溶 接 継 手 の 特 性 予 測 新 日 本 製 鐵 株 式 会 社 鉄 鋼 研 究 所 接 合 研 究 センター 糟 谷 正
溶 接 継 手 の 特 性 予 測 新 日 鐵 糟 谷 正. 緒 言 ( 社 ) 日 本 溶 接 協 会 に 溶 接 データシステム 研 究 委 員 会 (WDS 委 員 会 )が 設 立 されたのは 1976 年 すでに8 年 前 となる 著 者 も 途 中 からではあるが 委 員 としてその 活 動 に 参 加 させてもらった ここで これまでの 活 動 を 簡 単 に 振 り 返 ってみたい WDS 委 員 会 は コンピュータを 溶 接 技 術 分 野 に 適 用 応 用 するために 設 立 されたもので 著 者 は 溶 接 継 手 特 性 の 推 定 をコンピュータで 行 うためのアルゴリズム 調 査 からスタートし た これは コンピュータを 利 用 して 溶 接 継 手 の 特 性 を 効 率 よく 推 定 しようというのが 目 的 であった 調 査 した 継 手 特 性 としては 硬 さ 割 れ 破 面 遷 移 温 度 シャルピー 吸 収 エネル ギーなどである これら 特 性 の 推 定 方 法 は いわゆる 実 験 式 の 形 をとっていて コンピュー タに 取 り 入 れるのはそれほど 難 しいことではなかった むしろ この 活 動 と 通 じて 感 じたこ とは 継 手 特 性 の 予 測 で 重 要 な 点 はコンピュータに 取 り 入 れやすい 形 になっているかどうか という 点 だけでなく その 推 定 方 法 がどれだけ 信 頼 性 があるかどうかが 重 要 である という 点 であった あたりまえのようなことであるが 継 手 特 性 の 決 定 過 程 は 複 雑 で それを 全 て 推 定 式 の 中 に 反 映 させることは 簡 単 なことではない コンピュータを 有 効 利 用 するためには 信 頼 性 のある 推 定 方 法 を 確 立 するための 地 道 な 研 究 が 必 要 なのである その 後 1995 年 の 阪 神 大 震 災 をきっかけに 日 本 溶 接 協 会 に 溶 接 部 の 性 能 評 価 法 調 査 特 別 委 員 会 が 発 足 WDS 委 員 会 の 協 力 のもと 著 者 がこの 特 別 委 員 会 の 委 員 も 兼 ねる 形 で 活 動 が 始 まった この 活 動 は 確 かに 溶 接 継 手 特 性 の 予 測 にかかわるものであったが その 手 法 はそれまでの 方 法 と 大 きく 異 なっていた それまでの 継 手 特 性 推 定 といえば 推 定 するため の 基 本 データ 例 えば 溶 接 条 件 用 いた 鋼 材 および 溶 接 材 料 に 関 する 情 報 が 充 分 あるとい う 前 提 があり 実 際 これまでの 推 定 式 もこの 前 提 のもとで 成 り 立 っている この 特 別 委 員 会 では これら 情 報 がないという 条 件 で 実 際 目 の 前 にある 継 手 に 対 してどうすればその 特 性 を 推 定 できるか ということを 扱 った もちろん そのために 必 要 な 試 験 片 採 取 (シャルピー 試 験 片 や 引 っ 張 り 試 験 片 等 )ができないという 条 件 下 での 推 定 である このため 継 手 に 大 きな 損 傷 を 与 えない 程 度 で 採 取 可 能 なデータがどれだけあるか またそれらデータと 機 械 的 特 性 が 良 い 相 関 があるかどうか などを 調 査 した この 手 法 は 厳 密 な 意 味 での 非 破 壊 方 法 ではないため セミ 非 破 壊 方 法 と 呼 んでいる WDS 委 員 会 における 著 者 の 活 動 は 大 きく 上 記 つに 分 けることができる それらはいわ ゆるコンピュータ 利 用 という 観 点 からは 若 干 ずれている 感 がないわけではないが このような 状 況 になってしまったのは 継 手 特 性 の 予 測 は 確 立 されていない 部 分 が 多 い ということが 原 因 であろう ここでは 上 記 活 動 の 成 果 を 紹 介 すると 共 に 今 後 どのような 発 展 をするのか 期 待 するところを 述 べてみたい 1. 継 手 特 性 推 定 式 溶 接 部 の 継 手 予 測 がいつから 始 まったかと 問 われれば 著 者 はまず 194 年 の Dearden &O Niell の 論 文 1)を 思 い 浮 かべる この 年 初 めて 炭 素 当 量 が 提 案 され これにより 鋼 材 成 分 が 与 えられると HAZ の 最 高 硬 さが 推 定 できるようになった このときには まだ 冷 却 時 間 が 1
