フォーラム 中 国 ビジネスを 理 解 する シリーズ 第 7 回 (4 月 20 日 ) 講 演 録 第 7 回 中 国 経 済 の 実 情 日 時 :2012 年 4 月 20 日 ( 金 ) 場 所 : 早 稲 田 大 学 日 本 橋 キャンパス ホール 報 告 急 成 長 を 遂 げてきた 中 国 経 済 が 失 速 しつつある 中 国 政 府 は 悪 化 する 財 政 を 立 て 直 すため 日 本 の 国 家 予 算 にも 相 当 するワイロが 動 く 地 下 経 済 に 目 を 付 けた 地 下 経 済 とは 何 な のか また 中 国 経 済 は 再 び 成 長 軌 道 に 乗 ることができるのか ジャーナリストの 富 坂 聰 氏 が 講 義 した 灰 色 収 入 を 原 資 にして 不 動 産 を 購 入 中 国 の 今 後 について 私 の 見 通 しはあまり 明 るくない しかし 多 くの 人 が 懸 念 している バブル 崩 壊 が 理 由 ではない 日 本 のバブルと 中 国 のバブルは 構 造 が 少 々 違 うからだ 日 本 の 場 合 は 不 動 産 価 格 の 上 昇 を 見 込 んで 銀 行 が 積 極 的 に お 金 を 貸 し 付 けたものの バブル 崩 壊 によって 融 資 したお 金 が 回 収 できなくなった それが 不 良 債 権 となって 銀 行 経 営 を 圧 迫 失 われた 10 年 と 言 われた 日 本 経 済 の 長 期 低 迷 を 招 いた 一 方 の 中 国 の 銀 行 は 個 人 をターゲットにはしていない 民 間 企 業 でもほとんど 相 手 にされず マンションや 土 地 の 使 用 権 は 現 金 で 買 うのが 当 たり 前 だ 2 億 3 億 円 もするような 物 件 でも キャッシュで 支 払 う 居 住 用 以 外 に 投 資 目 的 で 購 入 するケースが 多 いのも 中 国 の 特 徴 だ 例 えば 中 国 では 高 級 マンションの 1 階 にコンビニやレ ストランなどのテナントが 入 居 するのが 一 般 的 だが すぐに 撤 1
退 してしまう すべての 部 屋 が 完 売 されたはずなのに マンシ ョンに 人 が 住 んでいないからだ 夜 になってもほとんどの 部 屋 の 明 かりが 消 えている このような 高 級 マンションの 購 入 者 は 主 に 官 僚 や 国 有 企 業 幹 部 成 り 金 などだ 中 国 では 数 億 円 もする 物 件 を 官 僚 などの 役 人 が 簡 単 に 購 入 している もちろん 実 際 の 給 料 だけではとて も 足 りない どうやってお 金 を 工 面 しているのか 灰 色 収 入 と 呼 ばれる 収 入 が 資 金 源 になっているのだ 灰 色 収 入 とは 何 か 中 国 には 白 色 収 入 黒 色 収 入 灰 色 収 入 という 3 つの 収 入 形 態 が 存 在 する 白 色 収 入 とは 給 与 などの 正 当 な 収 入 黒 色 収 入 とは 詐 欺 や 窃 盗 などの 非 合 法 手 段 で 得 た 収 入 そして 灰 色 収 入 とは 賄 賂 など 非 合 法 ギ リギリの 収 入 のことだ 灰 色 収 入 が 給 料 の 2 3 倍 という 官 僚 はざらで 国 営 企 業 や 有 名 企 業 の 課 長 クラスであれば 3 千 万 円 ぐらい 受 け 取 っているのではないだろうか 中 国 の 共 産 党 員 は 7,000 万 人 国 営 企 業 や 有 名 企 業 の 幹 部 クラスも 含 めると 日 本 の 人 口 ほどの 人 が 法 律 に 抵 触 するかもしれない グレーな お 金 を 受 け 取 っている 官 僚 などの 権 力 者 に 贈 られる 賄 賂 の 総 額 は ある 新 聞 の 試 算 によると 6 兆 元 ほど 日 本 円 に 換 算 すると 約 78 兆 円 もの 規 模 がある 日 本 の 国 家 予 算 にほぼ 匹 敵 する 金 額 が 裏 の 世 界 で 動 い ているわけだ こうした 裏 の 経 済 活 動 を 地 下 経 済 と 言 う マンション 価 格 が 前 年 比 で 3 割 ほど 下 落 し 中 国 経 済 が 混 乱 に 陥 っているという 日 本 の 報 道 もあるが 実 際 はそれほど 動 揺 していない 原 資 が 灰 色 収 入 だからだ 賄 賂 として 受 け 取 った お 金 を 投 資 に 回 しているため 心 理 的 にはそれほどの 痛 みはな い 地 下 経 済 が 緩 衝 地 帯 として 機 能 しているので 日 本 のバブ ル 崩 壊 のような 深 刻 な 問 題 にはならないのだ セーフティーネットとして 機 能 する 地 下 経 済 2
