安 全 保 障 上 の 視 点 から 見 た 技 術 流 出 防 止 のための 法 規 制 現 状 と 課 題 Laws and Regulations Protecting Sensitive Technologies for National Security: Current Situations and Challenges 森 本 正 崇 * Masamitsu MORIMOTO 抄 録 本 稿 では, 安 全 保 障 上, 重 要 な 技 術 情 報 の 流 出 を 防 止 するための 法 規 制 を 検 討 する 外 為 法 や 不 正 競 争 防 止 法 等 による 法 規 制 が 強 化 されてきた 一 方 で, 課 題 も 残 されている 1.はじめに 近 年, 企 業 や 大 学 研 究 機 関, 政 府 ( 以 下, 企 業 等 という )からの 重 要 な 技 術 情 報 の 流 出 が, 産 業 競 争 力 のみならず, 安 全 保 障 上 の 観 点 からも 大 きな 問 題 となっている 1 安 全 保 障 上, 機 微 な 技 術 の 流 出 は, 懸 念 国 家 への 流 出 を 通 じた 国 際 平 和 への 悪 影 響, 大 量 破 壊 兵 器 やテロへの 転 用 等 の 直 接 的 な 安 全 保 障 上 のリスクとなるとともに, 我 が 国 の 防 衛 生 産 基 盤 の 毀 損,さらには 我 が 国 の 国 際 社 会 における 信 用 失 墜 にもつながるものであり, 安 全 保 障 上 の 機 微 技 術 の 流 出 に 対 する 厳 格 な 対 処 は, 国 際 社 会 における 責 任 として 必 要 不 可 欠 であ る 2 技 術 流 出 が 懸 念 される 背 景 として, 経 済 産 業 省 の 報 告 書 では, 多 くの 民 生 技 術 が 軍 事 転 用 可 能 なことや, 経 済 のグローバル 化 や IT 技 術 の 進 歩 等 により, 技 術 流 出 の 経 路 や 形 態 も 多 様 化 している ことが 指 摘 されている 3 すなわち 技 術 流 出 は ど こでも 起 こり 得 る ことであり,それが 安 全 保 障 上 の 悪 影 響 も 与 えかねないものである 本 稿 では,こうした 安 全 保 障 上 の 懸 念 に 対 応 し た 技 術 流 出 防 止 のための 法 制 度 を 概 観 する 上 記 のような 懸 念 を 踏 まえ, 近 年, 技 術 流 出 防 止 のた めの 規 制 は 逐 次, 拡 充 強 化 されてきており,こ うした 変 化 について 触 れた 上 で, 残 された 課 題 に ついて 検 討 したい 2. 技 術 流 出 防 止 のための 法 規 制 安 全 保 障 上, 機 微 な 技 術 の 流 出 防 止 のための 法 規 制 には, 主 なものとして 次 の 3 つの 規 制 がある すなわち, 企 業 等 による 海 外 への 技 術 移 転 行 為 を 規 制 するもの((1) 輸 出 管 理 ), 企 業 に 対 する 直 接 投 資 により, 企 業 の 支 配 権 を 獲 得 し, 企 業 が 保 有 する 技 術 を 入 手 することを 規 制 するもの((2) 対 内 直 接 投 資 規 制 ), 企 業 等 が 保 有 している 技 術 情 報 が 不 正 流 出 しないよう 規 制 するもの((3) 秘 密 保 * 慶 應 義 塾 大 学 SFC 研 究 所 上 席 所 員 ( 訪 問 ) Senior Visiting Researcher, Keio Research Institute at SFC 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9 39
護 )がある 以 下, 順 に 紹 介 する (1) 輸 出 管 理 外 国 為 替 及 び 外 国 貿 易 法 ( 以 下 外 為 法 とい う ) 第 25 条 第 1 項 では, 国 際 的 な 平 和 及 び 安 全 の 維 持 を 妨 げることとなると 認 められる ものと して, 政 令 で 定 められた 技 術 を 外 国 において 提 供 する 居 住 者 及 び 非 居 住 者 (つまり 全 ての 者 である), 又 は 非 居 住 者 に 対 して 提 供 する 居 住 者 は, 経 済 産 業 大 臣 の 許 可 を 取 得 することが 義 務 付 けられてい る( 技 術 移 転 規 制 ) 4 輸 出 管 理 では,このほかに 外 為 法 第 48 条 第 1 項 で 貨 物 (モノ)の 輸 出 も 規 制 対 象 とされている 本 稿 では 技 術 移 転 を 規 制 する 外 為 法 第 25 条 に 基 づく 規 制 を 中 心 に 検 討 し, 必 要 に 応 じて 貨 物 の 規 制 を 参 照 する 5 規 制 対 象 となる 技 術 は, 政 令 である 外 国 為 替 令 別 表 に 規 定 されている( 外 国 為 替 令 第 17 条 第 1 項 ) 外 国 為 替 令 別 表 は 分 野 ごとに 1 から 16 まで の 項 番 に 分 かれており,このうち 1 から 15 の 項 に 規 定 する 技 術 (リスト 規 制 該 当 技 術 )を 提 供 する 場 合 は, 原 則 として 経 済 産 業 大 臣 の 許 可 が 必 要 で ある 1 から 15 の 項 は, 国 際 輸 出 管 理 レジームの 合 意 に 沿 った 技 術 が 規 定 されている 国 際 輸 出 管 理 レジームとは, 不 拡 散 の 目 的 に 同 意 する 諸 国 に よる 輸 出 管 理 についての 国 際 的 な 紳 士 協 定 に 基 づ く 枠 組 みである 6 国 際 輸 出 管 理 レジームは 分 野 ご とに 4 つのレジームがあり, 原 子 力 供 給 国 会 合 (NSG), 生 物 兵 器 や 化 学 兵 器 関 連 の 貨 物 や 技 術 を 規 制 するオーストラリア グループ(AG),ミサ イル 技 術 管 理 レジーム(MTCR), 通 常 兵 器 関 連 の 貨 物 や 技 術 を 規 制 するワッセナー アレンジメン ト(WA)がある それぞれのレジームでの 合 意 が, 技 術 は 外 国 為 替 令 別 表 に, 貨 物 は 輸 出 貿 易 管 理 令 別 表 第 1 に 反 映 されている 項 番 と 国 際 輸 出 管 理 レジームの 対 応 は 技 術 と 貨 物 で 共 通 である 例 えば,2 の 項 は NSG の 合 意 が 反 映 されているの で, 外 国 為 替 令 別 表 の 2 の 項 であれば 原 子 力 関 係 の 技 術 が, 輸 出 貿 易 管 理 令 別 表 第 1 の 2 の 項 は 原 子 力 関 係 の 貨 物 が 列 挙 されている 同 様 に, 技 術 と 貨 物 共 通 で,3 の 項 と 3 の 2 の 項 は AG,4 の 項 は MTCR,5 から 15 の 項 は WA の 合 意 が 反 映 され ている なお,2 の 項 以 下 はいずれも 大 量 破 壊 兵 器 やその 運 搬 手 段 ( 大 量 破 壊 兵 器 等 )(2 から 4 の 項 ),または 通 常 兵 器 (5 から 15 の 項 )に 転 用 可 能 な 民 生 技 術 ( 汎 用 技 術 )や, 民 生 品 ( 汎 用 品 ) が 規 制 対 象 となっており, 兵 器 にしか 使 えないよ うな 特 殊 な 製 品 や 技 術 が 規 制 対 象 となっているも のではない 7 16の 項 に 規 定 する 技 術 (キャッチオール 規 制 該 当 技 術 )は,リスト 規 制 該 当 技 術 を 除 く,ほぼ 全 ての 技 術 が 網 羅 されているが, 大 量 破 壊 兵 器 や 通 常 兵 器 の 開 発 等 に 用 いられるおそれがあると 判 断 される 場 合 に 限 り, 許 可 が 必 要 となる 具 体 的 に は 貿 易 関 係 貿 易 外 取 引 等 に 関 する 省 令 第 9 条 第 2 項 第 七 号 に 規 定 された 事 項 に 該 当 しなければ, 許 可 は 不 要 である 8 技 術 移 転 規 制 は,2009 年 に 外 為 法 第 25 条 が 改 正 され, 拡 充, 強 化 された 主 な 改 正 点 は 次 のと おりである 従 来 は, 居 住 者 から 非 居 住 者 への 技 術 移 転 に 規 制 対 象 となる 行 為 が 限 定 されていた しかしながら, 国 境 を 越 えた 人 の 移 動 により 居 住 者 又 は 非 居 住 者 の 身 分 は 容 易 に 変 化 し 得 る その ため, 居 住 者 から 非 居 住 者 のみへの 規 制 では, 規 制 に 漏 れが 生 じるおそれがあったことから, 先 述 のとおり 居 住 者 又 は 非 居 住 者 の 身 分 にかかわらず, 安 全 保 障 上, 機 微 な 技 術 を 外 国 で 提 供 することを 目 的 とする 取 引 を,すべて 規 制 対 象 とするよう 改 正 された 9 さらに, 外 為 法 第 25 条 第 3 項 が 新 設 され,こうした 技 術 情 報 が 記 録 された 媒 体 の 輸 出 や,インターネットを 通 じた 送 信 などを 規 制 対 象 40 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9
