3.. 統 計 学 の 落 とし 穴 3.1 パラメトリック 手 法 とノンパラメトリック 手 法 データが 正 規 分 布 しない 時 はノンパラメトリック 手 法 を 適 用 せよ を 鵜 呑 みにしてはいけない 統 計 手 法 パラメトリック 手 法 ( 母 数 に 依 存 した 手 法 ) ノンパラメトリック 手 法 ( 母 数 に 依 存 しない 手 法 ) 要 約 値 : 平 均 値 標 準 偏 差 推 定 検 定 : t 検 定 要 約 値 : 中 央 値 順 位 平 均 割 合 推 定 検 定 : 順 位 検 定 χ 2 検 定 <パラメトリック 手 法 の 特 徴 > 母 集 団 のデータが 特 定 の 分 布 に 従 うことを 前 提 にしている 例 :t 検 定 母 集 団 のデータは 近 似 的 に 正 規 分 布 要 約 値 がデータの 分 布 状 態 を 反 映 する 分 布 状 態 によって 要 約 値 の 値 が 変 化 する 例 : 平 均 値 全 データの 重 心 を 表 すため 飛 び 離 れたデータも 反 映 結 果 の 精 度 が 高 い 結 果 の 普 遍 化 が 容 易 標 本 集 団 のデータを 特 定 の 分 布 をする 母 集 団 から 抽 出 されたものと 仮 定 して 計 算 するため 結 果 の 外 挿 がある 程 度 可 能 で 普 遍 化 しやすい <ノンパラメトリック 手 法 の 特 徴 > 母 集 団 のデータがどんな 分 布 をしていても 良 い 例 : 順 位 検 定 母 集 団 のデータに 順 位 さえ 付 けられれば 適 用 可 能 要 約 値 がデータの 分 布 状 態 を 反 映 しにくい 分 布 状 態 によって 要 約 値 の 値 が 変 化 しにくい 3-1
例 : 中 央 値 全 データの 中 央 の 値 を 表 すため 分 布 の 両 端 のデータは 反 映 しない 結 果 の 精 度 が 低 い 結 果 の 普 遍 化 は 困 難 母 集 団 について 特 定 の 仮 定 をせず 標 本 集 団 のデータに 基 づいて 計 算 するため 結 果 の 外 挿 が 不 可 能 で 結 果 を 普 遍 化 しにくい 統 計 学 の 解 説 書 などに データが 正 規 分 布 しない 時 はノンパラメトリック 手 法 を 適 用 しなければならない または データ 数 が 少 ない 時 はノンパラメトリック 手 法 を 適 用 しなければならない ということがよく 書 かれているが これを 鵜 呑 みにしてはいけない! < 理 由 1> 中 央 値 の 場 合 正 常 群 度 数 軽 症 群 中 症 群 重 症 群 中 央 値 平 均 値 投 与 前 血 圧 中 平 央 = 均 値 値 投 与 後 図 3.1 投 与 前 後 の 血 圧 分 布 血 圧 3-2
図 3.1 の 左 のグラフのように ある 集 団 の 中 に 血 圧 が 正 常 範 囲 の 正 常 者 ( 大 多 数 )と 血 圧 が 少 し 高 めの 軽 症 高 血 圧 患 者 ( 少 数 ) 血 圧 がもう 少 し 高 めの 中 症 高 血 圧 患 者 (かなり 少 数 ) 血 圧 がか なり 高 めの 重 症 高 血 圧 患 者 ( 非 常 に 少 数 )が 含 まれていたとする この 集 団 に 降 圧 剤 を 投 与 高 血 圧 症 患 者 だけ 血 圧 が 低 下 して 図 3.1 の 右 側 のグラフになった 大 多 数 の 正 常 者 の 血 圧 が 不 変 のため 中 央 値 は 不 変 平 均 値 は 低 下 集 団 全 体 として 降 圧 剤 の 効 果 があったと 見 るべきか なかったと 見 るべきか? 