60 秒 でわかるプレスリリース 2006 年 5 月 15 日 独 立 行 政 法 人 理 化 学 研 究 所 家 族 性 変 形 性 股 関 節 症 の 原 因 遺 伝 子 が 存 在 する 領 域 を 発 見 - 変 形 性 関 節 症 の 発 症 の 原 因 の 解 明 につながる 新 たな 一 歩 - 日 本 人 の 700 万 人 から 1,000 万 人 が 苦 しんでいる 重 大 な 疾 患 の 一 つに 変 形 性 関 節 症 があります この 疾 患 は 骨 関 節 の 病 気 の 中 で 最 も 発 症 頻 度 が 高 く 膝 股 手 脊 椎 など 全 身 のさまざまな 関 節 を 侵 して 関 節 の 痛 みや 腫 れ( 俗 に 言 うに 水 が 溜 まると いう 状 態 ) 歩 行 障 害 など 厄 介 な 症 状 を 引 き 起 こします 中 高 年 の 日 常 生 活 を 脅 か す 最 大 の 病 気 と 言 われています また 年 齢 と 共 に 病 気 に 罹 る 割 合 が 増 加 するので 高 年 齢 化 社 会 の 大 きな 問 題 となっています 遺 伝 子 多 型 研 究 センター 変 形 性 関 節 症 関 連 遺 伝 子 研 究 チームは この 病 気 が 4 世 代 にわたって 発 症 している 日 本 人 大 家 系 を 見 出 し 病 因 となる 遺 伝 子 が 第 13 番 染 色 体 の 長 腕 に 存 在 することを 発 見 しました 更 に この 遺 伝 子 の 存 在 部 位 を 十 数 個 の 遺 伝 子 を 含 む 非 常 に 狭 い 領 域 にまで 絞 り 込 みました この 領 域 内 の 遺 伝 子 を 解 析 すること で 原 因 遺 伝 子 の 同 定 ひいては 変 形 性 関 節 症 の 成 因 や 病 態 の 解 明 画 期 的 医 療 につ ながることが 期 待 されます
報 道 発 表 資 料 2006 年 5 月 15 日 独 立 行 政 法 人 理 化 学 研 究 所 家 族 性 変 形 性 股 関 節 症 の 原 因 遺 伝 子 が 存 在 する 領 域 を 発 見 - 変 形 性 関 節 症 の 発 症 の 原 因 の 解 明 につながる 新 たな 一 歩 - ポイント 大 家 系 のゲノム 解 析 でゲノム 上 の 原 因 遺 伝 子 の 存 在 部 位 を 発 見 臼 蓋 (きゅうがい) 形 成 不 全 を 伴 う 関 節 症 の 原 因 遺 伝 子 は 第 13 番 染 色 体 長 腕 に 存 在 ゲノム 創 薬 オーダーメイド 医 療 へのさらなる 一 歩 独 立 行 政 法 人 理 化 学 研 究 所 ( 野 依 良 治 理 事 長 )は 変 形 性 股 関 節 症 の 原 因 遺 伝 子 の ひとつが 第 13 番 染 色 体 に 存 在 することをつきとめました 理 研 遺 伝 子 多 型 研 究 セ ンター( 中 村 裕 輔 センター 長 ) 変 形 性 関 節 症 関 連 遺 伝 子 研 究 チーム 池 川 志 郎 チー ムリーダー 馬 淵 (まぶち) 昭 彦 研 究 員 らの 研 究 チームによる 成 果 です 変 形 性 関 節 症 は 関 節 の 軟 骨 に 変 性 を 生 じ 痛 みや 歩 行 障 害 を 起 こす 疾 患 です 骨 関 節 の 疾 患 の 中 で 最 も 頻 度 の 高 い 疾 患 で 日 本 だけでも 700 万 人 から 1,000 万 人 の 患 者 がこの 疾 患 に 苦 しんでいます 股 関 節 は 変 形 性 関 節 症 が 起 こりやすい 関 節 の 一 つ で 股 関 節 の 骨 盤 側 の 部 分 ( 臼 蓋 (きゅうがい))の 形 に 異 常 が 見 られる 臼 蓋 形 成 不 全 が 変 形 性 関 節 症 の 発 症 に 強 く 関 係 しています 変 形 性 関 節 症 及 びその 前 駆 病 変 の 臼 蓋 形 成 不 全 には 遺 伝 的 素 因 があるとされていましたが その 詳 細 はこれまでほ とんど 不 明 でした 今 回 パラメトリック 連 鎖 解 析 1 という 手 法 を 臼 蓋 形 成 不 全 を 伴 う 変 形 性 股 関 節 症 の 日 本 人 