とすることとした( 持 ち 出 し 規 制 ) 外 為 法 第 25 条 第 1 項 の 規 制 対 象 は, 技 術 の 提 供 (を 目 的 とす る 取 引 )であるため, 技 術 を 提 供 しないのであれ ば,たとえ 機 微 な 技 術 情 報 を 海 外 に 持 ち 出 したと しても, 規 制 対 象 の 行 為 には 当 たらない 例 えば 大 使 館 職 員 等 の 身 分 で 滞 在 する 諜 報 員 が, 日 本 で 入 手 した 技 術 情 報 を 本 国 に 持 ち 出 す( 帰 国 する) 場 合,その 時 点 では 技 術 の 提 供 は 生 起 していない ことから, 外 為 法 第 25 条 第 1 項 の 許 可 を 取 得 して いないことが 違 法 とはならない そこで, 同 条 第 3 項 を 新 設 することにより, 技 術 の 提 供 が 予 定 さ れている 場 合 には, 提 供 の 相 手 先 が 特 定 されてい なくても,USB メモリーなどに 入 れた 技 術 情 報 を 持 ち 出 す 行 為 ( 技 術 が 記 録 された 媒 体 の 輸 出 に 当 たる)を 許 可 対 象 とした 10 他 には 企 業 内 の 外 国 籍 従 業 員 が, 技 術 資 料 を 持 ち 出 して 本 国 に 持 ち 帰 るようなケースが 想 定 されている 11 外 為 法 第 25 条 第 3 項 の 新 設 は 明 白 に 技 術 流 出 防 止 を 目 的 と しているように,2009 年 の 外 為 法 改 正 は, 技 術 流 出 防 止 のための 側 面 が 強 いものであった 12 この 他 にも 2009 年 の 外 為 法 改 正 では, 外 為 法 第 55 条 の 10 が 新 設 され, 輸 出 者 や 技 術 の 提 供 者 ( 輸 出 者 等 )は, 輸 出 者 等 遵 守 基 準 に 従 うことが 義 務 化 された 具 体 的 には 輸 出 者 等 遵 守 基 準 を 定 める 省 令 によって 遵 守 事 項 が 定 められている さらに, 外 為 法 第 69 条 の 6 が 改 正 されて, 罰 則 も 強 化 され た 改 正 前 は 懲 役 5 年 以 下 であったものが, 改 正 後 は 外 国 為 替 令 別 表 の 1 から 4 の 項 や, 輸 出 貿 易 管 理 令 別 表 第 1 の 1 から 4 の 項 に 規 定 する 技 術 や 貨 物 を, 許 可 を 取 得 せずに 提 供 や 輸 出 をした 場 合 には,10 年 以 下 の 懲 役,その 他 の 場 合 には 7 年 以 下 の 懲 役 とされた (2) 対 内 直 接 投 資 規 制 外 為 法 第 26 条 では, 対 内 直 接 投 資 等 に 当 たる 行 為 を 定 義 している その 上 で 外 為 法 第 27 条 第 1 項 において, 政 令 で 定 められた 対 内 直 接 投 資 等 を 行 おうとする 場 合 には,あらかじめ 財 務 大 臣 及 び 事 業 所 管 大 臣 に 届 け 出 ることが 義 務 付 けられてい る 同 項 の 規 定 に 基 づき, 事 前 届 出 が 義 務 付 けら れている 対 内 直 接 投 資 等 は, 対 内 直 接 投 資 等 に 関 する 政 令 第 3 条 第 2 項 で 省 令 に 委 任 され,さらに 対 内 直 接 投 資 等 に 関 する 命 令 第 3 条 第 3 項 により, 告 示 に 委 任 されている 告 示 である 対 内 直 接 投 資 等 に 関 する 命 令 第 3 条 第 3 項 の 規 定 に 基 づき 財 務 大 臣 及 び 事 業 所 管 大 臣 が 定 める 業 種 を 定 める 件 ( 以 下, 告 示 という )に, 外 為 法 第 27 条 第 1 項 の 規 定 に 基 づき, 事 前 届 出 が 必 要 な 具 体 的 な 業 種 が 規 定 されている 事 前 届 出 があった 場 合, 財 務 大 臣 及 び 事 業 所 管 大 臣 が 審 査 をするか 否 かの 判 断 の 基 準 の 一 つとして, 国 の 安 全 を 損 ない, 公 の 秩 序 の 維 持 を 妨 げ, 又 は 公 衆 の 保 護 に 支 障 をき たすことになること が 規 定 されている( 外 為 法 第 27 条 第 3 項 第 一 号 イ) 財 務 大 臣 及 び 事 業 所 管 大 臣 は, 審 査 の 結 果, 届 出 に 係 る 対 内 直 接 投 資 等 が 国 の 安 全 等 にかかるものであると 判 断 される 場 合 には, 対 内 直 接 投 資 等 の 内 容 の 変 更 又 は 中 止 を 勧 告 することができる( 外 為 法 第 27 条 第 5 項 ) その 上 で, 勧 告 を 受 けた 者 が 勧 告 を 応 諾 しなかっ た 場 合 には, 財 務 大 臣 及 び 事 業 所 管 大 臣 は, 当 該 対 内 直 接 投 資 等 の 内 容 の 変 更 又 は 中 止 を 命 ずるこ とができる( 外 為 法 第 27 条 第 10 項 ) 対 内 直 接 投 資 等 については, 懸 念 国 や 国 際 テロ 組 織 と 関 連 する 外 国 投 資 家 が, 我 が 国 企 業 の 経 営 支 配 権 を 獲 得 した 場 合 に, 企 業 グループ 内 におけ る 情 報 や 人 の 異 動 を 通 じて, 輸 出 管 理 等 の 関 連 規 制 を 潜 脱 し, 大 量 破 壊 兵 器 に 転 用 可 能 な 技 術 等 が 海 外 に 流 出 することが 懸 念 されていた 13 そこで 2007 年 9 月, 告 示 が 改 正 され,それまでは 武 器 や 航 空 機, 原 子 力, 宇 宙 開 発 産 業 等 ( 以 下, 武 器 等 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9 41
という )が 日 本 標 準 産 業 分 類 により 対 象 業 種 とし て 列 挙 されていたものを, 対 象 製 品 を 列 挙 するこ ととした 改 正 後 の 告 示 には 武 器 等 の 製 造 業 に 加 え, 輸 出 貿 易 管 理 令 別 表 第 1 からも 対 象 製 品 を 列 挙 した 輸 出 貿 易 管 理 令 別 表 第 1 に 対 応 させたこ とにより, 大 量 破 壊 兵 器 関 連 の 汎 用 品 ( 輸 出 貿 易 管 理 令 別 表 第 1 の 2 から 4 の 項 )の 製 造 業 及 び, 通 常 兵 器 関 連 の 汎 用 品 ( 同 別 表 第 1 の 5 から 15 の 項 )のうち, 特 に 安 全 保 障 上 の 機 微 性 が 高 いと 考 えられる 汎 用 品 の 製 造 業 が 届 出 対 象 として 告 示 に 明 示 された また, 武 器 等 の 製 造 業 に 加 え, 武 器 等 を 使 用 するために 特 に 設 計 したプログラムや ソフトウェア 業 も 告 示 に 加 えられて 届 出 対 象 とさ れた 14 さらに, 対 内 直 接 投 資 等 に 関 する 政 令 第 3 条 第 2 項 が 改 正 され, 対 内 直 接 投 資 等 を 行 ってい る 会 社 の 子 会 社 等 が 届 出 対 象 の 事 業 を 営 んでいる 場 合 にも, 事 前 届 出 義 務 の 対 象 とされることとな った でなく, 武 器, 弾 薬, 航 空 機 その 他 の 防 衛 の 用 に 供 する 物 又 はこれらの 物 の 研 究 開 発 段 階 のものの 仕 様, 性 能 又 は 使 用 方 法 ( 別 表 