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Title 教 師 の 悩 みはどこから 来 るのか? : 日 本 語 教 師 たちとのナ ラティヴ 探 究 を 通 して Author(s) 末 吉, 朋 美 Citation 阪 大 日 本 語 研 究. 25 P.75-P.104 Issue 2013-02 Date Text Version publisher URL http://hdl.handle.net/11094/24855 DOI Rights Osaka University

教 師 の 悩 みはどこから 来 るのか? - 日 本 語 教 師 たちとのナラティヴ 探 究 を 通 して- What causes teachers perceived difficulties?: A narrative inquiry with JSL teachers 末 吉 朋 美 SUEYOSHI Tomomi キーワード: 日 本 語 教 師 悩 み 自 己 理 解 求 める 姿 ナラティヴ 探 究 要 旨 本 論 は 著 者 自 身 を 含 む4 人 の 日 本 語 教 師 が 参 加 した 語 りの 場 において 協 力 者 の 3 人 が 持 ってい た 悩 みがどのように 生 まれたものであったのかをナラティヴ 探 究 で 明 らかにしたものである 3 人 の 教 師 の 悩 みを 解 決 するには その 悩 みがどのように 生 まれたのかを 理 解 しなければならず そのために 本 研 究 では 教 師 個 人 のこれまでを 振 り 返 り 今 後 どのような 人 生 を 歩 んでいきたいのかを 理 解 していった その 過 程 において 教 師 になった 理 由 や 教 師 として 自 分 に 求 める 姿 が 教 師 の 悩 みと 深 くかかわっていることが わかった また 教 師 の 悩 みを 克 服 するためには 教 師 が 自 分 自 身 を 見 つめ 直 しこれまでを 振 り 返 ること で 自 分 の 価 値 を 見 いだすことが 必 要 であることもわかった しかし 経 済 的 な 問 題 に 関 する 悩 みは 日 本 の 社 会 構 造 の 影 響 を 受 けており 本 研 究 では 解 決 することが 難 しかった 本 論 文 は 教 師 の 抱 える 悩 みをナ ラティヴ 的 に 理 解 することで 教 師 の 悩 みの 根 源 がどこにあるのかを 明 らかにすることが 必 要 であると 主 張 する 1.はじめに 教 師 の 悩 みは 授 業 に 関 することだけではなく 学 生 との 関 係 や 学 校 の 教 育 方 針 に 関 する ことなど 多 岐 にわたる さらに 今 後 の 教 師 としての 自 分 のあり 方 などこれから 先 の 人 生 に 関 わる 悩 みを 持 つ 教 師 も 少 なくない しかしこれら 教 師 の 悩 みはいったいどこから 来 る のだろうか 私 は 教 師 が 教 育 現 場 で 自 分 の 悩 みや 葛 藤 を 解 決 できないことに 注 目 し 青 木 (2006, pp. 151-152)が Clark(2001) 1) から 着 想 を 得 てデザインした 日 本 語 教 師 のた めのトーキング ショップ という 授 業 に 参 加 した 経 験 から 教 師 同 士 の 語 りの 場 を 設 けることを 思 いついた 青 木 ( 前 掲 )の 授 業 は 時 間 的 に 余 裕 のない 学 生 たちが 教 育 現 場 での 経 験 について 語 り 合 える 場 をつくろう (p. 151)として 設 けられたものであり 私

は 語 りの 場 を 設 けることで 忙 しい 日 本 語 教 師 たちが 悩 みを 話 し 合 える 場 を 作 ろうと した 語 りの 場 は 4Tの 会 ( 以 降 会 とする)と 名 付 けられ 私 を 含 む 4 人 の 教 師 は 会 の 中 でそれぞれの 悩 みを 背 景 としたテーマを 挙 げ 悩 みの 解 決 方 法 を 探 った 約 1 年 間 の 会 での 話 し 合 いを 通 して 協 力 者 3 人 はそれぞれの 悩 みを 理 解 し その 後 の 私 とのインタ ビューでその 悩 みの 根 源 を 知 るためにこれまでを 振 り 返 った 協 力 者 の 3 人 の 教 師 の 持 つ 悩 みはそれぞれ 異 なっていたが 皆 過 去 の 自 分 の 経 験 に 結 びついた 教 師 としての 求 める 姿 から 生 まれていたことがわかった そして 3 人 は 自 分 たちのこれまでを 振 り 返 り 新 たな 価 値 を 見 いだしたことで 各 自 の 悩 みを 解 決 し 次 のステップへと 進 むことができた 以 下 第 2 節 ではこの 研 究 の 背 景 と 目 的 を 述 べ 第 3 節 では 研 究 内 容 と 方 法 を 述 べる 第 4 節 では Jさんの 悩 み 第 5 節 ではPさんの 悩 み そして 第 6 節 ではUさんの 悩 みについてナラテ ィヴ 探 究 を 通 して 理 解 した 過 程 を 書 く そして 第 7 節 では 考 察 とまとめを 書 く 2. 研 究 背 景 と 目 的 教 師 の 抱 える 悩 みについては 近 年 公 立 学 校 における 教 員 のメンタルヘルスに 関 する 多 くの 調 査 の 中 で 教 師 がどのような 事 柄 に 困 難 を 感 じているかが 検 討 されている それに よると 教 師 の 多 忙 性 や 周 囲 との 人 間 関 係 職 場 環 境 などが 教 師 のストレスの 主 な 要 因 と なっていることがわかってきている( 八 並 新 井,2001; 田 上 山 本 田 中,2004; 貝 川,2009 他 ) しかしその 悩 みの 具 体 的 な 内 容 についてはほとんど 研 究 されていない 都 丸 庄 司 (2005)は 公 立 中 学 校 の 教 員 のストレスの 要 因 として 人 間 関 係 に 起 因 するものが 多 くを 占 めることに 注 目 し 22 校 の 公 立 中 学 校 の 教 員 290 名 に 質 問 紙 を 用 いて 対 生 徒 関 係 について の 悩 みの 内 容 を 明 らかにしようと 試 みた その 結 果 教 員 の 生 徒 との 人 間 関 係 における 悩 みは 生 徒 の 悪 いところばかりが 目 につく といった 生 徒 への 抵 抗 感 生 徒 が 指 示 に 従 わない といった 指 導 上 の 困 難 感 生 徒 からさけられている や 嫌 われているよ うに 感 じる などの 生 徒 からの 非 受 容 感 生 徒 を 感 情 的 に 叱 ってしまい 関 係 がうま くいかない といった 関 わり 不 全 感 の 4 つの 因 子 を 見 いだした そして 教 師 研 修 など において 生 徒 との 人 間 関 係 に 関 する 支 援 をする 際 に 年 齢 や 教 授 経 験 を 考 慮 する 必 要 があ ることなどが 指 摘 された また 教 師 の 悩 みはメンタルヘルスを 悪 化 させる 一 方 で 悩 みに 対 処 し 自 分 で もし くは 周 囲 からの 支 えを 受 けながら 悩 んでいく 過 程 がその 後 の 教 師 の 変 容 と 関 連 しているこ とが 示 唆 された しかし 都 丸 庄 司 ( 前 掲 )の 研 究 は 悩 みを 抱 えた 教 員 の 変 容 を 縦 断 的 に 検 討 したものではないため いかなる 時 期 や 状 況 下 でどのような 対 処 や 支 えがどのように

作 用 したのかについては 明 らかにされていない 日 本 語 教 育 の 分 野 ではこのような 教 師 の 様 々な 悩 みについての 調 査 は 管 見 の 限 り 見 当 た らないが 近 年 教 師 教 育 については 教 師 トレーニング(teacher training) から 教 師 の 成 長 (teacher development) へとパラダイムが 転 換 されたことにより 自 己 研 究 型 教 師 (self-directed teacher) 2) や 内 省 的 実 践 家 (reflective practitioner) 3) であ ることが 求 められるようになった( 岡 崎 岡 崎, 1997) 横 溝 (2006)は 教 師 の 自 己 教 育 力 を 向 上 させることを 教 師 の 成 長 を 支 援 することと 捉 え それを 実 現 する 具 体 的 な 方 法 としてアクション リサーチを 奨 励 している 横 溝 (2000, p. 17)はそれを 自 分 の 教 室 内 外 の 問 題 及 び 関 心 事 について 教 師 自 身 が 理 解 を 深 め 実 践 を 改 善 する 目 的 で 実 施 される システマティックな 調 査 研 究 と 定 義 しているが 日 本 語 教 育 におけるアクション リサ ーチの 先 行 研 究 には 管 見 の 限 り 授 業 中 の 問 題 改 善 に 関 するものしか 見 当 たらない 横 溝 (2006) 自 身 もアクション リサーチ 実 施 の 目 標 として 実 践 の 向 上 のみに 注 目 が 集 ま ることに 難 色 を 示 してはいるが 教 室 の 外 の 問 題 である 周 りの 状 況 の 改 善 には それ を 可 能 にする 教 育 機 関 や 自 治 体 などからのサポートが 必 要 不 可 欠 であり 状 況 を 変 えるこ と 自 体 にもとても 大 きなエネルギーと 長 い 時 間 を 要 するため 多 くの 教 師 にとって 目 標 に 据 えにくいのではないかと 説 明 している(p. 52) つまり 青 木 (2006)の 言 うように 実 際 に 教 師 や 学 習 者 が 授 業 で 直 面 する 問 題 の 中 には 社 会 の 中 の 構 造 的 な 問 題 に 起 因 するもの も 少 なくなく それらは 現 行 のアクション リサーチで 行 われているような 授 業 中 の 行 動 を 改 善 しただけで 解 決 できるようなものではないと 言 えよう 青 木 ( 前 掲 )は 学 習 者 オ ートノミーを 支 え 教 師 オートノミー4) を 獲 得 するためにアクション リサーチをするの ならば 視 野 を 広 く 取 り 問 題 の 原 因 が 教 室 の 外 の 世 界 にないかどうかを 探 る 必 要 (p. 145)があると 述 べている 本 論 の 目 的 は 教 師 同 士 の 語 りの 場 とインタビュー 調 査 によっ てわかった 教 師 の 悩 みの 根 源 がどこにあるかを 明 らかにし 教 師 をより 深 く 理 解 すること の 必 要 性 を 示 すことである 3. 研 究 内 容 と 方 法 この 研 究 では 研 究 者 である 私 を 含 む 4 人 の 教 師 が 語 り 合 う 場 を 職 場 であるX 日 本 語 学 校 内 に 設 け 2008 年 4 月 から 2009 年 3 月 までの 約 1 年 間 に 1 時 間 半 から 2 時 間 ほどの 会 を 14 回 行 った また その 間 私 の 家 で 2 回 の 食 事 会 も 行 った 以 下 は 協 力 者 の 詳 細 である 表 1: 研 究 協 力 者 の 情 報 (2008 年 4 月 時 点 )

Jさん 20 代 前 半 日 本 語 教 師 歴 3 年 ( 韓 国 2 年 日 本 1 年 ) Pさん 20 代 後 半 日 本 語 教 師 歴 3 年 半 ( 韓 国 1 年 日 本 2 年 半 ) Uさん 30 代 前 半 日 本 語 教 師 歴 7 年 ( 日 本 7 年 ) 私 たち 4 人 は 同 じ 日 本 語 学 校 の 同 僚 教 師 であるが 協 力 者 の 選 定 の 際 私 は 自 分 よりも 教 授 経 験 の 長 い 教 師 は 選 ばなかった それは 私 自 身 がそのような 教 師 を 理 解 する 自 信 がな かったからである また 参 加 者 同 士 の 親 密 度 に 極 端 な 差 が 出 ないようにも 配 慮 した 私 はそのようにして 選 んだ 協 力 者 の 3 人 と 会 での 発 言 等 におけるプライバシーを 守 る 約 束 事 の 用 紙 を 交 わすことで 研 究 参 加 への 承 諾 を 得 た 会 での 会 話 は 基 本 的 に 録 音 したが 一 部 意 図 的 に 録 音 せずに 会 話 の 内 容 をメモとして 書 きとめたものもある 14 回 目 で 会 を 終 えた のは 当 初 の 約 束 の1 年 間 が 終 わる 際 に 協 力 者 たち 全 員 から 継 続 の 意 思 が 得 られなかった からである その 後 私 は 3 人 の 協 力 者 たちへ 個 別 にインタビューを 行 った 次 の 表 は 各 自 のインタビューの 日 付 と 回 数 である 表 2:インタビューの 日 付 と 回 数 Jさん Pさん Uさん 2009 年 6 月 24 日 (1 回 目 ) 2009 年 8 月 4 日 (2 回 目 ) 2009 年 10 月 20 日 (3 回 目 ) 2009 年 12 月 1 日 (4 回 目 ) 2009 年 7 月 18 日 (1 回 目 ) 2009 年 8 月 5 日 (2 回 目 ) 2009 年 12 月 8 日 (3 回 目 ) 2010 年 4 月 2 日 (4 回 目 ) 2009 年 6 月 30 日 (1 回 目 ) 2009 年 8 月 1 日 (2 回 目 ) 2009 年 9 月 5 日 (3 回 目 ) 2010 年 6 月 5 日 (4 回 目 ) 2010 年 12 月 18 日 (5 回 目 ) Jさんは7か 月 の 間 に 4 回 Pさんは 10 か 月 の 間 に 4 回 Uさんは 18 カ 月 の 間 に 5 回 インタビューを 行 った いずれも 1 回 のインタビュー 時 間 は 1 時 間 半 から 2 時 間 ほどであ る Jさんへのインタビューが 短 い 期 間 に 集 中 して 行 われたのは 2008 年 の 春 に 結 婚 した Jさんがその 後 妊 娠 したことが 影 響 している 私 は 年 内 にインタビューを 終 えることを 約 束 し Jさんの 体 調 の 良 い 時 にインタビューを 行 った また Uさんへのインタビュー 期 間 が 他 のふたりに 比 べて 長 いのはUさんの 悩 みが 簡 単 に 解 決 できるようなものではなかっ たからである 私 はUさんが 悩 みをある 程 度 乗 り 越 えるのを 待 ち 5 回 目 のインタビュー で 前 に 進 みだしたUさんを 確 認 してから 調 査 を 終 えた この 研 究 での 研 究 方 法 は Clandinin and Connelly(2000)などによって 提 唱 される

