2-7 微 量 元 素 の 分 析 概 要 学 部 で 行 っている 分 析 化 学 実 験 では 様 々な 元 素 の 性 質 を 学 ぶことも 視 野 に 入 れているため ある 程 度 の 濃 度 を 持 った 元 素 を 対 象 にし 重 量 分 析 や 容 量 分 析 などが 行 われている しかし 実 際 の 試 料 の 分 析 では 微 量 にしか 含 まれていない 元 素 を 測 定 する 必 要 がある この 場 合 は 機 器 分 析 法 を 用 いることが 多 い 一 口 に 機 器 分 析 法 といっても 様 々な 方 法 がある 微 量 分 析 に 用 いられている 主 な 方 法 を 以 下 に 示 す ICP 質 量 分 析 法 (ICP-MS: Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry) ICP 発 光 分 析 法 (ICP-AES: Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry) 原 子 吸 光 分 析 法 (AAS: Atomic Absorption Spectrometry) 蛍 光 X 線 分 析 法 (XRF: X-ray Fluorescence Analysis) 中 性 子 放 射 化 分 析 法 (NAA: Activation Analysis) これらのうち 最 初 の3つは 基 本 的 には 溶 液 または 溶 液 に 溶 かした 試 料 を 用 いる 最 後 の2つは 通 常 固 体 試 料 を 分 解 せずに 直 接 測 定 できる ここでは 主 として ICP 質 量 分 析 法 ICP 発 光 分 析 法 原 子 吸 光 法 などの 微 量 分 析 法 に ついてその 概 要 を 紹 介 する また 微 量 元 素 の 分 析 を 行 うにあたっては 試 料 の 前 処 理 法 が 重 要 となってくる どのよ うな 試 料 を 対 象 とするか また どのような 分 析 法 を 用 いるかによって 前 処 理 の 方 法 は 異 な る 例 えば 液 体 試 料 岩 石 試 料 生 物 試 料 工 業 材 料 土 壌 試 料 などによってそれぞれに 応 じた 処 理 法 を 行 う 必 要 がある ここでは 最 初 に 微 量 元 素 について 簡 単 に 述 べ 試 料 の 前 処 理 法 や 分 解 法 を 説 明 する 次 に 試 料 の 測 定 方 法 の 概 要 を 紹 介 する 1.はじめに 現 在 知 られている 元 素 は 111 種 類 あるが 自 然 界 に 存 在 する 元 素 は 92 番 元 素 (ウラン)ま でであり それ 以 降 は 人 工 的 に 作 られた 元 素 である 地 殻 に 含 まれる 元 素 を 濃 度 順 に 並 べ 全 体 として 100%になるように 表 示 する( 表 1) これら 表 に 示 した 値 は クラーク 数 と 呼 ばれ アメリカ 地 質 調 査 所 の Clark 博 士 が 数 多 くの 地 殻 の 岩 石 を 分 析 してまとめたものである 地 殻 における 元 素 の 存 在 度 と 呼 ぶこともある これら 元 素 の 存 在 度 ベスト10は O Si H Al Na Ca Fe Mg K Ti の 順 である これらの 合 計 は 99% 以 上 であり 通 常 主 要 元 素 といわれる それ 以 外 の 元 素 濃 度 は 非 常 に 尐 なく 足 しても1% 未 満 である これら 尐 量 し か 存 在 しない 元 素 は 微 量 元 素 (trace elements)と 呼 ばれる しかし 分 析 対 象 とする 物 質 によって 元 素 濃 度 も 異 なるので 一 概 にどの 元 素 を 微 量 元 素 と 呼 ぶかは 決 まっていないが 執 筆 者 化 学 科 教 授 村 松 康 行 (yasuyuki.muramatsu@gakushuin.ac.jp)
