の 明 確 化 )を 求 める 原 告 の 要 求 (Begehren)であると 解 する 81) この 見 解 によると 訴 訟 物 は 訴 えの 申 立 て 76) K. Schmidt, a.a.o.(fn. 61)JZ S. 769f.; ders, a.a.o.(fn. 64)S. 733f., 736; Großkomm/K. Schmidt, 241 Rn. 3f., 246 Rn. 5, 249 Rn. 3ff., 20; Scholz/K. Schmidt, a.a.o.(fn. 65) 45 Rn 45f., 91. GroßkommGmbHG/Raiser, Anh. 47 Rn. 211, 214 も 破 棄 の 訴 えという 上 位 概 念 で 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 を 包 括 することを 認 めるが 決 議 無 効 確 認 訴 訟 が 形 成 訴 訟 であるのかについては 必 ずしも 明 らかにしていない このほか 決 議 無 効 確 認 訴 訟 決 議 取 消 訴 訟 および 消 極 的 決 議 確 認 訴 訟 を Beschlußmängelklage として 包 括 する 見 解 として Noack, a.a.o.(fn. 61)S. 88ff. K. Schmidt の 見 解 に 対 しては 無 効 理 由 を 帯 びる 決 議 は 実 体 法 上 当 初 から 無 効 であ るから 確 認 訴 訟 であり 取 消 理 由 を 帯 びる 決 議 は 実 体 法 上 取 り 消 されるまで 有 効 である から 形 成 訴 訟 であるという 前 提 に 立 つ 通 説 からは 判 決 確 定 前 の 無 効 と 取 消 しについての 実 体 法 上 の 差 異 を 消 し 去 るものであるという 批 判 がなされている(Hüffer, a.a.o.(fn. 61) 249 Rn.7. Vgl. MünchKommAktG/Hüffer 3, 249 Rn. 4, 246 Rn.16.) しかし 無 効 と 取 消 しとの 実 体 法 的 観 点 からの 区 別 が 確 認 訴 訟 と 形 成 訴 訟 の 区 別 に 直 結 するとは 直 ちに 言 えないように 思 われる 77) Schlosser, a.a.o.(fn. 46)S. 26, 37. 78) Großkomm/K. Schmidt, 249 Rn. 7f. この 形 成 訴 訟 のメルクマールは 会 社 法 では 一 定 の 変 更 が 必 要 であることを 論 じるものとして Noack, a.a.o.(fn. 61)S. 103ff. 79) Statt aller Stein/Jonas/Roth, a.a.o.(fn. 43)vor 253 Rn. 11, 18ff.; MünchKomm/Becker Eberhard, vor 253 Rn. 32ff. 10
類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) で 示 される 取 消 しにかかる 株 主 総 会 決 議 および 決 議 の 取 消 しを 理 由 づける 生 活 事 実 によって 訴 訟 物 が 画 されるため 異 なる 株 主 総 会 決 議 を 対 象 とする 場 合 だけでなく 同 一 の 株 主 総 会 決 議 を 対 象 とする 場 合 であっても 異 なる 生 活 事 実 に 基 づく 場 合 には 訴 訟 物 が 複 数 となる 82) また 決 議 取 消 訴 訟 で 請 求 棄 却 判 決 が 確 定 しても 前 訴 とは 異 なる 生 活 事 実 に 基 づく 限 り 同 一 の 株 主 総 会 決 議 について 決 議 取 消 訴 訟 を 提 起 することは 既 判 力 によって 妨 げられないことに なる 83) 取 消 理 由 (Anfechtungsgrund)と 生 活 事 実 との 関 係 を 意 識 的 に 明 示 してい る 見 解 があまり 見 られず 取 消 理 由 をこれに 該 当 する 事 実 とほぼ 同 義 のもの と 理 解 しているように 思 われるものが 散 見 される 84) 中 で Karsten Schmidt は 取 消 理 由 が 法 的 観 点 から 主 張 されるものであって 生 活 事 実 とは 異 なるもので あることを 前 提 としつつ 同 一 の 株 主 総 会 決 議 である 限 り 複 数 の 取 消 理 由 に 80) 後 述 の 形 成 対 象 の 繰 返 しという 問 題 とも 関 連 するが ここでいう 株 主 総 会 決 議 は 同 一 の 瑕 疵 を 有 する 抽 象 的 な 株 主 総 会 決 議 ではなく ( 日 時 等 で 特 定 される) 具 体 的 な 株 主 総 会 決 議 のことである K. Schmidt, a.a.o.(fn. 61)JZ S. 773; Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 61. 81) Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 61; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn, 18; Hüffer, a.a.o.(fn. 58), 246 Rn. 12; Bork, Streitgegenstand der Beschlussmängelklage im Gesellschaftsrecht, NZG 2002, S. 1094; M. Schwab, a.a.o.(fn. 59)S. 305; K. Schmidt/ Lutter/M. Schwab, a.a.o.(fn. 43) 246 Rn. 1f.; Scholz/K. Schmidt, a.a.o.(fn. 65) 45 Rn. 48, 152. つまり ここでいう 事 実 とは いわゆる 二 分 肢 説 の 意 味 における 統 一 的 な 生 活 事 実 (ein einheitlicher Lebenssachverhalt)をいう Vgl. BGH Urt. v. 22.7.2002, BGHZ 152, 1, 4=NJW 2002, 3465, 3466. 82) Großkomm/K. Schmidt, 246, Rn. 57, 61; Bork, a.a.o(fn. 59)S. 612f.; ders, a.a.o.(fn. 81)S. 1094; M. Schwab, a.a.o.(fn. 59)S. 303ff.; K. Schmidt/Lutter/M. Schwab, a.a.o.(fn. 43) 246 Rn. 1f. 83) K. Schmidt, a.a.o.(fn. 61)JZ S. 772; Großkomm/K. Schmidt, 248 Rn. 15; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 25; Hüffer, a.a.o.(fn. 58) 246 Rn. 14; K. Schmidt/ Lutter/M. Schwab, a.a.o.(fn. 43) 246 Rn. 3, 248 Rn. 3. 84) Vgl. so etwa Jauernig/Hess, Zivilprozessrecht, 30. Aufl., 2011, 37 Rn. 44f.; K. Schmidt/ Lutter/M. Schwab, a.a.o.(fn. 43) 246 Rn. 3, 248 Rn. 3. 11
論 説 ( 大 渕 ) 基 づいていても それらが 同 一 の 生 活 事 実 に 基 づく 限 り 訴 訟 物 は 1 つである としている 85) 厳 密 には このように 取 消 理 由 と 生 活 事 実 とは 異 なる 概 念 とし て 理 解 するのが 適 切 であろう これに 対 して 少 数 説 は 二 分 肢 説 に 立 ちつつ 決 議 取 消 訴 訟 の 訴 訟 物 は 取 消 し(および 無 効 )を 理 由 づけるすべての 瑕 疵 を 包 含 すると 考 える 86) 2002 年 7 月 22 日 付 け 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 判 決 87) も 少 数 説 に 従 うことを 明 らかにした この 事 案 では 株 主 である 原 告 が 同 日 になされた 3 つの 株 主 総 85) Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 57; Scholz/K. Schmidt, a.a.o.(fn. 65) 45 Rn. 152, 154. また 提 訴 期 間 経 過 後 の 取 消 理 由 の 提 出 の 可 否 という 文 脈 で 述 べられているものとし て Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 24. 判 例 (BGH Urt. v. 23.5.1960, BGHZ 32, 318, 323)も 提 訴 期 間 経 過 後 の 取 消 理 由 の 提 出 という 文 脈 において 取 消 理 由 を 法 的 評 価 であるとして ( 生 活 事 実 かどうかはともかく) 事 実 レベルとは 異 なるものととらえている 86) KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 20, 47ff.; Baumbach/Hueck/Zöllner, a.a.o.(fn. 75)Anh. 47 Rn. 166f. Arens, a.a.o.