Narrative Inquiry(ナラティヴ 探 究 以 降 NI とする)である NIは 教 育 哲 学 者 で あるデューイ(1938/2004)の 経 験 の 連 続 性 の 原 理 からの 影 響 を 強 く 受 けている デュ ーイ( 前 掲 )は 経 験 を 個 人 と 社 会 の 両 方 にまたがるものと 捉 え 人 は 個 人 としてのみ では 理 解 されず 常 に 社 会 的 文 脈 の 中 にあり 他 者 との 関 係 性 の 中 に 存 在 していると 考 えた そして 経 験 の 特 徴 として 連 続 性 (continuity) を 挙 げ 経 験 というものはいずれ も 皆 動 き 行 く 動 力 (デューイ, 前 掲, p. 52)であるとして 全 ての 経 験 を 過 去 現 在 未 来 へと 繋 がる 時 の 流 れの 中 にあると 述 べた 経 験 は 他 の 経 験 や 更 なる 未 来 の 経 験 を 生 じさせるものであり 人 は 絶 えずその 経 験 を 書 き 換 えながら 生 きていく そしてそれ こそが ライフ(life) 5) である デューイ( 前 掲 )のこの 考 えに 影 響 された Clandinin and Connelly(2000)は ライフの 中 にナラティヴの 断 片 が 満 ちている (p. 17)と 考 え ナラティヴが 教 師 個 人 の 経 験 を 理 解 するために 最 適 な 方 法 であるとしてNIを 提 唱 し た NIの 特 徴 としては 研 究 者 と 研 究 協 力 者 とのコラボレーションと 探 究 の 三 次 元 (Three-dimension) がある 三 次 元 とは 時 間 的 な 連 続 体 の 概 念 インターアクシ ョン 置 かれる 場 のことである 時 間 的 な 連 続 体 の 概 念 はデューイ( 前 掲 )の 概 念 を 踏 まえて 研 究 者 と 協 力 者 の 両 者 の 持 つ 経 験 を 過 去 現 在 未 来 という 時 の 流 れ の 中 で 捉 えることである 出 来 事 は 決 して 切 り 取 られたものではなく 過 去 現 在 未 来 と 繋 がる 時 の 流 れの 中 にあり やまだ(2007, p. 126)が 言 うように 過 去 は 現 在 と 照 合 されて 絶 えず 再 編 成 され 読 みかえられて 変 容 していくものである インター アクション は 個 人 と 社 会 との 相 互 作 用 の 関 係 のことであり 個 人 を 理 解 するには 個 人 を 取 り 巻 く 環 境 や 社 会 からの 影 響 を 無 視 することはできないということを 意 味 する 置 かれ る 場 は 出 来 事 がどのような 場 所 で 起 きているのかを 理 解 する 上 で 実 際 の 物 理 的 描 写 として 具 体 的 に 詳 しく 知 っていることが 必 要 となることを 指 す NIでは 研 究 者 が 一 方 的 に 研 究 協 力 者 のナラティヴを 研 究 していくというアプローチをとることはできない ナラ ティヴそのものが 両 者 のコラボレーションのプロセス 全 般 を 含 むため 研 究 者 自 身 も 研 究 対 象 となる そのため 本 研 究 においても 研 究 者 である 私 自 身 は 研 究 協 力 者 と 共 に 過 去 現 在 未 来 へと 続 く 時 の 流 れに 身 を 浸 し 同 じ 日 本 語 学 校 の 非 常 勤 講 師 という 立 場 で 互 いの 経 験 を 語 り 合 いながらお 互 いの 理 解 を 深 めていった 私 は 協 力 者 たちとのこのよう なやり 取 りの 中 でフィールドテキストを 作 成 し 自 分 のこれまでの 経 験 に 照 らし 合 わせな がらその 解 釈 を 行 い そこでの 出 来 事 や 語 られたストーリーが 過 去 現 在 未 来 と いう 時 間 の 流 れの 中 でどのような 意 味 を 生 成 していくのかを 見 つめながら 最 終 的 なテキ ストを 書 いていった そしてその 過 程 において 3 人 の 協 力 者 たちの 悩 みを 理 解 していった のである

4.Jさんの 悩 み 4.1. 会 でのJさん Jさんは1 回 目 の 会 の 時 には 何 が 足 りてないかわからないが 何 かがない と 言 って もっと 授 業 をうまくできるようになりたいと 話 した それはJさんが 会 に 参 加 する 前 に 担 当 した 上 級 クラスの 授 業 で 学 生 たちの 反 応 が 全 くなく 嫌 な 思 いを 経 験 したからだった Jさんは 会 を 始 めた 4 月 に 初 めて 初 級 クラスを 担 当 した 初 級 クラスでは 上 級 クラスとは 違 って 学 生 たちが 皆 元 気 で 反 応 がよかった ため Jさんは 緊 張 することなく 授 業 がで き 学 生 たちとの 会 話 が 楽 しくて 授 業 時 間 を 短 く 感 じた 2 回 目 の 会 では Jさんが パ フォーマー であることが 話 題 に 出 た Jさんはこの 時 大 学 時 代 の 日 本 語 教 育 の 先 生 に 教 師 は 演 じる と 教 わった 話 をした その 後 4 回 目 の 会 合 の 時 に みんなで 話 し 合 いたい テーマとしてJさんは ネタ を 挙 げた ネタ とは 授 業 をうまく 進 めるための 技 術 や 方 法 のことである 会 の 中 で J さんは 銀 行 強 盗 を 演 じた 話 や 盆 踊 り という 言 葉 の 説 明 で 踊 りを 学 生 たちに 披 露 した 話 をしたが そのようなJさんの 授 業 の 話 に 他 の 3 人 は 感 心 し 楽 しそうな 授 業 風 景 を 思 い 描 くことができた Jさんは 7 回 目 の 時 に 自 分 の 授 業 につ いて 次 のように 話 した J: 今 日 の 導 入 はいけるぞっていうときは 私 もノリノリだし 学 生 もうわーってなるけど 真 面 目 に 面 白 い 導 入 も 特 になくやってるとみんなすごいじーっと 見 ていて 真 面 目 には 聞 いてくれるんですけど < 中 略 > いつもこんな 元 気 やのに 自 分 の 導 入 の 仕 方 によ ってこんなに 静 かになるんやーってショックを 受 けて なんかこの 文 型 のときはすごい 盛 り 上 がってこの 文 型 の 時 はピーンって 笑 このピーンのときがもう 息 がつまりそ 6) うで ごめんななんも 考 えられへんかったわって 200809174T7J 文 字 化 J さんは 授 業 で 面 白 い 導 入 をして 自 分 が ノリノリ である 時 は 学 生 たちも 盛 り 上 が るのに 自 分 が 真 面 目 に 面 白 い 導 入 の ネタ もなくやっているときは いつも 元 気 な 学 生 たちが 静 かで 教 室 の 空 気 も ピーン と 張 りつめることに ショックを 受 け た そし てその 時 は 自 分 も 息 が 詰 まりそう になって 授 業 が 盛 り 上 がらず 面 白 くないことに 申 し 訳 ない 気 持 ちになると 話 した J さんにとって 面 白 い 導 入 のための ネタ やパフォー マンスは 自 分 の 授 業 をうまく 進 めるために 必 要 なことであった しかし J さんは 初 級 ク ラスではそのような パフォーマー でいられるが 中 級 や 上 級 の 授 業 では 学 生 から 反 応

が 得 られないので 難 しいと 話 した Jさんは 私 それ(=パフォーマンス)しかできない と 言 って 自 分 のやり 方 が 通 用 しない 中 級 や 上 級 の 授 業 に 対 し 不 安 な 気 持 ちを 持 ってい た しかし 8 回 目 の 会 からJさんの 日 本 語 教 師 に 対 する 捉 え 方 に 変 化 が 表 れた 8 回 目 の 会 でJさんは 目 の 前 の 授 業 をどうするかしか 考 えてなくて 教 師 としての 自 分 を 考 えたこ とがなかった と 話 し 10 回 目 の 会 の 時 には 日 本 語 教 師 の 仕 事 は 教 師 というよりも 日 本 語 を 教 える 人 だ と 言 って 日 本 語 教 師 は 語 学 教 師 であり 俗 にいう 教 師 という 感 じではないと 話 した J さんはこの 教 師 について 11 回 目 の 会 で 日 本 語 教 師 を 選 んだ 理 由 を 話 した 際 に 次 のように 説 明 した J: 私 は 前 に 立 つとか 人 前 で 話 すとかそういうのが 嫌 なんじゃなくて だからその 指 導 のほ うです 私 は 教 えるだけじゃなくっていろいろあるじゃないですか 笑 教 師 ってい うと 学 生 とのやりとりとか 高 校 (の 教 育 実 習 の 時 )しかイメージなかったですけど で もそれで 教 師 の 仕 事 が 無 理 だと 思 ったんですよ < 中 略 > でもこういう 学 校 (= 日 本 語 学 校 )やったら そういうのやらずにただの 日 本 語 を 教 える 先 生 でいけるかなと 思 っ て 200812014T11J 文 字 化 Jさんは 高 校 の 教 育 実 習 の 経 験 から 教 師 は 学 生 たちといろいろな やりとり が 必 要 であり 学 生 たちを 指 導 しなければならないので 自 分 には 無 理 だと 思 った し かし ただの 日 本 語 を 教 える 先 生 としての 語 学 教 師 であれば 公 立 学 校 の 教 師 のように 学 生 たちを 指 導 しなくてもいいと 考 え 日 本 語 教 師 を 選 んだのである 会 に 参 加 した 当 初 パフォーマー としての 自 分 の 姿 を 肯 定 的 に 捉 え 上 級 の 授 業 の ネ タ がないことを 悩 んでいたJさんは 8 回 目 の 会 以 降 教 師 としての 自 分 を 考 え 始 め た Jさんの 日 本 語 教 師 の 捉 え 方 は 会 に 参 加 する 中 で 教 える 技 術 だけを 追 求 する 語 学 教 師 から 学 生 たち 一 人 一 人 と 関 わっていく 教 師 へと 少 しずつ 変 化 したのである 4.2. 自 分 らしい 授 業 スタイル 会 が 終 わってJさんにインタビューをする 中 で どうしてJさんが 最 初 の 頃 に 日 本 語 教 師 を 日 本 語 の 指 導 をするだけの 語 学 教 師 と 捉 え パフォーマー であったのかがわか った Jさんは 高 校 2 年 生 の 時 に 行 ったオーストラリアの 学 校 で 初 めて 日 本 語 教 師 を 見 た J: 高 校 生 の 時 のイメージのままなんですけど 最 初 に 思 ってたのは 私 が 考 える 日 本 語 教 師 っていうのは 初 級 レベル てください みたいな? それが 日 本 語 教 師 で 私 が 日

