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フランス 語 動 詞 courirの 意 味 論 的 研 究 : 同 一 性 の 把 握 伊 藤 達 也 0.はじめに フランス 語 の 動 詞 courir は, 日 本 語 では 走 る と 訳 され, 足 を 使 った 高 速 での 移 動 を 第 一 に 意 味 すると 考 えられる.しかしcourir の 様 々な 用 例 を 観 察 すると, 必 ずしもこの 意 味 だけでは 網 羅 しきれない 場 合 が 多 数 あ る. 本 稿 の 目 的 は,courir の 生 み 出 す 多 様 な 意 味 の 中 の 同 一 性 を,この 語 彙 の 内 的 スキーマから 把 握 することである. 本 稿 の 最 後 に,courir の 単 独 性 を 際 立 てるため, 日 本 語 の 動 詞 走 る の 用 例 を 分 析 し,この 二 つの 動 詞 が, 指 示 対 象 の 類 似 に 基 づいて 相 互 の 翻 訳 に 使 用 されるにもかかわらず, 内 的 スキーマにおいては 隔 たっていることを 示 す.また 本 稿 はこの 同 一 性 から どのようにして 意 味 の 多 様 性 が 生 まれるかについての 別 の 論 考 によって 補 完 されることになる. 1.Courir の 記 述 1.1. 語 彙 論 的 理 解 の 問 題 点 直 感 的 な 意 味 の 把 握 の 引 き 起 こす 問 題 点 を 理 解 するために,しばしば 挙 げられる courirの 二 つの 意 味 的 特 徴 を 確 認 することから 始 めよう.(i)まず courir は, 生 物 を 主 語 に 取 る 自 動 詞 であること.(ii) 次 にcourir の 意 味 111

は 足 での 高 速 移 動 にあること( 代 表 的 辞 書 類 から 引 用 するとcourir の 第 一 の 意 味 は 身 体 を 一 方, 次 にもう 一 方 の 脚 に 交 互 に 預 けながら 飛 躍 的 連 続 性 によって, 歩 行 よりも 一 般 的 に 迅 速 なやり 方 で 移 動 すること 1 あるい は 地 面 に 支 えを 取 りながら 二 足 あるいは 四 肢 の 連 続 的 かつ 加 速 的 な 運 動 により 高 速 で 移 動 すること 2 )である. 実 際,この 第 一 義 は, 文 脈 を 離 れた 語 彙 から 推 論 されるイメージであ る.したがって 実 際 の 使 用 の 中 では, 上 の 二 つの 特 徴 が 満 たされない 場 合 もある. 例 えば,(i)の 自 動 詞 性 に 関 して, 次 の(1),(2)のようにcourir が 他 動 詞 として 使 用 される 例 も 存 在 する. (1)Il court les filles.( 彼 / courir( 三 人 称 単 数 現 在 )/ 定 冠 詞 / 娘 ( 複 数 ))= 彼 は 女 の 子 たちを 追 いかけてる. (2)Il ne faut pas courir deux lièvres à la fois.( 義 務 のマーカー( 否 定 )/ courir / 二 つの / 兎 ( 復 )/ 同 時 に)= 二 匹 の 兎 を 同 時 に 追 ってはならな い. = 二 兎 を 追 う 者 は 一 兎 をも 得 ず. 3 ) 直 接 目 的 語 (les filles, deux lièvres)を 伴 う(1),(2)が 示 すように, 実 際 にはcourir は 他 動 詞 用 法 を 持 っている.courir は 固 定 的 な 自 動 詞 ではなく, 頻 度 の 差 こそあれ, 自 動 詞 用 法 と 他 動 詞 用 法 をもつ 動 詞 なのである 4. 特 徴 (i)のもう 一 つの 条 件, 生 物 が 主 語 となるという 特 徴 についても (3)-(7)が 反 例 となろう. (3)Le bruit court que.(( 定 冠 詞 / 噂 / courir( 三 人 称 単 数 現 在 )/ 補 語 標 識 =... という 噂 が 流 れている. ) (4)Ses doigts courent sur le clavier du piano.( 所 有 形 容 詞 / 指 / courir ( 三 人 称 数 / 上 に / 定 冠 詞 / 鍵 盤 / の / ピアノ)= 彼 ( 女 )の 指 がピア ノの 鍵 盤 の 上 を 走 る. ) (5)Ces montagnes courent du nord au sud.( 指 示 形 容 詞 / 山 ( 複 数 )/ courir ( 三 人 称 複 数 )/ から / 北 / まで / 南 = これらの 山 々は 北 か 112