大 家 系 に 用 いることで この 家 系 の 変 形 性 股 関 節 症 の 原 因 遺 伝 子 が 第 13 番 染 色 体 の 長 腕 に 存 在 することを 発 見 しました 更 に ハプロタイプ 解 析 2 という 手 法 により この 遺 伝 子 の 存 在 部 位 は 十 数 個 の 遺 伝 子 が 含 まれる 非 常 に 狭 い 領 域 であ るという 絞 り 込 みも 完 了 しています 今 後 この 領 域 の 遺 伝 子 を 解 析 することで 原 因 遺 伝 子 の 同 定 ひいては 変 形 性 関 節 症 の 成 因 や 病 態 の 解 明 画 期 的 医 療 につながるこ とが 期 待 されます 本 研 究 成 果 は 米 国 人 類 遺 伝 学 会 の 機 関 誌 American Journal of Human Genetics 7 月 号 に 発 表 されます 1. 背 景 変 形 性 関 節 症 (OA: osteoarthritis)は 関 節 の 軟 骨 が 変 性 消 失 し 関 節 の 痛 み や 機 能 の 障 害 を 引 き 起 こす 疾 患 です 骨 関 節 の 疾 患 の 中 で 最 も 頻 度 の 高 い 疾 患 のひとつで 日 本 だけでも 約 700-1,000 万 人 の 患 者 がいると 推 定 されています 同 じように 関 節 の 炎 症 を 起 こす 関 節 リウマチ の 約 10 倍 もの 患 者 がいます OAは 膝 股 手 脊 椎 など 全 身 の 様 々な 関 節 を 犯 し 痛 み 腫 れ( 関 節 水 腫 俗 に 言 う 関 節 に 水 が 溜 まる という 状 態 ) 可 動 域 ( 関 節 の 動 きの 範 囲 )の 低 下 歩 行 機 能 の 障 害 などの 様 々なやっかいな 症 状 を 引 き 起 こします 中 高 年 者 の 日 常 生 活 動 作 (ADL: Activities of Daily Living) 生 活 の 質 (QOL:Quality of Life)の 障 害 を 引 き 起 こす 最 大 の 原 因 のひとつです OAの 有 病 率 は 年 齢 と 共 に 増 加 し 70
歳 以 上 では 軽 いものを 含 めると 30% 近 くがOAに 罹 (かか)っているという 統 計 もあります よって OAは 高 齢 化 社 会 の 大 きな 課 題 のひとつであると 言 えます しかし OAの 発 症 の 根 本 的 な 原 因 や 病 態 は 知 られておらず 有 効 な 治 療 法 がない のが 現 状 です 疫 学 調 査 などにより OAは 遺 伝 的 因 子 と 環 境 因 子 の 相 互 作 用 により 発 症 する 多 因 子 遺 伝 病 生 活 習 慣 病 であることが 明 らかになっています 研 究 チームでは このOAの 遺 伝 的 因 子 すなわちOAの 原 因 遺 伝 子 を 解 明 しようと 研 究 を 続 けてきま した 既 に アスポリンやカルモヂュリン 1 を 世 界 に 先 駆 けて 発 見 し 報 告 してい ます(2005 年 1 月 プレス 発 表 : 変 形 性 関 節 症 の 原 因 遺 伝 子 を 世 界 で 初 めて 発 見 ) しかし 多 因 子 遺 伝 病 であるOAには この 2 つ 以 外 にも 多 くの 遺 伝 子 が 関 与 して おり それらの 遺 伝 子 を 見 つけ 出 すことが 大 きな 課 題 となっていました 2. 研 究 手 法 と 成 果 4 世 代 にわたる OA の 大 家 系 を 発 見 研 究 チームは 臨 床 機 関 と 協 力 し 臼 蓋 形 成 不 全 を 伴 ったOAが 4 世 代 にわたって 発 症 している 大 家 系 を 見 出 しました 病 状 病 歴 の 詳 細 な 検 討 レントゲン 学 的 な 解 析 により この 家 系 では メンデル 式 の 常 染 色 体 優 性 遺 伝 3 の 遺 伝 形 式 で 臼 蓋 形 成 不 全 が 起 こっていることがわかりました( 図 1) 臼 蓋 形 成 不 全 を 持 つ 家 系 のメン バーは 思 春 期 に 早 くも 股 関 節 の 痛 みや 違 和 感 を 経 