本 語 を 教 える 人 っていうのは もうまったく 話 せない 人 たちに あいさつから ほんと いち に 初 級 のことから ジェスチャーで 一 から 教 えるっていうのが 日 本 語 を 教 える 人 ってい うイメージなんです 20090804J2 文 字 化 高 校 生 のJさんは 折 り 紙 で 日 本 の 文 化 を 紹 介 したり 簡 単 なあいさつ 程 度 の 日 本 語 を 教 え たりしている 日 本 語 教 師 の 姿 を 見 て まったく 日 本 語 を 話 せないような 人 たちにジェスチ ャーを 使 って 日 本 語 を 教 えるというのが 日 本 語 教 師 だと 思 った この 時 の 経 験 は その 後 のJさんが 日 本 語 教 師 としての 自 分 の 姿 を 考 える 時 に 大 きく 影 響 を 与 えるものとなった 帰 国 後 日 本 語 教 師 を 目 指 したJさんは 日 本 語 教 育 を 専 門 に 勉 強 できる 大 学 に 入 った 大 学 では 現 役 の 日 本 語 教 師 が 講 師 だった J さんはその 先 生 から 日 本 語 教 師 とは 演 じる ものだと 教 えられた そして 大 学 卒 業 後 は 韓 国 の 日 本 語 学 校 で 教 え 始 めた J: 皆 で 楽 しく 話 すってのを 韓 国 でやって 好 きになったんだと 思 います でもどうやったら 話 させることができるんやろって 考 えたのも 韓 国 で < 中 略 > 何 話 させようってめち ゃ 考 えました 楽 しくない 授 業 はしたくないですしね 笑 いとか 反 応 が 返 ってこないと 嫌 です なんかずうっと 自 分 ばっかりしゃべってるのは 嫌 です ( 学 生 との)やり 取 り がないと 皆 で 楽 しく そういうのが 好 きですね 韓 国 で 先 生 の 授 業 楽 しいとか 面 白 い って 言 ってもらえたのがすごい 嬉 しかったし 20091201J4 文 字 化 Jさんは 韓 国 での2 年 間 中 級 や 上 級 のクラスで 学 習 者 に 日 本 語 を 話 してもらうために 楽 しい 授 業 をすることにこだわった どうすれば 学 習 者 たちに 日 本 語 を 話 してもらえ るかだけを 考 え 試 行 錯 誤 した Jさんは 教 師 である 自 分 ばかりが 話 し 笑 いや 反 応 が 返 ってこないような 授 業 は 楽 しい 授 業 とは 思 えず 学 習 者 たちとの やり 取 り や 笑 い がある 皆 で 楽 しく 話 す 授 業 を 目 指 した J さんが 韓 国 で 行 ったそのような 授 業 は 学 習 者 たちから 楽 しい や 面 白 い と 肯 定 的 に 評 価 され Jさんはとても 嬉 しかった そして 楽 しい 授 業 をすることが 自 分 の 授 業 の 持 ち 味 であり 自 分 らしい 授 業 ス タイル だと 思 うようになったのである このように 高 校 生 の 時 Jさんがオーストラリアで 見 た 日 本 語 教 師 の 姿 から 得 た 日 本 語 教 師 のイメージは その 後 大 学 時 代 の 先 生 に 教 師 は 演 じる と 教 わったことで 強 化 さ れ ジェスチャーや 演 技 などのパフォーマンスがより 重 視 されるようになった そして 韓 国 で 日 本 語 を 教 え 始 めたJさんは 皆 で 楽 しく 話 す 授 業 のやり 方 に 肯 定 的 な 評 価 を 受 け たことから 面 白 い 導 入 をして 学 生 たちと 盛 り 上 が ることを 自 分 の 授 業 スタイルとし

て 確 立 させた Jさんの 語 学 教 師 としての 日 本 語 教 師 のイメージはこうして 出 来 上 が ったのである 4.3. 国 語 のような 上 級 の 授 業 帰 国 後 X 日 本 語 学 校 で 教 え 始 めたJさんは 上 級 クラスを 担 当 したが その 授 業 の 内 容 は 韓 国 とは 全 く 違 っていた J: 指 示 語 がってそんなん 韓 国 で 言 ったことありません だから 指 示 語 が 出 てくると 国 語 っていうイメージなんですよね < 中 略 > この 内 容 読 み 取 って 問 題 を 解 いていくって いうのは 私 のなかでは 日 本 語 を 教 えるっていうより 国 語 の 授 業 に 近 いなーって 思 うん ですよ 20090804J2 文 字 化 Jさんには 皆 で 話 し 合 うことよりも 読 んで 内 容 を 把 握 することを 重 視 するX 日 本 語 学 校 の 上 級 クラス 授 業 が 日 本 語 を 教 える というよりもまるで 中 学 や 高 校 で 受 けた 国 語 の 授 業 のように 感 じた Jさんは 何 とか 楽 しい 授 業 にしようと 頑 張 ったが 学 生 たちか らの 反 応 が 全 く 返 ってこず まるで 一 人 で 授 業 をしているような 気 持 ちになった 上 級 ク ラスで 要 求 されることが Jさんがこれまでイメージしてきた 日 本 語 教 師 の 姿 とあまりに 違 っているのに 戸 惑 い どう 教 えていけばいいのか 全 くわからなくなったのである Jさ んはこれまで 築 いてきた 面 白 くて 楽 しい 自 分 らしい 授 業 スタイル が 上 級 クラスで 通 用 しないことに 苦 しんだ Jさんは 大 学 時 代 国 語 の 教 員 免 状 を 取 得 するために 母 校 の 高 校 へ 教 育 実 習 に 行 った 際 同 じように 古 文 の 授 業 に 苦 しめられた しかしその 時 は 古 文 好 きの 大 学 の 友 人 が 平 安 時 代 の 恋 愛 の 仕 方 のような 面 白 い 話 を 教 えてくれたので それを 話 して 授 業 を 乗 り 切 った 実 習 後 の 生 徒 の 感 想 文 には 先 生 の 小 ネタが 面 白 かった と 書 いてあって Jさんは 嬉 し かった Jさんは 3 回 目 のインタビューの 時 に ネタ について 次 のように 話 した J:やっぱり 初 級 になりますけど 今 日 はこういうことみんなでやろうとか まぁそれがあ んまり 学 生 にうけへんかったときは このネタはもう 次 からあかんなーってボツになり ますけど 笑 練 習 方 法 とかでもやってる 途 中 にネタを 思 いつくことが 多 いんですけど < 中 略 > そういうのでわいわいできて 楽 しかったんですよね でも 上 級 になるとめ ちゃめちゃ 難 しくなって その 場 じゃ 全 く 対 応 できへんっていうような 笑 とりあえ ずこの 範 囲 っていうのがすごい 決 まってるし 上 級 でいっぱいいっぱいになっていると

ころにちょっと 質 問 されるともう どんどん 墓 穴 を 掘 っていくっていうか そうなると もう 惹 きつけられる 授 業 ってところに 行 きますよね そのためにもネタが 必 要 って 20091020J3 文 字 化 Jさんの ネタ は 主 に 初 級 の 授 業 中 に 思 いつくものが 多 く 学 生 たちにうけずに 面 白 くないものは ボツ にした Jさんは 学 生 たちとこのようなネタを 通 していろいろやり 取 りすることが 楽 しかった しかし 上 級 になると 内 容 がとても 難 しくてその 場 で 全 く 対 応 できず 決 まっているカリキュラムの 範 囲 をこなすことだけで いっぱいいっぱい にな ってしまい 学 生 からの 質 問 が 出 てもうまく 対 処 できなかった J さんは 上 級 クラスでは 初 級 クラスでのように 楽 しい 授 業 をするという 自 分 らしい 授 業 ができないため 自 分 の 高 校 での 教 育 実 習 の 経 験 から ネタ を 使 った 惹 きつけられる 授 業 をすることを 目 指 した Jさんが 会 で 話 し 合 うテーマとして ネタ を 挙 げたのは 会 に 参 加 する 先 輩 教 師 たちからなにか 得 てやろうという 積 極 的 な 気 持 ちがあったからであり 上 級 クラスで 使 える ネタ を 探 していたからであった それはJさんが 中 級 や 上 級 の 授 業 においても 楽 しい 授 業 をするという 自 分 の 授 業 スタイルを 貫 こうとしたことを 表 していた 4.4.わかる 授 業 へ 会 に 参 加 した 当 初 のJさんは 自 分 の 授 業 スタイルに 自 信 を 持 ち パフォーマー であ ろうとしたが 会 に 参 加 して 皆 で 話 す 中 で 語 学 教 師 としての 日 本 語 教 師 ではなく 学 生 たち 一 人 一 人 と 関 わっていく 教 師 としての 日 本 語 教 師 を 考 えるようになった それ に 伴 ってJさんは 楽 しい 授 業 をすることに 疑 問 を 持 つようになった インタビューで はJさんはその 疑 問 を 次 のように 話 した J: 楽 しい 授 業 がいいのかっていうところもあって 楽 しくてわかる 授 業 じゃないとだめな のに < 中 略 > なんかただ 笑 わせてるだけになってないかなってところはすごくある んですよ 楽 しい 楽 しいだけでやる 子 はやってわかってるし やらん 子 はそのまんまや し < 中 略 > なんかわかる 授 業 がしたいんです 20090623J1 文 字 化 Jさんはこれまで 自 分 のスタイルであった 面 白 い 導 入 やパフォーマンスをする 楽 しい 授 業 に 対 し 自 分 は 学 生 たちを ただ 笑 わせているだけ ではないかと 疑 うようになっ た Jさんは 自 分 の 実 践 を 振 り 返 って 面 白 い 導 入 をするだけという 自 分 のやり 方 では 説 明 が 少 なすぎて 理 解 できないままの 学 生 たちがいるのではないかと 思 ったのである 文

法 の 使 い 分 けなどを 詳 しく 説 明 することはこれまでのJさんの 興 味 のないところであり 教 務 室 で 他 の 教 師 が 文 法 について 話 し 合 い 深 く 掘 り 下 げて いくのをみてもそこまで 必 要 ないだろうと 思 って 気 にしなかった しかし 今 はそれを 見 ると 自 分 の 勉 強 不 足 を 感 じ 自 分 の 知 識 が 足 りないせいで 説 明 が 不 十 分 になり 学 生 たちに 対 して わかる 授 業 がで きていないのではないかと 思 うようになった Jさんは 自 分 からの 一 方 的 な 楽 しい 授 業 から 学 生 たち 一 人 一 人 を 考 慮 した わかる 授 業 へと 自 分 の 授 業 スタイルを 変 化 させよう としたのである Jさんのこの 変 化 は 会 で 教 師 の 部 分 を 考 えるようになったことか ら 起 こったものであると 言 えるだろう 1 回 目 のインタビューの 終 わりにJさんは 次 のよ うに 話 した J: 今 全 然 あかんわ なんか 学 生 のためになってない 学 生 のために 何 も 言 ってあげてない です 私 初 級 のクラスのオーストラリア 人 の 学 生 が 全 然 漢 字 をやらないんですよ 全 く 覚 えようとしないんです なんかもう 私 が 言 うのは 一 応 言 うみたいなことしか 言 ってな くて 漢 字 が 読 めないとテストができないよとか 結 構 話 せるのに もう 一 回 このレベ ルするの?とか なんかそういうことを 全 然 言 ってあげられてないっていうか そうい うのは 言 ってあげた 方 がいいなって 20090623J1 文 字 化 学 生 のために と 連 呼 するJさんは もはや パフォーマー ではなかった Jさん は 漢 字 を 覚 えようとしない 学 生 への 注 意 の 言 葉 を 一 応 言 うみたいな 言 葉 では 十 分 では なく 漢 字 が 読 めないとテストができない とか 話 せても 漢 字 ができないと 上 のレベル のクラスへ 上 がれないことを 説 明 してもっと 学 生 が 漢 字 を 学 ぼうとやる 気 を 出 すような 言 葉 をかけた 方 がいいと 学 生 側 の 立 場 に 立 った 注 意 の 仕 方 を 考 えるようになったのである 会 の 終 了 後 Jさんに 感 想 を 聞 いた 時 ネタ 以 外 にもいろいろな 話 を 聞 くことができ たのが 一 番 良 かったと 話 した そして 自 分 の 変 化 として 会 に 参 加 したことがきっかけで 周 囲 の 教 師 に 授 業 の 内 容 について 自 分 から 質 問 したり 相 談 したりするようになったと 話 し た 以 前 は 質 問 するという 方 法 はJさんの 中 にはなく 質 問 しやすい 雰 囲 気 の 初 級 ク ラスの 教 師 たちにさえ 質 問 しなかった しかしJさんは 会 に 参 加 後 ほぼ 毎 回 質 問 する ようになったと 話 した また Jさんの 学 生 たちに 対 する 注 意 の 仕 方 にも 変 化 があった J: 最 近 良 く 使 うのは ただうるさいだけじゃなくて 学 生 が 発 表 してるときにしゃべっ てたら なになにさんが 発 表 中 だからちゃんと 聞 いてって そこにやっと 持 っていける ようになった 感 じです 私 今 までは 話 さない とか うるさいよとか そんなんばっ

かりだったんですけど 今 のほうがなんかいいですよね それがやっとできるようにな ったってところです 20090623J1 文 字 化 Jさんはこれまで 一 方 的 な 禁 止 や 命 令 を 表 す 一 言 だけで 注 意 していたが 理 由 を 説 明 す るようなやり 方 が やっとできるようになった と 話 した そして 学 生 に 対 する 声 掛 けが 難 しいと 言 った 例 えば 長 く 休 んだ 学 生 に 久 しぶりに 会 った 時 に すでに 他 の 教 師 に 怒 られているので 自 分 は 怒 らないで 何 かちょっと 学 校 に 来 たくなるような 別 のことが 言 えないか と 思 うと 話 した このように 学 生 たち 一 人 一 人 に 向 き 合 っていこうとするJさ んは もう ネタ についての 悩 みを 話 すことはなかった それはJさんが 楽 しい 授 業 をする 語 学 教 師 としての 日 本 語 教 師 ではなく 一 人 の 教 師 として わかる 授 業 をすることを 目 指 し 学 生 たち 一 人 一 人 と 関 わっていく 日 本 語 教 師 の 姿 を 自 分 の 求 めるも のとしたからだろう このように Jさんの 上 級 授 業 で 学 生 の 反 応 が 得 られないという 悩 みは 日 本 語 を 楽 し く 面 白 く 教 える 語 学 教 師 としての 日 本 語 教 師 のイメージが 影 響 していたと 思 われる Jさんのイメージは 高 校 生 の 時 にオーストラリアで 見 た 日 本 語 教 師 の 姿 に 大 きく 影 響 を 受 け その 後 大 学 時 代 の 講 師 に 教 師 は 演 じる と 教 わったことや 韓 国 で 皆 で 楽 しく 話 すという 授 業 のやり 方 に 肯 定 的 な 評 価 を 得 たことで Jさんは 面 白 い 導 入 やパフォーマン スを 披 露 する 楽 しい 授 業 をすることを 自 分 の 授 業 スタイルとして 確 立 した しかしX 日 本 語 学 校 の 上 級 クラスの 国 語 のような 授 業 では Jさんのやり 方 は 通 用 せず 学 生 たち の 反 応 が 十 分 に 得 られなかったことでとても 嫌 な 思 いをした このような 上 級 授 業 につい ての 悩 みを 解 決 しようと 会 に 参 加 したJさんは 他 の 3 人 の 教 師 の 話 を 聞 く 中 で 徐 々に 日 本 語 教 師 に 対 する 捉 え 方 が 変 わっていった これまで 日 本 語 教 師 は 日 本 語 を 教 えるだけの 語 学 教 師 だと 考 えていたJさんは 会 で 話 し 合 う 中 で 日 本 語 教 師 も 学 生 たち 一 人 一 人 と 関 わっていく 教 師 であると 考 えるようになった 会 の 後 Jさんは 楽 しい 授 業 を するための ネタ を 探 す 代 わりに 周 囲 の 教 師 を 観 察 したり 質 問 したりすることで 自 分 の 実 践 を 振 り 返 り 問 題 点 を 見 つけ 解 決 しようとするようになった つまりJさんは 以 前 のような パフォーマー ではなく 日 本 語 を 学 ぶ 学 生 たちのことを 考 える 一 人 の 日 本 語 教 師 を 目 指 すことで 自 分 の 悩 みを 克 服 したのである 5.Pさんの 悩 み 5.1. 会 でのPさん