考 慮 されておらず 現 在 の 推 定 式 と 比 べると 信 頼 性 は 劣 るものの それ 以 前 は 鋼 材 が 与 えら れても 硬 さ 推 定 ができなかったことを 考 えると 大 きな 進 歩 であった 特 に 炭 素 当 量 という 便 利 な 指 標 は その 後 の 推 定 式 にも 大 いに 利 用 されている 炭 素 当 量 とは 継 手 特 性 例 えば 硬 さを 各 成 分 の 冪 級 数 にしたときの1 次 の 項 と 考 えられ る 二 次 の 項 以 降 の 影 響 は 小 さいとしたとき この 特 性 は( 少 なくとも 成 分 の 影 響 に 関 しては) 炭 素 当 量 で 表 される 継 手 特 性 なるものが 鋼 材 成 分 の 影 響 を 受 ける 以 上 それは 成 分 の 関 数 と 見 なすことができ したがって 冪 級 数 に 展 開 することが 可 能 である 炭 素 当 量 で 表 される かどうかは 冪 級 数 の 二 次 項 以 降 が 大 きいか 小 さいかという 問 題 に 帰 着 される WDS 委 員 会 では 継 手 特 性 推 定 用 として 利 用 できる 式 の 調 査 を 行 ってきた その 一 部 は 平 成 3 年 の 第 回 セミナーで 発 表 されている ここで その 一 例 を 紹 介 する まず シャルピー 吸 収 エネルギーでは 佐 藤 らが 1971 年 に 以 下 の 式 を 報 告 した ) BvE = 16Ceq(BvE ) + 1.15R + 34.1 (1) Si 1n Ni Cr o Ceq( BvE) = C + + + + 17 85 36 1 17 V 1Al + + 5.1B 3 43 BvE.9Ceq(BvE ) +.87R 9.31 () 4 = 4 4 + Ceq ( BvE 4) 1Si 1n Ni Cr o = C + + 71 9 174 19 118 1V Al + + 1.7B 14 15 HvE = 115Ceq(HvE ) + 1.5R + 47. (3) 1Si 1n Ni Cr 1o Ceq( HvE) = C + + + + 51 65 35 55 6 V 1Al + +.9B 3 49 HvE.3Ceq(HvE ) + 1.14R 1.5 (4) 4 = 77 4 + Ceq HvE ( 4) Si n Ni Cr 1o = C + + + 3 1 138 8 5 1V Al + + 3.B 36 1 ここに BvE はボンドの 吸 収 エネルギー HvE は 熱 影 響 部 中 央 での 吸 収 エネルギーをさし 単 位 は kg m である 適 用 範 囲 は HT6~1 鋼 材 で R は 54 での 冷 却 時 間 [ /s]で あり かつ R の 範 囲 は.6~8.3 である 1978 年 には 川 口 らが 3) 破 面 遷 移 温 度 の 推 定 式 として vts = 645C + 115Si + 16n + 66Ni + 18Cr + 16o + 37B (5) 91N 44 を 報 告 した これは 板 厚 が 3mm で 入 熱 量 が 13kJ/cm という 条 件 での 6 キロ 鋼 材 のボン ド 部 シャルピー 試 験 結 果 を 用 いている
1974 年 には 桝 本 らが 4) R が 1 /s と /s の 場 合 における 破 面 遷 移 温 度 の 推 定 式 を 報 告 した vts1 = 3 81C + 41Si + 5n 9Cu 6Ni + 9o + V + 178Nb (6) + 113Ti + 83N vts = 16 + 17C + 4Si 7n 39Cu + Ni + 3Cr + 15o + 488V (7) + 76Nb+ 16P 桝 本 らは 上 記 式 の 推 定 誤 差 は 18 あるため 二 次 の 項 も 含 めた 式 も 報 告 している vts1 = 148 + 