介 護 主 担 者 が 当 事 者 性 に 目 覚 める 前 にあった 現 実 の 世 界 1 介 護 は,どこから 来 たか 楢 山 節 考 ( 深 沢,1956)は,わが 国 の 老 人 扶 養 文 化 の 奥 底 にある 家 族 制 度 のむごさを 多 くの 人 に 喚 起 した それは, 気

Similar documents
 

有 料 老 ホーム ( ) ( 主 として 要 介 護 状 態 にある を 入 居 させるも のに 限 る ) 第 29 条 ( 届 出 等 ) 第 二 十 九 条 有 料 老 ホーム( 老 を 入 居 させ 入 浴 排 せつ 若 しくは 食 事 の 介 護 食 事 の 提 供 又 はその 他 の

Microsoft PowerPoint - 報告書(概要).ppt

(2) 特 別 障 害 給 付 金 国 民 年 金 に 任 意 加 入 していなかったことにより 障 害 基 礎 年 金 等 を 受 給 していない 障 がい 者 の 方 に 対 し 福 祉 的 措 置 として 給 付 金 の 支 給 を 行 う 制 度 です 支 給 対 象 者 平 成 3 年 3

Microsoft Word - 目次.doc

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

●幼児教育振興法案

平成25年度 独立行政法人日本学生支援機構の役職員の報酬・給与等について

(2)大学・学部・研究科等の理念・目的が、大学構成員(教職員および学生)に周知され、社会に公表されているか

<6D313588EF8FE991E58A778D9191E5834B C8EAE DC58F4992F18F6F816A F990B32E786C73>

母 子 医 療 対 策 費 462 (313,289) 国 4,479 1 不 妊 治 療 助 成 事 業 8,600 不 妊 治 療 費 用 の 一 部 を 助 成 し 経 済 的 負 担 の 軽 減 を 図 る 230, ,608 不 妊 治 療 費 の 増 加 による 増 額 分

●電力自由化推進法案

頸 がん 予 防 措 置 の 実 施 の 推 進 のために 講 ずる 具 体 的 な 施 策 等 について 定 めることにより 子 宮 頸 がんの 確 実 な 予 防 を 図 ることを 目 的 とする ( 定 義 ) 第 二 条 この 法 律 において 子 宮 頸 がん 予 防 措 置 とは 子 宮

スライド 1

Microsoft Word - 19年度(行個)答申第94号.doc

Microsoft Word - (課×県・指定)【頭紙】「精神障害者保健福祉手帳の診断書の記入に当たって留意すべき事項について」等の一部改正について.rtf

Microsoft Word - 福祉医療費給付要綱

<4D F736F F D E598BC68A8897CD82CC8DC490B68B7982D18E598BC68A8893AE82CC8A C98AD682B782E993C195CA915B C98AEE82C382AD936F985E96C68B9690C582CC93C197E1915B927582CC898492B75F8E96914F955D89BF8F915F2E646F6

m07 北見工業大学 様式①

2 職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 ( 平 成 22 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 平 均 給 与

01.活性化計画(上大久保)

平 成 34 年 4 月 1 日 から 平 成 37 年 3 月 31 日 まで 64 歳 第 2 章 労 働 契 約 ( 再 雇 用 希 望 の 申 出 ) 第 3 条 再 雇 用 職 員 として 継 続 して 雇 用 されることを 希 望 する 者 は 定 年 退 職 日 の3か 月 前 まで

公 営 企 業 職 員 の 状 況 1 水 道 事 業 1 職 員 給 与 費 の 状 況 ア 決 算 区 分 総 費 用 純 利 益 職 員 給 与 費 総 費 用 に 占 める ( 参 考 ) 職 員 給 与 費 比 率 22 年 度 の 総 費 用 に 占 A B B/A める 職 員 給 与

< F2D A C5817A C495B6817A>

Microsoft PowerPoint - 【資料5】社会福祉施設職員等退職手当共済制度の見直し(案)について

17 外 国 人 看 護 師 候 補 者 就 労 研 修 支 援 18 看 護 職 員 の 就 労 環 境 改 善 運 動 推 進 特 別 20 歯 科 医 療 安 全 管 理 体 制 推 進 特 別 21 在 宅 歯 科 医 療 連 携 室 整 備 22 地 域 災 害 拠 点 病

公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

私立大学等研究設備整備費等補助金(私立大学等

国 家 公 務 員 の 年 金 払 い 退 職 給 付 の 創 設 について 検 討 を 進 めるものとする 平 成 19 年 法 案 をベースに 一 元 化 の 具 体 的 内 容 について 検 討 する 関 係 省 庁 間 で 調 整 の 上 平 成 24 年 通 常 国 会 への 法 案 提

Microsoft Word - 公表用答申422号.doc

為 が 行 われるおそれがある 場 合 に 都 道 府 県 公 安 委 員 会 がその 指 定 暴 力 団 等 を 特 定 抗 争 指 定 暴 力 団 等 として 指 定 し その 所 属 する 指 定 暴 力 団 員 が 警 戒 区 域 内 において 暴 力 団 の 事 務 所 を 新 たに 設

「一時預かり事業の実態について」の一部改正について

< EE597768E968BC688EA97972D372E786477>

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 23 年 4 月 1 日 現 在 ) ( 単 位 : ) 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 6 級 7 級 8 級 1 号 給 の 給 料 月 額 135,6 161,7 222,9 261,9 289,2 32,6 366,2 41

Microsoft Word - H24様式(那珂市版).doc

育休代替任期付職員制度について

Taro-01 議案概要.jtd

新ひだか町住宅新築リフォーム等緊急支援補助金交付要綱

3 職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 (23 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 平 均 給 与 月 額

<4D F736F F D2090BC8BBB959491BA8F5A91EE8A C52E646F63>

目 次 1. 社 会 保 障 分 野 でできること 1 1 高 額 医 療 高 額 介 護 合 算 制 度 の 改 善 2 保 険 証 機 能 の 一 元 化 3 自 己 診 療 情 報 の 活 用 4 給 付 可 能 サービスの 行 政 側 からの 通 知 2. 年 金 分 野 でできること 5

<4D F736F F F696E74202D208CE38AFA8D8297EE8ED288E397C390A CC8A AE98EBA8DEC90AC816A2E707074>

Ⅶ 東 海 地 震 に 関 して 注 意 情 報 発 表 時 及 び 警 戒 宣 言 発 令 時 の 対 応 大 規 模 地 震 対 策 特 別 措 置 法 第 6 条 の 規 定 に 基 づき 本 県 の 東 海 地 震 に 係 る 地 震 防 災 対 策 強 化 地 域 において 東 海 地 震

■認知症高齢者の状況

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 23 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 号 給 の 給 料 月 額 最 高 号 給 の 給 料 月 額 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 ( 単 位 : ) 6 級 7 級 8 級 135, , ,900 2

18 国立高等専門学校機構

2 職 員 の 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び の 状 況 (26 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 静 岡 県 国 類 似 団 体 2 技 能 労 務 職 区 41.8 歳 42.6 歳 43.5

安 芸 太 田 町 学 校 適 正 配 置 基 本 方 針 の 一 部 修 正 について 1 議 会 学 校 適 正 配 置 調 査 特 別 委 員 会 調 査 報 告 書 について 安 芸 太 田 町 教 育 委 員 会 が 平 成 25 年 10 月 30 日 に 決 定 した 安 芸 太 田

技 能 労 務 職 平 均 年 齢 歳,7 平 均 給 料 月 額 歳 7,,8, 歳,9,57, 7,7 7,9 9,5 - (8,85) (5,) 類 似 団 体 5. 歳 9,8 9, 85, ( 注 ) 平 均 給 料 月 額 とは 平 成 5 年 月 日 現 在 における

(2) 地 域 の 実 情 に 応 じた 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 保 育 の 必 要 な 子 どものいる 家 庭 だけでなく 地 域 の 実 情 に 応 じた 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 のために 利 用 者 支 援 事 業 や 地 域 子 育 て 支 援 事 業 な

(2) 広 島 国 際 学 院 大 学 ( 以 下 大 学 という ) (3) 広 島 国 際 学 院 大 学 自 動 車 短 期 大 学 部 ( 以 下 短 大 という ) (4) 広 島 国 際 学 院 高 等 学 校 ( 以 下 高 校 という ) ( 学 納 金 の 種 類 ) 第 3 条

