2002.8 キャッシュバランス 型 年 金 制 度 の 導 入 と 資 産 運 用 上 の 課 題 1 年 金 研 究 センター 主 任 研 究 員 藤 林 宏 1. キャッシュバランス 型 年 金 とは 確 定 給 付 企 業 年 金 法 が 2002 年 4 月 より 施 行 され ました 同 法 の 施 行 によって 従 来 は 導 入 が 不 可 能 と 見 られていたキャッシュバランス 型 年 金 の 導 入 が 正 式 に 認 められることになりました キャッシュバランス 型 年 金 は ハイブリッド 型 年 金 の 一 種 です ハイブリッド 型 年 金 というのは 確 定 給 付 型 年 金 と 確 定 拠 出 型 年 金 の 双 方 の 特 性 を 有 する 年 金 制 度 で 米 国 ではキャッシュバランス 型 年 金 の 他 ターゲット ベネフィット プランやフロ ア オフセット プラン 等 の 幾 つかの 類 型 がありま す キャッシュバランス 型 年 金 制 度 は その 中 でも 確 定 給 付 的 な 色 彩 の 強 い 制 度 といえ 米 国 の 大 手 企 業 を 中 心 に 近 年 導 入 する 企 業 が 増 加 傾 向 に あるため 注 目 を 集 めています キャッシュバランス 型 年 金 は 各 加 入 者 毎 にそ れぞれの 勤 続 年 数 等 に 応 じて 一 定 の 金 額 ( 拠 出 付 与 額 )を 仮 想 的 に 積 立 てていき その 積 立 残 高 に 対 して 一 定 の 利 率 を 基 準 金 利 ( 利 息 付 与 額 )とし て 付 利 していくことによって 各 加 入 者 の 給 付 額 を 算 定 する 制 度 です その 際 基 準 金 利 については その 時 点 における 金 利 情 勢 等 を 反 映 した 国 債 利 率 等 に 基 づいて 決 定 されます このようなキャッシュバランス 型 年 金 は 既 存 の 確 定 給 付 型 年 金 や 確 定 拠 出 型 年 金 と 比 べて ど 1 2002 のような 点 で 類 似 し どのような 点 で 異 なっている のでしょうか キャッシュバランス 型 年 金 の 場 合 各 人 毎 の 給 付 額 が 個 別 管 理 されており かつ 基 準 金 利 に 一 定 の 経 済 状 況 を 反 映 させることができ る 点 では 一 見 確 定 拠 出 型 年 金 のような 体 裁 を 有 しています しかし 将 来 の 給 付 額 を 予 め 決 め られた 方 法 で 算 定 し それに 向 けた 掛 金 拠 出 と 運 用 を 行 っていくという 意 味 において 本 質 的 には 確 定 給 付 型 年 金 制 度 といえます ただし 通 常 の 確 定 給 付 型 年 金 制 度 では 将 来 の 給 付 額 は 固 定 されており その 水 準 の 変 更 が 最 初 から 予 定 されていることはないのが 普 通 ですが キャッシュバランス 型 年 金 の 場 合 は 基 準 金 利 の 変 動 を 通 して いわば 自 動 的 に 給 付 水 準 の 調 整 が 図 られるメカニズムが 組 み 込 まれている 点 が 従 来 の 確 定 給 付 型 年 金 制 度 にない 大 きな 特 徴 という ことができましょう しかしながら 将 来 時 点 に 一 定 の 方 法 に 基 づく 給 付 を 約 束 してその 給 付 債 務 に 対 して 事 前 積 立 を 行 うという 確 定 給 付 型 年 金 の 本 質 は 何 ら 変 わりませんので 事 前 積 立 の 前 提 とな る 目 標 収 益 率 として 年 金 財 政 上 の 予 定 利 率 を 念 頭 に 置 く 必 要 があります (ただし 予 定 利 率 と 基 準 金 利 とは 必 ずしも 一 致 しません ) キャッシュバランス 型 のもう 一 つの 特 徴 は 勤 続 年 数 に 応 じた 給 付 設 計 について 従 来 の 確 定 給 付 型 年 金 のように 勤 続 期 間 に 応 じて 大 きな 格 差 を 付 けにくいという 性 質 を 有 している 点 です たと えば 従 来 の 確 定 給 付 型 年 金 の 典 型 的 な 例 として 1
