発行日 : 7 月 8 日 本レポートは 特定の金融商品の販売等を目的とした資料ではありません 経済情勢 市況などの投資環境に関する参考情報としてご活用ください
為替相場見通し 執筆者 アナリスト森本淳太郎 当面の注目ポイント 新型コロナウイルスを巡る動向 ( 事態が悪化し 米株価が急落すれば円高要因に ) 香港 ウイグル情勢 通商協議を巡る米中関係 ( 関係が悪化すれば円高要因に ) 各国の経済対策 ( 大規模な経済対策が奏功するとの期待から米株高となれば 円安要因に ) 中東情勢や北朝鮮を巡る地政学リスクが再燃しないか ( 軍事的緊張が高まれば円高要因に ) ( 円 ) (%) 6/2 1.0 経済活動再開への期待から市場心 5/11 理が改善する中 節目の108 円を突 109.5 複数の連銀総裁が 米国のマイナス破したことで一気にドル高 円安方向金利導入を否定 ドルは全面高にに振れた 0.9 108.5 5/14 トランプ大統領が 現時点で強いドルを持つことは良いことだ と発言 これまでのドル安志向を転換し ドル高を容認した 6/8 米連邦公開市場委員会 (FOMC) でイールドカーブ コントロール (YCC) が議論されるとの思惑から 米長期金利が低下するのに併せて 急速にドル売りが進行 0.8 107.5 0.7 106.5 5/19 米バイオテクノロジー会社のモデルナが 開発中の新型肺炎ワクチン候補が初の治験で有力な結果を示した と発表 円は全面安となった 0.6 105.5 0.5 2020/5/1 2020/5/14 2020/5/27 2020/6/9 2020/6/22 出所 :Bloomberg SFH 米感染再拡大を睨んでの相場 5 月から6 月にかけてのドル円相場は 107 円ちょうどを挟んだ値動きが中心となりました 6 月上旬には 経済活動再開への期待や 米長期金利の上昇により 一時ドル高 円安が進行 しかしその後 米国でイールドカーブ コントロール (YCC) が導入され 将来にわたり金利が抑えられるのではとの思惑が広がると 米長期金利の低下に併せてドル売りが優勢となり 結局元の107 円を中心とした水準で落ち着いています 今後も新型コロナウイルスの感染状況を睨みながらの相場が続きそうですが 最大のリスクは やはり米国における感染第 2 波の加速です 米国では 早期に経済活動を再開した南 西部の州で新規感染者数が急増しており 感染第 2 波への懸念が強まっています テキサス州やフロリダ州では5 月より段階的に進められてきた経済活動の再開が一部停止されるなど このところ高まっていた景気回復への期待にも水を差されている状況です これまで感染拡大の中心となってきたニューヨーク州は今のところ抑制に成功していますが 遅れて経済活動が再開された同州でも感染が再拡大するようなことがあれば 市場心理は更に悪化し 円高が進む可能性は低くありません ただし 先日もトランプ政権が1 兆ドル規模の追加の景気対策を検討していると報じられたように 政府や中央銀行は できることは何でもやる という力強い姿勢を示しており 景気下支えへの根強い期待が市場心理の大幅な悪化を防いでいます ドル円は当面 新型コロナウイルスに関するネガティブな材料で 一時的には円高に振れやすいものの 大きくは崩れにくい相場が続きそうです * 執筆日 : 6 月 30 日 1
マクロ経済見通し シニアエコノミスト 執筆者 渡辺浩志 財政ファイナンス相場 の行方 米国経済は悪化していますが 株価は上昇基調にあります しかし 現在の株高を不可解とする見方は多く 株価が急落す るたびに 戻り相場の終わり との声が高まります コロナ禍での株高の原動力は何なのでしょうか? 株価とは 企業収益 (EPS) の割引現在価値であり EPS を割引率 (= 実質金利 - 期待成長率 ) で割ったものです また この割引率の逆 数が株価収益率 (PER) です 足下の株高は EPS が下落するなかで PER が急上昇していることが原動力です では なぜいま PER が急 上昇しているのでしょうか? その原因は財政 金融政策の協調にあると思われます 新型コロナによる景気後退は 感染抑止のための経 済活動の強制停止によるものであり いわば 官製不況 です その損失補填として 政府が積極的な財政出動を行い 中央銀行はそれを 金融緩和で支援しています 巨額の財政出動はコロナ禍で失墜した企業 の期待成長率を回復させます 一方 未曽有の金融緩和は名目金利の上 昇を抑え込むとともにインフレ期待を刺激し 実質金利を低下させます こ の 期待成長率の回復 と 実質金利の低下 が割引率を押し下げ その逆 数である PER を押し上げているのです 景気後退期に金融緩和で PER が 上昇することを 金融相場 と呼びますが 現在は財政 金融政策の協調に よる PER の上昇であり 財政ファイナンス相場 と呼ぶのが相応しいでしょう 米国の財政出動の最たるものは 家計への現金給付や失業給付です これによって可処分所得は急増しましたが 消費支出は外出禁止によって 減少したため 4 月の貯蓄率は史上最高の 32% となりました ( 図 1) 米国の 家計は 懐は暖かいのに財布の紐を解くことが出来ない状態にあり いま の高い貯蓄率はペントアップ ディマンド ( 繰り越し需要 ) の膨大さを表してい ます 経済活動が正常化に向かえば 貯蓄率は平時の水準へ近付き そ の過程では年率 5 兆ドルもの個人消費が発生するでしょう これは企業の 期待成長率を大いに高めるものです 他方 金融緩和で FRB( 米連邦準備 理事会 ) の総資産は急拡大しました カネ余りの度合いを表すマーシャル の k も急上昇しており ( 図 2) これが実質金利を押し下げています 今後 コロナ禍の 第二波 が襲えば トランプ政権は速やかに数兆ドルの 追加財政出動を行うでしょう それは国債増発を伴うため FRB はすかさず 国債買入れを加速させると思われます 結果として 第二波 は EPS を悪 化させる一方 追加的な財政 金融政策を呼び寄せ PER を一段と上昇さ せそうです そのため 株価は二番底があったとしても一番底より浅くなる ほか 財政ファイナンス相場の強化で 後の株高はかえって加速しそうです 図 1: 高い貯蓄率はペントアップ ディマンドの膨大さを示唆 ( 貯蓄率 %) 35 30 25 20 15 10 約5 景気後退局面 0 66 69 72 75 78 81 84 87 90 93 96 99 02 05 08 11 14 17 20 ( 年 ) 注 : 貯蓄率 = 貯蓄 / 可処分所得 図 2: FRB の国債買入れとカネ余りで実質金利が低下へ 注 : マーシャルの k= 通貨供給量 / 名目 GDP 出所 :Bloomberg SFH (FRB の総資産額 兆ドル ) ( マーシャルの k 倍 ) 8 7 6 5 4 3 2 1 FRB の総資産額 ( 左軸 ) マーシャルの k ( 通貨の余剰度 右軸 ) 0 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 出所 :Bloomberg SFH 5兆ト ルのペントアップ ディマンドシャドーは 0.90 0.85 0.80 0.75 0.70 0.65 0.60 0.55 0.50 0.45 今月のキーワード ペントアップ ディマンド ( 繰り越し需要 ) Pent up とは 抑圧された 鬱積した 閉じ込められた といった意味があり ペントアップ ディマンドは一般的には 繰り越し需要 と訳されます 代表的な例では 災害で自動車工場が水没するなどして生産が滞り 消費者が新車を購入できないようなケースがあります また 今般のように 新型コロナの感染抑止のための外出禁止 自粛などで モノを買いたくても買えないといったケースもあります こうした需要は 消滅したわけではなく 蓄積されていることが多いため 経済活動が再開すれば一気に表面化する傾向があります まして 現在のように家計への給付金によって貯蓄率が上昇している場合には 消費の回復も思いのほかはやい可能性があります 2
金融 経済見通し 経済見通し 米国日本ユーロ圏中国 注 : 実質 GDP は 米国 日本 ユーロ圏は前期比年率 中国は前年比 物価は前年比 日本のコア CPI は消費増税の影響除く 金利見通し (%) 2019 年 10-12 月期 1-3 月期 4-6 月期 7-9 月期 10-12 月期 1-3 月期 4-6 月期 実質 GDP 2.1-5.0-32.0 14.0 10.0 6.0 4.0-5.3 3.8 コアPCEデフレータ 2.0 1.7 1.5 1.3 1.3 1.2 1.6 1.5 1.6 実質 GDP -7.2-2.2-23.9 13.0 5.1 2.0 1.5-5.0 1.7 コアCPI -0.5-0.4-1.1-1.8-1.6-1.4-1.0-0.8 0.5 実質 GDP 0.4-14.2-40.0 24.0 10.0 6.0 3.0-5.1 3.3 CPI 1.0 1.1-0.2 0.2 0.2 0.5 1.4 0.3 1.3 実質 GDP 6.0-6.8 1.5 4.5 4.8 18.5 8.5 1.1 8.9 CPI 4.2 5.0 3.9 2.8 1.7 1.7 2.0 3.4 1.9 (%) 2019 年 10-12 月期 1-3 月期 4-6 月期 7-9 月期 10-12 月期 1-3 月期 4-6 月期 米国日本ユーロ圏 政策金利 1.50~1.75 0.00~0.25 0.00~0.25 0.00~0.25 0.00~0.25 0.00~0.25 0.00~0.25 0.00~0.25 0.00~0.25 10 年債利回り 1.92 0.67 0.70 0.75 0.80 0.85 0.90 0.80 1.00 政策金利政策金利 -0.05 10 年債利回り独 10 年債利回り -0.01-0.19 0.02-0.47 0.00-0.45 0.01-0.4 0.02-0.35 0.03-0.30 0.04-0.25 0.02-0.35 0.06-0.15 中国 政策金利 4.35 4.25 4.25 4.15 4.15 4.15 4.15 4.15 4.15 注 : 政策金利は 