<4D F736F F D C482C682EA817A89BA90BF8E7793B1834B A4F8D91906C8DDE8A A>

1

(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 概 要 国 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている 総 合 的

技 能 労 務 職 公 務 員 民 間 参 考 区 分 平 均 年 齢 職 員 数 平 均 給 与 月 額 平 均 給 与 月 額 平 均 給 料 月 額 (A) ( 国 ベース) 平 均 年 齢 平 均 給 与 月 額 対 応 する 民 間 の 類 似 職 種 東 庄 町 51.3 歳 18 77

<4D F736F F D D3188C091538AC7979D8B4B92F F292B98CF092CA81698A94816A2E646F63>

Taro-iryouhoken

独立行政法人国立病院機構

スライド 1

( 補 助 金 等 交 付 決 定 通 知 に 加 える 条 件 ) 第 7 条 市 長 は 交 付 規 則 第 11 条 に 規 定 するところにより 補 助 金 の 交 付 決 定 に 際 し 次 に 掲 げる 条 件 を 付 するものとする (1) 事 業 完 了 後 に 消 費 税 及 び

スライド 1

< F2D F97CC8EFB8F BE8DD78F9192CA926D>

認 し 通 常 の 立 入 検 査 に 際 しても 許 可 内 容 が 遵 守 されていることを 確 認 するこ と 2 学 校 薬 剤 師 業 務 の 兼 任 学 校 薬 剤 師 の 業 務 を 兼 任 する 場 合 の 取 扱 いは 次 のとおりとする (1) 許 可 要 件 1 薬 局 等 の

根 本 確 根 本 確 民 主 率 運 民 主 率 運 確 施 保 障 確 施 保 障 自 治 本 旨 現 資 自 治 本 旨 現 資 挙 管 挙 管 代 表 監 査 教 育 代 表 監 査 教 育 警 視 総 監 道 府 県 警 察 本 部 市 町 村 警 視 総 監 道 府 県 警 察 本 部

答申第585号

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 24 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 ( 単 位 : ) 6 級 7 級 8 級 1 号 給 の 給 料 月 額 135,6 185,8 222,9 261,9 289,2 32,6 366,2 41

05_現状把握指標一覧(H28.1.1時点)【 確定版】

(5 ) 当 該 指 定 居 宅 介 護 事 業 所 の 新 規 に 採 用 し た 全 て の 居 宅 介 護 従 業 者 に 対 し 熟 練 し た 居 宅 介 護 従 業 者 の 同 行 に よ る 研 修 を 実 施 し て い る こ と (6 ) 当 該 指 定 居 宅 介 護 事 業

<6D33335F976C8EAE CF6955C A2E786C73>

別 紙 第 号 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 議 案 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 を 次 のように 定 める 平 成 26 年 2 月 日 提 出 高 知 県 知 事 尾

改 正 後 医 療 費 控 除 の 対 象 となる 在 宅 療 養 の 介 護 費 用 の 証 明 について 改 正 前 医 療 費 控 除 の 対 象 となる 在 宅 療 養 の 介 護 費 用 の 証 明 について 平 成 2 年 7 月 27 日 老 福 第 145 号 平 成 2 年 7 月

国立研究開発法人土木研究所の役職員の報酬・給与等について

住み慣れたこの町で最期まで 安心して暮らすために

学校安全の推進に関する計画の取組事例

(4) 武 力 攻 撃 原 子 力 災 害 合 同 対 策 協 議 会 との 連 携 1 市 は 国 の 現 地 対 策 本 部 長 が 運 営 する 武 力 攻 撃 原 子 力 災 害 合 同 対 策 協 議 会 に 職 員 を 派 遣 するなど 同 協 議 会 と 必 要 な 連 携 を 図 る


別 紙 軽 費 老 人 ホームの 収 入 認 定 について 平 成 22 年 3 月 9 日 千 葉 県 健 康 福 祉 部 高 齢 者 福 祉 課 本 紙 は 平 成 18 年 1 月 24 日 老 発 第 号 厚 生 労 働 省 老 健 局 長 通 知 老 人 保 護 措 置 費

<904588F582CC8B8B975E814592E888F58AC7979D82CC8CF6955C E348DEC90AC2E786C73>

Microsoft Word - y doc

(5) 給 与 改 定 の 状 況 該 当 なし ( 事 委 員 会 を 設 置 していないため) 1 月 例 給 事 委 員 会 の 勧 告 ( 参 考 ) 民 間 給 与 公 務 員 給 与 較 差 勧 告 給 与 改 定 率 国 の 改 定 率 A B AB ( 改 定 率 ) 年 度 ( )

類 ( 番 号 を 記 載 ) 施 設 名 事 所 名 所 在 事 開 始 年 月 日 事 規 模 ( 定 員 ) 公 益 事 必 要 な 者 に 対 し 相 談 情 報 提 供 助 言 行 政 や 福 祉 保 健 医 療 サービス 事 者 等 との 連 絡 調 整 を 行 う 等 の 事 必 要

質 問 票 ( 様 式 3) 質 問 番 号 62-1 質 問 内 容 鑑 定 評 価 依 頼 先 は 千 葉 県 などは 入 札 制 度 にしているが 神 奈 川 県 は 入 札 なのか?または 随 契 なのか?その 理 由 は? 地 価 調 査 業 務 は 単 にそれぞれの 地 点 の 鑑 定

Microsoft Word - 諮問第82号答申(決裁後)

<4D F736F F D208E52979C8CA78E598BC68F5790CF91A390698F9590AC8BE08CF D6A2E646F6378>

3 職 員 の 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び の 状 況 (24 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 ( ベース) 43.7 歳 32, , ,321

02【発出】280328福島県警察職員男女共同参画推進行動計画(公表版)

社会保険加入促進計画に盛込むべき内容

資 格 給 付 関 係 ( 問 1) 外 国 人 Aさん(76 歳 )は 在 留 期 間 が3ヶ 月 であることから 長 寿 医 療 の 被 保 険 者 ではない が 在 留 資 格 の 変 更 又 は 在 留 期 間 の 伸 長 により 長 寿 医 療 の 適 用 対 象 となる 場 合 には 国

介護保険制度改正にかかる事業所説明会

1 リーダーシップと 意 思 決 定 1-1 事 業 所 が 目 指 していることの 実 現 に 向 けて 一 丸 となっている 評 価 項 目 事 業 所 が 目 指 していること( 理 念 基 本 方 針 )を 明 確 化 周 知 している 1. 事 業 所 が 目 指 していること

<4D F736F F D208ED089EF95DB8CAF89C193FC8FF38BB CC8EC091D492B28DB88C8B89CA82C982C282A282C42E646F63>

16 日本学生支援機構

第 2 問 問 4 問 5 1ロ 2チ 3ヲ 4ホ ⅰ)Aさんは 今 年 の 誕 生 日 で 40 歳 となるので 公 的 介 護 保 険 の(1 第 2 号 ) 被 保 険 者 資 格 を 取 得 し 介 護 保 険 料 を 負 担 することになる 40 歳 以 上 65 歳 未 満 の 医 療

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 (24 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 6 級 1 号 給 の 給 料 月 額 135,6 185,8 222,9 261,9 289,2 32,6 最 高 号 給 の 給 料 月 額 243,7 37,8 35

<817993FA967B8E E A E815B817A B F976C8EAE82502D322E786C73>

Microsoft Word - nagekomi栃木県特定医療費(指定難病)支給認定申請手続きのご案内 - コピー

Microsoft Word - 保育園管理規程(決定案)

別紙3

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 (24 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 号 級 の 給 料 月 額 最 高 号 級 の 給 料 月 額 1 級 ( 単 位 : ) 2 級 3 級 4 級 5 級 6 級 7 級 8 級 9 級 1 級 135,6 185,8 222,9 261,

Microsoft PowerPoint - 経営事項審査.ppt

Transcription:

特 集 認 知 症 の 当 事 者 研 究 のために 老 年 看 護 学 の 視 座 を 拓 く 北 海 道 医 療 大 学 名 誉 教 授, 新 潟 県 立 看 護 大 学 名 誉 教 授 KEY WORDS: 認 知 症 当 事 者, 介 護 家 族 当 事 者, 施 策 の 方 向 性, 実 践 的 当 事 者 論 はじめに 個 人 は, 誰 とも 違 う 唯 一 の 存 在 である また 個 人 は, 多 様 性 の 生 き 方 を 担 う 唯 一 の 存 在 である 患 者 は 個 人 の 生 き 方 における 1 つの 出 来 事 であ る しかし, 認 知 症 者 は, 意 思 表 示 のできない 個 人 として,また 契 約 主 体 にもなりえない 老 人 患 者 として 扱 われ,1980 年 代 に 入 ってもなお, 世 間 やヘルスケア/サービスの 担 い 手 たちは, 認 知 症 の 人 が 他 者 として 存 在 する 人 という 認 識 において 無 関 心 であった 当 事 者 主 権 という 認 知 症 の 人 の 利 得 にかかわ る 問 題 が, 認 知 症 介 護 を 中 心 に 語 られるように なったのは,1990 年 代 の 入 り 口 に 入 るころである しかし, 認 知 症 当 事 者 の 事 例 性 に 対 応 してきちん とその 人 に 向 き 合 っていく 歴 史 は,これから 始 まるかかわり 手 に 求 められる 役 割 期 待 であると 言 ってよい 筆 者 は,30 年 以 上 もこの 人 たちや 家 族 の 傍 らに い て, 認 知 症 の 人 の ケ ア の あ り 方 に こ だ わ っ てかかわってきた 本 稿 では,このこだわりが 何 だったのかを 認 知 症 当 事 者 性 の 視 点 から, 政 治 政 策 的 に,また,これまでの 活 動 を 自 分 自 身 に 問 うてみるというやり 方 で, 再 考 してみようと 思 う ところで, 本 来, 当 事 者 性 は, 文 字 通 り 認 知 症 当 事 者 の 主 権 が 主 要 なテーマであるべきであ る しかし, 当 事 者 不 在 が 認 知 症 介 護 家 族 を 苦 しめ,その 不 当 性 に 声 をあげた 介 護 家 族 当 事 者 と それを 取 り 囲 む 女 性 たちの 運 動 が,ようやく 認 知 症 の 人 の 当 事 者 性 の 諸 課 題 にたどり 着 いたことを 考 えると, 本 論 の 論 点 は 次 の 3 つの 方 向 からアプ ローチしないわけにはいかない 第 1 は, 認 知 症 介 護 家 族,なかでも 介 護 主 担 者 の 当 事 者 性 の 流 れ 第 2 は, 認 知 症 や 介 護 家 族 の 側 に, 誰 もがなり えると 考 える 市 民 の 当 事 者 性 とそれを 支 える 倫 理 性 に 根 ざした 介 護 施 策 や 適 正 医 療 に 関 する 新 しい 社 会 制 度 設 計 の 流 れ 第 3 は, 援 助 する 側 から 差 し 出 された 判 定 の 鏡 に 映 る 認 知 症 から 自 分 を 取 り 戻 す 当 事 者 の 台 頭,である この 運 動 が, 当 事 者 性 の 核 心 と なって, 第 1, 第 2 の 問 題 を 牽 引 していく 姿 になっ ていけばよいが,いまのところ,それは 萌 芽 期 前 夜 といった 状 況 にあると 思 う なお, 表 題 のテーマ 性 を 踏 まえて, 文 化 的 歴 史 的 文 脈 を 重 視 し, 老 人, 高 齢 者,ぼけ, 痴 呆, 痴 呆 性, 認 知 症 といった, 当 時, 用 いられていた 用 語 をあえて 変 えないことを 断 っておきたい 242 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月 0022 8370/13/ 360/ 論 文 /JCOPY

介 護 主 担 者 が 当 事 者 性 に 目 覚 める 前 にあった 現 実 の 世 界 1 介 護 は,どこから 来 たか 楢 山 節 考 ( 深 沢,1956)は,わが 国 の 老 人 扶 養 文 化 の 奥 底 にある 家 族 制 度 のむごさを 多 くの 人 に 喚 起 した それは, 気 づこうと 思 えば, 身 近 なと ころで, 寝 たきりやぼけの 老 人 と 介 護 家 族 の 悲 惨 な 事 態 にも 通 底 する 今 日 的 な 介 護 問 題 への 喚 起 でもあった ところで,わが 国 の 老 親 扶 養 制 度 は 律 令 時 代 を 経 て 社 会 制 度 として 根 づいてきたが,すでに 明 治 期 にはこれを 基 盤 に 介 護 制 度 がつくられてい る すなわち, 陸 軍 軍 人 傷 痍 疾 病 恩 給 等 差 例 の 第 1 条 第 1 号 に, 不 具 モシクハ 廃 疾 トナリ 常 ニ 介 護 ヲ 要 スルモノハ とすでに 記 されている( 明 治 25 年 12 月 14 日, 陸 軍 省 陸 達 第 96 号 ) 介 護 は, 傷 痍 軍 人 の 生 活 扶 助 と 家 族 介 護 手 当 てを 目 的 とする 恩 給 法,これは 今 日 的 に 言 えば 障 害 程 度 別 の 医 療, 福 祉 サービスの 原 型 となっている この 法 制 度 が,その 後 の 救 護 法, 傷 兵 保 護 に 関 連 する 訪 問 看 護 や 規 則, 家 族 の 介 護 手 当 てを 身 体 障 害 の 程 度 に 応 じて 支 給 する 基 準 を 示 す 法 律 の 基 礎 と なっている 戦 後 は, 児 童 扶 養 手 当 法 施 行 令 等 に も 引 き 継 がれてきた( 中 島,2001) 2 老 人 介 護 制 度 ができたころの 介 護 の 現 実 1962 年 12 月, 中 央 社 会 福 祉 審 議 会 は 老 人 福 祉 施 策 の 推 進 に 関 する 意 見 を 発 表 した ここに 精 神 上 又 は 身 体 上 著 しい 欠 陥 があるために 常 時 介 護 を 要 する 老 人 については,これに 適 した 処 遇 を 効 果 的 に 行 うため,その 他 の 老 人 と 区 別 して 収 容 す るための 対 策 を 講 ずべき と, 初 めて, 公 的 制 度 として 介 護 のできない 家 族 に 替 わる 施 設 介 護 の 必 要 性 が 提 言 された これを 受 けて, 翌 年 に 制 定 された 老 人 福 祉 法 ( 法 律 第 133 号 )では, 特 別 養 護 老 人 ホーム( 以 下, 特 養 ホーム)の 設 置 とホームヘ ルパーの 制 度 化 が 始 められた しかし, 介 護 は 扶 養 の 延 長 として, 家 族 の 介 護 を 公 的 に 補 完 する 措 置 制 度 であった したがって, 介 護 従 事 者 ( 寮 母, 家 庭 奉 仕 員 と 呼 ばれていた)の 資 格 教 育 は,1987 年 の 社 会 福 祉 士 法 および 介 護 福 祉 士 法 の 制 定 ま で, 必 要 とされないできた 3 放 置 された 認 知 症 の 人 の 現 実 1972 年 の 老 人 福 祉 法 改 正 は, 特 養 ホームは 収 容 の 場 ではなく, 生 活 の 場 であるという 理 念 が 法 に 示 された 年 である この 法 により, 在 宅 ケア /サービスのメニューとして, 介 護 家 族 の 休 息 や 特 別 の 家 族 行 事 に 利 用 できるデイサービス(1979) とショートステイサービス(1979)が 加 わった だ が, 措 置 制 度 による 入 居 要 件 や 処 遇 (ケア)の 規 制 等 の 改 正 はなされなかったので, 生 活 の 場 の 理 念 と 現 実 の 姿 の 乖 離 はむしろ 広 がった 一 方 で, ぼけ はまだしも 痴 呆 は 医 療 の 対 象 であるとい う 理 由 で, 特 養 ホームへの 入 居 は 受 け 入 れてもら えない 事 態 が 起 きてきた こうした 中 で, 老 人 病 院 病 棟 ならびに 精 神 病 院 は, 専 門 家 による 治 療 という 権 威 性 と 介 護 家 族 の 介 護 困 難 を 支 援 するという 道 義 性,そして 採 算 性 などにより, 脳 血 管 性 疾 患 により 精 神 上 身 体 上 の 障 害 のある 者 を 多 く 受 け 入 れるようになって きた だが, 寝 たきり や ぼけ または 痴 呆 に 最 も 必 要 な 処 遇 は, 最 適 な 生 活 の 場 における 生 活 ケアである ゆえに, 入 院 患 者 の 多 くは 適 正 な 診 断 治 療 をされるでもなく, 立 つ, 座 る, 歩 く, 排 泄 するといった 最 低 限 のプライドの 守 り 手 がい るのでもない 場 所 におかれ,その 悲 惨 さが 少 しず つ 明 るみにされるようになった このことによっ ても, 老 人 寝 たきり 痴 呆 は,より 一 層, 世 間 のスティグマに 晒 されるようになった( 中 島, 2 0 1 1 ) この 状 況 に,さらなる 逆 風 が 加 わった 1979 年, 経 済 審 議 会 は, 北 欧 や 英 国 型 ではない 日 本 型 福 祉 のあり 方 構 想 を 首 相 に 答 申 した これである 構 想 は, 新 経 済 社 会 7 ケ 年 計 画 のデザインとして, わが 国 の 政 治 政 策 は 動 かされはじめたのであ 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月 243

