コウノトリ からの アドバ イス 不 妊 治 療 について 知 っておいていただきたいこと 監 修 埼 玉 医 科 大 学 産 科 婦 人 科 学 教 室 教 授 石 原 理 先 生 フェリング ファーマ 株 式 会 社
1 月 経 周 期 と 妊 娠 女 性 の 体 について どれくらい 知 っています か? ホルモンの 働 きと 月 経 周 期 ホルモンには 体 のいろいろな 臓 器 や 器 官 に 働 きかけ 機 能 を 調 節 する 働 きがあります 女 性 に 毎 月 訪 れる 月 経 も 脳 から 分 泌 されるいくつかのホルモンを 通 じて 卵 巣 や 子 宮 に 定 期 的 に 指 令 が 出 されることにより 起 こります 妊 娠 を 望 む 方 は 自 分 の 月 経 周 期 を 知 っておくことが 大 切 です なぜなら 女 性 が 妊 娠 できるのは1カ 月 のうちわずか 数 日 排 卵 日 の 前 後 だけだからです 排 卵 は 月 経 周 期 の 中 頃 28 日 周 期 の 人 であれば14 日 目 に 排 卵 されると 予 測 できます この 前 後 が 最 も 妊 娠 の 確 率 が 高 い 時 期 です 卵 子 37.0 基 礎 体 温 ( ) 36.5 低 温 相 36.0 ( 日 ) 月 経 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 月 経 期 増 殖 期 下 垂 体 FSH 卵 胞 の 成 熟 を 促 す 卵 胞 の 発 育 が 進 み エストロゲンが 大 量 に 分 泌 される 卵 胞 の 発 育 とともに エストロゲンを 分 泌 し 始 める LH 卵 胞 破 裂 を 促 す エストロゲン エストロゲンが 子 宮 内 膜 を 厚 くする 卵 胞 卵 胞 2
の 寿 命 は12~36 時 間 その 間 に 精 子 と 出 会 うことが 重 要 です 自 分 の 月 経 周 期 や 排 卵 日 を 知 るには 基 礎 体 温 表 の 記 録 が 役 に 立 ちます 基 礎 体 温 基 礎 体 温 は 安 静 時 の 体 温 で 朝 目 覚 めたときに 口 の 中 に 婦 人 体 温 計 を 入 れ 測 定 した 体 温 のことをいいます 体 温 変 化 によりいつ 排 卵 があったかを 推 測 できます 排 卵 高 温 相 高 温 相 と 低 温 相 の 差 約 0.3~0.6 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 分 泌 期 エストロゲンの 作 用 により 下 垂 体 から LHが 大 量 に 分 泌 される プロゲステロン エストロゲン 大 量 の LH 大 量 のLHが 卵 胞 に 届 いて 排 卵 が 起 こる 排 卵 プロゲステロンが 子 宮 内 膜 の 環 境 を 整 える 黄 体 排 卵 後 の 卵 胞 は 黄 体 に 変 化 し プロゲステロン を 分 泌 する 3
2 不 妊 の 原 因 私 は 病 気 なの? ~まずは 原 因 を 知 ることから 子 宮 内 膜 の 変 化 と 各 種 ホルモンの 役 割 P2~3の 図 は 妊 娠 に 備 える 体 の 働 きを 基 礎 体 温 や 子 宮 内 膜 の 変 化 から 見 たもの です 基 礎 体 温 が 低 い 日 が 続 く 低 温 相 のとき 脳 の 下 垂 体 からは 主 としてFSH( 卵 胞 刺 激 ホルモン)が 分 泌 されます FSHは 卵 巣 に 働 きかけて 卵 胞 を 発 育 させ LH( 黄 体 形 成 ホルモン)は 卵 の 成 熟 と 排 卵 を 促 します また 卵 胞 からはエストロゲンと 呼 ばれる 卵 胞 ホルモンが 大 量 に 分 泌 されます エストロゲンは 子 宮 内 膜 を 厚 くします( 増 殖 期 ) 基 礎 体 温 が 低 温 相 から 高 温 相 に 変 わる 頃 に 排 卵 が 起 こります 排 卵 は たくさんの エストロゲンが 下 垂 体 に 届 いた 結 果 下 垂 体 から 一 時 的 に 大 量 のLHが 分 泌 されて 起 こります 排 卵 が 起 こると 卵 子 が 飛 び 出 していった 後 の 卵 胞 は 黄 体 に 変 化 し プロ ゲステロン( 黄 体 ホルモン)が 分 泌 されます プロゲステロンは 受 精 卵 が 着 床 しやす いように 子 宮 内 膜 の 環 境 を 整 えたり( 分 泌 期 ) 妊 娠 を 継 続 させるように 働 くホルモン です また 体 温 を 上 げる 働 きがあるため その 影 響 で 体 温 の 高 い 日 が 続 きます もし 妊 娠 していれば 基 礎 体 温 は 高 いまま 続 きますが 妊 娠 しなかった 場 合 は 12~16 日 後 に 低 温 相 に 移 行 し 月 経 が 訪 れ 厚 くなった 子 宮 内 膜 がはがれ 落 ちて 月 経 が 始 まります 不 妊 って? 世 界 保 健 機 構 (WHO)は 避 妊 をしないで 1 年 以 内 に 妊 娠 しない 場 合 を 不 妊 と 定 義 しています 妊 娠 にいたるには 排 卵 受 精 着 床 という 3つ の プ ロセス が あります が このど こ か の 段 階 に 問 題 があると 妊 娠 しにくくなります 男 女 別 不 妊 の 原 因 不 妊 の 原 因 は 必 ずしも 女 性 にのみあるのでは なく 男 性 にも 原 因 のある 場 合 が 約 半 数 あります ただし 検 査 をしても 原 因 が 明 らかとならない 場 合 や 女 性 の 加 齢 が 原 因 の 場 合 もあります 4
女 性 によくある 不 妊 の 原 因 排 卵 因 子 とその 疾 患 排 卵 に 関 係 するホルモン 分 泌 などにトラブルがあり 卵 胞 が 育 たない 排 卵 が 起 こらないなど FSH LH 分 泌 低 下 多 のう 胞 性 卵 巣 症 候 群 高 プロラクチン 血 症 早 発 卵 巣 不 全 甲 状 腺 疾 患 卵 管 子 宮 卵 巣 育 たない 卵 管 因 子 とその 疾 患 卵 子 や 精 子 受 精 卵 の 通 り 道 である 卵 管 がふさがり 精 子 が 卵 子 に 到 達 できないなど 卵 管 閉 塞 卵 管 狭 窄 ゆ 卵 管 采 周 囲 癒 着 卵 子 ピックアップ 障 害 感 染 による 卵 管 異 常 卵 管 采 癒 着 している ふさがっている 子 宮 因 子 とその 疾 患 子 宮 内 に 筋 腫 などの 障 害 物 があったり 子 宮 の 働 きに 問 題 があるため 受 精 卵 が 着 床 できない 先 天 性 子 宮 奇 形 子 宮 ( 粘 膜 下 ) 筋 種 子 宮 内 膜 ポリープ 黄 体 機 能 不 全 子 宮 筋 腫 筋 層 着 床 できない けい 頚 管 因 子 とその 疾 患 頚 管 や 頚 管 粘 液 分 泌 に 問 題 があって 精 子 が 頚 管 を 通 って 子 宮 に 入 れないなど 抗 精 子 抗 体 頚 管 粘 液 の 異 常 精 子 子 宮 頚 管 動 けない 5
3 男 性 不 妊 の 原 因 と 検 査 不 妊 の 原 因 は 男 性 にも 多 くある!? 