ら 南 へと 走 っている. ) (6)Le Rhône court du nord au sud.( 定 冠 詞 / ローヌ / courir( 三 人 称 単 数 現 在 )/ から / 北 / まで / 南 = ローヌ 川 は 北 から 南 へと 流 れる. courir = couler ) (7)Le bail court à partir du 1er janvier.( 定 冠 詞 / 賃 貸 契 約 / courir( 三 人 称 単 数 現 在 )/ から / 一 月 一 日.= 賃 貸 契 約 は1 月 1 日 から 有 効 であ る. ) しばしばメタファーという 説 明 がこれらの 例 に 対 しなされることが 予 想 されるが, 元 来 メタファーは, 単 語 の 解 釈 の 推 論 による 転 移 を 意 味 する 修 辞 学 の 概 念 であり, 言 語 学 の 現 象 を 説 明 するのに 適 切 かどうかは 慎 重 な 判 断 が 必 要 であろう 5. 実 際, 以 下 の 例 (8)-(10)のcourir の 使 用 に 関 しては 走 る という 意 味 からの 直 接 的 ないかなる 転 移 も 認 めにくい. (8)Il court un danger ( 彼 / courir( 三 人 称 単 数 現 在 )/ 不 定 冠 詞 / 危 険 = 彼 は 危 険 にさらされている ) (9)Au Québec, 1 enfant sur 4 court le risque de devenir analphabète. (で / ケベック / 1 / 子 供 / につき / 4 / courir( 三 人 称 単 数 現 在 )/ 定 冠 詞 / 危 険 / の / なる / 文 盲 = ケベックでは4 人 に1 人 の 子 供 が 文 盲 になる 危 険 にさらされている. ) (10)Ce spectacle est très couru.(この / 催 物 / である / 非 常 に / courir( 過 去 分 詞 6 )= この 催 物 はとても 人 気 がある. ) 本 稿 ではこのような 第 一 義 からもその 転 移 からも 説 明 できない 例 こそが 動 詞 courirの 多 様 性 の 中 の 統 一 性 を 把 握 する 為 の 重 要 なデータと 考 える. メタファーによる 転 義 の 説 明 とともによく 使 われる, 意 味 の 列 挙 による 説 明.すなわち,courirは 自 動 詞 の 場 合 は 走 る, 他 動 詞 の 場 合 は ( 走 っ て) 追 いかける と 多 かれ 少 なかれ 連 続 性 のある 列 挙 を 用 いることも 慎 ま 113

なければならない. 本 稿 では, 同 じ 動 詞 が 自 動 詞 と 他 動 詞 の 場 合 に 二 つの 意 味 を 持 つというのではなく, 同 じ 語 彙 は 根 本 的 には 同 一 のスキーマを 持 ち, 自 動 詞 と 他 動 詞 という 使 用 環 境 の(したがって 相 互 作 用 の 働 きの)ち がいにより 多 様 な 意 味 が 構 築 されるとする 見 方 をとる. 環 境 との 相 互 作 用 が 意 味 の 多 様 化 の 源 泉 とする 見 地 には,courir に 即 し ては, 以 下 の zeugma の 考 察 は 示 唆 的 であろう. (11)Il court un danger et une périlleuse carrière.( 彼 / courir( 三 人 称 単 数 現 在 )/ 不 定 冠 詞 / 危 険 / そして / 不 定 冠 詞 / 危 険 な/ 職 務 ) ここに 現 れる 動 詞 courir が 翻 訳 困 難 なのは,un danger( 危 険 )の 目 的 語 と しては 身 をさらす (courir = s exposer)の 意 味 で,une périlleuse carrière ( 危 険 な 職 務 )の 目 的 語 としては 参 加 する (courir = être engagé)の 意 味 で 使 用 されているからである.