第 4 八 )や, 製 作, 検 査, 修 理 又 は 試 験 の 方 法 ( 別 表 第 4 九 )が 列 挙 されている 自 衛 隊 が 使 用 する 装 備 品 は 民 間 企 業 により 製 造 されており,こうした 防 衛 秘 密 に 該 当 する 技 術 情 報 を 企 業 が 保 有 している 自 衛 隊 法 第 122 条 第 1 項 では, 防 衛 秘 密 を 取 り 扱 うこと を 業 務 とする 者 が, 防 衛 秘 密 を 漏 えいした 場 合 には,5 年 以 下 の 懲 役 に 処 するとしている この 防 衛 秘 密 を 取 り 扱 うことを 業 務 とする 者 には, 防 衛 省 との 契 約 に 基 づき, 防 衛 秘 密 に 係 る 物 件 の 製 造 若 しくは 役 務 の 提 供 を 業 とする 者 も 該 当 する ため, 企 業 や 大 学, 研 究 機 関 も 防 衛 秘 密 を 取 り 扱 うことを 業 務 とする 者 に 該 当 する 可 能 性 があ る 15 なお, 自 衛 隊 法 第 122 条 第 4 項 では, 防 衛 秘 密 の 漏 えいを 教 唆 した 者 も 3 年 以 下 の 懲 役 に 処 される (3) 秘 密 保 護 企 業 等 が 保 有 する 技 術 情 報 を 秘 密 に 指 定 し,そ の 不 正 な 流 出 を 罰 則 の 対 象 にするのが 秘 密 保 護 法 制 である 安 全 保 障 上, 機 微 な 技 術 情 報 に 係 る 秘 密 保 護 法 制 には, 自 衛 隊 法 に 基 づく 防 衛 秘 密 と 不 正 競 争 防 止 法 に 基 づく 営 業 秘 密 がある 1 防 衛 秘 密 2000 年 9 月 に 生 起 した 海 上 自 衛 官 による 秘 密 漏 えい 事 案 を 契 機 として, 再 発 防 止 策 の 一 環 として 2001 年 に 自 衛 隊 法 が 改 正 され, 防 衛 秘 密 制 度 が 新 設 された 新 設 された 自 衛 隊 法 第 96 条 の 2 第 1 項 に 基 づき, 防 衛 大 臣 は, 自 衛 隊 についての 別 表 第 4 に 掲 げる 事 項 であって, 我 が 国 の 防 衛 上 特 に 匿 する 必 要 があるものを 防 衛 秘 密 として 指 定 する 別 表 第 4 には, 自 衛 隊 の 運 用 等 に 関 するものだけ 2 営 業 秘 密 営 業 秘 密 とは, 秘 密 として 管 理 されている 生 産 方 法, 販 売 方 法 その 他 の 事 業 活 動 に 有 用 な 技 術 上 又 は 営 業 上 の 情 報 であって, 公 然 と 知 られていな いものをいう( 不 正 競 争 防 止 法 第 2 条 第 6 項 ) 営 業 秘 密 の 侵 害 に 対 する 刑 事 罰 が 設 けられたのは 2003 年 であり, 爾 後, 段 階 的 に 強 化 されてきた 現 在 では, 不 正 の 利 益 を 得 る 目 的 で, 又 はその 保 有 者 に 損 害 を 加 える 目 的 で, 詐 欺 等 行 為 又 は 管 理 侵 害 行 為 により, 営 業 秘 密 を 取 得 した 者 ( 不 正 競 争 防 止 法 第 21 条 第 1 項 第 一 号 )や, 詐 欺 等 行 為 又 は 管 理 侵 害 行 為 により 取 得 した 営 業 秘 密 を, 不 正 の 利 益 を 得 る 目 的 で, 又 はその 保 有 者 に 損 害 を 加 える 目 的 で, 使 用 し, 又 は 開 示 した 者 ( 同 第 二 号 ) 等 が 10 年 以 下 の 懲 役 に 処 される 42 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9
3. 今 後 の 課 題 2 において, 主 要 な 技 術 流 出 防 止 のための 法 規 制 を 概 観 してきた 本 節 では 今 後 の 課 題 につき 検 討 したい 具 体 的 には, 今 後 充 実 させていく 必 要 がある 法 整 備 について, 及 び 情 報 管 理 の 主 体 とし て 想 定 される 企 業, 大 学 や 研 究 機 関, 政 府 のうち, 最 も 管 理 が 難 しいと 思 われる 大 学 や 研 究 機 関 にお ける 技 術 情 報 管 理 について 検 討 したい (1) 技 術 情 報 等 の 適 正 な 管 理 の 在 り 方 に 関 す る 研 究 会 報 告 書 (2008) 2 で 述 べたように, 技 術 流 出 防 止 のための 法 規 制 は 外 為 法 や 不 正 競 争 防 止 法 の 改 正 等 により, 逐 次 充 実 強 化 されてきた しかしながら, 外 為 法 や 不 正 競 争 防 止 法 の 充 実 だけでは 必 ずしも 十 分 と はいえない 経 済 産 業 省 に 設 置 された 技 術 情 報 等 の 適 正 な 管 理 の 在 り 方 に 関 する 研 究 会 が 2008 年 7 月 に 公 表 した 報 告 書 ( 以 下, 技 術 情 報 報 告 書 と いう )では, 安 全 保 障 上 の 視 点 から 技 術 流 出 防 止 のために, 次 の 7 つの 事 項 を 具 体 的 検 討 事 項 として 列 挙 している 16 (i) 重 要 情 報 の 区 分 ルール の 導 入,(ii) 機 微 技 術 リスト ガイドラインの 作 成,(iii) 秘 密 保 護 法 制 の 在 り 方,(iv) 秘 密 特 許 制 度 の 検 討,(v) 外 為 法 の 技 術 取 引 規 制 の 強 化, (vi) 投 資 を 通 じた 安 全 保 障 上 重 要 な 技 術 の 海 外 への 流 出 防 止,(vii) 不 審 アクセス 情 報 の 報 告 と 注 意 喚 起 の 仕 組 み,である このうち,(i),(ii), (vii)は 必 ずしも 新 規 立 法 や 法 改 正 が 必 要 となる ものではない (v)は 2(1)で 述 べたように 2009 年 に 外 為 法 が 改 正 された (vi)は, 技 術 情 報 報 告 書 でも 2(2)で 指 摘 した 2007 年 の 対 内 直 接 投 資 規 制 の 見 直 しに 言 及 し, 引 き 続 き 外 為 法 の 規 制 に より 対 応 することとすべきである と 指 摘 してお り, 基 本 的 に 法 規 制 は 整 備 されていると 考 えられ る 17 また, 技 術 情 報 報 告 書 では 競 争 力 の 視 点 と して, 技 術 情 報 等 の 適 切 な 法 的 保 護 の 在 り 方 に 関 する 検 討 として 営 業 秘 密 の 強 化 を 提 言 していた 確 かに 営 業 秘 密 は 基 本 的 には 企 業 の 競 争 力 確 保 の ための 制 度 と 言 うことができる しかし 同 時 に, 営 業 秘 密 には 安 全 保 障 上 の 機 微 な 情 報 も 含 まれる ことから, 安 全 保 障 上 も 営 業 秘 密 の 保 全 は 重 要 で ある 技 術 情 報 報 告 書 でも, 外 国 政 府 を 利 する 目 的 で 営 業 秘 密 が 流 出 した 場 合 には, 産 業 競 争 力 だ けでなく, 安 全 保 障 上 も 重 大 な 問 題 を 提 起 すると 指 摘 している 18 こうした 側 面 は 米 国 でも 認 識 さ れており,ホルダー 司 法 長 官 は 米 国 政 府 の 営 業 秘 密 戦 略 の 公 表 に 当 たり, 営 業 秘 密 の 流 出 は 企 業 の 解 雇 や 工 場 閉 鎖, 売 り 上 げや 利 益 の 減 少, 競 争 力 の 低 下 を 招 くだけでなく,ビジネスからの 徹 底 にも 至 る しかもこの 種 の 犯 罪 は 米 国 経 済 だけ でなく, 米 国 人 の 生 命 を 危 険 にさらすデータや 技 術 を 敵 国 に 入 手 させることで, 安 全 保 障 にも 重 要 な 影 響 を 与 える 可 能 性 がある 19 と, 営 業 秘 密 流 出 の 持 つ, 経 済 面 と 安 全 保 障 面 の 損 害 の 双 方 を 指 摘 した 我 が 国 では 依 然 として 経 済 と 安 全 保 障 を 別 々に 考 えることが 多 いと 思 われるが, 産 業 の 競 争 力 確 保 と 安 全 保 障 の 確 保 という 視 点 は, 実 は 相 互 に 密 接 に 関 連 している 営 業 秘 密 の 強 化 は,ま さにこうした 側 面 を 示 したものであり, 技 術 情 報 報 告 書 は,こうした 点 を 気 付 かせてくれる 20 技 術 情 報 報 告 書 が 公 表 された 後, 後 述 するように 2009 年 に 不 正 競 争 防 止 法 が 改 正 され, 営 業 秘 密 は 強 化 された 技 術 流 出 防 止 のための 政 策 は 常 に 競 争 力 確 保 と 安 全 保 障 の 確 保 という 両 面 を 考 える 必 要 がある なお, 輸 出 管 理 や 対 内 直 接 投 資 規 制, 営 業 秘 密 の 間 には 連 携 がなく, 全 体 としての 整 合 性 は 必 ず しも 取 られていないとの 指 摘 がある 21 しかしな がら,2009 年 の 営 業 秘 密 を 強 化 する 不 正 競 争 防 止 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9 43