特 集 認 知 症 の 当 事 者 研 究 のために 老 年 看 護 学 の 視 座 を 拓 く る それが 自 助 努 力 同 居 家 族 の 相 互 扶 助 民 間 活 力 ボランティアの 活 用 を 柱 とする, 日 本 型 福 祉 社 会 の 構 想 である これが, 以 降 の 厚 生 行 政 を 制 約 することになった( 大 熊,2010) 1980 年 代 の 前 半 は, 認 知 症 ケアという 言 葉 自 体 がなかったので,この 病 いに 対 する 組 織 的 臨 床 研 究 の 蓄 積 も 乏 しく, 例 えば,BPSD は, 問 題 行 動 と 呼 ばれ, 対 処 の 中 心 は 投 薬, 身 体 拘 束 などであ り, 日 常 的 な 処 遇 (ケア)は 場 当 たり 的 であった( 加 藤,2008) 認 知 症 当 事 者 家 族 自 助 組 織 の 誕 生 1 個 別 電 話 相 談 の 窓 口 から 支 援 ネットワークの 芽 生 え 認 知 症 は, 老 い 衰 えて 惚 けてゆく 老 親 扶 養 と 介 護 の 問 題 として,また, 経 済 的, 政 治 的, 制 度 的 問 題 として,さらには 忌 むべき 障 害 に 与 えられる スティグマの 問 題 として, 寝 たきり 老 人 とひと まとめに 認 識 されるような 方 向 づけが 社 会 文 化 と してなされてきた(Kleinman / 江 口, 五 木 田, 上 野 訳,1999) また,これらから 生 じた 問 題 が, 老 人 介 護 家 族 を 崩 壊 の 淵 に 立 たせる 実 例 が, 表 面 化 してきた これに 対 応 するかのように,1977 年 には, 大 阪 府 を 中 心 に 大 同 生 命 事 業 団 の 老 人 相 談 事 業 が 始 まり,1980 年 には, 朝 日 新 聞 文 化 事 業 団 の アサ ヒ 老 人 相 談 室 がスタートした この 事 業 が 老 人 介 護 家 族 の 唯 一 の 専 門 相 談 窓 口 としての 役 割 を 担 ってきた( 大 國,2012)が, 以 降 幾 つかの 都 府 県 が 福 祉 機 関 などとタイアップして 相 談 窓 口 を 開 設 している その 中 から,ボランタリーグループの ネットワーク 活 動 もみられるようになってきた 無 論,この 中 には, 認 知 症 ( 当 時 はぼけ,または 痴 呆 症 )の 介 護 家 族 も 含 まれていたはずであるが,こ れらの 情 報 は 寝 たきり 者 介 護 家 族 の 圧 倒 的 介 護 負 担 の 現 実 にかき 消 されてしまいがちであった こ の 背 景 には,ぼけや 痴 呆 という 言 葉 が, 社 会 の ア プリオリなイメージをむしろ 強 めることへの 危 惧 もあったのかもしれない 2 家 族 の 会 の 結 成 こんな 思 惑 を 吹 き 飛 ばす 出 来 事 が,1980 年 の 京 都 で 開 催 された 認 知 症 介 護 家 族 の 集 いから 始 まっ た 全 国 から 参 加 した 約 90 人 によって, 一 気 に 全 国 組 織 呆 け 老 人 を 抱 える 家 族 の 会 (2005 年 に は 認 知 症 の 人 と 家 族 の 会 に 名 称 変 更 以 下, 家 族 の 会 )が 結 成 されたのである 同 年 には,4 つ の 都 府 県 に 支 部 がつくられ, 翌 年 には 9 つの 支 部 が 誕 生 した 今 日 では 45 の 都 道 府 県 に, 支 部 が ある 一 見, 自 然 発 生 的 に 思 えるこの 自 助 組 織 を, 認 知 症 の 差 別 的 な 扱 われ 方 から 捉 え 直 すと, 地 域 社 会 に 暮 らす 介 護 家 族 のやむにやまれぬ 認 知 症 に 対 する 主 権 獲 得 の 運 動 と 捉 えることができよう 人 生 80 年 時 代 と 言 われた 1980 年 代 に 入 る と, 人 口 学 的 に 見 ても 介 護 問 題 はジェンダー ギャップの 問 題 として, 一 層 顕 わになってきた 1982 年 に 誕 生 した, 高 齢 化 社 会 をよくする 女 性 の 会 は,この 解 消 に 立 ち 上 がった 女 性 たちの 当 事 者 運 動 であるが, 認 知 症 の 医 療 ケアと 介 護 家 族 の 問 題 は,この 会 の 運 動 の 大 きなテーマとなって いる 1983 年 は 老 人 保 健 法 施 行 年 である この 年 に 老 人 の 専 門 医 療 を 考 える 会 が 発 足 した 1984 年 には, 日 本 初 の 認 知 症 の 専 門 病 院 ( 岡 山 県 )がつく られた 介 護 市 場 も 動 いた 1985 年 には, 生 命 保 険 会 社 が 痴 呆 介 護 保 険 の 商 品 の 発 売 を 始 めてい る 法 的 基 盤 整 備 と 家 族 の 会 の 運 動 の 中 にある 当 事 者 性 への 指 向 1 施 策 をつくるプロセスから 見 えること 1 は, 認 知 症 の 施 策 とそれに 関 連 する 年 表 ( 中 島,2011)を,1980 年 以 降 に 限 って 整 理 したもの であるが, 要 介 護 者 と 書 かれている 文 書 の 文 脈 244 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月