図 1 キャッシュバランス 型 年 金 と 確 定 給 付 型 年 金 図 2 年 金 債 務 と 割 引 率 の 関 係 年 金 債 務 年 金 債 務 の 増 加 金 利 の 低 下 金 利 ( 割 引 率 ) 最 終 給 与 比 例 方 式 が 一 般 に 普 及 していますが こ の 場 合 長 期 勤 続 のインセンティブを 付 与 するた めに 給 付 カーブが 図 1のように S 字 型 をとる 場 合 が 少 なくありません これに 対 して キャッシュ バ ランス 型 年 金 の 場 合 は 拠 出 付 与 額 の 設 計 の 仕 方 によって 調 整 できる 余 地 はあるものの 基 本 的 に は 拠 出 付 与 額 と 利 息 付 与 額 ( 基 準 金 利 )の 元 利 合 計 方 式 で 給 付 額 が 算 定 されるため 給 付 カーブは 図 1に 示 されるようによりなだらかなものになります その 結 果 定 年 時 における 最 終 的 な 給 付 水 準 に ついては 同 じ 水 準 でも それ 以 前 の 年 齢 層 につ いては 若 干 の 得 失 が 発 生 します ( 大 手 米 社 に おけるキャッシュバランス 型 年 金 制 度 の 導 入 に 際 し 一 部 の 中 高 年 社 員 が 導 入 に 反 対 した 背 景 もこ の 点 にあります ) しかしながら 一 方 でキャッシュバランス 型 年 金 制 度 の 導 入 が 拡 大 してきた 背 景 には 各 加 入 者 の 持 ち 分 が 明 確 に 把 握 できるという 制 度 の 明 瞭 性 と 後 述 するような 金 利 変 動 に 対 する 年 金 債 務 のリス ク 軽 減 効 果 があるものと 見 られます したがって 今 後 わが 国 の 企 業 年 金 制 度 においても 有 力 な 選 択 肢 の 一 つという 位 置 付 けを 占 めると 見 てよい でしょう 2. キャッシュバランス 型 年 金 の 運 用 (1) 年 金 債 務 の 特 性 キャッシュバランス 型 年 金 の 場 合 上 述 したよう に 給 付 額 が 将 来 の 金 利 情 勢 によって 変 動 します つまり 将 来 の 金 利 が 上 昇 ( 低 下 )すると 基 準 金 利 の 変 動 を 通 じて 給 付 水 準 が 増 加 ( 減 少 )すること になります 確 定 給 付 型 年 金 の 場 合 は 将 来 の 金 利 水 準 に 関 わりなく 一 定 の 給 付 を 約 束 しているの で キャッシュバランス 型 年 金 の 方 が 将 来 の 給 付 額 の 不 確 実 性 は 高 いといえましょう ところで 年 金 債 務 を 認 識 する 場 合 将 来 の 給 付 額 を 現 在 価 値 に 割 り 引 くというプロセスが 存 在 し ます 一 般 に 確 定 給 付 型 年 金 の 場 合 割 引 率 と して 使 用 される 金 利 の 水 準 によって 年 金 債 務 の 評 価 額 は 大 きく 変 動 します すなわち 図 2に 示 す ように 割 引 率 が 低 下 ( 上 昇 )すると 年 金 債 務 額 が 増 加 ( 減 少 )するという 関 係 が 成 立 します そし て 割 引 率 に 対 する 感 応 度 は 債 務 のデュレーシ ョンが 長 いほど 高 くなる 傾 向 にあります 2 わが 国 の 企 業 年 金 制 度 における 年 金 債 務 のデュレーション は 通 常 10 年 以 上 の 長 期 にわたると 推 定 されるこ とから ( 確 定 給 付 型 年 金 における) 年 金 債 務 の 金 利 変 