法 改 正 は, 技 術 移 転 規 制 を 強 化 する 外 為 法 改 正 と 同 時 に 実 施 された 法 改 正 の 審 議 の 際, 二 階 俊 博 経 済 産 業 大 臣 は, 従 来 から 産 業 競 争 力 の 強 化 と, 安 全 保 障 上 の 立 場 と, 両 方 の 側 面 から 技 術 流 出 防 止 に 努 めており, 今 後 とも 外 為 法 と 不 正 競 争 防 止 法 の 的 確 な 実 施 を 通 じて 技 術 流 出 防 止 に 万 全 を 期 する 旨, 述 べている 22 また, 対 内 直 接 投 資 規 制 は 輸 出 管 理 の 規 制 品 目 と 対 応 するような 告 示 の 改 正 が 実 施 されている そのため, 少 なくとも 現 在 においては, 一 定 の 整 合 性 は 確 保 されていると 言 えよう (2) 残 された 法 整 備 の 課 題 1 秘 密 保 護 法 制 の 充 実 (1)で 述 べたように, 技 術 情 報 報 告 書 の 提 言 の うち, 既 に 履 行 されているものもあるが, 同 報 告 書 が 指 摘 した(iii) 及 び(iv)については, 依 然 として 必 要 な 法 規 制 が 整 備 されていない 安 全 保 障 に 係 る 技 術 情 報 は, 先 述 の 通 り, 防 衛 秘 密 又 は 営 業 秘 密 により 保 全 することが 可 能 であ る しかし, 防 衛 秘 密 は 自 衛 隊 の 装 備 品 に 関 係 の ない 技 術 情 報 には 適 用 されない また, 営 業 秘 密 で 全 ての 安 全 保 障 上, 機 微 な 技 術 情 報 を 保 全 でき るものではない 工 廠 を 保 有 しない 我 が 国 政 府 に は 基 本 的 に 営 業 秘 密 はないと 考 えられるし, 産 学 連 携 による 研 究 等 をのぞき, 大 学 や 研 究 機 関 で 研 究 成 果 を 営 業 秘 密 に 指 定 することは 一 般 的 ではな い しかし, 政 府 や 大 学 研 究 機 関 にも 安 全 保 障 に 係 る 技 術 情 報 が 存 在 しないわけではないため, そうした 技 術 情 報 の 保 全 を 図 る 必 要 がある 技 術 情 報 報 告 書 でも, 漏 洩 することにより 国 家 の 安 全 保 障 上 重 大 な 問 題 が 発 生 する 可 能 性 のある 情 報 に ついては, 秘 密 化 の 義 務 と 不 法 な 漏 示 に 対 する 適 切 な 規 律 を 設 けるべきである 23 と 指 摘 している 政 府 は 2010 年 に 政 府 における 情 報 保 全 に 関 す る 検 討 委 員 会 を 設 置 し, 同 委 員 会 は 秘 密 保 全 のための 法 制 の 在 り 方 に 関 する 有 識 者 会 議 に 検 討 を 依 頼 した 同 会 議 は 2011 年 8 月 に 秘 密 保 全 のための 法 制 の 在 り 方 について( 報 告 書 ) ( 以 下, 秘 密 保 全 報 告 書 という )をとりまとめ, 公 表 した 24 上 記 のような 問 題 点 を 踏 まえ, 秘 密 保 全 報 告 書 では, 秘 密 となる 情 報 の 作 成 主 体 として, 政 府 だけでなく, 独 立 行 政 法 人 等 や 企 業, 大 学 研 究 機 関 等 を 対 象 とすることを 提 案 している 25 例 えば, 独 立 行 政 法 人 等 が 保 有 する 技 術 情 報 では, 人 工 衛 星 の 研 究 開 発 やロケット 技 術 が, 大 量 破 壊 兵 器 等 に 転 用 可 能 で, 国 の 安 全 に 関 する 技 術 情 報 として 例 示 されている また, 大 学 研 究 機 関, 企 業 においても, 政 府 や 独 立 行 政 法 人 等 から 委 託 事 業 を 実 施 する 場 合 には, 同 じく 規 制 の 対 象 とな る 旨, 指 摘 する 26 なお, 先 述 の 通 り,こうした 軍 事 転 用 可 能 な 民 生 技 術 ( 汎 用 技 術 )は 従 来 から 輸 出 管 理 の 対 象 であり, 対 内 直 接 投 資 規 制 の 対 象 としても 明 示 されている さらに, 秘 密 保 全 報 告 書 では, 国 の 安 全, 外 交, 公 共 の 安 全 及 び 秩 序 の 維 持 に 係 る 特 に 秘 匿 を 必 要 とする 情 報 を 特 別 秘 密 として 保 護 の 対 象 とす ることを 提 案 している 27 これにより 防 衛 秘 密 に 限 定 されていた 秘 密 保 護 をより 充 実 させることが 可 能 になろう 特 別 秘 密 が 新 規 立 法 によって 保 護 されるようになれば, 自 衛 隊 の 装 備 品 に 係 る 技 術 情 報 に 限 らず, 先 述 のように 人 工 衛 星 やロケッ トといった 我 が 国 の 安 全 保 障 上, 重 要 と 考 えられ る 技 術 情 報 の 保 護 が 可 能 になると 考 えられる 2 防 衛 秘 密 と 営 業 秘 密 の 比 較 取 得 行 為 の 可 罰 性 秘 密 保 全 報 告 書 は, 防 衛 秘 密 では 保 護 されてい ない 行 為 も 罰 則 の 対 象 として 含 めることを 提 案 し ている 防 衛 秘 密 では 漏 えい 及 びその 教 唆 等 が 処 44 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9
罰 の 対 象 となっているが, 防 衛 秘 密 を 単 に 入 手 す るだけでは 処 罰 の 対 象 とはならない こうした 取 得 行 為 のうち 悪 質 と 考 えられるものを, 秘 密 保 全 報 告 書 では 特 定 取 得 行 為 と 呼 び, 罰 則 の 対 象 とすることを 提 案 している 28 取 得 行 為 の 可 罰 性 については 防 衛 秘 密 と 営 業 秘 密 の 比 較 が 興 味 深 い 先 述 のように, 防 衛 秘 密 漏 えい 罪 は 2001 年 に 新 設 され, 営 業 秘 密 侵 害 罪 は 遅 れて 2003 年 に 新 設 された しかし,その 後, 営 業 秘 密 は 累 次 の 改 正 を 経 て, 現 在 では 防 衛 秘 密 より も 保 護 が 充 実 している 営 業 秘 密 侵 害 罪 が 新 設 さ れた 2003 年 当 時 から 一 部 の 取 得 行 為 は 処 罰 対 象 とされていたが, 処 罰 対 象 となったのは, 行 為 の 悪 質 性 から 使 用 開 示 行 為 の 準 備 行 為 として 行 われ る 取 得 行 為 に 限 られ, 訴 訟 上 の 立 証 の 可 能 性 も 考 慮 し, 営 業 秘 密 記 録 媒 体 の 取 得 又 は 複 製 を 必 要 と した 29 しかしながら, 詐 欺 等 行 為 又 は 管 理 侵 害 行 為 という 違 法 性 の 高 い 行 為 により, 営 業 秘 密 を 支 配 している 状 態 におくことで, 使 用 又 は 開 示 を 待 つまでもなく, 刑 事 罰 によって 抑 止 に 足 る 違 法 性 を 肯 定 できるのではないかと 考 えられた 30 こ のため, 技 術 情 報 報 告 書 の 提 案 等 も 踏 まえ,2009 年 に 不 正 競 争 防 止 法 は 改 正 され, 営 業 秘 密 の 不 正 取 得 行 為 について, 使 用 又 は 開 示 に 供 する 目 的 を 問 わず,さらに 方 法 の 限 定 もなくし, 