男 性 にみられる 不 妊 原 因 の 多 くは 精 子 をつくる 機 能 の 障 害 ( 造 精 機 能 障 害 )にあると いわれています 男 性 不 妊 の 原 因 精 路 通 過 障 害 閉 塞 性 無 精 子 症 など 造 精 機 能 障 害 副 性 器 障 害 射 精 障 害 りゅう 精 索 静 脈 瘤 染 色 体 異 常 など 副 睾 丸 炎 前 立 腺 炎 など 勃 起 不 全 (ED) 逆 行 性 射 精 など 基 本 的 な 検 査 方 法 問 診 視 診 触 診 精 液 検 査 性 腺 系 ホルモン 測 定 精 管 精 のう 腺 撮 影 染 色 体 検 査 精 液 検 査 と 機 能 障 害 無 精 子 症 精 液 中 に 精 子 が 1 個 も 見 当 たらない 乏 精 子 症 精 子 の 数 が 少 ない 精 子 無 力 症 精 子 の 動 きが 悪 い 精 子 奇 形 症 受 精 能 力 のない 奇 形 の 精 子 が 多 い 精 液 検 査 の 基 準 値 (WHOの 基 準 2010 年 ) 精 液 量 :1.5mL 以 上 精 子 濃 度 :1mL 中 1,500 万 個 以 上 精 子 運 動 率 : 前 進 運 動 精 子 32% 以 上 ( 採 取 後 60 分 以 内 ) 正 常 形 態 率 :4% 以 上 6
c o l u m n 無 精 子 症 でも すぐあきらめる 必 要 はない 不 妊 症 の 原 因 は 女 性 ばかりではありません その 原 因 の 比 率 は 女 性 の みが 原 因 41% 男 性 のみが 原 因 24% 男 女 に 原 因 あり24% 原 因 不 明 11%と 男 性 側 にも 約 半 数 の 原 因 があるといわれています 精 液 検 査 の 結 果 から 無 精 子 症 乏 精 子 症 精 子 無 力 症 精 子 奇 形 症 といったタイプに 分 けられます 無 精 子 症 は 男 性 不 妊 の 原 因 の15~20%を 占 め 閉 塞 性 無 精 子 症 と 非 閉 塞 性 無 精 子 症 があります 閉 塞 性 無 精 子 症 は 精 巣 内 で 精 子 は 作 られているのですが 精 子 の 通 り 道 ( 精 路 )がふさがっているため 精 液 の 中 に 精 子 が 届 いていない 状 態 です また 非 閉 塞 性 無 精 子 症 は 完 全 に 精 路 がふさがっていない 場 合 で 精 子 そのものが 作 られていないか 精 子 の 量 が 極 端 に 少 ない 状 態 です なぜ 精 路 がふさがれてしまうのか?その 原 因 には 鼠 径 ヘルニアや 精 管 切 除 の 術 後 後 遺 症 や 感 染 などによる 炎 症 外 傷 先 天 的 なものなどがあり ます 閉 塞 性 無 精 子 症 の 場 合 精 路 の 再 建 が 行 えればタイミング 指 導 に より 妊 娠 が 望 めます また 非 閉 塞 性 無 精 子 症 でも 精 巣 内 のごく 限 られた 部 位 には 精 子 が 存 在 する 場 合 があり 生 殖 補 助 医 療 (ART)による 妊 娠 が 可 能 となります 泌 尿 器 科 において 精 巣 内 の 精 子 を 探 して 採 取 する 精 巣 内 精 子 採 取 術 (TESE) を 行 います 採 取 された 精 子 は 受 精 能 が 低 いため 顕 微 授 精 が 必 要 です ARTの 発 展 により 男 性 不 妊 症 診 療 も 確 実 に 進 歩 しています 無 精 子 症 と 診 断 されてもあきらめずに 専 門 医 に 相 談 し ご 夫 婦 で 解 決 する 方 法 を 話 し 合 いましょう 7
4 検 査 不 妊 に 関 する 検 査 のABC 女 性 に 対 する 主 な 検 査 とその 時 期 不 妊 の 原 因 は 人 それぞれ まずはその 原 因 を 知 るための 検 査 が 必 要 です 女 性 が 受 ける 検 査 の 多 くは 月 経 周 期 に 合 わせて 行 われます また 基 礎 体 温 表 は 不 妊 治 療 の 参 考 資 料 として 重 要 です 診 察 を 受 けるときに 持 参 するとよいでしょう 基 本 的 な 検 査 ちつ 問 診 視 診 腟 鏡 診 内 診 卵 管 疎 通 性 検 査 いつでも 行 える 検 