http://www.jri.co.jp 税 社 会 保 障 改 革 シリーズ No.12 2013 年 7 月 19 日 No.2013-013 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 支 援 の 評 価 と 課 題 - 男 性 の 育 児 支 援 が 今 後 の 鍵 - 調 査 部 主 任 研 究 員 池 本 美 香 要 点 安 倍 政 権 は 女 性 の 活 躍 を 成 長 戦 略 の 中 核 と 位 置 付 け そのための 手 法 として 待 機 児 童 解 消 加 速 化 プラン 3 年 育 休 の 推 進 子 育 て 後 の 再 就 職 起 業 支 援 を 挙 げた 2013 年 の 参 院 選 の 公 約 では 女 性 が 輝 く 日 本 へ として 2020 年 ま でに 指 導 的 地 位 の 女 性 割 合 30% 以 上 の 目 標 を 掲 げる 本 稿 では 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 支 援 の 評 価 と 課 題 を 整 理 した 安 倍 政 権 が 女 性 の 活 躍 支 援 を 前 面 に 打 ち 出 していることは 積 極 的 に 評 価 できる 人 口 減 少 超 高 齢 社 会 に 突 入 したわが 国 が 経 済 活 力 や 社 会 保 障 制 度 を 維 持 してい く 上 で 出 産 後 の 退 職 が 多 いこと 女 性 役 員 や 女 性 起 業 家 の 割 合 が 極 めて 低 いこと などは 看 過 できない 問 題 であり 近 年 女 性 の 活 躍 支 援 は 海 外 からも 要 請 されてい る 女 性 の 活 躍 支 援 の 方 向 として 1 女 性 の 活 躍 と 出 生 率 向 上 の 両 立 を 重 視 しているこ とや 2 保 育 サービスに 偏 った 両 立 支 援 を 育 児 休 業 を 推 進 して 親 に 育 児 の 時 間 を 保 障 する 両 立 支 援 に 修 正 していく 方 向 が 見 られることも 評 価 できる しかし 具 体 的 な 手 法 については 課 題 が 多 い 3 年 育 休 の 推 進 を 中 心 に 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 支 援 を 点 検 すると 5 つの 問 題 点 が 指 摘 できる 第 一 に 3 年 育 休 は 専 ら 女 性 の 育 休 取 得 を 想 定 しており その 推 進 では 女 性 に 育 児 の 負 担 が 集 中 している 構 造 を 変 えることが 難 しい 女 性 活 躍 支 援 のために は 男 性 の 育 児 シェアが 重 要 であり そのためには 3 年 育 休 より 男 女 ともに 3 年 時 短 を 推 進 すべきである 第 二 に 実 際 に 育 休 が 取 得 できる 人 は 経 済 的 に 余 裕 のある 正 社 員 などに 限 定 され 非 正 社 員 や 無 業 者 の 増 加 に 対 する 配 慮 が 不 足 している 第 三 に 3 歳 以 上 の 子 どものいる 労 働 者 の 両 立 支 援 の 議 論 が 不 十 分 である 子 ども が 小 学 生 になると 母 親 の 就 業 継 続 が 困 難 になるという 小 1 の 壁 の 解 消 には 仕 事 と 育 児 の 両 立 支 援 制 度 の 対 象 を 小 学 生 以 上 にも 拡 大 する 議 論 が 求 められる 1
第 四 に 子 どもの 教 育 の 観 点 からの 議 論 が 不 十 分 である 諸 外 国 では 保 育 所 の 教 育 機 能 を 積 極 的 に 評 価 し 1 歳 から 保 育 所 を 利 用 する 権 利 を 法 律 で 保 障 する 動 きが 見 られる 第 五 に 女 性 の 就 業 率 向 上 といった 量 的 な 側 面 に 議 論 が 集 中 し 質 的 な 面 での 女 性 活 躍 支 援 が 十 分 検 討 されていない 3 年 育 休 は 女 性 のキャリア 形 成 にマイナ スとなる 可 能 性 が 高 い こうした 問 題 が 指 摘 できる 3 年 育 休 という 発 想 の 根 底 には 育 児 は 主 に 女 性 が 担 う ものという 価 値 観 があろう 3 年 育 休 のみならず 待 機 児 童 解 消 加 速 化 プラン を 見 ても 女 性 が 主 に 担 っている 育 児 を 男 性 ではなく 保 育 サービスで 代 替 する 方 向 や 女 性 が 労 働 時 間 を 調 整 する 方 向 に 重 点 が 置 かれている 翻 って 高 い 女 性 就 業 率 と 高 い 出 生 率 を 両 立 している 国 では 保 育 の 充 実 女 性 の 両 立 支 援 に 加 え 男 性 の 両 立 支 援 を 女 性 活 躍 支 援 の 重 要 な 柱 と 位 置 付 けている 安 倍 政 権 にはこ の 視 点 が 欠 けているように 思 われる 男 性 の 両 立 支 援 を 進 めるには 1 育 児 休 業 法 を 見 直 し 育 児 休 業 給 付 金 を 活 用 して 労 働 時 間 の 短 縮 をしやすくする 方 法 や 2 次 世 代 育 成 支 援 対 策 推 進 法 を 発 展 させ 企 業 の 取 り 組 みの 見 える 化 を 通 じて 企 業 の 自 主 的 な 取 り 組 みを 引 き 出 す 方 法 などが 考 えられる 女 性 の 就 業 率 出 生 率 がいずれも 高 い 国 では 時 間 当 たり 労 働 生 産 性 も 高 い 女 性 活 躍 支 援 による 経 済 活 性 化 に 向 けては 諸 外 国 と 比 較 して 低 い 時 間 当 たり 生 産 性 を どう 高 めるかについても 真 剣 に 検 討 すべきである 本 件 に 関 するご 照 会 は 調 査 部 池 本 美 香 宛 にお 願 いいたします Tel:03-6833-0477 Mail:ikemoto.mika@jri.co.jp 2
