2016.5.31 第 20 号 マタニティ ハラスメント(マタハラ)への 対 応 - 妊 娠 出 産 育 児 等 を 理 由 とする 不 利 益 取 扱 いの 違 法 性 - POINT ❶ 妊 娠 出 産 等 を 理 由 とする 不 利 益 取 扱 いは 違 法 です 梅 田 総 合 法 律 事 務 所 弁 護 士 古 賀 健 介 弁 護 士 望 月 康 平 ❷ 使 用 者 には 妊 娠 中 の 女 性 が 請 求 した 場 合 他 の 軽 易 な 業 務 に 転 換 させる 義 務 があ ります ❸ 最 高 裁 は 妊 娠 中 の 軽 易 業 務 への 転 換 をきっかけとして 降 格 措 置 をとることは 原 則 として 違 法 と 判 断 しました 1 はじめに 厚 生 労 働 省 の 発 表 によれば 職 場 でのマタニティ ハラスメント( 妊 娠 出 産 等 を 理 由 とする 不 利 益 取 扱 い 通 称 マタハラ 1 )の 相 談 件 数 は 年 々 増 加 しているとのことです 近 年 マタハラの 問 題 は マスコミ 等 でも 頻 繁 に 取 り 上 げられるようになっています 平 成 26 年 10 月 妊 娠 中 の 軽 易 業 務 への 転 換 をきっかけとして 降 格 措 置 をとることは 原 則 と して 違 法 とする 最 高 裁 判 決 2 が 出 ました この 判 決 を 受 けて 厚 生 労 働 省 は 平 成 27 年 1 月 関 連 法 規 の 解 釈 通 達 の 改 正 等 を 行 いました 同 年 11 月 には この 判 決 の 差 戻 し 審 において 女 性 側 が 逆 転 勝 訴 しています マタハラの 問 題 は 社 会 的 に 大 きな 転 機 を 迎 えているといえるでしょう 本 稿 では 平 成 26 年 最 高 裁 判 決 の 事 案 とその 判 断 枠 組 みを 簡 潔 に 紹 介 して 妊 娠 出 産 育 児 等 に 関 連 する 職 場 での 不 利 益 取 扱 いがどのような 場 合 に 違 法 になるのか 見 ていきます 1 マタハラ に 確 立 された 定 義 はないと 思 われますが 本 稿 では 厚 生 労 働 省 が 用 いている 用 法 と 同 じ 意 味 で 用 いる こととします 2 最 高 裁 判 所 第 一 小 法 廷 平 成 26 年 10 月 23 日 最 高 裁 判 所 民 事 判 例 集 68 巻 8 号 1270 頁
2 平 成 26 年 最 高 裁 判 決 この 事 件 は 広 島 市 内 の 病 院 に 理 学 療 法 士 として 勤 務 していた 女 性 が 妊 娠 を 理 由 に 副 主 任 の 地 位 を 免 除 する 措 置 ( 管 理 職 の 地 位 と 職 務 手 当 を 喪 失 )を 受 けたことや 職 場 復 帰 後 も 副 主 任 に 任 用 されないこと 等 を 理 由 として 病 院 に 対 し 職 務 手 当 や 慰 謝 料 等 約 175 万 円 の 支 払 いを 求 めたものです 一 審 二 審 は 病 院 側 が 女 性 の 希 望 を 受 けて 訪 問 リハビリ 業 務 から 病 院 リハビリ 業 務 (より 身 体 的 負 担 が 小 さいとされていた)に 異 動 させたこと 異 動 の 約 半 月 後 に 副 主 任 の 免 除 につい て 渋 々ながらも 了 解 を 得 ていたこと 等 を 理 由 として 違 法 といえないと 判 断 しました 女 性 側 の 敗 訴 判 決 ( 請 求 棄 却 判 決 )でした しかし 最 高 裁 は この 判 決 を 破 棄 し 新 たな 判 断 枠 組 みに 基 づいて 再 度 判 断 するよう 事 件 を 高 裁 に 差 し 戻 しました 最 高 裁 が 示 した 判 断 枠 組 みのポイントは 次 のとおりです 原 則 : 妊 娠 中 の 軽 易 業 務 への 転 換 を 契 機 とする 降 格 措 置 は 原 則 として 違 法 である( 男 女 雇 用 機 会 均 等 法 9 条 3 項 違 反 ) 例 外 1: 労 働 者 の 