査 甲 状 腺 機 能 検 査 甲 状 腺 機 能 亢 進 や 低 下 は 排 卵 障 害 の 原 因 のひとつ 血 液 検 査 で 下 垂 体 から 分 泌 されている 甲 状 腺 刺 激 ホルモンと 甲 状 腺 から 分 泌 されている 甲 状 腺 ホルモンを 調 べます 空 腹 時 血 糖 値 測 定 糖 尿 病 も 排 卵 障 害 を 引 き 起 こすことがあります 空 腹 時 の 血 液 で 血 糖 値 を 調 べます 抗 精 子 抗 体 検 査 免 疫 反 応 によって 精 子 を 異 物 としてブロックす る 抗 体 がないか 血 液 を 採 って 免 疫 学 的 な 検 査 をします 性 感 染 症 検 査 卵 管 因 子 による 不 妊 症 の 約 半 数 は クラミジア 感 染 症 による 炎 症 が 原 因 血 液 や 尿 の 検 査 子 宮 腟 部 を 綿 棒 でこすって 採 った 検 体 を 調 べる 検 査 があります AMH( 抗 ミュラー 管 ホルモン) 卵 巣 にある 卵 胞 数 を 反 映 し 排 卵 誘 発 や 卵 巣 刺 激 による 効 果 を 予 測 することができます 8
月 経 周 期 に 合 わせて 行 う 検 査 ホルモン 測 定 ( 月 経 周 期 3 日 目 前 後 ) 月 経 開 始 から 3~10 日 目 卵 胞 を 成 熟 させるFSH 排 卵 を 促 進 するLHの 分 泌 量 を 測 定 また FSHやLHの 分 泌 を 抑 制 するプロラクチン 値 が 高 すぎな いかどうかも 検 査 します 子 宮 卵 管 造 影 ( 月 経 終 了 後 ) X 線 造 影 検 査 により 子 宮 や 卵 管 の 形 通 過 性 を 調 べます ホルモン 測 定 月 経 開 始 から 12 ~15 日 目 ( 排 卵 期 ) エストロゲンの 分 泌 量 を 測 定 します 経 膣 超 音 波 検 査 経 腟 プローベを 用 いて 卵 胞 の 発 育 や 子 宮 内 膜 の 状 態 を 検 査 します 月 経 開 始 から 20~22 日 目 ( 高 温 相 6~8 日 目 ) ホルモン 測 定 受 精 卵 が 着 床 しやすいよう 準 備 をするプロゲステロンの 分 泌 量 などを 測 定 します 特 殊 な 検 査 内 分 泌 学 的 負 荷 試 験 副 腎 皮 質 ホルモン 検 査 内 視 鏡 検 査 ( 腹 腔 内 子 宮 腔 内 ) 染 色 体 検 査 9
5 不 妊 治 療 の 実 際 不 妊 治 療 を 決 意 したら 不 妊 治 療 初 めの 一 歩 タイミング 療 法 不 妊 治 療 では さまざまな 検 査 で 不 妊 の 原 因 を 探 りながら 基 本 的 な 治 療 から 段 階 的 に 進 めていきます その 初 めの 一 歩 が タイミング 療 法 で 医 師 が 経 腟 超 音 波 で 卵 胞 を 測 定 したり ホルモン 検 査 により 排 卵 時 期 を 予 測 し セックスの 時 期 を 指 導 する ものです タイミング 療 法 で 妊 娠 しなかった 場 合 には 人 工 授 精 (AIH) タイミング 療 法 のほか 人 工 授 精 (AIH)を 試 みることもできます 人 工 授 精 とは 採 取 した 精 子 を 直 接 子 宮 腔 内 に 注 入 して 妊 娠 させる 方 法 で 妊 娠 の 確 率 をより 高 める ことができます 女 性 側 に 子 宮 頚 管 粘 液 不 全 などの 問 題 があり 精 子 が 子 宮 に 入 れない 場 合 や 男 性 側 の 精 子 の 状 態 がよくなかったり 射 精 障 害 など 機 能 障 害 がある 場 合 などに 行 われます また 原 因 が 明 らかでない 不 妊 症 の 場 合 にも 試 みられます 人 工 授 精 の 手 順 ❶ タイミング 療 法 と 同 じ 方 法 で 排 卵 日 を 予 測 必 要 ならば 排 卵 誘 発 剤 を 用 います ❷ 排 卵 日 に 合 わせて 精 液 を 採 取 その 後 精 液 を 洗 浄 濃 縮 し 元 気 な 精 子 だけを 選 んで 注 入 針 などで 子 宮 腔 内 に 注 入 します 10