自 民 党 が 6 月 20 日 に 発 表 した 参 議 院 選 挙 公 約 2013 では 女 性 が 輝 く 日 本 へ として 女 性 活 躍 支 援 が 前 面 に 打 ち 出 されている 安 倍 政 権 は 昨 年 の 衆 院 選 マニフェストでも 女 性 力 の 発 揮 を 掲 げ 6 月 14 日 に 閣 議 決 定 された 日 本 再 興 戦 略 においても 女 性 の 活 躍 推 進 を 成 長 戦 略 の 中 核 と 位 置 付 けている 本 稿 では 安 倍 政 権 の 女 性 の 活 躍 支 援 に 向 けた 取 り 組 みの 評 価 と 今 後 の 課 題 について 考 察 する 1. 安 倍 政 権 が 掲 げる 女 性 活 躍 支 援 の 内 容 まず 安 倍 政 権 が 女 性 活 躍 支 援 について どのような 政 策 を 打 ち 出 してきたのかを 確 認 しておく (1)2012 年 度 自 民 党 政 権 公 約 2012 年 の 衆 院 選 の 公 約 では 経 済 成 長 の 項 目 の 中 で 女 性 力 の 発 揮 として 社 会 のあら ゆる 分 野 で 2020 年 までに 指 導 的 地 位 に 女 性 が 占 める 割 合 を 30% 以 上 とする 目 標 を 確 実 に 達 成 を 掲 げたほか 社 会 保 障 の 項 目 の 中 で 仕 事 と 家 庭 の 両 立 支 援 待 機 児 童 の 解 消 ゼロ 歳 児 に 親 が 寄 り 添 って 育 てることのできる 環 境 整 備 などを 挙 げた (2)2013 年 4 月 成 長 戦 略 スピーチ これを 受 けて 安 倍 首 相 は 2013 年 4 月 19 日 の 成 長 戦 略 スピーチ において 女 性 の 活 躍 を 成 長 戦 略 の 中 核 と 位 置 付 けた 上 で 待 機 児 童 解 消 加 速 化 プラン 3 年 間 抱 っこし 放 題 での 職 場 復 帰 支 援 子 育 て 後 の 再 就 職 起 業 支 援 の 3 つを 打 ち 出 した 待 機 児 童 解 消 加 速 化 プラン では 待 機 児 童 ゼロを 実 現 した 横 浜 方 式 を 全 国 に 横 展 開 し 今 後 2 年 間 で 約 20 万 人 分 保 育 需 要 のピークが 見 込 まれる 2017 年 度 末 までに 約 40 万 人 分 の 保 育 の 受 け 皿 を 新 たに 確 保 することを 打 ち 出 している 3 年 間 抱 っこし 放 題 での 職 場 復 帰 支 援 とは 企 業 に 対 して 自 主 的 な 3 年 育 休 を 要 請 したものである 子 育 て 後 の 再 就 職 起 業 支 援 として は インターンシップ 事 業 やトライアル 雇 用 制 度 起 業 創 業 時 の 資 金 援 助 が 挙 げられている (3)2013 年 6 月 日 本 再 興 戦 略 6 月 14 日 に 閣 議 決 定 された 新 たな 成 長 戦 略 日 本 再 興 戦 略 -JAPAN is BACK でも 女 性 の 活 躍 推 進 を 成 長 戦 略 の 中 核 と 位 置 付 けている 具 体 的 には 登 用 状 況 の 開 示 促 進 子 どもが 3 歳 にな るまでの 育 児 休 業 や 短 時 間 勤 務 の 推 進 次 世 代 育 成 支 援 対 策 推 進 法 の 延 長 強 化 の 検 討 男 性 の 家 事 育 児 等 への 参 画 促 進 テレワークの 普 及 長 時 間 労 働 の 抑 制 ベビーシッターなどの 経 費 負 担 の 軽 減 方 策 の 検 討 放 課 後 対 策 の 充 実 待 機 児 童 解 消 など 幅 広 い 項 目 が 盛 り 込 まれている (4) 参 議 院 選 挙 公 約 2013 2013 年 の 参 院 選 の 公 約 では 女 性 が 輝 く 日 本 へ として 2020 年 に 指 導 的 地 位 の 女 性 割 合 30% 以 上 の 目 標 に 加 え すべての 女 性 がそれぞれの 生 き 方 に 自 信 と 誇 りを 持 ち 様 々な 分 野 で 持 てる 力 を 最 大 限 発 揮 できる 社 会 の 実 現 就 業 継 続 に 向 けた 環 境 整 備 に 積 極 的 に 取 り 組 む 企 業 を 支 援 女 性 が 起 業 創 業 しやすい 環 境 作 り 地 域 コミュニティ 活 動 や NPO 活 動 等 を 応 援 などを 挙 げたほ か 出 産 子 育 てを 応 援 する 社 会 に として 待 機 児 童 解 消 加 速 化 プラン の 展 開 を 挙 げる 首 相 官 邸 ホームページでは 特 集 ページ 女 性 が 輝 く 日 本 へ も 開 設 され 女 性 が 輝 く 日 本 をつ 3
くるための 政 策 として 1 待 機 児 童 の 解 消 2 女 性 役 員 管 理 職 の 増 加 3 職 場 復 帰 再 就 職 の 支 援 4 子 育 て 後 の 起 業 支 援 について 解 説 されている 2. 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 支 援 の 評 価 (1) 女 性 活 躍 支 援 重 視 は 妥 当 このように 安 倍 政 権 が 女 性 の 活 躍 支 援 を 前 面 に 打 ち 出 していることは 積 極 的 に 評 価 できる 人 口 減 少 社 会 かつ 超 高 齢 社 会 1に 突 入 しているわが 国 が 経 済 活 力 や 社 会 保 障 制 度 を 維 持 していく ためには 女 性 が 支 え 手 として 期 待 され 女 性 活 躍 支 援 は 海 外 からも 要 請 されている 状 況 にある 2012 年 12 月 の OECD の 報 告 書 (Closing the Gender Gap: Act Now)では 日 本 の 女 性 の 現 状 として 出 産 後 の 退 職 が 多 いこと 復 職 を 望 んでも 低 賃 金 で 非 常 勤 の 職 に 就 くことが 多 いこと OECD 加 盟 国 のなかで 上 場 企 業 の 女 性 役 員 比 率 が 非 常 に 低 く( 図 表 1) 女 性 の 起 業 家 も 非 常 に 少 ないこと 夫 の 家 事 分 担 が 少 ないこと( 図 表 2)などが 改 めて 指 摘 され 労 働 市 場 における 男 女 平 等 が 実 現 すれば 今 後 20 年 で 日 本 の GDP は 20% 近 く 増 加 すると 予 測 している 2 あるいは 世 界 経 済 フォーラム(World Economic Forum, WEF)の 男 女 平 等 指 数 ランキングに おいても 