通 常 は 0.1%またはそれ 以 下 の 濃 度 しか 含 まれていない 元 素 を 指 す 表 1 クラーク 数 ( 地 殻 における 元 素 の 存 在 度 ) 順 位 元 素 存 在 度 (%) 順 位 元 素 存 在 度 (%) 1 O 49.5 16 N 0.03 2 Si 25.8 17 F 0.03 3 Al 7.56 18 Rb 0.03 4 Fe 4.7 19 Ba 0.023 5 Ca 3.39 20 Sr 0.02 6 Na 2.63 21 Cr 0.02 7 K 2.4 22 V 0.015 8 Mg 1.93 23 Ni 0.001 9 H 0.83 24 Zn 0.008 10 Ti 0.46 25 Cu 0.007 11 Cl 0.19 26 Li 0.006 12 Mn 0.09 27 Co 0.004 13 P 0.08 28 Sn 0.004 14 C 0.08 29 Pb 0.0015 15 S 0.06 30 Mo 0.0013 微 量 元 素 の 濃 度 を 表 す 場 合 に 良 く 用 いられる 単 位 である ppm ppb ppt について 表 2 にまとめる 表 2 濃 度 に 関 する 単 位 単 位 英 語 表 示 割 合 固 体 中 の 濃 度 液 体 中 の 濃 度 ppm part per million 10-6 mg/kg mg/l ppb part per billion 10-9 μg/kg μg/l ppt part per trillion 10-12 ng/kg ng/l 微 量 元 素 は 尐 量 しか 含 まれていないが 重 要 な 役 割 を 担 っている 場 合 が 多 い 例 えば 工 業 材 料 に 含 まれる 微 量 成 分 はその 物 性 に 大 きく 影 響 を 与 えることが 多 い 地 球 化 学 的 には 微 量 元 素 のパターン( 例 えば 希 土 類 元 素 のパターン)を 調 べることで 岩 石 の 成 因 や 地 球 の 歴 史 について 様 々な 情 報 を 得 ることができる また 食 品 中 に 微 量 しか 含 まれない 元 素 ( 亜 鉛 銅 セレン ヨウ 素 など)でも 人 間 や 動 物 にとって 必 須 なものもある 以 下 に 微 量 元 素 を 分 析 する 場 合 の 概 要 を 述 べる 単 に 分 析 法 だけでなく 試 料 の 前 処 理 方 法 や 分 解 法 についても 紹 介 する 2. 試 料 の 前 処 理 方 法 と 分 解 法 試 料 はそのままの 形 で 分 析 できる 場 合 は 限 られている 水 試 料 ( 雤 水 湖 沼 水 飲 料 水 工 業 用 水 廃 水 など)においては 濾 過 操 作 が 必 要 である また 金 属 元 素 を 溶 液 中 で 安 定 に 保 つには 酸 を 加 える 必 要 がある 植 物 などの 生 物 試 料 は 通 常 の 前 処 理 として 乾 燥 し 均 一 にする ICP-MS ICP-AES 原 子 吸 光 法 などの 機 器 分 析 法 を 用 いる 場 合 は 試 料 を 分 解 し 2
溶 液 に 溶 かす 必 要 がある その 場 合 主 に 酸 分 解 が 行 われている しかし ヨウ 素 などつい ては 酸 性 溶 液 を 用 いると 揮 発 してしまうので 加 熱 分 離 法 が 用 いられている 以 下 に 試 料 調 整 や 分 析 に 当 たっての 注 意 点 及 び 試 料 の 分 解 法 について 述 べる 2.1 前 処 理 方 法 2.1.1 ろ 過 方 法 河 川 水 雤 水 海 水 廃 水 飲 料 水 温 泉 水 などの 水 試 料 には 溶 存 成 分 以 外 にも ゴミ 