中 国 では 年 収 300 万 円 ぐらいの 家 庭 にも 使 用 人 がいる なぜ なら 中 国 では 使 用 人 を 1 カ 月 雇 ってもコストは 3 万 円 程 度 だか ら 送 迎 と 家 事 担 当 の 使 用 人 を 雇 っても 月 6 万 円 しかかからな い なぜこれほどの 金 額 で 使 用 人 が 雇 えるのか 月 3 万 円 の 収 入 で 生 活 できる 世 界 があるからだ その 世 界 こそが 地 下 経 済 で ある 中 国 の 出 稼 ぎ 労 働 者 の 間 には 出 身 地 別 にコミュニティが 形 成 されている 例 えば 私 の 友 人 がかつてお 世 話 になった 山 東 省 のコミュニティは 北 京 の 円 明 園 の 近 くにある 住 まいはレン ガを 積 み 上 げただけで 窓 もない 耐 震 性 も 期 待 できない 3 階 建 ての 建 物 極 寒 の 時 期 になると まるで 冷 蔵 庫 のような 部 屋 に 身 を 寄 せ 合 って 暮 らしている 家 賃 は 大 体 2 3 千 円 Sany Panasenic といった 地 下 経 済 で 流 通 しているまがい 物 だが 携 帯 電 話 も 一 応 持 っている 非 常 に 安 い 生 活 費 で 暮 らすことが できるのだ 山 東 省 のコミュニティでは 逃 げ 場 所 もないことを 知 っての うえだが 一 文 無 しの 私 の 友 人 にお 金 まで 貸 してくれた その お 金 で 車 を 買 って 白 タクの 運 転 手 をやっていた 白 タクとは 営 業 許 可 のないタクシーのことで 正 規 のタクシーより 運 賃 が 安 いのが 特 徴 だ それなりの 需 要 があり ある 程 度 のお 金 を 稼 ぐ ことができる 白 タクの 運 転 手 や 高 級 煙 草 の 運 び 屋 など 高 望 みしなければ 地 下 経 済 にはいくつも 仕 事 があるのだ 中 国 は 輸 出 依 存 度 が 高 く 海 外 経 済 に 頼 ってきた 国 だったた め 2008 年 のリーマン ショックの 時 は 日 本 以 上 の 被 害 を 受 け た ところが 日 本 人 よりも 中 国 人 の 方 が 表 情 は 明 るい その 理 由 は 中 国 には 地 下 経 済 というセーフティネットが 働 いている から 日 本 よりも 国 家 との 信 頼 関 係 は 希 薄 だが 民 間 に 相 互 扶 助 の 意 識 が 強 く もしも 表 の 仕 事 を 失 っても 地 下 経 済 に 行 けば 何 らかの 生 きる 糧 が 得 られるのだ 3
地 下 経 済 から 税 金 を 徴 収 し 財 政 再 建 を 図 る この 地 下 経 済 を 中 国 政 府 は 潰 そうとしている なぜ 地 下 経 済 に 目 を 付 けたのか 国 家 財 政 が 窮 乏 しているからだ とくに 厳 しさを 増 しているのが 地 方 財 政 かつて 世 界 の 工 場 として 注 目 を 浴 びた 中 国 には 数 々の 企 業 が 進 出 し 工 場 などを 建 てた それによって 過 熱 したのが 不 動 産 ビジネス 中 国 は 基 本 的 に 国 家 か 集 団 しか 土 地 の 所 有 を 認 めていない 工 場 用 地 を 確 保 する には 期 限 付 きの 土 地 所 有 権 を 政 府 などから 買 うことになる こうした 売 買 代 金 の 30~40%が 税 収 として 地 方 財 政 に 入 って くるのだ 中 国 の 税 金 はほとんど 国 が 受 け 取 るので 不 動 産 関 連 の 税 収 は 地 方 にとって 貴 重 な 財 源 といえるだろう ところが 不 動 産 価 格 の 急 落 で 不 動 産 関 連 の 税 収 が 落 ち 込 み 道 路 や 橋 などの 公 共 事 業 の 投 資 が 抑 制 された かつて 中 国 経 済 は 投 資 と 貿 易 を 両 輪 に 急 成 長 を 遂 げたが リーマン ショッ クによって 米 国 経 済 が 低 迷 中 国 は 経 済 構 造 の 見 直 しを 迫 られ 投 資 を 大 黒 柱 に 据 えることにした 投 資 が 経 済 成 長 の 柱 になっ た 中 国 では 公 共 事 業 投 資 の 受 け 皿 となっている 企 業 が 潤 う 当 然 ながら 公 共 事 業 投 資 に 関 わる 人 と 関 わらない 人 との 間 に は 大 きな 収 入 の 格 差 が 生 まれ 社 会 的 な 不 満 が 広 がっていった 2012 年 3 月 に 開 催 された 全 国 人 民 代 表 大 会 ( 全 人 代 ) 閉 幕 後 の 記 者 会 見 で 温 家 宝 首 相 が 述 べた 政 治 改 革 を 実 行 しなけれ ば これまで 積 み 重 ねてきたものをすべて 失 うだろう という コメントは この 格 差 の 拡 大 を 懸 念 した 言 葉 だ とはいえ 収 入 格 差 を 改 めるのは 簡 単 ではない 経 済 を 発 展 させるには 当 面 公 共 事 業 投 資 に 力 を 入 れていくしかなく 実 施 すれば 実 施 する ほど 格 差 が 広 がっていくという 矛 盾 をはらんでいる 八 方 ふさがりの 状 態 を 打 開 するために 中 国 政 府 が 選 んだ 方 法 が 取 れるところからお 金 を 取 る だ そのターゲットが 新 税 4