(fn. 41)S. 46ff., insb. S. 50, 96f. は 形 成 訴 訟 一 般 については 二 分 肢 説 の 立 場 を 採 りつつ ある 特 定 の 株 主 総 会 において 起 こったすべての 出 来 事 を 1 つの 歴 史 的 事 実 ひいては 1 つの 請 求 原 因 事 実 であるとする 見 解 は 広 すぎるとして 批 判 する その 上 で 請 求 原 因 事 実 の 範 囲 を 申 立 てを 理 由 づけるために 主 張 されたものに 限 定 すること が 必 要 であり それは 取 消 権 を 与 える 法 律 定 款 違 反 をもたらす 作 為 または 不 作 為 であ るとする 仮 に この Arens の 見 解 が ( 法 律 定 款 違 反 には 関 係 のない 事 実 を 除 いた) 法 律 定 款 違 反 をもたらし 得 るすべての 事 実 という 趣 旨 であれば 判 例 および 少 数 説 との 違 いは ほとんどないことになろう これに 対 して 形 成 訴 訟 一 般 について 訴 訟 物 の 範 囲 を 原 告 の 申 立 てによってのみ 画 する 一 分 肢 説 を 採 る 見 解 として Prütting, a.a.o.(fn. 70)S. 1280f. すべての 訴 訟 類 型 につ いて 一 分 肢 説 を 採 る 見 解 として Schwab, Der Streitgegenstand im Zivilprozess, 1954, S. 183ff., 199f.; ders, Noch einmal: Bemerkungen zum Streitgegenstand, in: Festschrift fur Lüke, 1997, S. 794ff. ただし Schwab は 前 訴 で 提 出 された 訴 訟 資 料 とは 関 係 のない 新 たな 事 実 は それが 前 訴 で 主 張 できたものであったとしても 既 判 力 によって 排 除 されないとした 上 で 排 除 される 事 実 であるか 否 かは 新 たな 生 活 事 実 であるか 否 かではなく 確 定 判 決 によって 確 定 される 前 訴 の 事 実 に 対 向 しているか 否 かによって 決 せられ 形 成 訴 訟 でも 離 婚 訴 訟 等 の 例 外 を 除 いて 同 様 であるとする Schwab, Der Streitgegenstand im Zivilprozeß, S. 161f., 165ff., 171f., 179ff. 12
類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) 会 決 議 に 対 して 決 議 無 効 確 認 訴 訟 および 決 議 取 消 訴 訟 を 提 起 したが この 訴 え は 通 説 でいえば 3 つの 事 実 群 ( 生 活 事 実 )に 基 づいていた そのうち 1 つ( 株 主 総 会 が 株 式 法 121 条 3 項 に 違 反 して 召 集 されたこと)はすべての 株 主 総 会 決 議 に 関 係 していたが それ 以 外 の 2 つ( 株 式 供 託 の 期 間 計 算 が 定 款 に 違 反 して いること コンツェルンの 決 算 書 および 状 況 報 告 書 を 作 成 していないこと)は 2 つの 株 主 総 会 決 議 のみに 関 連 するものであった 第 一 審 では 請 求 棄 却 判 決 がなされ 原 告 が 控 訴 したが 控 訴 理 由 書 において 後 者 の 2 つの 理 由 につい ては 第 一 審 でなされた 主 張 を 指 摘 しただけであり 2002 年 改 正 (BGBl. 2001 ⅠS. 1887) 前 の 民 事 訴 訟 法 旧 519 条 3 項 2 号 に 違 反 していた そこで 控 訴 審 は 同 号 違 反 の 2 つの 理 由 について 控 訴 を 却 下 し それ 以 外 の 理 由 については 欠 席 判 決 によって 控 訴 を 棄 却 した それぞれの 理 由 が 異 なる 生 活 事 実 に 基 づいてい るため 複 数 の 訴 訟 物 があると 解 する 場 合 には それぞれについて 同 号 に 従 っ た 理 由 付 けがなされなければならず 控 訴 審 判 決 のように 訴 訟 物 ごとの 処 理 が 可 能 であるが 1 つの 訴 訟 物 であると 解 する 場 合 には 同 号 違 反 ではないから 控 訴 は 適 法 であることになる 上 記 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 判 決 は 次 のように 述 べて 決 議 の 成 立 が 基 礎 とする 状 況 全 体 を 1 つの 統 一 的 な 生 活 事 実 であるとし た すなわち 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 には 株 主 総 会 決 議 に 付 着 し 裁 判 による 無 効 の 明 確 化 をもたらすすべての 瑕 疵 が 包 含 される 決 議 の 成 立 が 基 礎 とする 状 況 全 体 が 1 つの 統 一 的 な 生 活 事 実 であり それが 両 訴 訟 の 請 求 原 因 の 一 部 を 構 成 する 請 求 原 因 のそれ 以 外 の 部 分 は この 状 況 の 1 ( 前 頁 より 続 き) また 訴 訟 物 が 機 能 する 場 面 ごとに 相 対 的 な 訴 訟 物 概 念 を 採 用 し すべての 訴 訟 類 型 につき 既 判 力 の 場 合 を 除 いて 一 分 肢 説 を 採 るものとして Stein/Jonas/Roth, a.a.o.(fn. 43) vor 253 Rn. 46ff., insb. Rn. 64(ただし 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 場 合 には 既 判 力 についても 一 分 肢 説 をとる). 87) BGH Urt. v. 22.7.2002, BGHZ 152, 1, 3ff.=NJW 2002, 3465, 3466; LG Frankfurt Urt. 9.3.2004, NZG 2004, 672, 673. 2002 年 7 月 22 日 付 け 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 判 決 以 前 には 通 説 に 従 い 生 活 事 実 ごとに 訴 訟 物 が 異 なるとする 判 例 がある BGH Urt. v. 8.11.1993, ZIP 1993, 1867, 1871. 13
論 説 ( 大 渕 ) つまたは 複 数 が 瑕 疵 を 有 すること(その 瑕 疵 は その 状 況 が 法 律 違 反 または 定 款 違 反 であることからもたらされる)から 構 成 される これらの 要 素 を 含 む 決 議 が 瑕 疵 を 有 するという 請 求 原 因 および 裁 判 によってそれを 明 確 化 するとい う 訴 訟 上 の 要 求 によって 両 訴 訟 の 訴 訟 物 が 構 成 される このように 解 する 場 合 訴 訟 物 は 申 立 てに 係 る 株 主 総 会 決 議 ごとに 画 され ることになり 同 一 の 株 主 総 会 決 議 に 対 して 異 なる 取 消 理 由 が 主 張 されても 取 消 理 由 ごとに 訴 訟 物 が 別 個 になるわけではない 88) また そもそも 原 告 が 主 張 する 事 実 によって 訴 訟 物 が 限 定 されないため 89) 同 一 の 株 主 総 会 決 議 に 対 し て 異 なる 生 活 事 実 が 主 張 されたとしても 訴 訟 物 は 別 個 にならない そのため 決 議 取 消 訴 訟 で 請 求 棄 却 判 決 が 確 定 した 場 合 には 同 判 決 の 既 判 力 により 原 告 は 同 一 の 株 主 総 会 決 議 に 対 する 別 の 瑕 疵 に 基 づいて 訴 えを 提 起 することは できない 90) 上 記 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 判 決 の 理 解 の 仕 方 は 分 れており 決 議 取 消 訴 訟 およ び 決 議 無 効 確 認 訴 訟 についてのみ いわゆる 申 立 てだけで 訴 訟 物 の 範 囲 を 画 す る 一 分 肢 説 を 採 用 していると 解 する 立 場 91) と あくまで 二 分 肢 説 にたちつつ 事 実 について 広 く 捉 えているにすぎないとする 立 場 92) とがあるが 判 決 文 を 読 88) KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 51f., 56; Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 57. 89) Baumbach/Hueck/Zöllner, a.a.o.(fn. 75)Anh. 47 Rn.167. 90) KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 47. 前 述 のとおり 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 は 同 一 であるというのが Zöllner および 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 の 立 場 であるため 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 提 起 も 既 判 力 に 抵 触 することになる ただし 決 議 取 消 訴 訟 は 1 か 月 の 提 訴 期 間 内 に 提 起 されなければならないため 後 訴 の 既 判 力 による 抵 触 が 問 題 となるのは 実 際 上 決 議 取 消 訴 訟 において 請 求 棄 却 判 決 がなさ れた 後 に 同 一 原 告 が 決 議 無 効 確 認 訴 訟 をあらためて 提 起 する 場 合 に 限 られる 別 の 原 告 が 決 議 無 効 確 認 訴 訟 を 提 起 することは 前 訴 の 請 求 棄 却 判 決 の 既 判 力 によって 妨 げられな いため 同 一 の 株 主 総 会 決 議 に 関 して 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 を 同 一 であるとすることによる 影 響 をそれほど 大 きいものではないともいえる Sosnitza, a.a.o.(fn. 74)S. 338. 91) Roth, a.a.o.(fn. 61)Bl. 2235; Prütting, a.a.o.(fn. 70)S. 1278. 92) Bork, a.a.o.(fn. 81)S. 1094; Bub, Anmerkung zum Urteil des BGH vom 22.7.2002, AG 2002, S. 679; K. Schmidt/Lutter/M. Schwab, a.a.o.(fn. 43) 246 Rn. 1. 14
