Industrial Technology Center of Wakayama Prefecture TECHNORIDGE 2015 306
Industrial Technology Center of Wakayama Prefecture TECHNORIDGE 2015 306 酸 化 に 伴 う 食 肉 の 変 色 酸 化 前 ( 上 ) 酸 化 後 ( 下 ) 食 品 の 品 質 を 保 つ た め に 食 品 の 酸 化 とは 食 品 の 品 質 私 たちはどんな 基 準 で 食 べ 物 を 選 択 する でしょうか 鮮 度 の 良 さそうな 鮮 やかな 色 芳 しい 香 りは 食 欲 を 刺 激 します 以 前 に 食 べておいしかったという 記 憶 や 魅 力 的 な 商 品 の 謳 い 文 句 に 誘 われることもあるで しょう 安 全 で 栄 養 があることは 食 品 としての 大 前 提 ですが 私 たちは 経 験 から 得 た 知 識 や 与 えられた 情 報 によってその 品 質 を 判 断 し 選 択 の 基 準 とします 言 いかえれば 食 品 の 品 質 とは 私 たちが 食 品 を 選 ぶ 際 の 視 点 であり 見 ため や 香 り をはじめ 口 に 入 れてはじめて 知 覚 できる 味 や 食 感 もすべて 食 品 の 品 質 と 考 えることがで きます 食 品 の 品 質 低 下 発 酵 食 品 などの 一 部 の 例 外 を 除 いて 通 常 食 品 の 品 質 は 製 造 直 後 にもっとも 良 い 状 態 にあり さまざまな 環 境 因 子 により 時 間 が 経 つにつれて 低 下 します ひとくちに 品 質 低 下 といってもその 現 象 を 一 括 りにすることはできませんが 便 宜 的 に(1) 生 物 的 (2) 化 学 的 (3) 物 理 的 な 品 質 低 下 に 大 別 することができます ( 図 1) 例 えば 食 品 に 付 着 した 微 生 物 が 生 育 に 適 した 温 度 や 湿 度 におかれて 一 気 に 増 殖 し 腐 敗 をもたらすのは 生 物 的 な 品 質 低 下 の 一 例 であり ビタミン 類 の 分 解 によ る 栄 養 価 の 低 減 は 化 学 的 な 品 質 低 下 の 事 例 です また もろく 壊 れやすい 食 品 が 振 動 や 衝 撃 をうけて 破 損 する 現 象 は 物 理 的 な 品 質 低 下 の 一 例 です いずれも 品 質 低 下 をまねく 何 らかの 素 因 ( 変 質 要 因 )が 食 品 にあり その 変 質 を うながす 環 境 ( 環 境 因 子 )に 食 品 がおかれ たとき 品 質 は 速 やかに 低 下 します 食 品 の 酸 化 品 質 低 下 の 環 境 因 子 として 酸 素 は 多 く の 現 象 に 関 わります( 図 1) このうちの 大 半 が 本 号 で 取 り 上 げる 食 品 成 分 の 酸 化 による 品 質 低 下 です 具 体 的 に 酸 化 によっ て 食 品 に 何 が 起 こるでしょうか 代 表 的 な 事 例 を 挙 げます 生 物 的 な 品 質 低 下 化 学 的 な 品 質 低 下 物 理 的 な 品 質 低 下 変 質 要 因 環 境 因 子 変 質 要 因 環 境 因 子 変 質 要 因 環 境 因 子 編 集 担 当 かたぎり み な 片 桐 実 菜 微 生 物 酵 素 害 虫 害 獣 ( 腐 敗 ) ( 酵 素 的 変 質 ) 酸 素 温 度 水 分 ( 水 分 活 性 ) ph 脂 質 酸 素 ( 酸 化 ) 色 素 温 度 ( 非 酵 素 的 変 質 ) ビタミン 水 分 糖 類 ( 成 分 間 反 応 ) アミノ 酸 図 1 食 品 の 品 質 低 下 における 変 質 要 因 と 環 境 因 子 の 例 光 金 属 触 媒 物 質 水 分 糖 類 アミノ 酸 ( 破 損 ) ( 吸 湿 乾 燥 ) ( 結 晶 化 ) 振 動 水 分 香 気 成 分 ( 移 り 香 ) 異 臭 環 境 ( 香 りの 逸 散 ) 2 WINTEC TECHNORIDGE 306(2015)