Pさんは1 回 目 の 会 の 時 に 最 近 自 分 には 教 師 の 適 性 がないような 気 がすると 話 した そして 毎 回 日 替 わりのようなめまぐるしさで 日 本 語 教 師 をやめるかやめないかを 考 えると 話 し 自 分 がやる 気 になるのもそのやる 気 を 下 げるのも 学 生 が 原 因 だと 言 った 3 回 目 の 会 では 皆 がそれぞれ 教 師 を 困 らせる 学 生 たちの 話 をした その 時 Pさんはそのような 学 生 への 対 処 法 として 無 視 するしか 方 法 がない とはっきり 言 った そしてPさんは 上 級 ク ラスで 日 本 語 が 良 くできる 学 生 たちを 相 手 にすると 自 分 の 知 識 が 足 りていない こと 7) を 痛 感 すると 話 した 5 回 目 の 会 の 時 にはピグマリオン 効 果 の 話 が 出 て Pさんは 会 の 終 わりに 次 回 は 何 か 報 告 できるように 頑 張 ると 話 した しかし 次 の 6 回 目 の 会 でPさ んは 自 分 は 学 生 をほめるどころか 怒 ってばかりだったと 話 した その 後 皆 で 話 す 中 で 色 々な 問 題 学 生 の 名 前 が 出 てくるとPさんは 次 のように 言 った P:なんか 幼 いんですね みんな ただ 単 に 我 慢 がきかない 今 僕 の 質 問 に 今 すぐ 答 えてく れって 人 が 多 い 気 がする 笑 それが 共 通 認 識 だと 思 う なんか 年 の 割 には 言 ってい ることがわがままで 周 りのこと 考 えてない 200809104T6P 文 字 化 Pさんは なんか 幼 いんですね と 言 って 問 題 になる 学 生 たちは 皆 ただ 単 に 我 慢 が きかない ことが 共 通 認 識 であり 精 神 的 に 幼 いためにわがままで 周 囲 の 迷 惑 を 考 え ていないのだと 理 解 した そしてPさんは 問 題 になる 学 生 たちに 対 して 無 視 も 良 くない ような 気 がする と 無 視 する 以 外 の 対 応 策 を 模 索 した この 頃 のPさんは 上 級 クラスにな ってから 学 生 の 授 業 中 の 反 応 を 見 て あかんな というのをよく 感 じると 話 し 上 級 クラ スの 学 生 たちが 授 業 で 扱 うテーマに 興 味 を 持 てるようにしたいと 話 した Pさんは 10 月 か ら 授 業 に 入 る 日 を 1 日 減 らして 授 業 準 備 に 当 てるようになった それが 功 を 奏 したのか 8 回 目 の 会 ではPさんは 今 の 上 級 クラスの 授 業 の 問 題 については だいぶ OK になってきた と 言 ったが 今 度 は 授 業 後 の 学 生 対 応 がうまくいっていないと 話 した 10 回 目 の 会 でPさ んは 自 分 がとても 大 変 な 時 期 に 話 を 聞 いてくれる 人 がいるかどうかは 重 要 だと 言 って 以 前 上 級 クラスの 担 任 を 初 めて 任 された 時 に 大 変 なことが 多 くてやめたくなったが 同 じク ラスを 担 当 した 私 といろいろ 相 談 できたので 心 強 かったと 話 した そして 会 で 話 すことも 楽 しいと 言 った 11 回 目 の 会 では P さんは 最 近 学 生 に 対 して ストップ をかけている と 言 って 次 のように 続 けた P: 授 業 後 先 生 ーって 言 ってくるのは 聞 きますけど でも 授 業 中 とかでもなんかやっかい なことが 始 まりそうって 思 ったら < 中 略 > なんかちょっと 最 近 こう コントロール

のしすぎ?って 言 ったらいいかなー ストップストップみたいな 学 生 をコントロール しすぎてるから よけい 駄 目 っぽくなって 授 業 の 中 ではまとめたーいと 思 いつつも やり 過 ぎるとやっちゃったっていうのがあって 200812014T11P 文 字 化 Pさんは 授 業 後 の 学 生 からの 質 問 は 聞 くが 授 業 中 に 学 生 たちが 話 し 始 めると 自 分 はそ れに ストップ をかけるのが 早 いので 最 近 学 生 を コントロールしすぎ ているので はないかと 話 した Pさんはクラスをまとめたいと 思 ってそうしているのだが やり 過 ぎ ると 後 悔 した 12 回 目 の 会 ではPさんは 学 生 たちと 授 業 中 に 話 すのにも コミュニケーシ ョン 力 が 必 要 だと 話 し 学 生 側 が 教 師 を 嫌 いになってしまうと 話 も 聞 いてくれなくな る と 言 った Pさんは 授 業 でだるそうにしている 学 生 や 机 に 臥 せっている 学 生 には 体 調 が 悪 いなら 保 健 室 に 行 くように 声 をかけているが 完 全 に 寝 てしまった 学 生 を 見 るとそ の 責 任 の 半 分 は 自 分 にあるような 気 がすると 話 し その 学 生 を 起 こすだけのパワーが 自 分 の 授 業 にはない と 言 った このように Pさんは 授 業 でどう 教 えるかよりも 自 分 の 学 生 たちに 対 する 対 応 がうまくいかないことに 悩 んでいたのである 5.2. 会 は 癒 しの 場 Pさんは2009 年 の3 月 に 会 が 終 わってから 数 日 後 ある 学 生 との 出 来 事 を 話 してくれた Pさんは 会 を 始 める 前 に 担 任 した 上 級 の 卒 業 クラスである 学 生 を 叱 った 大 学 入 試 もほ ぼ 終 わった 時 期 その 学 生 は 最 初 専 門 学 校 への 進 学 を 希 望 していたが 急 に 帰 国 する と 言 い 出 した Pさんは 彼 にどうにか 真 剣 に 進 路 を 考 え 直 してもらいたいと 考 え 授 業 後 に 呼 び 出 して 話 そうとした しかし Pさんがいくら 考 えを 変 えるように 言 っても 彼 はP さんの 言 葉 を 聞 き 流 していた Pさんはその 時 なんで 急 にそんなことを 言 い 出 したの 勝 手 に 帰 国 するなんて 言 って!そんな 拗 ねてどうするの と 叱 る 言 葉 しか 言 えず 彼 には その 言 葉 が 響 いていないと 感 じた そこに 私 がちょうど 通 りがかった 当 時 Pさんの 担 当 するクラスに 週 2 日 入 って 授 業 をしていた 私 は この 学 生 を 見 知 っていた その 時 の 私 の 話 し 方 はPさんからすると 淡 々としたものに 見 えたが それを 聞 いている 彼 の 様 子 は 明 ら かにPさんの 時 とは 違 い ふんふん と 頷 きながら 素 直 に 聞 いていた そしてそのあとそ の 学 生 は 帰 国 せずに 専 門 学 校 に 行 くことに 決 めた この 時 Pさんは 自 分 の 時 と 私 の 時 と で 学 生 の 態 度 が 対 照 的 であったことに 衝 撃 を 受 け それをイソップ 寓 話 の 北 風 と 太 陽 8) に 例 えた Pさんの 言 葉 はまるで 北 風 のようにビュービューと 冷 たい 風 を 学 生 に 吹 き つけるだけで まったく 学 生 の 心 の 中 には 届 かないのに 比 べ 私 の 穏 やかに 諭 す 言 葉 が 学 生 のかたくなな 態 度 を 溶 かし 学 生 の 心 を 開 かせたと 言 ったのである

Pさんが 当 時 担 任 した 上 級 クラスの 学 生 たちは 欠 席 が 多 く 学 校 に 来 ても 全 く 授 業 に 参 加 しようとしなかった 初 めてそのクラスを 担 任 した P さんは 彼 らの 対 応 に 追 われ 毎 日 イライラ していた Pさんはその 時 のことをインタビューの 時 にも 振 り 返 って 話 した P:もー 嫌 だったー 自 分 で 何 をやっているのかよくわからなかったんですもう 全 くわ からないまま 毎 日 週 5 の 上 級 クラス 授 業 だけで でもそんときはまだ 上 級 の 経 験 もそ んなあるわけないっていうか ない で なんかあのぐったりした 学 生 にも 慣 れてな いし 反 応 がないとかにも 慣 れてないのに 謎 の 文 型 がいっぱい 出 てきて もう 調 べ るのだけで 精 いっぱいで かつ 進 路 やなにやって 言 われたら! パンクしてたんです よ で ちょっとリハビリが 必 要 やって 笑 < 中 略 > 上 級 のこの 時 の 他 の 先 生 た ちをみるともう 至 らなさがさらに 際 立 つっていうか < 中 略 > ま みなさんちゃん としているのに 私 ひとりとんちんかんでと 思 ってたんですね 実 際 にとんちんかん だったんですけど でも 本 当 に 疲 れてたんです まいってた まいったんです な んかもうああーってなっているうちに 半 年 終 わったみたいな ちょっと 回 復 させてほ しかったんです 傷 を 癒 してほしかったんですきっと 20091208P3 文 字 化 Pさんが 初 めて 卒 業 クラスを 担 任 した 時 は 自 分 でも 何 をやっているのかわからないほ ど 混 乱 した まだ 上 級 の 授 業 経 験 も 浅 いPさんは 週 5 日 の 上 級 授 業 を 担 当 し これまで 見 たことのないような 謎 の 文 型 を 調 べるのだけで 精 いっぱい だった 上 級 の 学 生 た ちは 授 業 中 ぐったり としていて 反 応 がなく Pさんはそのような 学 生 たちにも 慣 れて いなかった それまで 主 に 初 級 クラスを 担 当 し 学 生 たちと 活 発 にやり 取 りしていたPさ んにとってやる 気 の 見 えない 上 級 の 学 生 たちは 扱 いにくい 存 在 だった その 上 担 任 という ことで Pさんは 今 までに 経 験 したことのない 進 路 指 導 もしなければならなかった Pさ んは 慣 れない 授 業 と 学 生 対 応 に 追 われ 自 分 のできる 限 度 を 超 えて パンク してしまっ たのである 他 の 上 級 担 当 の 先 生 たちが 自 分 と 違 って ちゃんとしている のに 自 分 1 人 状 況 がいまひとつわからない 中 で 必 死 になって 半 年 間 を 過 ごしたPさんは 疲 れてしまった そして 北 風 と 太 陽 の 出 来 事 でPさんは 本 当 に まいって しまったのである 3 月 に 卒 業 式 を 迎 えやっと 学 生 達 を 送 り 出 したPさんは 疲 れ 切 った 自 分 を 回 復 させ 卒 業 クラスで 負 った 傷 を 癒 して くれる 何 かが 欲 しかった そのような 時 に 4Tの 会 へ の 参 加 の 誘 いがあった Pさんは 会 に 参 加 して 愚 痴 を 話 すのがとても 楽 しかった 会 の 雰 囲 気 も 何 を 言 っても 大 丈 夫 そう で あたたか く 感 じられたため Pさんは 自 分 が 愚 痴 を 言 っても 拒 絶 しない で 聞 いてくれそう だと 思 った Pさんは 会 で 愚 痴 を 言 う