動 リスクは 非 常 に 高 いものと 考 えられます (2) 金 利 変 動 リスクと 年 金 財 政 ところが キャッシュバランス 型 年 金 を 導 入 した 場 合 金 利 変 動 に 起 因 する 効 果 は 1 基 準 金 利 の 変 動 を 通 じて 将 来 の 給 付 水 準 に 与 える 効 果 と 2 割 引 率 の 変 動 を 通 じて 年 金 債 務 の 評 価 額 に 与 2 この 議 論 については 住 信 年 金 ジャーナル: 年 金 研 究 セ ンターシリーズ 第 1 号 (2001.5) 所 収 の 研 究 ノート バラン スシート 型 ALM モデルによるアセット ミックス 策 定 につい て および 住 信 年 金 ジャーナル: 年 金 研 究 センターシリー ズ 第 2 号 (2002.6) 所 収 の 時 事 トピック 退 職 給 付 会 計 にお ける 割 引 評 価 をご 参 照 ください なお 本 稿 の 議 論 におい ては 割 引 率 として 債 務 評 価 時 点 における 長 期 金 利 ( 国 債 利 回 り 等 )を 想 定 しています 2
図 3 年 金 債 務 の 変 動 リスクの 比 較 水 準 における 実 効 デュレーションを 推 計 すると 約 160 140 120 149 133 128 129 111 124 3.6 年 となり 4 確 定 給 付 の 場 合 のデュレーションで ある15 年 を 大 幅 に 下 回 ります 100 80 以 上 の 結 果 から 明 らかなように キャッシュバラ 60 40 20 0 2% 3% 4% ンス 型 年 金 の 場 合 の 方 が 金 利 の 変 動 に 伴 う 債 務 の 変 動 がかなり 小 さくなるのがわかります すなわ 確 定 給 付 型 年 金 キャッシュバランス 型 年 金 ち 金 利 変 動 による 年 金 債 務 変 動 リスクが 確 定 給 える 効 果 の2 種 類 があることになります そして こ れらの 効 果 は 互 いに 相 殺 する 方 向 に 働 きますの で 結 局 キャッシュバランス 型 年 金 では 金 利 に 伴 う 債 務 変 動 リスクが 小 さくなるものと 推 定 されま す たとえば 金 利 が 上 昇 すると 将 来 の 給 付 水 準 が 上 昇 するので 債 務 増 加 要 因 となりますが 一 方 で 割 引 率 の 上 昇 を 通 じて 債 務 評 価 額 の 減 少 要 因 が 働 くことになります 言 い 換 えるならば キ ャッシュバランス 型 年 金 の 場 合 年 金 債 務 の 実 効 デュレーションが 確 定 給 付 型 年 金 の 場 合 に 比 べて 短 期 化 されるということです この 関 係 を 簡 単 な 数 値 例 で 示 すことが 可 能 です まず 比 較 のため 15 年 後 に 発 生 する200 単 位 の 確 定 給 付 を それぞれ2% 3% 4%の3 通 りの 割 引 率 で 評 価 した 結 果 が 図 3の 左 側 のグラフです デュレーションが15 年 と 長 いため 割 引 率 の 変 動 に 対 して 年 金 債 務 がかなり 大 きく 変 化 するのがわ かります 次 に キャッシュバランス 型 年 金 の 単 純 な 例 とし て 初 期 残 高 を62として 毎 年 5.5 単 位 ずつ 拠 出 付 与 額 を 積 み 立 てていき 15 年 後 に 給 付 が 発 生 する 場 合 を 想 定 します また 基 準 金 利 と 割 引 率 は 同 一 として それぞれ2% 3% 4%の3 通 りとします 3 付 型 年 金 よりも 小 さくなるという 性 質 を 持 っていると いうことです 3. 