これがzeugma(くびき 語 法 )と 見 なされる のは, 最 初 の 目 的 語 un danger の 生 起 に 伴 って courir に 与 えられた 意 味 と 二 番 目 の 目 的 語 une périeuses carrièreの 要 求 するcourirの 意 味 とが 衝 突 を 起 こ すからである.Courir はとりわけ 他 動 詞 としての 使 用 において, 目 的 語 が 意 味 構 築 に 大 きな 影 響 を 与 えていることが 分 かるだろう 7. 1.2. 作 業 仮 説 上 記 の 事 実 をふまえ, 本 稿 では, 様 々な 使 用 において 異 なる 意 味 が 構 築 されていていたとしても, 同 一 語 彙 が 使 用 されていれば 何 らかの 同 一 性 が あるという 作 業 仮 説 を 立 てる 8.この 同 一 性 の 仮 説 は, 第 一 義 とその 派 生 として 周 縁 的 な 意 味 を 記 述 することを 戒 める. 我 々の 立 場 は, 最 も 代 表 的 な 意 味 も 最 も 周 辺 的 な 意 味 もその 意 味 構 築 のプロセスは 同 じである と 見 なす.この 同 一 性 は, 第 一 義 とは 異 なり, 意 味 の 多 様 な 姿 を 通 じ て,その 源 泉 として 把 握 される. 本 稿 の 分 析 の 対 象 であるcourir に 即 して 114

言 えば, 意 味 の 多 様 性 を 走 る という 本 義 が 転 じたメタファーとして 説 明 するのではなく,courir の 根 本 的 スキーマが 様 々な 周 辺 語 彙 との 相 互 作 用 を 通 じて 作 り 出 された 結 果 と 考 えるのである.この 仮 説 により,courir の 生 み 出 すもっとも 奇 妙 に 思 える 意 味 (8)-(10)でさえも, 働 いている 意 味 構 築 のプロセスには 同 様 の 規 則 性 があると 仮 定 される. この 意 味 構 築 のプロセスは 発 話 (énonciation)すなわち, 言 表 (énoncé) の 産 出 を 通 じて 成 立 している. 発 話 は, 語 彙 単 位 に 固 有 の 抽 象 的 なスキー マを 実 際 の 言 表 の 中 に 発 現 させるものである.すなわち 発 話 を 通 じて, 間 主 体 関 係, 文 脈, 他 の 周 辺 語 彙 との 関 係 性 の 中 に 語 彙 が 生 起 し, 他 の 要 素 との 相 互 作 用 が 生 まれ, 意 味 が 構 築 されるのである. 本 稿 では 発 話 こそが 意 味 の 多 様 性 の 源 泉 であると 見 なす 発 話 主 義 とともに, 意 味 は 発 話 以 前 に 存 在 しておらず, 発 話 を 通 じて 構 築 されるという 構 築 主 義,また 意 味 は 世 界 にではなく 言 語 の 中 に 存 在 するという 言 語 内 的 意 味 論 の 立 場 を 取 る. この 一 般 的 な 原 則 に 加 えて, 副 次 的 な 仮 説 が 必 要 となる.Courir は 動 詞 という 品 詞 に 属 しており,また 動 詞 は 自 動 詞 と 他 動 詞 に 分 類 できる 9. 動 詞 は 述 語 性 をもち,フランス 語 では, 主 語 に 応 じて 活 用 し, 時 制 アスペ クトなどの 限 定 を 受 けるなど 屈 折 語 としての 特 徴 を 必 然 的 に 持 っている. 他 動 詞 の 場 合 は 明 確 であるが, 自 動 詞 の 場 合 であっても, 動 詞 は 二 項 間 の 関 係 性 を 規 定 するものと 特 徴 づけられる. 実 際, 語 彙 は 品 詞 的 スキーマの 性 質 と 語 彙 概 念 (notion) 的 なスキーマを 兼 備 している.すなわち 動 詞 courir は 名 詞 cours と 共 通 の 内 的 スキーマを 持 っていると 考 えられるが,そ れぞれ 異 なる 品 詞 の 鋳 型 にはめられているため, 異 なる 機 能 を 発 揮 するの である. 本 稿 のアプローチは,プロトタイプを 使 って 中 心 的 意 味 を 定 義 する 認 知 言 語 学 のアプローチとも 異 なる.プロトタイプによる 定 義 はしばしば, 時 速 6kmまでが 歩 く ( 低 速 移 動 )でそれ 以 上 が 走 る ( 高 速 移 動 )を 意 味 する,あるいは 歩 く ためにはどちらかの 足 が 地 面 についていなけれ 115