ことは セラピー だと 言 ったが それは 愚 痴 を 言 うことで 辛 い 経 験 や 悩 みを 誰 かと 共 有 することができたからだった しかしそれを 言 う 相 手 が 誰 でも 良 かったわけではない 日 本 語 教 師 という 仕 事 を 知 らない 友 人 にはいちから 説 明 していかなければならず 愚 痴 が 言 え なかったが 同 じ 日 本 語 学 校 の 日 本 語 教 師 である 会 の 参 加 者 たちにはそのような 説 明 は 必 要 なかった Pさんは 自 分 の 話 す 内 容 を 手 っ 取 り 早 く 理 解 して もらうことができて 気 持 ちが 楽 になった そして 会 で 他 の 教 師 たちに 自 分 の 愚 痴 に 共 感 し 賛 同 してもらった ことで 自 分 の 考 えが 間 違 っていないことを 確 かめることができて 安 堵 した Pさんは 4 回 目 のインタビューの 時 に 会 を 振 り 返 って 次 のように 話 した P:ここ(=4T の 会 )でああーって 言 ってすっきりして 吹 っ 切 れたのかもしれない 母 親 に 電 話 してた 時 にあんまりぴーぴーいわなくなったって 言 われたのが 去 年 か けっこう この 時 期 (= 卒 業 クラスを 卒 業 させた 後 )に 結 構 言 ってたんです 私 < 中 略 > もう しんどいしんどいって だからあの 時 (= 会 に 参 加 する 前 )はよっぽどもうたまってた まって 爆 発 寸 前 っていうか もう 誰 彼 かまわず 言 ってたみたい 4T の 会 が 私 には 役 に 立 ってるんですけど 自 分 で 分 析 したんです ああこの 時 期 だったって 日 本 語 教 師 っ て 中 で 一 番 ぐんって 落 ちてリハビリぐらいの 時 私 は 結 構 言 ってすっきりする 方 だと 思 うからよけいに 効 いたのかもしれませんね また 聞 いてくれる 先 生 たちがよかったと 思 います なんかこう 頭 ごなしに 否 定 するでもなく ふんふんって わかるわかるって 感 じでみんなが 聞 いてくれたから もうまさにリハビリの 感 じでした セラピー リラッ クスとか 楽 になるとかそんな 感 じ 癒 し? < 中 略 > 気 分 を 楽 にしてくださいってい うような 気 分 をほぐす? 私 やっぱり 疲 れきってたみたい 笑 20100402P4 文 字 化 Pさんは 会 の 中 で 愚 痴 を 言 ったことで すっきりして 卒 業 クラスでのことが 吹 っ 切 れたのかもしれない と 話 した 会 に 参 加 する 前 は 母 親 に しんどい とよく 言 ったが 会 で 愚 痴 を 話 してからは 母 親 にもあまり 愚 痴 を 言 わなくなったと 言 われた Pさんは 会 に 参 加 する 前 に 卒 業 クラスを 担 当 していた 頃 は 愚 痴 が 溜 まっていて 爆 発 寸 前 だった そ のため 誰 彼 かまわず に 愚 痴 を 言 っていた しかし 会 は 愚 痴 を 話 せる 場 であったため そんな 状 態 のPさんにはとても 役 に 立 った Pさんは 自 分 でこれまでを 振 り 返 って 分 析 し てみると 上 級 の 卒 業 クラスを 担 当 していた 時 期 は 日 本 語 教 師 としてやってきた 中 で 一 番 ぐんって 落 ちてリハビリぐらいの 時 だったとわかった Pさんは 愚 痴 を 言 ってす っきりする 方 なので 愚 痴 を 言 うことが リハビリ に 効 いた のかもしれないと 話 した 会 の 他 の 3 人 の 教 師 はPさんの 話 を 頭 から 否 定 することなく ふんふん とか わ

かるわかる というように 共 感 や 同 意 をしてくれたので 愚 痴 を 話 すPさんにとって 会 は まさに 傷 ついた 心 を 癒 し 回 復 させてくれる リハビリ の 場 のように 思 えたのである 5.4.みんなが 私 じゃない Pさんと 2 回 目 のインタビューをした 時 Pさんは 学 生 たちを 見 ていると 自 分 の 留 学 経 験 を 思 い 出 すと 話 し 大 学 時 代 の 留 学 経 験 を 語 った Pさんは 大 学 であるヨーロッパの 言 語 を 専 攻 し かなりその 言 語 に のめり 込 んで 熱 心 に 勉 強 した Pさんは 大 学 4 年 生 の 時 に 大 学 を 休 学 して 半 年 留 学 を 経 験 した 留 学 先 の 学 校 ではクラスメイトたちは 皆 熱 心 で 授 業 も 日 本 語 学 校 のような 文 法 積 み 上 げ 式 ではなく 会 話 の 授 業 やグループワークのよう なものが 多 かった 話 すことが 主 体 のこれらの 授 業 では 教 師 はまるで コーディネー ター のようで 学 生 たちに 交 じって 授 業 に 参 加 していた Pさんはこの 時 の 経 験 から 語 学 を 学 ぶ 学 生 とは 積 極 的 に 授 業 に 参 加 するものであり 教 師 はそれをサポートする 役 目 なのだと 思 うようになった 3 回 目 のインタビューの 時 は Pさんは 自 分 の 留 学 経 験 が 日 本 語 教 師 である 自 分 の 学 生 への 態 度 にどのように 影 響 しているのかを 理 解 しようとした P: 外 国 語 を 勉 強 しに 来 ているってことは こうあるはずよって < 中 略 > そうできない と あれ? 私?って 私 の 教 え 方 がって すいません わたしがいたらんでーってなる んです ああーそっか そうですそうです みんなが 私 じゃない 皆 を 見 てると 昔 の 私 を 見 ているみたいで たぶん 語 学 学 校 はこういうものだっていうイメージがよっぽど これ 強 かったみたい 違 和 感 なんですよ 笑 もう 全 然 違 う あれ?って < 中 略 > 授 業 中 寝 るなんてあり 得 ないんですよね 自 分 でこっちにきといて なんかでもこれ 押 しつけですね 私 はこうやったからあんたら(= 学 生 たち)もできるはずーっていうち ょっとしたスパルタの 人 みたい 笑 ああ 私 全 然 やさしくない 20091208P3 文 字 化 Pさんは 自 分 が 語 学 を 熱 心 に 学 んだことで 学 生 たちにも 自 分 と 同 じように 頑 張 ること を 求 めていたことに 気 付 いた そして みんなが 私 じゃない と 言 って 自 分 の 中 の 学 生 像 が 実 際 の 学 生 たちと 全 く 合 っていなかったことを 理 解 した Pさんは 学 生 たちを 見 てい ると 昔 の 語 学 留 学 をしていた 頃 の 自 分 を 見 ているように 思 えた しかし Pさんの 語 学 学 校 に 対 するイメージとX 日 本 語 学 校 の 様 子 とが 全 く 違 っていたため 常 に 違 和 感 を 感 じていた Pさんの 持 つイメージの 中 では 留 学 してきた 学 生 が 授 業 中 寝 るなんてあ り 得 ない ことだったのである しかし 自 分 と 同 じように できるはず という 考 えは 学 生 たちに 対 する 押 しつけ にしかならず Pさんは 自 分 のことを ちょっとしたスパ

ルタの 人 みたい と 言 って 自 分 の 態 度 が 厳 しく 全 然 やさしくな かったことに 気 付 い た Pさんは 以 前 の 卒 業 クラスを 担 当 した 頃 を 振 り 返 り 教 師 である 自 分 が 一 生 懸 命 にや ればそれに 学 生 たちが 応 えてくれると 思 い 込 み 学 生 たちが 思 うようにならないのは 自 分 の 頑 張 りが 足 りないからだと 思 って さらに 頑 張 った 結 果 北 風 のように 厳 しい 態 度 に なったことを 理 解 した そして 北 風 と 太 陽 の 出 来 事 の 時 は 自 分 が 一 方 的 に 畳 み 込 むように 正 論 を 述 べてその 学 生 を やり 込 めて しまっていたことに 気 付 いたのである 5.5. 悩 みの 克 服 : 北 風 から 太 陽 へ 4 回 目 のインタビューの 時 Pさんは 以 前 は 北 風 のように 厳 しかったが 今 は ち ょっと 風 が 弱 まった と 話 した 以 前 の 自 分 は 授 業 中 に 帽 子 を 脱 がない 学 生 を 見 ると は ぎ 取 る 勢 いであり Pさんは 学 生 たちに 有 無 を 言 わさずに 頭 ごなしに 学 校 のルールを 押 し 付 けていた しかし 今 のPさんはその 頃 とは 違 った P: 無 理 をしなくなった? 無 理 をしないってか 帽 子 をはぎ 取 るじゃないですけど なんか もう 帽 子 とかかぶってても じゃ 私 とじゃんけん3 回 して 私 が 勝 ったら 脱 いでねぐら いの だから 無 理 やりはぎ 取 る そういうのはしなくなったんです むしろそのほうが いうことを 聞 くっていうことに 気 がついたんです だからうまいこと 太 陽 の 方 にシフト できたってことですよね 20100402P4 文 字 化 Pさんは 無 理 をしなくなった と 言 って 以 前 のように 無 理 やり 学 生 たちの 帽 子 を はぎ 取 る ようなことはせず じゃんけんを 3 回 してPさんが 勝 ったら 脱 ぐという 独 自 の ルールを 作 ることで 対 応 できるようになっていた Pさんは 強 引 に 言 うことを 聞 かせるよ りは そのように 譲 歩 を 示 す 方 が 学 生 が 話 を 聞 いてくれることに 気 がついたのである Pさんはそれを うまいこと 太 陽 の 方 にシフトできた ということだと 嬉 しそうに 話 した そして 自 分 は 学 校 の 規 則 に 縛 られていた と 言 って 今 は 適 度 ないい 加 減 さ を 身 につけたことで 自 分 にも 周 りにも 優 しくなった と 話 した Pさんは 2009 年 の 12 月 に 数 人 の 学 生 から 先 生 の 授 業 は 私 に 合 っていました と 言 われた 話 をし 一 人 でも 自 分 の 授 業 スタイルが 合 うと 言 ってくれる 人 がいればそれでいいと 思 えるようになったと 話 し 自 信 を 取 り 戻 したことを 話 した Pさんのこの 変 化 は 会 からの 影 響 を 大 きく 受 けていた P:3 人 の 話 を 聞 いてて なんか 私 一 人 だけ 違 うわっていうのに 気 がついたんでしょうね あんまり 自 分 では 意 識 はしてないけど もうちょっと 気 を 抜 いたほうがいいなーとか

もっとこう 楽 しくさせなあかんのかなーとか でも ここ(=4T の 会 ) 絶 対 大 きかった と 思 います あ こんなにがんじがらめになんなくても うまくいくときはうまくいく んだなって 20100402P4 文 字 化 Pさんは 会 で 他 の 3 人 の 教 師 の 話 を 聞 いて 自 分 の 授 業 での 実 践 や 学 生 への 対 応 を 見 直 し 学 生 を 厳 しく 縛 り 付 けなくても うまくいくときはうまくいく ことがわかった P さんは 会 後 学 生 に 注 意 する 時 もこれまでのように だめ! や 宿 題 出 してー! と 力 ずくで 従 わせようとするのではなく 信 じてるからね や 待 ってるからね のように 学 生 たちの 心 を 動 かす 言 葉 を 使 うようになった Pさんは 学 生 を 叱 りつけるよりも 学 生 の 心 を 動 かすやり 方 をとる 方 法 を 見 いだしたのである このように Pさんの 学 生 とうまくいかないという 悩 みは Pさんの 語 学 学 習 の 経 験 か ら 作 られた 学 生 像 から 生 まれていた Pさんには 大 学 時 代 に 熱 心 に 語 学 を 学 んだ 経 験 があ り その 時 の 自 分 と 今 の 学 生 たちとを 重 ねていたために 厳 しい 態 度 になっていた そして 北 風 と 太 陽 の 出 来 事 でPさんの 教 師 としての 自 信 は 揺 らいだ しかし 会 の 中 で 愚 痴 を 話 すことでPさんは 心 を 癒 され 徐 々に 自 分 の 問 題 を 解 決 していこうと 積 極 的 に 行 動 する ことができるようになった 会 の 後 のインタビューの 中 で 留 学 時 代 を 振 り 返 ったPさん は 北 風 のように 厳 しかった 自 分 の 姿 を 理 解 し 適 度 ないい 加 減 さ を 得 ることがで きた そして 学 生 たちに 歩 み 寄 ることを 考 えるようになったPさんは 学 生 からの 評 価 を 素 直 に 受 け 取 ることができ 自 分 に 自 信 を 取 り 戻 したのである 6.Uさんの 悩 み 6.1. 会 でのUさん Uさんは1 回 目 の 会 で 教 師 にはいろいろな 能 力 が 必 要 だと 話 し 自 分 の 能 力 についても 今 限 界 が 見 えている と 話 した そして 大 きな 暗 闇 から 抜 けられるように と 言 って 会 に 参 加 することで 自 分 の 悩 みから 解 放 されることを 期 待 した 4 回 目 の 会 では Uさん の 悩 みが 暗 闇 の 世 界 から 灰 色 ぐらいにはなったかもしれない と 言 って 少 し 上 向 きな 変 化 があったことを 話 した それは Uさんが 会 で 皆 と 話 し 合 うことで 山 を 乗 り 越 えよう という 気 持 ちになったからであり 悩 みを 解 決 しようと 積 極 的 な 気 持 ちになって いることを 表 していた しかし 各 自 が 会 で 話 したいテーマを 挙 げた 時 Uさんは 適 性 を 挙 げ 経 験 を 積 んでいけば 自 然 と 備 わるだろうと 思 っていたが 今 の 自 分 には 限 界 が 来 ているようだと 言 った そして 自 分 に 教 師 としての 適 性 があるのかを 知 りたいと 話 し