日 本 は 2012 年 に 135 か 国 中 101 位 であり 前 年 の 98 位 からさらに 順 位 を 下 げている 分 野 別 のランキングでは 特 に 経 済 活 動 や 政 治 活 動 における 女 性 の 参 画 が 遅 れており 1 経 済 活 動 の 参 加 と 機 会 が 102 位 2 教 育 が 81 位 3 健 康 と 生 存 が 34 位 4 政 治 への 関 与 が 110 位 である ( 図 表 1) 上 場 企 業 における 女 性 役 員 比 率 (2009 年 ) ( 図 表 2) 無 償 労 働 ( 家 事 育 児 等 )にかける 時 間 ( 男 女 別 一 日 当 たり) (2) 新 たな 方 向 提 示 も 評 価 女 性 活 躍 支 援 の 方 向 として 1 女 性 の 活 躍 と 出 生 率 向 上 の 両 立 を 重 視 していること 2 保 育 所 整 備 一 辺 倒 の 施 策 ではなくワーク ライフ バランス 重 視 の 方 向 が 見 られること も 評 価 できる 1については わが 国 の 合 計 特 殊 出 生 率 は 1.41(2012 年 )と 2005 年 の 1.26 から 回 復 傾 向 に あるものの 依 然 として OECD 平 均 の 8 割 程 度 である 一 方 わが 国 の 女 性 の 就 業 率 は 全 体 と 1 65 歳 以 上 人 口 割 合 は 23.3%(2011 年 )ですでに 世 界 一 の 高 さにあり 2060 年 には 40%にまで 高 まると 予 測 され ている 一 方 生 産 年 齢 人 口 (15~64 歳 )は 8,134 万 人 (2011 年 )から 2060 年 には 4,418 万 人 に 4 割 以 上 減 少 すると 推 計 されている 2 そのほか NHK クローズアップ 現 代 女 性 が 日 本 を 救 う? (2012 年 10 月 17 日 )では 国 際 通 貨 基 金 (IMF) のラガルド 専 務 理 事 が 日 本 の 女 性 管 理 職 の 割 合 は 先 進 国 で 最 低 レベルにあり 日 本 の 国 民 一 人 当 たりの GDP が 女 性 の 参 加 によって 4~5% 増 加 すると 発 言 している 4
しては OECD 平 均 並 みであるのに 対 して 子 どものいる 女 性 の 就 業 率 は OECD 平 均 を 大 きく 下 回 っている 3 仕 事 と 育 児 の 両 立 が 困 難 な 状 況 を 残 したまま 女 性 の 就 業 を 推 進 すると 一 層 の 少 子 化 につながりかねない 多 くの 国 では 高 い 女 性 就 業 率 と 高 い 出 生 率 を 両 立 しており わが 国 におい ても 女 性 の 活 躍 推 進 と 出 生 率 の 向 上 の 両 立 という 視 点 は 重 要 である 2については これまで 女 性 の 活 躍 支 援 としては 保 育 サービスの 整 備 に 重 点 が 置 かれ 0 歳 児 保 育 の 増 加 や 保 育 の 長 時 間 化 などに 対 して 保 育 現 場 からは 子 どもに 及 ぼす 影 響 が 懸 念 されてきた 4 それに 対 して 自 民 党 は 0 歳 児 への 親 が 寄 り 添 う 育 児 を 推 進 しており 企 業 に 対 する 3 年 育 休 の 要 請 など 保 育 所 整 備 一 辺 倒 ではなく 親 に 仕 事 の 時 間 と 育 児 の 時 間 の 両 方 を 保 障 しようと いう 新 たな 視 点 を 提 示 している この 点 については すでに 前 回 の 安 倍 政 権 時 代 にも 積 極 的 な 取 り 組 みがあり 子 どもと 家 族 を 応 援 する 日 本 重 点 戦 略 検 討 会 議 において 働 き 方 分 科 会 が 設 けられ その 検 討 を 受 けて 2007 年 12 月 に 仕 事 と 生 活 の 調 和 (ワーク ライフ バランス) 憲 章 が 策 定 され 仕 事 と 生 活 の 調 和 推 進 のための 行 動 指 針 として 数 値 目 標 も 定 められた 3. 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 支 援 の 問 題 点 このように 安 倍 政 権 が 女 性 活 躍 支 援 に 積 極 的 に 取 り 組 もうとしていること およびその 方 向 に ついてはおおむね 評 価 できるが 具 体 的 な 手 法 については 課 題 も 残 る 以 下 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 支 援 のうち ワーク ライフ バランス 重 視 の 観 点 から 打 ち 出 された 3 年 育 休 の 推 進 を 中 心 に その 問 題 点 について 検 討 する (1) 3 年 育 休 推 進 の 内 容 安 倍 首 相 は 2013 年 4 月 19 日 の 成 長 戦 略 スピーチ において 女 性 の 活 躍 支 援 の 一 環 として 3 年 間 抱 っこし 放 題 での 職 場 復 帰 支 援 を 掲 げ 法 的 な 義 務 としてではなく 企 業 による 自 主 的 な 3 年 育 休 の 推 進 を 要 請 した 現 在 育 児 介 護 休 業 法 では 子 どもが 1 歳 5になるまで 父 母 両 方 6に 育 児 休 業 の 取 得 が 認 められており 休 業 中 には 雇 用 保 険 より 育 児 休 業 給 付 金 として 休 業 前 賃 金 の 50%が 支 給 される 仕 組 みとなっている しかし いまだに 第 一 子 出 産 後 に 有 職 女 性 の 約 6 割 が 仕 事 を 辞 めている 7 3 年 育 休 には 子 どもが 3 歳 になるまでは 育 児 に 専 念 し その 後 職 場 復 帰 するという 選 択 肢 を 可 能 とすることで 出 産 による 離 職 を 減 らそうという 狙 いがある 3 年 育 休 推 進 は 親 に 育 児 の 時 間 を 保 障 するという 点 では 評 価 できるが その 効 果 について 検 討 が 不 十 分 な 点 が 多 い 問 題 点 として 1 女 性 に 育 児 の 負 担 が 集 中 している 構 造 を 変 えることが できないこと 2 実 際 取 得 できる 人 