から, 当 事 者 の 扱 われ 方 を 探 ってみたい 最 初 の 施 策 は,1987 年 の 痴 呆 性 老 人 対 策 推 進 本 部 の 設 置 から 始 まった この 組 織 は, 部 局 ばか りでなく 関 係 する 省 を 包 括 して 設 置 された この 組 織 が,これ 以 降 の 認 知 症 施 策 の 方 向 性 を 発 信 す る 場 となった また, 学 術 研 究 整 備 のための 組 織 として 機 能 することにもなった この 組 織 の 最 初 の 仕 事 は, 専 門 委 員 会 をつくり, そこで 過 去 に 国 内 外 で 行 なわれた 65 歳 以 上 在 宅 者 全 数 を 対 象 とする 疫 学 調 査 研 究 から, 認 知 症 対 策 を 要 する 集 団 を 推 計 することであった こうし て,わが 国 の 65 歳 以 上 の 有 病 率 は 6% 程 度 と 推 計 され,75 ~ 79 歳 を 境 に 男 女 の 有 病 率 は 逆 転 する こと,また 罹 患 率 は 加 齢 とともに 著 しく 上 昇 する ことや,75 ~ 79 歳 を 境 に 脳 血 管 性 痴 呆 に 比 べて アルツハイマー 病 が 急 増 する 可 能 性 といった, 政 策 に 反 映 させるべき 粗 データを 作 成 することで あった 受 診 診 断 治 療 状 況 を 踏 まえ, 考 え 方 とその 名 称 についても, 1 のような,とりあえ ずの 概 念 が, 施 策 用 語 として 提 示 された すなわ ち 痴 呆 とは, 成 人 に 起 こる 知 能 障 害 である, 痴 呆 を 起 こす 原 因 の 多 くは 病 気 によるものである, というこの 病 いのクライテリアを 政 治 的 制 度 的 観 点 から 図 1 のように 示 した この 報 告 が,これ 以 降 の 医 学 医 療 研 究 と 施 設 ケアの 変 革 の 活 性 化 を 促 したと 言 ってもよい( 中 島,2003) 第 2 は,1989 年 に 発 足 した 介 護 対 策 検 討 会 にお ける 報 告 書 の 存 在 がある 同 検 討 会 が 提 出 した 報 告 書 には, 家 族 介 護 から 在 宅 サービスを 適 切 に 活 用 する 介 護 への 発 想 転 換 的 確 な 質 のよい, 24 時 間 安 心 できるサービスを 気 軽 に 受 けることの できる 体 制 をめざすべき 要 介 護 者 の 自 立 を 助 け, 生 活 の 質 を 高 めるサービス 内 容 にすべき,そ のために 福 祉 機 器, 住 環 境,まちづくりの 整 備 を 市 町 村 中 心 の 施 策 を 展 開 すべき 財 源 制 度 につ いては 公 費, 社 会 保 険 料 等 いずれかの 組 み 合 わせ を 検 討 し,これについては 国 民 の 合 意 形 成 に 努 め る 必 要 という 内 容 が 盛 り 込 まれ, 介 護 保 険 制 度 施 行 に 至 る 道 筋 が 網 羅 された また,この 検 討 会 の 要 介 護 者 のサービスの 選 択 の 自 由 を 制 度 に 求 める 基 本 姿 勢 が,1992 年 の OECD 第 2 回 社 会 保 障 大 臣 会 議 で 合 議 された Aging in Place の 思 想 とともに,1990 年 代 の 認 知 症 ケア 施 策 に 盛 り 込 ま れ, 介 護 保 険 制 度 へとつながることになった 第 3 は,2004 年 末 に 発 表 された 痴 呆 に 替 わる 用 語 に 関 する 検 討 会 報 告 がある 痴 呆 から 認 知 症 に 名 称 を 変 更 した 背 景 には, 痴 呆 の 用 語 や,このことばを 発 するときに 知 覚 される 不 愉 快 な 感 覚 それ 自 体 が,わが 身 の 当 事 者 差 別 意 識 に 跳 ね 返 ってくるという 思 いが 広 く 合 意 されたこと, もう 1 つは,その 人 の 人 格 やそれまでの 生 活 を 尊 重 するという 尊 厳 の 保 持 の 姿 勢 をケアの 基 本 と する 必 要 があるということの 合 意 がある その 上 で, 認 知 症 は 認 知 を 病 む 人 を 指 す 用 語 で あって, 各 種 疾 患 の 総 称 であることの 医 学 的 確 認 や, 名 称 変 更 が 早 期 受 診 早 期 診 断 等 の 早 期 対 応 プログラムを 進 めるという 合 意 があった そして これが,2008 年 には 認 知 症 の 医 療 と 生 活 の 質 を 高 める 緊 急 プロジェクト に 基 づいた 施 策 へ,そし て 2012 年 の これからの 認 知 症 施 策 の 方 向 性 につ いて の 報 告 に 基 づく 施 策 からオレンジプラン 策 定 へとつながった( 原,2012) 2 呆 け 老 人 を 抱 える 家 族 の 会 が 認 知 症 の 人 と 家 族 の 会 に 変 更 されるまで 名 称 は 単 なる 標 記 ではない この 組 織 が 誕 生 し た 1980 年 前 後 の 時 代 背 景 はすでに 述 べたところ である 筆 者 は 発 足 当 初 からの 会 員 として,また 組 織 のつくり 手 として 多 くのことをこの 組 織 から 学 んできたが, 発 足 当 時,この 組 織 が 最 も 願 った ことは, ぼけを 抱 える 家 族 としての 当 事 者 性 を 仲 間 内 に 共 有 すること,そして 世 間 に 発 信 するこ とであった 痴 呆 と 言 われても 言 われなくとも, 頭 の 働 きがにぶり, 惚 ける 人 を 身 内 に 抱 える( 辞 典 的 には 腕 の 中 に 囲 いもつ,かぼう, 庇 護 する) 介 護 当 事 者 の 問 題 のありのままを 公 にし, 社 会 が 介 護 をシェアする 必 要 性 への 理 解 を 促 すことで あった 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月 245

特 集 認 知 症 の 当 事 者 研 究 のために 老 年 看 護 学 の 視 座 を 拓 く 1 1980 1982 1983 1984 1986 1987 1993 1988 1989 1989 1990 1990 1991 1992 E 1993 1994 1997 1999 5 2000 2003 2015 2004 12 2005 2006 2008 2012 5 名 称 については, 当 初 より 抱 える 言 葉 から 連 想 される 囲 い 込 みや 排 他 性 が 懸 念 され, ぼけ に 関 しても 差 別 用 語 でもあるという, 内 外 からの 批 判 が 絶 えなかった しかし, 新 聞 紙 上 に 登 場 す る 代 案 には, 二 度 童 子, 夢 追 い 人 等 の, 奇 妙 に 美 化 された 名 称 が 多 く 提 案 された この 言 葉 246 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月

1988 1989 2 1991 46 1992 OECD 2 Aging in Place 1993 1996 12 1 1997 3 1998 1999 2001 7 2002 2 2004 9 11 20 2006 7 2008 2009 2010 2010 2011 2010 3 の 裏 には, 当 事 者 性 に 対 する 関 心 のかけらもなく, それは 当 の 介 護 家 族 当 事 者 には 受 け 入 れがたい ものであった にもかかわらず, 家 族 の 会 のメ ンバーの 多 くは, 会 の 正 式 名 称 の 封 筒 を 会 員 宅 や 諸 団 体 に 送 る 際 には, 世 間 の 目 と 受 け 取 り 手 に 対 する 細 やかな 配 慮 から 家 族 の 会 と 略 称 で 印 す 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月 247

特 集 認 知 症 の 当 事 者 研 究 のために 老 年 看 護 学 の 視 座 を 拓 く 1 ることを 普 通 に 行 なってきた 厚 生 省 痴 呆 性 老 人 対 策 推 進 本 部,1987 25 年 間 変 更 されなかったこの 名 称 変 更 の 動 機 は,2001 年 10 月,ニュージーランドで 開 催 され た 国 際 アルツハイマー 病 協 会 (Alzheimer s Disease International; 以 下,ADI) 総 会 で, 認 知 症 当 事 者 であるクリスティーン ブライデン 氏 の 講 演 を 聴 いたことにある 家 族 の 会 は,1992 年 に ADI に 加 盟 しているが,この 総 会 には,2004 年 の 第 20 回 総 会 が 京 都 で 開 催 することが 決 まって おり,そのプログラムの 準 備 も 兼 ねて, 関 係 者 の 多 くが 参 加 していた 当 時 のクリスティーン 氏 は 46 歳 アルツハイマー 病 の 診 断 を 受 けて 6 年 目 に なる 人 であった しかし,この 人 が 話 すことば の 流 暢 さや, 立 ち 居 振 る 舞 いの 美 しさは, 私 たち が 知 っているは ず の 認 知 症 と は あ ま り に も か け 離 れていた そこで 何 をしたかと 言 えば, 私 も 私 たちも,かつて, 北 欧 にも 寝 たきり がいないは ずがないことを 前 提 に, 寝 たきり 探 しをしたよう に, 彼 女 の 中 に 認 知 症 探 しをしたのであった 当 時 を 振 り 返 ると,すでに 私 は 電 話 相 談 の 窓 口 や, 家 族 の 会 の 例 会 に 訪 れてきた 40 歳 代 から 60 歳 代 の 若 い 当 事 者 とその 家 族 に 出 会 っていた そ して, 彼 らは, 老 人 がぼけゆく 人 という 常 識 は あたらないことや, 扶 養 や 親 の 世 話 ばかりでなく, 現 役 に 生 きる 本 人 と 家 族 の 苦 悩 を 理 解 もせず に 世 話 のあれこれを 聴 かされても, 求 めている ことは 違 うということを 強 く 訴 えていたのであっ た しかし, 私 にはそれに 対 応 する 情 報 がほとん どなかった この 苦 い 思 いを 体 験 しているにもか 2 1 2 3 4 5 6 かわらず,クリスティーン 氏 を 認 知 症 の 人 として 認 識 するまでにはいくばくかの 時 間 を 必 要 とした 2004 年 開 催 ( 京 都 )の ADI 第 20 回 国 際 会 議 に は, 非 公 開 ではあったが, 初 めて 日 本 や 各 国 の 本 人 会 議 が 用 意 され, 当 事 者 個 人 の 肉 声 から 発 せら れる 願 いの 真 実 に, 大 勢 の 人 が 身 を 正 された このときを 境 に 家 族 の 会 は,2005 年 の 新 しい 名 称 認 知 症 の 人 と 家 族 の 会 にいき 着 いたのであ る 新 名 称 の と は, 本 人 が 本 人 であることによっ て, 家 族 は 介 護 家 族 になれることへの 表 明 である こうして, 認 知 症 当 事 者 と 介 護 家 族 当 事 者 が, 共 に 当 事 者 について 研 究 する 組 織 になった 2006 年 10 月 は, 日 本 で 最 初 の 本 人 会 議 が 開 催 され, 当 事 者 性 をアピール( 2)し て い る( 認 知 症 の 人 と 家 族 の 会,2006) 平 成 18 年 度 厚 生 労 働 省 老 人 保 健 健 康 増 進 事 業 248 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月