浮 遊 粒 子 微 生 物 などが 含 まれている そのため 分 析 に 先 立 ち 濾 過 をする 必 要 がある こ の 目 的 のためには 通 常 0.22μm のメンブランフィルター(ミリポアフィルター)を 用 い ることが 多 い このフィルターは 目 が 細 かいので 試 料 溶 液 を 自 然 落 下 させるだけでは 時 間 がかかるため 吸 引 濾 過 を 行 う 必 要 がある 吸 引 には 小 型 の 真 空 ポンプやアスピレーターを 使 用 する ( 写 真 1a,b) 0.22μm のフィルターは 目 詰 まりし 易 く 濾 過 に 時 間 がかかるの で その 代 わりに 目 的 に 応 じて 0.45μm のフィルターやグラスファイバーフィルターを 使 うこともある 但 し 僅 かながら 極 微 粒 子 が 通 り 抜 ける 可 能 性 もあり 精 度 の 良 い 測 定 を 行 う 場 合 は 注 意 が 必 要 である 写 真 1a と b 吸 引 濾 過 器 また 液 量 がそれほど 多 くないときは 50mL 程 度 のシリンジ( 注 射 器 )に 試 料 溶 液 を 入 れ その 先 にフィルターを 組 み 込 んだカートリッジを 取 り 付 け 押 し 出 すことにより 濾 過 するこ とができる 試 料 溶 液 中 に 沈 殿 や 浮 遊 物 の 量 が 多 い 場 合 は 最 初 に グラスウールフィルターなどを 用 い 濾 過 した 後 更 に 0.22μm フィルターで 濾 過 する 方 法 をとるほうが 濾 過 時 間 は 速 い ICP-MS ICP-AES 原 子 吸 光 法 で 金 属 元 素 分 析 を 行 う 場 合 は 濾 過 した 試 料 溶 液 に 硝 酸 を 1% 程 度 になるよう 添 加 する 酸 を 加 えないで 長 時 間 保 存 すると 容 器 の 壁 面 に 吸 着 したり 懸 濁 物 が 出 たりすることがある 特 に 鉛 などは 溶 液 中 に 酸 を 入 れないと 容 器 の 壁 面 に 吸 着 し 易 い なお ヨウ 素 の 場 合 は 酸 性 にすると 酸 化 され 化 学 形 が I - から I 2 に 変 化 し 揮 発 しやすく なる そのため ヨウ 素 の 分 析 については 塩 基 性 にすることが 必 要 である( 詳 しくは 後 述 ) 3
2.1.2 乾 燥 方 法 乾 燥 方 法 としては 風 乾 加 熱 乾 燥 凍 結 乾 燥 などの 方 法 がある 次 に 幾 つかの 物 質 に ついての 例 を 示 す 土 壌 :バットにペーパータオル(キムタオルなど)を 敷 きその 上 に 採 取 した 土 壌 をのせ 上 をペーパータオルなどで 覆 い 埃 が 尐 ない 場 所 に 置 く 3~7 日 位 放 置 するとかなり 乾 燥 す る なお 1 日 に1 回 くらい 軽 くかき 混 ぜると 乾 燥 が 速 い 風 乾 だけだと 水 分 が 保 持 されて いるので 乾 燥 機 に 入 れ 100 で 数 時 間 乾 燥 させる 生 物 試 料 ( 植 物 動 物 菌 類 など): 生 物 試 料 は 風 乾 や 加 熱 乾 燥 すると 変 質 してしまうこ とがあるので 凍 結 乾 燥 を 行 う まず 試 料 を 冷 凍 庫 で 氷 らせ 凍 結 乾 燥 器 に 入 れ 真 空 ポン プで 排 気 し 揮 発 する 水 分 は 途 中 の 冷 却 トラップ(-40 以 下 )で 捕 集 し 乾 燥 させる 2.1.3 粉 砕 方 法 岩 石 鉱 物 試 料 : 厚 さ1cm 位 の 大 きさにダイヤモンドカッターを 用 い 切 った 後 ステン レスの 乳 鉢 中 で 砕 く ある 程 度 小 さくなったところでメノウのボールミル( 写 真 2)に 入 れ すりつぶし 粉 末 状 にする なお 材 質 としてメノウを 