ばならない 等,それぞれの 活 動 を 認 知 可 能 な 言 語 外 的 特 性 で 定 義 する 10.し かしながらこの 区 別 は, 言 葉 の 区 別 ではなく, 移 動 方 法 の 区 別 である. 本 稿 では, 言 語 活 動 を 人 間 の 認 知 能 力 の 下 位 に 置 くのではなく,それ 自 体 自 律 した 活 動 とみなし, 固 有 の 領 域 として 把 握 しようとする. また, 本 稿 の 立 場 は,Saussure の 言 う 差 異 が 意 味 を 生 み 出 すという 考 え 方 とも 異 なる 11. 差 異 が 生 み 出 す 意 味 とは, 記 号 走 る が 他 の 記 号 歩 く との 差 異 において 走 る を 意 味 するという 考 え 方 である. Saussure においては( 少 なくとも 講 義 においては)signifiant とsignifié は 一 対 一 の 対 応 関 係 をなし, 多 義 性 の 問 題 は 介 入 しない. 本 稿 ではcourir の 多 義 性 を 通 じてこのシニフィアンの 意 味 論 的 本 質 を 記 述 しようとする. 日 本 語 でも 走 る と 歩 く には 二 項 対 立 的 相 補 関 係 があるのではなく, それぞれの 語 彙 単 位 に 単 独 性 が 存 在 する. 本 稿 は, 意 味 は 言 語 の 内 部 にあ る とするSaussure の 自 律 主 義 的 視 点 を 追 し 進 め, 意 味 が 発 話 以 前 に, 概 念 や 事 物 として 存 在 し, 語 彙 はそれを 名 指 すものとして 存 在 しているので はなく, 語 彙 の 意 味 は 発 話 を 通 じて, 言 語 の 中 に 構 築 されるという 立 場 を 取 る 12. 発 話 がなければ, 語 の 意 味 は 脱 文 脈 化 された 語 彙 的 意 味, 理 想 化 された 概 念 との 恣 意 的 な 結 びつきである. 2.Courirの 意 味 構 築 プロセス 以 上 の 作 業 仮 説 に 基 づき,courir の 内 的 スキーマを 考 えると, 現 時 点 で 以 下 の 定 義 が 浮 かび 上 がる 13.すなわちcourir は ( a)xとyとを 関 係 づけ る.( b)x( 主 体 )にとってY( 目 的 )は 接 近 不 可 能 であると 同 時 に 接 近 し なければならない 対 象 である を 表 す.この 定 義 は 二 つの 要 素 X と Y を 含 むが, 自 動 詞 と 他 動 詞 の 用 例 いずれに 場 合 にも 存 在 する 内 的 スキーマであ る.XとYは 主 語 と 目 的 語 という 語 彙 の 形 では 必 ずしも 現 れないが,courir 自 体 が 要 求 する 要 素 である. 分 析 的 には(a)は 動 詞 としての 品 詞 的 スキー マ,( b)が courir の 語 彙 的 スキーマである. 116

このスキーマからどのように 個 々の 意 味 が 生 じるのだろうか.まずJe cours. 私 は 走 る の 場 合, 歩 行 よりも 早 い 速 度 での 移 動 を 意 味 する 自 動 詞 表 現 である.ここでは X はje 私 であるが,Y は 語 彙 的 には 明 示 されてい ない.しかし, 到 達 不 可 能 な 目 的 Y( 非 明 示 )に 対 して 関 係 付 けられるこ とで,そこへ 向 かう 運 動 が 私 に 課 されるのである.それが 走 る という 意 味 を 生 む. 注 意 しなければいけないのは, 目 的 ( 性 )は 抽 象 的 な 対 象 であり, 場 所 ではないことである.Courirには 目 的 もなく 走 り 回 る(parcourir)の 意 味 の 場 合 も 存 在 する(J ai couru toute la ville sans le trouver). 