1138C + 9Si + n 48Cu + 8Ni + 33Cr + 39o + 5V + 1678Nb+ 885Ti + 1189N 59C n 367C Cr (8) 584C o 5Cr o + 14Cu 4Ni 187o vts = 141+ 818C + 5Si + 7n 5Cu + Ni + 115Cr + 175o + 54V + 61Nb+ 1785P 78N 99C n 64C Cr 35n Cr 5n o 59Cr o 9n Cu 16Ni 75o 16Cr (9) 上 記 式 は (6) 式 (7) 式 と 比 べ かなり 複 雑 になってはいるが 推 定 誤 差 は 15 と それほ ど 改 善 されていないようである その 原 因 として 式 で 考 慮 した 以 外 の 要 因 でミクロ 組 織 に 与 える 影 響 が 大 きい 元 素 がある などの 考 察 を 行 っている 式 (8) (9)を 除 くと 上 記 推 定 式 は 各 成 分 の 一 次 式 であるため 炭 素 当 量 を 利 用 した 推 定 式 である ということができる 次 に これまでの 推 定 式 より 形 式 が 複 雑 であるが やはり 炭 素 当 量 の 概 念 を 利 用 してい る 例 として HAZ の 最 高 硬 さ 推 定 式 を 紹 介 する 5) H = H V + H 1 V ) (1) ここに V V B ( ( t85 / t ) ( t t ) log / =. 5. 455 arctan 4 log B / ( ) H = 884C 1. 3C + 94 H = 197CE + 117 Si n Cu Ni Cr o V Nb CE II = C + + + + + + + + 4 5 1 18 5. 5 5 3 ln t = 1. 6CE 4. 8 ( ) Si n Cu Ni o Cr CE = C + + + + + + 4 6 15 1 4 B II ( 1.16 Cr ) + H 8, B. 1. 3 f N, B =. H =. 6 f N, B =. 3. 9 f N, B. 4 f N =. N. 3
( t ) ln = 6. CE + 87. B B n Cu Ni Cr o CE B = C + + + + + 3.6 9 5 4 式 (1)を 計 算 するために それ 以 降 の 各 パラメーターを 計 算 する 必 要 があるが それぞれのパ ラメーター( t など)には 炭 素 当 量 の 概 念 が 利 用 されている 最 高 硬 さ 推 定 式 は これ 以 外 のも 多 くの 研 究 報 告 があるが ここでの 紹 介 は 省 略 させてもらい 参 考 文 献 に 載 せる 程 度 にとどめたい 9-11) WDS 委 員 会 活 動 で 扱 った 継 手 特 性 予 測 方 法 として 最 後 に 紹 介 するのは 溶 接 低 温 割 れ す なわち 割 れ 防 止 予 熱 温 度 の 推 定 である まず 伊 藤 らの 有 名 な 式 6)を 紹 介 する T 144P 39 (11) = W P H = Pcm + 6 JIS W + h 6 Si n + Cu + Cr Ni o V Pcm = C + + + + + + 5B 3 6 15 5 (11) 式 は y 形 溶 接 割 れ 試 験 における 限 界 予 熱 温 度 を 推 定 する 式 で H JIS はグリセリン 法 で 測 定 した 拡 散 性 水 素 量 h は 板 厚 である この 式 の 特 徴 は n 等 の 合 金 元 素 の 係 数 が 小 さい 炭 素 当 量 Pcm を 用 いていて( 本 来 は この 式 により Pcm が 定 義 された) 水 素 量 の 影 響 が 線 形 である などがある 水 素 量 の 影 響 が 線 形 か 対 数 的 か 鋼 材 組 成 の 影 響 が Pcm で 表 現 すべ きか CE(IIW)で 表 現 すべきか などの 割 れ 感 受 性 の 議 論 がこれまで 行 われてきた なお 著 者 が 現 在 最 も 精 度 がよいと 考 えている 方 法 は 以 下 の CEN チャート 方 式 7)である これは 炭 素 当 量 として CEN を 採 用 しているが これは 高 炭 素 領 域 で IIW の 炭 素 当 