数 学 者 の 見 解 中 央 値 が 変 化 していないから 降 圧 剤 の 効 果 はなかった 図 3.1 の 左 側 の 全 体 の 分 布 を 見 ると 集 団 のデータは 正 規 分 布 していない このような 場 合 は 分 布 状 態 に 対 して 不 変 性 値 が 変 わらない 性 質 がある 中 央 値 の 方 が 平 均 値 よりも 数 学 的 に 意 義 があるから 要 約 値 として 中 央 値 を 採 用 医 学 研 究 者 の 見 解 平 均 値 が 低 下 したから 降 圧 剤 の 効 果 があった 図 3.1 の 左 側 の 全 体 の 分 布 を 見 ると 集 団 の 中 に 血 圧 の 高 い 人 が 少 し 含 まれているようだ こ のような 場 合 は 分 布 状 態 の 変 化 を 反 映 する 平 均 値 の 方 が 中 央 値 よりも 医 学 的 に 意 義 があるから 要 約 値 として 平 均 値 を 採 用 3-3
< 理 由 2> 順 位 検 定 の 場 合 データに 順 位 を 付 けて 平 均 値 の 代 わりに 順 位 平 均 を 検 定 する 6 異 常 上 昇 例 変 化 量 0 A 群 の 平 均 値 3 4 5 P 群 の 順 位 平 均 =4 P 群 の 平 均 値 A 群 の 順 位 平 均 =3 1 2 投 与 前 投 与 後 図 3.2 平 均 値 と 順 位 平 均 が 矛 盾 する 例 A 群 に 副 作 用 による 異 常 上 昇 例 が 発 生 した 場 合 平 均 値 を 評 価 指 標 にした 時 : A 群 は P 群 よりも 上 昇 したと 評 価 順 位 平 均 を 評 価 指 標 にした 時 : A 群 は P 群 よりも 低 下 したと 評 価 順 位 検 定 はデータの 実 測 値 には 実 質 科 学 的 な 意 味 がなく データの 順 位 や 順 位 平 均 だけが 実 質 科 学 的 な 意 味 を 持 つ 時 に 適 用 すべき 手 法 データの 実 測 値 ではなく 順 位 だけが 実 質 科 学 的 な 意 味 を 持 つデータは 最 初 から 順 位 として 定 義 されたデータ つまり 順 序 尺 度 のデータ 以 外 には 普 通 は 有 り 得 ない 場 合 によっては 順 序 尺 度 のデータを 計 量 尺 度 扱 いした 方 が 良 いこともある 3-4
順 序 尺 度 のデータを 計 量 尺 度 扱 いした 方 が 良 い 例 代 表 的 な 順 位 検 定 であるウィルコクソンの 順 位 和 検 定 は 外 れ 値 を 外 れ 値 ではなくして 解 析 す るために 開 発 された 手 法 そのため 次 のような 2 種 類 の 順 序 データに 適 用 すると 全 く 同 じ 結 果 に なる しかし 医 学 的 に 見 ると 2 種 類 の 効 果 判 定 結 果 は 明 らかに 違 っている! < 薬 剤 の 効 果 判 定 -1> 群 著 明 改 善 改 善 不 変 悪 化 著 明 悪 化 計 薬 剤 1 投 与 群 0 40 40 0 0 80 薬 剤 2 投 与 群 40 0 0 40 0 80 計 40 40 40 40 0 160 Wilcoxonの 順 位 和 検 定 (2 標 本 検 定 Mann-WhitneyのU 検 定 ) 正 規 分 布 z=0 有 意 確 率 p=1 < 薬 剤 の 効 果 判 定 -2> 群 著 明 改 善 改 善 不 変 悪 化 著 明 悪 化 計 薬 剤 1 投 与 群 0 40 40 0 0 80 薬 剤 2 投 与 群 40 0 0 0 40 80 計 40 40 40 0 40 160 Wilcoxonの 順 位 和 検 定 (2 標 本 検 定 Mann-WhitneyのU 検 定 ) 正 規 分 布 z=0 有 意 確 率 p=1 著 明 改 善 を 1 改 善 を 2 不 変 を 3 悪 化 を 4 著 明 悪 化 を 5 と 数 量 化 し 対 応 のない t 検 定 を 適 用 すると 次 のような 結 果 になる 医 学 的 に 見 ると こちらの 検 定 結 果 の 方 が 合 理 的! 