解 説 食 品 の 酸 化 とは (1) 変 色 店 頭 に 並 ぶ 食 品 の 味 や 食 感 はもちろん 包 装 された 食 品 の 香 りを 購 入 前 に 知 ることはできません した がって 商 品 の 購 買 の 決 断 は 大 部 分 食 品 の 見 ために 委 ねられるといっても 言 い 過 ぎではないでしょう こ のとき 私 たちは 自 らの 感 覚 を 頼 りに 商 品 の 色 を 吟 味 します なぜなら 私 たちは 経 験 的 にたいていの 新 鮮 な 青 果 物 や 精 肉 製 造 直 後 の 加 工 食 品 は 鮮 やかな 色 彩 を 持 ち 一 方 鮮 度 の 落 ちた 食 材 ではその 色 彩 が 失 われることを 知 っているからです 例 えば 食 肉 の 色 調 は 加 工 段 階 から 経 時 的 に 変 化 し ます 1) 食 肉 の 特 徴 的 な 赤 色 は 筋 組 織 に 含 まれる 色 素 成 分 ミオグロビンによるものです ミオグロビンに は3 種 類 の 誘 導 体 が 存 在 し この 総 量 および 誘 導 体 の 構 成 比 が 食 肉 の 色 を 決 めることが 知 られています( 図 2) 店 頭 に 陳 列 された 鮮 度 の 良 い 食 肉 の 色 は 主 に 鮮 赤 色 のオキシミオグロビンの 色 調 です 長 時 間 の 保 管 によりオキシミオグロビンはしだいに 酸 化 されてメ トミオグロビンに 変 換 され 食 肉 の 色 調 は 褐 色 に 変 わ ります 消 費 者 が 鮮 度 の 落 ちた 古 い 肉 と 判 断 するのは このメトミオグロビンの 色 であり 全 ミオグロビンの 約 6 割 がメトミオグロビンに 変 換 されると 明 らかな 褐 変 が 認 められると 言 われています 他 に 食 品 の 変 色 といえばリンゴやモモ ナスなど の 切 り 口 がみるみるうちに 茶 色 く 変 色 することを 思 い 出 される 方 も 多 いでしょう これらの 褐 変 も 食 材 に 含 まれるポリフェノール 類 の 酸 化 による 変 色 の 一 例 で す この 酸 化 には 酵 素 が 関 与 し 酵 素 的 褐 変 と 呼 ばれ ます (2) 香 りの 変 質 酸 化 によって 影 響 を 受 けるものは 色 だけではありま せん 特 に 脂 質 含 量 の 多 い 食 品 は 酸 化 により 不 快 な 臭 いを 発 生 します これは 脂 質 を 構 成 する 多 価 不 飽 和 脂 肪 酸 ( 分 子 内 に 複 数 の 二 重 結 合 をもつ 脂 肪 酸 ) が 酸 化 され ヒドロペルオキシドと 呼 ばれる 中 間 体 を 経 て アルデヒドやケトンなどのカルボニル 化 合 物 を 生 成 することに 起 因 します( 図 3) また 香 りが 重 要 な 商 品 価 値 であるコーヒーは 酸 化 による 香 気 成 分 の 減 少 が 問 題 となります 缶 コー ヒーのボトルが 厳 重 に 窒 素 充 填 されているのは この ためです (3) 味 の 変 質 栄 養 価 の 低 減 色 や 香 りのように 口 に 入 れる 前 に 判 別 できる 変 化 で はないものの 酸 化 は 食 品 の 味 や 栄 養 価 にも 影 響 を 及 ぼします 例 えば 上 述 の 脂 質 の 酸 化 は 香 りの 変 質 だ けでなく 少 なからず 味 や 食 感 栄 養 価 の 低 減 