研 究 レポート 放 火 火 災 に 係 る 住 民 意 識 の 現 状 と 要 因 分 析 その1 アンケート 調 査 結 果 の 単 純 集 計 に 基 づく 概 観 一 般 財 団 法 人 消 防 科 学 総 合 センター 研 究 員 胡 哲 新 1.はじめに 平 成 24 年 版 の 消 防 白 書 によると あいかわらず 放 火 が 出 火 原 因 の 第 1 位 で 15 年 連 続 ということ になる 平 成 2 年 中 の 放 火 件 数 (5,62 件 )を1 日 当 たりでみると 約 15 件 の 放 火 火 災 が 発 生 した ことになる 放 火 の 動 機 には 怨 み 仕 返 し 精 神 障 害 薬 物 酩 酊 遊 び スリル のほか 保 険 金 目 当 や 放 火 自 殺 などもある また 放 火 火 災 の 発 生 箇 所 は 住 宅 のほか 不 特 定 多 数 の 人 が 利 用 す る 公 共 施 設 や ほとんど 人 がいない 倉 庫 空 き 家 など 様 々なものが 挙 げられることから 消 防 警 察 をはじめとする 行 政 機 関 のみならず 保 険 関 係 業 者 一 般 事 業 所 家 庭 レベルによる 放 火 火 災 予 防 対 策 に 地 域 ぐるみの 放 火 火 災 予 防 対 策 への 取 り 組 みも 必 要 不 可 欠 である 地 域 における 放 火 火 災 予 防 対 策 の 中 核 を 担 う 消 防 関 係 機 関 としては 燃 えやすい 物 品 の 整 理 や 巡 回 警 備 等 日 常 的 な 放 火 火 災 予 防 対 策 のほか 放 火 火 災 予 防 用 の 機 器 の 普 及 促 進 地 域 住 民 の 放 火 火 災 に 対 する 防 火 意 識 の 高 揚 のための 効 果 的 な 広 報 活 動 なども 求 められている 注 前 回 のレポート ) では 全 国 消 防 本 部 におけ る 放 火 火 災 対 策 の 現 状 と 課 題 に 関 するアンケート 調 査 結 果 の 一 部 を 取 り 上 げ 消 防 本 部 においては 放 火 火 災 対 策 上 の 最 大 課 題 は 住 民 意 識 の 向 上 ( 全 国 44%の 本 部 が 回 答 )であることを 示 した ( 注 : 消 防 本 部 における 放 火 火 災 防 止 対 策 等 の 現 状 と 課 題 消 防 科 学 と 情 報 No.111 201 冬 P52~56) その 結 果 を 踏 まえ 放 火 火 災 に 係 る 地 域 住 民 意 識 の 現 状 とその 影 響 要 因 を 把 握 し 今 後 の 効 果 的 な 広 報 啓 発 活 動 の 在 り 方 を 検 討 することを 最 終 目 的 とし 放 火 火 災 の 発 生 件 数 の 多 い 大 都 市 にお いて 住 民 意 識 に 関 するアンケート 調 査 を 行 った 本 稿 は その 調 査 結 果 の 一 部 を 報 告 するものであ る なお 本 調 査 は 平 成 25 年 度 消 防 防 災 科 学 技 術 研 究 推 進 制 度 で 採 択 された 研 究 課 題 地 域 特 性 を 考 慮 した 効 果 的 な 放 火 火 災 防 止 対 策 と 支 援 システ ムの 研 究 開 発 ( 研 究 代 表 者 : 横 浜 国 立 大 学 佐 土 原 聡 教 授 ) の 一 環 として 行 われたものである 2. 調 査 の 概 要 と 分 析 の 枠 組 み 住 民 による 放 火 火 災 予 防 対 策 の 取 り 組 みを 促 進 するには まず 人 々の 意 識 形 成 を 図 ることが 重 要 である 放 火 火 災 に 係 る 意 識 は 主 に 不 安 感 危 険 認 識 対 策 必 要 性 の 認 知 及 び 知 識 程 度 等 の 側 面 から 構 成 されていると 考 えられる( 図 1 参 照 ) 114 201( 秋 季 ) 41