到 達 不 可 能 な 目 的 へと 到 達 するべく 関 係 付 けられる 主 体 がjeである.すなわち,courir にあっ ては,むしろ 目 的 性 は 絶 対 的 に 到 達 不 可 能 である 目 的 地 へ 走 っていくとい うことではなく, 走 る という 行 為 自 体 が 目 的 性 への 接 近 不 可 能 という 定 義 から 構 築 される 意 味 なのである.Courir はその 意 味 で, 移 動 ではなく 活 動 である 14. 他 動 詞 用 法 の 場 合 X と Y は 文 脈 に 登 場 する.Il court les filles( 彼 は 娘 た ちを 追 いかける)ではil ( 彼 )がX でありles filles( 娘 たち)がY である. Courir はここでは, 走 ることよりも, 接 近 するたびに, 対 象 が 逃 げていく ことを 意 味 している.Courir deux lièvres の 例 も, 兎 を 追 い 求 めながら 逃 げ られることを 意 味 しており, 走 る ことよりも, Y(この 場 合 は 兎 ) に 接 近 しようとするのだが, 接 近 できない という 意 味 が 強 い. Il court après la gloire ( la richesse, le succès)( 彼 は 栄 光 ( 富, 成 功 )をむな しく 追 い 求 める)も 同 様 に 他 動 詞 の 例 だが, 抽 象 的 な 対 象 が 目 的 語 である. 走 る という 意 味 から 離 れ, 手 に 入 れられないものを 追 いかけるという 意 味 である. 前 置 詞 après の 存 在 によって むなしく 無 駄 に という 意 味 が 強 められ, 失 敗 のニュアンスが 付 加 されている. 目 的 語 がないという 意 味 では, 他 動 詞 用 法 ではないもののTu peux toujours courir! (むなしく 追 い 続 けていろよ!)もpouvoir や toujours の 影 響 で 117

courirが むなしく 追 い 求 める を 強 く 意 味 している 例 である. Ce spectacle (ce restaurant)est très couru.(この 催 し(レストラン)は 人 気 がある)ではspectacle が 接 近 不 可 能 であると 同 時 に 接 近 が 義 務 づけられた 対 象 Y であり X は 不 特 定 多 数 である. 当 然 ここでも 移 動 の 意 味 は 薄 く, 接 近 の 義 務 とその 不 可 能 性 が 同 時 に 喚 起 されている. ある 領 域 が 与 えられるとその 中 を 走 り 回 る,parcourir の 意 味 をもつこと がる. 広 がる, 流 れる という 意 味 の 場 合,Les montagnes court du nord au sud.であれば 山 々が 北 から 南 へ 広 がっている.Cette histoire court les rues. 北 から 南, 街 路 をなどと 範 囲 を 限 定 されることでcourir は parcourir の 意 味 を 構 築 する. 3. 走 る ここで, 日 本 語 の 動 詞 走 る について,courir との 重 要 な 相 違 点 を3 点 指 摘 しよう.まず 第 1 に 日 本 語 の 走 る は,courir が 自 / 他 両 方 の 使 用 が 可 能 であるのに 対 し, 安 定 的 に 自 動 詞 である. 確 かに, 対 格 相 当 の を 格 を 従 える 例 は 以 下 のように 存 在 する. (12)100メートル 走 を 走 る (13)マラソンを 走 る 16 (14)グランドを 走 る (15) 市 内 を 走 る 以 上 の 例 は 典 型 的 なをの 用 法 ではなく, 踊 り(タンゴ,バレエ,ルン バ)を 踊 る や 歌 (ブルース,シャンソン,カンツォーネ)を 歌 う の ような 同 語 反 復 的 な 擬 似 他 動 詞 (12)-(13)か, 空 を 飛 ぶ, 海 を 泳 ぐ よ うに 直 接 目 的 語 ではなく, 動 詞 の 行 為 の 及 ぶ 範 囲 を 示 す を の 用 例 であ る. 118

