JapaneseSociety Society of Psychosomatic Medicine Jpn J Psychosom Med 44 I ,2004 Sgmposium/Psychosomatic Medicine of Aging Male Evaluation and

Similar documents
Microsoft Word - 44-第4編頭紙.doc

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

蝨ー蝓溯・豐サ縺ィ繧ウ繝溘Η繝九ユ繧」蠖「謌舌↓髢「縺吶k螳滓・隱ソ譟サ・域擲莠ャ迚茨シ峨€仙悸邵ョ縺ェ縺励€・indd

総合診療

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

こうすればうまくいく! 薬剤師による処方提案

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

認定看護師教育基準カリキュラム

対象疾患名及び ICD-10 コード等 対象疾患名 ( 診療行為 ) ICD-10 等 1 糖尿病 2 脳血管障害 3 虚血性心疾患 4 動脈閉塞 5 高血圧症 6 高尿酸血症 7 高脂血症 8 肝機能障害 9 高血圧性腎臓障害 10 人工透析 E11~E14 I61 I639 I64 I209 I

(3) 生活習慣を改善するために

<4D F736F F F696E74202D AAE90AC94C5817A835F C581698FE39E8A90E690B6816A2E >

系統看護学講座 クイックリファレンス 2012年 母性看護学

介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ


肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

< 糖尿病療養指導体制の整備状況 > 療養指導士のいる医療機関の割合は増加しつつある 図 1 療養指導士のいる医療機関の割合の変化 平成 20 年度 8.9% 平成 28 年度 11.1% 本糖尿病療養指導士を配置しているところは 33 医療機関 (11.1%) で 平成 20 年に実施した同調査

2

”Лï−wŁfl‰IŠv‚æ89“ƒ/‚qfic“NŸH

山梨県生活習慣病実態調査の状況 1 調査目的平成 20 年 4 月に施行される医療制度改革において生活習慣病対策が一つの大きな柱となっている このため 糖尿病等生活習慣病の有病者 予備群の減少を図るために健康増進計画を見直し メタボリックシンドロームの概念を導入した 糖尿病等生活習慣病の有病者や予備

(目的)

shiryou2-1_shikuchouson-survey2.docx

日本臨床麻酔学会 vol.36

九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository 看護師の勤務体制による睡眠実態についての調査 岩下, 智香九州大学医学部保健学科看護学専攻 出版情報 : 九州大学医学部保健学

PowerPoint プレゼンテーション

[ 原著論文 ] メタボリックシンドローム該当者の年齢別要因比較 5 年間の健康診断結果より A cross primary factors comparative study of metabolic syndrome among the age. from health checkup resu

平成14年度研究報告

™…ゔ

Microsoft Word - 4㕕H30 �践蕖㕕管璃蕖㕕㇫ㅪ�ㅥㅩㅀ.docx

宗像市国保医療課 御中

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

PowerPoint プレゼンテーション

11総法不審第120号

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

man2

SBOs- 3: がん診断期の患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 4: がん治療期 ; 化学療法を受けている患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 5: がん治療期 ; 放射線療法を受けている患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 6: がん治療期

特定健康診査等実施計画 東京スター銀行健康保険組合 平成 25 年 4 月

平成14年度研究報告

wslist01

特定健康診査等実施計画 ( 第 3 期 ) 三菱製紙健康保険組合 平成 30 年 4 月

2011年度版アンチエイジング01.ppt

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文


<4D F736F F F696E74202D C8E817A C E90A A D2816A>

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

(2004) (2002) (2004) ( 1990,Smith,Standinger, & Baltes,1994,Carstensen, et al., 2000) (1990) (2006)

背景及び趣旨 我が国は国民皆保険のもと世界最長の平均寿命や高い保健医療水準を達成してきた しかし 急速な少子高齢化や国民の意識変化などにより大きな環境変化に直面しており 医療制度を持続可能なものにするために その構造改革が急務となっている このような状況に対応するため 高齢者の医療の確保に関する法律