H25 1 2 3 4 57 89 1011 1213 14 15 1619 20 表 1 調 査 概 要 1 7 27 2 10 19 9 14 10 1213 272 184 279 735 2030 4050 6070 1 2 3 1 1 4 5 9 10 表 2 回 答 者 の 属 性 一 覧 N=272 60% 2 74% 5 64% 4 5 6 8 1 38% 2 29% N=184 40% 3 6 5 4 7 2 40% 59% 3 6 1 6 1 23& 2 4 N=279 2 28% 2 7 4 5 67% 2 5 4 4 7% 2 4 19% 4% 9% 1 60% 14% N=735 4 3 7 48% 67% 47% 5 38% 58% 4% 1 64% 1 2 20% 4 7% 1 2 3 放 火 火 災 に 係 る 意 識 の 形 成 は, 個 々 人 の 基 本 属 性 ( 性 別 年 齢 居 住 地 域 家 屋 状 況 等 )のほか 放 火 火 災 に 係 る 情 報 の 取 得 状 況 などの 側 面 からも 影 響 を 受 けていると 考 えられる これらに 関 連 して 合 計 20の 質 問 項 目 を 設 けて 行 ったアンケート 調 査 の 概 要 は 表 1のとおりであ る 図 1 分 析 の 枠 組 み 42 消 防 科 学 と 情 報
本 調 査 の 結 果 を 用 いて 最 終 的 には 基 本 属 性 及 び 情 報 取 得 状 況 の 住 民 意 識 への 影 響 や 住 民 意 識 と 放 火 火 災 予 防 対 策 への 取 り 組 みとの 関 係 を 明 ら かにするとともに 居 住 地 域 や 居 住 形 態 などに 応 じた 情 報 提 供 の 在 り 方 を 検 討 することを 予 定 して いるが 本 稿 は それらの 分 析 の 基 礎 資 料 として まず 単 純 集 計 の 結 果 から 居 住 地 域 別 の 放 火 火 災 に 係 る 住 民 意 識 及 び 取 り 組 みの 現 状 を 概 観 するも のである 3. 調 査 結 果 の 概 要 (1) 回 答 者 の 属 性 分 析 の 前 に まず 調 査 対 象 の 属 性 分 布 を 把 握 し てみた 表 2から 次 のことがわかる a) 年 齢 構 成 については 名 古 屋 市 では20~0 代 の 若 者 が 大 半 (60%)を 占 めるのに 対 して 足 立 区 では60~70 代 以 上 が 約 半 数 を 占 めている b) 性 別 については 3 都 市 とも 共 通 して 女 性 が 大 半 (7 割 前 後 )を 占 めている c) 職 業 については 3 都 市 とも 共 通 して 勤 務 無 職 のそれぞれが 約 半 数 を 占 めている d) 家 屋 所 有 形 態 については 3 都 市 とも 共 通 して 持 家 (7 割 前 後 ) 賃 貸 (3 割 前 後 ) となっている e) 家 屋 類 型 について 名 古 屋 市 横 浜 市 では 共 同 住 宅 が 過 半 数 で 足 立 区 では 一 戸 建 が 過 半 数 を 占 めている f) 家 屋 構 造 について 名 古 屋 市 横 浜 市 では 鉄 骨 鉄 筋 が6 割 で 足 立 区 では 鉄 骨 鉄 筋 木 造 のそれぞれが 約 半 数 を 占 めている g) 家 族 構 成 について 名 古 屋 市 では 夫 婦 と 子 供 が 特 に 多 く 8 割 強 を 占 めている h) 居 住 年 数 については 足 立 区 では 10 年 以 上 が 最 も 多 く 6 割 を 占 めている (2) 放 火 火 災 への 不 安 感 調 査 では 日 頃 不 安 に 思 っている 事 項 として 地 震 災 害 風 水 害 犯 罪 交 通 事 故 火 災 その 他 の6つを 取 り 上 げ その 中 から 不 安 感 の 高 い 順 に3つまで 選 んでもたった 結 果 を 図 2~3に 示 す 全 体 的 に 不 安 感 が1 番 目 に 高 い 事 項 として 地 震 災 害 (4)が 最 も 多 く 次 いで 犯 罪 () 交 通 事 故 () 火 災 () そ の 他 ()の 順 であった また 自 