を 伴 い ます 食 品 の 酸 化 を 抑 える 酸 化 による 上 記 の 様 々な 変 化 は 単 独 または 複 合 で 生 じ 食 品 によりその 速 度 や 程 度 は 異 なります 食 品 を 長 期 間 品 質 の 良 い 状 態 で 保 つために 変 質 を 促 す 環 境 因 子 を 完 全 に 除 くことができれば 最 善 です しかし 当 然 ながら 空 気 中 の 酸 素 を 取 り 除 くことは できません 食 品 の 酸 化 を 抑 えるために 食 品 が 酸 素 に 可 能 な 限 り 触 れない 環 境 を 人 為 的 につくりだすか または 酸 化 防 止 剤 を 使 用 して 酸 化 の 速 度 を 抑 えるのが 現 実 的 な 対 策 と 言 えます 前 者 には 加 工 機 を 利 用 し た 真 空 調 理 やガスバリア 性 の 高 い 包 装 資 材 の 活 用 が 考 えられます それぞれ4ページと5ページに 詳 しく 解 説 します また 酸 化 防 止 剤 の 活 用 は 特 別 な 設 備 を 必 要 としない 点 で 最 初 に 取 り 組 みやすい 手 段 と 言 え るかもしれません 6ページにモモの 褐 変 防 止 の 実 例 をご 紹 介 します 本 号 が 食 品 の 酸 化 について 理 解 を 深 め またその 対 策 について 改 めて 考 え 直 す 機 会 となれば 幸 いです 参 考 文 献 1) 木 村 進 中 村 敏 郎 加 藤 博 通 食 品 の 変 色 の 化 学 光 琳 1995, p.385-407. 還 元 型 ミオグロビン 紫 赤 色 不 快 臭 アルデヒド ケトン アルコール 炭 化 水 素 etc. オキシミオグロビン 鮮 赤 色 酸 化 変 色 ( 褐 変 ) メトミオグロビン 褐 色 不 飽 和 脂 肪 酸 酸 化 ヒドロペルオキシド 分 解 図 2 ミオグロビン 誘 導 体 の 酸 化 による 食 肉 の 色 調 変 化 1) 図 3 脂 質 の 酸 化 と 不 快 臭 の 発 生 WINTEC TECHNORIDGE 306(2015) 3
技 術 紹 介 加 工 機 を 活 用 した 酸 化 の 抑 制 食 品 産 業 部 食 品 評 価 グループ 赤 木 知 裕 はじめに 酸 化 が 品 質 低 下 の 原 因 となることは 前 項 で 述 べ たとおりです では 私 たちはどのようにすればそ れらの 酸 化 を 防 ぐことができるのでしょうか? 加 工 工 程 で 酸 化 を 防 ぐことは 日 々の 調 理 でも 行 われています たとえば 水 を 沸 騰 するまで 加 熱 す ることで 私 たちは 酸 化 の 原 因 となる 溶 存 酸 素 を 追 い 出 しています ちなみに 沸 騰 水 を 開 放 系 で 放 置 す れば 温 度 低 下 と 共 に 再 び 溶 存 酸 素 は 増 加 します 一 方 工 業 的 に 食 品 を 製 造 する 際 には 大 量 に 高 品 質 な 製 品 を 効 率 よく 製 造 することが 求 められます そこで 加 工 機 が 用 いられ それらには 加 工 と 共 に 酸 化 を 防 ぐ 目 的 で 様 々な 機 能 が 付 加 されています こ こでは 当 センターで 保 有 する 食 品 加 工 機 について 酸 化 防 止 機 能 を 中 心 にご 紹 介 します 加 工 機 の 紹 介 食 品 加 工 は 原 料 の 破 砕 や 混 合 その 後 の 加 熱 濃 縮 出 来 上 がった 食 品 の 充 填 包 装 という 段 階 に 分 かれます 各 段 階 で 用 いる 加 工 機 の 一 例 を 図 1に 示 します カッターミキサーは 真 空 状 態 での 破 砕 混 合 が 可 能 で 酸 素 を 除 