(16 )の 直 訳 の 日 本 語 (16)のように 目 的 語 を 伴 うことはできない. (16) * 同 時 に 二 匹 の 兎 を 走 る (16 )Courir deux lièvres à la fois また(17)と(17 )では 意 味 が 大 きく 異 なっている. (17) 女 の 子 たちの 後 を 走 る (17 )courir après les filles (17)は 空 間 的 に 女 の 子 たちの 後 ろで 走 ること を 意 味 しているが,フ ランス 語 の(17 )は 女 の 子 たちを 追 いかけては 逃 げられる という 意 味 であり,この 場 合 後 ろを 走 る という 意 味 は 認 められない.courir の 場 合 と 違 い, を で 導 かれる 語 彙 の 要 素 は 走 る の 意 味 に 直 接 的 に 関 与 せ ず, 別 々に 意 味 を 作 っている 16. 第 2の 特 徴 として, 走 る に 名 詞 を 後 続 させるには に 格 が 使 用 ( 悪 事 に 走 る 非 行 に 走 る )される.この 場 合, 名 詞 に 制 限 があり, 避 ける べき 事 柄 ( 極 端, 賭 博, 感 情 )しか 出 現 し 得 ない. 政 治 活 動 に 走 る など の 場 合 でも 過 激 な / 非 合 法 の 政 治 活 動 に 走 る などの 否 定 的 な 形 容 詞 を 加 えた 方 が 据 わりが 良 い. 誘 惑, 重 力 を 持 って, 抵 抗 力 がなければ 安 易 に そこへ 引 きずり 込 まれる 対 象 が 語 彙 単 位 走 る によって 文 脈 に 要 求 され ている. 一 般 的 に 良 いことや 中 立 的 なこと( 政 治 活 動 )であっても, 悪 いことというバイアスが 走 る によってかかる. 第 3の 特 徴 は 走 る は 主 語 に 乗 り 物 を 取 ることができる.(18)は courir とその 主 語 を 用 いてフランス 語 には 直 訳 できない. (18) 船 / 電 車 / バス / 自 動 車 が 走 る 119

フランス 語 の courir とは 異 なり, 日 本 語 の 走 る には 滑 らかさ 抵 抗 のなさ が 深 く 関 わっている.この 特 徴 は, 連 用 形 が 名 詞 として 機 能 す る はしりの 魚 桜 えびのはしり など, 旬 のものの 早 い 出 現 を 表 す は しり の 用 例 の 中 にも 見 て 取 れる.この 場 合 も 第 一 義 としばしば 見 な される 足 での 高 速 移 動 とは 大 きく 隔 たった 意 味 だが,courir とは 違 う 走 る の 内 的 スキーマから 構 築 されてきていると 考 えられる. 名 詞 だけで なく, 複 合 動 詞 としても はしりがき のように 走 り が はやく 書 くという 意 味 に 用 いられることがある.また, 早 い の 意 味 は はしり 知 恵 ( 物 事 を 早 のみこみして, 考 えの 浅 いこと) などでは 素 早 く 現 れて 消 え るというネガティブな 意 味 を 持 つ. このように 走 る とcourir は, 語 彙 的 意 味 は 同 じとはいえ, それぞ れの 多 義 を 成 り 立 たせる 内 的 スキーマには 大 きなちがいがある. 走 る の スキーマを 抽 出 するのは 本 稿 の 範 囲 を 越 えるが, 避 けるべき 対 象 への 抵 抗 の 消 滅 と 仮 に 形 容 できる 内 的 スキーマが 関 連 づけられるかもしれない. 対 象 研 究 をさらに 深 められる 場 があればより 広 範 囲 のデータに 基 づく 精 緻 な 特 徴 付 けがなされるべきであろう. 少 なくともここでは 走 る との 比 較 は courirの 単 独 性 を 確 認 することが 目 的 である. 4. 