宅 やその 付 近 に 最 も 心 配 な 出 火 原 因 に ついて 4つの 選 択 肢 から 単 一 選 択 で 回 答 を 求 め た 結 果 を 図 4に 示 す 3 都 市 とも 共 通 して 不 注 意 等 による 失 火 との 回 答 が 最 も 多 い 次 いで 横 浜 市 では 地 震 等 による 火 災 が 多 く 挙 げら れているのに 対 して 足 立 区 と 名 古 屋 市 では 放 火 火 災 が 挙 げられている 図 2 日 頃 不 安 に 思 っている 事 項 (N=735) 図 3 一 番 不 安 に 思 う 事 項 (N=735) 114 201( 秋 季 ) 4
(3) 放 火 火 災 発 生 の 可 能 性 と 危 険 場 所 設 問 では 周 辺 の 家 屋 に 比 べ 自 宅 は 放 火 に 遭 う 可 能 性 が 高 いかと 尋 ね 4つの 選 択 肢 から 単 一 選 択 で 回 答 を 求 めた 結 果 を 図 5に 示 す 3 都 市 とも 共 通 して 低 い との 回 答 が 最 も 多 く( 約 4 割 ) 次 いで 同 程 度 分 からない 高 い の 順 であった また 放 火 火 災 発 生 の 危 険 を 最 も 感 じる 場 所 に ついて 複 数 の 選 択 肢 から 単 一 選 択 で 回 答 を 求 め た 結 果 を 図 6に 示 す トップ3 位 の 危 険 場 所 と して 3 都 市 とも 共 通 して 空 地 空 き 家 住 宅 ごみ 集 積 場 等 が 挙 げられている 図 4 最 も 心 配 な 出 火 原 因 (4) 放 火 火 災 防 止 対 策 の 必 要 性 設 問 では 居 住 地 域 ( 学 区 ) 及 び 自 宅 のそれぞ れにおいて 放 火 に 遭 わないための 防 止 対 策 が 必 要 と 思 うかについて 5つの 選 択 肢 から 単 一 選 択 で 回 答 を 求 めた 結 果 を 図 7~8に 示 す それぞ れについて 3 都 市 とも 共 通 して とても 思 う と やや 思 う あわせて 全 体 の8 割 強 を 占 めて いる (5) 放 火 火 災 の 防 止 対 策 を 知 っているか 設 問 では 居 住 地 域 及 び 自 宅 のそれぞれが 放 火 に 遭 わないために 住 民 自 らできる 対 策 または 家 庭 でできる 対 策 を 知 っているかについて 尋 ねた 大 体 知 っている と どちらかというと 知 って いる 合 わせて 知 っている とし どちらか というと 知 らない と 全 く 知 らない 合 わせて 知 らない として 集 計 結 果 を 図 9~10に 示 す 図 5 自 宅 が 放 火 に 遭 う 可 能 性 ( 周 辺 に 比 べ) a) 名 古 屋 市 と 横 浜 市 は 共 通 して 地 域 と 家 庭 の 対 策 の 両 方 について 知 らない との 回 答 が 最 も 多 く 大 半 (6 割 以 上 )を 占 めている b) 足 立 区 では 地 域 と 家 庭 の 対 策 の 両 方 につ いて 知 っている との 回 答 が 最 も 多 い(5 割 以 上 ) 図 6 放 火 の 危 険 を 感 じる 場 所 44 消 防 科 学 と 情 報
(6) 放 火 火 災 対 策 への 取 り 組 み 状 況 調 査 では 放 火 火 災 防 止 対 策 として 特 に 重 要 と されている 下 記 4つの 事 項 の 取 り 組 み 状 況 につい て 尋 ねた 結 果 を 図 11~14に 示 す ア 放 火 火 災 防 止 のための 機 器 を 設 置 しているか まず 自 宅 または 周 辺 で 監 視 カメラ センサー 付 き 照 明 などの 機 器 を 設 置 しているかについて 聞 いたところ 図 11に 示 すとおり 横 浜 市 では い いえ が 最 も 多 い( 約 6 割 )のに 対 して 名 古 屋 市 及 び 足 立 区 では はい が 最 も 多 く 半 数 以 上 を 占 めている 図 7 地 域 における 放 