自 由 な 意 思 に 基 づいて 降 格 を 承 諾 したものと 認 めるに 足 りる 合 理 的 な 理 由 が 客 観 的 に 存 在 するとき 3 は 違 法 といえない 例 外 2: 降 格 することなく 軽 易 業 務 に 転 換 させることに 業 務 上 の 必 要 性 から 支 障 がある 場 合 その 措 置 が 男 女 雇 用 機 会 均 等 法 の 趣 旨 目 的 に 実 質 的 に 反 しないと 認 められるとき 4 の2つの 要 件 を 満 たすときは 違 法 といえない この 判 断 枠 組 みの 前 提 として 妊 娠 中 の 軽 易 業 務 の 転 換 それ 自 体 が 違 法 とされている わけではありません 労 働 基 準 法 65 条 3 項 は 使 用 者 は 妊 娠 中 の 女 性 が 請 求 した 場 合 にお いては 他 の 軽 易 な 業 務 に 転 換 させなければならない としており 軽 易 な 業 務 への 転 換 請 求 に 応 じることは 使 用 者 の 義 務 です ここでは 妊 娠 中 の 軽 易 業 務 への 転 換 を 契 機 とする 降 格 措 置 が 原 則 として 違 法 とされているのです 要 するに 最 高 裁 の 判 断 枠 組 みにおいては 妊 娠 出 産 をきっかけとして 配 置 転 換 が 行 われる 際 降 格 という 待 遇 面 のマイナスを 伴 う 場 合 には 原 則 として 違 法 となる と 解 されます 例 外 的 に 違 法 とはならない 場 合 ( 例 外 1 2)の 判 断 方 法 にも 注 意 が 必 要 です 労 働 者 の 承 諾 があったかどうか や その 措 置 に 業 務 上 の 必 要 性 があったかどうか といった 単 純 な 基 準 ではありません この 判 断 基 準 においては 脚 注 3 4で 示 したように 個 々の 事 情 を 考 慮 して 総 合 的 に 判 断 が 行 われることになります もっとも 例 外 1 2が 認 められるのはかなり 限 定 的 な 場 面 であると 思 われます 実 際 差 戻 し 審 は この 最 高 裁 の 判 断 枠 組 みに 基 づいて 病 院 の 措 置 を 違 法 と 判 断 し ほぼ 女 性 側 の 請 求 通 りの 賠 償 を 病 院 に 命 じました 差 戻 し 審 の 判 決 は 女 性 が 副 主 任 の 地 位 の 免 3 例 外 1は 軽 易 業 務 への 転 換 や 降 格 により 受 ける 有 利 不 利 な 影 響 降 格 により 受 ける 不 利 な 影 響 の 内 容 や 程 度 事 業 主 による 説 明 の 内 容 等 の 経 緯 や 労 働 者 の 意 向 等 に 照 らして 判 断 するとされています 4 例 外 2のうち 法 の 趣 旨 目 的 に 実 質 的 に 反 していないかどうかは その 措 置 の 必 要 性 の 内 容 程 度 措 置 による 有 利 不 利 な 影 響 の 内 容 程 度 に 照 らして 判 断 するとされています
除 を 承 諾 したこと 自 体 は 認 めながらも 女 性 が ( 副 主 任 の) 解 任 の 説 明 を 受 け 不 満 であった が 精 神 的 なストレスが 続 くことも 不 安 であったので 仕 方 ないと 思 った という 心 情 を 抱 いていたこ とについて 進 んであるいは 心 から 納 得 して 副 主 任 免 除 を 受 け 容 れたとはいえない 等 として 例 外 1にあたらないと 判 断 しました 一 審 二 審 が 本 人 の 同 意 があった として 適 法 と 判 断 した ことと 対 照 的 です 最 高 裁 の 判 断 枠 組 みが 示 されたことにより 一 審 二 審 の 判 断 が 覆 り 女 性 側 の 逆 転 勝 訴 と なったのです 3 妊 娠 出 産 育 児 に 関 連 する 解 釈 通 達 平 成 26 年 最 高 裁 判 決 を 受 けて 平 成 27 年 1 月 厚 生 労 働 省 は 関 連 法 規 の 解 釈 通 