1 第 46 回 福 井 県 小 児 保 健 協 会 学 術 集 会 一 般 演 題 子 宮 頸 がん 検 診 と HPV ワクチン 接 種 の 日 英 比 較 から 見 える 思 春 期 からの 検 診 教 育 の 必 要 性 佐 々 木 綾 子, 瀬 戸 知 恵, 波 埼 由 美 子, 山 田 須 美 恵 福 井 大 学 医 学 部 看 護 学 科 1. 緒 言 子 宮 頸 がん 予 防 はヒトパピローマウイルス(HPV:Human papilloma virus)ワクチン 接 種 による 一 次 予 防 と 検 診 による 二 次 予 防 の 時 代 に 入 った WHOでも, 子 宮 頸 がんは 世 界 全 体 で 取 り 組 むべき 問 題 とされている 子 宮 頸 がん 予 防 に 関 するわが 国 の 問 題 や 課 題 として 以 下 の 2 点 があげられる 1)わが 国 の 低 い 子 宮 頸 がん 検 診 受 診 率 の 問 題 かつて 中 高 年 の 疾 患 とされた 子 宮 頸 が んは 近 年 20,30 代 で 急 増 しており ( 図 1), この 年 代 の 女 性 に 発 生 する 悪 性 腫 瘍 のう ちで 第 1 位 を 占 めている この 年 齢 層 は 出 ( 人 口 10 万 対 ) 35.0 1975 2005 30.0 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 産 育 児 など 生 殖 行 動 のピークにあたる 時 図 1 子 宮 がん 検 診 罹 患 率 の 推 移 (15~49 歳 ) 期 である 早 期 の 場 合, 子 宮 頸 部 円 錐 切 除 術 ( 妊 孕 性 温 存 )や 放 射 線 治 療 を 伴 う 子 100% 85.0% 78.6% 宮 全 摘 術 などの 外 科 手 術, 進 行 期 では 放 80% 63.9% 射 線 療 法 や 化 学 療 法 が 行 われる このた 60% め, 若 い 女 性 の QOL が 低 下 し 妊 娠 出 産 40% の 可 能 性 も 脅 かされる 21.3% 20% わが 国 では 現 在, 年 間 約 8500 人 が 新 た 0% に 子 宮 頸 がんに 罹 患 し, 約 2500 人 が 子 宮 アメリカ 韓 国 頸 がんで 死 亡 していると 推 定 される 1) し かし,がん 検 診 受 診 率 の 国 際 比 較 を 見 ても, 図 2 子 宮 がん 検 診 受 診 率 の 国 際 比 較 (2008 または 2009) の 子 宮 頸 がん 検 診 受 診 率 は OECD( 経 済 協 力 開 発 機 構 ) 加 盟 国 30 カ 国 の 中 でも 約 20%と 最 低 レベ ルに 位 置 している 2) ( 図 2) 一 方, 子 宮 頸 がん 検 診 受 診 率 が 約 80%と 高 い や, 約 5 年 間 で 38.8%から 63.9%に 増 加 した 韓 国 では, 検 診 システム 環 境 や 啓 発 状 況 が 対 象 者 の 認 識 に 影 響 しているこ とが 明 らかとなっている このため 受 診 率 を 高 めることはわが 国 の 重 要 な 課 題 である 2) 子 宮 頸 がんワクチン 承 認 後 の 課 題 このような 中,わが 国 では 平 成 21 年 12 月 より HPV ワクチンが 承 認 され, 子 宮 頸 がんはワクチン 接 種 と 検 診 で 予 防 できる 疾 患 となった すでに 欧 米 など 世 界 26 カ 国 で 主 に 10 代 前 半 を 対 象 にワクチン 接 種 の 公 費 助 成 が 行 われ, では 12~13 歳 の 女 性 の 80% 以 上 が 接 種 している 一 方,わが 国 では, 平 成 22 年 10 月 末 にセクシャルデビュー 以 前 の 中 学 1 年 生 ~ 高 校 1 年 生 女 子 を 対 象 に, 平 成 22~23 年 度 の 2 か 年 子 宮