量 に 低 炭 素 領 域 で Pcm になるような 関 数 を 採 用 している また 限 界 予 熱 温 度 は 式 化 されてい るわけではなく グラフを 用 いて 決 定 するようになっている Si n Cu Ni Cr + o + V + Nb CEN = C + A( C) + + + + + 5B (1) 4 6 15 5 A ( C) =.75 +.5 tanh C.1 { ( )} n Cu + Ni Cr + o + V CE( IIW ) = C + + + (13) 6 15 5 図.1 は 基 本 的 なグラフで 板 厚 毎 に CEN と 割 れ 防 止 予 熱 温 度 の 関 係 を 示 したグラフで ある 板 厚 毎 に 関 係 を 決 定 しているのは (11) 式 中 Pw の 第 3 項 に 対 応 する すなわち 拘 束 度 の 影 響 を 考 慮 してのことである 図. は 実 際 の 水 素 量 が 図.1 における 水 素 量 5ml/ 1g からずれたときの 影 響 図.3 は 入 熱 量 が 1.7kJ/mm からずれたときの 影 響 を CEN の 増 減 に 換 算 したものである 図. 図.3 の CEN 増 減 を 鋼 材 組 成 から 計 算 される CEN に 加 えたものを 用 いて 図.1 を 利 用 すればよい これまで 紹 介 した 推 定 は 研 究 の 歴 史 が 古 く 限 界 予 熱 温 度 ( ) 5 H GC =5mml/1g 入 熱 量 =1.7kJ/mm T =1 15 1 5 75 75 6 5 4 3 5 15 板 厚 (mm) 1..3.4.5.6 CEN (%) 図.1 CEN と 割 れ 防 止 限 界 予 熱 温 度 4
最 新 の 推 定 方 法 も 過 去 の 研 究 者 が 得 た 知 見 の. 上 に 成 り 立 っていると 言 っても 過 言 ではない このことを 硬 さ 推 定 式 の 歴 史 で 見 てみよう.1 既 に 述 べたが Dearden&O Niell の 論 文 では 硬 さは 炭 素 当 量 で 表 現 されるのみで 冷 却 時 間 等 溶 接 条 件 の 影 響 は 考 慮 されていない しかし 現 在 の 硬 さ 推 定 式 でも 例 えばベイナイト1 -.1 % 組 織 の 硬 さは 成 分 の 一 次 関 数 で 与 えてい る そういう 意 味 では Dearden&O Niell の 考 -. 1 5 1 5 1 えを 利 用 しているといえる 冷 却 時 間 が 影 響 す 拡 散 性 水 素 量 (ガスクロ 法 ) (ml/1g) るのは ミクロ 組 織 率 が 影 響 され 結 果 として 硬 さも 冷 却 時 間 に 影 響 するためである 図. 水 素 量 とΔCEN の 関 係 ミクロ 組 織 率 を 決 めるのに 重 要 な1% マルテンサイトが 得 られる 限 界 冷 却 時 間.1 ( t : 鋼 材 組 成 の 関 数 冷 却 速 度 を 用 いる 場 CE(IIW)=.6 合 もある)という 概 念 は 197 年 の Bastien.5 CE(IIW)=.55 らの 論 文 8)で 発 表 された この 論 文 では 硬 さ CE(IIW)=.5 推 定 を 行 うまでには 至 っていない -.5 一 方 1973 年 に Beckert らが t 8/ 5 (8 から 5 までの 冷 却 時 間 )を 用 いた 硬 さ 推 定 -.1 CE(IIW)=.45 式 を 発 表 した 9) このとき 初 めて 溶 接 条 件 の -.15 CE(IIW)=.4 CE(IIW)=.35 影 響 が 推 定 式 に 反 映 されることとなった しか CE(IIW)=.3 -. 