図 利 加 害 目 的 で 詐 欺 等 行 為 又 は 管 理 侵 害 行 為 によってなされ た 営 業 秘 密 の 不 正 取 得 一 般 を 刑 事 罰 の 対 象 とした 31 3 防 衛 秘 密 と 営 業 秘 密 の 比 較 罰 則 刑 事 手 続 罰 則 も 営 業 秘 密 の 漏 えい 行 為 の 方 が, 防 衛 秘 密 の 漏 えい 行 為 よりも 重 い 防 衛 秘 密 の 漏 えいは 5 年 以 下 の 懲 役 である 他 方, 営 業 秘 密 侵 害 罪 は, 2003 年 に 制 定 当 初 は 3 年 以 下 の 懲 役 とされていた ものが, 数 度 の 法 改 正 を 経 て 現 在 では 最 高 懲 役 は 10 年 である 32 秘 密 保 全 報 告 書 では, 営 業 秘 密 の 漏 えい 行 為 との 比 較 等 から, 特 別 秘 密 の 漏 えい 行 為 の 罰 則 を 10 年 以 下 の 懲 役 とすることを 一 案 としている さらに, 不 正 競 争 防 止 法 は 2011 年 にも 改 正 され た これは, 刑 事 裁 判 の 手 続 において 審 理 が 一 般 に 公 開 されることにより 営 業 秘 密 の 内 容 が 公 にな るとの 懸 念 から, 営 業 秘 密 の 侵 害 を 受 けた 被 害 者 が 告 訴 を 躊 躇 しているという 問 題 が 従 前 から 指 摘 されていたことに 対 応 したものである 33 裁 判 所 は, 被 害 者 等 から 公 訴 事 実 にかかる 営 業 秘 密 を 構 成 する 情 報 の 全 部 又 は 一 部 を 特 定 させることとな る 事 項 を, 公 開 の 法 廷 で 明 らかにされたくない 旨 の 申 出 があるときは, 被 告 人 又 は 弁 護 人 の 意 見 を 聴 き, 相 当 と 認 めるときは,その 範 囲 を 定 めて, 当 該 事 項 を 公 開 の 法 廷 で 明 らかにしない 旨 の 決 定 ( 秘 匿 決 定 )をすることができることとした 34 これに 対 して, 秘 密 保 全 報 告 書 では 裁 判 所 におけ る 秘 密 保 全 については, 別 途 検 討 されることが 適 当 としているのみである 35 このように 営 業 秘 密 は 数 度 の 法 改 正 を 経 て, 防 衛 秘 密 よりも 充 実 した 秘 密 保 護 体 系 を 有 するに 至 っており, 現 時 点 において 最 も 包 括 的 に 技 術 情 報 の 保 護 が 図 られている 今 後, 営 業 秘 密 には 当 た らないが, 安 全 保 障 上, 機 微 な 技 術 情 報 を 保 護 す る 制 度 の 充 実 が 求 められている 4 秘 密 特 許 制 度 の 検 討 諸 外 国 においては, 秘 密 保 護 の 一 環 として, 安 全 保 障 上 の 機 微 技 術 について 特 許 出 願 後 公 開 を 行 わない,いわゆる 秘 密 特 許 制 度 が 導 入 されて いる しかし, 我 が 国 では 軍 事 転 用 可 能 な 技 術 は もとより, 軍 事 技 術 であっても, 特 許 出 願 された 場 合 には 全 て 公 開 される そこで 技 術 情 報 報 告 書 では, 秘 密 特 許 制 度 の 導 入 の 検 討 が 提 案 されてい る 36 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9 45
特 許 制 度 の 持 つ 問 題 点 は, 営 業 秘 密 と 同 様 に 競 争 力 の 観 点 からも 指 摘 できる 特 許 庁 に 出 願 され た 特 許 情 報 は, 登 録 の 可 否 にかかわらず, 出 願 後 1 年 6 月 で 発 明 内 容 が 公 開 されるため, 公 開 され た 内 容 が 外 国 のライバル 企 業 に 模 倣 されたり, 周 辺 特 許 を 押 さえられる 事 態 が 発 生 し, 知 的 財 産 を 守 る 役 割 を 果 たしていないとの 指 摘 がある また, 軍 事 転 用 可 能 な 技 術 も 無 差 別 に 公 開 されることで, 我 が 国 や 世 界 の 安 全 が 脅 かされているとの 指 摘 も なされている 37 技 術 情 報 報 告 書 では, 特 許 出 願 によってかえって 海 外 においてフリーライドを 招 く 恐 れのあるような 技 術 情 報 は, 特 許 出 願 せず 営 業 秘 密 として 管 理 することが 提 案 されている 38 技 術 情 報 報 告 書 が, 秘 密 保 護 の 一 環 として 秘 密 特 許 制 度 の 導 入 を 提 案 している 点 は 画 期 的 である これまで 特 許 制 度 は 営 業 秘 密 同 様 に 知 的 財 産 の 保 護 という 脈 のみで 議 論 され, 安 全 保 障 上 の 位 置 づけは 議 論 の 対 象 にすらならなかったきらいがあ る 今 後, 議 論 が 深 まることを 期 待 したい 39 (3) 技 術 情 報 の 管 理 主 体 としての 大 学 研 究 機 関 1 大 学 研 究 機 関 における 技 術 情 報 の 管 理 技 術 流 出 防 止 のための 法 規 制 がいかに 充 実 して も, 技 術 情 報 を 保 有 する 主 体 が 厳 格 な 管 理 を 実 施 しない 限 り, 技 術 流 出 防 止 の 実 効 性 は 担 保 されな い 冒 頭 でも 述 べたとおり, 安 全 保 障 上, 機 微 な 技 術 情 報 は 企 業 だけが 保 有 するものではない 大 学 研 究 機 関 や 政 府 も 保 有 している これら 技 術 情 報 の 保 有 主 体 がそれぞれに 管 理 を 実 施 し, 抜 け 穴 を 作 らないことが 肝 要 となる 大 学 や 研 究 機 関 においては, 留 学 生 や 研 究 生 の 増 大 や, 国 際 的 な 研 究 連 携 や 産 学 連 携 の 推 進 がみられ,これらは 基 本 的 に 好 ましい 流 れであるが, 同 時 に 技 術 情 報 流 出 の 危 険 も 増 大 しているとも 言 える 40 しかしな がら, 大 学 や 研 究 機 関 においては, 分 権 的 な 運 営 にも 起 因 し, 企 業 に 比 べ 技 術 情 報 の 管 理 が 不 十 分 であるとの 指 摘 がなされている 41 そこで 大 学 や 研 究 機 関 における 技 術 情 報 の 管 理 について 特 に 考 えてみたい 企 業 とは 異 なり, 大 学 や 研 究 機 関 ( 以 下, 大 学 等 という )が 対 内 直 接 投 資 の 対 象 となることは 通 常 想 定 されないことから, 対 内 直 接 投 資 規 制 は 大 学 等 に 直 接 影 響 はない しかし, 残 る 二 つの 規 制,すなわち 輸 出 管 理 と 秘 密 保 護 は 大 学 等 にも 関 係 する 営 業 秘 密 は 産 学 連 携 等 で, 営 業 秘 密 とし ての 管 理 が 必 要 とされる 場 合 を 除 き, 管 理 の 対 象 ではないが, 輸 出 管 理 は 大 学 等 における 日 常 的 な 管 理 が 要 求 される 大 学 等 において 輸 出 管 理 が 必 要 な 場 面 は 様 々であるが, 例 えば, 研 究 を 通 じて 海 外 からの 留 学 生 等 に 技 術 の 移 転 が 生 起 すること が 考 えられる また, 外 為 法 第 55 条 の 10 に 基 づ き, 大 学 等 も 輸 出 者 等 遵 守 基 準 に 従 うことが 法 的 な 義 務 となった 同 条 に 基 づき, 大 学 等 の 内 部 に おいて 輸 出 管 理 の 体 制 を 整 えることが 求 められて いる 輸 出 者 等 遵 守 基 準 が 新 設 される 以 前 から, 部 科 学 省 は 大 学 等 に 対 して 輸 出 管 理 の 強 化 を 依 頼 していたが, 外 為 法 改 正 後 の 2009 年 には 再 度 大 学 及 び 公 的 研 究 機 関 における 輸 出 管 理 につい て( 依 頼 ) を 重 ねて 発 出 し, 大 学 等 に 対 して 注 意 喚 起 をしている 42 大 学 等 が 輸 出 管 理 体 制 を 構 築 しても, 輸 出 管 理 の 実 際 の 運 用 には 体 制 構 築 とは 別 の 困 難 さがある 例 えば, 多 くの 大 学 で 留 学 生 の 受 入 れと 輸 出 管 理 の 関 係 が 課 題 として 浮 かび 上 がっている 輸 出 管 理 は, 技 術 を 提 供 する 際 に 許 可 が 必 要 になる(こ とがある)というものであった 他 方 で, 留 学 生 を 受 入 れるだけでは 何 も 技 術 移 転 は 生 起 していな いことから, 留 学 生 の 受 入 れと 外 為 法 は 本 来 は 無 関 係 である 受 け 入 れた 留 学 生 に 技 術 を 提 供 する 46 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9
