特 集 1:アジア 人 口 移 動 と 資 金 移 動 : 中 国 の 例 人 口 移 動 と 資 金 移 動 : 中 国 の 例 宮 本 佐 知 子 要 約 1. 現 在 の 中 国 と 高 度 成 長 期 の 日 本 は 類 似 点 も 多 く 現 在 の 中 国 で 大 きな 問 題 と なっている 地 域 間 の 所 得 格 差 や 大 規 模 な 人 口 移 動 は 当 時 の 日 本 で 起 きていた 現 象 である ただし 中 国 の 場 合 地 域 間 所 得 格 差 が 最 高 で 10 倍 とアジアの 中 でも 際 立 って 大 きい また 厳 しい 戸 籍 制 度 が 残 っているため 人 の 移 動 や 就 労 への 制 限 が 多 く 出 稼 ぎ 労 働 者 が 中 心 となっている 2. 人 の 移 動 は 資 金 の 移 動 にも 影 響 する 所 得 が 低 い 地 域 から 高 い 地 域 へと 人 が 流 入 することで 所 得 の 平 準 化 が 起 きているが 出 稼 ぎ 労 働 者 の 送 金 を 通 じて 人 口 流 出 地 域 の 家 計 資 産 も 増 加 している 人 口 流 出 が 及 ぼす 家 計 資 産 への 影 響 を 検 証 したところ 人 口 流 出 地 域 の 預 金 増 加 率 のうち 人 口 流 出 率 によって 平 均 で 16% 最 大 で 33%を 説 明 することができるとの 結 果 を 得 た 出 稼 ぎ 労 働 者 の 増 加 と 彼 らの 故 郷 への 送 金 が 地 域 間 格 差 拡 大 を 緩 和 させており この 点 がなけ れば 格 差 はより 大 きなものになっていたと 考 えられる 3. 日 本 の 場 合 人 口 移 動 による 資 金 移 動 の 影 響 は 若 年 期 に 都 市 へ 移 動 し 定 住 し た 人 が 中 年 期 を 迎 え 地 方 に 住 む 親 の 資 産 を 相 続 する 際 に 地 方 から 都 市 へ 資 産 が 移 転 する 形 で 生 じており 人 口 移 動 と 資 金 移 動 には 約 40 年 のラグがあ る 中 国 の 場 合 人 口 移 動 は 主 に 出 稼 ぎ 労 働 という 形 態 をとっており それゆ え 人 口 移 動 と 同 時 進 行 で 資 金 移 動 が 生 じている 点 に 特 色 がある 現 在 中 国 政 府 は 都 市 化 比 率 の 引 き 上 げを 目 指 しており 人 口 移 動 とそれに 伴 う 資 金 移 動 の 影 響 は 引 き 続 き 注 目 されよう Ⅰ アジア 諸 国 の 相 対 距 離 アジアの 国 々をみる 上 では どちらの 国 がより 豊 かなのか? どの 国 が 何 年 くらい 進 んでいるのか? という 視 点 が それぞれの 国 を 理 解 する 手 掛 かりになる 議 論 によく 用 いられるのは 一 人 当 たり GDP だが この 指 標 は 国 の 経 済 的 豊 かさに 関 して 有 益 な 情 報 を 提 供 するが 所 得 分 配 の 差 から 生 じる 国 民 生 活 の 豊 かさの 違 いを 示 すことは 難 しい ま た どの 国 が 何 年 進 んでいるのかという 相 対 距 離 を 論 じる 場 合 インフレ 情 勢 など 時 代 背 景 の 違 いを 除 くべきだろう この 点 では 人 間 開 発 指 数 が 参 考 になる 39