薬 剤 の 効 果 判 定 -1 薬 剤 1 投 与 群 : 平 均 値 =2.5 標 準 偏 差 =0.5 標 準 誤 差 =0.06 薬 剤 2 投 与 群 : 平 均 値 =2.5 標 準 偏 差 =1.5 標 準 誤 差 =0.17 対 応 のない t 検 定 :t o =0 p=1 薬 剤 の 効 果 判 定 -2 薬 剤 1 投 与 群 : 平 均 値 =2.5 標 準 偏 差 =0.5 標 準 誤 差 =0.06 薬 剤 2 投 与 群 : 平 均 値 =3.0 標 準 偏 差 =2.0 標 準 誤 差 =0.23 対 応 のない t 検 定 :t o =2 p=0.0338* 3-5
< 理 由 3> 正 規 分 布 は 理 想 分 布 であり 厳 密 に 正 規 分 布 するデータは 現 実 には 存 在 しない 理 想 気 体 のような 気 体 は 現 実 には 存 在 しない 大 部 分 の 気 体 は 近 似 的 に 理 想 気 体 とみなすことが 可 能 ( 理 想 気 体 を 用 いたモデル 化 ) 理 想 気 体 の 状 態 方 程 式 を 当 てはめて 結 果 を 求 める 現 実 の 気 体 が 理 想 気 体 からどの 程 度 はずれているかを 考 慮 して 結 果 を 解 釈 理 想 気 体 で 計 算 した 結 果 を 現 実 の 気 体 に 適 用 同 様 に 正 規 分 布 するデータは 現 実 には 存 在 しない 大 部 分 のデータは 近 似 的 に 正 規 分 布 とみなすことが 可 能 ( 正 規 分 布 を 用 いたモデル 化 ) 正 規 分 布 を 当 てはめて 結 果 を 求 める 現 実 のデータが 正 規 分 布 からどの 程 度 はずれているかを 考 慮 して 結 果 を 解 釈 正 規 分 布 で 計 算 した 結 果 を 現 実 のデータに 適 用 統 計 手 法 を 決 定 するのは 要 約 値 の 種 類 であり 要 約 値 を 決 定 する 最 も 重 要 な 要 因 は データの 分 布 状 態 に 関 する 数 学 的 な 判 断 ではなく 実 質 科 学 的 な 判 断 3-6
3.2 対 数 正 規 分 布 データの 分 布 が 対 数 正 規 分 布 に 似 ているからといって 無 闇 に 対 数 変 換 をしてはいけない 度 数 最 頻 値 中 央 値 平 均 値 図 3.3 給 与 分 布 全 社 員 一 律 5% の 賃 上 げをする 賃 上 げ 前 の 給 与 が 高 い 社 員 ほど 実 際 の 賃 上 げ 金 額 は 高 い 給 与 分 布 は 対 数 正 規 分 布 に 近 づく 対 数 正 規 分 布 (ジブラ 分 布 ) 対 数 変 換 したデータが 正 規 分 布 をする 分 布 データ 間 に 比 例 関 係 がある 比 例 尺 度 のデータ 変 動 係 数 が 一 定 対 数 変 換 した 時 の 平 均 値 を 指 数 変 換 して 元 に 戻 すと 幾 何 平 均 値 と 一 致 する 平 均 値 中 央 値 最 頻 値 が 一 致 しない 通 常 対 数 正 規 分 布 はデータを 対 数 変 換 してから 統 計 手 法 を 適 用 する 医 学 薬 学 分 野 で 取 り 扱 うデータは 分 布 の 形 が 対 数 正 規 分 布 に 似 ているものが 多 い その 場 合 はデータを 対 数 変 換 してから 統 計 手 法 を 適 用 する という 三 段 論 法 には 注 意 が 必 要! 3-7
