処 方 鑑 査 における 検 査 値 利 用 に 関 する 勉 強 会 第 3 回 ( 血 液 ) 2014.9.18 千 葉 大 学 病 院 薬 剤 部 松 本 和 彦 1
処 方 せんに 表 示 される 血 液 検 査 項 目 項 目 略 語 単 位 正 常 範 囲 白 血 球 数 WBC x10 3 /μ L 4.0~9.0 * 好 中 球 数 SEG 割 合 表 示 (%) - ヘモグロビン 濃 度 HGB g/dl M:14.0~17.0 F:12.0~16.0 血 小 板 数 PLT x10 3 /μ L 150~350 赤 血 球 RBC x10 6 /μ L M:4.10~5.30 F:3.80~4.80 ST. 杵 状 核 球 (3~6%) M. Male ( 男 性 ) F. Female ( 女 性 )
各 検 査 項 目 の 低 下 によって 予 測 される 病 態 当 院 薬 剤 部 では 以 下 の 病 態 と 検 査 値 を 重 篤 副 作 用 疾 患 別 対 応 マニュアル 等 を 参 考 にして 定 義 した 貧 血 骨 髄 抑 制 骨 髄 機 能 低 下 汎 血 球 減 少 HGB WBC 好 中 球 HGB PLT WBC 好 中 球 HGB PLT WBC 好 中 球 HGB PLT 貧 血 の 定 義 厳 密 には 循 環 血 液 量 を 測 定 するが 臨 床 的 にはHGB 濃 度 男 男 14 女 12g/dL 以 下 を 貧 血 とする 骨 髄 抑 制 とは 好 中 球 減 少 貧 血 血 小 板 減 少 骨 髄 抑 制 と 同 義 として 扱 う 骨 髄 抑 制 と 同 義 として 扱 う 再 生 不 良 性 貧 血 WBC 好 中 球 HGB PLT 再 生 不 良 性 貧 血 は 末 梢 血 での 汎 血 球 減 少 と 骨 髄 の 低 形 成 を 特 徴 とす する 症 候 群 である 汎 血 球 減 少 ( 上 記 参 照 ) 無 顆 粒 球 症 好 中 球 無 顆 粒 球 症 とは 白 血 球 のうち 好 中 球 が 著 しく 減 少 する 状 態
好 中 球 とは? 体 内 に 侵 入 した 細 菌 を 貪 食 し 分 解 を 行 う 細 胞 白 血 球 好 中 球 (30-70%) 顆 粒 球 好 酸 球 (0-5%) 好 塩 基 球 (0-2%) 単 球 (3-10%) リンパ 球 (20-50%)
骨 髄 抑 制 とは; 血 液 は 白 血 球 赤 血 球 血 小 板 で 構 成 されています が そのうち 白 血 球 は 細 菌 真 菌 ウイルスなどの 病 原 菌 と 戦 い 体 を 守 る 働 きをして います 白 血 球 のうちもっとも 多 いのは 好 中 球 です 抗 がん 剤 などの 影 響 で 好 中 球 が 減 少 すると 病 原 体 と 戦 う 身 体 の 抵 抗 力 が 低 下 して 細 菌 やウイルスが 繁 殖 し やすくなり 感 染 症 が 発 症 します Ex. 抗 がん 剤 etc.