資 本 市 場 クォータリー 2008 Autumn 人 間 開 発 指 数 とは 所 得 よりも 幅 広 く 生 活 の 豊 かさや 実 情 を 測 ることを 目 的 に 国 連 開 発 計 画 が 開 発 した 指 数 で 一 人 当 たり GDP に 加 えて 平 均 寿 命 や 教 育 レベルを 合 成 したもの である 図 表 1 に 示 したこの 指 標 に 基 づくと アジア 地 域 では 日 本 が 最 も 進 んだ 国 である ことだけでなく 近 年 は 中 国 の 進 展 が 著 しく 日 本 シンガポール 韓 国 に 次 いで 第 4 位 (タイと 同 位 )の 国 となるに 至 ったことがわかる この 指 標 を 用 いてアジア 諸 国 の 発 展 段 階 の 差 を 測 ると 下 記 のようになる 1 韓 国 とシンガポールは 日 本 の 1990 年 と 同 程 度 である 2 中 国 とタイは 1980 年 の 韓 国 やシンガポールと 同 程 度 である 3 ベトナムとインドネシアは 1975 年 のシンガポールと 同 程 度 である 4 インドは 1985 年 の 中 国 と 同 程 度 である そのため 日 本 を 基 準 にしてきわめて 大 雑 把 な 議 論 をすれば アジア 諸 国 の 発 展 段 階 は 下 記 のような 関 係 にあると 考 えられる 1 韓 国 シンガポールは 日 本 の 15 年 前 と 同 程 度 である 2 中 国 とタイは 日 本 の 40 年 前 と 同 程 度 である 3 ベトナムとインドネシアは 日 本 の 45 年 前 と 同 程 度 である 4 インドは 日 本 の 60 年 前 と 同 程 度 である ここでは 特 に 中 国 と 日 本 の 関 係 に 注 目 し 上 記 指 数 が 示 唆 する 国 別 の 発 展 段 階 や 構 成 する 複 数 の 指 標 経 済 の 発 展 に 伴 う 人 口 移 動 状 況 を 示 す 都 市 化 比 率 等 を 基 にすると 現 在 図 表 1 アジア 主 要 国 の 人 間 開 発 指 数 の 推 移 1.0 高 中 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 日 本 シンガポール 韓 国 タイ 中 国 ベトナム インドネシア インド 低 0.4 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 ( 年 ) ( 注 ) 国 連 開 発 計 画 では 対 象 国 177 カ 国 について 人 間 開 発 指 数 を 基 にした 発 展 段 階 に 応 じて 3 グ ループに 分 類 しており 境 界 値 は 0.8 と 0.5 である シンガポールの 2000 年 の 数 値 は 公 表 されていない ( 出 所 ) 国 連 開 発 計 画 統 計 より 野 村 資 本 市 場 研 究 所 作 成 40
人 口 移 動 と 資 金 移 動 : 中 国 の 例 の 中 国 は 日 本 の 1965 年 頃 に 近 いと 考 えられる 1 経 済 事 象 から 見 ても 現 在 の 中 国 と 高 度 成 長 期 の 日 本 とでは 似 ている 点 が 多 く 現 在 の 中 国 で 大 きな 問 題 となっている 地 域 間 の 所 得 格 差 や 大 規 模 な 人 口 移 動 も まさに 当 時 の 日 本 で 起 きていた 現 象 である Ⅱ 中 国 の 地 域 間 格 差 と 人 口 移 動 1. 地 域 間 格 差 の 現 状 現 在 の 中 国 では 地 域 間 の 所 得 格 差 が 大 きい 一 人 当 たり GDP で 測 った 格 差 は 経 済 発 展 が 目 覚 しい 沿 海 部 にある 上 海 と 内 陸 部 にある 貴 州 とでは 10 倍 もの 開 きがあり 地 域 格 差 はアジアの 中 でも 際 立 って 大 きい( 図 表 2) 日 本 も 高 度 成 長 期 には 地 域 間 格 差 が 大 きいことが 白 書 等 で 指 摘 されてきたが 格 差 が 最 も 大 きかった 時 期 でも 県 民 所 得 上 位 5 県 平 均 と 下 位 5 県 平 均 の 格 差 は 2.3 倍 (1961 年 )であった 現 在 この 格 差 は 1.7 倍 にまで 縮 小 しており 格 差 が 最 も 大 きい 東 京 都 と 沖 縄 県 の 格 差 をとっても 2.4 倍 にとどまってい る 2 ( 図 表 3) 2. 