類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) む 限 りでは 後 者 と 解 するのが 素 直 であるように 思 われる ただし 上 記 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 判 決 の 事 案 では 通 説 の 見 解 でも 対 処 することができ 必 ずし も 訴 訟 物 の 問 題 を 論 じる 必 要 はなかったとの 指 摘 もなされている 93) 民 事 訴 訟 法 の 学 説 においても 形 成 訴 訟 一 般 について 二 分 肢 的 訴 訟 物 概 念 を 妥 当 させるものが 多 いようであるが 後 述 のとおり 1 つの 生 活 事 実 ととら える 範 囲 が 論 者 によって 異 なるため 具 体 的 な 帰 結 は 必 ずしも 一 致 しない こ の 訴 訟 物 の 同 一 性 を 画 する 基 準 については 構 成 要 件 や 私 法 上 の 形 成 権 との 関 係 も 含 めて 後 ほど 検 討 する 以 上 の 訴 訟 物 の 議 論 とは 別 レベルの 問 題 として 提 訴 期 間 経 過 後 の 新 たな 取 消 理 由 の 提 出 の 可 否 という 問 題 があるが 前 述 のとおり 決 議 無 効 確 認 訴 訟 および 決 議 取 消 訴 訟 の 訴 訟 物 に 関 する 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 の 見 解 が 変 更 された ことに 関 連 して 1 点 だけ 付 言 する 通 説 および 判 例 は 提 訴 期 間 経 過 後 は 新 た な 取 消 理 由 を 提 出 することはできず 提 訴 期 間 内 に 取 消 しを 理 由 づけるために 必 要 な 事 実 をすべて 主 張 しなければならないが ( 取 消 理 由 と 構 成 していなく ても) 提 訴 期 間 内 にその 本 質 的 な 事 実 の 核 心 について 主 張 されていればよいと していた 94) しかし 前 述 のとおり 2002 年 7 月 22 日 付 け 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 判 決 が 決 議 取 消 訴 訟 と 決 議 無 効 確 認 訴 訟 の 訴 訟 物 には 株 主 総 会 決 議 に 付 93) Bub, a.a.o.(fn. 92)S. 679. 94) BGH Urt. v. 23.5.1960, BGHZ 32, 318; BGH Urt. v. 9.11.1992, BGHZ 120, 141, 156=NJW 1993, 400, 404; BGH Urt. v. 5.4.1993, BGHZ 122, 211=NJW 1993. 1976, 1977; BGH Urt. v. 12.1.1998, BGHZ 137, 378=NJW 1998, 1559, 1561(この 判 例 は さらに やむを 得 ない 事 情 によって 株 主 が 提 訴 期 間 前 に 取 消 理 由 を 主 張 し 得 なかったか 否 かをも 問 題 としている); Baumbach/Hueck, a.a.o.(fn. 72) 246 Rn. 4; von Godin/Wilhelmi, a.a.o.(fn. 61) 246 Anm. 2; Großkomm/Schilling, 246 Anm. 4; Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 22ff., Rn. 61; Scholz/K. Schmidt, a.a.o. (Fn. 65) 45 Rn. 145; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 44f. これに 対 して 通 説 判 例 に 反 対 する Zöllner は 原 告 は 提 訴 期 間 内 に 決 議 の 無 効 宣 言 を 求 める 申 立 てを 行 うこと および 原 告 自 身 の 考 えによれば 訴 えの 要 求 を 理 由 づける 事 実 を 主 張 することで 十 分 であり 原 告 は 訴 訟 係 属 中 いつでも 上 記 事 実 を 補 足 すること ができるとする KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 18ff.; Baumbach/Hueck/Zöllner, a.a.o.(fn. 75)Anh. 47 Rn. 156f. 15
論 説 ( 大 渕 ) 着 する 裁 判 による 無 効 の 明 確 化 をもたらすすべての 瑕 疵 が 包 含 されるという 見 解 を 採 用 したため 提 訴 期 間 内 に 何 らかの 瑕 疵 を 理 由 として 決 議 取 消 訴 訟 を 提 起 するだけで その 経 過 後 に 別 の 瑕 疵 を 提 出 できることになり 法 的 安 定 性 を 図 ろうとする 株 式 法 246 条 1 項 の 目 的 とは 相 容 れないと 批 判 されることが あった 95) そこで 2005 年 3 月 14 日 付 け 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 判 決 96) は この 懸 念 を 明 確 に 否 定 し 決 議 取 消 訴 訟 の 場 合 には 提 訴 期 間 内 に 原 告 がそれに 基 づいて 決 議 の 取 消 しを 導 こうとする(2002 年 の 連 邦 通 常 最 高 裁 判 所 判 決 に よれば 決 議 取 消 訴 訟 の 請 求 原 因 の 一 部 となる 決 定 的 な) 生 活 事 実 が 主 張 されな ければならないと 解 しており 同 判 決 以 前 の 通 説 判 例 と 同 様 の 見 解 を 維 持 していることに 注 意 が 必 要 である エ 最 後 に 決 議 取 消 訴 訟 において 請 求 認 容 判 決 確 定 後 同 一 事 情 の 下 でな された 同 一 内 容 同 一 瑕 疵 を 有 する 新 たな 株 主 総 会 決 議 に 対 しても 決 議 取 消 訴 訟 の 既 判 力 が 及 ぶのかという 問 題 があり これらは 決 議 取 消 訴 訟 の 訴 訟 物 をどのように 解 するかという 問 題 に 関 わる また 決 議 取 消 訴 訟 の 係 属 中 に 同 一 事 情 の 下 で 同 一 内 容 同 一 瑕 疵 を 有 する 新 たな 株 主 総 会 決 議 がな された 場 合 当 該 決 議 について 審 理 の 対 象 とするには 訴 えの 変 更 または 新 訴 が 必 要 であるかということも 別 途 問 題 となる 97) この 問 題 は 本 稿 での 議 論 の 前 提 としてみておく 必 要 性 はないので 問 題 点 の 指 摘 にとどめたい 以 上 が 決 議 取 消 訴 訟 に 特 有 の 訴 訟 物 についての 主 な 議 論 であるが これら を 前 提 としつつ 決 議 取 消 訴 訟 における 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 成 否 についての 議 論 を 見 ていくこととする なお 決 議 取 消 訴 訟 において 決 議 の 性 質 によっ ては 決 議 の 一 部 のみを 取 り 消 す 余 地 があることが 論 じられているが 本 稿 で は 決 議 の 一 部 取 消 しを 検 討 の 対 象 とはしない 98) 95) Bork, a.a.o.(fn. 81)S. 1094. 96) BGH Urt. v. 14.3.2005, NZG 2005, 479, 480f. 97) 旧 決 議 を 追 認 する 決 議 がなされたが( 株 式 法 244 条 ) それが 旧 決 議 と 同 一 瑕 疵 を 帯 び る 場 合 も 同 様 のことが 問 題 となる 16