結 論 にかえて 語 彙 的 意 味 を 中 心 に 考 えるとcourir と 走 る は 等 価 と 見 なされうるが, この 二 つの 語 彙 単 位 の 各 言 語 内 での 固 有 性 をそれぞれの 表 現 の 持 つ 意 味 の 多 様 性 から 考 えると, 各 語 彙 のもつ 根 本 的 なスキーマは 大 きく 異 なってい る.Courirは 接 近 すべき 目 的 への 接 近 不 可 能 性 が 基 本 構 造 としてあり, その 結 果, 足 を 速 く 動 かして 移 動 する を 含 む 様 々な 意 味 が 文 脈 に 応 じて 生 まれて 来 る. 他 方 走 る は, 避 けるべき 対 象 への 抵 抗 の 消 滅 という 基 本 構 造 が 仮 定 され,そこから 高 速 移 動 という 意 味 が 生 じ,また 乗 り 物 が 主 語 になれるなど,courir にはない 単 独 性 がある. 120

本 稿 では, 屈 折 語 であるフランス 語, 膠 着 語 である 日 本 語 の 事 例 を 見 た が, 孤 立 語 である 中 国 語 やクメール 語 にも 意 味 構 築 における 同 様 のメカニ ズムが 指 摘 され (Chan(2002), 劉 (2005))ており, 人 間 の 言 語 活 動 にお ける 意 味 産 出 に 一 般 性 のある 特 徴 であるように 思 われる. 同 一 のスキーマからどのようにして 様 々な 意 味 が 生 まれてくるのか, 意 味 の 多 様 化 のプロセスの 精 密 な 記 述 が 次 回 の 課 題 となるであろう. 1 Se déplacer par une suite d élans, en reposant alternativement le corps sur une puis l autre jambe, et d une allure généralement plus rapide que la marche (Petit Robert) 2 Se déplacer rapidement par un mouvement successif et accéléré des jambes ou des pattes prenant appui sur le sol. (TLF) 3 = qui court deux lièvres n en prend aucun. も 同 じ 意 味 で 使 用 される. 4 日 本 語 ではこれらの 例 は 走 る を 用 いては 翻 訳 されない.また 後 に 見 るよ うに 日 本 語 では 走 る は 主 語 に 生 物 を 必 ずしも 要 求 しない. 例 えば 車 が 走 る (*Une voiture court.) は 日 本 語 では 問 題 ないが,フランス 語 では 彼 は 車 で 走 る (Il court en voirure.) という 主 語 に 生 物 を 立 てた 構 文 を 取 らねばならず, 車 を 主 語 にできない.(ただし 実 例 を 調 査 すると, 関 係 節 の 先 行 詞 として la voiture qui court / a courru (... 走 る/った 車 )の 形 で 使 用 される 例 もある.)これはフランス 語 と 日 本 語 の 違 い 以 上 に, 二 つの 動 詞 がそれぞれ 固 有 的 な 振 る 舞 いをするからであ り,この 固 有 性 の 問 題 については 後 に 戻 る. 5 メタファーに 注 目 することで 認 知 言 語 学 を 開 いたLakoff & Johnson (1980) Lakoff (1987)などの 重 要 性 を 否 定 するものではない. 6 この 意 味 では 過 去 分 詞 形 で 用 いられることが 多 い. 7 Courir に 限 らず, 程 度 の 然 こそあれ, 他 の 動 詞, 他 の 語 彙 単 位 についても 多 か れ 少 なかれ 当 てはまることは 言 うまでもない. 8 この 考 え 方 はSaussure( 講 義 )の 考 え 方 よりも, 後 期 Wittgenstein の 意 味 の 使 用 説 に 近 いと 言 えるNormand ( Normand & Culioli 2005)はしばいしば Culioli の 考 えとWittgenstein の 考 えの 近 さを 指 摘 している. 9 代 名 動 詞 se courirの 使 用 は 限 られており(Mon chien se court après la queue.), 再 帰 性 の 付 加 が 見 られるが, 他 動 詞 の 場 合 と 異 なり, 根 本 スキーマと 積 極 的 に 相 互 121