特定健康診査等実施計画 ( 第 2 期 ) ベルシステム 24 健康保険組合 平成 25 年 3 月 1 日

特定健康診査等実施計画 ( 第二期 : 平成 25 年度 ~ 平成 29 年度 ) リクルート健康保険組合 平成 25 年 4 月 1

為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

先端社会研究 ★5★号/4.山崎

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

15 第1章妊娠出産子育てをめぐる妻の年齢要因

平成30年度精神保健に関する技術研修過程(自治体推薦による申込研修)

untitled

p135_金 美順.indd

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

評論・社会科学 85号(よこ)(P)/3.佐分

日本医師会男女共同参画についての男性医師の意識調査 クロス集計

第43号(2013.5)

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

2016 年 03 月 01 日 サンプル株式会社本社事業場エイギョウブ ジョウホウタロウ様 _SPL ltpaper ストレスチェックキット個人用レポート 裏面のストレスレーダーもお読み下さい ストレスチェック総合 あなたのストレスの状況は

2 251 Barrera, 1986; Barrera, e.g., Gottlieb, 1985 Wethington & Kessler 1986 r Cohen & Wills,

「リストラ中高年」の行方

PowerPoint プレゼンテーション

Ł\”ƒ1PDFŠp

心房細動1章[ ].indd

000-はじめに.indd

脳卒中に関する留意事項 以下は 脳卒中等の脳血管疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあ たって ガイドラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 脳卒中に関する基礎情報 (1) 脳卒中の発症状況と回復状況脳卒中とは脳の血管に障害がおきることで生じる疾患

事柄であるため まず 特例法と GID に関してここ 1 ジェンダー アイデンティティの判定 DSM- Ⅳ -TR や ICD-10 を参考にしながら 以下の で見ておきたい ことを中心に検討する ①自らの性別に対する不快感 嫌悪感を持つ 1. 特例法の概要 ②反対の性別に対する強く持続的な同一感を

A5 PDF.pwd

特定健康診査等実施計画

表紙.indd

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %


Juntendo Medical Journal

Microsoft Word - シラバス.doc

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

大阪医科大学医師会会報 第37号

資料 3 全国精神保健福祉センター長会による自殺予防総合対策センターの業務のあり方に関するアンケート調査の結果全国精神保健福祉センター長会会長田邊等 全国精神保健福祉センター長会は 自殺予防総合対策センターの業務の在り方に関する検討チームにて 参考資料として使用されることを目的として 研修 講演 講

27 年度調査結果 ( 入院部門 ) 表 1 入院されている診療科についてお教えください 度数パーセント有効パーセント累積パーセント 有効 内科 循環器内科 神経内科 緩和ケア内科

46

-3- Ⅰ 市町村国保の状況 1 特定健康診査受診者の状況 平成 23 年度は 市町村国保 (41 保険者 )98,439 人の特定健康診査データの集計を行った 市町村国保の診者数は男性 女性ともに 歳の割合が多く 次いで 歳 歳の順となっている 男性 女性 総数

Try*・[

2. 調査結果 1. 回答者属性について ( 全体 )(n=690) (1) 回答者の性別 (n=690) 回答数 713 のうち 調査に協力すると回答した回答者数は 690 名 これを性別にみると となった 回答者の性別比率 (2) 回答者の年齢層 (n=6

pdf_c


A Study of the Comprehensive Framework of Action for Job Retention amongst the Deaf and Hard of Hearing Makoto IWAYAMA Abstract The purpose of this pa


カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

<4D F736F F D DE97C78CA78F418BC B28DB895F18D908F DC58F49817A2E646F63>

特定健康診査等実施計画 ( 第二期 ) 三重交通健康保険組合 平成 25 年 7 月

公務員人件費のシミュレーション分析

<4D F736F F D CB48D655F94928D95445F90488E9690DB8EE68AEE8F802E646F63>

総 説 6 6 PIMs P S J 7

診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

特定健康診査等実施計画

Ishikai-1103.indd, page Normalize

Microsoft Word - cjs63B9_ docx

Transcription:

JapaneseSociety Society of Psychosomatic Medicine Jpn J Psychosom Med 44 I 407-413,2004 Sgmposium/Psychosomatic Medicine of Aging Male Evaluation and Coping in Male Climacterium Koichi Nakano, MD" Abstract Male c]imacterium iscomplicated by various factors.itneeds multi-dimensional evaluation including bio-psycho-social factors.ithas been recently pointed out that the decreasein free-testosterone secretion isfound in male climacterium. In this connection, important psychological factors affecting the male middle age includemood disorders,mid-life crisis latentalcoholic dependence and dailysleep disturbance.main social factorscan be changes in the quality of work procedures and increasedquantities of work contents, changes in the husband-and-wife relationships, children's growth and independence,and declineof parental influence(generativity crisis). Ethically a change in the philosophical value isimportant. Clinical evaluation ef themiddle age isuseful from the stand point of lifecycle. Being workaholic isone of the common coping styles which are selected by the middle aged persons. But workaholic coping isalso a vulnerable defensewhich failseasily, and behaviormodification becomes necessary fer the workaholics. Itsheuld be suggested that workaholism isclosely connected with themoney-centered community value which had given support to the economic growth of JapanṬhere were many cases of office refusals in the men of 40 's as well as those of 2e 's according to the investigation conducted by the psychosomatic clinic of Toho University.The lifestyle-related diseasesfound in the middle age such as obesity, alcoholic liver disease,hypercholesterolemia were often closely related to psychological and sociological problems. Improvements in the bad habits were difficult to achieve in the case of alcehol drinking and over eating by the clinical interventionforthe company employees at the mental healthoffice. In general, the lifestyle-related diseasesoi the middle age could not be modified easily. Therefore counterrneasures need to be taken to enhance restructuring of the psycho-social values and the social support systems. - Kby tvonis :male climacterium, psychosomatic disease, middle age, treatment, evaluation ' Centerof ClinicalTraining and Education,Toho Universityof Scheolof Medicine (Mtiiliizg Address : Koichi Nakano, 5-21-16Ornorinishi, Ota-ku, 143-8540 Tokyo, Japan) bfiee 2004 lli6 E lj44 tsag 6e 407 NII-Electronic NII-Electionic Library Service

Japanese J Society of Psychosomatic Medicine 唇毒冒一 = lv 薗蠶 s 慧靉襲鋤融ウム / 男蟆鰯身騨く tt tfittt 1, i,. i 萼 囁广弾 t ロほい / tts を 4 キ. tl う tt 霾 ; i: 葦 1 蕊霪 恋 ll 噤男牲更年期の評価と対処に関して : i 噴 tt 儀 t N 継 澎 tt, 蟹鰭鴬 :; 1 窓 1 / i, : ン. 三 1 中野 弘一 一. 抄録 一. 一. 男性壷年期における問題は, 生物 心理 社会にわたる多次元評価理解が勘要である. 社会 的にはライフサイクル的評価の視点が有力である. 仕事中毒は中年期に陥りやすい対処撮式で あるが, 破綻しやすいスタイルでもあり修正が必要であることが多い. 仕事中毒の成立の背景 には戦後の臼本の経済成長を支えた利益共同体的価値観が深く関わっていると考えられる. 仕 事中番の破綻の一つの形が中年発症の出社困難である. 中年期に発生する生活習慣病である肥 満, アルコール性肝障害, 高脂 [m 症などの中で心理社会的問題と密接に関連しているケースは 容易には修正できない. 中年期危機には心理社会的価値観の再構築と, ソーシャルサポートの構築が有力な対策となる. K 曙脚脇 : 男性更年期, 心身症, 中年期, 治療, 診断 はじめに 中年期は, 青年期と老年期の中間に位置し, 一般的には個人が社会生活の中でもっとも生 産的かつ かし, 期でもあり, 因となり, 創造的な活動を行う時期である. し 中年期は心理的な葛藤をもちやすい時 職場や家庭での心理的刺激が誘 心身に障害を呈し心療内科を受診 するに至るものも少なくない. 本稿では, 学病院心療内科での受療患者の治療過程を通 して, 男性更年期の著者なりの評価と対処の 方向性について述べる. 男性更年期は, 更年期の多次元評価 大 多様な因子の重ね合わせに よって問題が複雑になっていると考えられる ため Engel の bio psycho social model に 当てはめてとらえてみる. 生物学的にはテストステロン分泌の減少が 近年指摘されており, 心理的には気分障害の 発症, 中年期危機, アルコール依存の潜在化, そして睡眠障害の日常化が重要であり, 的には仕事の質の変化と量の増加, 社会 妻との関 係の変化, 子どもの自立, 親世代の力の衰え などが要因としてあげられる. さらに倫理的 に重要なものとして, 価値観の変化があげら れている. ここでは心理および社会的側面に ついて取り上げる. 巨 ] 中年期の心理的発達理解 佐藤ら 2 ) によれば, イトの時代以来, 的葛藤を中心に取り扱い, 発達心理の理解はフロ 幼児期 青年期までの心理 中年期は重視され ていなかった. エリクソンの自我の発達に関一する仮説では, 青年期での自我同性対拡散 の精神的危機を頂点にそれぞれの段階ごとに 危機的状況があり, 段階に応じた課題を次々 に克服し, それ以降大きな発達は見出せずに 東邦大学医学部卒後臨床研修 / 生涯教育センター一 ( 連絡先 : 中野弘, @ 143 8540 東京都大田区大森西 5. 21 16) 408 心身医 2004 年 6 月 第 44 巻第 6 号