運 用 方 針 とアセット アロケーション 策 定 以 上 のようなキャッシュバランス 型 年 金 における 年 金 債 務 の 性 質 を 踏 まえた 場 合 年 金 運 用 政 策 と してはどのような 方 向 性 が 望 ましいのでしょうか ここでは 年 金 債 務 の 変 動 を 考 慮 に 入 れた 資 産 配 分 戦 略 である サープラス フレームワーク を 利 用 して キャッシュバランス 型 年 金 におけるアセッ ト アロケーションを 検 討 してみます 5 まず 金 利 変 動 に 対 する 年 金 債 務 のリスク 特 性 を 把 握 する 必 要 があります ここでは 先 に 示 した 数 値 例 に 基 づいて 当 該 キャッシュバランス 制 度 の 実 効 デュレーションを3.5 年 とします 6 期 待 収 益 率 (サープラスのリターン) 図 4 サープラス フレームワークによる 効 率 的 フロンティアの 比 較 6% 5% 4% 確 定 給 付 型 年 金 キャッシュバランス 型 年 金 では 年 金 債 務 のデュ キャッシュバランス 型 年 金 3% レーションが 短 期 化 するた 短 期 資 産 等 めサープラス リスクが 減 2% 国 内 債 券 1% 国 内 株 式 外 貨 建 債 券 0% 外 貨 建 株 式 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 14% 16% 18% -1% -2% -3% -4% 標 準 偏 差 (サーフ ラスの 変 動 ) このとき 各 々の 金 利 水 準 について 給 付 の 現 在 価 値 ( 年 金 債 務 )を 計 算 してみると 図 3の 右 側 の グラフが 得 られます この 例 において 金 利 の 変 化 に 対 する 債 務 額 の 変 動 の 度 合 いから3%の 金 利 3 200 4 実 効 デュレーションは 金 利 水 準 や 将 来 の 拠 出 付 与 額 の 相 対 的 な 大 きさによって 変 化 します 5 サープラス フレームワークについても 住 信 年 金 ジャ ーナル: 年 金 研 究 センターシリーズ 第 1 号 (2001.5) 所 収 の 研 究 ノート バランスシート 型 ALM モデルによるアセッ ト ミックス 策 定 について をご 参 照 ください 6 金 利 感 応 度 を 表 す 実 効 デュレーションの 大 きさは 基 準 金 利 の 大 きさや 制 度 の 持 つ 負 債 構 造 ( 将 来 の 退 職 状 況 の 見 込 み) 等 によって 異 なります 3
図 5 資 産 構 成 比 の 比 較 100% < 確 定 給 付 型 年 金 > 100% <キャッシュバランス 型 年 金 > 90% 90% 80% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 70% 60% 50% 40% 30% 外 貨 建 株 式 外 貨 建 債 券 国 内 株 式 国 内 債 券 短 期 資 産 等 20% 20% 10% 10% 0% 0% 低 リスク 高 リスク 80 以 上 の 前 提 を 踏 まえて 最 適 化 を 行 った 結 果 を 示 したのが 図 4です キャッシュバランス 型 年 金 の 場 合 デュレーションが 短 期 化 するために サー プラス リスクが 低 下 し 効 率 的 フロンティアがかな り 左 方 向 にシフトするのが 確 認 できます また 双 方 の 資 産 構 成 比 を 比 べてみますと( 図 5) ともに 低 リスク 水 準 ( 各 グラフの 左 側 の 部 分 ) では 国 内 債 券 が 大 部 分 を 占 め リスクの 増 加 に 伴 って リスク 資 産 である 内 外 株 式 が 増 加 するという 構 造 になっています これは 負 債 に 対 するヘッ ジ 効 果 に 差 はあるものの 年 金 債 務 との 相 関 の 高 い 債 券 を 多 く 組 入 れることでサープラス リスク 低 減 効 果 が 働 いていることに 起 因 するものと 解 釈 で きます いずれにせよ 双 方 の 