は 極 めて 限 定 的 であること 33 歳 以 上 の 子 どものいる 女 性 の 活 躍 支 援 の 検 討 が 不 十 分 なこと 4 子 どもにとっての 効 果 が 十 分 検 討 されていないこと 5 女 性 の 活 躍 の 質 に 関 する 議 論 が 不 十 分 なこと が 挙 げられる 以 下 この 5 点 について 考 えてみたい 3 15~64 歳 の 女 性 の 就 業 率 は OECD 平 均 59.7%に 対 して 日 本 は 60.3%(2011 年 OECD Gender Initiative data browser)である 一 方 3 歳 未 満 の 子 どものいる 女 性 の 就 業 率 は OECD 平 均 の 51.4%に 対 して 日 本 は 29.8% である(2009 年 OECD Family Database Chart LMF1.2.B) 4 長 田 安 司 便 利 な 保 育 園 が 奪 う 本 当 はもっと 大 切 なもの など 5 特 例 として 両 親 がともに 育 児 休 業 をするなど 一 定 の 要 件 を 満 たす 場 合 は 1 歳 2 か 月 まで(パパ ママ 育 休 プラ ス) 保 育 所 に 入 れないなど 一 定 の 要 件 を 満 たす 場 合 は 1 歳 6 か 月 まで 延 長 できる 6 2009 年 の 法 改 正 により 配 偶 者 が 専 業 主 婦 ( 夫 )や 育 児 休 業 中 である 場 合 にも 取 得 できるようになった 7 内 閣 府 仕 事 と 生 活 の 調 和 (ワーク ライフ バランス)レポート 2012 概 要 版 p.4 5
(2) 男 性 の 育 児 シェアを 増 やすには 3 年 育 休 より 男 女 ともに 3 年 時 短 第 一 の 問 題 は 育 休 を 取 得 するのは 主 に 女 性 となり 実 質 的 に 女 性 に 育 児 の 負 担 が 集 中 する 構 造 が 変 わらないことである 3 年 育 休 は 男 女 共 に 子 育 てに 専 念 をうたっているが 男 性 側 に 変 革 を 促 す 発 想 が 希 薄 である 政 府 は 男 性 の 育 児 休 業 取 得 率 を 2020 年 に 13%にする 目 標 を 掲 げるが 現 在 の 育 休 取 得 率 は 女 性 83.6% 男 性 1.89%(2012 年 )と 男 性 の 取 得 は 極 めて 限 定 的 である ましてや 育 休 中 の 所 得 補 償 がない 状 況 では 3 年 育 休 を 取 得 できたとしても 女 性 に 取 得 が 集 中 することはほぼ 明 らかであろう それでは 女 性 の 活 躍 は 覚 束 ない 女 性 偏 重 から 脱 却 する 必 要 が あり そのためには 男 性 の 育 児 シェアが 不 可 欠 である そうした 男 性 の 育 児 シェアを 後 押 しする 施 策 は 育 休 に 限 らない 男 性 の 育 児 シェアを 増 やす 方 法 は 短 時 間 勤 務 制 度 所 定 外 労 働 免 除 労 働 時 間 の 繰 上 げ 繰 下 げ 在 宅 勤 務 フレックスタイ ム 制 など 多 様 な 方 法 がある 8 父 親 が 一 か 月 育 児 休 業 を 取 得 するよりも その 休 業 日 数 で 一 年 を 通 じた 週 2 日 1 日 2 時 間 の 時 短 の 方 が 女 性 の 活 躍 支 援 としては 効 果 的 ではないか 女 性 の 3 年 育 休 ではなく 男 女 ともに 3 年 時 短 とすべきなのである 時 短 には 一 日 の 労 働 時 間 の 短 縮 のほか 週 4 日 勤 務 や 隔 日 勤 務 など 日 数 で 調 整 する 方 法 もある また 短 時 間 勤 務 とフレックスタ イム 制 を 併 用 して より 柔 軟 性 を 高 める 方 法 もある 9 男 性 にとって 1 日 6 時 間 の 短 時 間 勤 務 でもハードルが 高 ければ 時 間 単 位 の 有 給 休 暇 の 取 得 や 週 1 日 だけ 6 時 間 勤 務 というかたちでも かなりの 前 進 となる 政 府 は 2020 年 の 年 次 有 給 休 暇 取 得 率 の 目 標 を 70%としているが 実 際 には 50% 前 後 で 推 移 しており その 背 景 には 年 次 有 給 休 暇 を 時 間 単 位 で 取 得 できる 企 業 が 1 割 に 満 たないといった 現 状 もある 10 男 性 の 育 児 のシェアを 増 やすため 選 択 肢 の 幅 を 広 げて 検 討 されなければならない (3) 取 得 できる 人 は 極 めて 限 定 的 第 二 の 問 題 は 企 業 が 3 年 育 休 を 認 めたとしても 取 得 できる 人 は 極 めて 限 定 されることである そもそも 育 児 休 業 の 対 象 とならない 期 間 の 定 めのある 雇 用 者 や 自 営 業 者 が 多 いことに 加 え 1 年 を 超 える 育 児 休 業 に 育 児 休 業 給 付 金 は 支 給 されない 代 わって 企 業 が 自 発 的 に 手 当 を 出 すことは 現 状 想 定 しにくいため 経 済 的 な 理 由 から 3 年 育 休 を 取 得 することは 極 めて 困 難 である 非 正 社 員 が 増 え 所 得 水 準 が 低 下 するなかで 3 年 育 休 の 恩 恵 は 収 入 に 余 裕 のある 正 社 員 に 限 定 される さらに 育 休 明 けに 保 育 所 が 利 用 できないかもしれないという 不 安 から 育 休 を 切 り 上 げざるを 得 ない 状 況 もある 都 市 部 では 待 機 児 童 問 題 が 深 刻 化 するなか 限 られた 認 可 保 育 所 の 枠 を 確 保 す るために 0 歳 から 認 可 保 育 所 に 預 ける あるいは 認 可 保 育 所 入 所 に 有 利 になるように 0 歳 から 認 可 外 保 育 施 設 に 預 ける 人 が 増 えている 政 府 としては 財 源 や 保 育 士 の 不 足 で 保 育 所 の 整 備 が 追 い 付 かないため 育 児 休 業 の 取 得 によって 保 育 ニーズを 抑 制 したいという 思 惑 もあるものと 考 えられ るが 個 人 レベルではむしろ 復 帰 の 時 期 を 早 めざるを 得 ない 状 況 がある (4)3 歳 以 上 の 子 どものいる 労 働 者 の 両 立 支 援 の 議 論 が 必 要 8 この 点 については 2009 年 に 育 児 介 護 休 業 法 が 改 正 され 2012 年 7 月 よりすべての 企 業 に 対 して 3 歳 未 満 の 子 どもを 持 つ 労 働 者 を 対 象 として 11 日 6 時 間 という 選 択 肢 を 含 む 短 時 間 勤 務 制 度 の 導 入 2 申 請 があった 場 合 の 所 定 外 労 働 の 免 除 が 義 務 付 けられたところである 9 企 業 の 導 入 事 例 などについては 21 世 紀 職 業 財 団 男 性 社 員 が 育 児 参 加 しやすい 職 場 づくりガイドブック が 参 考 となる 10 厚 生 労 働 省 就 労 条 件 総 合 調 査 6