た 夏 休 みの 食 事 会 では Uさんは 適 性 について 次 のように 説 明 した U: 教 師 として 向 いてるか 向 いてないか んーま 別 に 教 師 に 必 要 な 資 質 でもいいんですけ ど 両 方? それは 努 力 して 手 に 入 るものなのか それをある 程 度 持 っていた 人 が 教 師 になるべきなのか 経 験 みたいに 身 につけられるのか 20080804U 食 事 会 文 字 化 Uさんは 適 性 とは 教 師 として 向 いているか いないかということであり 教 師 に 必 要 な 資 質 でも あると 話 した それは 努 力 することで 手 に 入 るものなのか それともす でにある 程 度 それを 持 っている 人 が 教 師 になるべきなのか また 経 験 のようにそれを 身 につけることができるのかを 知 りたがっていた Jさんが 初 級 クラスで 銀 行 強 盗 を 演 じた 話 をした 時 には UさんはJさんの 演 技 にとても 感 心 し 自 分 には J さんのようには 出 来 ないと 言 った 6 回 目 の 会 ではUさんは ピグマリオン 効 果 を 期 待 してクラスの 問 題 学 生 に 対 して 熱 心 に 話 しかけたが その 学 生 が 残 りの 授 業 を 受 けずに 早 退 してしまいショック を 受 けた 話 をした 次 の 7 回 目 の 会 ではUさんは 学 生 たちに 面 白 い 話 をすることを 要 求 さ れた 話 を 始 めた その 中 でUさんは J さんのような パフォーマンス 力 と 私 のような 面 白 おかしく 話 す 能 力 が 自 分 には 必 要 であり それは 学 生 たちを 惹 きつけたい と 思 っ ているからだと 話 した Uさんは 夏 休 みの 間 に 自 分 がいいと 思 っている 授 業 とはどんなも のか また 自 分 はどんな 教 師 像 を 持 っているのかを 知 るためにノートに 自 分 に 対 する 質 問 を 書 いた Uさんはそれらの 質 問 を 教 師 としての 自 分 探 し のためだと 説 明 した 10 回 目 の 会 が 終 わってUさんと 一 緒 に 帰 る 道 中 Uさんは 会 が 始 まって 最 初 の 半 年 ぐらいは 何 も 変 化 がないように 思 えたが 今 は 結 構 あると 思 う と 話 し Uさんの 暗 闇 が 会 の おかげで ずいぶん 明 るく なり 今 度 は 壁 が 見 えるようになった と 話 した Uさんは 会 では 他 の 3 人 の 教 師 が 前 向 きでポジティブ なので 自 分 を 前 に 進 めてくれると 言 って その 壁 を 乗 り 越 えたいと 話 した その 時 Uさんはこれまで 時 間 もなくひとりだったので 真 剣 に 自 分 の 問 題 について 考 えずに 来 たが 4 人 で 話 すことで 何 か 解 決 策 が 見 つかるかもし れないと 期 待 していた 11 回 目 の 会 ではUさんは 教 師 は 自 分 に 向 いていない 職 業 だと 前 から 思 っていたと 話 し 今 でも 人 前 に 立 つのが 苦 手 だが 日 本 語 が 面 白 いという 気 持 ち がそれに 勝 ったために 日 本 語 教 師 をしているのではないかと 話 した そのあとどのような 日 本 語 教 師 になりたいかを 話 し 合 った 時 に 私 が 学 生 に 思 い 出 してもらえるような 教 師 になりたい と 言 うと Uさんは 小 さな 声 で 自 分 は 思 い 出 には 残 らないな とつぶやい た 次 の 12 回 目 の 会 ではUさんの 憧 れる 日 本 語 教 師 は 人 間 として 尊 敬 できる 人 だと 言 って Uさんは 何 年 かしてから 学 生 たちに あの 先 生 良 かったな と 思 い 出 してもらえるのは 人

間 的 に 魅 力 のある 人 だと 思 うと 話 した U: 学 校 が 予 備 校 的 な 感 じやったら もうほんとに 教 え 方 だけで 別 に 関 わりってあんまり ないよね でも 日 本 語 学 校 はそこまで( 予 備 校 的 な 感 じ)じゃないしー ここが 学 校 って 思 ってない 人 もいるけど でもわたしが 学 生 ならある 程 度 ぐいぐい 引 っ 張 って 行 っ てくれる 先 生 がいいなと 思 うから それを 思 うと 自 分 には 適 性 があるのかなって ぐい ぐいって 引 っ 張 れる 先 生 が 魅 力 的 だなって 思 うから 200812084T12U 文 字 化 Uさんは 大 学 受 験 のための 予 備 校 とは 違 って 日 本 語 学 校 は 学 生 との 関 わりがある 程 度 あるので 学 生 は 普 通 の 学 校 の 教 師 のように ぐいぐい と 引 っ 張 ってくれる 教 師 がいい と 思 うと 話 した そしてUさんはそれを 考 えると ぐいぐい と 引 っ 張 れない 自 分 には 教 師 としての 適 性 があるのか 疑 問 だと 言 った 13 回 目 の 会 ではUさんが 同 僚 教 師 たちに 100 年 後 を 見 て 現 実 を 見 ていない と 言 われ 今 のような 非 正 規 雇 用 のままだと Uさんよりも( 経 済 ) 状 況 の 悪 い 人 はいなくなる と 忠 告 された 話 をした Uさんはその 出 来 事 により 再 び 自 分 の 悩 みが 暗 闇 に 戻 ったと 話 した 14 回 目 ではUさんはこの 出 来 事 を 振 り 返 って 自 分 はもう 少 し 今 の 自 分 の 経 済 状 況 が 良 くないことを 自 覚 した 方 がいい と 話 した そして 会 の 最 後 に 今 後 の 会 の 存 続 を 聞 いた 時 Uさんは 消 極 的 な 態 度 を 示 した 私 はUさんの 日 本 語 教 師 を 続 けるかどうかと いう 悩 みは 13 回 目 で 話 された 出 来 事 のせいでさらに 深 くなってしまったように 感 じた 6.2. 適 性 の 正 体 Uさんは 会 の 中 で パフォーマンス 力 と 面 白 く 話 す 能 力 のふたつが 自 分 に 足 りな い 教 師 に 必 要 な 能 力 だと 言 った そしてインタビューの 中 では 更 にもう 一 つ 自 分 に 足 りな い 能 力 として 学 生 を 引 っ 張 る 力 について 話 した 会 の 中 でもUさんは 学 生 たちを ぐ いぐい と 引 っ 張 る 教 師 について 話 したが このようにUさんの 話 す 理 想 の 教 師 の 姿 はU さんの 小 学 生 の 時 の 先 生 から 得 たイメージだった U:その 先 生 はすごい 学 生 をほめるのが 上 手 で 話 もめっちゃ 面 白 い 男 の 先 生 で 怒 る 時 はめっちゃ 厳 しい バシバシで 全 員 椅 子 の 上 に 正 座 させたりしてたし 厳 しさと 優 しさと 面 白 さが もう 完 璧 なバランス 思 い 出 の 先 生 やな だから 先 生 はそれぐらいの バランスがないとあかんって 思 っているから 今 の 適 性 がつらい 20090905U3 文 字 化

Uさんの 小 学 生 の 時 の 先 生 は 厳 しさと 優 しさと 面 白 さ のバランスが 完 璧 で U さんの 思 い 出 に 残 る 教 師 だった Uさんはこの 先 生 の 厳 しくて 面 白 くて 授 業 にメリハリの あるところに 憧 れた Uさんの 先 生 は 生 徒 一 人 一 人 をよく 見 て その 子 のいいところはと ことんほめ 例 えば 算 数 なら この 子 に 聞 け みたいにその 能 力 を 伸 ばす 方 向 に 持 って 行 くのが 非 常 に 上 手 だった その 先 生 の 授 業 はいつも 教 科 書 の 内 容 から 脱 線 し てなかな か 進 まなかったが 説 明 はとてもわかりやすく 面 白 かった Uさんは 授 業 中 に 他 の 話 がで きる 教 師 に 憧 れると 話 し 学 生 は 授 業 がわかりやすければ 脱 線 しても 文 句 を 言 わずに 先 生 として 認 める のではないかと 話 した そしてUさんは 適 性 を 次 のように 説 明 した U: 先 生 はただ 真 面 目 じゃなくて 教 えるんじゃなくて 教 えるのはもちろんその 先 生 の 授 業 はわかりやすかったけど 教 える 能 力 じゃない 適 性 っていうのは 教 えるのは 当 た り 前 やから 笑 学 生 を 惹 きつけつつ 厳 しくやさしく 20100605U4 文 字 化 Uさんは 適 性 を 教 師 の 教 える 能 力 だけではなく 学 生 を 授 業 へ 惹 きつけ 時 には 厳 しく 時 には 優 しく 接 することのできる 能 力 のことだと 話 した Uさんの 適 性 に 関 す るイメージはUさんの 小 学 生 の 時 の 先 生 から 作 られたものだった Uさんが 会 の 中 でJさ んの パフォーマンス 力 や 私 の 面 白 く 話 す 能 力 に 注 目 したのは このふたつの 能 力 が 小 学 校 の 時 の 先 生 のように 学 生 たちを 惹 きつけるものだと 考 えたからだった Uさんの 理 想 とする 教 師 像 はまさに 小 学 校 の 時 の 先 生 からの 影 響 を 強 く 受 けていたのである 6.3. 第 3 の 道 4 回 目 のインタビューでUさんは 自 分 の 進 む 道 を 阻 むものとして 理 想 の 壁 と 現 実 の 壁 について 話 した 理 想 の 壁 はUさんが 小 学 校 の 時 の 先 生 のように 厳 しさと 優 し さと 面 白 さ のバランスが 完 璧 な 理 想 の 教 師 になることを 阻 むものであり 現 実 の 壁 とは 安 定 した 収 入 や 生 活 を 得 ることを 阻 むものだった Uさんはこのふたつの 壁 のせいで 先 に 進 めずに 悩 んでいた 特 に 現 実 の 壁 は Uさんの 未 来 へ 進 む 道 を 暗 闇 にして いた Uさんは 自 分 が 置 かれている 現 状 を 次 のように 話 した U: 今 土 曜 日 まで 働 いて 月 これだけかと 思 うとこの 生 活 私 はずっとできない 健 康 診 断 にもいきたいし 保 険 料 も 払 いたいし そう 思 うと 八 方 ふさがりになってくるわ けよ やる 気 のあった 時 には 他 の 人 からどういわれようとも 給 料 もらわずでもや ろうという 勢 いがあったけど 笑 ただなんか 年 齢 を 重 ねて 周 りを 見 渡 せば 結

婚 してなくても 貯 金 はあるらしいってことがわかってくると 私 やばい?って や ばいっていうかこの 仕 事 ってこんなんなんやーってなんかショック これだけ 情 熱 とお 金 かけてきてこういうものやってんやっていうショック なんか 辛 いっていう か 悲 しいというか < 中 略 > キャリアとして 積 み 上 げたいのに 積 み 上 げてるつ もりやのに 積 みあがってないやん 20100605U4 文 字 化 Uさんはこの 時 土 曜 日 を 含 んで 週 6 日 働 いていたが 月 に これだけか と 思 うような 収 入 の 低 さではこの 先 の 生 活 ができないと 話 した Uさんは 健 康 診 断 にも 行 きたいし 健 康 保 険 料 も 支 払 って 人 並 みの 生 活 をしたかった しかし 今 の 非 常 勤 の 日 本 語 教 師 という 雇 用 形 態 での 仕 事 では 八 方 ふさがり になった Uさんがやる 気 のあった 最 初 の 頃 は 他 の 人 にどういわれようとも 気 にせず 例 え 給 料 をもらわなくてもこの 仕 事 をやろうというよ うな 勢 い があった しかし 年 齢 を 重 ねて 周 りを 見 渡 す 余 裕 ができると Uさんは 未 婚 の 上 に 貯 金 もない 自 分 は やばい と 思 った そして これだけ 情 熱 とお 金 をかけてき た 自 分 の 仕 事 がそんな 人 並 みの 生 活 もできないようなものであったことに ショック を 受 け 辛 いような 悲 しいような 気 持 ちになった Uさんは 自 分 が 選 んだ 日 本 語 教 師 の 仕 事 が キャリア の 積 みあがらない 仕 事 であることに 期 待 を 裏 切 られた 思 いをしていたので ある Uさんの 発 言 にある キャリア という 言 葉 からは Uさんが 日 本 語 教 師 の 仕 事 を キャリアの 積 みあがる 仕 事 だと 捉 えていたことがわかる しかし 現 実 は Uさんが 思 うよ りもはるかに 日 本 語 教 師 の 仕 事 は 社 会 的 な 評 価 が 低 かった Uさんはこれまで 自 分 が 作 成 してきた 教 案 の 数 を 見 ると ここまで 頑 張 ってやってきた 日 本 語 教 師 の 仕 事 を 簡 単 に やめることができなかった 何 年 働 こうが 待 遇 が 良 くなる 見 込 みがなく 年 齢 というタイ ムリミットを 感 じたUさんは どうすることもできずに 悩 んでいたのである 4 回 目 のイ ンタビューの 最 後 に Uさんは 次 のように 話 した U: 今 壁 をすごい 感 じて さーどうしようっていう 壁 が 大 きすぎるから ふたつのどっち かを 崩 すしか それか 第 3 の 道 を 見 つけるか どうにかしないとちと 苦 しすぎるので 現 実 問 題 が 変 わらないので 理 想 の 壁 目 指 すゴールがある 適 性 の 方 を 崩 すか それと も 抜 け 道 というか 違 う 道 を 見 つけるか 適 性 が 崩 せたらそりゃ 楽 でええけど 短 期 では 身 につかないと 思 うから それこそ 覚 悟 を 決 めないといけないし ま ここまではわか った すごい 進 歩 やと 思 うけど 壁 がわかったもんね ぼんやりしたのが はっきり 壁 見 えた 敵 が 見 えれば あとは 攻 略 法 笑 20100605U4 文 字 化