常 用 対 数 変 換 したデータが 薬 剤 投 与 前 後 で 1 増 加 投 与 前 の 実 測 値 1 投 与 後 実 測 値 10 投 与 前 後 で 実 測 値 は 9 上 昇 投 与 前 の 実 測 値 10 投 与 後 実 測 値 100 投 与 前 後 で 実 測 値 は 90 上 昇 医 学 的 な 意 義 が 同 じでなければならない! 意 義 が 違 う 時 は 対 数 変 換 後 の 平 均 値 は 無 意 味 医 学 分 野 で 扱 う 集 団 は 図 3.1 のように 多 数 の 正 常 者 少 数 の 軽 度 の 患 者 かなり 少 数 の 中 等 度 の 患 者 非 常 に 少 数 の 重 症 の 患 者 が 混 ざっていることが 多 い 集 団 全 体 のデータは 右 裾 が 長 くなり 見 かけ 上 は 対 数 正 規 分 布 のように 見 える このような 集 団 に 降 圧 剤 を 投 与 すると 患 者 の 血 圧 だけが 低 下 し 投 与 後 のデータは 正 規 分 布 に 近 づくことが 多 い 正 常 群 度 数 軽 症 群 中 症 群 重 症 群 中 央 値 平 均 値 投 与 前 血 圧 中 平 央 = 均 値 値 投 与 後 図 3.1 投 与 前 後 の 血 圧 分 布 血 圧 データの 分 布 が 対 数 正 規 分 布 に 似 ているからといって 実 質 科 学 的 な 意 義 を 考 慮 せずに 無 闇 に 対 数 変 換 をしてはいけない 3-8
3.3 差 と 比 の 使 い 分 け データの 差 と 比 は 実 質 科 学 的 な 意 義 を 考 慮 して 使 い 分 ける y y y=α+x y=x y=x 後 値 d=y-x y=βx 後 値 d=y-x 45 α 前 値 x 前 値 (1) 比 に 変 換 するデータ (2) 差 に 変 換 するデータ x 図 3.4 前 値 と 後 値 の 散 布 図 処 置 前 後 のデータは 対 応 のある 2 標 本 データになり 普 通 は 前 後 の 差 つまり 変 化 量 や 前 後 の 比 つまり 前 値 に 対 する 率 または 変 化 率 に 変 換 し 1 標 本 にして 統 計 処 理 する 変 化 量 ( 前 後 の 差 ): 前 値 が 後 値 に 影 響 を 与 えないという 暗 黙 の 前 提 で 計 算 低 下 量 10: 前 値 が 10 の 時 も 100 の 時 も 10 低 下 するという 意 味 前 値 x と 後 値 y の 間 に y=α+β x という 直 線 関 係 がある 時 変 化 量 d は d=y x=(α+β) x x=α+(β 1)x より β=1( 直 線 の 傾 きが 45 )の 時 d=α となって 前 値 x とは 無 関 係 になる 図 3.4(2)の 場 合 間 隔 尺 度 的 変 化 率 ( 変 化 量 の 比 ): 前 値 と 変 化 量 が 比 例 するという 暗 黙 の 前 提 で 計 算 低 下 率 10%: 前 値 が 10 の 時 は 1 低 下 し 100 の 時 は 10 低 下 するという 意 味 3-9
値 x と 後 値 y の 間 に y=α+β x という 直 線 関 係 がある 時 変 化 率 d(%)は d (%)= d x α+(β 1)x 100= 100={ α x x +(β 1)} 100 より α=0( 直 線 が 原 点 を 通 る)の 時 d(%)=(β-1) 100 となって 前 値 x とは 無 関 係 になる 図 3.4(1)の 場 合 比 例 尺 度 的 前 値 と 後 値 の 比 r は となり d(%)は r に 帰 着 する r= y x =α+β x = α x x +β d (%)= y x x 100=(r 1) 100= { α