第 三 の 問 題 は 3 歳 以 上 の 子 どもを 持 つ 労 働 者 に 子 育 ての 時 間 を 確 保 しながら 働 く 環 境 を 保 障 するという 視 点 がないことである 育 児 介 護 休 業 法 の 改 正 により 3 歳 までは 短 時 間 勤 務 と 所 定 外 労 働 免 除 が 義 務 化 されたが そのあとが 何 もない 小 学 生 が 放 課 後 に 過 ごす 学 童 保 育 は 保 育 所 よりも 終 了 時 刻 が 早 い 傾 向 が 指 摘 されており さら に 小 学 校 入 学 とともに PTA など 学 校 の 活 動 へ 親 の 協 力 を 求 められる 場 面 が 増 え むしろ 保 育 所 よ りも 親 の 負 担 が 増 すとの 声 もある こうしたことから 子 どもが 小 学 校 に 上 がると 母 親 が 仕 事 を 辞 めざるを 得 ない 小 1の 壁 の 存 在 も 指 摘 されている 昨 年 8 月 に 成 立 した 子 ども 子 育 て 関 連 3 法 により 学 童 保 育 の 対 象 年 齢 を 概 ね 10 歳 未 満 から 小 学 校 6 年 生 まで に 拡 大 することや 学 童 保 育 の 基 準 を 国 が 定 めることなどが 決 まったが 小 学 生 についても これまで 女 性 が 担 ってきた 育 児 をすべて 保 育 サービスでカバーするのではなく 父 親 と 母 親 でシェアする 方 向 を 打 ち 出 さなければ そこで 女 性 の 活 躍 が 阻 まれてしまう 3 歳 未 満 で 検 討 されている 仕 事 と 育 児 の 両 立 支 援 制 度 の 対 象 を 小 学 生 以 上 の 親 にも 広 げていくことの 議 論 が 必 要 である (5) 子 どもの 教 育 の 観 点 から 政 策 をチェックする 必 要 第 四 の 問 題 は 3 年 育 休 が 子 どもにどのような 影 響 を 及 ぼすのか という 議 論 がないことであ る 一 般 に 3 歳 までは 保 育 所 より 親 が 子 育 てに 専 念 することが 望 ましいという 見 方 があるが 昨 今 母 子 が 地 域 で 孤 立 し 専 業 主 婦 の 子 育 ての 負 担 感 が 強 まっていることが 問 題 視 されている 非 共 働 き 家 庭 や 育 児 休 業 中 の 親 子 に 対 し 乳 幼 児 の 健 全 な 育 成 のための 基 本 保 育 ともいうべき 新 たな 保 育 制 度 を 整 備 すべきとの 主 張 も 出 てきており 11 単 純 に 子 どもにとって 3 年 育 休 は 望 ま しいとは 言 えない 海 外 の 動 向 を 見 ると ノルウェーでは これまでは 保 育 所 を 利 用 せずに 家 庭 で 親 が 面 倒 をみてい る 場 合 に 2 歳 まで 在 宅 育 児 手 当 を 支 給 して 支 援 を 行 ってきたが 保 育 所 と 比 較 して 親 が 面 倒 を 見 ることが 必 ずしも 子 どもにとってプラスとは 限 らず 特 に 移 民 など 地 域 で 孤 立 しがちな 親 子 にと っては また 子 どもの 貧 困 の 予 防 という 観 点 からも 保 育 所 を 利 用 できることのメリットが 大 きい と 考 えられるようになった そのため 2009 年 以 降 すべての 子 どもに 1 歳 から 保 育 所 に 通 う 権 利 を 保 障 する 一 方 在 宅 育 児 手 当 は 2012 年 に 1 歳 までに 期 間 が 短 縮 された 1 2 歳 の 保 育 所 利 用 率 は 2001 年 の 37.7%から 2009 年 には 77.2%に 急 上 昇 している 1 歳 からの 保 育 所 利 用 の 権 利 保 障 は ドイツでも 2013 年 に 導 入 されている 12 わが 国 でも 地 域 における 母 子 の 孤 立 や 子 どもの 貧 困 が 問 題 となりつつあることを 考 えれば 3 年 育 休 の 推 進 より 子 どもにとって 何 が 望 ましいのか という 視 点 から 1 2 歳 の 保 育 所 の 充 実 にむしろ 力 を 入 れるべきであろう 子 どもの 教 育 の 観 点 からは 保 育 の 質 向 上 に 向 けた 取 り 組 みに 一 層 力 を 入 れる 必 要 がある そも そも 3 年 育 休 は 保 育 所 の 利 用 が 子 どもにとってプラスではないという 前 提 から 推 進 されてい るともいえるが 保 育 の 質 に 対 する 不 安 や 不 満 も 女 性 の 活 躍 を 阻 む 大 きな 要 因 である 2013 年 6 月 には 規 制 改 革 会 議 が 保 育 の 質 の 評 価 の 飛 躍 的 拡 充 を 打 ち 出 し 第 三 者 評 価 の 受 審 率 目 標 の 設 定 や 受 審 のコスト 負 担 のあり 方 の 検 討 などが 掲 げられた 13 保 育 所 は これまで 主 に 経 済 的 に 働 かなければ 生 活 できない 家 庭 の 利 用 が 想 定 されていたが 今 後 は 経 済 的 には 必 ずしも 働 く 必 要 はな 11 柏 女 霊 峰 子 ども 子 育 て 支 援 新 制 度 と 保 育 全 国 認 定 こども 園 協 会 トップセミナー2013 資 料 12 齋 藤 純 子 ドイツの 保 育 制 度 拡 充 の 歩 みと 展 望 レファレンス 2011 年 2 月 号 13 規 制 改 革 に 関 する 答 申 ~ 経 済 再 生 への 突 破 口 ~ 7