1 3 4 5 し Beckert らの 推 定 式 は Bastien らの 概 念 入 熱 量 (kj/mm) が 反 映 されていない すなわち Beckert らの 式 では1%マルテンサイトを 得 るために 図.3 入 熱 量 とΔCEN の 関 係 は t 8/ 5 = でなければならず でない 有 限 の 値 で1%マルテンサイトになることはない ただ 溶 接 条 件 の 影 響 を t 8/ 5 におきかえ 推 定 式 に 取 り 込 んだのは 大 きな 進 歩 であった その 後 Blondeau ら 1) は t 以 外 の 1 %フェライト-パーライト 限 界 冷 却 時 間 などの 推 定 式 を 提 案 している このような 知 見 を 取 り 入 れた 推 定 式 は 1979 年 Arata らによって 発 表 された 11) この 推 定 式 では 溶 接 条 件 の 影 響 は t 8/ 5 で 考 慮 し かつ 限 界 冷 却 時 間 t も 式 中 に 考 慮 されてい る( t 以 下 の t 8/ 5 の 場 合 マルテンサイト1%になるため 同 じ 硬 さとなる) ここま でくるのに 194 年 の Dearden&O Niell の 論 文 から 約 4 年 もの 歳 月 が 必 要 であった 実 用 的 な 推 定 式 はそれ 以 降 の 198 年 代 に 発 表 され 現 在 に 至 っている このように 推 定 式 と 一 口 に 言 っても 多 くの 研 究 者 の 成 果 が 背 景 にある そして それ ぞれの 推 定 式 はコンピュータに 取 り 入 れやすい 形 にはなっていた ただ プログラム 化 され 積 極 的 に 利 用 されてきたのは 198 年 代 以 降 ではなかろうか これは コンピュータ 技 術 の 進 歩 というよりも 198 年 代 以 降 に 実 用 的 推 定 式 が 発 表 されたため というのが 本 当 のことで あろう コンピュータの 有 効 利 用 には まず 信 頼 性 のある 推 定 式 の 確 立 が 必 要 と 著 者 が 感 じ たのは このような 文 献 調 査 結 果 から 来 たものである ΔCEN (%) ΔCEN (%) 5
. 継 手 特 性 のセミ 非 破 壊 検 査 方 法 これまでの 推 定 式 は ここに 示 した 方 法 以 外 のものも 推 定 に 必 要 な 情 報 がある という 前 提 に 立 っている しかしながら 溶 接 継 手 特 性 を 推 定 したい と 考 える 場 合 必 ずしもこ のような 事 前 情 報 が 充 分 そろっているという 保 障 はない 継 手 特 性 を 推 定 するための 情 報 が ない 場 合 推 定 可 能 なのか という 指 摘 は 充 分 ありえる しかし 例 えば 目 の 前 に 溶 接 条 件 鋼 材 溶 接 材 料 が 不 明 な 溶 接 継 手 があり その 特 性 を 知 りたい という 場 合 はどうなるであ ろうか しかも 試 験 片 採 取 ができない という 場 合 である 問 題 となる 継 手 が 実 構 造 物 の 場 合 は このような 状 況 は 充 分 ありえるであろう このような 要 求 は 著 者 の 経 験 では 16 1995 年 の 阪 神 大 震 災 以 降 顕 著 になっ 14 Experiments.5kJ/mm てきたように 思 える 実 際 その 後 Calculations 1 溶 接 協 会 に 特 別 委 員 会 が 発 足 し 実 継 1 手 の 機 械 的 特 性 の 推 定 方 法 を 検 討 して 8 きた この 方 法 は 継 手 に 有 害 な 傷 を 6 つけない 程 度 の 範 囲 でデータを 採 取 し 4 それをもとに 継 手 特 性 を 推 定 しようと いうものである veやtsのデータ を 直 接 採 取 するわけではないが 採 取 4 6 8 可 能 な 間 接 データを 用 いて 推 定 する 方 Time (s) 法 であり しかも 厳 密 には 非 破 壊 方 図 3.1 連 続 往 復 溶 接 時 の 温 度 曲 線 法 というわけではないため セミ 非 破 壊 方 法 と 呼 び 広 い 意 味 での 継 手 特 性 推 定 の 一 種 として 扱 ってきた この 特 別 委 員 会 が 設 立 された 背 景 としては 阪 神 大 震 災 以 降 建 築 鉄 骨 の 柱 梁 溶 接 部 の 機 械 的 特 性 が 注 目 されるようになったことが 挙 げられる この 溶 接 部 は 溶 接 熱 伝 導 的 な 観 点 から 他 の 継 手 とは 異 なる 状 況 下 にある それは 溶 接 ビードが 短 く かつ 連 続 往 復 溶 接 される という 点 が 挙 げられる このため 入 熱 量 は 通 常 のレベルであってもパス 間 温 度 が 非 常 