4 50 歳の中年期で 一応の完成をみると考 えている. すなわち, 青年期に比し中年期で は世代的には大きな葛藤は見出すことがで ないとする考え方といえる. 一方, JaquesE は, 310 き 名の芸術家の創造 性についての調査で, 30 歳代半ばに大きな転 換期があると結論した. そして葛藤は個々人 のライフサイクルに一般的に見出しうること を指摘し mid 1ifecrisis ( 中年期危機 ) とよ び, 中年期の心理的葛藤を肯定した. さらに レビンソン 3 ) は中年男性のライフサイクル 注目し, 中年期は職種を超えて心理的に重要 な転換期であることを指摘した. その中で特 に 40 45 歳を自己の価値観や配偶者との関 係の再構築が行われる時期とし, 味での更年期に相当すると考えた. このように中年期の心理的研究では, に 心理的な意 男性 における更年期という考え方には肯定的で, 年齢的には 40 歳過ぎと想定される. 中年期の心理発達の理論によれば, 40 歳代 前半は心理的な発達課題が処理されなければ ならない時期にあたることを肯定している点 的には, 中年期である本人の青年期に未解決 で潜在してい た問題が再燃するとい う厄介な メカニ ズムもある. さらに, 中年期ではライ フサイクル的内的問題につ い て意識的に関わ らずに, 配偶者など他のメンバ ーに押しつ け る形で先送りし潜在化してしまうと, 自分が 老年期に入り自分の子ども世代が中年期 ( 更 年期 ) に入っ たとき, 必ず形を変えて再燃し てくる. つ まり, ライフサイクル的問題は避 けられない問題である. また創造性が高まることに よって も, 中年 期では生産や創造性に付随した心理的問題が 増加するなど, 中年期は心理的悩みや危機的 状況が起こりやすい時期であることがわかっ てきた. このように中年期に必然的に起こるであろ う親世代の生命に関係する重大な健康上の諸 問題や, 子ども世代の思春期葛藤などライフ サイクル的難題に対して, 未成熟な解決様式 しかもたない, 精神的には未成熟な中年期男 性では, 各世代が家族に持ち込む心理的悩み をすべて解決することはできない. で共通している. したがって, 心理的にもラ イフサイクル的にも重要な時期といえる. 圄ライフサイクルとしての中年中年期における心理 社会的側面については, ライフサイクルという側面のとらえ方が問題を浮き彫りにしやすい. ライフサイクル的には, 更年期は青年期と老年期 ( 熟年期 ) の中間にあたり, 人生の中でもっとも生産的 かつ 創造的な時期ではある. このような時期 には心理的な問題は起きにくいはずであった. しかし, ライフサイクル的には自分が中年期 ( 更年期 ) に入ったとき, 子ども世代は青年期に入り種々の問題を家庭に持ち込み, 親世代は老年期に入り病気の発病に伴う介護に関わることや, 逝去に伴い残された者の生活に関する問題などの処理に直面する. 心理 團仕事中番後に生活習慣病として発現した中年期危機ここでライフサイクル的な問題が累積し, 生活習慣病に至った症例を示し, 心理社会的問題が身体へと連鎖していく過程を示す. 仕事中心の 52 歳の会社役員は妻の病死の 後, それまでの子どもとの関係が仕事中心であったため共に生活すること一にはならず, 人暮らしとなった. 家庭のことは配偶者に任せきりであったので食事の管理が自分でできず, 毎日行きつけの飲み屋で夕食を済ませていた. 不規則な生活が 4 年間続いた後, 便秘下痢の繰り返しが続くため入院精査を行ったところ, 糖尿病境界域, 高血圧症, 脂肪肝, 高脂血症そして高尿酸血症があることがわかった. 入院での食事管理によって著明な改 心身医 2004 年 6 月 第 44 巻第 6 号 409