いが 自 分 の 能 力 を 生 かして 活 躍 したいという 将 来 の 役 員 候 補 の 利 用 も 想 定 しなければならない 保 育 に 関 しては 量 質 両 面 の 充 実 を 図 る 必 要 がある (6) 女 性 のさらなる 登 用 に 向 けた 議 論 が 必 要 第 五 の 問 題 は 女 性 の 就 業 率 と 出 生 率 の 向 上 といった 量 的 な 議 論 が 中 心 となっており 女 性 の 活 躍 の 質 的 な 側 面 についての 議 論 が 不 十 分 なことである 安 倍 政 権 は 2020 年 に 指 導 的 地 位 に 女 性 が 占 める 割 合 を 30% 以 上 という 目 標 を 掲 げるが どうやって 実 現 するのかのプロセスが 見 えない 3 年 育 休 の 推 進 で 完 全 に 3 年 ( 二 人 続 けての 出 産 であれば 6 年 )も 女 性 が 休 業 すると 専 門 的 な 技 術 が 求 められる 仕 事 や 業 務 の 変 化 の 激 しい 職 場 が 増 えるなか スキル 知 識 人 脈 など が 古 くなり 復 帰 後 に 役 立 たなくなってしまう 可 能 性 があり キャリアを 維 持 することは 難 しい わが 国 が 目 指 すべきは 女 性 就 業 率 の 向 上 にとどまらず 女 性 の 能 力 をいかに 高 めるか そしてそ の 能 力 をいかに 発 揮 してもらうか といった 質 的 な 議 論 を 合 わせて 行 うことである 例 えば 女 性 役 員 比 率 が 最 も 高 いノルウェー( 前 掲 図 表 1)では 2003 年 に 上 場 企 業 等 14の 役 員 の 4 割 を 女 性 とすることを 義 務 付 けることとあわせて 前 述 のとおり 在 宅 育 児 手 当 の 支 給 期 間 を 短 縮 し 1 歳 からすべての 子 どもに 保 育 所 に 通 う 権 利 を 法 的 に 保 障 した わが 国 の 3 年 育 休 推 進 は こうした 女 性 のキャリアを 重 視 するノルウェーの 動 きとは 逆 行 している 女 性 の 登 用 を 進 めるには 労 働 時 間 の 短 縮 のみならず あわせてテレワークなど 労 働 時 間 場 所 の 柔 軟 化 の 議 論 も 必 要 である 3 年 育 休 と 同 様 長 期 にわたる 労 働 時 間 短 縮 も 女 性 の 登 用 にマ イナスに 働 く 可 能 性 がある このため イギリスでは 労 働 時 間 の 短 縮 よりも フレックスタイム 在 宅 勤 務 等 労 働 時 間 や 場 所 の 柔 軟 化 によって 仕 事 と 育 児 の 両 立 を 図 ることに 重 点 が 置 かれてお り 女 性 の 役 員 比 率 は 比 較 的 高 い( 図 表 3) これに 対 してオランダは パートタイム 就 労 の 促 進 に より 女 性 の 就 業 率 はかなり 高 いが 一 方 で 女 性 役 員 比 率 はイギリスを 下 回 っている ( 図 表 3) 女 性 活 用 と 出 生 率 向 上 を 両 立 している 主 な 国 の 取 り 組 み 国 名 女 性 の 就 業 率 合 計 特 殊 出 生 率 3 歳 未 満 の 保 育 所 利 用 率 3 歳 未 満 の 週 平 均 保 育 時 間 保 育 への 公 的 投 資 の 対 GDP 比 男 性 の 無 償 労 働 時 間 ( 家 事 育 児 等 ) 上 場 企 業 における 女 性 役 員 比 率 時 間 当 た り 労 働 生 産 性 ノルウェー 73.4% 1.95 51.3% 32 時 間 1.2% 152 分 38.0% 1 位 政 策 の 特 徴 女 性 のキャリア 形 成 男 女 平 等 重 視 上 場 企 業 役 員 の4 割 以 上 を 女 性 と することを 義 務 付 け 1 歳 から 保 育 所 に 通 う 権 利 を 保 障 育 児 休 業 には 父 親 割 当 制 度 父 親 の 育 児 休 業 取 得 率 は90% オランダ 69.9% 1.80 55.9% 19 時 間 0.9% 163 分 4.8% 5 位 イギリス 65.3% 1.98 40.8% 16 時 間 1.1% 150 分 8.1% 16 位 短 時 間 労 働 を 重 視 正 社 員 の 身 分 でのパートタイム 労 働 を 可 能 に 父 母 で 育 児 を 担 い 保 育 時 間 を 短 くすることで 保 育 への 公 的 投 資 を 抑 制 世 帯 所 得 の 増 加 を 重 視 収 入 の 減 る 短 時 間 勤 務 より フレックスタイム 在 宅 勤 務 等 の 柔 軟 な 働 き 方 を 請 求 できる 権 利 を 保 障 日 本 60.3% 1.39 28.3% - 0.4% 59 分 3.9% 19 位 男 女 平 等 保 育 労 働 時 間 短 縮 労 働 時 間 柔 軟 化 いずれも 不 十 分 ( 注 )2011 年 ( 保 育 所 利 用 率 は2008 年 週 平 均 保 育 時 間 は2005 年 女 性 役 員 比 率 は2009 年 ) 労 働 生 産 性 はOECD34か 国 中 の 順 位 ( 資 料 )OECD Family Database 等 4. 女 性 活 躍 支 援 による 経 済 活 性 化 に 向 けて 以 上 3 年 育 休 推 進 を 中 心 に 安 倍 政 権 の 女 性 活 躍 支 援 の 問 題 点 について 見 てきた こうした 問 題 が 指 摘 される 3 年 育 休 という 発 想 の 根 底 には 育 児 は 主 に 女 性 が 担 うもの という 価 値 観 14 義 務 付 けの 対 象 は 国 営 企 業 地 方 公 共 団 体 が 所 有 する 企 業 協 同 組 合 組 織 上 場 会 社 ノルウェー 以 外 の 役 員 クオータ 制 については 内 閣 府 平 成 25 年 版 男 女 共 同 参 画 白 書 (p.44) 8