の 導 入 と 地 下 経 済 だった まず 増 値 税 によってこれまで 納 税 と 無 縁 だった 地 下 経 済 からも 徴 収 しようともくろんだわけだ 増 値 税 とは 日 本 の 消 費 税 のような 仕 組 みで 中 国 国 内 で 商 品 ( 製 品 )の 販 売 などの 労 務 に 課 せられる 税 金 中 国 国 内 の 税 収 の 大 半 が 増 値 税 に 占 められている 中 国 政 府 は 税 収 を 増 やすため 増 値 税 の 課 税 範 囲 を 広 げている そしてもう 一 つの 動 きが 地 下 経 済 の 地 上 化 である その 象 徴 がレア アースや 炭 鉱 の 管 理 強 化 であり それを 裏 で 支 え る 地 下 金 融 に 対 する 締 め 付 けである こうした 地 下 マネーを 取 り 込 む 動 きは 財 政 を 再 建 するためには 有 効 かもしれないが 一 方 で 大 きな 問 題 の 種 となりつつある それは 政 府 が 地 下 経 済 を 潰 すことで これまで 地 下 経 済 が 代 行 してきた 民 間 のセーフ ティネットが 崩 れてしまうという 問 題 があるからだ もちろん 中 国 政 府 は 国 が 主 導 したセーフティーネットの 構 築 を 目 指 して いるが 私 はこの 試 みの 未 来 には 懐 疑 的 だ なぜなら 中 国 には 13 億 人 もの 人 々が 暮 らしているから 社 会 保 障 として 一 人 1 万 円 ずつ 配 ると 13 兆 円 10 万 円 ずつ 配 ると 130 兆 円 にもなる 13 億 人 もの 人 口 を 抱 える 中 国 で これまで 地 下 経 済 が 担 ってき たセーフティネットの 役 割 を 国 が 代 行 するのは 難 しいだろう 現 政 権 が 国 を 支 配 する 前 から 地 下 経 済 は 存 在 している とこ ろが いまに 至 るまで 政 府 は 一 度 も 地 下 経 済 を 完 全 に 支 配 する ことはできなかった 中 華 人 民 共 和 国 で 暮 らす 国 民 ではあるが 地 下 経 済 の 住 民 は 税 金 を 支 払 わない その 代 わり 国 家 からの 支 援 も 受 けなかった そんな 地 下 経 済 に 政 府 が 対 峙 できるのか 甚 だ 疑 問 だ むしろ 今 後 の 中 国 経 済 を 考 えると 逆 に 地 下 経 済 の 支 配 力 の 方 が 強 まる 傾 向 を 示 していくのではないだろうか ( 質 疑 応 答 ) Q. 中 国 で 賄 賂 が 一 般 化 していることは 理 解 できたが 実 際 に 5
中 国 政 府 の 中 枢 にいる 人 はどうなのか A. 中 国 共 産 党 のトップに 立 つ 人 には 主 に 2 つのタイプがい る 叩 いても 叩 いても 埃 が 出 ない 清 廉 潔 白 な 人 と 叩 けば 埃 が 出 てしまう 人 だ 中 国 の 政 局 を 動 かす 中 央 政 治 局 常 務 委 員 にはいろいろなタイプの 人 がいるが 大 体 の 人 は 叩 け ば 埃 が 出 てくるだろう でも 賄 賂 を 受 け 取 っているから こそ 中 国 共 産 党 にとっては 都 合 がよいという 面 もある ある 人 物 を 取 り 除 きたいと 思 った 時 には 捕 まえる 口 実 に なるからだ Q. テレビで 以 前 村 長 の 努 力 によって 平 均 年 収 が 非 常 に 高 くなった 村 のことを 紹 介 していた なぜこの 村 のようなこ とができたのか A. 中 国 は 社 会 主 義 の 計 画 経 済 に 市 場 経 済 を 取 り 入 れること で 発 展 を 遂 げた その 村 は 村 民 から 選 ばれた 村 長 が 村 の 資 産 を 一 元 管 理 し 富 を 公 平 に 分 配 している 地 方 自 治 体 と いうより 企 業 に 近 いシステムだ 一 企 業 が 究 極 の 社 会 主 義 を 実 践 したといえるだろう 中 国 の 発 展 の 象 徴 として その 村 は 度 々 取 り 上 げられている 実 際 に 私 も 訪 問 したこ とがあるが いまの 中 国 とは 逆 行 したシステムだと 思 う 中 国 経 済 の 成 功 例 として 取 り 上 げるのには 違 和 感 を 感 じる 6