善を示した. しかし, 自分の問題を含め家族内に生じた葛藤処理をすべて家族の他のメンバーに任せきりとし, また処理できない時は先送りしてきた患者は, 生活の自己管理を続 けることができない. すぐに血糖, γ 一 GTP, コレステロール, 中性脂肪そして尿酸値は再 病様状態への治療介入を試みた. 事務系事業所に勤務している会社員 411 名の定期健康診断と, 人聞ドックにおいて生活習慣病とされる肥満, やせ, 高血圧, 高脂血症そして肝機能障害に異常を認めた者 110 名を対象に行った. 上昇していった 4 ). このように仕事中毒化し 対象となった病態の分布は, 20% 以上の肥 た行動による精神的負荷の処理がアル コ ール や美食であっ たとすれば, たちまち中年期で は生活習慣病につかまることとなる. さらに, 治療過程はライフサイクル的な必然性がある ため再発を繰り返し, 容易に改善を示さない ことが一般的である. 団日本における仕事中蕾のもつ要素 中年期に出現する心理的危機は, 米国や西 欧の社会に比べ 国の境界がはっ きりし, 単一 民族で構成されているわが国で は, 外敵が存 在しにくく民族意識も必要ないため青年期に 自我同一性の確立を急ぐ必然性がないこ とが 遅一れのつ の要素となっ てい ると考えられ る. 青年期での自我同一性の確立は, 社会参 加の時期と重なるため潜伏期となり, 心理的 葛藤一は時潜在化してしまう. 自我が青年期 に確立せず一自我同性の確立のための葛藤が 潜在化してしまうため, 心理的葛藤の成熟し た処理は青年期には十分には発達してい ない ため未成熟な葛藤処理の方法を選びやすい. 未成熟な処理方法の代表的なものが仕事中毒とよばれている対処様式である. 仕事中毒という方法は心理的葛藤を回避することがで き, さらに社会的にも評価されやすい点では 優れていると考えられる. 満を認めたもの 15 名, 20% 以上のやせを認め たもの 15 名, 高血圧症 15 名, 高脂血症 45 名 そして肝機能障害は 20 名であっ た. これらの 対象について生活指導, 食事指導, 服薬コン プライアンスを上げる指導を個別に行った. その結果, 肥満群は改善を示した者 6.6%, 不 変であったもの 53.3% であり, 体重減少群では改善 40%, 不変 60% であった. さらに高血圧群は改善 73.3%, 不変 20% であり, 高脂血 症群の改善は 28.9%, 不変は 68.9%, 肝機能 障害群は改善 25.5%, 不変 65% であった. す なわち体重減少群, 高血圧群, 高脂血症群で は優位な改善を認めたが, 肥満群, 肝機能障 害群では改善は認められなかっ た 5 ). このこ とより薬物や簡単な食事指導で修正可能な高 血圧症, 高脂血症は比較的短期で修正可能で あるが, 生活に密着した食の過剰摂取の習慣, アルコール性肝障害などは, ライフスタイル 変容の必要を真に理解し, 長く培ってきた習 慣を自らの意思で変え, そして持続していく ことが必要である. また心理社会的要素も深 く関わっているため問題が潜在化しやすい. したがって, 中年期発症の生活習慣病は容易 に修正できないことが示唆される. [6] 中年の世代的価値観の関連 固中年期の生活習慣病への介入中年期に発症する生活習慣病の改善を行うことは容易ではないことを認識させられた. すなわち自らの症例の経験から, 企業内において病院に通い続けるほどでもない生活習慣 佐々 6 ) は著書の中で指摘しているように, 昭和 40 年代の学生紛争後, 高度経済成長の中ゲマインシャフト ( 運命共同体 ) 的価値観が敗北し, ゲゼルシャフト ( 利益共同体 ) 的価値観へと価値観を移動させてしまったこととの関連を推測している. すなわち頑張って働 410 心身医 2004 年 6 月 第 44 巻第 6 号