生 殖 補 助 医 療 (ART)とは 生 殖 補 助 医 療 (ART)とは 体 外 受 精 胚 移 植 (IVF-ET)や 顕 微 授 精 (ICSI)などの 不 妊 治 療 法 のことをいいます 卵 巣 刺 激 排 卵 誘 発 剤 で 卵 巣 を 刺 激 して 排 卵 を 起 こさせる 方 法 で 多 数 の 成 熟 卵 を 採 取 するのが 目 的 です クロミフェンの 内 服 やゴナドトロピン 製 剤 の 注 射 を1 週 間 前 後 使 用 します 採 卵 超 音 波 で 確 認 しながら 腟 から 卵 胞 を 穿 刺 し 卵 子 を 採 取 します 通 常 複 数 個 の 卵 子 を 採 取 します 体 外 受 精 (IVF) 顕 微 授 精 体 外 受 精 は 培 養 液 中 で 精 子 と 卵 子 を 受 精 させます 顕 微 授 精 は 体 外 受 精 で 受 精 が 起 こらない 場 合 の 治 療 です 顕 微 鏡 で 確 認 しながら 1 個 の 精 子 を 直 接 卵 子 に 注 入 します 胚 培 養 2~5 日 間 受 精 卵 を 体 外 で 培 養 します 胚 移 植 (ET) 発 育 した 受 精 卵 を 腟 から 子 宮 に 戻 します 移 植 する 受 精 卵 は 原 則 1 個 です 黄 体 補 充 療 法 受 精 卵 が 着 床 しやすいように 子 宮 内 膜 の 環 境 を 整 え 妊 娠 の 維 持 を 図 ります プロゲステロン( 黄 体 ホルモン)やhCGを 投 与 します 11
5 不 妊 治 療 の 実 際 スケジュール ARTで 不 妊 治 療 を 行 う 際 には 11ページで 解 説 した 各 段 階 を 月 経 周 期 にあわせて 計 画 し 実 行 します 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 月 経 IVF-ET p16 採 卵 体 外 受 精 ( 顕 微 授 精 ) 胚 培 養 薬 物 療 法 排 卵 誘 発 剤 による 卵 巣 刺 激 p13~15 黄 体 補 充 療 法 p17 22 ( 日 ) ARTを 実 施 する 前 には 子 宮 内 膜 の 状 態 をリセット 調 節 するために 低 用 量 の 経 口 避 妊 薬 を 服 用 することがあります 12
それでも 妊 娠 しない あきらめないで クロミフェン 療 法 ( 排 卵 誘 発 剤 による 治 療 飲 み 薬 ) クロミフェンとは 飲 み 薬 の 排 卵 誘 発 剤 のことで 脳 の 視 床 下 部 に 働 きかけて FSH( 卵 胞 刺 激 ホルモン)やLH( 黄 体 形 成 ホル モン)の 分 泌 を 促 します クロミ フェンは 軽 度 の 排 卵 障 害 がある ときに 通 常 は 用 いられます クロミフェンは 月 経 周 期 の5 日 目 から 最 長 5 日 間 服 用 します 投 薬 終 了 後 通 常 は7 日 前 後 で 排 卵 が 起 こります 超 音 波 検 査 やホルモン 検 査 などのデータを 用 い より 正 確 な 排 卵 日 を 予 想 します クロミフェンが 視 床 下 部 に 働 きかけ FSHやLHの 分 泌 を 促 進 する クロミフェン を 服 用 する クロミフェンが エストロゲン を 抑 える エストロゲン 下 垂 体 FSH LH 卵 胞 コウノトリからの 一 口 メ モ クロミフェンの 副 作 用 として 子 宮 内 膜 の 環 境 を 整 えるために 必 要 なエストロゲンを 抑 える 働 きがあります そのため 子 宮 内 膜 が 増 殖 しなかったり 頚 管 粘 液 が 減 少 した りして 長 期 間 の 使 用 は 妊 娠 の 確 率 を 下 げてしまうため 妊 娠 にいたらなかった 場 合 はゴナドトロピン 療 法 などに 移 行 することになります 13