類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) ⑶ 株 主 総 会 決 議 取 消 訴 訟 における 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 に 関 する 議 論 状 況 と ア 問 題 の 所 在 通 説 99) 判 例 100) は 複 数 の 原 告 が 提 起 する 決 議 取 消 訴 訟 が 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 となることを 認 めている ただし ( 日 時 等 で 特 定 された) 具 体 的 な 株 主 総 会 決 議 ごとに 訴 訟 物 は 異 なることになるため 同 一 の 株 主 総 会 決 議 を 対 象 とする 訴 えであることが 必 要 となる 101) また それぞれの 原 告 が 主 張 する 取 消 理 由 が 同 一 か 否 かにかかわらず 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 となると 述 べられる ことが 多 いが この 点 は 後 述 のとおり 訴 訟 物 の 同 一 性 を 要 件 とするのであ れば 前 記 ⑵ウで 検 討 した 問 題 で どの 見 解 に 立 つかによって 厳 密 には 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 になるかが 異 なることになる 102) 決 議 取 消 訴 訟 における 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 成 否 に 関 連 して 我 が 国 とドイ ツとでは 若 干 異 なる 点 がある 通 説 判 例 は 取 消 権 限 を 有 する 者 であるか どうかは 本 案 審 理 に 属 する 問 題 であると 理 解 され 取 消 権 限 がない 者 による 訴 えは 訴 え 却 下 ではなく 請 求 棄 却 されるとしている 103) また 提 訴 期 間 98) 一 部 取 消 しについては KölnKomm/Zöllner, 241 Rn. 63f., 248 Rn. 38ff.; Großkomm/ K. Schmidt, 241 Rn. 27, 243 Rn. 69; MünchKommAktG/Hüffer 3, 241 Rn. 90ff., 248 Rn. 37. 99) Nikisch, a.a.o.(fn. 52) 110Ⅱ2a, b(s. 439); Schwab, a.a.o.(fn. 38)S. 277ff.; Grunsky, Grundlagen des Verfahrensrechts, 2. Aufl., 1974, 29Ⅱ1b(S. 279f.); Gottwald, a.a.o.(fn. 52)S. 64, 67; Schütze in: Wieczorek/Schütze, Zivilprozessordnung und Nebengesetze Großkommentar, 3. Aufl., Bd.1, Teilbd. 2, 1994, 62 Rn. 17; Rosenberg/ Schwab/Gottwald, a.a.o.(fn. 30) 49 Rn. 14f.; Jauernig/Hess, a.a.o.(fn. 84) 82 Rn. 6f.; Schultes in: Krüger/Rauscher, Münchener Kommemtar zur Zivilprozessordnung, 4. Aufl., Bd. 1, 2013(zitiert: MünchKomm/Schultes 4 ), 62 Rn. 5, 8f.; Bork in: Stein/Jonas, Kommentar zur Zivilprozessordnung, 23. Aufl., Bd.1, 2014, 62 Rn. 7f. 株 式 法 について KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 88; Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 29; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 7. 100)BGH Urt. v. 5.4.1993, BGHZ 122, 211= NJW 1993, 1976, 1983; BGH Urt. v. 1.3.1999, NJW 1999, 1638, 1639. 101)Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 29; Scholz/K. Schmidt, a.a.o.(fn. 65) 45 Rn. 155; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 7. 17
論 説 ( 大 渕 ) 経 過 後 に 提 起 される 決 議 取 消 訴 訟 についても 通 説 判 例 によれば ( 訴 訟 物 の 範 囲 内 において 無 効 理 由 が 認 められるため 決 議 無 効 確 認 判 決 がなされる 場 合 は 別 として) 訴 え 却 下 ではなく 請 求 棄 却 がなされることになる 104) そ のため 複 数 の 株 主 が 決 議 取 消 訴 訟 を 提 起 する 場 合 でも 一 部 の 株 主 との 関 係 では 取 消 権 限 を 欠 く 者 による 訴 えまたは 提 訴 期 間 経 過 後 の 訴 えであるとして 請 求 棄 却 判 決 がなされ 他 の 株 主 との 関 係 では 請 求 認 容 判 決 がなされることに なってしまうが このような 結 果 は 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 での 合 一 的 確 定 には 反 しないと 解 されている 105) 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 にあたるとする 理 由 としては 決 議 取 消 判 決 の 既 判 力 は 株 式 法 248 条 1 項 第 1 文 により 同 文 に 規 定 する 者 に 対 して 有 利 にも 不 利 にも 及 ぶから 取 消 しに 係 る 決 議 について 合 一 的 にのみ 判 断 されなければならない と 説 明 されるのが 一 般 的 である 106) ここでいう 合 一 的 確 定 が 具 体 的 にはど のようなことであるのかについて Schwab の 議 論 を 取 り 上 げて 見 ていくこと とする イ この 問 題 について 詳 細 に 論 じている Schwab は まず 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 における 必 要 的 合 一 的 確 定 が 要 請 される 場 合 がいかなる 場 合 かについて 既 102)Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 29 は それぞれの 原 告 が 主 張 する 取 消 理 由 が 同 一 か 否 かは 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 成 否 にとって 重 要 ではないとするが 前 述 のとおり 二 分 肢 説 を 前 提 にする 立 場 に 立 つのであるから 厳 密 には それぞれの 原 告 が 主 張 する 生 活 事 実 が 異 なる 場 合 には 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 が 成 立 しないと 解 すべきことになると 思 われる KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 20, 56 も 参 照 古 い 学 説 では 決 議 取 消 訴 訟 について 取 消 理 由 が 同 一 か 異 なるかによって 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 となるか 否 かを 考 える 見 解 も 散 見 される 例 えば Förster/Kann, Die Zivilprozeßordnung für das Deutsche Reich, 3. Aufl., Bd.1, 1913, 62 Anm. 2 a cc(s. 214). 103)BGH Beschl. v. 11.6.2007, AG 2007, 863, 864f.; KölnKomm/Zöllner, 245 Rn. 2; MünchKommAktG/Hüffer 3, 245 Rn. 3; Hüffer, a.a.o.(fn. 58) 245 Rn. 2. 104)OLG Frankfurt Urt. v. 13.12.1983, AG 1984, 110, 111; KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 6; Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 13, 25; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 36. 105)KölnKomm/Zöllner, 246 Rn. 88; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 7. 106)Vgl. so etwa Großkomm/K. Schmidt, 246 Rn. 29; MünchKommAktG/Hüffer 3, 246 Rn. 7. 18
類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) に Lent によって 同 様 のことが 言 及 されていたところであるが 107) 別 々の 訴 訟 であるときにも 異 なる 判 決 が 法 律 上 の 理 由 から 考 えられない 場 合 には 当 然 共 同 訴 訟 では 判 決 が 必 ず 合 一 的 になされなければならない という 原 則 をまず 定 立 する この 原 則 の 要 件 が 充 たされるのは ( 相 互 に 既 判 力 を 拡 張 し 合 う 関 係 にあることを 前 提 として) 前 後 する 別 々の 訴 訟 において 前 訴 判 決 の 既 判 力 が 後 訴 に 及 ぶ 場 合 であるが Schwab は 次 のように 片 面 的 に 既 判 力 が 拡 張 される 場 合 にもこの 原 則 が 妥 当 するかについて 検 討 する まず 複 数 の 株 主 が 提 起 する 決 議 取 消 訴 訟 および 決 議 無 効 確 認 訴 訟 等 を 念 頭 に 置 きつつ 1 別 訴 が 可 能 であるか また 2 別 訴 が 可 能 であるとして 異 なる 判 決 を 下 すこ とができるかを 問 題 とし これらをいずれも 肯 定 する ただし 別 訴 で 異 なる 判 決 を 下 すことができるのは 前 訴 で 原 告 が 敗 訴 した 場 合 だけであって 前 訴 で 原 告 が 勝 訴 した 場 合 には 前 訴 判 決 の 既 判 力 が 拡 張 され その 結 果 後 訴 は もはや 問 題 とならないとする 108) (この 点 は 前 訴 の 既 判 力 が 後 訴 に 拡 張 される ことを 理 由 とするようにも 読 めるが 厳 密 には 既 判 力 以 前 に 形 成 力 によっ て 後 訴 は 問 題 にならないのではないかと 解 される 109) ) そうすると 片 面 的 に 既 判 力 が 拡 張 される 場 合 には 前 後 する 別 々の 訴 訟 に おいて 異 なる 判 決 を 下 すことが 可 能 であるために 冒 頭 で 定 立 された 原 則 から すると この 場 合 には 合 一 的 確 定 の 必 要 性 が 否 定 され 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 であることが 否 定 されなければならないようでもある しかし 別 々の 訴 訟 に おいて 異 なる 判 決 がなされる 場 合 (つまり 前 訴 では 請 求 が 棄 却 され 後 訴 で は 要 求 された 形 成 または 確 認 が 実 現 された 場 合 )でも 既 判 力 の 拡 張 が 生 じ 後 訴 判 決 の 既 判 力 が 前 訴 の 当 事 者 に 対 しても 及 ぶ それゆえ 片 面 的 な 既 判 107)Lent, a.a.o.