人 口 移 動 の 特 徴 地 域 間 での 所 得 格 差 が 大 きい 場 合 より 多 くの 所 得 が 得 られる 地 域 へ 労 働 者 が 移 動 する ( 万 円 ) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 図 表 2 地 域 別 の 一 人 当 たり GDP( 中 国 2006 年 ) 格 差 10 倍 上 北 天 浙 江 広 山 遼 福 内 河 黒 吉 新 山 河 湖 海 重 湖 寧 陝 青 江 四 西 広 安 雲 甘 貴 海 京 津 江 蘇 東 東 寧 建 蒙 北 龍 林 彊 西 南 北 南 慶 南 夏 西 海 西 川 藏 西 徽 南 肅 州 ( 出 所 ) 中 国 国 家 統 計 局 中 国 統 計 摘 要 2007 より 野 村 資 本 市 場 研 究 所 作 成 1 2 この 点 に 関 して 関 志 雄 共 存 共 栄 の 日 中 経 済 東 洋 経 済 新 報 社 (2005)では 平 均 寿 命 乳 児 死 亡 率 第 一 次 産 業 の 対 GDP 比 都 市 部 のエンゲル 係 数 1 人 当 たりの 電 力 消 費 量 から 日 中 格 差 は 40 年 と 論 じている 県 別 一 人 当 たり GDP で 計 算 しても 東 京 都 と 沖 縄 県 の 格 差 は 2.8 倍 である 41
資 本 市 場 クォータリー 2008 Autumn 図 表 3 都 道 府 県 別 の 一 人 当 たり 所 得 ( 日 本 2005 年 度 ) ( 万 円 ) 500 450 格 差 2.4 倍 400 350 300 250 200 150 100 50 0 東 愛 静 滋 神 栃 富 三 大 広 山 千 埼 京 福 群 石 茨 長 岐 新 徳 兵 山 福 和 福 奈 岡 宮 香 大 北 佐 島 山 熊 岩 愛 鳥 秋 鹿 長 宮 青 高 沖 京 知 岡 賀 奈 木 山 重 阪 島 口 葉 玉 都 井 馬 川 城 野 阜 潟 島 庫 梨 島 歌 岡 良 山 城 川 分 海 賀 根 形 本 手 媛 取 田 児 崎 崎 森 知 縄 都 県 県 県 川 県 県 県 府 県 県 県 県 府 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 山 県 県 県 県 県 県 道 県 県 県 県 県 県 県 県 島 県 県 県 県 県 県 県 県 ( 出 所 ) 内 閣 府 SNA 統 計 より 野 村 資 本 市 場 研 究 所 作 成 日 本 では 高 度 成 長 期 の 1960 年 代 前 後 に 多 くの 人 が 三 大 都 市 圏 へと 移 動 したが 近 年 の 中 国 でも 労 働 者 移 動 が 急 増 している 中 国 では 1958 年 から 1980 年 代 半 ばまでの 間 は 人 の 移 動 が 厳 しく 制 限 されていた しかし 1980 年 代 後 半 以 降 人 の 移 動 に 対 する 規 制 の 緩 和 や 非 国 有 部 門 の 成 長 拡 大 に 伴 う 雇 用 機 会 の 増 加 そして 地 域 間 の 所 得 格 差 拡 大 などを 背 景 に 農 村 部 から 都 市 部 へ 内 陸 部 から 沿 海 部 へという 大 規 模 な 人 口 移 動 が 起 こっている 一 方 で 現 在 の 中 国 では 厳 しい 戸 籍 制 度 が 未 だに 残 っており 戸 籍 によって 就 業 が 規 制 さ れている 農 業 戸 籍 を 持 つ 人 は 土 地 を 与 えられる 代 わりに 非 農 業 戸 籍 を 持 っていない 都 市 での 雇 用 機 会 は 大 きく 制 限 され 都 市 で 就 労 する 場 合 には 低 賃 金 で 労 働 条 件 も 厳 しい 戸 籍 は 住 宅 や 教 育 社 会 福 祉 にもリンクしており 市 場 化 が 進 んだ 今 日 でも 戸 籍 の 移 動 に は 厳 しい 制 限 が 課 されている そのため 高 度 成 長 期 の 日 本 では 農 村 から 都 市 への 移 動 者 は 職 を 得 て 都 市 に 定 住 する 定 住 型 移 動 だったが 現 在 の 中 国 では 出 稼 ぎ 労 働 者 が 中 心 となり 移 動 者 数 が 急 増 しているのである Ⅲ 最 近 の 中 国 の 人 口 移 動 とその 影 響 1. 