骨 髄 抑 制 によって 変 化 する 検 査 値 WBC(SEG,ST) 減 少 感 染 を 起 こしやすくなる 最 低 値 は1~2 週 目 PLT 減 少 出 血 しやすく 止 血 しにくい 状 態 になる 最 低 値 は2~3 週 後 HGB 減 少 貧 血 が 出 現 する 数 週 ~ 数 ヶ 月 後 に 出 現 がん 化 学 療 法 とケアQ&A~ナーシングケアQ&A42 号 ~ より 改 変
発 熱 性 好 中 球 減 少 症 発 熱 性 好 中 球 減 少 症 (Febrile Neutropenia : FN) 1. 発 熱 腋 下 温 度 で37.5 以 上 ( 口 腔 温 度 が38.0 以 上 ) 2. 好 中 球 減 少 好 中 球 数 <500/µL もしくは 好 中 球 数 <1000/µLで 今 後 48 時 間 以 内 に 好 中 球 数 <500µLの 減 少 が 予 想 される
Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) Version 4.0 有 害 事 象 共 通 用 語 規 準 v4.0 日 本 語 訳 JCOG 版 ( 略 称 :CTCAE v4.0-jcog) CTCAE v4.0 日 本 語 Grade1 Grade2 Grade3 Grade4 Grade5 白 血 球 減 少 <LLN-3.0 <3.0-2.0 <2.0-1.0 <1.0 - 好 中 球 数 減 少 <LLN-1500 <1500-1000 <1000-500 <500 - 貧 血 <LLN-10.0 10.0-8.0 <8.0 生 命 を 脅 かす 死 亡 血 小 板 数 減 少 <LLN-75 <75-50 <50-25 <25 - LLN. ( 施 設 ) 基 準 値 下 限 Lower Limit of Normal
好 中 球 数 を 計 算 してみよう 表 示 方 法 (イメージ) 2014/09/18 服 用 開 始 消 化 器 内 科 36 歳 男 性 シシド 錠 20mg 分 2 朝 夕 ( 食 後 30 分 ) 4T 14 日 分 egfr:79.0, CRE:0.7, Cys-C:****, GOT:20, GPT:13, ALP:175, T-BIL:1.1, WBC:5.0, SEG:45.5, ST:3.2, HGB:11.6, PLT:288, K:4.1, CPK:25L, TSH:****,A1C-NGSP:4.9 [2014.9.18]
好 中 球 数 を 計 算 してみよう egfr:79.0, CRE:0.7, Cys-C:****, GOT:20, GPT:13, ALP:175, T-BIL:1.1, WBC:5.0, SEG:45.5, ST:4.5, HGB:11.6, PLT:288, K:4.1, CPK:25L, TSH:****,A1C-NGSP:4.9 [2014.9.18] 好 中 球 数 =5.0X10 3 X (45.5+4.5)/100 =2500
薬 剤 に 表 示 される 血 液 検 査 項 目 1. メルカゾール 錠 : 好 中 球 (WBC, SEG, ST) 2. ティーエスワン: 骨 髄 抑 制 (WBC, SEG, ST, HGB, PLT)
1. 重 篤 な 無 顆 粒 球 症 が 主 に 投 与 開 始 後 2ヶ 月 以 内 に 発 現 し 死 亡 に 至 った 症 例 も 報 告 されている メルカゾール 錠 添 付 文 書 より 2. 少 なくとも 投 与 開 始 後 2ヶ 月 間 は 原 則 として 2 週 に1 回 定 期 的 な 血 液 検 査 を 行 う 必 要 があるの で 通 院 すること
1. 医 薬 品 が 好 中 球 の 細 胞 膜 に 結 合 して ハフ テンとして 働 き 抗 好 中 球 抗 体 の 産 生 を 引 き 起 こす 免 疫 学 的 機 序 と 2. 医 薬 品 あるいはその 代 謝 物 が 顆 粒 球 系 前 駆 細 胞 を 直 接 的 に 傷 害 する 結 果 として 好 中 球 が 減 少 するために 感 染 症 が 発 症 しやすくなる Ex. チクロピジン, メルカゾール, サラゾスルファピリジン etc.