くことによって地位が向上し, 俸給が上がることのみを是とする価値観, つまりゲゼルシャフト的価値観に同一化していく. この現実を守り続けることができるのはごく一部であり, 大部分の中年期を迎えたサラリーマン は不本意な社会的処遇を受けることになっ しまう. したがって, 成熟した対処がこの時点までに身についていれば, 心身の不調は呈するかもしれないが破綻することなく過ごす可能性が高くなる. しかし, このように仕事中毒で処理してしまい中年を迎えた人々は, 社会的また家庭内の力学の変化にも強く影響され, ゲゼルシャフト的価値観の崩壊はついには出社困難に至るような重い同一性の拡散を起こし, 社会適応に障害を呈することになる. 圉中年期の出社困難例の調査東邦大学心療内科の外来を受診し継続勤務が不良であった 1 5 例についての調査の結果 は, たっ 以下のとおりである 7 ). 男性では 1 年以上て受療した者では復職できている者は有 意に少なく, 初診時における勤務状況別の復 職者の割合にっいては男性は現在の勤務状況 に関速していたが, 女性では勤務状況との関 連は認められなかっ た. 職場不適応の年代の ピークをみてみると 3 つ のピークが認められ た. すなわち 20 歳代の男女と 40 歳代の男性 に認められた. この出社困難の集計は対象を かえ 2 回行っ ているが, いずれも 40 歳代男性 にピークを認め, ライフサイクル的にも社会 へ の入り口での戸惑いに次いで, 第 2 の社会 的破綻の時期となっ てい ることを示唆してい る. て いことが一般的である 8 ). しかし, それまでの 生き方に疑問を感じながら中年期危機を呈し たものでは, それまでの生き方を含め支えと してきた価値観を変容に向けていき, 再構築 を目指す者も存在する. 症例 : 男性, 49 歳, 専門職の技師である. 中学生までは体力もなく運動嫌い, また勉強 嫌いで成績不良であり, 劣等感の中, 成功体 験はほとんどもっていない. 高校生の頃, 家庭の事情一で人で生活しなければならない状一況になり, 念発起してそれまでの常習遅刻 と学業へのサボタージュからの脱却を志し, 目標とした大学合格へとたどりつく. 青年期 における価値観の変容である. 大学入学後, 約 2 年間のアパシーの時期をもつが再び 20 歳頃より知識への欲求が高まり学習を始め, 卒業時の成績も上位であっ た. さらに大学院 へと進学し, 卒業した後は朝から晩まで休日 を返上しての仕事中心の生活を 25 年にわ たって続けていた. 執着的な仕事への関わり は社会的に膨大な仕事の成果と創造的な仕事 の遂行となって結実し, 社会的に十分な俸給 と職位を受けるに至る.2 年前, 母親の入院を めぐるやり取りの中で幼少時から潜在してい た親子間の葛藤が再燃した. 青年期において 経験した崩壊寸前の家族間の葛藤が未解決の まま受験勉強に置き換えるとい う葛藤回避の 方法をとってしまったため, 大学合格という 社会的成功は手にしたものの, 家族間の内的 葛藤は先送りされてしまったと考えられる. 葛藤再燃後は仕事へ 目に見えない期待とい に続けていたと感じ, の執着的遂行は親からの う重圧から逃れるため それまで私生活より絶 対に優先していた仕事すべてに意欲を失う. 出社困難には至らないが, 抑うつ気分の中で 圈中年期に心理社会的再構築を果たした事例人は元来ホメオスタシスを目指すものであり, 危機に接しないと生き方の根源は変えな それまでの十分の一程度の遂行力で仕事は休み休み続けた. そこで悩んだ末, 価値観の再構築を決意する. まず仕事中心の生活様式を捨て, それまでまったく関わっていなかった 心身医 2004 年 6 月 第 44 巻第 6 号 411