実 践 的 当 事 者 論 1 宙 ぶらりんの 位 置 から 見 えてきた 当 事 者 性 の 意 味 認 知 症 の 人 と 家 族 は, 止 むに 止 まれずに 当 事 者 になった 人 たちである 当 事 者 であることで 味 わ う 受 苦 の 傍 らで 私 は, 当 事 者 を 代 弁 するしか 能 の ない 自 分 を 恥 ずかしく 思 ってきた 老 人 看 護 学 にかかわる 人 間 として 居 ることが 許 されるであろうぎりぎりのところに 立 ち, 仲 間 で あるような,ないような 顔 をして, 当 事 者 の 苦 痛 に 満 ちた 物 語 と, 諦 めきれない 悔 しさを 振 り 切 っ て, 事 態 を 受 け 入 れる 覚 悟 を 決 めた 者 の 物 語 を 分 かち 合 う 場 をつくってきた その 場 に 立 って, 当 事 者 が 当 事 者 であることの 意 味 とそれへのアク ション リサーチの 方 法 を 考 えてきたように 思 う ( 中 島,1997;2012) 千 葉 県 の 家 族 の 会 ができて 6 年 の 後, 稲 毛 ホ ワ イ エ の 表 札 を 出 し て 家 族 の 会 の 有 志 た ち とデイケアを 開 いた そのころの 思 いを 私 は, 家 族 でもなく, 権 威 者 でもない,かといって 後 援 者 になることも 潔 しとしない 自 分 を 見 つめ, 支 援 者 を 求 道 してきたと 思 う 稲 毛 ホワイエの 具 体 的 構 想 は,このような 宙 吊 りの 苦 しみの 中 で 少 しず つ 煮 つまってきた と 述 懐 している( 中 島,1992) デイケアの 利 用 者 を 通 して, 介 護 家 族 もまた, 認 知 症 当 事 者 や 介 護 家 族 としての 役 割 期 待 に,い つも 宙 ぶらりん の 人 であったことも 知 った そして,デイケアの 場 にある 非 日 常 性 には,こ の 宙 ぶらりん の 姿 勢 が, 家 族 の 当 事 者 性 と 本 人 の 当 事 者 性 を 回 復 させるということを 知 ること になった すなわち, 専 門 性 は, 援 助 者 として 本 質 的 に 求 められるパートナーシップ( 被 援 助 者 の 受 動 性 を 能 動 的 志 向 性 に 変 えて, 協 力 関 係 を 築 こ うとする 援 助 者 の 能 動 的 志 向 性 )をめざすがゆえ に,かえって 被 援 助 者 の 能 動 性 を 毀 損 することが ある それは, 家 族 にとっても 本 人 にとっても 迷 惑 きわまりないことであろう この 意 味 で, 宙 ぶ らりん は, 当 事 者 への 無 駄 でお 節 介 な 介 入 を セーブする 抑 止 力 であったのかもしれないと 思 え るのである 天 田 (2004)は, べてるの 家 の 非 援 助 論 ( 向 谷 地,2002)に 触 れて, 専 門 性 がもつ 能 動 的 志 向 性 を 徹 底 的 に 毀 損 剥 奪 してしまう 危 険 を 回 避 する プ ロ プ リ エ イ シ ョ ン 方 法 として, 理 解 = 他 者 の 理 解 の 専 領 に 挫 折 する ためにこそ, べてるの 家 では 公 私 混 同 大 歓 迎 とし, 非 援 助 の 実 践 をするのである あるいは, 治 さない 治 させない 医 者 無 力 さの 可 能 性 の 許 容 を 提 唱 するのも,そうした 場 にこそ, 人 間 が 生 きる 営 みがあるからであり, 誰 もが 生 きる 当 事 者 として 自 らを 曝 せるからである だからこ そ, べてるの 家 は 誰 もが 各 々の 当 事 者 性 を 生 きているのだ と 述 べているが,この 考 えは, 援 助 関 係 の 質 はパートナーシップのプロセスに 左 右 さ れる,と 思 う 専 門 家 には 欠 くことのできない 認 識 ではあるまいか 2 受 苦 の 奥 に 隠 れて 在 る 回 復 を 読 み 取 る という 治 し の 有 り 様 1980 年 10 月, 私 は 大 学 の 研 究 室 に 留 守 番 機 能 のある 電 話 機 を 取 りつけ, 介 護 家 族 に 24 時 間 対 応 の 電 話 相 談 を 始 めた 1 ~ 2 年 はその 対 応 に 多 忙 を 極 めたが,この 仕 事 から 数 多 くの 得 心 のいく 発 見 をした よく 問 われた 治 るのですか? と 治 らないんで すよね? という 声 のうち, 前 者 は, もう 嫌 になっ ちゃう の 文 脈 の 中 で 発 せられることが 多 い こ れには, どんなふうに 治 ってほしいですか? を 返 すことができて, 受 け 手 も 助 けられる なぜな らこの 問 いの 中 には, 身 内 の 昼 夜 逆 転 や 排 せつ 等 日 常 生 活 動 作 行 為 のエラーの 数 々と, 不 可 侵 領 域 にかかわる 他 人 の 行 為 行 動 に 介 入 して, 世 話 することの 苦 痛 の 日 々がリアリティをもってイ メージされるからである 彼 らの 治 す という 言 葉 には, 生 活 を 治 す, 元 々の 生 活 を 取 り 戻 すとい う 意 味 が 込 められている,といったあたり 前 のこ とを 再 発 見 したし,なまじの 専 門 知 識 がこの 邪 魔 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月 249