験 していました その 後 40 歳 前 後 にOAを 発 症 し 50 歳 代 で 末 期 のOAとなり 人 工 股 関 節 手 術 を 受 けることに なりました( 図 2) この 家 系 には 股 関 節 以 外 にはOAはみられませんでした また 臼 蓋 形 成 不 全 股 関 節 OA 以 外 には 全 く 異 常 はなく 身 長 も 一 般 人 と 変 わりありま せん パラメトリック 連 鎖 解 析 パラメトリック 連 鎖 解 析 という 手 法 により この 家 系 で OA を 起 こしている 原 因 遺 伝 子 を 調 べました これは 遺 伝 子 多 型 をゲノム 上 の 位 置 のマーカーに 用 いて 家 系 内 で 病 気 とこのマーカーの 世 代 間 での 伝 達 を 調 べることで 原 因 遺 伝 子 のゲノム 上 の 位 置 を 突 き 止 める 方 法 です 病 気 の 原 因 遺 伝 子 は 病 気 と 一 緒 に 親 から 子 に 伝 わっていき 病 気 の 人 は 原 因 遺 伝 子 を 持 っていて 病 気 でない 人 は 持 っていないは ずです よって ゲノム 上 をくまなく 調 べて 病 気 の 人 にあって 病 気 でない 人 に ないマーカーを 捜 すことで 原 因 遺 伝 子 の 存 在 部 位 を 突 き 止 めることができます マイクロサテライトという 2 塩 基 の 繰 り 返 しからなる 遺 伝 子 多 型 をマーカーにして ゲノムをスクリーニングしました ゲノム 全 体 をカバーする 約 400 個 のマーカーを 用 いて 家 系 内 の 患 者 8 人 非 患 者 9 人 計 17 人 のゲノムを 解 析 した 結 果 第 13 番 染 色 体 に 原 因 遺 伝 子 が 存 在 していることを 突 き 止 めました 遺 伝 子 領 域 の 決 定 次 に 多 点 連 鎖 解 析 4 という 遺 伝 統 計 学 的 方 法 で 高 密 度 のマーカーを 用 いて 第 13 番 染 色 体 を 更 に 詳 細 に 調 べた 結 果 13 番 染 色 体 の 長 腕 のあるマーカー(D13S156) 周 辺 に 遺 伝 子 が 存 在 することがわかりました そこで そのマーカー 周 辺 のハプ ロタイプの 解 析 を 行 ったところ 患 者 は 共 通 のあるハプロタイプを 持 っており 遺
伝 子 はこの 13 番 染 色 体 の 長 腕 の 非 常 に 狭 い 領 域 (13q22)にあることが 分 かりま した( 図 3) この 領 域 内 の 遺 伝 子 をデータベースで 解 析 すると 十 数 個 の 遺 伝 子 が 含 まれていることがわかりました 3. 今 後 の 展 開 今 回 決 定 した 領 域 の 中 には 関 節 の 形 成 や 骨 の 発 生 に 関 係 するとされているもの がいくつか 存 在 します 今 後 これらの 遺 伝 子 の 変 異 を 解 析 することで 原 因 遺 伝 子 が 同 定 できると 考 えられます 遺 伝 子 の 同 定 は OA の 成 因 や 病 態 の 解 明 発 症 予 後 の 予 測 ゲノム 創 薬 など 画 期 的 医 療 の 開 発 につながることが 期 待 されます 今 回 の 発 見 は 特 に OA のオーダーメイド 医 療 に 向 けての 新 たな 一 歩 と 言 えます ( 問 い 合 わせ 先 ) 独 立 行 政 法 人 理 化 学 研 究 所 横 浜 研 究 所 遺 伝 子 多 型 研 究 センター 変 形 性 関 節 症 関 連 遺 伝 子 研 究 チーム チームリーダー 池 川 志 郎 Tel : 03-5449-5393 / Fax : 03-5449-5393 独 立 行 政 法 人 理 化 学 研 究 所 横 浜 研 究 所 研 究 推 進 部 企 画 課 溝 部 鈴 Tel : 045-503-9117 / Fax : 045-503-9113 ( 報 道 担 当 ) 独 立 行 政 法 人 理 化 学 研 究 所 広 報 室 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp < 補 足 説 明 > 1 パラメトリック 