差 異 はリスク 資 産 である 内 外 株 式 の 構 成 が 幾 分 異 なっている 点 の みであり 基 本 的 なアセット ミックスには 大 きく 影 響 を 与 えないようです 7 ただし サープラス リスク 7 低 リスク 高 リスク そのものは 図 4に 示 されるように 年 金 債 務 との デュレーション ギャップが 大 きい 確 定 給 付 型 年 金 の 場 合 の 方 が 相 当 程 度 大 きくなるものと 推 測 され ます 8 なお 時 間 の 経 過 とともに 金 利 水 準 や 将 来 の 拠 出 付 与 額 の 見 込 みが 変 わってくることに 伴 い 年 金 債 務 の 実 効 デュレーションも 変 化 していきます ので それに 対 応 して 債 務 を 継 続 的 に 認 識 しつつ 資 産 側 の 特 性 も 調 整 していくことが 必 要 となります このような 変 化 は 確 定 給 付 型 年 金 においても 生 じ る 問 題 ですが キャッシュバランス 型 年 金 の 場 合 には 金 利 水 準 の 変 化 自 体 がデュレーションに 影 響 を 与 える 点 に 留 意 が 必 要 です 4. 制 度 運 営 実 務 上 の 課 題 (1) 基 準 金 利 の 決 定 キャッシュバランス 型 年 金 制 度 の 大 きな 特 質 の 一 つに 基 準 金 利 という 制 度 設 計 上 の 要 因 が 運 用 環 境 や 投 資 方 針 に 大 きく 関 わっている 点 があげら 8 4
れます 確 定 給 付 型 年 金 の 場 合 は 給 付 水 準 の 決 定 に 運 用 環 境 に 関 する 要 素 は 入 ってきません そのため 一 義 的 には 年 金 財 政 上 の 予 定 利 率 を 上 回 る 運 用 成 果 を 目 標 に 運 用 方 針 を 組 み 立 てれ ば 給 付 水 準 の 維 持 には 問 題 が 生 じないはずで す しかし キャッシュバランス 型 年 金 の 場 合 は 基 準 金 利 の 決 定 方 法 によって 制 度 の 給 付 水 準 に 大 きな 影 響 が 及 ぶ 点 に 留 意 が 必 要 です 例 えば 基 準 金 利 を( 長 期 国 債 の 利 回 り 等 の) 長 期 金 利 に 基 づいて 決 定 する 場 合 確 かに 金 利 変 動 に 伴 う 年 金 債 務 の 変 動 リスクは 先 に 述 べたように 抑 制 される 傾 向 にあります ところが 長 期 金 利 の 推 移 次 第 で は たとえ 年 金 財 政 上 に 大 きな 問 題 は 生 じなくても 制 度 設 計 時 に 想 定 していた 目 標 給 付 水 準 が 確 保 できないという 可 能 性 も 出 てきます このことは 年 金 給 付 の 水 準 が 予 め 約 束 されて いないというキャッシュバランス 型 年 金 の 特 性 の 裏 返 しともいえます その 結 果 年 金 財 政 の 維 持 と 年 金 給 付 水 準 の 確 保 が 必 ずしも 両 立 しない 可 能 性 が 残 されるわけです また キャッシュバランス 年 金 制 度 では 先 に 述 べたように 確 定 給 付 型 年 金 に 比 べて 金 利 変 動 に 対 するリスクが 小 さいという 性 質 を 持 っています が このことは 裏 返 していえば 金 利 上 昇 時 に 得 られる 潜 在 的 な 年 金 債 務 圧 縮 効 果 が 小 さいという ことを 意 味 しています すなわち 将 来 仮 に 金 利 が 上 昇 した 場 合 に 確 定 給 付 型 年 金 ほど 年 金 債 務 が 減 少 しないことになります したがって 現 在 のように 金 利 水 準 が 極 めて 低 い 状 況 でキャッシュバランス 型 年 金 の 制 度 設 計 を 行 う 場 合 には こうした 点 を 考 慮 しつつ 基 準 金 利 の 決 定 方 法 