用 いるのは 堅 くまた 金 属 などの 混 入 ( 汚 染 )が 尐 ないからである 尐 量 の 試 料 を 扱 う 場 合 は ボールミルでは 大 きすぎるの で メノウの 乳 鉢 ( 写 真 3)を 用 い 一 つ 一 つ 手 作 業 ですりつぶす 写 真 2 メノウのボールミル 写 真 3 メノウの 乳 鉢 土 壌 : 乾 燥 させた 土 壌 をフルイ(1mm または 2mm)でふるい 大 きな 砂 粒 やゴミなどを 除 く その 後 は 岩 石 試 料 と 同 様 に メノウのボールミルを 用 いてすりつぶし 粉 にする 尐 量 の 試 料 を 扱 う 場 合 は メノウの 乳 鉢 を 用 いる 生 物 試 料 ( 植 物 動 物 菌 類 など): 乾 燥 させた 生 物 試 料 を 小 型 のミキサーに 入 れ 粉 砕 す る カッターの 刃 からの 汚 染 があるので 材 質 等 に 気 をつける 必 要 がある 刃 の 材 質 として は ステンレス 製 やや 表 面 をチタンでコーティングしたものなどがある 2.2 分 解 方 法 2.2.1 酸 分 解 岩 石 土 壌 試 料 等 :ケイ 酸 塩 はフッ 化 水 素 酸 を 用 いないと 溶 けない また 鉱 物 によって 4
は 硝 酸 や 過 塩 素 酸 を 用 い 溶 かす 必 要 がある そこで フッ 化 水 素 酸 硝 酸 過 塩 素 酸 の 混 合 溶 液 を 用 いる フッ 化 水 素 酸 を 使 用 する 場 合 容 器 はガラス 製 では 溶 解 するので テフロ ン 製 のものを 用 いる 蓋 付 き(スクリュウ 式 )のテフロン 容 器 ( 写 真 4)に 試 料 と 酸 の 混 合 物 を 入 れる 酸 の 混 合 割 合 は 試 料 の 種 類 によっても 異 なるが 試 料 量 50mg を 20mL のテフロ ン 容 器 を 用 いて 分 解 する 場 合 は 例 えば HF: 3mL HNO 3 : 3mL HClO 4 : 0.5mL の 割 合 で 酸 を 加 える これはあくまでも 目 安 であり 試 料 によって 変 える 必 要 がある テフロン 容 器 に 蓋 をして5 時 間 から 12 時 間 程 度 ホットプレート 上 で 加 熱 する 温 度 の 目 安 としては 120 ~ 150 程 度 である このとき 蓋 をしているので 内 部 の 圧 力 が 高 くなっており 注 意 を 要 す る 但 し 蓋 は 軽 く 閉 めているので 中 の 空 気 は 尐 しずつ 漏 れるので 内 圧 が 異 常 に 高 くなる ことはない また 過 塩 素 酸 を 有 機 物 に 添 加 すると 爆 発 することがあるので 注 意 を 要 する 写 真 4 分 解 に 用 いるテフロン 容 器 分 解 しやすいサンプルの 場 合 は テフロンビーカーを 用 い 上 をテフロン 時 計 皿 で 覆 い ホットプレート 上 で 加 熱 する 方 法 も 可 能 である 但 し 加 圧 していないので 分 解 に 時 間 がか かり 加 熱 中 に 蒸 発 する 酸 の 量 も 多 い 分 解 しにくい 試 料 は 次 に 示 すような 完 全 に 密 閉 した 容 器 を 用 いる 必 要 がある 1つ 目 の 方 法 は テフロン 容 器 が 内 部 に 密 閉 できる 構 造 になっているステンレス 加 圧 容 器 である テ フロン 容 器 に 試 料 と 酸 を 入 れテフロン 製 の 蓋 をかぶせる 次 に 周 りを 覆 ったステンレスの 容 器 の 蓋 を 閉 める(スクリュウ 式 ) このように 完 全 に 密 閉 した 容 器 を 乾 燥 器 に 入 れ 150 で3~6 時 間 程 度 加 熱 する 加 圧 されているので 内 部 の 温 度 も 100 以 上 になり 分 解 が 進 む 2つ 目 の 方 