達 を 改 正 しました 改 正 後 の 解 釈 通 達 5 は 違 法 となる 場 合 の 基 準 を 明 確 化 しようと 試 みています 厚 生 労 働 省 が 発 表 している Q&A 6 では 最 高 裁 の 判 断 枠 組 みのうち 妊 娠 中 の 軽 易 業 務 への 転 換 を 契 機 として 降 格 措 置 をとること の 契 機 として というのはいかなる 場 合 であるかについて 原 則 として 妊 娠 出 産 育 休 等 の 事 由 の 終 了 から1 年 以 内 に 不 利 益 取 扱 いがなされた 場 合 は 契 機 として いると 判 断 する 等 としています(ただし 例 外 あり) なお 厚 生 労 働 省 は 解 釈 通 達 改 正 前 から 下 表 のような 違 法 なマタハラの 具 体 例 を 挙 げて いましたが 7 ここで 挙 げられている 例 が 改 正 後 に 変 更 されるわけではない としています 以 下 のような 事 由 を 理 由 として 妊 娠 中 産 後 の 女 性 労 働 者 の 妊 娠 出 産 妊 婦 健 診 などの 母 性 健 康 管 理 措 置 産 前 産 後 休 業 軽 易 な 業 務 への 転 換 つ わ り 切 迫 流 産 な ど で 仕 事 が で き な い 労 働 能 率 が 低 下 育 児 時 間 時 間 外 労 働 休 日 労 働 深 夜 業 をしない 子 どもを 持 つ 労 働 者 の 育 児 休 業 短 時 間 勤 務 子 の 看 護 休 暇 以 下 のような 不 利 益 取 扱 いを 行 うことは 違 法 解 雇 雇 い 止 め 契 約 更 新 回 数 の 引 き 下 げ 退 職 や 正 社 員 を 非 正 規 社 員 とするような 契 約 内 容 変 更 の 強 要 降 格 減 給 賞 与 等 における 不 利 益 な 算 定 不 利 益 な 配 置 変 更 不 利 益 な 自 宅 待 機 命 令 昇 進 昇 格 の 人 事 考 課 で 不 利 益 な 評 価 を 行 う 仕 事 をさせない もっぱら 雑 務 をさせるなど 就 業 環 境 を 害 する 行 為 をする 時 間 外 労 働 深 夜 業 をしない 5 平 成 27 年 1 月 23 日 付 け 雇 児 発 0123 第 1 号 改 正 雇 用 の 分 野 における 男 女 の 均 等 な 機 会 及 び 待 遇 の 確 保 等 に 関 する 法 律 の 施 行 について 及 び 育 児 休 業 介 護 休 業 等 育 児 又 は 家 族 介 護 を 行 う 労 働 者 の 福 祉 に 関 する 法 律 の 施 行 について の 一 部 改 正 について 6 厚 生 労 働 省 妊 娠 出 産 育 児 休 業 等 を 理 由 とする 不 利 益 取 扱 いに 関 するQ&A 7 厚 生 労 働 省 妊 娠 出 産 等 を 理 由 とする 不 利 益 取 扱 いに 関 する 解 釈 通 達 について
日 常 の 職 場 の 中 で これはマタハラなのでは? どこからがマタハラ? 等 と 思 われること があるかもしれませんが 違 法 かどうかという 点 に 限 定 すれば 厚 生 労 働 省 の 見 解 では 少 なく とも 上 表 の 左 側 の 事 情 が 生 じた 後 1 年 以 内 に 右 側 の 不 利 益 取 扱 いが 行 われた 場 合 は 原 則 として 違 法 となると 考 えられます 単 に 労 働 者 が 異 議 を 述 べなかったから( 黙 示 の 承 諾 があったから) や 会 社 の 都 合 上 必 要 だったから といった 理 由 では 適 法 ( 最 高 裁 の 判 断 枠 組 みの 例 外 1 2に 該 当 する)とはい えないでしょう 前 記 の 平 成 26 年 最 高 裁 判 決 の 事 案 の 差 戻 し 審 の 判 決 も 女 性 が 不 利 益 取 扱 いを 承 諾 していたとの 病 院 の 反 論 に 対 して 女 性 が 進 んであるいは 心 から 納 得 して 受 け 容 れ たもの ではないと 指 摘 し その 他 の 