に 高 くなり 熱 影 響 という 意 味 では 入 熱 量 以 上 の 影 響 がある 図 3.1 は 入 熱 量.5kJ/mm で 連 続 往 復 溶 接 した 場 合 の 溶 接 部 温 度 曲 線 の 一 例 である 1) 図 から 最 終 溶 接 終 了 後 の t 8/ 5 は 約 15 秒 であることがわかる もし t 8/ 5 を 一 パス 溶 接 で 15 秒 にするとすれば 入 熱 量 を 15kJ/mm にしなければならない すなわち t 8/ 5 をパラ メーターとすると 入 熱 量 が 大 幅 に 増 加 した 場 合 と 同 じ 影 響 を 受 けると 考 えなければならな い つまり 継 手 特 性 という 観 点 からはきわめて 厳 しい 条 件 下 での 施 工 ということができる 熱 影 響 のがどの 程 度 かを 見 るには 断 面 マクロ 観 察 すればいいが 図 3. はその 一 例 であ る 右 は 連 続 往 復 溶 接 左 はパス 間 温 度 を 管 理 した 溶 接 を 施 工 した 場 合 の 写 真 で 入 熱 量 が 同 じでもマクロ 形 状 は 大 きく 異 なる 右 のマクロのほうが 熱 影 響 度 が 大 きいことが 理 解 できる また 同 一 材 料 を 用 いたとしても 継 手 特 性 は 大 きく 異 なるであろうことは 容 易 に 想 像 できることである すなわち 同 一 入 熱 量 同 一 材 料 でも 継 手 特 性 が 異 なる 可 能 性 が 出 てくるわけである 特 別 委 員 会 が 設 立 されたのは このような 背 景 による Temperature ( ) 6
図 3. 連 続 往 復 溶 接 とパス 間 温 度 管 理 溶 接 の 断 面 マクロ 特 別 委 員 会 でまず 実 施 したのは 文 献 調 査 であった これは どのような 技 術 が 現 状 存 在 して セミ 非 破 壊 的 に 採 取 可 能 なデータは 何 か を 調 べるだけでなく 継 手 特 性 推 定 に 必 要 な 最 低 限 のデータは 何 か を 調 べるためである 例 えば シャルピー 吸 収 エネルギー(vE)を 推 定 し ようとする 場 合 (1) 式 や(3) 式 などを 考 えると 鋼 材 組 成 と 冷 却 速 度 (あるいは 冷 却 時 間 )が 必 要 となる 鋼 材 組 成 は 非 破 壊 的 にデータ 採 取 できることがわかったが 冷 却 速 度 はデータ 採 取 が 不 可 能 である そこで 考 えたのが 硬 さであった (1) 式 によると 硬 さは 鋼 材 組 成 と 冷 却 時 間 の 関 数 であるため 逆 に 硬 さと 組 成 を 決 めれば 冷 却 時 間 も 決 まるはずと 考 えた しかし (1) 式 を 用 いて 硬 さ 組 成 から t 8/ 5 を 逆 算 することはせずに 組 成 硬 さを 入 力 データとしたと きの ve との 関 係 を 調 べ 実 験 式 化 することにした 入 力 データが 組 成 と 硬 さでも その 背 景 として(1) 式 や(3) 式 のような 冷 却 時 間 ( 速 度 )を 考 えている 溶 接 部 の 硬 さは 表 面 に 衝 撃 を 与 える 形 で 簡 易 的 に 測 定 できるので この 方 法 は 採 用 可 能 と 判 断 した さらに 継 手 表 面 を 研 磨 してミクロ 組 織 観 察 もセミ 非 破 壊 的 に 測 定 できるので このデータも 推 定 に 用 いることと した ミクロ 組 織 を 入 力 データにすることで 測 定 精 度 の 向 上 を 期 待 した 次 に 推 定 式 を 作 成 するために 特 別 委 員 会 では 入 熱 量 パス 間 温 度 を 変 化 させた 溶 接 継 手 を 作 製 し 蒸 気 データを 採 取 および 溶 接 金 属 引 っ 張 り 強 度 シャルピー 衝 撃 試 験 を 実 施 した そして 引 張 り 衝 撃 試 験 結 果 と 組 成 硬 さ ミクロ 組 織 率 の 関 係 を 調 べた 13) まず 引 張 り 強 度 であるが これは 硬 さ 測 定 結 果 との 相 関 を 調 べた 文 献 などにある 硬 さと 引 張 り 強 度 が 良 い 相 関 があるという 知 見 を 利 