法 は マイクロウェーブオーブン( 電 子 レンジ)を 用 いたものである 但 し 家 庭 用 の 電 子 レンジではなく 排 気 装 置 が 備 わった 専 用 機 である また テフロンの 密 閉 容 器 のまわりはステンレスではなく 非 金 属 の 耐 熱 性 材 質 でできている 加 熱 時 間 は 試 料 の 種 類 によっても 異 なるが 数 十 分 程 度 である 電 子 レンジを 使 う 場 合 は 安 全 装 置 がつ いているものの 加 熱 時 間 に 注 意 が 必 要 である 分 解 操 作 が 終 わった 後 は ホットプレート 上 で 加 熱 し 酸 を 飛 ばし ドライアップする (そのとき 大 気 中 からホコリが 入 らないように 細 心 の 注 意 が 必 要 である )ドライアップ 後 残 渣 を 硝 酸 で 溶 かす 硝 酸 の 量 は 0.5~1mL 程 度 であり その 後 の 希 釈 の 程 度 によって 異 な 5
る 最 終 的 には2% 硝 酸 溶 液 になるように 調 整 するが 原 液 は5% 位 の 硝 酸 溶 液 にしておい た 方 が 元 素 の 溶 存 状 態 はよい これを 適 宜 希 釈 し ICP-MS ICP-AES 原 子 吸 光 法 などを 用 い 元 素 の 濃 度 分 析 を 行 う 写 真 5マイクロウェーブ 用 テフロンルツボ 写 真 6マイクロウエーブオーブン 注 意 点 : 以 上 述 べた 分 解 方 法 は 強 い 酸 を 加 熱 するので 安 全 面 で 充 分 に 気 をつける 必 要 がある 特 に 加 圧 する 場 合 は 細 心 の 注 意 が 求 められる 2.2.2 加 熱 分 離 通 常 固 体 試 料 中 の 金 属 元 素 を ICP-MS 法 や 原 子 吸 光 法 を 用 いて 測 る 場 合 上 で 述 べたように その 前 処 理 として 試 料 に 硝 酸 を 加 え マイクロウェーブオーブンなどで 加 熱 し 分 解 する 方 法 がとられている しかし ヨウ 素 の 分 析 では 酸 で 分 解 する 方 法 は 好 ましくない というのは 酸 で 加 熱 することによりヨウ 素 が 揮 発 するからである どの 程 度 揮 発 するかは 試 料 の 組 成 酸 の 濃 度 加 熱 条 件 などにより 異 なる そこで ヨウ 素 や 臭 素 が 揮 発 し 易 い 性 質 を 逆 に 利 用 し 試 料 からヨウ 素 と 臭 素 を 分 離 する 方 法 を 検 討 した つまり 試 料 を 石 英 管 中 で 加 熱 しヨウ 素 と 臭 素 を 揮 発 させ それをトラップ 溶 液 で 捕 集 する 方 法 をとった その 概 要 を 図 1 示 す また 操 作 は 以 下 の 通 りである 試 料 (100~500mg)を 燃 焼 ボートに 秤 量 し それに 五 酸 化 バナジウムを 混 ぜる 五 酸 化 バナジウムは 酸 化 剤 及 び 溶 融 剤 の 役 目 を 果 たしている 試 料 をのせた 燃 焼 ボー トを 石 英 管 に 入 れ 水 蒸 気 を 含 んだ 酸 素 気 流 を 流 す 試 料 は 電 気 管 状 炉 ( 1000 )の 端 にセットし 徐 々に 石 英 管 を 中 心 部 に 向 け 動 かしながら 加 熱 を 続 ける ( 一 気 に 加 熱 すると 不 完 全 燃 焼 しタールがトラップ 溶 液 に 混 ざってしまう ) 揮 発 してきたヨ ウ 素 は 有 機 アルカリである TMAH(tetramethyl ammonium hydroxide) 溶 液 (0.6%) 入 りのトラップで 捕 集 する ( 還 元 剤 である 亜 硫 酸 ナトリウムを 尐 量 加 えておくと,I - として 保 たれ 安 定 性 が 良 い ) 試 料 溶 液 を 必 要 に 応 じて 希 釈 する 6