去 しながら 泡 立 ちを 防 ぐことで 密 度 の 高 い 食 品 を 製 造 できます 過 熱 水 蒸 気 発 生 装 置 は 無 酸 素 での 焼 き 蒸 しが 可 能 であり 真 空 加 圧 ニーダーは 真 空 モードで 使 用 することにより 低 酸 素 低 温 状 態 下 でジャムなど の 作 製 が 可 能 です 出 来 あがった 食 品 を 真 空 包 装 す ることにより 日 持 ち 向 上 が 期 待 できます ( 表 1) 試 作 例 :ガナッシュ お 菓 子 作 りでは 食 感 や 保 存 性 を 考 慮 した 工 程 が 多 数 含 まれています もちろん 酸 化 を 抑 えることで その 両 面 を 満 たすことが 可 能 です ここではカッタ ーミキサーを 使 った 実 例 を 紹 介 します ガナッシュとは 細 かく 砕 いたチョコレートに 熱 く 熱 した 生 クリームを 入 れて 撹 拌 した いわゆる 生 チョコレート です ガナッシュの 製 造 時 にカッタ ーミキサーを 真 空 引 きで 使 用 することで 質 量 感 のあ る 製 品 が 得 られ 同 時 に 脂 質 の 酸 化 と 共 に 菌 の 増 殖 を 防 ぐことが 可 能 です 当 センターのカッターミキ サーで 真 空 処 理 のなし(A)とあり(B)で 試 作 し たガナッシュを 比 較 してみると 空 気 の 混 入 量 が 異 なることが 分 かります( 図 2) この 違 いはチョコレ ートの 物 性 にも 影 響 を 与 え 真 空 処 理 を 行 ったもの は 密 度 が 高 く 粘 りを 感 じるものとなります まとめ どの 段 階 においても 酸 素 を 除 去 することは 可 能 で すが 食 品 製 造 のため 目 的 にあった 加 工 機 を 使 う ことは 言 うまでもありません たとえば 真 空 でカ ッターミキサーを 使 用 すれば 滑 らかなガナッシュ はできますが エアインチョコはできません 食 品 を 加 工 する 際 の 使 用 目 的 を 明 確 にすることにより 加 工 機 のメリットを 享 受 できます このような 酸 化 を 防 ぐことのできる 加 工 機 を 当 センターでは 設 備 機 器 貸 付 という 形 でご 利 用 でき ます お 気 軽 に 御 相 談 ください 食 品 加 工 機 の 貸 付 は 試 作 目 的 に 限 ります 破 砕 混 合 加 熱 濃 縮 充 填 包 装 カッターミキサー 過 熱 水 蒸 気 発 生 装 置 真 空 加 圧 ニーダー 真 空 包 装 機 図 1 食 品 加 工 機 の 組 み 合 わせ 例 表 1 酸 化 を 抑 制 できる 食 品 加 工 機 加 工 機 工 程 特 徴 カッターミキサー 破 砕 混 合 真 空 で 破 砕 や 混 合 可 能 過 熱 水 蒸 気 発 生 装 置 加 熱 ( 殺 菌 ) 水 蒸 気 での 調 理 加 工 真 空 加 圧 ニーダー 加 熱 濃 縮 大 型 の 真 空 釜 圧 力 鍋 真 空 包 装 機 充 填 包 装 酸 素 除 去 で 長 期 保 存 可 (A) 真 空 処 理 なし (B) 真 空 処 理 あり 図 2 ガナッシュ 断 面 写 真 ( 上 : 外 観 下 :25 倍 ) 4 WINTEC TECHNORIDGE 306(2015)