際 に 許 可 の 要 否 を 判 断 すれば 足 りる また, 制 度 上 は, 我 が 国 へ 入 国 後,6 ヶ 月 経 過 すれば, 外 為 法 上 は 居 住 者 という 扱 いとなり, 外 為 法 の 規 制 対 象 外 (すなわち 許 可 不 要 )となる 43 しかしなが ら, 現 実 問 題 として 6 ヶ 月 経 過 したので, 留 学 生 のリスクがゼロになるわけではなく, 仮 にリスク が 顕 在 化 した 際 には 社 会 的 な 説 明 責 任 は 免 れない 44 そのため, 実 際 には 大 学 等 は 留 学 生 の 受 入 れの 際 に, 輸 出 管 理 上 の 懸 念 を 合 わせて 審 査 することが 多 いようである 他 方 で,イラン 人 の 入 学 を 拒 否 したところ, 国 籍 による 差 別 として 違 憲 判 決 が 出 た 事 例 もあり, 大 学 等 の 輸 出 管 理 担 当 部 局 は 対 応 に 苦 慮 しているのが 実 情 である 45 一 般 論 として は, 受 け 入 れる 留 学 生 個 人 が 大 量 破 壊 兵 器 の 開 発 等 に 関 係 していないかどうかが 審 査 のポイントと なると 考 えられるので, 国 籍 により 一 律 に 拒 否 す ることは 正 当 な 理 由 とは 言 えないであろう あく までも 留 学 生 個 人 の 研 究 分 野 や 経 歴 等 から 判 断 す る 必 要 がある 他 方 で, 大 学 等 は 情 報 機 関 ではな いので, 大 学 等 だけでこうした 確 認 が 確 実 にでき るとは 考 えられず, 入 国 管 理 局 や 警 察 等 の 関 係 機 関 と 在 籍 者 の 情 報 につき 共 有 しておくことが 有 益 であると 思 われる 46 また, 留 学 生 の 審 査 という 視 点 からはビザを 発 給 する 外 務 省 や, 奨 学 金 を 支 給 している 部 科 学 省 も 一 定 の 責 任 を 有 している ビザを 発 給 し, 奨 学 金 を 支 給 する 以 上, 外 務 省 や 部 科 学 省 も 当 該 留 学 生 が 不 拡 散 等 の 観 点 から 危 険 性 はないと 判 断 したからであろうし,その 理 由 を 説 明 する 責 任 がある 47 さらに, 留 学 生 が 帰 国 する 際 に 自 らの 研 究 成 果 等 を USB メモリーなどに 入 れて 持 ち 帰 ることは 十 分 に 想 定 されるが, 帰 国 後 に 使 用 する( 技 術 を 提 供 する)のであれば( 使 用 すると 考 えるのが 通 常 であろう), 外 為 法 第 25 条 第 3 項 に 基 づく 持 ち 出 し 規 制 の 対 象 となる 場 合 がある 現 実 問 題 とし て, 帰 国 する 留 学 生 の 所 持 品 等 を 全 て 確 認 すると いったプロセスは 想 定 できないものの, 常 日 頃 か ら, 帰 国 する 際 に 持 ち 帰 る 研 究 成 果 等 で 許 可 が 必 要 になるものがある 旨 の 注 意 喚 起 は 必 要 とされ よう 2 輸 出 管 理 と 秘 密 保 護 の 接 点 米 国 の 例 米 国 の 輸 出 管 理 では, 研 究 成 果 が 公 開 され, 科 学 界 で 共 有 されるようなものは, 基 礎 研 究 とし て 輸 出 管 理 の 対 象 外 とされている 48 そのため 米 国 の 大 学 や 研 究 機 関 は 研 究 費 の 受 諾 に 当 たって, 研 究 成 果 の 公 表 等 に 関 する 規 制 を 契 約 から 排 除 し ようと 交 渉 するという 49 我 が 国 の 大 学 等 からも 米 国 と 同 様 の 基 準 の 導 入 を 求 める 声 も 聞 く ただ し, 米 国 には 秘 密 保 護 制 度 があり, 研 究 を 秘 密 指 定 することが 可 能 であるため,このような 制 度 設 計 が 可 能 となっていることに 留 意 したい 米 国 に おける 基 礎 研 究 の 定 義 は, 国 際 輸 出 管 理 レジ ームにおける 議 論 とは 無 関 係 であり,レーガン 政 権 時 代 の 国 家 安 全 保 障 に 関 する 大 統 領 指 示 (National Security Decision Directive)189 (NSDD-189) が 根 拠 となっている NSDD-189 では 安 全 保 障 上 の 必 要 性 がある 場 合, 秘 密 指 定 が 情 報 管 理 の 基 本 であり, 秘 密 指 定 は 政 府 の 責 任 であるとする そ の 上 で, 秘 密 指 定 がない 基 礎 研 究 の 公 表 等 には 制 約 は 課 せられないとしている 50 つまり 研 究 成 果 の 公 開 は, 研 究 成 果 の 非 公 開 ( 秘 密 指 定 )と 裏 腹 の 関 係 にある 秘 密 保 護 制 度 があることにより, 何 を 秘 匿 すべきか の 説 明 責 任 を 研 究 費 の 交 付 主 体 ( 政 府 )に 担 わせることが 可 能 になる 例 え ば, 先 述 の 特 別 秘 密 として 提 案 されている 人 工 衛 星 やロケットの 研 究 成 果 も, 政 府 によって 秘 密 指 定 されない 限 りは 全 て 公 開 されるのは 当 然 で はないか だから 米 国 のように 輸 出 管 理 の 対 象 か ら 外 してもよいのではないか,という 議 論 も 可 能 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9 47
になるのである 現 行 制 度 下 でこうした 議 論 が 行 えない 理 由 の 一 部 は, 輸 出 管 理 制 度 ではなく, 秘 密 保 護 制 度 の 不 備 に 起 因 していることを 指 摘 して おきたい 米 国 の 例 が 示 していることは, 秘 密 保 護 制 度 により, 大 学 等 の 研 究 活 動 における 管 理 負 担 を 軽 減 できる 可 能 性 があるという 側 面 である 3 研 究 成 果 の 公 開 と 技 術 流 出 鳥 インフルエン ザ ウイルスの 研 究 が 投 げかけるもの 研 究 成 果 の 公 開 は 自 明 視 されがちである そこ に 技 術 流 出 といった 視 点 は 見 られない 一 般 論 と しては 学 問 の 自 由 や 開 放 性 という 観 点 から 研 究 成 果 は 原 則 として, 又 は 特 段 の 事 情 がない 限 り 公 開 されることは 当 然 であると 考 えるが,いかなる 場 合 でも公 開 すべきかどうかは 別 問 題 である こう した 論 点 が 顕 在 化 したのが,2011 年 末, 鳥 インフ ルエンザ ウイルス(H5N1 型 )の 研 究 成 果 を, Nature 誌 や Science 誌 がテロへの 悪 用 懸 念 から 論 の 掲 載 を 見 合 わせたことである 51 これを 受 け て 世 界 中 の 有 志 の 科 学 者 たちは 連 名 で H5N1 イン フルエンザ ウイルスに 関 して 研 究 モラトリアム を 発 表 した 52 我 が 国 でもこうした 問 題 を 受 けて 学 術 会 議 が,2012 年 11 月 に 科 学 技 術 のデュ アルユース 問 題 に 関 する 検 討 報 告 を 公 表 した 53 同 報 告 は 冒 頭 で, 科 学 技 術 の 発 展 は, 様 々な 面 で 我 々の 生 活 に 恩 恵 をもたらし, 福 祉 の 向 上 に 寄 与 するものであるが,いったんそれが 悪 用 され たり, 誤 用 されたりした 場 合 には, 我 々の 生 活 を 害 し, 社 会 の 安 全 を 損 なうものとなってしまう つまり, 科 学 技 術 は,それを 用 いる 者 の 意 図 に よっては 両 義 性 を 持 つものといえる