(fn. 31)S. 61f. 108) 以 上 Schwab, a.a.o.(fn. 38)S. 276ff. 109) 形 成 訴 訟 の 場 合 には 前 訴 で 請 求 認 容 判 決 がなされると 後 訴 については 訴 訟 終 了 宣 言 がなされることになる Lent, a.a.o.(fn. 31)S. 49; Hassold, a.a.o.(fn. 52)S. 59f. なお 厳 密 に 言 えば 前 訴 で 請 求 認 容 判 決 が 確 定 したときに 後 訴 の 口 頭 弁 論 が 既 に 終 結 していた 場 合 は やはり 既 判 力 の 抵 触 が 問 題 となり 得 る 19
論 説 ( 大 渕 ) 力 の 拡 張 によって 内 容 的 に 異 なる 確 定 判 決 の 矛 盾 が 起 こるという 結 果 となる のである 前 後 する 別 々の 訴 訟 において このような 回 避 することができない 確 定 判 決 の 矛 盾 は 共 同 訴 訟 において 阻 止 されなければならない Schwab は 以 上 のように 論 じて 片 面 的 に 既 判 力 が 拡 張 される 場 合 には このような 判 決 の 矛 盾 を 阻 止 するために 法 律 上 の 理 由 からその 判 決 は 合 一 的 になされる 必 要 があり 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 にあたると 結 論 づける 110) しかし 通 説 は 既 判 力 が 訴 訟 物 の 範 囲 で 生 じると 解 しているため( 民 事 訴 訟 法 322 条 1 項 ) 111) この Schwab の 議 論 をより 厳 密 に 検 討 するのであれば 既 判 力 の 主 観 的 範 囲 が 拡 張 されるとしても 前 訴 判 決 と 後 訴 判 決 との 間 に 既 判 力 の 抵 触 が 生 じるか 否 かについては その 前 提 として 訴 訟 物 の 同 一 性 がある かを 考 える 必 要 がある なぜなら 訴 訟 物 が 同 一 であるからこそ 1 人 の 共 同 訴 訟 人 に 対 してなされる 判 決 の 既 判 力 が 他 の 共 同 訴 訟 人 に 拡 張 される 場 合 に 既 判 力 の 抵 触 が 問 題 となり 得 るのであって 逆 に 訴 訟 物 が 同 一 でなければ 既 判 力 の 抵 触 は 問 題 とならない(ここでは 1 人 の 共 同 訴 訟 人 に 対 してなされ る 判 決 の 訴 訟 物 が 他 の 共 同 訴 訟 人 の 訴 訟 での 訴 訟 物 の 前 提 問 題 となっている ということが 考 えられない) 通 説 も 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 を 認 めるためには 1 人 の 共 同 訴 訟 人 に 対 する 判 決 の 既 判 力 が 他 の 共 同 訴 訟 人 に 拡 張 されるだけで なく 両 訴 訟 における 訴 訟 物 の 同 一 性 を 必 要 としており 形 成 訴 訟 についても 別 異 には 解 されていない 112) したがって この 場 合 に 既 判 力 の 抵 触 があるのかについては 決 議 取 消 訴 訟 の 訴 訟 物 を 具 体 的 に 考 える 必 要 がある 形 成 訴 訟 である 決 議 取 消 訴 訟 では 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 が 問 題 となるが 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 は 非 常 に 難 しい 問 題 であ 110) 以 上 Schwab, a.a.o.(fn. 38)S. 279f. Hassold, a.a.o.(fn. 52)S. 56f. も 同 旨 111)Rosenberg/Schwab/Gottwald, a.a.o.(fn. 30) 153 Rn. 1f.; Gottwald, in : Krüger/Rauscher, Münchener Kommemtar zur Zivilprozessordnung, 4. Aufl., Bd. 1, 2013 (zitiert; MünchKomm/Gottwald 4 ), 322 Rn.112; Musielak in: Musielak, Zivilprozessordnung Kommentar, 11. Aufl., 2014, 322 Rn. 16. 訴 訟 物 と 既 判 力 の 範 囲 を 一 致 させない 見 解 として Stein/Jonas/Leipold, a.a.o.(fn. 44) 322 Rn. 92ff. 20
類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) るため 我 が 国 だけでなく ドイツにおいても 議 論 が 錯 綜 している 状 態 にあ るといってよい もちろん 本 稿 で 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 の 議 論 そのものを 十 分 論 じ ることはできないが この 訴 訟 物 も 含 めて 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 成 否 が 検 討 が されている Henckel の 議 論 を 踏 まえつつ 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 の 議 論 がどのよ うに 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 成 否 に 影 響 し 得 るかについて 検 討 してみたい ちな みに ドイツにおいても 筆 者 が 調 査 する 限 り Henckel 以 外 には 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 を 踏 まえた 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 詳 細 な 検 討 がなされていないようで ある ウ それでは 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 が 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 議 論 にどのよう に 関 わるのであろうか 株 式 法 248 条 1 項 第 1 文 で 規 定 される 効 力 が 既 判 力 の 拡 張 であることを 前 提 とする 場 合 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 要 件 においてどの ような 問 題 を 検 討 しなければならないのかについて 述 べることとする ここでの 問 題 意 識 は 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 が 当 事 者 によって 個 別 化 される かどうかという 点 である すなわち 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 を 私 法 上 の 形 成 権 あるいは 公 法 上 の 主 観 的 権 利 とする 場 合 またはこれらを 基 礎 とする 場 合 には 当 事 者 によって 訴 訟 物 が 個 別 化 されるため 1 人 の 共 同 訴 訟 人 の 訴 訟 における 訴 訟 物 と 他 の 共 同 訴 訟 人 の 訴 訟 における 訴 訟 物 との 間 に 同 一 性 がないとい うことになり 既 判 力 の 拡 張 がなされても 既 判 力 の 抵 触 が 生 じないことに なる つまり 共 同 訴 訟 人 の1 人 が 有 する 私 法 上 の 形 成 権 または 公 法 上 の 主 観 的 権 利 の 存 在 (これらを 基 礎 とすると 考 える 場 合 には 訴 訟 物 を 権 利 主 張 112)Schwab, a.a.o.(fn. 38)S. 277ff.; Henckel, a.a.o.(fn. 46)S. 200ff.; Lindacher, a.a.o.(fn. 52)S. 382; Winte, a.a.o.(fn. 37)S.16f., 35; Wieczorek/Schütze/Schütze, a.a.o.(fn. 99) 62 Rn. 26; MünchKomm/Schultes 4, 62 Rn.5; Stein/Jonas/Bork, a.a.o.(fn. 99) 62 Rn. 6. Vgl. auch Hassold, a.a.o.(fn. 52)S. 17f. なお Lent は 形 成 訴 訟 に 既 判 力 を 認 めないが 既 判 力 拡 張 を 理 由 とする 場 合 には 訴 訟 物 の 同 一 性 があることも 必 要 としている Lent, a.a.o.(fn. 31)S. 45ff. 本 稿 では 触 れないが 類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 の 要 件 として 訴 訟 物 の 同 一 性 のみで 足 り るかという 問 題 があり かつては 有 力 であったが 現 在 では ごく 少 数 説 である 学 説 判 例 の 状 況 について Schwab, a.a.o.(fn. 38)S. 273; Hassold, a.a.o.(fn. 52)S. 19f. 参 照 21