家庭内での生活を妻の示唆に従い, 場の確保 か ら再構築を始める. それまで妻のみが担当 していた家事, たとえば掃除, 洗濯そして台 筋梗塞の発生を抑制するための, 自分への ソーシャルサポートを増やすには, どのよう にすればよいのであろうか? ここではする 所の仕事などの作業を, 曜日を決めて始める こととした. またそれまで唯一無二と考えて 者とされる者の転換とい い. う視点を提示した きた仕事も志願して転属し, 同じ職場ながら今までの技術職からまったく違う管理系の仕事を開始した. それまで仕事を変えることなどありえないと感じ, 変化に恐怖感すらもっていたが, 思い切って変えてみると失うものは何もなく, そこには未知の新しい世界が獲得できた. 中年期における価値観の転換である. そして, 新しい生活を模索する中で, これまでしがみついてきたものだけが換えがたいものではなく, かえた先に今までよりもすばらしい新しい世界があることを知る. 仕事中毒からライフサイクル的契機によって脱却 し, 内的再構築を果たした中年期事例といえ る. 囹デマンド コントロールモデルにおけるソーシャルサポート一中年期危機への介入方法のつはソーシャルサポートである. ソーシャルサポートはカラゼックら 9) の提唱する三次元デマンド コントロールモデルの一つの要素である. 三次元デマンド コントロールモデルは仕事の要求度 ( デマンド ), 裁量の自由度 ( コントロール ) と社会的援助 ( ソーシャルサポート ) を独立した要素として, 働く人のメンタ ルヘ ルスを考える重要なモデルである ID ). こ のモデルの研究の中で, ソーシャルサポートが虚血性心疾患の発生を抑制できることが実証された 11 ). 職場におけるソーシャルサポートの評価は休み時間に同僚と会話ができるか, 仕事中に同僚と話すために持ち場を離れることができるか, そして上司が食事やーコヒーを誘ってくれたり気遣ってもらえるかなどによる. 心 南木 2} の著書の中で次のような事例が語ら れている. 看護師の中年女性が病院勤めを辞 め脳血管障害の慢性期にある自らの父親の在 宅介護を夫と共に始める. 介護には入浴等重 労働が続くが, 護することとなっ し, 昼食は不登校の次男が食事介 た. その後次男は自発登校 帰宅後学校の様子を祖父に話すように なった. 次男に登校の価値を教えたものは, 日常の労作に不自由してい であっ る寝たきりの祖父 たと考えられる. 介護で世話される受 身の存在が, 登校の価値を教えてくれている. 世話をしているつ もりが教えを受けていたこ とになる. ソーシャルサポートも同様に, り質の高いサポートを多く受けるには, いか に自らが他者に与えることができるかが, 大 きな要素になることが推測できる 13 ). まとめ 1 ) 男性更年期における問題をとらえるに は生物 心理 社会にわたる多次元評価理解 が必要である. 2 ) 中年期危機には, ソーシャルサポート の構築が有力な対策となる. には, 3) 男性更年期を社会的側面からとらえる ある. ライフサイクル的評価の視点が必要で 4 ) 仕事中毒は中年期に陥りやすい対処様 式であるが, 破綻しやすいスタイルでもある. 5 ) 中年期に発生する生活習慣病は, 心理 社会的問題と密接に関連してい よ るので容易に は修正できない. 6 ) 中年期における心理社会的価値観の再 構築は, ライフサイクルにおける切れ目を形 成するイニシエーションといえる. 412 心身医 20D4 年 6 月 第 44 巻第 6 号