x +(β 1) } 100 差 変 化 量 または 比 変 化 率 に 変 換 する 時 は 前 値 と 後 値 の 関 係 を 散 布 図 で 確 認 してから 妥 当 な 方 を 選 択 する どちらが 妥 当 かわからない 時 は 変 化 量 の 方 が 無 難 比 と 割 合 と 率 の 定 義 比 (ratio):お 互 いに 相 手 を 含 まない 別 々の 値 を 割 ったもの 分 子 と 分 母 の 値 の 単 位 を 組 み 合 わせた 次 元 を 持 ち 値 に 制 限 はない 例 :A/G 比 (アルブミンをグロブリンで 割 った 値 ) BMI( 体 重 を 身 長 の 平 方 で 割 った 値 ) 割 合 (proportion): 分 子 が 分 母 に 含 まれる 分 数 次 元 を 持 たず 0~1 の 間 の 値 になる 例 : 有 効 率 ( 有 効 例 数 を 全 例 数 で 割 った 値 ) 有 病 率 ( 疾 病 の 患 者 数 を 全 人 口 で 割 った 値 ) 率 (rate): 単 位 あたりの 変 化 量 単 位 の 逆 数 の 次 元 を 持 ち 値 に 制 限 はない 例 : 変 化 率 ( 単 位 量 あたりの 変 化 量 ) 反 応 速 度 ( 単 位 時 間 あたりの 反 応 量 ) 3-10
3.4 リスク 差 とリスク 比 の 使 い 分 け 3. 統 計 学 の 落 とし 穴 リスク 比 は 小 さなリスクを 顕 微 鏡 で 拡 大 して 検 討 するような 指 標 4 2 1 0.5 0.25 喫 煙 飲 酒 性 別 図 3.5 リスク 比 と 95% 信 頼 区 間 リスク 差 ( 絶 対 危 険 度 ) : 危 険 因 子 有 群 の 疾 患 発 症 率 p + と 危 険 因 子 無 群 の 疾 患 発 症 率 p - の 差 RD=p + p - リスク 比 ( 相 対 危 険 度 ) : 危 険 因 子 有 群 の 疾 患 発 症 率 p + と 危 険 因 子 無 群 の 疾 患 発 症 率 p - の 比 RR= p + p - 寄 与 リスク 割 合 ( 寄 与 リスク) : 危 険 因 子 有 群 における 危 険 因 子 による 発 症 例 の 割 合 AR %= p + p - 100= RR 1 p + RR 100 リスク 比 は 発 症 率 が 大 きいと 相 対 的 に 小 さな 値 になり 発 症 率 が 小 さいと 相 対 的 に 大 きな 値 に なりやすい 値 リスクの 絶 対 値 が 小 さい 時 に リスクのわずかな 差 を 顕 微 鏡 で 拡 大 して 検 討 するよ うな 指 標 リスクの 絶 対 値 を 皮 膚 感 覚 で 理 解 している 医 学 研 究 者 はリスク 比 を 正 しく 評 価 できるが 3-11
普 通 の 人 はリスク 比 を 正 しく 評 価 するのが 難 しいので 注 意 が 必 要! < 例 > 心 臓 病 に 対 するタバコのリスク タバコは 心 臓 病 のリスクファクターであり リスク 比 は 2 である タバコを 吸 っていると 心 臓 病 にかかる 危 険 性 が 2 倍 になる! タバコを 吸 っていない 人 の 心 臓 病 の 発 症 率 は 1% で タバコを 吸 っている 人 の 心 臓 病 の 発 症 率 は 2% タバコのリスク 差 は 1% であり タバコを 吸 うと 心 臓 病 の 発 症 率 が 1% 増 加 する タバコを 吸 っていない 人 が 100 人 いるとその 中 の 1 人 だけが 心 臓 病 になる その 100 人 が 全 員 タバコを 吸 うと 心 臓 病 にかかる 人 が 1 人 増 えて 2 人 になる リスク 比 が 2 未 満 の 時 マスコミ 報 道 等 では 寄 