作 用 をする 力 を 持 たない. 品 詞 は 異 なるが,Courir après などの 前 置 詞 との 組 み 合 わせも 根 本 スキーマを 変 えずaprès の 意 味 を 付 加 するにとどまっている.なお Courir après についてはFranckel & Paillard (2005)に 記 述 がある.この co-texte の 意 味 構 築 への 関 わり 方 については 別 の 機 会 に 論 じたい. 10 フランス 語 に 歩 く に 相 当 する 動 詞 がないことはしばしば 学 習 者 の 気 づく ところである. 英 語 の walk に 相 当 する 動 詞 はaller à pied 徒 歩 で 行 く [ 行 く で 足 ]であり,marcherは 日 常 的 にはそれほど 用 いられない.それに 比 べれば, courir は 走 る ないし runと 同 じように 使 われる. 11 Cf. de Saussure, F. (1916) Cours de Linguistique générale. 12 Cf. de Vogüé (1992) : C est parce que l énonciation est conçue comme un processus de constitution de sens (et non comme l acte d un locuteur) que le langage doit être conçu comme une activité. Le sens est construit, énoncé par énoncé. なぜならば 発 話 は( 発 話 者 の 行 為 としてではなく) 意 味 の 構 築 の 過 程 (プロセス)として 考 えられ, 言 語 活 動 は(ひとつの 純 粋 な) 活 動 として 考 えられなければならないからである. 言 表 ごとに, 意 味 は 構 築 される. 13 本 稿 の 執 筆 に 先 行 して,2010 年 7 月 18 日, 日 本 フランス 語 学 会 第 265 回 例 会 ( 於 慶 応 大 学 ),2011 年 5 月 14-15 日, 日 本 語 とフランス 語 : 対 象 言 語 学 的 アプロー チ( 於 名 古 屋 大 学 )で courirについて 口 頭 発 表 をする 機 会 を 得 た.とりわけ France Dhorne, 小 熊 和 郎,Irène Tamba, 藤 村 逸 子 先 生 方 の 助 言 が 仮 説 構 築 に 重 要 な 役 割 を 果 たした.この 場 を 借 りて 感 謝 したい. 14 Courir は 複 合 時 制 の 助 動 詞 として avoir を 取 り,ほとんどの 移 動 動 詞 が être を 要 求 するのと 対 照 をなす. 15 仏 語 でもcourir un marathon はインフォーマントによると 英 語 の run a marathon の 影 響 が 強 いようある. 100 メートルを 走 る courir 100 mètres は 問 題 のない 言 い 回 し. 16 Tsunoda (1985), 角 田 (2007)のように 他 動 詞 の 典 型 的 な 特 徴 に 目 的 語 の 性 質 の 変 化 を 重 視 するならば courirも 含 め 走 る は 他 動 詞 用 法 を 持 っていても, 他 動 詞 性 の 弱 い 動 詞 であると 言 える. 参 考 文 献 Culioli, A. (1990-1999) Pour une linguistique de l énonciation 1-3, Ophrys, Paris. Culioli, A., Cl. Normand (2005) Onze rencontres, Ophrys, Paris. Chan, S. (2002) Identité et variation des unités de langue : étude d une série d unités 122

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