用 したものである その 結 果 TS =.6Hv + 177 (14) を 得 た( 相 関 係 数 =.95) 図 3.3 は 硬 さと 継 手 引 張 り 強 度 の 関 係 である 一 般 に ビッカ ース 硬 さを3 倍 すると(kg/mm の 単 位 では3で 割 る) 大 体 引 張 り 強 度 になるのがこれまで の 知 見 であるが(14) 式 はそうなっていない これは 引 張 り 試 験 片 が 溶 接 ままや 再 熱 部 な どが 混 在 し それらの 平 均 として 引 張 り 強 さが 決 まるのに 対 し 硬 さデータは 表 面 からのみ の 採 取 に 限 定 されているためと 考 えられる 次 に シャルピー 吸 収 エネルギーであるが (1) 式 (3) 式 からすると 冷 却 時 間 と 組 成 だけでよいことになるが 特 別 委 員 会 でさらに 文 献 調 査 を 進 めると ミクロ 組 織 や 引 張 り 強 度 もパラメーターにしている 論 文 もあることがわかった 強 度 については 硬 さで 代 用 できる と 考 え 最 終 的 に 組 成 硬 さ ミクロ 組 織 の3パラメーターを 検 討 した その 結 果 以 下 の3 式 をパラメーターとした P = 7.94 17 AF (15) 1 + 7
P = 16 + 57.9AF +. 855Hv (16) P = 191+ 44.AF +.934Hv + 9.C 169Si (17) 3 + ここに AF はアシキュラーフェライト 率 である ミクロ 組 織 率 としては その 他 の 組 織 も 分 類 し 回 帰 分 析 を 行 ったが それほど 相 関 の 向 上 は 見 られなかったので この 組 織 のみパ ラメーターとして 採 用 した 7 溶 接 金 属 強 度 (Pa) 65 6 55 5 45 Unit slope シャルヒ ー 吸 収 エネルキ ー(J) 16 1 8 4 Unit slope 4 15 15 175 5 5 75 表 面 ビッカ-ス 硬 さ 4 8 1 16 P1 図 3.3 表 面 硬 さと 溶 接 金 属 強 度 の 関 係 図 3.4 P1 と シャルピー 吸 収 エネルギー シャルヒ ー 吸 収 エネルキ ー(J) 16 1 8 4 Unit slope シャルヒ ー 吸 収 エネルキ ー(J) 16 1 8 4 Unit slope 4 8 1 16 P 図 3.5 P と シャルピー 吸 収 エネルギー 4 8 1 16 P3 図 3.6 P3 と シャルピー 吸 収 エネルギー 図 3.4 3.5 3.6 は (15)~(17) 式 の 値 と シャルピー 吸 収 エネルギーとの 関 係 である そ れぞれの 相 関 係 数 は.71.8.86 であった 以 上 のような 検 討 を 重 ね 引 張 り 強 度 シャルピー 値 がある 程 度 の 精 度 で 推 定 できる ことを 示 した この 方 法 は 適 用 できるのは 鋼 材 溶 接 材 料 が4~49Pa 級 に 限 8
られる しかし 本 方 法 では パス 間 温 度 が45 以 下 に 管 理 されていたかどうかの 判 別 も 可 能 となり それなりの 意 義 がある 知 見 と 考 えられる 3. 今 後 への 期 待 これまで 継 手 特 性 の 推 定 といえば 硬 さやシャルピー 値 など 溶 接 冶 金 的 側 面 をさして いる 場 合 が 多 かった しかし 著 者 は 溶 接 現 象 という 意 味 では アーク 現 象 継 手 の 冶 金 特 性 ( 相 変 態 ミクロ 組 織 etc) 継 手 全 体 としての 特 性 ( 残 留 応 力 溶 接 変 形 等 を 含 む) という 流 れがあり そのうちの 一 面 を 取 り 上 げていた という 感 覚 を 持 っている これは 溶 接 現 象 の 複 雑 さを 考 えるとしかたがない 面 があった そのため 今 後 の 方 向 としては こ れら 現 象 を 1 つのシステムに 統 合 されていくことが 考 えられる 統 合 する 場 合 単 にシステ ムが 使 いやすくなる 以 上 の 効 果 を 期 待 したい 例 えば 溶 接 変 形 に 関 しては これまで 鋼 材 溶 接 材 料 の 特 性 を 利 用 した 変 形 