包 装 資 材 の 選 択 による 酸 化 の 抑 制 技 術 紹 介 電 子 産 業 部 竿 本 仁 志 はじめに 食 品 を 包 装 する 包 装 容 器 は 空 気 中 の 酸 素 を 遮 断 し 品 質 の 低 下 を 抑 制 する 重 要 な 役 割 を 担 っています 古 くから 包 装 容 器 にはガラスや 金 属 が 使 われてきま したが 最 近 ではプラスチックが 広 く 使 われていま す しかしプラスチック 製 包 装 容 器 には 酸 素 を 通 し 易 い 材 質 もあり 本 テーマの 食 品 の 酸 化 を 抑 える には 加 工 食 品 の 酸 化 されやすさに 応 じた 包 装 資 材 の 選 択 が 必 要 になります 本 稿 では 一 般 的 に 使 用 されているフィルム 包 装 資 材 について 酸 素 透 過 度 の 測 定 方 法 各 種 フィルムの 酸 素 透 過 度 測 定 例 酸 素 透 過 度 の 違 いによる 加 工 食 品 の 酸 化 比 較 について 紹 介 します 酸 素 透 過 度 の 測 定 方 法 フィルムの 酸 素 透 過 度 の 測 定 法 は JIS K 7126 プ ラスチック-フィルム 及 びシート-ガス 透 過 度 試 験 方 法 に 規 定 されています 当 センターでは 第 1 部 : 差 圧 法 の 附 属 書 2 ガスクロマトグラフ 法 によるガ ス 透 過 度 試 験 方 法 による 測 定 が 可 能 です 測 定 の 原 理 はフィルムの 下 面 を 真 空 にした 状 態 で 上 面 に 酸 素 を 供 給 することでフィルム 上 下 に2 気 圧 程 度 の 圧 力 差 を 設 け フィルムの 上 面 ( 高 圧 側 ) から 下 面 ( 低 圧 側 ) に 透 過 する 酸 素 量 をガスクロマトグラフで 計 量 し 酸 素 透 過 度 を 算 出 します また 酸 素 透 過 度 に フィルムの 厚 さを 掛 けたものを 酸 素 透 過 係 数 と 呼 び ます 各 種 フィルムの 酸 素 透 過 度 図 1に 当 センターで 測 定 した 様 々なフィルムの 酸 素 透 過 度 を 示 します 酸 素 透 過 度 はフィルムの 材 質 厚 さにより 大 きく 異 なることがお 分 かり 頂 けると 思 います 例 えば 厚 さがほぼ 同 じ 67μm のポリ 袋 と 71μm の 真 空 パックフィルム( 延 伸 ナイロン/ポリエ チレン)では 酸 素 透 過 度 は 35 倍 もの 違 いがありまし た この 酸 素 透 過 度 の 違 いが 加 工 食 品 の 品 質 に 与 え る 影 響 を 比 較 した 実 験 例 を 紹 介 します 実 験 は 酸 化 され 易 いカットリンゴを 両 フィルムで 真 空 パックし 30-15%RH の 暗 所 で5 日 間 保 存 後 のリンゴの 表 面 を 観 察 しました 真 空 パックフィルムの 場 合 5 日 後 でもほとんど 変 色 はしませんがポリ 袋 では 品 質 が 低 下 し 変 色 しました( 図 2) ところで 多 少 厚 みのあるプラスチック 容 器 なら 酸 化 の 問 題 はないのでしょうか? 実 際 は 問 題 が 発 生 する 場 合 があります 例 えば 厚 さ 1.3mm のポリエチ レン 製 レンジパックの 酸 素 透 過 度 は 厚 さ 71μm の 真 空 パックフィルムの 約 2 倍 の 透 過 度 でした 酸 素 透 過 度 は 厚 さに 対 しては 反 比 例 の 関 係 があり 厚 さが 2 倍 になると 酸 素 透 過 度 は 1/2 になります ポリエ チレンで 真 空 パック 並 みの 酸 素 透 過 度 を 得 るには 計 算 上 2.4mm もの 厚 さが 必 要 になります 最 後 に 各 種 フィルムの 酸 素 透 過 度 の 温 度 依 存 性 を 図 3に 示 します 酸 素 透 過 度 は 温 度 に 対 し 指 数 関 数 的 に 増 加 します 増 加 の 度 合 いは 材 質 を 問 わずほぼ 同 じ 傾 向 で 温 度 が 30 から 60 に 上 昇 すると 酸 素 透 過 度 は 約 5 倍 となりました このように プラスチック 製 