5 不 妊 治 療 の 実 際 ゴナドトロピン 療 法 ( 排 卵 誘 発 剤 による 治 療 注 射 剤 ) ゴナドトロピンとは 性 腺 刺 激 ホルモン のことで FSHとLHのことを 指 します 下 垂 体 から 分 泌 されるゴナドトロピン が 少 ない 場 合 に 用 いる 治 療 法 で クロミフェン 療 法 では 効 果 が 得 られ なかった 場 合 などに 用 いられます ゴナドトロピンは 注 射 により 投 与 され ます 飲 み 薬 のクロミフェンと 比 べて 排 卵 誘 発 効 果 はより 強 力 です ただ し 連 日 注 射 が 必 要 になる 場 合 や また 定 期 的 に 卵 胞 の 発 育 状 態 をモニ タリングする 必 要 もあるため 通 院 の 回 数 や 病 院 で 治 療 に 費 やす 時 間 が 多 くなります クロミフェン 療 法 ゴナドトロピン 療 法 は 正 常 な 排 卵 周 期 があるにもかか わらず 妊 娠 できない 場 合 にも 用 いら れることが あります また タイミング 療 法 や 人 工 授 精 と 組 み 合 わせて 用 い られることもあります ( 注 )ゴナドトロピン 製 剤 と それに 続 くヒト 絨 毛 性 ゴナドトロピン(hCG) 製 剤 には クロミフェン 製 剤 と 比 べてより 高 い 排 卵 誘 発 効 果 があります その 反 面 多 胎 妊 娠 や 卵 巣 過 剰 刺 激 症 候 群 (OHSS)などの 副 作 用 が 生 じることがあり 治 療 にあたっては 細 心 の 注 意 が 必 要 とされます 治 療 開 始 ゴナドトロピン 製 剤 ( 注 射 する) ゴナドトロピン 製 剤 に 含 まれるFSHが 卵 胞 の 発 育 を 促 す 卵 胞 が 成 熟 したら hcg 製 剤 ( 注 射 する) hcg 製 剤 に 含 まれるLH 作 用 排 卵 を 促 す 下 垂 体 FSH 卵 胞 下 垂 体 LH 卵 胞 14
ゴナドトロピン 療 法 の 流 れ ❶ 月 経 周 期 の5 日 目 頃 からゴナドトロピン 製 剤 を 注 射 します ❷ 卵 胞 が 発 育 するまで1 日 1 回 の 注 射 を 続 けます ❸ 卵 胞 が 成 熟 したら 排 卵 誘 発 作 用 があるヒト 絨 毛 性 ゴナドトロピン(hCG) 製 剤 を 注 射 し 排 卵 させます 排 卵 誘 発 剤 の 副 作 用 次 のような 副 作 用 は 超 音 波 検 査 などを 定 期 的 に 受 けることで 早 期 に 発 見 することが できます ❶ 卵 巣 過 剰 刺 激 症 候 群 (OHSS) 体 質 によっては 卵 巣 が 過 剰 に 反 応 して 腫 れ その 表 面 の 血 管 から 水 分 がお 腹 に 出 て 腹 水 がたまり さまざまな 症 状 が 出 ることがあります 血 液 が 濃 くなって 尿 量 が 減 り 腎 機 能 障 害 や 血 栓 症 呼 吸 障 害 を 起 こすこともあります 急 激 な 体 重 増 加 尿 量 減 少 お 腹 が 張 る 息 苦 しいなどの 自 覚 症 状 が 現 れたら すぐに 病 院 に 行 きましょう ❷ 多 胎 妊 娠 双 子 や 三 つ 子 などを 妊 娠 する 多 胎 妊 娠 にとも なう 流 産 や 早 産 妊 娠 高 血 圧 症 候 群 などの リスクも 高 くなります 育 児 の 負 担 も 重 