与 リスク 割 合 の 代 わりにリスク 比 の 増 加 率 を 全 面 に 出 す 時 があるので 要 注 意! タバコのリスク 比 は 1.1 である タバコを 吸 っているとリスクが 10% も 増 加 する! タバコを 吸 っていない 人 の 発 症 率 が 1% の 時 実 際 のリスク 差 は 0.1% タバコを 吸 っていない 人 が 1000 人 いるとその 中 の 10 人 が 発 症 する その 1000 人 が 全 員 タバコを 吸 うと 発 症 する 人 が 1 人 増 えて 11 人 になる リスク 比 が 2.1 の 時 は リスクが 110%も 増 加 する! ということになり 何 となくウソ 臭 いので 普 通 はこの 増 加 率 を 用 いた 表 現 はしない 3-12
3.5 標 準 偏 差 と 変 動 係 数 の 使 い 分 け 3. 統 計 学 の 落 とし 穴 標 準 偏 差 と 変 動 係 数 はデータの 値 とバラツキの 関 係 を 考 慮 して 使 い 分 ける 偏 差 偏 差 0 σ μ 0 μ σ σ : μ に 正 比 例 して 変 化 する σ : 一 定 CV: 一 定 CV: μ に 反 比 例 して 変 化 する (1) CV を 使 うデータ (2) 標 準 偏 差 を 使 うデータ 図 3.6 標 準 偏 差 と 変 動 係 数 変 動 係 数 (CV:coefficient of variation) 平 均 値 に 対 する 標 準 偏 差 の 率 CV= SD m 男 女 50 人 について 体 重 を 測 定 し 平 均 値 と 標 準 偏 差 が 次 のようになった 時 男 性 :60±12kg( 変 動 係 数 20%) 女 性 :40±10kg( 変 動 係 数 25%) データのバラツキがデータの 値 と 比 例 する 時 女 性 の 方 がデータのバラツキが 大 きい データのバラツキがデータの 値 と 比 例 しない 時 男 性 の 方 がデータのバラツキが 大 きい 標 準 偏 差 と 変 動 係 数 はデータの 値 とバラツキの 関 係 を 考 慮 して 使 い 分 ける どちらが 妥 当 かわからない 時 は 標 準 偏 差 の 方 が 無 難 3-13
3.6 尺 度 合 わせ 尺 度 合 わせは 無 闇 にしない 方 が 良 い 全 般 改 善 度 薬 剤 著 明 改 善 中 等 度 改 善 軽 度 改 善 不 変 悪 化 計 改 善 率 クダラン 8 12 45 35 0 100 65.0 プラセボ 0 25 25 35 15 100 50.0 全 体 :ウィルコクソンの 順 位 和 検 定 z o =2.052 p=0.0402 * 軽 度 改 善 以 上 を 改 善 とした 時 の 改 善 率 :χ 2 検 定 (2 2) χ o2 =4.010 p=0.0452 * 50 クダラン 群 100% 例 数 割 合 50 著 明 中 軽 不 等 度 変 度 悪 化 プラセボ 群 100% 改 善 非 改 善 例 数 割 合 著 明 上 表 では 軽 度 改 善 以 上 を 改 善 とすることによって 順 序 尺 度 のデータを 名 義 尺 度 のデータ に 変 換 している 尺 度 合 わせの 典 型 例 中 軽 不 悪 等 度 変 化 度 図 3.7 全 般 改 善 度 の 度 数 分 布 図 改 善 非 改 善 3-14