特 集 認 知 症 の 当 事 者 研 究 のために 老 年 看 護 学 の 視 座 を 拓 く をするという 発 見 もした それ 以 上 に,いつの 間 にか, 医 学 が 独 占 してしまった 診 断 治 療 の 領 域 に, 看 護 はこの 言 葉 を 使 うことさえ 憚 り, 自 己 規 制 をしてきたことへの 気 づきは, 非 常 に 大 きな 収 穫 であった 後 者 の 治 らないんですよね? の 声 とその 文 脈 を 聞 き 取 る 仕 事 にはつらいものがある この 問 い には, 不 治 の 病 いであったとしても 自 分 の 親 は 違 うのではないか,という 思 いを 断 ち 切 って, 白 か 黒 かの 証 明 が 欲 しい, 病 気 なら, 治 る 人 も 治 らな い 人 も 治 療 してくれるのはプロのいる 病 院 でしょ う,そこを 紹 介 してほしい,といった 主 旨 のこと を 言 い 募 る 人 が 多 かった 怒 りと 絶 望 の 崖 っぷち にいるその 人 に, この 病 いは, 医 学 的 な 見 方 だけ では 捉 えきれない 病 気 なのです の 応 答 は,いか にも 能 天 気 である までに 私 も 捜 してみ ますね までにもう 一 度 電 話 をください そ れまで 頑 張 れますか と 応 答 のできる 看 護 職 であ る 自 分 に 感 謝 した こうして,よかれと 思 う 施 設 を 捜 し 回 ることになるのだが,この 役 割 をもてた ことで,ネットワーカーとしての 信 頼 を, 時 に は 味 わうことができた 認 知 症 介 護 家 族 への 電 話 相 談 にあたって 戒 める べきことは, 話 し 手 から 認 知 症 の 状 態 や 人 物 を 査 定 しないことである 電 話 の 先 にいるのは, 介 護 家 族 の だれか ではあるが,その 程 度 の 当 事 者 であって, 認 知 症 を 病 む 当 事 者 ではない 電 話 相 談 の 武 器 は, 聞 き 手 としての 遠 慮 と, 集 注 する 耳 である そこでは, 話 し 手 が 耐 え 忍 んで 受 けてい る 受 苦 (passion)の 姿 と 情 念 (pathos)のさまを, 写 し 取 るように 聴 くことに 熱 中 することである たった 30 ~ 40 分 の 時 間 の 間 に, 話 し 手 が, 自 ら が 能 動 的 な 行 為 の 遂 行 者 (agency)に 回 復 する( 森 岡,2005)その 瞬 間 が 明 らかに 見 える,というよう な 体 験 も 時 にはあるのだ ならばこの 方 法 は, 自 分 が 抱 えている 状 況 をう まく 伝 えられず,またまわりの 者 にもきちんと 向 き 合 ってもらえずに, 受 苦 と 情 念 の 表 出 を 塞 がれ ている 認 知 症 の 当 事 者 にこそいっそう, 求 められ ているものである それは, 目 的 的 ではない 集 い の 場 で 会 話 が 飛 び 交 い, 社 交 性 を 発 揮 しやすい 居 場 所 で あ ろ う このようなデイケアやグループホームをつくり たいと 願 った こうして 稲 毛 ホワイエ ホワイエ 月 寒 や グ ル ー プ ホ ー ム 幸 豊 づ く り が 始 ま っ た ( 中 島 編,2002) 3 わからなさに 定 位 する 特 養 ホームに, 痴 呆 性 老 人 介 護 棟 設 置 が 制 度 化 される(1986 年 )と, 回 廊 式 廊 下 をもつデザイン 建 築 や 監 視 カメラを 設 備 する 介 護 施 設 が 増 えてき た 組 織 的 リスク 管 理 の 近 代 化 が, 軟 弱 なケア 体 制 を 覆 いはじめた 具 体 的 には, 物 理 的 ( 建 物, 機 材, 監 視 等 による 安 全 管 理 等 )システムと 法 的 順 守 のマニュアル 化 に 従 っているうちに, 職 能 と して 本 来 的 に 備 わっていなければならない 最 善 最 適 の 選 択 への 指 向 性 を 失 いはじめ, 例 えば, 自 立, 一 部 自 立, 依 存 といった 単 純 この 上 ないやり 方 で 当 事 者 の 自 律 性 (autonomy)を 奪 い, 脅 かす 事 態 ( 2)が 実 際 の 場 面 にみられるようになった(Mcwilliam, Brown, Carmichael, & Lehman, 1994 / 福 田 訳,1996; 中 島,2012) それは, 認 知 症 の 人 も, 意 志 ある 人 間 として 病 いを 受 苦 し,その 中 で 自 立 も 依 存 も 選 択 する( 中 島,1997)という 人 の 自 律 のあり 方 の 前 提 が, 目 に 見 えて 薄 れていくと いうような 現 実 のことで, 例 えば, 生 活 歴 は 大 切 な 変 数 という 認 識 はあるとしても, 記 録 用 紙 は 規 則 化 単 純 化 され, 当 事 者 のさまざまなトライ アンド エラーは, 問 題 行 動 に 集 約 される 問 題 を 補 うさまざまな 解 釈 も,それをコントロール するための 基 準 マニュアルや 規 則 がまたつくられ る こうした 幾 重 もの 制 約 の 中 でつくられる この 人 には,どれほど 真 実 があるのだろうか 悶 々と 考 えているときに 出 合 ったのが,1987 年 10 月 20 日 の 毎 日 新 聞 に 載 った 小 論 ( 最 首,1998) であった 欲 しかったケアの 神 髄 は, これだった という 感 動 に 震 えた 以 下, 一 部 を 抜 粋 して 転 載 250 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月

2 the disempowering process A B Mcwillam, C.L., Brown, J.B., Carmichael, J.L., & Lehman, J.M.(1994). A new perspective on threatened autonomy in elderly persons : The disempowering process. Social Science & Medicine, 38(2), 327 339. / 福 田 庸 子 訳 (1996). したい し, 目 薬 は 注 されるし, 星 子 もいやなことなしに 一 日 は 過 ごされないのだが, 平 穏 さはむしろ 星 子 自 身 がつ 星 子 11 歳, 小 学 校 障 害 児 学 級 3 年,ようやく, 夜,なんとか 寝 るようになって, 朝 9 時 半 から 給 食 の 前 まで 学 校 に 行 っている 学 校 では 歩 くこと, 洋 式 手 洗 いに 座 ることが 勉 強 である 丸 呑 みだが,かたいご はんを 食 べる 哺 乳 瓶 で 学 校 の 牛 乳 をのむ おむつを している 目 は 最 近 ときどきあけるようになった 家 ではあきずに 音 楽 を 聴 いている 意 外 と 癇 癪 もちで, 生 活 の 流 儀 が 乱 されると 怒 る このごろワッと 泣 くよ う に な っ た ( 略 ) 星 子 の 今 日 一 日 の 平 穏 とは,いやなことがなるべく 少 ないということにつきる 歯 ブラシは 突 っこまれる くりあげているといってよい たとえば, 牛 乳 を 飲 みたくなければ,どのようにし の ても 口 を 引 き 結 んで 開 けない 嚥 み 下 したくなくなる と, 口 中 にごはんを 30 分 でも 1 時 間 でも 留 め 置 く 硬 軟 とりまぜて, 星 子 の 拒 否 ぶりはほれぼれするばか り で あ る ( 略 ) 星 子 のことがわかるときもあるし, 日 常 の 暮 らしで は,わかったと 思 いこまないとやっていけないことも ある しかし, 基 本 的 にはわからないのである ちょ うど,ワカラナイ ワカル ワカナライ と 続 くルー レット 盤 をまわすと, 玉 がワカラナイところでいつも 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月 251

特 集 認 知 症 の 当 事 者 研 究 のために 老 年 看 護 学 の 視 座 を 拓 く 必 ず 止 まるような 具 合 である 学 問 をするというのはまさにこの 定 位 に 他 ならない のだが, 対 人 関 係, 特 に 子 どもに 対 するとき,この 定 位 が 大 事 なのだと 思 う ここに 定 位 している 限 り, 遠 しつ 慮 がうまれる 星 子 は,そういうふうに 親 を 躾 け る ( 以 下, 略 ) トム キットウッド(Kitwood / 高 橋 訳,2005) も 指 摘 していることだが, 天 秤 の 片 方 の 皿 に 人 間 の 存 在 という 側 面 を 置 き,もう 一 方 の 皿 に 症 状 と 心 身 機 能 構 造 上 の 障 害 という 側 面 を 置 くと, 我 々ケア 提 供 者 側 は, 医 療 文 化 として 受 け 継 いで きた 習 慣 とも 言 える 考 えによって, 無 自 覚 に, 天 秤 は 後 者 のほうに 傾 く いったん 傾 いた 秤 は, 科 学 的 根 拠 のないものや, 経 験 的 データから 得 たも のでないものまでが 容 易 に 正 当 化 されやすい 看 護 実 践 は, 基 本 的 にワカラナイという 身 のお き 方 に 定 位 する 活 動 でありたいと 思 う ワカラナ イ ワカル ワカラナイ に 定 位 して, 遠 慮 深 く 観 察 するからこそ, 時 に 希 望 がもてる 看 護 に 求 められる 技 術 も, 達 成 感 もそこにある この 考 えは, 看 護 の 世 界 が 伝 統 的 に 受 け 継 いできた 倫 理 原 則 に 等 しい おわりに 認 知 症 当 事 者 と 家 族 当 事 者 の 信 頼 を 手 に 入 れるために たぶん, 認 知 症 当 事 者 も, 介 護 する 側 との 関 係 の 中 で, 自 分 が 欲 していた そのこと がワカル ときとワカラナイときがあるはずである そのこ とを 伝 える 表 現 方 法 の 試 みが,エラーになって 表 われやすい それでも 認 知 症 の 人 は, 支 え 手 に, なんとかして 自 分 が 手 助 けしてほしいものや, そ こ に 誘 導 する 方 法 を 探 し 求 め,その 手 続 きの 方 法 を 磨 いているはずである 当 事 者 概 念 の 中 心 は そ こ に あ る こ の よ う な 認 知 症 の 人 に 対 す る 想 像 力 が, 援 助 者 に 求 められている 振 り 返 って, 個 人 が 社 会 生 活 を 自 助 (self-help) できているということは, 暮 らしに 必 要 となる 数 多 くの 多 様 な 社 会 資 源 を 獲 得 しつつ,それらを 組 み 合 せて 使 用 できる 場 合 である すなわち, 自 助 とは,モノやコトとの 関 係 性 を 状 況 に 合 わせて 秩 序 化 し,セルフケアを 豊 かなものにしながら, 普 通 に 生 きていける 暮 らしをつくる 日 々の 中 にある 健 康 は 自 助 に 影 響 を 与 える 1 つの 重 要 な 要 素 であ る また 自 助 は, 家 族 親 族 網 が 機 能 する 装 置 と して,また 自 治 体 の 自 立 装 置 としても 機 能 する 介 護 保 険 制 度 の 導 入 は, 自 助 を 基 礎 においた 公 助 としての 社 会 制 度 装 置 である 病 院 とそれに 類 似 するヘルスケアサービスを 担 う 医 療 組 織 体 も 公 助 組 織 ではあるが,この 活 動 形 態 の 多 くは 共 助 に よって 円 滑 に 機 能 する 今 日 的 なヘルスケア 制 度 の 課 題 は, 自 助 共 助, 公 的 の 連 動 連 携 とケア の 協 働 である しかしながら, 認 知 症 の 病 いは 自 助 の 世 界 の 境 界 のはっきりしない 複 雑 な 病 いである この 人 々 の 入 退 院 にかかわるケアは, 病 院 やそこに 働 く 看 護 職 等 が, 自 らのケアにどれほどのエネルギー を 割 いてもかなうものではないだろう 認 知 症 当 事 者 が, 病 院 等 のケアの 組 織 に 受 け 入 れられたとき, 彼 らはどんな 世 界 を 経 験 するのだ ろうか それを 当 事 者 から 教 わるために,どんな 研 究 の 方 法 があるのだろうか ケアに 対 する 看 護 職 等 の 教 育 や 学 習 のあり 方 の 問 題 もないとは 言 えないという 現 実 的 な 問 題 に 対 して, 当 事 者 に 伴 走 しつつ 学 べる 学 習 方 法 には, どんな 訓 練 が 効 果 的 なのだろうか より 大 きな 問 題 は, 病 院 やそれに 類 する 機 関 が, 専 門 職 集 団 から 構 成 された 官 僚 機 構 としての 組 織 形 態 をもって 機 能 していることであろう(Chambliss / 浅 野 訳,2002) その 場 所 が 日 常 の 一 部 と して, 人 々が 苦 しみ 死 ぬという 過 酷 な 経 験 を 専 門 職 集 団 に 課 すという 意 味 で,また,この 集 団 が 堅 牢 に 設 えられたヒエラルヒーをもつ 組 織 の 中 で, さまざまな 規 制 によってルーチン 化 されている 業 務 以 外 の 業 務 の 選 択 をする 権 限 の 行 使 はなかなか できないという 意 味 で, 尋 常 な 場 所 ではない 252 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月