低 減 が 試 みら れてきた 例 は 少 ない これは 溶 接 変 形 低 減 が 鋼 材 溶 接 材 料 以 上 に 溶 接 方 法 溶 接 順 序 溶 接 構 造 などの 影 響 の 方 が 大 きい というのが 主 な 理 由 であろう しかし それ 以 外 にも ア ーク 現 象 から 冶 金 現 象 を 経 由 した 最 終 的 な 継 手 の 力 学 特 性 までの 溶 接 現 象 そのものを 一 人 の 専 門 家 が 理 解 することの 難 しさも 一 つの 理 由 であろう 著 者 は 溶 接 変 形 低 減 の 試 みとして 鋼 材 溶 接 材 料 の 特 性 をコントロールする 方 法 を 以 前 提 案 した 14) が 上 記 のような 一 連 の 溶 接 現 象 を 理 解 しきった 上 での 提 案 ではなく まだまだ 気 がつかない 方 法 があるかもしれない このような 場 合 の 事 前 検 討 には システム 統 合 はきわ めて 有 用 である 溶 接 変 形 以 外 では 溶 接 金 属 の 変 態 膨 張 を 利 用 して 溶 接 部 に 圧 縮 残 留 応 力 を 導 入 することで 疲 労 強 度 を 向 上 させる 技 術 があるが 15) このような 場 合 でも システムが 統 合 されていれば 評 価 検 討 もしやすいはずである 4. おわりに コンピュータを 溶 接 技 術 に 積 極 的 に 利 用 しようという 趣 旨 で 設 立 された 溶 接 データシステ ム 研 究 委 員 会 活 動 も8 年 を 超 え 著 者 も 長 らくこの 活 動 の 参 加 させていただいた この 活 動 を 通 して 学 んだことは 溶 接 という 複 雑 な 現 象 を 解 析 するためのコンピュータ 技 術 の 利 用 とい う 方 向 性 は 間 違 いがないものの それを 有 効 利 用 するためにはより 基 礎 的 理 解 を 深 める 必 要 が ある という 点 である 将 来 の 溶 接 技 術 を 考 えるとき コンピュータ 利 用 は 避 けて 通 れない 著 者 としては そのと き 溶 接 現 象 の 理 解 不 足 のためにせっかくのコンピュータ 技 術 が 生 かしきれていない と 言 われ ないよう 努 力 する 必 要 がある と 思 いを 新 たにする 次 第 である 参 考 文 献 1) J.Dearden and H.O Neill: Trans. Inst. Weld., Vol.3(194),p3. ) 佐 藤 他 ; 溶 接 学 会 誌 Vol.4(1971) p619. 3) 川 口 他 ; 溶 接 学 会 誌 Vol.47(1978) p173. 4) 桝 本 他 ; 溶 接 学 会 講 演 概 要 集 Vol.15(1974) p84. 9
5) N.Yurioka et al; etal Constr., Vol.19(1987),p17R. 6) 伊 藤 別 所 ; 溶 接 学 会 誌 Vol.37(1968) p983. 7) N.Yurioka and T.Kasuya; 溶 接 学 会 論 文 集 Vol.13(1995) p347. 8) P.G.Bastien et al; etal Constr. And British Weld. J., 197, p9. 9).Beckert and R.Holz; Schweibtechnik, Vol.3(1973), p344. 1) R.Blondeau et al; Heat Treatment, 76, etal Soc. London(1976), p189. 11) Y.Arata et al; Trans. of JWRI, Vol.8(1979), p43. 1) T.Kasuya et al; Sci. Tech. Weld. Joining, Vol.5(), p15. 13) 糟 谷 他 ; 鋼 構 造 論 文 集 Vol.7() p9. 14) 糟 谷 ;( 財 ) 溶 接 接 合 工 学 振 興 会 第 14 回 セミナー 資 料 3 東 京. 15) 平 成 15 年 度 溶 接 学 会 春 季 全 国 大 会 フォーラム 疲 労 強 度 改 善 スマートマテリアル 低 変 態 温 度 溶 接 材 料 の 効 果 と 適 用 性 3 東 京. 1