2 頸 がんワクチン 接 種 助 成 が 決 定 した しかし, 今 後 ワクチン 接 種 の 必 要 性 を 啓 発 していくためには, 性 に 関 わる 問 題 であるため, 若 年 世 代 だけでなく 親 世 代, 学 校 教 育 関 係 者 に 対 する 健 康 教 育 が 重 要 である そこで, 本 研 究 では 子 宮 頸 がん 検 診 受 診 率 および HPV ワクチン 接 種 率 が 高 い 先 進 国 の 一 つである に 着 目 し, 日 英 を 比 較 することで,わが 国 における 今 後 の 啓 発 活 動 や 教 育 に 役 立 てたいと 考 えた 2. 研 究 目 的 における 子 宮 頸 がん 検 診 HPV ワクチン 接 種 を 取 り 巻 く 環 境, 教 育 啓 発 の 実 態 を 明 らかにし, 日 英 を 比 較 する 3. 研 究 方 法 1) 期 間 : 平 成 22 年 8 月 6 日 ~18 日 3)4) 2)データ 収 集 方 法 : 調 査 に 同 意 の 得 られた 医 療 関 係 者 からの 聞 き 取 り 調 査, 文 献 資 料 収 集 を 行 った 3)データ 収 集 内 容 : 子 宮 頸 がん 検 診 システム 環 境,HPV ワクチン 接 種 環 境, 教 育 啓 発 状 況 など 4)データ 分 析 方 法 : 日 英 を 比 較 した 4. 結 果 1) 子 宮 頸 がん 検 診 システム 環 境 の 違 い( 表 1) では,25 歳 以 上 を 対 象 とした 3 年 ごとの 検 診 は 無 料 であり, 未 受 診 者 には 電 話 や 文 書 により 催 促 が 行 われていた 検 診 は NHS(National Health Servise)の 管 理 下, 家 庭 医 ( 以 下 GP:General Practitioner)で 行 わ れ, 家 庭 的 な 雰 囲 気 の 中,ほとんどの 検 診 を 看 護 師 助 産 師 が 行 っていた また, 内 診 台 はなく 普 通 の 診 察 台 を 使 用 していた 一 方,わが 国 において, 市 町 村 検 診 は 20 歳 以 上 を 対 象 に2 年 ごとに 行 われ, 費 用 は 無 料 から 2000 円 程 度 であった 診 察 は 内 診 台 で 行 われ,カーテンのしきりがあり, 産 科 医 師 により 行 われるの が 一 般 的 であった 25 歳 以 上 3 年 ごと 無 料 未 受 診 者 には 電 話 や 文 書 で 催 促 GP( 家 庭 医 )で 検 診 90%は 看 護 師 助 産 師 が 検 診, 女 医 の 診 察 を 希 望 可 能 診 察 台 表 1 子 宮 頸 がん 検 診 システム 環 境 の 違 い 20 歳 以 上 2 年 ごと 無 料 ~2000 円 催 促 なし 産 科 で 検 診 多 くが 男 性 医 師 内 診 台 カーテン 写 真 1 の 子 宮 頸 がん 検 診 診 察 台 写 真 2 わが 国 の 一 般 的 な 内 診 台
3 2)HPV ワクチン 接 種 環 境 の 違 い( 表 2) において, 公 費 負 担 による 接 種 は 12~13 歳 の 女 子 に 対 し, 学 校 でスクールナースにより 接 種 されて いた わが 国 では 中 学 1 年 生 から 高 校 1 年 生 を 対 象 に, 産 婦 人 科 小 児 科 内 科 などで 医 師 により 行 われて いた 12~13 歳 (14~18 歳 は3 年 間 限 定 ) 学 校 スクールナース 無 料 3) 教 育 啓 発 環 境 の 違 い( 表 3) 表 2 HPV ワクチン 接 種 環 境 の 違 い 中 1~ 高 1 医 療 機 関 主 に 医 師 平 成 22~23 年 度 は 国 と 市 町 村 で 9 割 ( 残 り1 割 の 補 助 も 増 加 ) では, 学 校 をはじめ 接 種 対 象 年 齢 の 女 子 に 対 し, 学 校 でスクールナースなどによる 検 診 教 育 の 他 GP,メディアなどで 啓 発 が 行 われていた また 母 親 の 受 診 率 が 高 いため, 家 庭 での 教 育 も 行 われていた さらに, The Goody Effect と 呼 ばれる, 若 いタレントの 子 宮 頸 がんによる 死 もワクチン 接 種 率 や 継 続 接 種 を 増 加 させる 要 因 となっていた 一 方 わが 国 では, 学 校 での 検 診 教 育 は 学 習 指 導 要 領 に 含 まれておらず, 市 町 村 や 企 業 が 独 自 に 作 成 した 説 明 書 小 冊 子 などが 利 用 されていた ワクチンの 承 認 や 無 料 化 に 伴 いメデ ィアで 活 発 に 取 り 上 げられているが, 啓 発 は 始 まったところである さらに, 母 親 が 検 診 教 育 を 受 けていない ため, 家 庭 での 教 育 の 担 い 手 とはなっていなかった 学 校 で 検 診 教 育 GP, 友 人, 新 聞, 雑 誌,テレビ 保 護 者 の 子 宮 頸 がん 検 診 受 診 率 が 高 いため, 家 庭 で 保 護 者 が 教 育 表 3 教 育 啓 発 環 境 の 違 い 学 校 での 検 診 教 育 は 不 十 分 新 聞, 雑 誌,テレビ 家 庭 での 保 護 者 の 教 育 不 十 分 12~13 歳 の 接 種 対 象 者 用 のパンフレットの 一 部 4)