増 加 する 移 動 人 口 そこで 以 下 では 最 近 の 中 国 の 人 口 移 動 について 分 析 すると 共 に 人 の 移 動 がもたらし た 資 金 の 動 きについて 考 察 する ここでは 特 に 省 を 超 えて 動 く 人 と 資 金 の 流 れに 焦 点 を 当 てたい 図 表 4 は 中 国 で 2000 年 から 2005 年 の 5 年 間 に 省 を 超 えて 移 動 した 人 数 を 示 してい る この 調 査 では 戸 籍 登 録 地 にかかわらず 一 定 期 間 を 超 えて 住 んでいる 居 住 地 を 基 準 と 42
人 口 移 動 と 資 金 移 動 : 中 国 の 例 図 表 4 5 年 前 住 所 を 基 準 とした 地 域 間 での 純 移 動 者 数 調 査 対 象 期 間 純 移 動 者 数 1990 年 調 査 1985-1990 年 1081 万 人 2000 年 調 査 1995-2000 年 3400 万 人 2005 年 調 査 2000-2005 年 4099 万 人 ( 注 ) 5 年 前 に 一 定 期 間 住 んでいた 住 所 から 省 を 超 えて 移 動 した 純 移 動 者 数 である ( 出 所 ) 厳 善 平 中 国 の 人 口 移 動 と 民 工 勁 草 書 房 (2005) 中 国 国 家 統 計 局 2005 年 全 国 1% 人 口 抽 出 調 査 より 野 村 資 本 市 場 研 究 所 作 成 し 5 年 前 に 住 んでいた 地 域 と 異 なる 地 域 に 住 む 人 について 調 べている 5 年 間 で 省 を 超 えて 移 動 した 人 数 は 全 人 口 に 換 算 して 4099 万 人 であり その 大 半 は 出 稼 ぎ 労 働 者 であ る 2000 年 調 査 では 3400 万 人 1990 年 調 査 では 1081 万 人 であったことから 移 動 者 数 は 調 査 年 を 追 うごとに 増 えていることがわかる この 調 査 は 調 査 時 点 から 5 年 間 での 移 動 が 対 象 だが 5 年 以 上 前 に 移 動 した 人 達 も 合 計 すれば 出 稼 ぎ 労 働 者 は 更 に 多 くなる 因 みに 中 国 国 家 統 計 局 の 中 国 統 計 摘 要 を 基 に 都 市 に 住 む 人 口 から 非 農 業 戸 籍 人 口 を 差 し 引 いた 人 数 ( 流 動 人 口 )を 計 算 すると 2006 年 には 1 億 5420 万 人 に 達 している 2. 地 域 別 の 人 口 移 動 の 状 況 ここで 5 年 間 の 移 動 状 況 を 地 域 ごとに 見 たものが 図 表 5 である 流 入 者 数 から 流 出 者 数 を 差 し 引 いた 純 移 動 者 数 が 地 域 総 人 口 に 占 める 割 合 を 計 算 し その 割 合 が 大 きい 順 に 並 べてある 中 国 全 土 31 地 域 の 中 で 人 口 流 入 地 域 は 11 地 域 であり 上 海 北 京 広 東 では この 5 年 間 に 地 域 人 口 が 12%から 15%も 増 えている これに 対 し 人 口 流 出 割 合 が 大 き いのは 安 徽 江 西 湖 南 四 川 といった 内 陸 部 である 人 口 変 化 と 一 人 当 たり GDP の 関 係 を 見 ると 所 得 が 低 い 地 域 から 高 い 