と 指 摘 して いる その 上 で, 同 報 告 を 踏 まえて 各 学 術 分 野 でのより 具 体 的 な 議 論 や 行 動 を 促 す としており, 今 後 の 議 論 が 期 待 される 54 大 学 等 で 実 施 されている 最 先 端 の 研 究 成 果 の 公 開 は 必 ずしも 法 規 制 の 対 象 にはなっていない 上, 法 規 制 の 対 象 にすること 自 体 が 望 ましいとは 限 ら ない Nature 誌 等 が 掲 載 を 見 合 わせたのも 法 に 触 れたからではない むしろ 科 学 コミュニティによ る 自 主 管 理 という 側 面 が 強 い 鳥 インフルエン ザ ウイルスの 研 究 が 投 げかけている 課 題 は, 法 規 制 の 在 り 方 だけでなく, 科 学 者 自 身 による 自 主 管 理 や 倫 理 規 範 の 在 り 方 でもある 4まとめ 2011 年 に 策 定 された 第 4 期 科 学 技 術 基 本 計 画 に おいては, 国 家 安 全 保 障 技 術 基 盤 の 強 化 が 謳 われている 55 今 後, 基 本 計 画 に 基 づき, 安 全 保 障 に 関 する 技 術 の 研 究 開 発 が 進 められていくこと が 期 待 されるとともに, 大 学 等 における 研 究 やそ の 成 果 が 安 全 保 障 上, 機 微 な 技 術 を 含 むことも 十 分 に 予 想 される そのため, 大 学 等 による 適 切 な 技 術 情 報 の 管 理 はこれまで 以 上 に 求 められること になろう いずれにせよ, 念 頭 に 置 いておくべき ことは, 研 究 者 本 人 は 全 く 善 意 で 研 究 成 果 に 係 る 技 術 情 報 を 公 開 したとしても,その 技 術 情 報 が 兵 器 等 に 転 用 されてしまえば, 懸 念 国 の 兵 器 の 開 発 等 に 荷 担 したこととなり, 我 が 国 の 安 全 保 障 に 悪 影 響 を 及 ぼしかねない その 結 果, 研 究 者 本 人 だ けでなく 研 究 者 の 所 属 する 研 究 機 関 の 研 究 活 動 に 大 きな 影 響 を 及 ぼす 可 能 性 もあるという 指 摘 であ る 安 全 保 障 の 分 野 では 善 意 は 何 らの 理 由 になら ない 56 4.おわりに 2000 年 代 に 安 全 保 障 に 資 する 技 術 流 出 防 止 の ための 法 規 制 は 拡 充 強 化 された 技 術 情 報 報 告 書 が 公 表 された 2008 年 を 起 点 に 考 えても, 技 術 移 転 規 制 の 強 化 や 営 業 秘 密 の 強 化 といった 施 策 が 実 現 している 他 方 で, 依 然 として 課 題 も 残 ってい 48 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9
る 今 後 はこうした 課 題 の 検 討 が 進 められること を 期 待 したい とかく 経 済 政 策 は 安 全 保 障 政 策 とは 別 物 と 考 え られがちであるが, 技 術 流 出 の 防 止 は 産 業 競 争 力 の 確 保 という 側 面 と 同 時 に, 我 が 国 の 安 全 保 障 上 の 側 面 を 有 している 今 後 とも 技 術 流 出 防 止 のた めの 政 策 は, 両 者 の 側 面 から 検 討 することが 肝 要 である さらに, 政 府 や 企 業 はもちろんのこと, 大 学 や 研 究 機 関 も 技 術 流 出 防 止 の 最 前 線 であると いう 点 も 確 認 しておきたい 政 府 機 関 でさえ, 防 衛 省 や 外 務 省 のように 安 全 保 障 を 所 掌 していると 考 えられている 機 関 以 外 では, 安 全 保 障 上 の 問 題 に 対 する 認 識 は 決 して 高 いとは 言 えない 技 術 流 出 防 止 政 策 を 通 じて, 安 全 保 障 上 の 問 題 に 対 する 認 識 が 向 上 することを 期 待 したい 技 術 流 出 によ る 安 全 保 障 上 の 問 題 は,どこか 遠 くで 誰 かが 対 処 するものではない 技 術 情 報 を 有 する 者 一 人 ひと りが, 当 事 者 として 対 応 することが 求 められてい る 注 ) 1 経 済 産 業 省 技 術 情 報 等 の 適 正 な 在 り 方 に 関 する 研 究 会 報 告 書 (2008 年 7 月 )5 頁 2 経 済 産 業 省 前 掲 注 (1)52 頁 3 経 済 産 業 省 前 掲 注 (1)52-53 頁 4 居 住 者, 非 居 住 者 は 外 為 法 第 6 条 に 定 義 があり, 居 住 者 は, 本 邦 内 に 住 所 又 は 居 所 を 有 する 自 然 人 及 び 本 邦 内 に 主 たる 事 務 所 を 有 する 法 人 をいう ( 外 為 法 第 6 条 第 五 号 ) 非 居 住 者 は 居 住 者 以 外 の 自 然 人 及 び 法 人 をいう ( 外 為 法 第 6 条 第 六 号 ) さらに 詳 細 な 運 用 は 外 国 為 替 法 令 の 解 釈 及 び 運 用 について ( 蔵 国 第 4672 号 )( 昭 和 55 年 11 月 29 日 )で 規 定 されており, 例 えば, 外 国 人 の 場 合, 本 邦 に 入 国 後 6 月 以 上 経 過 する と 居 住 者 として 取 り 扱 うものとしている( 後 述 3(3) 参 照 ) 5 さらに, 仲 介 取 引 や 積 替 も 外 為 法 上 の 規 制 対 象 である が, 本 稿 では 割 愛 する 6 田 上 博 道, 森 本 正 崇 輸 出 管 理 論 ( 信 山 社,2008 年 ) 21 頁 7 兵 器 や 兵 器 にしか 使 えない 部 分 品 ( 専 用 部 分 品 )は1の 項 に 列 挙 されている 8 キャッチオール 規 制 に 基 づく 許 可 の 要 否 は, 厳 密 には いささか 複 雑 である 制 度 上 は, 外 国 為 替 令 第 17 条 第 1 項 の 規 定 により,リスト 規 制 と 同 様 に 一 旦 は16の 項 に 該 当 する 技 術 は 全 て 許 可 が 必 要 とされる しかし, 外 国 為 替 令 第 17 条 第 5 項 の 規 定 は, 同 条 第 1 項 に 該 当 す る 場 合 であっても 経 済 産 業 大 臣 の 許 可 が 不 要 の 取 引 を 指 定 することができる 同 条 第 5 項 に 規 定 する 指 定 さ れた 取 引 として, 貿 易 関 係 貿 易 外 取 引 等 に 関 する 省 令 第 9 条 が 列 挙 されており,その 結 果, 同 条 に 該 当 する 取 引 は 許 可 が 不 要 になる 9 高 木 悠 一 技 術 流 出 防 止 の 徹 底 と 企 業 の 輸 出 管 理 強 化 ジュリスト1383 号 (2009 年 )3 頁 10 さらに, 外 為 法 第 25 条 第 3 項 には 未 遂 罪 があり, 日 本 から 国 外 に 持 ち 出 そうとした 時 点 での 摘 発 が 可 能 にな っている なお, 外 為 法 第 25 条 第 1 項 の 技 術 移 転 規 制 には 未 遂 罪 は 規 定 されていない 11 森 本 正 崇 輸 出 管 理 入 門 (5) 貿 易 実 務 ダイジェスト 第 49 巻 第 12 号 (2009 年 )28,29 頁 12 森 本 正 崇 輸 出 管 理 を 巡 る 最 近 の 動 向 貿 易 実 務 ダイ ジェスト 第 52 巻 第 9 号 (2012 年 )3,4 頁 13 経 済 産 業 省 グローバル 経 済 下 における 国 際 投 資 環 境 を 考 える 研 究 会 中 間 とりまとめ (2007 年 4 月 )5 頁 14 経 済 産 業 省 貿 易 経 済 協 力 局 外 為 法 に 基 づく 対 内 投 資 規 制 の 見 直 しについて (2007 年 9 月 )5 頁 15 田 村 重 信, 高 橋 憲 一, 島 田 和 久 日 本 の 防 衛 法 制 ( 内 外 出 版,2008 年 )610 頁 16 経 済 産 業 省 前 掲 注 (1)55-69 頁 17 経 済 産 業 省 前 掲 注 (1)66 頁 18 経 済 産 業 省 前 掲 注 (1)33,34 頁 19 Attorney General Eric Holder Speaks at the Administration Trade Secret Strategy Rollout, Justice News, February 20, 2013 (http://www.justice.gov/iso/opa/ag/speeches/2013/ag-s peech-1302201.html) (last visited July 25, 2013). 