図 1 加 熱 分 離 法 に 用 いる 装 置 の 概 略 2.2.3 アルカリ 溶 融 上 述 したように 岩 石 試 料 などケイ 酸 塩 を 主 成 分 とする 物 質 を 酸 で 分 解 する 場 合 は フッ 化 水 素 酸 を 用 いないと 溶 かすことはできない もう 一 つの 方 法 として 炭 酸 ナト リウムや 水 酸 化 ナトリウムを 用 いて 高 温 に 加 熱 し 溶 かす 粉 末 試 料 を 白 金 るつぼに 入 れ 試 料 の 約 10 倍 量 の 炭 酸 ナトリウムを 加 え 充 分 に 混 合 する 白 金 るつぼに 蓋 をして マッフル 内 に 置 き 徐 々に 加 熱 し 最 終 的 には 炭 酸 ナトリウムの 融 点 である 850 より 充 分 高 くなるようにする 加 熱 時 間 は 溶 けた 状 態 で 30~60 分 間 程 度 である 冷 えてから 純 水 と 硝 酸 を 徐 々に 加 え 溶 かす また 水 酸 化 ナトリウムを 用 いる 場 合 は 白 金 るつぼでは 白 金 が 変 質 してしまうので ニッ ケルるつぼを 使 う アルカリ 溶 融 法 では フッ 化 水 素 酸 を 使 っても 溶 けにくい 化 合 物 や 鉱 物 例 えば CaF 2 (ホタル 石 ) などを 分 解 するのに 有 効 である 2.3 試 料 調 整 に 当 たっての 注 意 点 など( 特 に 汚 染 に 関 する 注 意 ) 微 量 元 素 分 析 のための 試 料 調 整 で 気 をつけなくてはいけない 重 要 な 点 は 汚 染 (contamination)である ごく 低 濃 度 の 元 素 を 測 定 するため 容 器 試 薬 ホコリ 使 用 する 器 具 人 の 手 などから 元 素 が 混 入 すると 正 しい 分 析 結 果 を 得 られない 容 器 の 洗 浄 : 購 入 した 新 品 の 容 器 でも 微 量 元 素 的 に 見 ると 表 面 に 色 々な 元 素 がついて いる そこで 次 のように 洗 浄 することを 勧 める クリーンエース( 界 面 活 性 剤 を 含 む 無 燐 の 洗 浄 用 液 体 )を 50 倍 程 度 に 希 釈 したものに ポリ 瓶 やビーカーなどの 器 具 を 数 時 間 から1 日 程 度 浸 しておく この 操 作 で 一 般 的 な 汚 れは 取 れる 軽 く 水 で 濯 ぎ 次 に 1% 硝 酸 溶 液 に 数 時 間 から1 日 程 度 浸 す( 酸 バス) この 操 作 で クリーンエースで 落 ちなかった 汚 れも 酸 により 溶 かすこ とができる この 洗 い 方 で 通 常 は 大 丈 夫 であるが 更 にきれいにしたい 場 合 は 1% 硝 酸 溶 液 ではなく 濃 い 濃 度 の 硝 酸 を 加 え ホットプレート 上 で 暖 める ( 特 殊 な 汚 染 物 質 がついている 場 合 は それにあった 酸 アルカリ 有 機 溶 剤 などを 適 宜 用 いて 洗 浄 する ) 最 後 に 純 水 で 良 く 濯 ぎ ドライイングシェルフ(ホコリ 除 けのカバーがついた 乾 燥 棚 )に 入 れ 乾 燥 させる 乾 いたら 速 やか 7
にビニール 袋 に 入 れ ホコリなどによる 汚 染 がないようにし 保 管 する ドライイングシェルフの 中 に 器 具 を 何 日 も 入 れっぱなしにしておくと 汚 染 の 原 因 になる 試 薬 : 試 薬 の 中 の 不 純 物 が 原 因 となる 汚 染 もある 特 に 試 料 の 分 解 用 に 多 量 の 酸 を 用 いるので その 中 の 不 純 物 による 汚 染 は 常 に 注 意 する 必 要 がある 硝 酸 などは 普 通 の 特 級 では 充 分 でなく 例 えば 多 摩 化 学 の AA シリーズや 関 東 化 学 の