29 歳 女 性 既 往 歴 :バセドウ 病 診 断 : 橋 本 病 甲 状 腺 機 能 低 下 症 併 用 薬 :セファランチン グリチロン 配 合 錠 2013 年 11 月 より チラーヂンS(50) 服 用 開 始 2014 年 5 月 末 よりチラーヂンの 服 用 を 中 止 2014 年 6 月 よりメルカゾール 錠 (5)3T/ 分 1 朝 食 後 を 開 始 2014 年 7 月 3 日 メルカゾール 錠 (5)3T/ 分 1 90 日 分 継 続 処 方 2014 年 7 月 13 日 39.4 の 発 熱 咽 頭 痛 あり その 他 自 覚 症 状 なし 2014 年 7 月 14 日 解 熱 しないため 受 診 メルカゾールによる 無 顆 粒 球 症 を 認 めており 感 染 症 カバーとして レボフロキサシン 無 顆 粒 球 症 に 対 してG-CSF 皮 下 注 を 投 与 し 入 院
07 月 02 日 07 月 03 日 07 月 04 日 07 月 05 日 07 月 06 日 07 月 07 日 07 月 08 日 07 月 09 日 07 月 10 日 07 月 11 日 07 月 12 日 07 月 13 日 07 月 14 日 07 月 15 日 07 月 16 日 07 月 17 日 07 月 18 日 07 月 19 日 07 月 20 日 07 月 21 日 07 月 22 日 07 月 23 日 07 月 24 日 07 月 25 日 07 月 26 日 07 月 27 日 07 月 28 日 07 月 29 日 07 月 30 日 07 月 31 日 SEG WBC(*10 3 ) メルカゾール 錠 3T/ 分 1 3000 2500 LVFX G-CSF VCM MEPM 5.5 5 4.5 2000 4 3.5 1500 3 2.5 1000 500 緊 急 入 院 SEG WBC 2 1.5 1 0 0.5 CTCAE v4.0 Grade1 Grade2 Grade3 Grade4 Grade5 好 中 球 減 少 <LLN-1500 <1500-1000 <1000-500 <500 -
表 示 方 法 (イメージ) 2014/09/18 服 用 開 始 40 歳 男 性 メルカゾール 錠 5mg 分 1 朝 ( 食 後 30 分 ) 2T 56 日 分 egfr:84.3, CRE:0.77, Cys-C:****, GOT:20, GPT:13, ALP:175, T-BIL:1.1, WBC:5.0, SEG:45.0, ST:5.0, HGB:11.6, PLT:288, K:4.1, CPK:25L, TSH:****, A1C-NGSP:4.9 [2014.6.18] ( 検 査 情 報 ) メルカゾール : 好 中 球 (WBC,SEG,ST)
egfr:84.3, CRE:0.77, Cys-C:****, GOT:20, GPT:13, ALP:175, T-BIL:1.1, WBC:5.0, SEG:45.0, ST:5.0, HGB:11.6, PLT:288, K:4.1, CPK:25L, TSH:****, A1C-NGSP:4.9 ( 検 査 情 報 ) メルカゾール : 好 中 球 (WBC,SEG,ST) [2014.6.18] 好 中 球 数 =5.0X10 3 X (45.0+5.0)/100 =2500
ポイント 1. 初 回 投 与 か 2. 継 続 投 与 か 3. 検 査 値 に 問 題 はないか 4. 最 終 検 査 日 はいつか 5. 次 回 の 検 査 日 はいつか 6. 自 覚 症 状 で 注 意 すべき 事 は
PMDAのHPより
PMDAのHPより
PMDAの 報 告 症 例
薬 剤 に 表 示 される 血 液 検 査 項 目 1. メルカゾール 錠 : 好 中 球 (WBC, SEG, ST) 2. ティーエスワン: 骨 髄 抑 制 (WBC, SEG, ST, HGB, PLT)
WBC 減 少 を 起 こす 主 な 注 射 薬 剤 抗 がん 剤 WBC 減 少 期 間 ( 日 ) 正 常 への 回 復 ( 日 ) フルオロウラシル 7~14 7~10 メソトレキセート 7~14 7~10 ドキソルビシン 10~14 7~10 シスフ ラチン 10~14 10 ~14 カルボフ ラチン 10~14 10~14 イリノテカン 10~14 10~14 パクリタキセル 10~14 7~10 ドセタキセル(DTX) 7~14 5~10 ゲムシタビン 14~21 10~14 上 記 の 数 値 はあくまで 一 例 であり 投 与 法 投 与 量 によって 異 なる がん 化 学 療 法 とケアQ&A より 引 用