論 説 ( 大 渕 ) (Rechtsbehauptung)ではなく 要 求 (Begehren)であるとする 立 場 からは 厳 密 には 原 告 の 要 求 の 存 在 )についての 判 決 の 既 判 力 が 他 の 共 同 訴 訟 人 に 拡 張 されるとしても 他 の 共 同 訴 訟 人 が 有 する 私 法 上 の 形 成 権 または 公 法 上 の 主 観 的 権 利 との 関 係 では なんら 既 判 力 の 抵 触 がないことになる これに 対 し 当 事 者 によって 個 別 化 されない 形 成 要 件 を 訴 訟 物 とする 場 合 には (ここでは 形 成 要 件 ごとに 訴 訟 物 が 異 なるのか 形 成 要 件 が 異 なっても 1 つの 訴 訟 物 しか ないのかという 問 題 をいったん 捨 象 して 同 一 の 訴 訟 物 であるとすれば)1 人 の 共 同 訴 訟 人 の 訴 訟 における 訴 訟 物 と 他 の 共 同 訴 訟 人 の 訴 訟 における 訴 訟 物 との 間 に 同 一 性 が 認 められる したがって 共 同 訴 訟 人 の 1 人 に 対 する 判 決 の 既 判 力 が 他 の 共 同 訴 訟 人 に 拡 張 されると 既 判 力 の 抵 触 が 生 じ 得 る ただし 形 成 要 件 を 訴 訟 物 と 解 する 場 合 には 当 事 者 によって 個 別 化 されないため 既 に 共 同 訴 訟 人 の 1 人 が 形 成 訴 訟 を 提 起 していた 場 合 他 の 共 同 訴 訟 人 が 形 成 訴 訟 を 提 起 することは 前 訴 の 訴 訟 係 属 ( 民 事 訴 訟 法 261 条 )に 抵 触 するのでは ないかという 問 題 が 別 途 生 じることになる ドイツにおいても 私 法 上 の 形 成 権 と 形 成 要 件 とは 交 換 可 能 なものであるかのように 同 義 に 用 いられることが ある 113) しかしながら 形 成 要 件 は 私 法 上 の 形 成 権 を 生 じさせるものであ るとすると 形 成 要 件 の 存 否 は あくまで 私 法 上 の 形 成 権 の 前 提 問 題 にすぎな いことになり 両 者 は 本 来 厳 密 には 区 別 すべきではないかと 考 える そして より 重 要 であるのは ここでいう 形 成 要 件 の 定 義 であると 思 われるが 本 稿 で は 形 成 要 件 に 該 当 する 具 体 的 事 実 ではなく 形 成 判 決 がなされるための 構 成 要 件 をいうものと 解 することとする エ 株 式 法 の 学 説 判 例 では 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 を 私 法 上 の 形 成 権 (あ るいは 公 法 上 の 主 観 的 権 利 )とする もしくはこれらを 基 礎 とするのか また は 形 成 要 件 とするのかという 観 点 で 決 議 取 消 訴 訟 の 訴 訟 物 が 議 論 されるこ とは ほとんどないといってもよい 株 式 法 の 通 説 判 例 は 株 主 の 取 消 権 113)Vgl. so etwa A. Blomeyer, a.a.o.(fn. 30) 38Ⅲ( S. 224), 94Ⅳ1(S. 530), 89 Ⅳ(S. 498); Stein/Jonas/Roth, a.a.o.(fn. 43)vor 253 Rn. 107; MünchKomm/Gottwald 4, 322 Rn. 185f. 22
類 似 必 要 的 共 同 訴 訟 についての 一 考 察 (2) 限 (Anfechtungsbefugnis)は 取 消 権 (Anfechtungsrecht)に 基 づくものであり 取 消 権 とは 私 法 上 の 形 成 権 (Gestaltungsrecht)であると 解 している 114) た だし 取 消 権 限 の 文 脈 で 述 べられる 取 消 権 なるものの 概 念 には 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 として 論 じられる( 具 体 的 な 形 成 要 件 の 存 在 を 前 提 とする) 私 法 上 の 形 成 権 とは 違 うニュアンスのものが 入 り 込 んでいるように 思 われる つまり 取 消 権 限 の 文 脈 で 論 じられる 取 消 権 は (おそらく 具 体 的 な 形 成 要 件 の 存 在 を 前 提 としない いわば 抽 象 的 な ) 株 主 たる 地 位 から 生 じる 管 理 権 であるとも 説 明 されており 115) そのようなものにすぎないのであれば 取 消 権 限 の 文 脈 で いう 取 消 権 は 厳 密 には 訴 訟 物 で 問 題 とする 私 法 上 の 形 成 権 とは 違 うものと いえるように 思 われる 歴 史 的 には 確 かに 法 律 および 定 款 の 規 定 に 従 った 会 社 の 経 営 を 求 める 株 主 の 権 利 が 決 議 取 消 訴 訟 における 取 消 権 の 理 論 的 基 礎 となっていたことは 認 められるが 116) それと 訴 訟 物 との 関 係 は 慎 重 に 検 討 す る 必 要 があろう このことが 影 響 しているのか 否 かは 定 かではないが 訴 訟 物 での 議 論 では 取 消 権 限 を 私 法 上 の 形 成 権 であるとしていることとの 関 係 には ほとんど 触 れられていない 株 式 法 の 通 説 判 例 は 取 消 権 限 の 性 質 を 上 記 114)BGH Urt. v. 15.6.1992, NJW RR 1992, 1388, 1389; KölnKomm/Zöllner, 243 Rn. 11; Großkomm/K. Schmidt, 245 Rn. 5f.; Boujong, Rechtsmißbräuchliche Aktionärsklagen vor dem Bundesgerichtshof, in: Festschrift für Kellermann, 1991, S. 1, 10. また MünchKommAktG/Hüffer 3, 243 Rn. 3, 8, 245 Rn. 9 も 株 主 の 取 消 権 限 を 実 体 法 上 の 形 成 訴 権 (Gestaltungsklagerecht)であるとするが その 内 容 として 述 べるところは 私 法 上 の 形 成 権 であると 考 えてよいと 思 われる 115)KölnKomm/Zöllner, 243 Rn. 9; MünchKommAktG/Hüffer 3, 245 Rn. 5f. 116)Lüke, Zum zivilprozessualen Klagensystem, JuS 1969, S. 301, 306 は 1877 年 10 月 20 日 の ライヒ 上 級 商 事 裁 判 所 判 決 (ROHGE 23, 273, 275)が 会 社 とその 株 主 のために 会 社 意 思 が 法 律 および 定 款 に 従 っていることを 要 求 する 株 主 の 権 利 ( 一 般 に 法 律 違 反 または 定 款 違 反 の 決 議 に 対 する 取 消 権 (Anfechtungsrecht)と 言 われている 権 利 )が 原 則 として 存 在 すると 認 められ 得 ると 述 べており 法 律 および 定 款 の 規 定 に 従 った 会 社 の 経 営 を 求 めるこ の 株 主 の 権 利 は 今 日 における 株 主 の 取 消 権 (Anfechtungsrecht)の 本 来 の 基 礎 (eigentliche Grundlage) であるとする MünchKomm/Becker Eberhard, vor 253 Rn. 44 も 同 旨 石 井 照 久 株 主 総 会 決 議 の 瑕 疵 (1) 法 協 51 巻 1 号 (1933 年 )66 76 頁 ( 同 株 主 総 会 の 研 究 ( 有 斐 閣 1958 年 ) 所 収 ) 岩 原 前 掲 注 16)398 401 412 頁 参 照 23
論 説 ( 大 渕 ) のように 理 解 することから 取 消 権 限 を 有 する 者 であるかどうかは 前 述 のと おり 本 案 審 理 に 属 する 問 題 であると 理 解 されているが このような 解 釈 には 検 討 の 余 地 があり 現 に 取 消 権 限 を 正 当 な 原 告 として 決 議 取 消 訴 訟 を 追 行 する 権 限 として 理 解 し 取 消 権 限 の 有 無 を 訴 訟 要 件 の 問 題 とする 見 解 も 唱 えら れている 117) したがって 民 事 訴 訟 法 における 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 の 議 論 が 中 心 にならざ るを 得 ないが ドイツでの 形 成 訴 訟 の 訴 訟 物 をめぐる 議 論 状 況 を 踏 まえて Henckel の 見 解 について 検 討 を 行 う (おおぶち まきこ 筑 波 大 学 大 学 院 ビジネス 科 学 研 究 科 企 業 法 学 専 攻 教 授 ) 117)Großkomm/K. Schmidt, 245 Rn. 6f., 246 Rn. 10; K. Schmidt, Anfechtungsbefugnisse von Aufsichtsratsmitgliedern, in: Festschrift für Semler, 1993, S. 329, 332f.; Scholz/K. Schmidt, a.a.o.(fn. 65) 45 Rn 127; K. Schmidt/Lutter/M. Schwab, a.a.o.(fn. 43) 245 Rn. 2. ただし K. Schmidt, a.a.o. S. 333 は 取 消 権 限 の 性 質 をめぐるこの 争 いの 背 景 に は "Gestaltungsklagerecht" の 法 的 性 質 が 被 告 に 対 する 実 体 法 上 の 権 利 であるのか 国 家 に 対 する 公 法 上 の 主 観 的 権 利 であるのかの 争 いがあるとするが 両 者 の 議 論 はレベルを 異 にするものであり 論 理 的 に 直 結 するものではないと 解 される 24