4 5. 考 察 における 子 宮 頸 がん 検 診 は, 無 料 かつ 未 受 診 者 には 催 促 が 行 われる 対 策 型 検 診 となっているうえ に, 女 性 の 医 療 者 が 普 通 の 診 察 台 で 検 診 を 行 うなど,わが 国 と 比 べ 検 診 システム 環 境 とも 検 診 しやすい 現 状 であった また,HPV ワクチンは 学 校 でスクールナースにより 接 種 され,わが 国 以 上 に 接 種 しやすい 環 境 が 整 っていた さらに, 学 校 をはじめ 接 種 対 象 年 齢 の 女 子 に 対 して GP,メディアなどで 啓 発 が 行 われて, 保 護 者 の 受 診 率 が 高 いため, 家 庭 での 教 育 も 行 われていた 一 方 わが 国 では,ワクチンの 承 認 や 無 料 化 に 伴 いメディアで 活 発 に 取 り 上 げられてはいるが, 学 習 指 導 要 領 に 含 まれていないこともあり, 学 校 での 検 診 教 育 は 始 まったところであった さらに, 保 護 者 自 身 の 受 診 率 が 低 いことや 検 診 教 育 を 受 けていないこと から, 家 庭 での 教 育 の 担 い 手 とはなっていない 現 状 が 明 らかとなった 日 英 の 比 較 の 結 果, 子 宮 頸 がん 検 診 HPV ワクチン 接 種 環 境 や 思 春 期 からの 啓 発 状 況 の 違 いが, 思 春 期 女 子 や 保 護 者, 社 会 の 認 識 に 影 響 していることが 推 察 され, 保 護 者 を 含 めた 思 春 期 からの 検 診 教 育 の 必 要 性 が 明 らかとなった これらの 結 果 から 具 体 的 提 言 として, 以 下 のことが 考 えられた 1) 教 育 者 保 護 者, 接 種 対 象 女 子 への 啓 発 の 実 施 ( 図 3) 親 子 共 通 小 冊 子 などを 用 いた 健 康 教 育 を, 親 世 代 若 年 世 代 教 育 担 当 者 に 行 う そのことで, 親 世 代 と 若 年 世 代 の 子 宮 頸 がん 検 診 ワクチン 接 種 に 対 する 相 互 理 解 が 可 能 となる また 若 年 世 代 から 母 親 に 子 宮 頸 がん 検 診 受 けて というメッセージを 伝 えることもできる 教 育 担 当 者 は 若 年 世 代 をサポートし, 親 世 代 との 相 互 理 解 にもつながる 若 年 世 代 に 対 する 説 明 例 では, 一 度 でも 性 体 験 がある 人 は 誰 でも 子 宮 頸 が んになる 可 能 性 があります 子 宮 という 赤 ちゃんをつくるための 大 事 な 臓 器 ががんになると 赤 ちゃんが 産 め なくなってしまうので,それを 防 ぐためにワクチンをします 若 い 時 は 子 宮 頸 がんワクチン 接 種 で 予 防 し, 大 人 の 女 性 になったら 検 診 を 受 けましょう など 対 象 が 理 解 しやすい 表 現 で 説 明 する さらに, 親 世 代 の 子 宮 頸 がん 検 診 に 対 する 知 識 意 識 が 高 まることから, 受 診 率 の 増 加 が 期 待 される 親 世 代 の 子 宮 頸 がん 検 診 に 対 する 理 解 受 診 率 の 増 加 親 世 代 子 ども 世 代 教 育 担 当 者 のための 子 宮 頸 がん 検 診 HPV ワクチン 接 種 に 関 する 健 康 教 育 プログラムの 実 施 親 世 代 保 護 者 PTA 代 表 者 親 から 子 ども ワクチン 接 種 につ いてサポート 若 年 世 代 中 1~ 高 校 1 年 生 教 育 担 当 者 養 護 教 諭 担 当 教 諭 子 どもから 親 ワクチン 接 種 時 親 への 子 宮 頸 がん 検 診 受 診 メッセージ ワクチン 接 種 についてサポ ート ワクチン 接 種 について 相 互 理 解 図 3 教 育 者 保 護 者, 接 種 対 象 者 への 啓 発 教 育 プログラム 2) 