地 域 へと 労 働 者 が 流 出 していることがわかる( 図 表 6) 一 人 当 たり GDP が 1 万 元 前 後 の 地 域 は 人 口 が 大 きく 流 出 し 一 人 当 たり GDP が 3 万 元 を 超 えると 流 入 が 多 くなっている 所 得 が 低 い 地 域 から 高 い 地 域 へと 出 稼 ぎ 労 働 者 が 流 入 することによって 所 得 の 平 準 化 がおきている わけだが 以 下 では 出 稼 ぎ 労 働 者 の 送 金 による 所 得 移 転 効 果 を 検 証 したい 3. 人 口 移 動 による 資 金 移 動 の 影 響 出 稼 ぎ 労 働 者 に 関 する 調 査 によると 賃 金 収 入 のうち 約 7 割 を 故 郷 へ 送 金 していること がわかる 3 この 出 稼 ぎ 労 働 者 の 送 金 による 所 得 移 転 効 果 は 人 口 流 出 地 域 の 所 得 を 増 加 させるだけでなく 大 半 が 貯 蓄 され 人 口 流 出 地 域 の 家 計 資 産 (= 預 金 )を 増 加 させている 3 全 国 固 定 観 察 点 弁 公 室 農 村 労 働 力 の 出 稼 ぎに 関 する 実 態 調 査 による 43
資 本 市 場 クォータリー 2008 Autumn 図 表 5 2000-2005 年 の 地 域 別 人 口 移 動 状 況 ( 人 口 変 化 率 ) 20% 15% 人 口 流 入 地 域 人 口 流 出 地 域 10% 5% 0% -5% -10% 上 北 広 浙 天 福 江 新 遼 海 寧 内 山 青 西 雲 山 河 吉 甘 陝 黒 貴 河 重 広 湖 四 湖 江 安 海 京 東 江 津 建 蘇 彊 寧 南 夏 蒙 東 海 藏 南 西 北 林 肅 西 龍 州 南 慶 西 北 川 南 西 徽 古 江 ( 注 ) 5 年 前 に 一 定 期 間 住 んでいた 住 所 から 省 を 超 えて 流 入 流 出 した 純 人 数 が 地 域 人 口 に 占 める 割 合 である ( 出 所 ) 中 国 国 家 統 計 局 2005 年 全 国 1% 人 口 抽 出 調 査 より 野 村 資 本 市 場 研 究 所 作 成 図 表 6 地 域 別 の 一 人 当 たり GDP と 人 口 変 化 率 ( 人 口 変 化 率 ) 人 口 流 入 20% 15% 10% 5% 0% -5% 人 口 流 出 -10% 0 1 2 3 4 5 6 ( 一 人 当 たりGDP 万 元 ) ( 注 ) 中 国 の 31 地 域 をプロットした 一 人 当 たり GDP は 2006 年 人 口 変 化 率 は 2000-2005 年 の 5 年 間 が 対 象 ( 出 所 ) 中 国 国 家 統 計 局 中 国 統 計 摘 要 2007 より 野 村 資 本 市 場 研 究 所 作 成 44
人 口 移 動 と 資 金 移 動 : 中 国 の 例 と 考 えられる 4 実 際 に 2000-2006 年 データを 用 いて 検 証 したところ 人 口 流 出 地 域 の 一 人 当 たり 預 金 変 化 率 は 一 人 当 たり GDP 変 化 率 と 人 口 変 化 率 によって 説 明 でき 出 稼 ぎ 労 働 者 が 多 く 人 口 流 出 率 が 高 い 地 域 ほど( 出 稼 ぎ 労 働 者 の 送 金 を 通 じて) 預 金 増 加 率 も 高 くなるという 関 係 を 有 意 に 見 出 すことができた この 結 果 を 用 いると 一 人 当 たり 預 金 変 化 率 のうち 人 口 変 化 率 で 説 明 できる 割 合 は 平 均 で 16%である 例 えば 最 も 人 口 流 出 率 が 大 きい 安 徽 省 の 場 合 は 一 人 当 たり 預 金 増 加 率 のうち 人 口 流 出 率 で 説 明 できる 割 合 は 28%となる( 図 表 7) このように 中 国 全 体 から 見 ると 大 量 