について 慎 重 に 検 討 することが 必 要 と なりましょう (2) 財 政 運 営 上 の 留 意 点 一 方 年 金 財 政 運 営 の 観 点 から 見 た 場 合 従 来 の 確 定 給 付 型 年 金 と 同 様 予 定 利 率 の 達 成 が 重 要 になります 年 金 財 政 上 の 標 準 掛 金 は 予 定 利 率 に 見 合 ったリターンが 確 保 されるという 前 提 で 見 積 もられているわけですから 予 定 利 率 を 下 回 るリ ターンしか 確 保 できないと 年 金 財 政 上 の 積 立 不 足 が 発 生 することになります したがって リスクフリー レート 以 上 の 水 準 に 予 定 利 率 が 設 定 されている 場 合 その 水 準 に 見 合 っ たリスクを 負 担 することが 不 可 避 となります キャッ シュバランス 型 年 金 においても 債 務 変 動 リスクが 抑 制 されるからといって 年 金 運 用 にかかる 一 切 のリスク 負 担 が 不 要 になるとは 限 らないわけで 従 来 の 確 定 給 付 型 年 金 と 同 様 予 定 利 率 の 水 準 に 応 じて 何 らかのリスク 負 担 の 可 能 性 が 伴 うことに 留 意 が 必 要 です 一 方 で 財 政 運 営 上 は 基 準 金 利 の 改 定 に 伴 う 給 付 水 準 の 変 更 の 影 響 を 考 慮 しておく 必 要 があり ます 年 金 財 政 上 予 定 利 率 の 見 直 しは 数 年 毎 の 財 政 再 計 算 時 に 行 われますが 将 来 の 基 準 金 利 の 変 動 を 予 め 織 り 込 まないという 前 提 で 数 理 債 務 が 算 出 されている 場 合 各 年 毎 の 基 準 金 利 が 改 定 される 都 度 追 加 的 な 不 足 額 もしくは 剰 余 金 が 発 生 することになります 例 えば 基 準 金 利 が 引 き 上 げ( 引 き 下 げ)られると 将 来 の 給 付 水 準 が 増 加 ( 減 少 )するので 年 金 債 務 が 増 加 ( 減 少 )しますが 資 産 の 積 立 は 引 上 げ 前 ( 引 下 げ 前 )の 給 付 水 準 に 基 づいた 掛 金 によって 実 施 されているので その 分 が 不 足 ( 剰 余 )となります 無 論 先 に 検 討 したように 金 利 の 変 動 に 伴 っ て 割 引 率 も 変 化 しているわけですから 実 質 的 に は 退 職 給 付 債 務 の 変 動 はさほど 大 きくないと 推 定 されますが 年 金 財 政 上 の 標 準 掛 金 はこのような 後 発 的 な 過 不 足 を 織 り 込 まれずに 拠 出 されていま すので 過 去 の 積 立 分 に 生 ずる 過 不 足 の 発 生 は 回 避 できません これらの 過 不 足 は 基 準 金 利 の 意 図 せざる( 当 初 の 年 金 財 政 上 織 り 込 まれていない) 変 動 に 起 因 したものといえるわけで これをヘッジ するような 運 用 を 行 うことは 困 難 です したがって 5
年 金 財 政 上 の 他 の 基 礎 率 と 同 様 再 計 算 時 にお ける 見 直 しを 行 い 年 金 財 政 上 の 剰 余 不 足 と 認 識 してこれを 償 却 する 必 要 があります 長 期 的 な 年 金 財 政 を 検 討 する 際 は こうした 要 因 も 考 慮 に 入 れて 資 金 負 担 の 予 測 等 を 検 討 しておくことも 必 要 と 思 われます 5. まとめ キャッシュバランス 型 年 金 という 新 たな 年 金 制 度 を 導 入 した 場 合 まず 制 度 設 計 上 の 特 徴 として は 確 定 拠 出 型 年 金 と 同 様 に 加 入 者 個 人 の 給 付 残 高 が 拠 出 付 与 額 と 基 準 金 利 の 累 計 という 形 で 明 確 に 区 