論 説 カナダのインサイダー 取 引 規 制 (3) Ⅰ. 問 題 の 所 在 Ⅱ. 規 制 の 背 景 Ⅲ. 規 制 の 構 造 ( 以 上 筑 波 ロー ジャーナル 12 号 ) Ⅳ. 合 法 的 なインサイダー 取 引 とその 規 制 1. 序 論 2. 制 度 創 設 の 経 緯 3. 現 行 制 度 の 枠 組 み( 以 上 筑 波 ロー ジャーナル 13 号 ) 4. 制 度 の 実 効 性 に 対 する 評 価 5. 小 括 Ⅴ. 違 法 なインサイダー 取 引 1. 概 要 ( 以 上 本 号 ) 2. 証 券 法 上 の 規 制 3. 会 社 法 上 の 規 制 4. 刑 法 上 の 規 制 5. 小 括 Ⅵ.エンフォースメント Ⅶ. 結 語 木 村 真 生 子 Ⅳ. 合 法 的 なインサイダー 取 引 とその 規 制 4. 制 度 の 実 効 性 に 対 する 評 価 内 部 者 取 引 報 告 書 は 報 告 発 行 会 社 の 未 開 示 情 報 が 内 部 者 により 不 適 切 に 利 用 されていないかどうかを 事 前 に 探 知 し またその 利 用 を 防 ぐための 規 制 手 段 で あると 解 されてきた その 実 効 性 を 確 かめるために 次 のようないくつかの 実 証 研 究 がなされている ⑴ McNally と Smith による 実 証 研 究 McNally と Smith は 2003 年 に 内 部 者 取 引 報 告 書 と 実 際 の 行 われた 取 引 の 25
論 説 ( 木 村 ) 対 応 関 係 から 内 部 者 取 引 報 告 書 の 正 確 性 を 検 証 した 1) 具 体 的 には 1987 年 か ら 2000 年 に 公 表 された TSX(トロント 証 券 取 引 所 )に 提 出 された NIBCs( 株 の 買 戻 しプログラム)に 関 する 報 告 書 のデータと OSC(オンタリオ 証 券 委 員 会 ) に 提 出 された 内 部 者 取 引 報 告 書 のデータ 全 1,812 件 を 突 き 合 わせ データ 間 の 齟 齬 を 調 べている そして 調 査 の 結 果 3 分 の 2 を 超 えるデータが 一 致 せず そのうち TSX のデータが OSC のデータを 上 回 ったものの 大 半 が(1,211 件 の うち 869 件 ) OSC 側 にそもそもデータの 存 在 しない 取 引 であることが 分 かっ た つまり データの 齟 齬 は 内 部 者 取 引 報 告 書 の 提 出 義 務 が 内 部 者 によって 履 行 されていなかったことを 示 したことになる McNally らの 分 析 によれば 規 則 違 反 の 効 果 の 差 から 報 告 義 務 の 懈 怠 が 生 じ たという 2) すなわち 取 引 所 規 則 の 違 反 は 上 場 廃 止 につながるおそれがある ため 報 告 書 を 提 出 するインセンティブが 高 まるが NIBCs に 関 する 報 告 書 の 不 提 出 があっても OSC は 提 出 者 を 規 則 違 反 で 処 罰 することがない 規 制 違 反 による 不 利 益 が 小 さいことが 規 制 を 順 守 する 意 識 を 低 めたということを データからは 読 み 取 れるという もっとも 2010 年 に McNally らが 改 めて 実 施 した 内 部 者 取 引 報 告 書 の 正 確 性 と 適 時 性 に 関 する 調 査 によれば 3) 報 告 書 の 記 載 不 備 は1988 年 には40%を 超 えていたが 2006 年 では 10%を 上 回 る 程 度 にまで 激 減 したことも 分 かって いる この 減 少 は 報 告 書 の 提 出 期 限 の 短 縮 と 電 子 開 示 システム(SEDI)を 導 入 したことによる 影 響 が 大 きいとされている 4) 1) McNally, W. J. and Smith, B. F., "Do Insiders Play by the Rules?", 29 Canadian Public Policy no.2(2003), at 129 133. 2) McNally and Smith, supra note(1)at 130. 3) McNally, W. J. and Smith, B. F., The Effect of Transparency on Insider Trading Disclosure", 36 Canadian Public Policy, Number 3(September, 2010), at 345 358. SEDI と Micro media のデータベースからから 取 り 出 した1988 年 1 月 1 日 から2006 年 12 月 31 日 までの210 万 件 以 上 の 内 部 者 取 引 報 告 書 を 対 象 に 調 査 を 行 っている 4) SEDI を 通 じた 内 部 者 取 引 報 告 書 の 提 出 は 2003 年 6 月 9 日 から 行 われていることからす れば 電 子 開 示 による 報 告 書 のエラーの 減 縮 効 果 はかなり 大 きいと 推 測 できる 26
カナダのインサイダー 取 引 規 制 (3) ⑵ Tedds らによる 実 証 研 究 McNally らの 調 査 は 内 部 者 取 引 報 告 書 の 実 効 性 を NIBCs に 係 るデータの みによって 検 証 したに 過 ぎないが Tedds ら 5) はストック オプションの 付 与 に 関 する 内 部 者 取 引 報 告 書 の 実 効 性 について 検 証 を 行 うことで 内 部 者 取 引 報 告 書 の 提 出 義 務 がある 全 ての 場 合 について 提 出 懈 怠 や 提 出 不 備 等 の 同 様 の 問 題 が 起 きている 可 能 性 を 示 唆 した なお Tedds らの 研 究 は McNally らの 研 究 で 観 察 された 報 告 書 のエラーが 故 意 になされたものかどうかが 判 然 としないことに 問 題 があるとし 公 的 な 情 報 だけでなく 第 三 者 情 報 も 分 析 対 象 とすることにした 6) 具 体 的 には 内 部 者 が 個 別 に 提 供 した 情 報 を 検 証 して 報 告 書 のエラーの 理 由 を 解 明 し 内 部 者 の 開 示 に 関 するコンプライアンス 上 の 問 題 についても 検 討 を 行 った 調 査 の 結 果 内 部 者 の 大 半 が 正 確 に 内 部 者 取 引 報 告 書 を 提 出 していることが 明 らかになった しかし 一 方 で 不 開 示 開 示 遅 延 虚 偽 記 載 の 場 合 も 少 数 と はいえ 無 視 できない 数 に 上 っていた これは 最 新 の 内 部 者 取 引 報 告 書 の 規 制 にまだ 何 らかの 不 備 があることを 示 唆 した 5. 小 括 カナダでは 秘 匿 情 報 に 接 しやすい 内 部 者 の 取 引 であっても 一 定 の 条 件 の 下 では 当 該 取 引 における 利 得 が 認 めらており 7) これを 違 法 なインサイダー 取 引 と 区 別 している すなわち 制 定 法 上 のインサイダー 取 引 とは 内 部 者 が 秘 匿 情 報 を 得 てから5 日 以 内 (オンタリオ 証 券 法 では10 日 以 内 )に 電 子 開 示 シス 5) Tedds, L. M., Compton, R., Morrison, C., Nicholls, C. and Sandler, D., Leaning to Play by the Disclosure Rules: Accuracy of Insider Reports in Canada, 1996 2010", MPRA Paper No. 39793(2012). 6) 具 体 的 には 1996 年 から 2010 年 までに 委 任 状 に 記 載 された 役 員 らのストック オプショ ン 報 酬 の 情 報 を 第 二 次 情 報 として 用 い それらと 実 際 のストック オプション 付 与 のデー タとの 間 に 齟 齬 がないかを 調 べている 7) See, e.g., O.S.A. Part XXI, ss. 106 121.1; R.R.O.1990, Reg. 1015, s. 173 174. 27