Uさんは 自 分 の 前 に 立 ちはだかる 理 想 の 壁 と 現 実 の 壁 が 大 きすぎるので 前 へ 進 むためにはどちらかを 崩 すか 第 3 の 道 を 見 つけるしかないと 話 した 第 3 の 道 とは 日 本 語 教 師 とは 違 う 正 規 雇 用 の 別 の 仕 事 のことである 労 働 条 件 などの 現 実 問 題 は すぐには 変 わらないことなので Uさんは 現 実 の 壁 ではなく 自 分 の 目 指 すゴール がある 適 性 の 方 である 理 想 の 壁 を 崩 すか 抜 け 道 として 日 本 語 教 師 とは 違 う 道 である 第 3 の 道 を 見 つけるかを 考 えた Uさんは 理 想 の 壁 を 崩 せたら 自 分 のこれ までの 悩 みが 消 えて 楽 になれるが Uさんの 目 指 す 適 性 は 短 期 で 身 につくよう な 能 力 ではないので 相 当 な 覚 悟 が 必 要 だと 話 した この 4 回 目 のインタビューでは Uさんは 自 分 を 悩 ませるものを 理 解 し いままでぼんやり 見 えていた 目 の 前 の 壁 がはっき りとみえるようになったため すごい 進 歩 だと 話 した Uさんは 自 分 を 悩 ませる 敵 であるふたつの 壁 が 見 えればあとは 攻 略 法 を 考 えるだけだと 笑 ったのである 4 回 目 のインタビューの 後 Uさんは 知 人 から 医 療 関 係 の 正 社 員 の 仕 事 を 紹 介 され 第 3 の 道 を 選 ぼうとした Uさんは 30 代 半 ばの 自 分 が 日 本 語 以 外 にできるものを 実 際 に 考 えると 思 いつかず いちから 教 えてくれるという 話 にありがたいと 思 って 面 接 を 受 ける ことにした ところが 夜 面 接 のための 履 歴 書 を 書 いていると 急 に 涙 が 出 て 止 まらなくな った Uさんは 履 歴 書 を 書 く 段 階 からもうすでに 号 泣 してしまった 自 分 に 驚 き 泣 く ほど 日 本 語 教 師 の 仕 事 が 好 きでやめられないのならば もうやるしかない と 思 った 日 本 語 教 師 の 仕 事 を 続 けると 決 めたUさんは 結 局 第 3 の 道 を 選 ぶことはなかった 6.4. 主 役 タイプ から 演 出 家 タイプ へ 日 本 語 教 師 の 道 に 戻 ってきたUさんは 再 び 理 想 の 壁 と 現 実 の 壁 というふたつ の 壁 の 問 題 に 直 面 することになった 5 回 目 のインタビューの 中 でUさんと 私 は まずは 理 想 の 壁 の 攻 略 法 がないかを 話 し 合 った その 時 私 は 会 に 参 加 した 4 人 の 中 でも 教 師 のタイプがそれぞれ 違 うのではないかと 話 した T:なんか 前 会 で 話 したこともあったけど 教 師 のタイプって J さんや 私 はたぶん 主 役 タ イプだろうと 前 に 立 って 私 を 見 てーって 感 じで スポットライト 浴 びて 学 生 を 引 っ 張 るみたいな でも U さんとか P さんて 人 前 が 苦 手 って 裏 方 でいいんですって だ から 裏 方 っていうよりも たぶん 演 出 家 タイプなんじゃないかと 20101218U5 文 字 化 私 は Jさんや 私 は 学 生 たちの 前 に 立 って 私 を 見 て と スポットライト を 浴 びて 学 生 たちの 関 心 を 引 っ 張 るような 主 役 タイプ の 教 師 であり 人 前 が 苦 手 で 裏 方 で

いい と 言 うUさんやPさんは 演 出 家 タイプ の 教 師 ではないかと 話 した それを 聞 い たUさんは 私 の 提 示 した 演 出 家 タイプ の 教 師 という 考 え 方 にとても 興 味 を 持 った U:なるほど! え そういう 教 師 もあり? だからやっぱり 私 の 中 の 教 師 とは 主 役 タイプ の 人 じゃないとできないという 思 い 込 みがあるわけよ 小 学 校 の 時 の 先 生 のイメージ あそこに 自 分 がどうしてもいけなくて すごいこうなんていうの 辛 いっちゅうかー 適 性 がないって それで 悩 んでる 自 信 がない < 中 略 > でも 演 出 家 タイプがって 言 わ れたら ほんまや!それもあり? それやったらすごい 嬉 しい 20101218U5 文 字 化 Uさんは そういう 教 師 もあり? と 言 って 自 分 の 中 には 教 師 とは 主 役 タイプ の 人 でないとできないという 思 い 込 みがあることを 話 した Uさんの 主 役 タイプ の 教 師 とは 小 学 校 時 代 の 先 生 から 強 く 影 響 を 受 けた 理 想 の 教 師 像 であり Uさんのこだわる 適 性 である 学 生 たちを 惹 きつける 能 力 をもった 教 師 のことだった Uさんはどうしても 小 学 校 の 先 生 のような 主 役 タイプ の 教 師 に 自 分 がなれないことに 悩 んできた しかし 私 の 提 示 した 演 出 家 タイプ の 教 師 であれば 自 分 にも 可 能 性 があるのではないかと 考 え Uさんは すごい 嬉 しい と 言 って 喜 んだ Uさんから 演 出 家 タイプ の 教 師 とはどの ような 教 師 なのかを 聞 かれた 私 は それを 次 のように 説 明 した T: 主 役 は 前 立 って 学 生 をずっと 惹 きつける 感 じやん 引 っ 張 ってくてか 自 分 から 発 信 って でも 裏 方 っていうのは とにかく 演 出 させるっていうのが 演 出 家 やから 学 生 たちを 主 役 にもっていける だから 自 分 が 前 に 立 たへんねんけど 学 生 たちがなんかやってて ここ 違 うなっていうのとかをちょっと 引 っ 張 っていったりとか 細 やかな 対 応 ができる んかな U さんはもともとそうやってるんと 違 うかなって 20101218U5 文 字 化 私 は 主 役 タイプ の 教 師 は 前 に 立 って 学 生 を 惹 きつけ 引 っ 張 っていくので 教 師 側 が 中 心 になるが 演 出 家 タイプ は 教 師 が 裏 方 にまわって 学 生 たちが 主 役 になるように 演 出 するのが 役 目 なので 教 師 自 身 は 表 に 出 ず 学 生 たちのサポートに 回 ることができると 説 明 した そしてUさんはもともとそのような 演 出 家 タイプ の 教 師 のように 学 生 たちに 対 応 してきたのではないかと 言 った Uさんは 私 の 話 を 聞 いて 演 出 家 タイプ の 教 師 な ら 自 分 にも できそう だと 言 って 自 分 ではそのタイプの 教 師 を 意 識 したことがなかっ たと 話 した そしてUさんは 次 のように 言 った

U: 私 も 今 ちょっと 光 が 見 えたほんまに 今 まではその どうやったら 主 役 タイプの 先 生 に なれるかって 果 たしてそこに 向 かって 自 分 がなりたい 先 生 像 になれるのかって 思 って たけど もし 演 出 家 タイプやったら < 中 略 > それでうまくいったら それが 私 のス タイルとして ちょっとそれで 掘 り 下 げてみようかな しばらく 20101218U5 文 字 化 Uさんは 希 望 の 光 が 見 えた と 言 って 第 3 の 道 が 駄 目 になってから 本 当 に 自 分 が 主 役 タイプ の 教 師 になれるのか 不 安 だったと 話 した しかし 演 出 家 タイプ の 教 師 という 方 法 があるのであればもしかすると 私 のスタイル として 手 に 入 れることができ るかもしれないので 今 後 それを 掘 り 下 げて みようかと 話 した Uさんはこれまで 自 分 が 理 想 として 持 っていた 主 役 タイプ の 教 師 像 ではない 演 出 家 タイプ という 教 師 像 を 新 たに 得 たことで 未 来 へ 向 かって 日 本 語 教 師 の 道 を 進 むことができるようになった このように Uさんの 適 性 への 悩 みはUさんの 持 つ 理 想 の 教 師 像 から 生 まれた U さんは 厳 しさも 優 しさも 面 白 さも 兼 ね 備 え 生 徒 たちを 授 業 に 惹 きつける 力 を 持 っていた 小 学 校 の 時 の 先 生 に 憧 れ その 先 生 のようになることを 自 分 に 求 めた しかしUさんの 求 める 姿 は 主 役 タイプ の 教 師 であり Uさんとはタイプが 違 っていた そのためUさん は 自 分 には 教 師 としての 適 性 がないと 思 い 込 み 悩 んだのである Uさんは 私 とのイン タビューで 新 たに 演 出 家 タイプ の 教 師 の 姿 を 理 想 とすることで 自 分 の 可 能 性 に 期 待 を 持 って 前 に 進 むことができるようになった 7. 考 察 とまとめ 本 研 究 からわかったことは 3 人 の 教 師 たちの 悩 みがそれぞれに 理 想 として 求 めたもの を 現 実 的 に 得 ることに 困 難 を 感 じたために 生 じたものであったことである Jさんの 上 級 授 業 で 使 える ネタ がないという 悩 みは Jさんが 上 級 クラスでも 楽 しい 授 業 がで きる パフォーマー としての 教 師 の 姿 を 求 めたからであり Pさんの 学 生 とうまくいか ないという 悩 みは Pさんが 自 分 の 留 学 経 験 から 日 本 語 学 校 で 出 会 う 学 生 たちと 全 く 合 わ ない 学 生 像 を 理 想 として 求 めていたからであった 教 師 の 適 性 への 悩 みは Uさんが 自 分 とはタイプの 違 う 教 師 である 小 学 校 時 代 の 先 生 を 理 想 像 としていたために 生 じたもの であり 理 想 の 壁 としてUさんの 前 に 立 ちはだかった 3 人 の 教 師 たちがそれぞれ 自 分 の 理 想 とするものを 得 ようとすればするほどその 悩 みは 大 きくなった このような 悩 みを 理 解 するには 教 室 内 の 出 来 事 を 振 り 返 るだけではなく 彼 女 らの 理 想 として 求 めたもの がどのようなものであり それがどこから 来 たのかを 過 去 の 出 来 事 を 振 り 返 ることで 見 つ

け 出 すことが 必 要 であった Clandinin and Connelly(2000)は 教 師 についての 研 究 を 重 ねる 中 で 関 心 を 寄 せてい た 教 師 の 個 人 的 実 践 知 (personal practical knowledge) が 教 師 の 知 識 の 断 片 的 なもの であって 個 人 としての 教 師 の 経 験 的 知 の 全 体 像 を 失 っているのではないかと 思 い 始 めた (p.3) そして 教 師 の 知 識 をより 大 きく 複 雑 な 文 脈 から 理 解 するために 専 門 的 知 風 景 (professional knowledge landscape) というメタファーを 提 唱 した(Clandinin & Connelly, 1995) 李 (2004)はそれについて 風 景 というメタファーを 使 うことによって 教 師 に ついて 理 解 する 時 限 られた 数 の 分 析 項 目 だけではなく 教 師 の 専 門 的 な 知 に 含 まれてい る 多 様 な 人 場 所 と 物 およびその 複 雑 な 関 係 そのものを 統 合 的 に 理 解 することが 可 能 に なる (p. 86)と 述 べている つまり 教 室 内 の 教 師 の 実 践 だけを 見 ても 教 師 を 理 解 する ことはできず 教 師 個 人 の 生 活 や 人 生 そのものを 視 野 に 入 れなければ 教 師 の 持 つ 広 く 複 雑 な 知 識 を 理 解 できないということであるだろう また 本 研 究 の 中 で 表 出 したJさんの 演 じる 教 師 像 やUさんの 学 生 を 惹 きつける 主 役 タイプ の 教 師 像 というのは 一 般 に 日 本 語 教 育 ではよいとされているものである Clandinin and Connelly(1995)は 前 述 の 専 門 的 知 風 景 への 理 解 から 教 師 が 3 種 類 の 物 語 を 語 ると 述 べている そのような 教 師 の 物 語 を 青 木 (2006, pp. 149-150)では 聖 なる 物 語 ごまかしの 物 語 秘 密 の 物 語 と 翻 訳 し 聖 なる 物 語 は 多 くの 人 々の 意 識 に 深 く 根 ざし 実 践 を 導 くと 信 じられている 理 論 に 基 づく 物 語 であると 説 明 してい る J さんはオーストラリアで 見 た 日 本 語 教 師 の 姿 から ジェスチャーで 一 から 教 える というイメージを 持 つようになったが その 後 大 学 時 代 に 出 会 った 日 本 語 教 授 法 を 教 える 非 常 勤 講 師 から 教 師 は 演 じるもの という 教 えを 受 け 実 際 にどのように 演 じるのかを 授 業 の 中 で 体 験 したり 見 学 したりした 日 本 語 学 校 で 行 われた 実 習 では 教 師 が 説 明 するよ りも 学 生 たちの 言 葉 を 引 き 出 すことを 教 えられたことで そのイメージはより 強 化 された と 思 われる そして J さんは パフォーマー として 楽 しい 授 業 をすることを 自 分 の 授 業 スタイルと 捉 えるようになった また Uさんは 小 学 校 時 代 の 先 生 に 影 響 を 受 けた だけではなく 教 師 は 主 役 タイプの 人 じゃないとできないという 思 い 込 み があった 松 田 (2005)は いまだ 教 育 現 場 で 要 求 されるのは 従 来 の 日 本 語 教 育 観 に 基 づく よ き 教 え 屋 像 であると 述 べ 教 室 活 動 は 教 師 主 導 で 行 われ 教 師 の 役 割 はいかに 効 率 よ く いかに 教 師 がクラスをコントロールし 効 果 的 に 教 えるか というものであることを 指 摘 している Jさんの パフォーマー である 教 師 の 姿 やUさんの 主 役 タイプの 教 師 像 は 既 存 の 教 育 観 や 周 囲 の 価 値 観 が 生 んだ 聖 なる 物 語 に 基 づくものだと 思 われる 会 で 話 す 中 で Jさんは パフォーマー の 教 師 ではなく 学 生 たちと 関 わっていく 教