くなり ますので 治 療 を 始 める 前 に 夫 婦 でよく 相 談 しておくことが 必 要 でしょう コウノトリからの 一 口 メ モ タイミング 療 法 人 工 授 精 (AIH)は 一 般 不 妊 治 療 といわれるものです これでも 妊 娠 が 難 しいと 診 断 された 場 合 は 排 卵 誘 発 治 療 さらには 体 外 受 精 や 顕 微 授 精 などの 高 度 生 殖 医 療 といった 方 法 があります 不 妊 の 原 因 は 人 それぞれであり 自 分 に 最 適 な 治 療 法 を 選 択 することが 大 切 です 15
6 ARTの実際 体外受精 胚移植 IVF-ET IVF-ETの流れ 体外受精とは 採卵手術により 排卵前に体内から取り出した 複数の卵子と精子の受精を体 採卵 採精 外で行う治療です 体外受精 で得られた受精卵を約2 5日 培養し 可能な限り良好な胚を 選んで腟 から子 宮 内に戻し 受精 ます この一連のプロセスを 体外受精 胚移植 IVF-ET と いいます 体外受精では 受精障害がな ければ精子と卵子を確実に受精 培養 させることができます ただし 妊娠して分娩にまで 至る確率は 女性の加齢により 移植 低下します コウノトリからの 一 口 メ モ 不妊の原因として精子や卵子の力が落ちていることが疑われる場合 精子や卵子の 力が完全になくなって妊娠することができなくなるのを避けるため 他の不妊治療を 早めに切り上げて体外受精に切り替えることがあります 16
黄 体 補 充 療 法 ARTで 卵 巣 刺 激 や 採 卵 を 行 う と 黄 体 機 能 が 低 下 することが 知 られています 黄 体 機 能 が 低 下 すると 受 精 卵 の 着 床 が 障 害 され 妊 娠 の 維 持 が 難 しく なってしまいます そこで 妊 娠 の 維 持 を 図 るため 採 卵 後 に 黄 体 を 補 充 する 治 療 を 行 います 黄 体 補 充 療 法 では プロゲス テロン( 黄 体 ホルモン)や プロ ゲステロンを 分 泌 するよう 指 令 を 出 すhCGが 使 われています プロゲステロン プロゲステロン hcg 製 剤 ( 注 射 する) 黄 体 黄 体 機 能 の 低 下 により プロゲステ ロンが 不 足 コウノトリからの 一 口 メ モ 黄 体 補 充 療 法 で 用 いるプロゲステロンには 注 射 剤 や 飲 み 薬 膣 坐 剤 などがあります それぞれメリットとデメリットがあるので 詳 しくは 医 師 に 相 談 してみましょう 17
c o l u m n どういう 卵 がよい 卵 なの? 卵 子 は 女 性 の 卵 巣 でつくられる1 個 の 生 殖 細 胞 です 大 きさは 直 径 0.15~ 0.2mmと とても 小 さいのですが それでも 卵 子 は 人 間 を 形 づくる 細 胞 の 中 で 最 も 大 きな 細 胞 といわれています 形 はきれいな 球 形 細 胞 膜 に 包 まれた 卵 細 胞 には 核 と 細 胞 質 があり 核 には 母 方 の 遺 伝 子 情 報 を 受 精 卵 に 伝 える 染 色 体 があります 一 番 外 側 は 透 明 帯 というゼリー 状 の 膜 で 覆 われています 自 然 受 精 の 場 合 1~4 億 個 の 精 子 が 卵 子 がいる 卵 管 をめざして 進 みます 受 精 できるのは そのうちの1 個 だけです 精 子 はまず 透 明 帯 を 溶 かして 穴 を 開 け 次 に 細 胞 膜 にもぐりこみ 細 胞 質 に 到 達 精 子 と 卵 子 の 核 が 融 合 し 受 精 卵 というひとつの 生 命 体 になった 後 は 細 胞 分 裂 を 繰 り 返 しながら 成 長 ほうはい し 卵 管 を 通 って 子 宮 に 進 入 します 子 宮 内 で 胞 胚 という 