事 情 を 総 合 的 に 考 慮 した 上 で 病 院 の 措 置 を 違 法 と 判 断 し ています 4 おわりに 本 稿 では 主 に 妊 娠 出 産 育 児 をきっかけにした 不 利 益 取 扱 いが 原 則 として 違 法 であるこ とについて 説 明 してきましたが この 他 にも 事 業 主 には 産 休 育 休 を 与 える 義 務 や( 労 働 基 準 法 65 条 育 児 介 護 休 業 法 6 条 ) 妊 娠 時 出 産 後 の 時 間 外 労 働 深 夜 労 働 に 関 する 規 制 ( 労 働 基 準 法 66 条 ) 休 憩 時 間 に 関 する 規 制 ( 同 法 67 条 )もあります 社 会 の 少 子 高 齢 化 が 進 む 中 今 後 も 妊 娠 出 産 育 児 に 関 する 法 制 度 の 整 備 が 進 むこと が 予 想 されます 従 業 員 の 妊 娠 出 産 育 児 に 関 して 使 用 者 が 果 たすべき 責 任 は 今 後 益 々 大 きくなっていくと 思 われます 許 可 なく 転 載 することはお 控 え 下 さい このニュースレターは 郵 送 から PDF ファイルでのメール 配 信 に 変 更 可 能 です PDF ファイルで 送 信 したニュースレタ ーは 貴 社 内 で 転 送 共 有 いただいて 差 し 支 えありません お 気 軽 にお 申 し 出 ください
TPPと 言 えば 関 税 の 撤 廃 の 対 象 品 目 範 囲 などが 華 々しく 議 論 されていましたが 実 は 各 国 の 競 争 政 策 につい ても 規 定 があるのをご 存 知 でしょうか( 条 文 については TPP 政 府 対 策 本 部 のホームページをご 参 照 下 さい) 中 で も 次 の 規 定 が 注 目 されます CHAPTER16 Article16.2.5 Each Party shall authorize its national competition authorities to resolve alleged violations voluntarily by consent of the authority and the person subject to the enforcement action. ( 締 約 国 は 調 査 対 象 者 との 合 意 により 違 反 の 疑 いのある 行 為 について 任 意 に 解 決 する 権 限 を 自 国 の 競 争 当 局 に 与 えるものとする ) この 規 定 を 受 け 独 禁 法 違 反 の 疑 いがある 行 為 について 公 取 委 と 事 業 者 との 間 の 合 意 により 解 決 する 仕 組 み ( 確 約 手 続 )を 導 入 する 旨 の 独 禁 法 改 正 案 が 国 会 に 提 出 されました 確 約 手 続 が 導 入 されると 公 取 委 が 独 禁 法 違 反 の 疑 いのある 行 為 を 発 見 したとき 必 要 と 認 める 場 合 に 事 業 者 に 対 して 通 知 をします これに 対 して 事 業 者 が 自 ら 排 除 措 置 を 計 画 して 申 請 し これが 十 分 なもので 確 実 に 実 施 さ れると 見 込 まれるならば 公 取 委 は 排 除 措 置 命 令 や 課 徴 金 納 付 命 令 を 行 いません 確 約 手 続 は 事 業 者 にとって 自 主 的 な 排 除 措 置 により 公 取 委 の 調 査 への 対 応 コストが 節 約 でき 独 禁 法 違 反 の 認 定 を 回 避 することが 可 能 となるなどのメリットがあるものと 思 われます 今 後 もTPPと 独 禁 法 改 正 案 の 行 方 に 注 目 する 必 要 があるでしょう ( 弁 護 士 西 口 健 太 ) 530-0004 大 阪 市 北 区 堂 島 浜 1 丁 目 1 番 5 号 大 阪 三 菱 ビル 6 階 TEL : 06-6348-5566( 代 ) FAX : 06-6348-5516 http://www.umedasogo-law.jp