があるように 思 われる 3 年 育 休 のみならず 待 機 児 童 解 消 加 速 化 プラン を 見 ても 女 性 が 主 に 担 っている 育 児 を 男 性 ではなく 保 育 サービスで 代 替 する 方 向 や 女 性 が 労 働 時 間 を 調 整 する 方 向 に 重 点 が 置 かれている いずれも 必 要 な 施 策 ではあるが 前 者 に 頼 ることは 保 育 予 算 の 膨 張 を 招 き 後 者 に 頼 ることは 女 性 が 持 つ 能 力 を 生 かしきれないという 問 題 を 含 む このため 女 性 の 就 業 率 が 高 く 出 生 率 も 高 く さらに 指 導 的 な 立 場 にいる 女 性 の 割 合 も 高 い 国 では 保 育 の 充 実 女 性 の 両 立 支 援 に 加 え 男 性 の 両 立 支 援 を 女 性 活 躍 支 援 の 重 要 な 柱 と 位 置 付 けている( 前 掲 図 表 3) 安 倍 政 権 にはこの 視 点 が 欠 けている わが 国 でも 今 後 は 男 性 の 両 立 支 援 に 力 を 入 れる 必 要 がある 具 体 的 に 男 性 の 育 児 シェアを 増 やす 方 法 としては 1 男 性 も 育 児 をシェアしやすいように 労 働 法 制 を 見 直 すことと 2 企 業 の 自 発 的 な 取 り 組 みを 促 すことの 二 つがある (1) 育 児 休 業 給 付 金 を 活 用 した 労 働 時 間 の 短 縮 1については たとえば 育 児 休 業 として 認 められている 時 間 を 使 って 労 働 時 間 の 短 縮 が 可 能 とな るように 育 児 休 業 法 の 見 直 しを 検 討 すべきである 現 行 の 育 児 休 業 法 では 夫 は 妻 が 育 児 休 業 中 であっても 1 年 間 の 休 業 取 得 と 休 業 前 賃 金 の 50%の 育 児 休 業 給 付 金 を 受 け 取 る 権 利 がある 15 しかし 男 性 はその 権 利 をほぼすべて 放 棄 している 育 児 休 業 給 付 金 の 支 給 状 況 (2011 年 度 )を 見 ると 受 給 者 数 は 女 性 22 万 人 に 対 して 男 性 は 4,000 人 であり 一 人 あたりの 給 付 金 額 は 女 性 106 万 円 に 対 して 男 性 は 47 万 円 である 16 一 方 で 育 児 休 業 法 により 男 女 ともに 子 どもが 3 歳 になるまで 短 時 間 勤 務 制 度 を 利 用 する 権 利 が 保 障 されているが その 際 公 的 な 所 得 補 償 はなく 一 般 的 に 収 入 減 となるため 利 用 しにくい 男 性 の 育 児 のシェアを 増 やす 方 向 で 実 質 的 な 効 果 を 得 るためには 一 定 の 所 得 補 償 のある 短 時 間 勤 務 を 保 障 すべきである 父 親 の 育 児 休 業 取 得 率 が 90%に 達 しているノルウェーでは 育 児 休 業 中 の 所 得 補 償 が 休 業 前 賃 金 の 80%(52 週 )もしくは 100%(42 週 )と 高 く 1993 年 に 6 週 間 の 父 親 専 用 の 育 児 休 業 期 間 を 定 めたことで 取 得 率 が 高 まった(paternal quota) さらに 1994 年 には 育 児 休 業 として 認 められ ている 総 時 間 数 や 給 付 金 総 額 を 使 って 労 働 時 間 を 50% 60% 75% 90%のいずれかに 減 らす ことにより 取 得 期 間 を 延 長 できる 仕 組 み(time account)も 導 入 された 育 児 休 業 を 取 得 したり 労 働 時 間 を 短 縮 しても 収 入 が 減 らないため 父 親 の 育 児 シェアの 増 加 につながっている わが 国 でも 父 親 の 育 児 を 促 進 するために 育 児 休 業 として 認 められている 時 間 数 と 給 付 金 を 活 用 して 子 どもが 一 定 の 年 齢 になるまで 労 働 時 間 を 短 縮 でき かつ 一 定 の 所 得 補 償 が 得 られるよ うに 育 児 休 業 法 を 見 直 すことを 検 討 すべきである 2011 年 度 の 育 児 休 業 給 付 金 支 給 総 額 は 2,349 億 円 で うち 女 性 が 2,330 億 円 を 占 め 男 性 は 19 億 円 にすぎない 男 女 の 差 は 2,000 億 円 以 上 あ り これは 男 性 が 権 利 を 放 棄 している 育 児 休 業 給 付 金 の 規 模 ともいえる 男 性 の 育 休 取 得 のハード ルが 高 いならば この 2,000 億 円 を 活 用 して ノルウェーの 事 例 などを 参 照 しつつ 男 性 の 労 働 時 間 短 縮 を 進 める 方 が 現 実 的 であろう 現 在 わが 国 では 育 児 休 業 中 に 月 11 日 以 上 仕 事 をすると 育 児 休 業 給 付 金 が 支 給 されないため 育 児 休 業 中 にスキルを 維 持 できる 程 度 に 仕 事 をすることも 難 しい 政 府 は 育 児 休 業 中 にある 程 度 在 宅 勤 務 等 で 仕 事 ができるように 規 制 を 緩 和 することを 検 討 しているが こうした 取 り 組 みも 15 2009 年 の 育 児 休 業 法 改 正 で 労 使 協 定 を 定 めることにより 配 偶 者 が 専 業 主 婦 ( 夫 )や 育 児 休 業 中 である 場 合 等 の 労 働 者 からの 育 児 休 業 申 出 を 拒 める 制 度 が 廃 止 され 育 児 休 業 の 父 母 同 時 取 得 が 可 能 となった 16 雇 用 保 険 事 業 年 報 の 育 児 休 業 給 付 金 支 給 金 額 を 初 回 受 給 者 数 で 割 ったもの 9