文献 1> 佐藤哲哉, 茂野良一, 滝沢謙二, 他 : 中年期の発達課題と精神障害. ライフサイクル論の観点から ( 第 1 回 ). 精神医 28 :732742,1986 2) 佐藤哲哉, 茂野良一.t, 滝沢謙二, 他 : 中年期の発達課題と精神障害一一ライフサイクル論の観点から ( 第 2 回 ). 精神医 28 :980 991, 1986 3) Le inson DJ :The season of a man s life. 1978 ( ダニエル レビンソン南博 ( 訳 ): ライフ サイクルの心理学. 講談社,1992) 4) 中野弘一 : ストレス対処としてのアルコールの 功罪. 東京プライマ リケア研究会誌 6 :6265, 19945 ) 中野弘一, 芝山幸久, 村林信行, 他 : 心療内科 における中年期ストレスとその対応. ストレス科学 11 :169 173, 1996 6) 佐々淳行 : 東大落城. 文芸春秋, 1996 7) 中野弘一, 筒井末春, 芝山幸久, 他 : いわゆる 男子更年期に関する心身医学的検討. ホルモンと臨床 38 (Supp1 ) :9] 99, 1991 8)Nakano K Tsuboi K,MurabayashiN, et al.:adjustmentdisorders and psychosomatic disorders among c mpany employees, ノ加ノ Psychosom Med 34 :219 224,1994 9)Karasek RA :Job demand,jobdecisionlati tude,and mental strail1 :imp!icationsforjob redesign.admin Sci Quart, 24 :285 308, 1979 10 >Karasek R, Baker D,Marxer F,et al,:job decisi()n latitude,jobdemands,and cardiovas cular disease:aprostective study of Swedish men,a m / PtfblicHealth 71 :6947 }5,1981 11)Johnsorl JV,Hall EM :Job strain, work place social support,and cardiovascular disease:a cross sectional study of a random sample of the Swedish working population.am / Pub lichealth 78 :1336 1342, 1988 12) 南木佳士 : 夏のおしるこ医者という仕事 pp 165 171, 1995 工 3) 中野弘一 : 介護者の心身医学. 心身医療 7 : 1450 1453, 1995 お知らせ 会期 : 平成 16 年 7 月 17ti ( 土 )14 :30 18 :00 第 5 回北摂四医師会全人医療研究会 会場 ; いばらき京都ホテル 567. [034 茨木市中穂積 1110Ze 0726202121 14 :30 製品紹介睡眠障害改善剤 ドラール 二菱ウェルファーマ学術 G プロ グラム : 14 :50 開会の挨拶 15 :00 シンポジウム プライマ リケアのための補完 代替医療 ABC 座長 : 土居宗算 ( 土居整形外科院長 深尾篤嗣 ( 洛和会音羽病院心療内科部長 ) 1. 補完 代替医療の ABC 黒丸尊治 ( 彦根市立病院緩和ケア科部長 ) 2. 心理療法の ABC 林たみ子 ( 洛和会音羽病院心療内科係長 ) 3. 漢方医学の ABC 吉田麻美 ( 藍野病院内科医長 ) ユ6 :30 16 :50 総合討論 ユ 7 :00 特別講演 : 癌治療における補完 代替医療について 座長 : 後山尚久 ( 大阪医科大学産婦人科助教授 ) 演者 : 帯津良一 ( 帯津三敬病院院長 ) 18 :00 閉会の挨拶 参加費 : 当日の会場受付にて, 500 円を申し受けます. 本研究会は大阪府医師会生涯研修システム 3 単位ならびに日本心身医学会認定研究会に登録されてお ります. 企画委員長 : 深尾篤嗣 ( 洛和会音羽病院心療内科 ) 事務局 : 大阪医科大学小児科 ( 569 8686 高槻市大学町 2. 7) 担当 : 出中英高 共催 : 北摂四医師会全人医療研究会 / 三菱ウェルファーマ株式会社 / 吉富薬品株式会社 心身医 LtOO4 年 6 月 第 44 巻第 6 号 413