包 装 資 材 は 材 質 厚 さ 温 度 で 酸 素 透 過 度 が 異 なりますので 資 材 選 択 の 際 はご 注 意 ください まとめ 酸 化 され 易 い 製 品 の 場 合 包 装 容 器 の 酸 素 透 過 度 を 把 握 することは 重 要 だと 考 えられます 今 回 紹 介 はしませんでしたが 当 センターでは 水 蒸 気 透 過 度 測 定 も 可 能 です フィルムの 酸 素 透 過 度 水 蒸 気 透 過 度 の 測 定 が 必 要 な 場 合 はお 気 軽 にお 問 い 合 わせ 下 さい 酸 素 透 過 度 [cm 3 /(m 2 24h atm] 10 5 2 気 圧 30 10 4 ポリ 袋 (PE) 10 3 10 2 ラップ (PVDC) 包 装 袋 (PP) フード パック (PS) PET 真 空 パック (ON/PE) 10 1 スナック 菓 子 袋 ( 蒸 着 アルミ/PE) 10 0 0 50 100 150 フィルムの 厚 さ [μm] (a) ポリ 袋 (67μm) (b) 真 空 パックフィルム (71μm) 酸 素 透 過 度 [cm 3 /(m 2 24h atm] 10 5 2 気 圧 ポリ 袋 (67μm) 10 4 ラップ 10 3 10 2 真 空 パック 10 1 スナック 菓 子 袋 10 0 20 30 40 50 60 70 温 度 [ ] 図 1 各 種 フィルムの 酸 素 透 過 度 図 2 異 なる 材 質 での 保 存 実 験 図 3 酸 素 透 過 度 の 温 度 依 存 性 WINTEC TECHNORIDGE 306(2015) 5
技 術 紹 介 酸 化 防 止 剤 の 使 用 はじめに 食 品 の 酸 化 による 品 質 低 下 はしばしば 大 きな 問 題 となります 例 えば リンゴやモモ 等 の 果 実 レタ ス 等 の 野 菜 をカットしてそのまま 放 置 すると 酸 化 酵 素 の 作 用 で 褐 変 が 生 じます その 他 にも 油 脂 類 の 劣 化 などがあげられます このような 酸 化 による 品 質 低 下 を 防 ぐために 様 々なところで 酸 化 防 止 剤 が 添 加 されています( 表 1) ここでは モモの 果 肉 を 例 に とり その 褐 変 のメカニズムと 酸 化 防 止 剤 による 褐 変 防 止 効 果 について 紹 介 します 酸 化 防 止 剤 アスコルビン 酸 (ビタミンC) トコフェロール(ビタミンE) ジブチルヒドロキシトルエン(BHT) カテキン 表 1 酸 化 防 止 剤 と 使 用 例 モモ 果 肉 の 褐 変 メカニズム モモの 果 肉 中 には L- エピカテキン ロイコアント シアニンなどのポリフェノール 類 が 豊 富 に 含 まれて います それらはポリフェノールオキシダーゼの 作 用 によって 酸 素 と 結 合 することでキノンを 生 成 しま す 続 いて 非 酵 素 的 にそれらが 縮 合 重 合 し 褐 変 物 質 を 生 成 するため 果 肉 の 褐 変 が 生 じます 1) このような 褐 変 した 食 材 は 商 品 価 値 がなくなり また 調 理 する 場 合 にも 見 た 目 の 悪 さや 食 味 にも 大 きな 影 響 を 及 ぼします モモ 果 肉 の 褐 変 防 止 使 用 例 果 実 加 工 品 漬 物 パン 等 油 脂 類 バター 菓 子 類 等 魚 介 冷 凍 品 油 脂 類 バター 等 肉 類 ( 加 工 品 ) 油 脂 類 菓 子 類 等 表 2に 酸 化 酵 素 による 褐 変 に 阻 害 効 果 のある 添 加 物 の 一 例 を 示 しました このうち ビタミン C とも 呼 ばれるアスコルビン 酸 (AA) は 非 常 に 強 い 還 元 作 用 を 持 つため 食 