Ultrapur-100 シリーズを 用 いると 良 い 純 水 : 微 量 元 素 の 分 析 では 通 常 のイオン 交 換 水 では 充 分 でなく に 比 抵 抗 値 18.2MΩ cm TOC 値 1ppb 以 下 の 超 純 水 が 必 要 である 村 松 研 で 用 いているのは ザルトリウス アリウム イージ ーワン 611 シリーズである (ミリポア 製 の 超 純 水 製 造 装 置 が 先 駆 けであり ミリ Q と 呼 ば れ 超 純 水 の 代 名 詞 となっている ) 3. スタンダードの 調 整 3.1 検 量 溶 液 の 作 成 機 器 分 析 で 元 素 濃 度 を 決 める 場 合 目 的 元 素 濃 度 が 分 かっているスタンダードを 用 いる 必 要 がある 乾 燥 させた 試 薬 を 秤 量 した 後 水 溶 液 に 溶 かし 既 知 濃 度 に 調 整 して 作 ることがで きる すでに 既 知 濃 度 に 調 整 された 市 販 のスタンダード( 標 準 溶 液 )も 販 売 されている 化 学 分 析 用 の 標 準 液 (1000ppm)が 関 東 化 学 や 和 光 純 薬 で 販 売 されており 元 素 の 種 類 も 多 い また 複 数 の 元 素 を 加 えた 混 合 スタンダードも 販 売 されている( 米 国 Spex 社 製 ) 但 し 混 合 スタンダードを 更 に 混 ぜ 合 わす 場 合 は 溶 液 中 の 元 素 の 安 定 性 が 変 化 し 濃 度 が 変 わる 可 能 性 があるので 注 意 が 必 要 である これらの 溶 液 を 適 宜 希 釈 し 目 的 濃 度 の 検 量 溶 液 を 作 る その 場 合 金 属 元 素 では 硝 酸 酸 酸 性 としておくと 濃 度 が 変 化 しにくい しかし ヨウ 素 など 酸 性 では 不 安 定 な 元 素 は TMAH などを 加 えアルカリ 性 にしておくと 良 い なお 検 量 溶 液 の 濃 度 や 種 類 は 試 料 溶 液 中 の 濃 度 によっても 異 なるが ブランク(0ppb)も 含 め 4 5 点 あると 良 い 3.2 比 較 標 準 物 質 元 素 分 析 の 信 頼 性 を 検 証 し 分 析 結 果 の 質 を 高 めるために 比 較 標 準 物 質 を 試 料 と 同 時 に 処 理 し 分 析 する 必 要 がある 比 較 標 準 物 質 の 選 定 には 測 定 しようとするサンプルと 同 様 なものであり 目 的 とする 元 素 についてのデータが 載 っていることが 必 要 である 比 較 標 準 物 質 ( 比 較 標 準 試 料 )は NIST や IAEA などの 海 外 の 機 関 で 作 成 されているばか りでなく 産 総 研 や 環 境 研 など 国 内 の 機 関 でも 作 っている リストはそれぞれの 機 関 から 入 手 することが 可 能 であるが 環 境 試 料 や 生 物 試 料 については IAEA がまとめたものがある 4. 測 定 法 4.1 ICP-MS ICP- 質 量 分 析 法 は 最 近 ハード 及 びソフトの 面 で 急 速 に 発 展 してきた 元 素 分 析 法 である 特 徴 としては 多 くの 元 素 に 対 し 高 感 度 であることと 多 元 素 の 同 時 測 定 が 可 能 であることがあ 8