火 防 止 対 策 の 必 要 性 イ 燃 えやすいものを 置 かないようにしているか 次 に 家 の 周 辺 や 共 用 廊 下 などに 新 聞 雑 誌 など 燃 えやすいものを 置 かないようにしているか について 聞 いたところ 図 12に 示 すとおり 3 都 市 とも 共 通 して9 割 以 上 が はい と 答 えている ウ 地 域 の 防 火 講 習 会 等 に 参 加 しているか それから 地 域 の 防 火 講 習 会 等 に 参 加 している かについて 聞 いたところ 図 1に 示 すとおり 横 浜 市 及 び 名 古 屋 市 では いいえ が 最 も 多 いの に 対 して 足 立 区 では はい が 最 も 多 く 過 半 数 となっている 図 8 自 宅 における 放 火 防 止 対 策 の 必 要 性 エ 地 域 のパトロールに 参 加 しているか さらに 地 域 のパトロール( 見 回 り 巡 回 等 の) 活 動 に 参 加 しているかについて 聞 いたところ 図 14に 示 すとおり 3 都 市 とも 共 通 して いいえ が 最 も 多 い 一 方 足 立 区 では はい の 回 答 は4 割 で 比 較 的 に 高 い 参 加 率 を 示 している 図 9 地 域 でできる 対 策 を 知 っているか 図 10 家 庭 でできる 対 策 を 知 っているか 114 201( 秋 季 ) 45
4.まとめ 3 都 市 において 放 火 火 災 に 係 る 住 民 意 識 のア ンケート 調 査 を 行 った 単 純 集 計 の 結 果 に 基 づい て 考 察 を 行 い 次 の 結 論 が 得 られた 1) 調 査 は 異 なるイベントの 場 で 行 ったため イ ベント 参 加 者 の 特 性 を 反 映 し 性 別 や 家 族 構 成 など 基 本 属 性 の 偏 りが 見 られた 今 後 この 点 を 加 味 して 詳 細 な 分 析 を 進 めていく 必 要 が ある 2) 日 頃 不 安 に 思 っている 事 項 として 3 都 市 と も 共 通 して 地 震 災 害 が 最 も 多 く 挙 げられ ている また 火 災 の 発 生 について 最 も 心 配 される 出 火 原 因 は 放 火 でなく 不 注 意 等 による 失 火 であった 放 火 火 災 の 危 険 性 が 十 分 に 意 識 されていないことがうかがえる ) 周 辺 家 屋 に 比 べ 自 宅 の 放 火 火 災 発 生 の 可 能 性 について 3 都 市 とも 共 通 して 低 い との 回 答 が 最 も 多 かった 一 方 住 まいの 地 域 及 び 自 宅 における 放 火 火 災 防 止 対 策 の 必 要 性 に ついては 3 都 市 とも 高 い 割 合 (7 割 または 8 割 )で 認 めている 4) 地 域 及 び 家 庭 でできる 予 防 対 策 を 知 っている かについて 知 らない との 回 答 が 最 も 多 かっ た 今 後 地 域 住 民 へより 広 く 周 知 する 工 夫 な どが 必 要 と 考 えられる 5) 放 火 火 災 防 止 対 策 として 監 視 カメラなど 機 器 の 設 置 や 燃 えやすいものの 適 切 な 取 扱 い に 心 がけている 傾 向 がみられる 一 方 で 講 習 会 やパトロールなどの 地 域 活 動 への 参 加 率 は 低 く( 半 数 未 満 ) 詳 細 な 要 因 分 析 と 対 策 の 検 討 を 今 後 の 課 題 としたい 図 11 機 器 設 置 の 有 無 図 12 燃 えやすいものを 置 かないようにしているか 図 13 地 域 の 防 火 講 習 会 等 に 参 加 しているか 謝 辞 本 調 査 の 実 施 にあたり 多 大 なご 協 力 を 頂 いた 名 古 屋 消 防 局 横 浜 消 防 局 足 立 区 役 所 千 住 消 防 署 足 立 消 防 署 の 方 々に 深 甚 の 謝 意 を 表 します 図 14 地 域 のパトロール 活 動 に 参 加 しているか 46 消 防 科 学 と 情 報