の 出 稼 ぎ 労 働 者 の 存 在 は 地 域 間 の 所 得 (フ ロー)の 格 差 拡 大 に 歯 止 めをかけているだけでなく 資 産 (ストック) 面 でも 同 様 の 効 果 をもたらしていると 考 えられる 図 表 7 人 口 流 出 地 域 の 一 人 当 たり 預 金 変 化 率 に 対 する 人 口 流 出 率 の 寄 与 ( 寄 与 率 ) 35% 30% 25% 河 南 四 川 黑 龍 江 20% 湖 北 貴 州 重 慶 15% 吉 林 甘 肅 10% 陝 西 河 北 5% 雲 南 青 海 山 西 山 東 0% 内 蒙 古 0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% ( 人 口 流 出 率 ) ( 注 ) 推 計 式 は 一 人 当 たり 預 金 変 化 率 = 65.04+0.46 一 人 当 たり GDP 変 化 率 -9.69 人 口 変 化 率 (1.8) (1.9) (-2.6) 自 由 度 修 正 済 み 決 定 係 数 0.24 上 記 () 内 はt 値 対 象 地 域 は 2000-2005 年 の 人 口 流 出 地 域 推 計 で 用 いたデータは 2000-2006 年 の 一 人 当 たり 預 金 変 化 率 と 同 GDP 変 化 率 2000-2005 年 の 人 口 変 化 率 で 人 口 変 化 率 は 人 口 が 流 出 するとマイ ナスの 値 をとる ただし 上 図 では 人 口 変 化 率 に(-1)を 乗 じて 人 口 流 出 率 として 図 示 して いる ( 出 所 ) 中 国 国 家 統 計 局 中 国 統 計 摘 要 2007 同 2005 年 全 国 1% 人 口 抽 出 調 査 中 国 金 融 年 鑑 の データを 基 に 野 村 資 本 市 場 研 究 所 にて 推 計 広 西 湖 南 江 西 安 徽 4 中 国 全 体 の 金 融 資 産 構 成 を 見 ると 預 金 が 6 割 株 式 が 3 割 を 占 めている 株 式 のうち 2/3 は 国 家 が 保 有 してい るため 実 質 的 に 家 計 部 門 が 保 有 する 割 合 は 少 なく 家 計 部 門 の 中 でも 資 産 規 模 が 大 きく 選 択 肢 の 多 い 地 域 に 偏 って 保 有 されていると 見 られる 所 得 が 低 い 地 域 の 家 計 資 産 は 大 半 が 預 金 に 偏 っていると 考 えられるた め ここでは 家 計 資 産 = 預 金 と 想 定 し 送 金 による 移 転 効 果 を 検 証 している また 家 計 資 産 に 関 して 預 金 以 外 はデータを 把 握 しづらいことも 今 回 の 分 析 で 預 金 を 対 象 とした 理 由 である 45
資 本 市 場 クォータリー 2008 Autumn Ⅳ 結 びにかえて これまで 中 国 では 農 村 部 の 生 活 水 準 が 都 市 部 に 比 べて 遥 かに 低 いこと 内 陸 部 と 沿 海 部 の 所 得 格 差 が 最 大 で 10 倍 にも 達 することが 問 題 となってきた しかし 前 章 で 検 証 し たとおり 出 稼 ぎ 労 働 者 の 増 加 と 彼 らの 故 郷 への 送 金 が 人 口 流 出 地 域 の 預 金 増 加 に 大 きく 寄 与 しており 急 速 な 経 済 発 展 の 下 での 地 域 間 格 差 の 拡 大 を 緩 和 させ 社 会 の 安 定 化 にも 寄 与 していると 考 えられる 出 稼 ぎ 労 働 者 の 所 得 は 都 市 部 では 高 いわけではないのだが その 送 金 は 故 郷 である 農 村 部 にとっては 重 要 であり これがなければ 格 差 はもっと 大 き かったと 考 えられる 翻 ってわが 国 の 場 合 1960 年 代 前 後 に 地 方 から 都 市 へ 移 動 した 労 働 者 は 基 本 的 