女 子 大 学 生 への 啓 発 の 実 施 子 宮 頸 がん 検 診 受 診 率 向 上 のためには, 検 診 対 象 者 が 集 まるあらゆる 機 会 をとらえ 積 極 的 な 啓 発 を 行 う ことが 必 要 である 中 でも 女 子 大 学 生 の 集 まる 機 会 は 重 要 である その 理 由 として, 市 町 村 検 診 は 20 歳 から 行 われることから, 女 子 大 学 生 は, 乳 がんも 含 めた 検 診 を 習 慣 化 し,ワクチンへの 関 心 をもってもらう 重 要 な 対 象 であること,また, 学 習 指 導 要 領 のような 規 定 もないことから, 保 護 者 と 同 様 の 啓 発 が 可 能 であることが
5 あげられる しかし, 女 子 大 学 生 世 代 の 受 診 率 は 5.6%と 検 診 対 象 年 齢 の 中 で 最 も 低 くなっている 5) その 理 由 として, 検 診 環 境 が 若 い 女 性 向 きではないことが 考 えられる このため, 気 軽 に 検 診 できるよう 場 所 時 間 帯 を 配 慮 することやアメニティを 整 えること, 大 学 の 健 康 診 断 の 機 会 に 検 診 を 行 うなどの 対 策 が 考 えられる また, 大 学 生 に 対 するワクチン 接 種 効 果 は,すでに 感 染 したウィルスに 対 しては 無 効 であるが, 今 後 の 新 た な 感 染 に 対 しては 有 効 である 女 子 大 学 生 のワクチン 接 種 率 向 上 のためには, 高 額 な 接 種 費 用 の 軽 減 が 不 可 欠 であり, 今 後 検 討 すべき 課 題 である 6. 結 論 日 英 の 比 較 の 結 果, 子 宮 頸 がん 検 診 HPV ワクチン 接 種 環 境 や 思 春 期 からの 啓 発 状 況 の 違 いが, 思 春 期 女 子 や 保 護 者, 社 会 の 認 識 に 影 響 していることが 推 察 された わが 国 においても 思 春 期 女 子 への 公 費 助 成 が 開 始 したことから, 保 護 者 も 含 めた 思 春 期 からの 検 診 教 育 の 導 入 が 急 がれる 謝 辞 本 調 査 をまとめるにあたり,ご 協 力 いただきました King's College London,St Thomas' Hospital London,King's College Hospital London,GlaxoSmithKline UK 関 係 の 皆 様 に 感 謝 申 し 上 げます 引 用 文 献 1) 今 野 良 : 予 防 ができる 子 宮 がん-HPV ワクチンとがん 予 防 検 診 の 重 要 性 -, 助 産 師,65 巻,1 号,p8-13,2011. 2) National Cancer Center: Korea Cancer Fact 2010 p47, 2011.03.25, http://www.cancer.go.kr/cms/data/edudata/icsfiles/afieldfile/2010/07/21/cancer_fact_figures_2010_english.pdf 3)Sharon J. B. Hanley: における 子 宮 頸 癌 予 防 のためのパブリックヘルス 教 育, 産 婦 人 科 の 実 際,59(4), 583-589,2010. 4) NHS Health Scotland: Cervical cancer and HPV immunization programme in Scotland: http//www.fightcervicalcancer.org.uk/201.3.25 5) 厚 生 労 働 省 : 平 成 19 年 国 民 生 活 基 礎 調 査,2011.03.25, http://www.gankenshin50.go.jp/campaign/outline/low.html 参 考 文 献 1) 高 岡 志 帆 : 行 政 の 立 場 からの 取 り 組 みについて, 助 産 師,65 巻 1 号,p8-13,2011. 2) 子 宮 がん 頸 がんの 予 防 戦 略 -ワクチンと 検 診, 臨 床 産 婦 人 科 産 科,64 巻 3 号,p242-317,2010. 3)グラクソ スミスクライン 株 式 会 社 :すべての 女 性 に 知 ってほしい 子 宮 頸 がん 情 報 サイト, 2011.03.25, http://allwomen.jp/