品 の 酸 化 防 止 剤 として 広 く 使 われてい ます 2) 表 2 酵 素 的 褐 変 に 阻 害 効 果 のある 添 加 物 阻 害 タイプ 例 還 元 アスコルビン 酸 * ピロ 亜 硫 酸 ナトリウム * 等 銅 キレート NaCl クエン 酸 等 基 質 アナログ ケイ 皮 酸 フィチン 酸 等 キノンカップラー L システイン グルタチオン 等 * 酸 化 防 止 剤 として 使 用 される 添 加 物 今 回 カットしたモモ 白 鳳 に AA 食 塩 (NaCl) フィ チン 酸 生 コーヒー 豆 抽 出 物 ( 主 成 分 :クロロゲン 酸 ) を 処 理 し 3 日 間 の 褐 変 防 止 効 果 を 検 討 しました( 表 3) 果 肉 色 の L * 値 ( 値 が 低 いほど 褐 変 が 進 行 ) は 食 塩 (NaCl)と AA の 添 加 で 最 も 高 く 推 移 し 褐 変 の 防 止 効 果 が 認 められることがわかります また NaCl AA 単 独 で 処 理 した 場 合 でも 褐 変 の 程 度 は 緩 や かになる 傾 向 が 見 られました また フィチン 酸 に ついても 褐 変 の 程 度 は 緩 やかになる 傾 向 が 見 られま 食 品 産 業 部 新 食 品 開 発 グループ 古 田 貴 裕 したが 生 コーヒー 豆 抽 出 物 は 今 回 の 試 験 では 効 果 が 認 められませんでした ( 図 1) 表 3 カットしたモモ 白 鳳 への 添 加 物 処 理 と 冷 蔵 保 存 中 の 果 肉 色 の 推 移 ( 試 料 提 供 :かき もも 研 究 所 ) 添 加 物 果 肉 色 (L * 値 ) 処 理 前 1 日 後 2 日 後 3 日 後 NaCl+AA 73.5 72.7 75.0 NaCl 70.1 70.2 70.3 AA 70.5 66.4 69.6 フィチン 酸 70.6 70.3 68.5 生 コーヒー 豆 抽 出 物 67.9 68.2 68.2 無 処 理 74.4 68.6 67.1 67.1 各 添 加 物 を1%を 含 む 水 溶 液 に10 分 間 浸 漬 後 4 の 冷 蔵 庫 内 で 保 存 無 処 理 NaCl+AA NaCl 生 コーヒー 豆 抽 出 物 フィチン 酸 図 1 保 存 3 日 後 のモモ 果 肉 に 見 られる 褐 変 AA の 褐 変 防 止 効 果 はポリフェノールオキシダーゼ の 酸 化 作 用 で 生 成 したキノンを AA が 還 元 するためと されています しかし 添 加 した AA が 酸 化 され 尽 く すとキノンが 集 積 し 褐 変 が 進 行 し 始 めます 一 方 NaCl の 褐 変 防 止 効 果 は NaCl 濃 度 に 比 例 して 高 まる とされ 塩 化 物 イオンが 酵 素 の 活 性 中 心 である 銅 イ オンに 配 位 し 反 応 を 抑 制 するためとされています そのため NaCl+AA では 作 用 機 構 の 異 なる 2 種 類 の 酸 化 防 止 剤 が 添 加 されることでそれらの 相 乗 効 果 に よって 褐 変 防 止 効 果 が 高 まるとされています 2),3),4) おわりに 酸 化 防 止 剤 を 適 切 に 用 いて 食 品 の 品 質 低 下 を 防 止 することは 食 材 をおいしく 食 べるための 重 要 な 方 法 の 一 つです 今 回 ご 紹 介 した NaCl や AA(ビタミン C)などの 処 理 は 家 庭 でも 実 践 できる 果 実 の 褐 変 防 止 方 法 です しかし 添 加 量 が 多 くなると 食 味 にも 影 響 を 及 ぼす (NaCl の 場 合 0.5% 程 度 で 影 響 を 及 ぼす ) ため 注 意 が 必 要 です 食 品 を 購 入 された 時 にはどのような 酸 化 防 止 剤 が 添 加 されているのか 一 度 表 示 を 確 認 してみてくださ い 参 考 文 献 1) 森 光 国 原 田 陽 一 坪 井 良 至 日 食 工 1965, 12(3), p.88-94. 