分 して 把 握 することが 可 能 となるため 年 金 受 給 権 が 明 確 に 把 握 しやすいという 点 があげられ ます さらに 給 付 額 が 累 計 計 算 に 基 づいて 算 定 されるため 勤 続 年 数 に 応 じて 給 付 水 準 に 大 きな 差 をつけることが 一 般 に 困 難 になる 傾 向 が 見 られ ます このことは 若 年 層 等 の 短 期 勤 続 者 に 有 利 に 働 くことになりますので 雇 用 流 動 化 に 即 した 制 度 設 計 が 可 能 になるという 面 もあります 一 方 運 用 面 については 年 金 債 務 の 変 動 リス ク 回 避 を 念 頭 に 置 くと 負 債 を 考 慮 したサープラ ス フレームワークの 観 点 を 踏 まえた 管 理 が 求 めら れますが その 際 退 職 給 付 会 計 の 債 務 認 識 に ついては 割 引 率 が 毎 年 変 更 されるので 基 準 金 利 による 給 付 水 準 の 変 更 と 割 引 率 の 変 化 が 相 殺 さ れ 年 金 債 務 自 体 の 金 利 変 動 リスクは 確 定 給 付 型 年 金 の 場 合 に 比 べてかなり 小 さくなると 考 えられま す その 結 果 年 金 債 務 との 連 動 性 が 高 い 債 券 投 資 を 軸 としたアセット ミックスによってサープラス リスクをある 程 度 ヘッジすることが 可 能 になると 考 えられます ただし ( 現 在 多 くの 基 金 がそうであ るように ) 年 金 財 政 上 の 予 定 利 率 が 割 引 率 の 水 準 (=リスクフリー レート) 以 上 に 設 定 されている 場 合 には 一 定 のリスク 負 担 を 伴 う 可 能 性 がなくな るわけではありません 先 に 示 した 簡 単 なシミュレ ーション 結 果 を 見 る 限 り アセット ミックスの 構 成 は 国 内 債 券 を 軸 としつつ 内 外 株 式 を 加 えたも のとなっていますが サープラス リスクの 水 準 が 大 きく 低 下 するため リスク 許 容 度 に 応 じて 選 択 さ れる 資 産 配 分 は 従 来 の 確 定 給 付 型 年 金 とは 異 な ってくる 可 能 性 があります したがって 確 定 給 付 型 年 金 からキャッシュバランス 年 金 に 移 行 する 場 合 年 金 債 務 構 造 の 変 化 に 伴 うサープラス リスク の 低 下 を 踏 まえて 意 図 したリスク 水 準 に 見 合 った 資 産 配 分 が 実 現 できているのかを 従 来 以 上 に 木 目 細 かく 検 証 していくことが 望 まれます また 年 金 財 政 上 の 数 理 債 務 については 予 定 利 率 が 再 計 算 の 間 は 固 定 されるため その 間 に 生 じた 基 準 金 利 の 改 定 に 伴 って 年 金 財 政 上 の 剰 余 不 足 金 が 発 生 することが 予 想 されます したがっ て 金 利 変 動 シミュレーション 等 によって 財 政 上 のリスクが 許 容 範 囲 内 に 維 持 できるか 等 を 検 討 し つつ 財 政 運 営 を 行 うことが 肝 要 です 一 方 で 制 度 設 計 時 における 基 準 金 利 の 決 定 方 法 によって 将 来 の 給 付 水 準 に 大 きな 影 響 が 及 ぶ 可 能 性 があり また キャッシュバランス 型 年 金 への 移 行 によって 金 利 上 昇 時 における 債 務 低 減 効 果 の 縮 小 が 生 じるため 現 在 のような 歴 史 的 な 低 金 利 時 に 制 度 設 計 を 行 う 際 には 金 利 変 動 に 伴 う 将 来 の 年 金 財 政 状 況 の 検 討 に 加 え 年 金 給 付 水 準 の 動 向 にも 十 分 に 留 意 しつつ 基 準 金 利 の 決 定 を 行 う 必 要 があるといえましょう 6