軽 度 改 善 以 上 を 改 善 不 変 以 下 を 非 改 善 として 改 善 率 を 求 める 著 明 改 善 中 等 度 改 善 軽 度 改 善 医 学 的 な 意 義 は 全 て 同 じで 改 善 と 判 定 不 変 悪 化 医 学 的 な 意 義 は 全 て 同 じで 非 改 善 と 判 定 なぜ 最 初 から 改 善 と 非 改 善 の 2 段 階 で 判 定 しなかったのか? 医 学 的 に 意 義 があると 判 断 したから 5 段 階 で 判 定 したのではないのか? 改 善 率 は 単 なる 目 安 5 段 階 評 価 の 結 果 だけを 信 頼 するべき 改 善 率 は 単 なる 目 安 にすぎないのであまり 信 頼 できない その 証 拠 に 中 等 度 改 善 以 上 を 改 善 とした 時 の 改 善 率 は 結 果 が 逆 転 する クダラン 群 の 改 善 率 : 20% プラセボ 群 の 改 善 率 : 25% レベルの 高 い 尺 度 のデータほど 多 くの 情 報 を 持 っている その 情 報 のある 面 だけを 取 り 上 げた のが 尺 度 合 わせ 別 々の 方 法 で 尺 度 を 合 わせれば 別 々の 結 果 になるのは 当 然 尺 度 合 わせが 実 質 科 学 的 に 意 義 を 持 つ 場 合 実 験 途 中 で 計 画 段 階 には 予 測 していなかった 事 態 が 発 生 し どうしても 評 価 基 準 を 変 えざるを 得 なくなった 場 合 その 場 合 は 元 の 評 価 基 準 による 結 果 が 実 質 科 学 的 な 意 義 を 持 たなくなる 尺 度 合 わせをした 結 果 だけを 信 頼 するべき このような 場 合 本 来 は 新 しい 評 価 基 準 でもう 一 度 実 験 をやり 直 すべきである 原 則 として 尺 度 合 わせは 行 わず データが 持 っている 情 報 を 最 大 限 有 効 に 利 用 することが 大 切 3-15
3.7 外 れ 値 外 れ 値 を 簡 単 に 除 外 してはいけない 異 常 値 か? データの 順 位 1 2 3 4 5 6 7 8 順 位 にすると 外 れ 値 が 外 れ 値 ではなくなる 図 3.8 外 れ 値 の 例 外 れ 値 (o utlie r) 異 常 値 の 処 理 方 法 (1) 外 れ 値 の 原 因 を 調 べ それに 応 じて 除 外 するか 除 外 しないかを 検 討 する (2) 外 れ 値 を 含 めて 統 計 解 析 を 行 った 時 の 結 果 と 外 れ 値 を 除 外 して 統 計 解 析 を 行 っ た 結 果 を 比 較 検 討 する ( 感 度 分 析 ) (3) そのまま 統 計 解 析 を 行 う (4) データに 順 位 を 付 け 順 位 を 用 いて 統 計 処 理 を 行 う ウィルコクソンが 順 位 和 検 定 を 開 発 したのは 外 れ 値 の 処 理 に 困 ったため (5) 棄 却 検 定 によって 外 れ 値 を 検 定 し 有 意 ならば 除 外 して 統 計 解 析 を 行 う 薬 剤 の 副 作 用 は 本 質 的 に 異 常 値 これを 除 外 すると 副 作 用 のある 薬 剤 はなくなってしまう 過 去 の 科 学 上 の 発 見 の 多 くは 外 れ 値 について 真 剣 に 検 討 したからこその 結 果 レントゲンに よる X 線 の 発 見 フレミングによるペニシリンの 発 見 パスツールによるワクチンの 発 見 等 々 外 れ 値 はまだ 知 られていない 新 しい 現 象 かもしれないので 無 闇 に 除 外 せず 原 因 を 検 討 することが 大 切 3-16