には 移 動 後 は 都 市 部 へ 定 着 した 所 得 は 主 に 都 市 部 での 生 活 基 盤 形 成 に 用 いられ 故 郷 への 仕 送 りの 規 模 や 影 響 はさほど 大 きくなかったと 見 られる 5 人 口 移 動 による 資 金 移 動 への 影 響 は 若 年 期 に 都 市 へ 移 動 した 人 が 中 年 期 を 迎 え 地 方 に 住 む 両 親 の 資 産 を 相 続 する 際 に 地 方 から 都 市 へ 資 産 が 移 転 する 形 で 生 じている そのためわが 国 の 場 合 人 口 移 動 と 資 金 移 動 は 同 時 進 行 ではなく 約 40 年 のラグをもって 生 じている 社 会 全 体 の 高 齢 化 が 急 速 に 進 展 する 中 では 家 計 資 産 に 大 きな 影 響 を 及 ぼす 要 素 として 相 続 による 資 産 移 動 が 大 きな テーマになっている 6 中 国 についても 高 度 成 長 が 続 く 中 で 地 域 間 格 差 が 拡 大 しているという 点 で 1960 年 代 のわが 国 と 同 じ 現 象 が 生 じているわけだが 中 国 の 場 合 は 厳 しい 戸 籍 制 度 によって 人 の 移 動 に 対 する 制 約 が 依 然 として 残 っている そのため 人 口 移 動 は 出 稼 ぎ 労 働 という 形 態 を とっており それゆえ 人 口 移 動 と 同 時 進 行 で 資 金 移 動 が 生 じている 点 に 特 色 がある 中 国 政 府 は 戸 籍 制 度 改 革 に 着 手 するなど 人 口 の 移 動 を 妨 げる 要 因 を 減 らす 意 向 であり 2006 年 から 始 まった 第 11 次 五 ヵ 年 計 画 では 農 村 から 都 市 への 人 口 移 動 によって 都 市 化 比 率 を 2010 年 に 47%へ 引 き 上 げることを 目 標 に 掲 げている 7 都 市 化 比 率 は 1970 年 代 の 17.4%から 2005 年 には 40.4%へ 上 昇 国 連 予 測 によるとその 後 も 上 昇 が 続 き 2040 年 に は 現 在 の 日 本 と 同 水 準 となる 見 通 しである( 図 表 8) 8 そのため 今 後 も 移 動 者 数 の 増 加 が 続 くと 見 込 まれ 人 口 移 動 とそれに 伴 う 資 金 移 動 の 影 響 は 引 き 続 き 注 目 されよう 5 6 7 8 地 域 間 格 差 はむしろ 公 共 投 資 や 地 方 交 付 税 などを 通 じた 財 政 移 転 によって 縮 小 が 図 られてきた 詳 細 は 宮 本 佐 知 子 加 速 する 相 続 に 伴 う 個 人 金 融 資 産 の 地 域 間 移 転 資 本 市 場 クォータリー 2008 年 春 号 参 照 積 極 的 な 制 度 改 革 への 取 組 みが 見 られる 一 方 で 大 都 市 では 戸 籍 取 得 に 対 する 厳 しい 制 限 が 残 り 改 革 への 抵 抗 も 根 強 いため 都 市 化 比 率 の 上 昇 ペースは 緩 やかとの 見 方 もある ( 第 Ⅰ 章 でも 見 たように)この 指 標 からもインドとは 更 に 20 年 程 度 の 開 きがあることが 示 唆 される 46
人 口 移 動 と 資 金 移 動 : 中 国 の 例 図 表 8 都 市 化 比 率 の 比 較 (%) ( 予 想 ) 90 日 本 80 中 国 70 ( 参 考 )インド 60 50 40 30 20 10 0 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 ( 年 ) ( 注 ) 予 想 は 出 所 に 同 じ ( 出 所 ) 国 連 World Urbanization Prospects: The 2007 Revision Population Database 47