状 態 に 育 ったところ で 子 宮 内 膜 にもぐりこんで 着 床 妊 娠 が 成 立 します よい 卵 とは こうした 長 い 道 のりを 生 き 抜 くエネルギーを 持 った 卵 子 です しかし 残 念 なことに 卵 子 は 女 性 の 加 齢 にともなって 老 化 してしまいます 女 性 の 卵 巣 には 生 まれたときから 原 始 卵 胞 が 蓄 えられており 生 殖 可 能 な 年 齢 の 間 は その 決 まった 数 の 中 から 毎 月 いくつかの 原 始 卵 胞 が 目 覚 めて 成 熟 し 一 番 大 きく 育 った1 個 が 排 卵 されます ただし 年 齢 が 高 くなるほど 原 始 卵 胞 は 自 然 消 滅 して 減 っていき 健 全 な 卵 子 が 成 熟 しにくくなります 卵 子 の 寿 命 は12~36 時 間 といわれていますが 老 化 した 卵 子 はそれほど 長 く 生 きられないかもしれません すると 精 子 と 出 会 うための 時 間 も 限 られたものになっ てしまい 妊 娠 の 確 率 も 低 くなると 考 えられ ます また 受 精 能 力 が 弱 くなるだけでなく 流 産 のリスクも 高 まります 妊 娠 するため には よりよい 卵 子 が 必 要 となります 18
お わ り に 世 界 初 の 体 外 受 精 児 が 英 国 で 誕 生 したのは 1978 年 日 本 ではその5 年 後 の83 年 初 めて 成 功 例 が 報 告 されました 当 時 体 外 受 精 は 最 先 端 の 医 療 技 術 で 限 られた 大 病 院 でしか 行 えません でしたが いまではすっかり 一 般 的 なものになりました 2011 年 の 報 告 によると 国 内 で 体 外 受 精 によって 生 まれた 子 どもたちは 累 計 で 約 30 万 4,000 人 最 近 では1 年 間 に 生 まれた 子 どもの 約 3.1%が 体 外 受 精 児 です これからも 不 妊 治 療 の 研 究 は 進 化 し さらに 多 くの 人 が 赤 ちゃんを 授 かる ことができるようになっていくでしょう しかし その 一 方 で 忙 しい 生 活 やストレスから 体 調 を 崩 し 妊 娠 しにくい 体 質 になり 不 妊 外 来 を 訪 れる 女 性 が 増 えています 不 妊 に 取 り 組 むことを きっかけに ご 自 身 の 体 と 心 をふりかえり いたわっていただきたいと 思 います 不 妊 治 療 にあたっては さまざまな 検 査 を 行 い その 方 に 合 った 最 適 な 治 療 法 を 選 択 する 必 要 があります 治 療 や 検 査 についてわからないことや 気 になることがあれば 遠 慮 せずに 質 問 して 納 得 したうえで 次 のステップに 進 みましょう また これまで 不 妊 治 療 については 国 や 自 治 体 のバックアップ 制 度 がなく 高 額 な 医 療 費 はすべて 自 己 負 担 でしたが 2004 年 からは 特 定 不 妊 治 療 ( 人 工 授 精 体 外 受 精 や 顕 微 授 精 )の 費 用 の 一 部 が 補 助 されることとなりました ほかにも 確 定 申 告 の 医 療 費 控 除 など 利 用 できる 制 度 は 上 手 に 使 って 少 しでも 経 済 的 負 担 を 軽 くしましょう 不 妊 治 療 はご 夫 婦 のどちらに 問 題 があっても ふたりで 協 力 して 取 り 組 むもの 生 活 や 仕 事 のこと お 金 のことなど 治 療 を 開 始 する 前 によく 話 し 合 っておき ましょう 同 じ 目 標 に 向 かって 努 力 することで ご 夫 婦 の 絆 がより 深 まりますように
F/209GU/09/14/J 2014 年 9 月 作 成