(Chambliss / 浅 野 訳,2002)ということに, 問 題 の 根 源 があるとするならば,その 抜 本 的 な 改 革 に 必 要 なアプローチは 何 か どこからはじめるのが よいか どのような 組 織 になれば, 私 たち 看 護 職 は, 自 身 が 本 来 的 にもっている 市 民 としての 当 事 者 性 を 復 活 させ,それを 働 く 場 に 復 活 させられるのだろ うか また,その 復 活 力 (resilience)が, 何 かをも たらすとして,それは 何 か 認 知 症 当 事 者 の 研 究 の 何 か のために 認 知 症 を 対 象 化 せず, 認 知 症 の 人 と 向 き 合 うことのできる 場 を 獲 得 していくための 方 略 を 探 し 出 す 旅 から, 事 を 始 めなければと 思 う 文 献 天 田 城 介 (2004). 老 い 衰 えゆく 自 己 の /と 自 由 高 齢 者 ケア の 実 践 論 当 事 者 論.ハーベスト 社,pp.241 243. 向 谷 地 生 良 (2002).べてるの 家 の 歩 みから 坂 道 を 転 がり 落 ち た 10 年 がくれた 出 会 い.( 浦 河 べてるの 家 著 )べてるの 家 の 非 援 助 論 このままでいいと 思 えるための 25 章. 医 学 書 院, pp.24 29. Boden, C. / 桧 垣 陽 子 訳 (2003). 私 は 誰 になっていくの? ア ルツハイマー 病 患 者 からみた 世 界.クリエイツかもがわ. Chambliss, D.F.(1996). Beyond Caring : Hospitals, Nurses, and the Social Organization of Ethics, the University of Chicago Press. / 浅 野 祐 子 訳 (2002).ケアの 向 こう 側 看 護 職 が 直 面 する 道 徳 的 倫 理 的 矛 盾. 日 本 看 護 協 会 出 版 会,p.20, pp.24 28. 深 沢 七 郎 (1956). 楢 山 節 考. 新 潮 社. 原 勝 則 (2013). 日 本 の 認 知 症 施 策.http://www.igakuken. or.jp/research/gakujutsu_syukai/g_syukai130129/pdf/list00. pdf 加 藤 伸 司 (2008). 認 知 症 ケアはここまで 進 んだ. 日 本 老 年 精 神 医 学 誌,19(6), 629 635. Kitwood, T. / 高 橋 誠 一 訳 (2005). 認 知 症 のパーソンセンター ドケア 新 しいケアの 文 化 へ. 筒 井 書 房,p.18. Kleinman, A. / 江 口 重 幸, 五 木 田 紳, 上 野 豪 志 訳 (1996). 病 いの 語 り 慢 性 の 病 いをめぐる 臨 床 人 類 学. 誠 信 書 房,pp.5 7. Mcwilliam, C.L., Brown, J.B., Carmichael, J.L., & Lehman, J.M.(1994). A new perspective on threatened autonomy in elderly persons : The disempowering process. Social Science & Medicine, 38(2), 327 339. / 福 田 庸 子 訳 (1996).お 年 寄 りの 脅 かされた 自 立 性 に 対 する 1 つの 新 しい 見 方 力 を 弱 めるプロ セス. 保 健 婦 雑 誌,52(2), 151 155. 森 岡 正 芳 (2005).うつし 臨 床 の 詩 学.みすず 書 房,pp.99 100. 中 島 紀 惠 子 (1992). 連 携 の 場 としての 稲 毛 ホワイエ.ホワ イエだより 19. 保 健 婦 雑 誌,48(11), 954 955. 中 島 紀 惠 子 (1997). 老 年 看 護 における 人 権 の 位 置 づけ. 老 年 看 護 学,2(1), 7 16. 中 島 紀 惠 子 (2001).わが 国 の 高 齢 者 ケアにおける 看 護 と 介 護 の 近 未 来. 老 年 社 会 科 学,23(3), 299 304. 中 島 紀 惠 子 編 (2002).グループホームケア 痴 呆 の 人 々のケ アが 活 きる 場 所. 日 本 看 護 協 会 出 版 会. 中 島 紀 惠 子 (2003). 痴 呆 ケアと 実 践 研 究 上 の 課 題. 日 本 痴 呆 ケア 学 会 誌,2(1), 9 16. 中 島 紀 惠 子 (2011). 老 年 看 護 の 過 去 現 在 未 来. 第 16 回 学 術 集 会 長 講 演. 日 本 老 年 看 護 学 会 誌,16(1), 5 12. 中 島 紀 惠 子 (2012). 認 知 症 ケアの 歩 み(Series 4) 私 の 認 知 症 の 人 と 介 護 家 族 への 実 践 的 研 究 を 振 り 返 って. 認 知 症 ケア 事 例 ジャーナル,5(2), 192 197. 中 島 紀 惠 子, 北 川 公 子 (2011).ライブ 中 島 紀 惠 子 と 教 え 子 た ち 老 年 看 護 の 縦 横 な 語 り.クオリティケア. 認 知 症 の 人 と 家 族 の 会 (2006). 認 知 症 の 人 本 人 会 議 を 開 く 本 人 会 議 アピール. 月 刊 ぽ~れぽ~れ,No.316, 3, 14. 大 熊 由 紀 子 (2010). 物 語 介 護 保 険, 上. 岩 波 書 店,pp.2 3. 大 國 美 智 子 (2012). 認 知 症 ケアの 歩 み(Series 3) 諸 先 生 方 との 思 い 出 1987 年 ごろまで. 認 知 症 ケアの 歩 み. 認 知 症 ケア 事 例 ジャーナル,5(2), 187 191. 最 首 悟 (1998). 星 子 が 居 る. 世 織 書 房,pp.78 78. 看 護 研 究 Vol. 46 No. 3 2013 年 6 月 253