女 性 のキャリア 形 成 に 資 することに 加 え 男 性 の 育 児 シェアを 高 める 施 策 としても 評 価 できる (2) 次 世 代 育 成 支 援 対 策 推 進 法 をどう 発 展 させるか 2については 企 業 の 取 り 組 みの 見 える 化 が 期 待 される 政 府 は 上 場 企 業 に 女 性 管 理 職 数 の 公 表 を 義 務 付 けることを 検 討 しているが むしろ 男 性 の 両 立 支 援 制 度 の 利 用 率 を 公 表 すべきでは ないか 女 性 活 躍 支 援 は 女 性 に 対 して 何 をするかに 目 が 向 かいがちだが 女 性 の 活 躍 には 男 性 が 育 児 をシェアする 必 要 があり 男 性 の 両 立 支 援 に 取 り 組 む 企 業 を 評 価 すべきである 2015 年 3 月 31 日 までの 時 限 立 法 である 次 世 代 育 成 支 援 対 策 推 進 法 ( 以 下 次 世 代 法 )では 企 業 に 次 世 代 育 成 に 関 する 行 動 計 画 の 策 定 を 義 務 付 け 男 性 の 育 児 休 業 取 得 者 がいるかなど 仕 事 と 育 児 の 両 立 支 援 が 一 定 レベル 以 上 にある 企 業 を 認 定 してきた そこで この 次 世 代 法 を 発 展 させ 第 一 に 企 業 の 取 り 組 み 状 況 の 情 報 公 開 を 義 務 付 けることを 検 討 すべきである 情 報 公 開 の 項 目 と しては 男 性 女 性 両 方 の 育 児 休 業 取 得 者 の 人 数 平 均 取 得 期 間 短 時 間 勤 務 制 度 所 定 外 労 働 免 除 在 宅 勤 務 フレックスタイムなどの 両 立 支 援 制 度 の 利 用 率 男 女 別 の 管 理 職 の 人 数 時 間 単 位 での 有 給 休 暇 取 得 の 可 否 など 男 性 の 両 立 支 援 の 取 り 組 みも 見 える 化 する 第 二 に 現 在 の 認 定 基 準 を これらについて 一 定 のレベルに 達 している 企 業 とする 方 向 で 見 直 すことが 期 待 される 企 業 の 自 主 的 な 取 り 組 みを 要 請 するというのでは 不 十 分 であり 現 行 の 次 世 代 法 をもとに より 実 質 的 な 企 業 の 取 り 組 みを 引 き 出 す 仕 掛 けが 求 められる この 点 韓 国 では 2008 年 に 一 定 の 規 模 以 上 の 事 業 主 に 対 して 職 場 保 育 施 設 の 設 置 を 義 務 化 し 2012 年 からは 義 務 を 履 行 していない 事 業 主 名 の 公 表 を 行 っている 女 性 活 躍 支 援 には 最 低 限 こうした 情 報 の 公 開 が 求 められよう なお 男 性 が 両 立 支 援 制 度 を 利 用 しにくい 理 由 には 収 入 減 だけでなく 人 事 評 価 への 影 響 もあ ると 考 えられる OECD からもわが 国 の 状 況 として 政 策 的 に 父 親 の 育 児 休 暇 を 奨 励 してはいて も 実 際 に 利 用 すれば 企 業 への 忠 誠 心 にかけると 思 われることを 恐 れるあまり 利 用 者 数 は 少 ない と 指 摘 されている 17 今 後 わが 国 が 仕 事 の 成 果 を 一 定 に 保 ちつつ 男 女 で 育 児 のための 時 間 を 捻 出 するには 時 間 あたり 労 働 生 産 性 を 高 めることも 重 要 な 課 題 であり 実 際 に 女 性 就 業 率 出 生 率 がいずれも 高 い 国 では 時 間 当 たり 生 産 性 が 高 い( 前 掲 図 表 3) 次 世 代 法 による 企 業 の 認 定 にあ たっては 賃 金 の 設 定 や 人 事 評 価 制 度 が 両 立 支 援 制 度 利 用 者 に 不 利 になっていないか 評 価 基 準 等 が 明 確 化 され 従 業 員 に 周 知 されているかなどを 認 定 基 準 に 加 えることも 検 討 すべきである 現 状 短 時 間 勤 務 制 度 を 利 用 することによって 昇 進 昇 格 の 人 事 考 課 において 不 利 益 な 評 価 を 行 うことは 指 針 で 禁 じられている 18 昇 給 昇 格 には 人 物 評 価 が 影 響 するため 短 時 間 勤 務 でもマ イナスに 影 響 することはないとする 企 業 もあり 短 時 間 勤 務 制 度 利 用 者 をプロジェクトのリーダー にしたところ チーム 全 体 の 効 率 化 につながったという 効 果 も 指 摘 されている 19 長 時 間 労 働 者 を 業 績 優 秀 者 から 除 外 する 等 により 時 間 生 産 性 を 重 視 する 組 織 風 土 に 変 革 した 結 果 全 体 の 労 働 時 間 が 削 減 できたという 事 例 もある 20 OECD もわが 国 に 対 し 部 下 が 休 暇 をとった 場 合 に 管 理 職 に 特 別 手 当 を 与 えることなどを 提 案 している 21 海 外 では 短 時 間 勤 務 管 理 職 も 存 在 する 17 OECD 日 本 再 生 のための 政 策 OECD の 提 言 2012 年 4 月 18 子 の 養 育 又 は 家 族 の 介 護 を 行 い 又 は 行 うこととなる 労 働 者 の 職 業 生 活 と 家 庭 生 活 との 両 立 が 図 られるようにす るために 事 業 主 が 講 ずべき 措 置 に 関 する 指 針 19 21 世 紀 職 業 財 団 短 時 間 勤 務 制 度 導 入 プラス 2010 年 6 月 20 内 閣 府 仕 事 と 生 活 の 調 和 (ワーク ライフ バランス)レポート 2012 p.80 21 注 17 に 同 じ 10
最 後 に OECD の 報 告 書 が 指 摘 しているように わが 国 では 女 性 が 復 職 を 望 んでも 低 賃 金 で 非 常 勤 の 職 に 就 くことが 多 いという 問 題 があり 最 近 では 大 学 を 卒 業 しても 男 女 ともに 正 規 の 職 に 就 けないという 問 題 も 指 摘 されている 3 年 育 休 とは 無 縁 の 非 正 規 雇 用 や 無 業 者 の 増 加 についても 女 性 活 躍 支 援 の 観 点 から 議 論 しなければならない 今 般 の 自 民 党 の 政 権 公 約 では 同 一 価 値 労 働 同 一 賃 金 を 前 提 に パートタイム 労 働 者 の 均 等 均 衡 待 遇 の 実 現 に 必 要 な 法 整 備 等 を 行 い 非 正 規 労 働 者 の 処 遇 を 改 善 としているが 重 要 な 論 点 である 安 倍 政 権 が 女 性 活 躍 支 援 に 力 を 入 れるのは 無 駄 にできる 労 働 力 はもはやないためである すべ ての 人 が 能 力 を 発 揮 できるにはどうしたらよいか 諸 外 国 と 比 較 して 低 い 時 間 当 たり 労 働 生 産 性 を どう 高 めるか 真 剣 に 検 討 すべきである 以 上 は 政 策 観 測 を 引 き 継 ぐ 形 で 政 策 イシュー 経 済 動 向 に 研 究 員 独 自 の 視 点 で 切 り 込 むレポートです 11