2) 村 田 容 常 化 学 と 生 物 2007,45(6),p.403-410. 3) 中 林 敏 郎 鵜 飼 暢 雄 日 食 工 1963, 10(6), p.211-216. 4) 関 村 照 吉 遠 山 良 関 沢 憲 夫 岩 手 県 醸 造 食 品 試 験 場 報 告 1990, 24, p.7-20. AA 6 WINTEC TECHNORIDGE 306(2015)
食 品 が 酸 化 を 防 ぐ? 食 品 産 業 部 新 食 品 開 発 グループ 根 来 圭 一 身 体 が 錆 びる 身 体 が 酸 化 する という 言 葉 を 耳 にしたことはありませんか? 近 年 健 康 志 向 の 高 まりに 加 えアンチエイジングがブームとなる 中 で こういった 言 葉 が 使 われるようになってきました これは 金 属 の 錆 び= 酸 化 をイメージして 活 性 酸 素 と 呼 ばれる 物 質 によって 体 内 の 組 織 がダメー ジを 受 けることを 表 現 した 言 葉 で このことによって 生 活 習 慣 病 の 発 症 や 老 化 が 促 進 されると 考 えられ ています 多 くの 生 物 の 生 存 に 不 可 欠 である 酸 素 は 体 内 に 取 り 込 まれた 後 一 部 が 反 応 性 の 高 い 活 性 酸 素 に 変 わります この 活 性 酸 素 は 細 菌 やウイルスからの 生 体 防 御 に 使 用 され 余 ったものは 酸 化 を 防 ぐ 性 質 抗 酸 化 性 を 持 った 酵 素 や 物 質 により 消 去 されます 抗 酸 化 性 酵 素 は 元 来 生 体 に 備 わった 活 性 酸 素 の 消 去 システムですが 抗 酸 化 性 物 質 は 食 品 からも 多 く 摂 取 しています つまり 食 品 は 私 たちの 身 体 の 酸 化 を 防 ぐ 一 翼 を 担 っているのです 私 たちが 摂 取 する 食 品 中 には 多 種 多 様 な 抗 酸 化 性 物 質 が 含 まれています 元 々 これらの 物 質 は 食 品 の 素 材 となる 農 林 水 産 物 が 自 らの 酸 化 防 御 のために 生 成 したもので 主 要 なものとしてはビタミン 類 (C B2 E A) ポリフェノール 類 (カテキン クロロゲン 酸 ) カロテノイド 類 ( 生 体 内 でビタミン A になるものもある)などがあります これら 抗 酸 化 性 物 質 の 持 つ 酸 化 を 防 ぐ 能 力 を 抗 酸 化 能 といい 様 々な 食 品 や 食 品 成 分 について 多 数 報 告 されています また 食 品 の 抗 酸 化 能 評 価 法 には 様 々な 手 法 が 存 在 しており 当 センターでもこれまでに いくつかの 手 法 を 用 いて 測 定 を 行 ってきました このうち 本 誌 264 号 (2004) でご 紹 介 しました 親 水 性 ORAC 法 が 昨 年 ( 独 ) 農 研 機 構 食 品 総 合 研 究 所 を 中 心 としたグループにより 妥 当 性 が 確 認 された 分 析 法 として 改 良 され 今 後 普 及 が 見 込 まれています 当 センターでも この 方 法 による 抗 酸 化 能 の 測 定 が 可 能 ですのでご 利 用 ください Information WINTEC TECHNORIDGE 306(2015) 7
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