PLT 減 少 を 起 こす 主 な 注 射 薬 剤 抗 がん 剤 PLT 減 少 期 間 ( 日 ) 正 常 への 回 復 ( 日 ) ビンブラスチン 5~10 7~10 シタラビン 7~10 7~10 シクロホスファミド 10~14 7~10 ドキソルビシン 10~14 7~10 シスフ ラチン 14~21 7~21 カルボフ ラチン 14~21 7~21 マイトマイシンC 21~28 14~21 ゲムシタビン 14~21 7~21 上 記 の 数 値 はあくまで 一 例 であり 投 与 法 投 与 量 によって 異 る がん 化 学 療 法 とケアQ&A より 引 用
SEG (WBC,PLT *1000) 6000 5000 症 例 55 歳 男 性 胃 がん TS-1 / DTX 7.5 5580 7.3 5037 8 7 6 4000 3000 5.1 4.9 3534.3 3488.8 5 4 2000 1000 3.2 2112 SEG PLT WBC 3 2 1 0 190 187 147 189 159 2014.07.01 2014.07.08 2014.07.15 2014.07.22 2014.07.29 2014.08.05 2014.08.12 2014.08.19 2014.08.26 0 DTX(タキソテール) DTX DTX
表 示 方 法 (イメージ) 2014/09/18 服 用 開 始 食 道 胃 腸 外 科 67 歳 男 性 ティーエスワン 配 合 OD 錠 20mg 分 2 朝 夕 ( 食 後 30 分 ) 4T 14 日 分 egfr:43.2, CRE:1.4, Cys-C:****, GOT:20, GPT:13, ALP:175, T- BIL:1.1, WBC:7.5, SEG:45.5, ST:4.5, HGB:11.6, PLT:288, K:4.1, CPK:25L, [2014.9.18] ( 検 査 情 報 ) ティーエスワン 骨 髄 抑 制 (WBC,SEG,ST,HGB,PLT) 腎 機 能 (egfr,cre,cys-c)
ティーエスワンとは?( 配 合 成 分 ) 構 造 式 F N O O O NH CI N OH OH KO2C N H N O O NH 成 分 名 テガフール ギメラシル オテラシルカリウム 主 薬 主 にP-450によって 5-FUに 変 換 される 分 解 阻 害 薬 5-FUの 分 解 を 阻 害 (ウラシルの200 倍 強 力 ) リン 酸 化 阻 害 腸 管 に 局 在 し 5-FUのリン 酸 化 を 阻 害 抗 腫 瘍 効 果 抗 腫 瘍 効 果 を 高 める 消 化 管 障 害 を 軽 減 配 合 比 (モル 比 ) 1 : 0.4 : 1 大 鵬 薬 品 ティーエスワン 資 料 より
作 用 機 序 FT Oxo CDHP 1 :0.4 :1 神 経 毒 性 F-β-Ala 腎 排 泄 肝 臓 CDHP 分 解 FT 肝 ミクロゾームP450 腫 瘍 5-FU 消 化 管 骨 髄 Oxo リン 酸 化 FUMP FUMP FUMP TS-FdUMP F-RNA 抗 腫 瘍 作 用 消 化 管 障 害 骨 髄 抑 制 モジュレーターの 作 用 部 位 ティーエスワンカフ セルは5-FUのフ ロドラッグであるテガフール(FT)に,5-FUの 分 解 阻 害 剤 ギメラ シル(CDHP)とリン 酸 化 阻 害 剤 オテラシルカリウム(Oxo)をモル 比 でFT:CDHP:Oxo=1:0.4:1にて 配 合 した 経 口 抗 悪 性 腫 瘍 剤 である 5-FUの 血 中 濃 度 を 上 げて 抗 腫 瘍 効 果 を 高 め,かつ 付 随 して 増 大 する 消 化 器 毒 性 を 軽 減 するという 目 的 を 達 成 するために, 二 つのモジュレーター(CDHP, Oxo)を 用 いた 大 鵬 薬 品 ティーエスワン 資 料 より
ティーエスワン 添 付 文 書 より
ポイント 1. 初 回 投 与 か 2. 継 続 投 与 か 3. 検 査 値 に 問 題 はないか 4. 最 終 検 査 日 はいつか 5. 次 回 の 検 査 日 はいつか 6. 自 覚 症 状 で 注 意 すべき 事 は
まとめ 1. 処 方 せんに 表 示 される 血 液 検 査 値 2. 血 液 検 査 値 と 病 態 3. 好 中 球 数 の 計 算 方 法 4. 血 液 検 査 値 は 常 に 変 動 している