20 森 本 正 崇 技 術 流 出 経 済 と 安 全 保 障 の 交 差 点 CISTECジャーナル No.116(2008 年 )16 頁 21 神 田 茂 グローバル 経 済 下 の 貿 易 管 理 技 術 管 理 ( 前 篇 ) 立 法 と 調 査 No.289(2009 年 )139 頁 22 第 171 回 国 会 参 議 院 経 済 産 業 委 員 会 会 議 録 第 6 号 9 頁 23 経 済 産 業 省 前 掲 注 (1)60 頁 24 秘 密 保 全 のための 法 制 の 在 り 方 に 関 する 有 識 者 会 議 秘 密 保 全 のための 法 制 の 在 り 方 について( 報 告 書 ) (2011 年 8 月 8 日 ) 25 秘 密 保 全 有 識 者 会 議 前 掲 注 (24)4 頁 26 秘 密 保 全 有 識 者 会 議 前 掲 注 (24)5 頁 27 秘 密 保 全 有 識 者 会 議 前 掲 注 (24)3 頁 28 秘 密 保 全 有 識 者 会 議 前 掲 注 (24)16-18 頁 29 土 肥 一 史 営 業 秘 密 侵 害 罪 に 関 する 不 正 競 争 防 止 法 の 改 正 について ジュリスト1385 号 (2009 年 )79 頁 30 中 原 裕 彦 不 正 競 争 防 止 法 の 一 部 を 改 正 する 法 律 の 概 要 Law & Technology 第 44 号 (2009 年 )47 頁 31 土 肥 前 掲 注 (29)80,82 頁 32 なお, 単 純 な 比 較 から 考 えれば, 防 衛 秘 密 の 法 定 刑 を 営 業 秘 密 と 同 等,あるいはそれ 以 上 に 引 き 上 げる 自 衛 隊 法 の 改 正 が 想 定 されるが, 自 衛 隊 法 の 罰 則 体 系 では 最 も 重 い 法 定 刑 が 懲 役 7 年 であり, 自 衛 隊 法 の 罰 則 体 系 全 体 に 影 響 するため 現 実 的 ではない 衆 議 院 調 査 局 安 全 保 障 調 査 室 日 本 の 防 衛 産 業 (2013 年 3 月 )132, 133 頁 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9 49
33 中 原 裕 彦 不 正 競 争 防 止 法 の 一 部 を 改 正 する 法 律 の 概 要 ジュリスト1432 号 (2011 年 )4 頁 34 中 原 前 掲 注 (33)5-6 頁 35 秘 密 保 全 有 識 者 会 議 前 掲 注 (24)24 頁 36 経 済 産 業 省 前 掲 注 (1)63,64 頁 37 神 田 茂 グローバル 経 済 下 の 貿 易 管 理 技 術 管 理 ( 後 編 ) 立 法 と 調 査 No.290(2009 年 )57-58 頁 38 経 済 産 業 省 前 掲 注 (1)77 頁 39 森 本 前 掲 注 (20) 技 術 流 出 19 頁 40 森 本 正 崇 大 学 における 機 微 技 術 管 理 に 向 けて CISTEC ジャーナル No.129(2010 年 )72 頁 41 神 田 前 掲 注 (21) 貿 易 管 理 技 術 管 理 ( 前 篇 ) 146 頁 42 部 科 学 事 務 次 官 結 城 章 夫 大 学 及 び 公 的 研 究 機 関 における 輸 出 管 理 体 制 の 強 化 について( 依 頼 ) (17 科 際 第 217 号 )(2006 年 3 月 24 日 )(http://www.mext.go.jp/b _menu/shingi/gijyutu/gijyutu8/toushin/06082811/015/001.ht m)( 最 終 訪 問 日 :2013 年 7 月 25 日 ), 部 科 学 省 高 等 教 育 局 長 徳 永 保, 科 学 技 術 学 術 政 策 局 長 泉 紳 一 郎, 研 究 振 興 局 長 磯 田 雄, 研 究 開 発 局 長 藤 木 完 治 大 学 及 び 公 的 研 究 機 関 における 輸 出 管 理 について( 依 頼 ) (21 科 高 第 261 号 )(2009 年 11 月 24 日 )(http://www.ciste c.or.jp/service/daigaku/090702data/0907_daigakuoyobikout ekikenkyuukikan.pdf)( 最 終 訪 問 日 :2013 年 7 月 25 日 ) 43 国 内 における 居 住 者 に 対 する 技 術 の 提 供 は 規 制 の 対 象 外 である(2(1) 参 照 ) 前 掲 注 (4) 参 照 44 伊 藤 正 実 大 学 における 輸 出 管 理 浅 田 正 彦 編 輸 出 管 理 制 度 と 実 践 ( 有 信 堂,2012 年 )210,211 頁 45 東 京 地 裁 平 成 23 年 12 月 19 日 判 決 ( 平 成 23 年 (ワ) 第 20551 号 ) 46 森 本 正 崇 大 学 や 研 究 機 関 における 機 微 技 術 管 理 の 進 展 体 制 構 築 後 の 運 用 と 課 題 CISTECジャーナル No.139(2012 年 )85,86 頁 47 森 本 前 掲 注 (46) 機 微 技 術 管 理 の 進 展 87,88 頁 48 田 上, 森 本 前 掲 注 (6)124,125 頁 49 United States Government Accountability Office, Export Controls: Agencies Should Assess Vulnerabilities and Improve Guidance for Protecting Export-Controlled Information at Universities, December 2006. 50 National Security Decision Directive 189, National Policy on the Transfer of Scientific, Technical and Engineering Information, September 21, 1985. 51 Maggie Fox, Scientists Agree to Unprecedented Withholdings of Flu-Virus Research, Global Security Newswire, December 21, 2011 (http://www.nti.org/gsn/article/scientists -agree-unprecedented-withholding-flu-virus-research/) (last visited July 25, 2013). 52 Ron A. M. Fouchier, Adolfo Garcia-Sastre, Yoshihiro Kawaoka & 36 co-authors, Pause on avian flu transmission Studies, Nature, January 2012 (http://www.nature.com/natu ure/journal/v481/n7382/full/481443a.html) (last visited July 25, 2013). 53 日 本 学 術 会 議 科 学 技 術 のデュアルユース 問 題 に 関 する 検 討 委 員 会 科 学 技 術 のデュアルユース 問 題 に 関 する 検 討 報 告 (2012 年 11 月 30 日 )(http://www.scj.go.jp /ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-h166-1.pdf)( 最 終 訪 問 日 :20 13 年 7 月 25 日 ) 54 日 本 学 術 会 議 前 掲 注 (53)3,4 頁 55 科 学 技 術 基 本 計 画 (2012 年 8 月 19 日 閣 議 決 定 )25 頁 56 田 上 博 道 大 学 等 における 安 全 保 障 貿 易 管 理 について 特 許 研 究 No.41(2006 年 )68 頁 50 特 許 研 究 PATENT STUDIES No.56 2013/9