3.8 ハンディキャップ 方 式 の 有 意 性 検 定 3. 統 計 学 の 落 とし 穴 非 劣 性 検 定 を 同 等 性 検 定 の 代 わりに 使 ってはいけない 実 質 科 学 的 同 等 範 囲 δ* δ* μ < 統 計 的 劣 性 < μ 統 計 的 優 越 μ L m μ U 非 同 値 μ L m μ U μ< - δ* 実 質 的 劣 性 - δ* < μ 非 劣 性 μ < +δ* 非 優 越 +δ* < μ 実 質 的 優 越 実 質 的 同 等 - δ* < μ < 非 劣 性 だけど 統 計 的 劣 勢 < μ < - δ* 統 計 的 優 越 だけど 非 優 越 - δ* +δ* 図 3.9 ハンディキャップ 方 式 の 有 意 性 検 定 非 同 値 検 定 を 基 準 値 にした 有 意 性 検 定 95% 信 頼 区 間 の 下 限 μ L が よりも 大 きい( 有 意 ): 統 計 的 優 越 = 非 同 値 95% 信 頼 区 間 の 上 限 μ U が よりも 小 さい( 有 意 ): 統 計 的 劣 性 = 非 同 値 同 等 性 検 定 を 基 準 値 にし 95% 信 頼 区 間 幅 を δ* 以 下 にした 統 計 的 仮 説 検 定 95% 信 頼 区 間 の 下 限 μ L が よりも 大 きい( 有 意 ): 統 計 的 優 越 = 非 同 値 95% 信 頼 区 間 の 上 限 μ U が よりも 小 さい( 有 意 ): 統 計 的 劣 性 = 非 同 値 95% 信 頼 区 間 の 中 に 基 準 値 が 含 まれる( 有 意 ではない): 実 質 的 同 等 優 越 性 検 定 または 非 優 越 性 検 定 +δ*を 基 準 値 にした 有 意 性 検 定 95% 信 頼 区 間 の 下 限 μ L が +δ*よりも 大 きい( 有 意 ): 実 質 的 優 越 3-17
95% 信 頼 区 間 の 上 限 μ U が +δ*よりも 小 さい( 有 意 ): 実 質 的 非 優 越 劣 性 検 定 または 非 劣 性 検 定 -δ*を 基 準 値 にした 有 意 性 検 定 95% 信 頼 区 間 の 上 限 μ U が -δ*よりも 小 さい( 有 意 ): 実 質 的 劣 性 95% 信 頼 区 間 の 下 限 μ L が -δ*よりも 大 きい( 有 意 ): 実 質 的 非 劣 性 ハンディキャップ 方 式 の 有 意 性 検 定 は 有 意 性 検 定 に 統 計 的 仮 説 検 定 の 考 え 方 を 一 部 導 入 し たもので 基 本 的 に 必 要 例 数 の 計 算 ( 例 数 設 計 )をする 必 要 はない 薬 業 界 には 非 同 値 検 定 のことを 優 越 性 検 定 と 呼 び 同 等 性 検 定 の 代 わりに 非 劣 性 検 定 を 行 うという 悪 しき 慣 習 がある そして 新 薬 と 標 準 薬 を 比 較 して 新 薬 の 有 効 性 が 非 劣 性 検 定 で 非 劣 性 になり 安 全 性 などが 非 同 値 検 定 で 統 計 的 優 越 つまり 非 同 値 になれば 新 薬 にはメリットがある と 結 論 する 欺 瞞 が 横 行 している 図 3.9 を 見 れば 新 薬 が 標 準 薬 と 実 質 的 に 同 等 でもこの 結 論 が 導 けてしまうことがわかる そしてこのようにして 許 可 された 新 薬 を 標 準 薬 として 次 の 新 薬 の 試 験 を 行 うという 手 順 を 繰 り 返 すと 数 回 後 には 最 初 の 標 準 薬 と 比 較 すると 実 質 的 に 劣 性 な 新 薬 が 許 可 されてしまう! δ* δ* δ* μ L 医 学 的 同 等 範 囲 δ* δ* m 非 劣 性 μ U 非 劣 性 非 劣 性 非 劣 性 μ +δ* 0 - δ* 4 回 目 3 回 目 2 回 目 の の の 図 3.10 標 準 薬 に 対 する 非 劣 性 検 定 の 非 合 理 性 3-18
非 劣 性 検 定 を 同 等 性 検 定 の 代 わりに 使 用 してはいけないし 非 同 値 検 定 を 優 越 性 検 定 の 代 わりに 使 用 してもいけない 非 劣 性 検 定 は 優 越 性 検 定 とペアで 使 用 しなければならない 3-19