師 を 目 指 すようになり ネタ に 関 する 悩 みを 克 服 した そしてUさんは 私 とのインタ ビューで 新 たに 演 出 家 タイプの 教 師 像 を 得 たことで 主 役 タイプの 教 師 になれな いという 悩 みを 克 服 した 青 木 ( 前 掲, p. 150)は 教 師 の 実 践 知 を 認 知 し 教 師 がそれを 語 れる 場 を 作 るとは 秘 密 の 物 語 を 教 室 の 外 でも 語 れるような 条 件 を 作 るということだと 述 べている 秘 密 の 物 語 とは 教 室 という 空 間 で 教 師 が 体 現 する 物 語 ( 青 木, 前 掲, p. 150)のことであるが 3 人 が 会 で 話 し 合 うことで 悩 みを 克 服 することができたのは 会 がまさに 秘 密 の 物 語 を 語 れ る 条 件 を 満 たしていたからではないだろうか 会 では 互 いを 非 難 したりするようなことは なく 自 らの 悩 みを 打 ち 明 け 話 し 合 うことができた その 中 で 自 分 の 悩 みや 問 題 への 気 付 きが 促 されていったと 考 えられるのである 会 の 後 は 私 とのインタビューを 通 して 3 人 は 自 分 の 悩 みの 根 源 がどこにあるのかを 過 去 の 出 来 事 を 振 り 返 っていくことで 理 解 してい った Pさんの 北 風 と 太 陽 の 出 来 事 は 秘 密 の 物 語 の 1 つであり Pさんはそれを 私 に 話 したことで 大 学 時 代 の 留 学 経 験 が 自 分 の 教 育 実 践 に 大 きな 影 響 を 与 えるものとな っていたことを 理 解 した そしてPさんは 学 生 たちとうまくいかないという 悩 みを 克 服 し 自 分 の 教 育 実 践 に 自 信 を 持 つことができるようになったのである 一 方 Uさんの 現 実 の 壁 の 問 題 は 教 師 同 士 が 話 し 合 うことで 解 決 できるようなも のではなかった この 問 題 は 日 本 の 社 会 構 造 からの 影 響 を 強 く 受 けていると 思 われる 大 塚 (2004, p. 78)は 働 く 女 性 が 増 えたとはいっても 未 婚 既 婚 にかかわらず 生 涯 独 身 で 生 きていけるほど 収 入 のある 女 性 は 意 外 と 少 ない と 述 べ その 理 由 として 女 性 の 社 会 権 が 一 人 前 の 人 間 として 保 障 されていない ことを 挙 げた そして 大 塚 ( 前 掲 ) は 日 本 の 社 会 制 度 のなかで 女 性 は 家 事 やケア( 育 児 介 護 )といったアンペイドワー クを 担 い 法 律 婚 のもとで 男 性 に 扶 養 される 存 在 として 扱 われる と 主 張 した また 金 谷 ( 2011)はこれまでの 社 会 の 中 で 女 性 は 二 次 的 な 価 値 しか 持 たない 性 と 位 置 づけられ 女 性 の 低 賃 金 を 正 当 化 してきたことで 女 性 は 補 助 的 職 業 に 就 くことが 当 たり 前 家 事 は 女 性 が 担 い 男 性 と 責 任 を 分 かち 合 わないことが 当 たり 前 といった 職 業 的 家 庭 的 な 常 識 を 形 成 することになってしまった と 述 べている(p.22) このように 性 別 役 割 意 識 の 強 い 社 会 では 女 性 が キャリア を 積 んでいくことは 容 易 なことではないのである また 日 本 語 教 育 の 現 状 をみると 平 成 23 年 度 の 日 本 国 内 の 日 本 語 教 師 の 割 合 は ボラ ンティア 等 が 56.6% 非 常 勤 教 師 が 29.6% 常 勤 教 師 が 13.8%であり( 文 化 庁, 2011) 日 振 協 (= 財 団 法 人 日 本 語 教 育 振 興 協 会 ) 認 定 機 関 に 絞 ってその 割 合 をみても 7 割 が 非 常 勤 教 師 である( 文 化 庁, 2012) 2008 年 8 月 24 日 の 朝 日 新 聞 の 記 事 では 日 本 語 学 校 の 大 半 は 授 業 料 が 唯 一 の 収 入 源 だ が 支 出 を 切 り 詰 めて 何 とかやっている 学 校 が 多 く

教 師 の 処 遇 をよくしたくても 手 が 回 らない といった 財 団 法 人 日 本 語 教 育 振 興 協 会 の 佐 藤 次 郎 理 事 長 の 説 明 を 載 せている 事 実 8 割 以 上 の 教 師 は 民 間 の 日 本 語 学 校 やボランティ ア 教 室 などの 施 設 団 体 で 教 えており 文 部 科 学 省 から 私 学 助 成 金 等 が 得 られる 大 学 や 専 門 学 校 などで 教 える 者 は 2 割 にも 満 たない これらの 数 字 は 日 本 語 学 校 で 働 く 日 本 語 教 師 の 多 くが 非 正 規 雇 用 の 非 常 勤 であり その 待 遇 が 決 して 良 いものではないことを 示 してい るのである このような 現 状 において Uさんが 安 定 した 収 入 や 生 活 を 手 に 入 れるのは 難 しいと 言 えるだろう 以 上 のように 3 人 の 教 師 たちの 悩 みを 見 ていくと その 悩 みは 教 室 での 実 践 の 中 だけ で 生 じているのではなく 彼 女 らのこれまでの 経 験 や 彼 女 らを 取 り 巻 く 周 囲 の 人 々や 場 性 別 役 割 分 業 意 識 の 強 い 日 本 の 社 会 構 造 からの 影 響 を 大 きく 受 けていることがわかった つまり 本 研 究 からわかった 教 師 の 悩 みの 根 源 が 示 すのは 教 師 の 悩 みを 解 決 するために 必 要 なものは 一 般 的 な 教 師 教 育 での 理 論 やアクション リサーチでの 内 省 ではなく 教 師 個 人 のこれまでの 経 験 や 教 師 が 生 きている 社 会 そのものを 理 解 する 必 要 があるというこ とである このような 考 えは Clandinin and Connelly(1995)の 専 門 的 知 風 景 に 通 じる 今 後 教 師 の 支 援 を 考 えていく 際 に 教 師 をより 広 い 視 野 から 複 雑 なままに 理 解 しようと することが 必 要 であると 言 えるだろう 注 1) Clark(2001)は 教 師 同 士 の 良 い 会 話 には 暗 黙 の 理 論 やビリーフを 言 語 化 すること 他 人 の 目 を 通 して 世 界 を 見 ること 個 人 としてまた 実 践 家 としての 自 信 を 育 てること 希 望 と 人 とのつながりを 取 り 戻 すこと 理 想 やコミットメントを 再 確 認 すること 具 体 的 な 教 授 技 術 や 問 題 の 解 決 法 を 身 につ けること 学 習 に 関 する 会 話 を 学 生 とするにはどうしたらよいのかを 学 ぶこと という7つの 機 能 が あると 述 べた( 青 木, 2006, p. 152) 2) 自 己 研 修 型 教 師 とは 他 の 人 が 作 成 したシラバスや 教 授 法 をうのみにしそのまま 適 用 していくような 受 け 身 的 な 存 在 ではなく 自 分 自 身 で 自 分 の 学 習 者 に 合 った 教 材 や 教 室 活 動 を 創 造 していく 能 動 的 な 存 在 であり そのために これまで 無 意 識 に 作 り 上 げてきた 自 分 の 言 語 教 育 観 やそれに 基 づいた 教 授 法 やテクニックの 問 題 点 を 学 習 者 との 関 わりの 中 で 見 直 していくという 作 業 を 自 らに 課 す 存 在 で ある( 岡 崎 岡 崎, 1997, p. 15) 3) 内 省 的 実 践 家 とは 自 分 (や 他 の 教 師 )のクラスで 繰 り 広 げられる 教 授 学 習 過 程 を 十 分 理 解 するた めに 自 分 (や 他 の 教 師 )の 教 授 過 程 を 観 察 し 振 り 返 る 中 で 教 授 学 習 過 程 の 重 要 な 諸 点 を 発 見 し ていく 教 師 である( 岡 崎 岡 崎, 1997, p. 25) 4) 青 木 (2006)は 大 まかに 言 えば 教 師 オートノミーとは 教 師 が 自 分 の 仕 事 について 自 分 で 意 思 決 定

をするという 意 味 だと 述 べている 5) 日 常 生 活 だけではなく 人 生 全 般 を 含 む 6) 最 初 の 8 ケタの 数 字 は 西 暦 年 月 日 を 表 し その 後 に 続 く 英 数 字 はデータの 種 類 を 表 す 200809174T7J 文 字 化 は 2008 年 9 月 17 日 の 4T の 会 7 回 目 のJさんの 文 字 化 データであることを 示 す また 20090804J2 文 字 化 は 2009 年 8 月 4 日 に 行 ったJさんへの 2 回 目 のインタビューでの 文 字 化 デー タであることを 示 す 7) ピグマリオン 効 果 (Pygmalion effect)とは 教 育 心 理 学 における 心 理 行 動 の 1 つで 教 師 の 期 待 に よって 学 習 者 の 成 績 が 向 上 することである 1964 年 に 米 国 の 教 育 心 理 学 者 ロバート ローゼンタール (Rosenthal, R)によって 提 唱 された 8) ある 時 北 風 と 太 陽 が 力 比 べをしようとした そこでどちらが 先 に 旅 人 の 上 着 を 脱 がせることができ るかという 勝 負 をした 最 初 に 北 風 が 力 いっぱい 吹 いて 上 着 を 吹 き 飛 ばそうとしたが 旅 人 は 上 着 を 脱 ぐどころか かえってしっかりと 押 さえつけてしまい 北 風 は 結 局 旅 人 の 上 着 を 脱 がせることがで きなかった しかし 太 陽 がさんさんと 旅 人 を 照 り 付 け 始 めると 旅 人 はすぐに 上 着 を 脱 いだ ( 筆 者 要 約 ) 北 風 と 太 陽 -イソップ 童 話 集 (1993) 講 談 社 参 考 文 献 青 木 直 子 (2006) 教 師 オートノミ 春 原 憲 一 郎 横 溝 紳 一 郎 ( 編 者 ) 日 本 語 教 師 の 成 長 と 自 己 研 修 新 たな 教 師 研 修 ストラテジーの 可 能 性 をめざして (pp. 138-157). 凡 人 社. 大 塚 陽 子 (2004) 福 祉 とジェンダー 池 内 靖 子 二 宮 周 平 姫 岡 とし 子 ( 編 者 ) 改 訂 版 21 世 紀 のジェン ダー 論 晃 光 書 房. 岡 崎 敏 雄 岡 崎 眸 (1997) 日 本 語 教 育 の 実 習 : 理 論 と 実 践 アルク. 貝 川 直 子 (2009) 学 校 組 織 特 性 とソーシャルサポートが 教 師 バーンアウトに 与 える 影 響 パーソナリテ ィ 研 究 17(3), 270-279. 金 谷 千 慧 子 (2011) 働 くこと とジェンダー 明 石 書 店. 田 上 不 二 夫 山 本 淳 子 田 中 輝 美 (2004) 教 師 のメンタルヘルスに 関 する 研 究 とその 課 題 教 育 心 理 学 年 報 43, 135-144. 定 収 入 非 常 勤 生 活 できぬ (2008) 朝 日 新 聞 2008 年 8 月 24 日 朝 刊 ジョン デューイ (2004) 経 験 と 教 育 市 村 尚 久 ( 訳 ) 講 談 社. (Dewey, J. (1938). Experience and education. New York: Collier Books.) 都 丸 けい 子 庄 司 一 子 (2005) 生 徒 との 人 間 関 係 における 中 学 校 教 師 の 悩 みと 変 容 に 関 する 研 究 教 育 心 理 学 研 究 53(4), 467-478. 文 化 庁 (2011) 平 成 23 年 度 国 内 の 日 本 語 教 育 の 概 要 (アクセス 日 2012 年 7 月 28 日 )

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