連 鎖 解 析 連 鎖 解 析 の 手 法 のひとつ 遺 伝 形 式 浸 透 率 などの 遺 伝 に 関 するパラメ-ターを 仮 定 した 上 で 家 系 内 での 病 気 の 伝 達 の 仕 方 とゲノム 上 の 位 置 のマーカーの 伝 達 の 仕 方 を 調 べることで 原 因 遺 伝 子 のゲノム 上 の 位 置 を 突 き 止 める 方 法 ゲノム 上 の 位 置 のマーカーには 通 常 遺 伝 子 多 型 が 用 いられる 例 えば 常 染 色 体 優 性 遺 伝 の 遺 伝 形 式 では 病 気 の 原 因 遺 伝 子 が 親 から 伝 われば 病 気 になり 伝 わらなければ 病 気 にならない 病 気 の 人 は 原 因 遺 伝 子 を 持 っていて 病 気 でない 人 は 持 っていない はずである よって ゲノムの 上 をくまなく 調 べて 病 気 の 人 にあって 病 気 でな い 人 にはないマーカー( 病 気 と 連 鎖 するマーカー)を 捜 すことで 原 因 遺 伝 子 の 存 在 部 位 を 突 き 止 めることができる そのようなマーカーの 近 傍 に 原 因 遺 伝 子 が 存 在 する 図 3 で 赤 線 に 囲 まれた 部 位 のマーカーは 病 気 と 完 全 に 連 鎖 している
2 ハプロタイプ 解 析 分 子 遺 伝 学 的 手 法 のひとつ ハプロタイプとはひとつの 同 じ 染 色 体 上 のある 部 分 ( 例 えば 第 13 番 染 色 体 の 長 腕 )のマーカーの 組 み 合 わせのセット( 図 3 で 縦 に 並 んでいる 一 組 のマーカーの 番 号 のセットがハプロタイプ) ゲノムは 染 色 体 を 構 成 して 子 孫 に 伝 達 されるので 基 本 的 に 同 じ 染 色 体 上 に 存 在 するマーカーはひと 固 まりとなって 遺 伝 することになる これを 利 用 した 疾 患 遺 伝 子 の 解 析 法 3 常 染 色 体 優 性 遺 伝 メンデル 式 の 遺 伝 形 式 のひとつ 常 染 色 体 ( 第 1 番 染 色 体 から 第 22 番 染 色 体 まで 22 種 類 ある)に 存 在 するあるひとつの 遺 伝 子 の 異 常 によって 起 きる 疾 患 の 遺 伝 の 形 式 父 母 それぞれから 由 来 する 1 対 (2 コピー)の 遺 伝 子 のうち どちらか 一 方 の 異 常 でも 疾 患 が 発 症 する 4 多 点 連 鎖 解 析 遺 伝 統 計 学 的 手 法 のひとつ 近 接 する 複 数 のマーカーから 得 られた 連 鎖 に 関 する 情 報 を 元 にして 疾 患 遺 伝 子 のゲノム 上 の 位 置 を 確 率 論 的 に 決 定 する 図 1 臼 蓋 形 成 不 全 を 伴 った 家 族 性 変 形 性 股 関 節 症 の 日 本 人 大 家 系 黒 : 患 者 白 : 非 患 者 四 角 : 男 丸 : 女 矢 印 は 最 初 に 同 定 された 患 者 で 研 究 の 出 発 点 となった 発 端 者 を 示 す
図 2 臼 蓋 形 成 不 全 を 伴 った 家 族 性 変 形 性 股 関 節 症 の 大 家 系 のレントゲン 像 ( 股 関 節 正 面 像 ) 上 段 : 変 形 性 股 関 節 症 発 症 前 臼 蓋 形 成 不 全 すなわち 大 腿 骨 頭 ( 白 矢 印 )を 臼 蓋 ( 黒 矢 印 )が 十 分 に 被 っていない 状 態 がみられる 38 歳 男 中 段 : 末 期 の 変 形 性 股 関 節 症 軟 骨 がなくなり 関 節 間 の 隙 間 が 亡 くなってしまって いる 大 腿 骨 頭 の 変 形 過 剰 な 骨 の 形 成 ( 白 矢 頭 )もみられる 55 歳 女 下 段 : 両 側 人 工 関 節 置 換 術 後 56 歳 女
図 3: 第 13 番 染 色 体 長 腕 周 辺 のマーカー(D13S)のハプロタイプ 解 析 赤 線 で 囲 ったマーカーで 構 成 されるハプロタイプが 患 者 にあって 非 患 者 にはない すなわち このマーカー 群 を 含 む 領 域 (マーカーD13S1296 と D13S162 の 間 の 6.0 Mb)に 原 因 遺 伝 子 が 存 在 する