論 説 ( 木 村 ) テム(SEDI)を 通 じて 内 部 者 取 引 報 告 書 を 提 出 したものに 認 められる 市 場 での 自 由 な 取 引 のことをいう そして 開 示 された 内 部 者 取 引 情 報 は 一 般 投 資 者 がインターネット 上 においていつでも 閲 覧 できるようになっており 投 資 情 報 の 指 標 の 一 つとして 機 能 している 8) これに 対 して わが 国 は 金 融 商 品 取 引 法 第 163 条 において 内 部 者 に 自 社 株 の 事 後 的 な 売 買 報 告 書 の 提 出 を 義 務 づけ ている 点 で カナダの 内 部 者 取 引 報 告 制 度 とは 異 なるものである 他 方 で カナダの 内 部 者 取 引 報 告 書 の 提 出 免 除 要 件 は 比 較 的 広 い 内 部 者 に 該 当 する 者 が 重 要 な 未 公 開 情 報 にアクセスしている 場 合 でも 現 在 内 部 者 取 引 報 告 書 の 提 出 を 義 務 づけられる 内 部 者 は 発 行 者 に 対 して 相 当 な 権 限 や 影 響 力 を 持 つ 者 に 限 られるとされている 9) なお 10 余 年 前 になされた McNally らの 実 証 研 究 では 内 部 者 取 引 報 告 書 制 度 の 実 効 性 に 対 して 疑 問 が 持 たれていたが Tedds らの 最 新 の 研 究 では 報 告 書 の 提 出 時 期 の 短 縮 化 や 電 子 化 による 報 告 手 段 の 改 善 によって 当 該 制 度 に は 一 定 の 合 理 性 があることが 明 らかになっている 内 部 者 に 報 告 書 の 作 成 義 務 を 課 すことは 内 部 者 自 身 に 違 法 なインサイダー 取 引 への 心 理 的 な 歯 止 めをか けさせる 効 果 があるものと 思 われる 10) 8) 内 部 者 取 引 の 情 報 はトロント 証 券 取 引 所 のホームページ "Insider Trade Summaries" な どでも 確 認 することができる (http://www.tmxmoney.com/tmx/httpcontroller?getpage=insidertrademarker&lang uage=en を 参 照 ) 9) 拙 稿 カナダのインサイダー 取 引 規 制 (2) 筑 波 ロー ジャーナル 13 号 18 20 頁 (2013) を 参 照 10) なお 今 後 カナダでは OSC の 保 有 情 報 と 取 引 所 の 情 報 をリンクさせること すなわち 取 引 所 TMX グループの 監 視 システムである STAMP(Security Trading Access Message Protocol)と SEDI を 連 携 させて 内 部 者 取 引 の 透 明 性 を 高 めていくことが 課 題 だと 指 摘 されている(McNally and Smith, supra note(3)at 356 357) わが 国 でも 日 本 証 券 業 協 会 が J IRISS というシステム( 平 成 21 年 5 月 より 稼 働 )を 用 いて 上 場 会 社 に 役 員 情 報 を 任 意 に 登 録 させることで 証 券 会 社 各 社 にその 有 する 顧 客 情 報 ( 役 員 情 報 )を 照 合 させることにより 顧 客 本 人 が 意 図 せずに 行 うインサイダー 取 引 を 未 然 に 防 止 することに 努 めている 28
カナダのインサイダー 取 引 規 制 (3) Ⅴ. 違 法 なインサイダー 取 引 1. 概 要 わが 国 では インサイダー 取 引 に 関 する 制 定 法 上 の 規 定 は 金 融 商 品 取 引 法 の 不 公 正 取 引 の 禁 止 に 関 する 第 6 章 ( 有 価 証 券 の 取 引 等 に 関 する 規 制 )に 収 められている これに 対 して カナダでは インサイダー 取 引 の 禁 止 規 定 は 証 券 法 の 開 示 規 制 の 中 にあり また 会 社 法 においても 規 制 される さらに 2004 年 からは 法 執 行 を 確 実 にするために 刑 法 典 にも 同 様 の 規 定 が 設 けられ ている ⑴ 証 券 法 の 規 制 枠 組 み インサイダー 取 引 の 禁 止 規 定 は 継 続 開 示 について 定 める 章 の 中 にあ り 適 時 開 示 (timely disclosure)に 係 る 規 定 を 補 完 するものとして 位 置 づけ られている 11) 例 えば オンタリオ 証 券 法 では パート 18 継 続 開 示 の 第 75 条 に 適 時 開 示 の 規 定 が 置 かれ 第 1 項 において 報 告 発 行 会 社 (reporting issuer)について 重 要 な 変 更 (material change)が 生 じた 場 合 幹 部 職 員 の 許 可 を 得 て 報 告 発 行 会 社 は 速 やかに 当 該 変 更 の 本 質 と 要 点 を 開 示 する 新 聞 報 道 を 行 い またこれを 届 け 出 なければならない こととされている 12) これを 受 けて 第 76 条 第 1 項 では 変 更 が 未 公 開 の 場 合 の 売 買 を 規 定 する すなわち 報 告 発 行 会 社 と 特 別 な 関 係 にある 者 は 当 該 報 告 発 行 会 社 に 関 す る 未 公 表 の 訴 因 となる 事 実 (material fact)または 重 大 な 変 更 を 知 った 上 で 当 該 報 告 発 行 会 社 の 証 券 を 購 入 または 売 却 してはならない こととされ 13) これ がいわゆる 違 法 なインサイダー 取 引 を 規 律 する 条 文 として 機 能 している また 同 条 第 2 項 は 訴 因 となる 事 実 等 の 違 法 な 伝 達 (Tipping) の 場 合 を 規 定 し 14) 両 規 定 によって 違 法 なインサイダー 取 引 の 中 核 的 な 部 分 が 定 められて いる 継 続 開 示 規 定 とともにインサイダー 取 引 の 禁 止 規 定 が 置 かれた 理 由 は 11) Alboini, V. P., Ontario Securities Law(Toronto: Richard De Boo Limited, 1980)at 547. 29
論 説 ( 木 村 ) おそらく 違 法 な 取 引 を 抑 止 する 観 点 からすれば 従 来 の 開 示 規 制 だけでは 不 十 分 であり 違 法 なインサイダー 取 引 を 行 った 者 から 生 じた 利 得 を 回 復 するため に より 実 効 的 な 手 続 きを 定 めなければならないとする 立 案 者 意 思 15) を 表 して いる 他 方 で 第 76 条 第 1 項 に 相 当 する 規 定 は 民 事 責 任 を 定 めるパート23 第 134 条 にも 存 在 する すなわち 第 134 条 第 1 項 は 報 告 発 行 会 社 に 関 する 未 公 開 の 訴 因 となる 事 実 又 は 重 要 な 変 更 を 知 った 上 で 報 告 発 行 会 社 の 証 券 を 売 買 し た 報 告 発 行 会 社 と 特 別 な 関 係 を 有 する 者 又 は 法 人 はいずれも 当 該 事 実 等 が 未 公 開 であることについて 取 引 者 が 善 意 の 場 合 または 取 引 相 手 方 が 悪 意 の 場 合 を 除 き 当 該 売 買 の 結 果 生 じた 損 害 について 当 該 証 券 の 売 主 又 は 買 主 に 対 して 損 害 を 賠 償 する 義 務 を 負 うとする 16) 第 134 条 はインサイダー 取 引 規 制 が 導 入 さ れる 以 前 から 証 券 法 に 存 在 する 規 定 であり 取 引 当 事 者 を 特 定 することができ る 相 対 取 引 の 場 合 の 被 害 者 救 済 を 目 的 としている 17) 12) O.S.A. Part XXI, s. 75(1). 継 続 開 示 規 定 は 中 間 及 び 年 次 報 告 書 の 提 出 を 求 める 継 続 開 示 (periodic disclosure)と 適 時 開 示 (timely disclosure)からなる オンタリオ 証 券 法 第 75 条 第 1 項 は 報 告 発 行 会 社 に 迅 速 な 公 表 を 求 める 一 方 で 同 条 第 3 項 は 重 要 な 変 更 を 公 表 することで 当 該 会 社 の 利 益 に 深 刻 な 影 響 を 生 じる 場 合 及 び 重 要 な 変 更 が 取 締 役 会 の 決 定 に 関 わると 考 えられる 場 合 又 は 当 該 変 更 が 当 該 会 社 の 証 券 等 の 売 買 と 無 関 係 である と 合 理 的 に 考 えられる 場 合 は 公 表 を 行 わず 当 局 への 速 やかな 報 告 に 代 えることができ るとする(O.S.A. Part XXI, s. 75(3); National Policy 51 201 Disclosure Standards(hereinafter referred to as the "NP51 201"),(2002)25 OSCB 4492, at 4493 4494, partⅡ, 2.2) なお 報 告 発 行 会 社 の 継 続 開 示 は 証 券 法 の 規 定 に 従 うほか 州 会 社 法 (オンタリオ 州 については Ontario Business Corporations Act[OBCA], R.S.O. 1990, s. 154) 連 邦 会 社 法 (Canada Business Corporations Act[CBCA], s. 155) 及 びカナダ 証 券 取 引 委 員 会 (CSA)の NP51 102 などでも 規 定 されている 13) O.S.A. Part XXI, s. 76(1). なお ケベック 州 以 外 のカナダ 諸 州 は オンタリオ 州 と 同 様 の 規 定 を 有 している 14) O.S.A. Part XXI, s. 76(2). 15) Report of the Attorney General Committee on Securities Legislation in Ontario(Toronto: Queen's Printer, 1965)( Kimber Report)at para.2.04. 16) O.S.A. Part XXI, s. 13481). 17) See, Alboini, supra note(11)at 553. 30