米国がFF 金利 日本が政策金利残高への適用金利 ユーロ圏は資金供給オペ金利 中国は貸出基準金利 期末値 為替見通し 2019 年 10-12 月期 1-3 月期 4-6 月期 7-9 月期 10-12 月期 1-3 月期 4-6 月期 米ドル ドル円 108 108 107 107 108 110 113 108 110 ユーロポンド豪ドル ユーロ円ポンド円豪ドル円 121 143 76 119 133 66 119 131 72 126 68 123 71 117 128 73 120 133 75 123 71 129 70 ユーロドルポンドドル豪ドル米ドル 1.12 1.32 0.70 1.10 1.23 0.61 1.11 1.22 0.67 1.08 1.18 0.64 1.07 1.14 1.06 1.16 1.06 1.18 1.07 1.14 1.05 1.17 0.64 注 : 全て期末値 3
ソニーフィナンシャルホールディングスアナリストの紹介 尾河眞樹 ( おがわまき ) ソニーフィナンシャルホールディングス執行役員兼金融市場調査部長チーフアナリスト ファースト シカゴ銀行 JP モルガン証券などの為替ディーラーを経て ソニー財務部にて為替リスクヘッジと市場調査に従事 その後シ ティバンク銀行 ( 現 SMBC 信託銀行 ) で個人金融部門の投資調査企画部長として 金融市場の調査 分析 および個人投資家向け情報 提供を担当 2016 年 8 月より現職 テレビ東京 News モーニングサテライト 日経 CNBC などにレギュラー出演し 金融市場の解説を 行っている 著書に 為替がわかればビジネスが変わる (2014 年日経 BP 社 ) 富裕層に学ぶ外貨投資術 (2015 年日経新聞出版社 ) 新版 本当にわかる為替相場 (2016 年日本実業出版社 ) などがある 菅野雅明 ( かんのまさあき ) ソニーフィナンシャルホールディングス金融市場調査部シニアフェローチーフエコノミスト 1974 年日本銀行に入行後 秘書室兼政策委員会調査役 ロンドン事務所次長 調査統計局経済統計課長 同参事などの役職を歴任 日 本経済研究センター主任研究員 ( 日本銀行より出向 ) を経て 1999 年 JP モルガン証券入社 チーフエコノミスト 経済調査部長 マネジング ディレクターとして日本の金融経済分析 予測を担当 2017 年 4 月より現職 総務省 統計審議会 委員 財務省 関税 外国為替等審議 会 専門委員 内閣府 経済財政諮問会議グローバル化改革専門調査会 金融 資本市場ワーキンググループ メンバー 内閣官房 公 的 準公的資金の運用 リスク管理等の高度化等に関する有識者会議 メンバー 厚生労働省 年金積立金の管理運用に係る法人のガバ ナンスの在り方検討作業班 専門委員などを歴任 日本経済新聞 十字路 経済教室 日経 QUICK QUICK エコノミスト情報 東洋経済 経済を見る眼 論点 NTT 出版 危機の日本経済 など執筆多数 テレビ東京 News モーニングサテライト レギュラーコメンテーター 1974 年東京大学経済学部卒 1979 年シカゴ大学大学院経済学修士号取得 渡辺浩志 ( わたなべひろし ) ソニーフィナンシャルホールディングス金融市場調査部シニアエコノミスト 1999 年に大和総研に入社し 経済調査部にてエコノミストとしてのキャリアをスタート 2006 年 ~2008 年は内閣府政策統括官室 ( 経済財政 分析 総括担当 ) へ出向し 経済財政白書 等の執筆を行う 2011 年からは SMBC 日興証券金融経済調査部および株式調査部にて機関 投資家向けの経済分析 情報発信に従事 2017 年 1 月より現職 内外のマクロ経済についての調査 分析業務を担当 ロジカルかつデー タの裏付けを重視した分析を行っている 石川久美子 ( いしかわくみこ ) ソニーフィナンシャルホールディングス金融市場調査部シニアアナリスト 商品先物専門紙での貴金属および外国為替担当の編集記者を経て 2009 年 4 月に外為どっとコムに入社し 外為どっとコム総合研究所 の立ち上げに参画 同年 6 月から研究員として 外国為替相場について調査 分析 レポートや書籍 ブログ Twitter などの執筆 セミナー 講師 テレビやラジオなどのコメンテーターとして活動 2016 年 11 月より現職 外国為替市場の調査 分析業務を担当 森本淳太郎 ( もりもとじゅんたろう ) ソニーフィナンシャルホールディングス金融市場調査部アナリスト みずほフィナンシャルグループにて企画業務 法人営業などを経験した後 2019 年 8 月 ソニーフィナンシャルホールディングスへ入社 外 国為替市場の調査 分析業務を担当 ソニーフィナンシャルホールディングスの公式ホームページでは 様々なマーケットレポートをご用意しております ぜひご覧ください https://www.sonyfh.co.jp/ja/financial_info/market_report/ 4
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