げられる 試 料 溶 液 はペリスタルティックポンプでネブライザに 送 られ 噴 霧 されエアロゾルとなる それがスプレイチェンバー 部 で 粒 径 別 に 分 けられ 小 形 のエアロゾルのみがアルゴンガスと 共 に ICP トーチに 送 られる プラズマの 温 度 は 6000 7000Kであるため 試 料 は 蒸 発 原 子 化 そしてイオン 化 が 起 こる (ヨウ 素 や 他 のハロゲン 元 素 のイオン 化 率 は 金 属 元 素 に 比 べて 悪 い 傾 向 にある )イオンはサンプリングコーンから 真 空 チェンバーに 吸 い 込 まれる 真 空 系 はロータリーポンプと 油 拡 散 ポンプにより 保 たれる イオンレンズによりイオンの 集 束 偏 向 等 のコントロールがなされる 四 重 極 マスフィルターでは 印 加 電 圧 により 決 まる 重 さの イオンのみが 通 過 できる そして この 印 加 電 圧 を 掃 引 することにより 質 量 スペクトルを 見 ることができる 検 出 器 は 二 次 電 子 培 管 を 用 いており パルスカウント 方 式 で 一 個 一 個 計 数 することにより 高 い 感 度 が 可 能 である ICP-MS の 信 号 強 度 は 機 器 の 状 態 にもよるが 時 間 に 伴 い 変 動 する 測 定 時 間 内 での 変 動 は 測 定 値 の 信 頼 性 を 減 尐 させる 要 因 となる そこで その 変 動 を 補 正 するために 内 部 標 準 (Internal standard)として 既 知 量 の 元 素 を 試 料 溶 液 及 びスタンダード 溶 液 に 添 加 してお く よく 使 われるものとしては In, Rh, Bi であり 目 的 元 素 と 近 い 質 量 のものが 使 われる 金 属 元 素 の ICP-MS 分 析 に 関 しては 文 献 も 尐 なくないが ヨウ 素 や 臭 素 の 分 析 をやっている 機 関 はごく 限 られている そのため ヨウ 素 や 臭 素 の 分 析 条 件 を 書 いたものはあまり 見 られ ない そこで 以 下 に ICP-MS を 用 いたヨウ 素 の 分 析 について 概 要 を 述 べる まず ヨウ 素 の 化 学 形 をヨウ 化 物 イオン(I - )にそろえるため 還 元 剤 として 亜 硫 酸 ナトリ ウム 溶 液 を 加 える ( 濃 度 としては 100ppm 程 度 ) 種 々の 元 素 について 内 部 標 準 としての 適 性 を 検 討 したところ Cs-133 が 適 当 であることが 分 かった 中 性 溶 液 であるため In-115 など は 安 定 性 で 問 題 がある( 酸 性 にするとヨウ 素 は 揮 散 し 易 い) ヨウ 素 のスタンダード 溶 液 は 予 め 100ppm ヨウ 化 カリウム 溶 液 を 用 意 し それを 希 釈 して 作 成 する 通 常 0.3 1 3 10 30ppb の 濃 度 に 調 整 する しかし 試 料 溶 液 の 濃 度 に 合 わせ 必 ずしもこの 濃 度 でないこともあ る ( 注 意 としては 濃 すぎてしまうとメモリー 効 果 により 次 に 測 定 する 試 料 の 濃 度 が 高 く なる )また 0(ゼロ) 点 としてブランク( 純 水 に 内 部 標 準 と 亜 硫 酸 ナトリウムを 加 えた 溶 液 )を 用 意 する 塩 素 臭 素 とも 複 数 の 同 位 体 が 存 在 するが 測 定 では 妨 害 が 尐 ないもの として Cl-35 と Br-79 を 用 いた フッ 素 は 妨 害 が 大 きく ICP-MS では 測 定 が 難 しかった 塩 素 及 び 臭 素 の 内 部 標 準 は 近 い 質 量 では 適 当 なものが 見 つからなかったので 今 回 はヨウ 素 の 場 合 と 同 じ Cs-133 を 用 いた 塩 素 と 臭 素 のスタンダードは 通 常 以 下 の 通 りである( 塩 化 カリウム 及 び 臭 化 カリウムより 調 整 ) また ヨウ 素 の 濃 度 も 記 す Cl: 0 1 3 10 30 ppm Br: 0 10 30 100 300 ppb I: 0 0.3 1 3 10 30 ppb ICP-MS による 測 定 時 の 感 度 は ヨウ 素 > 臭 素 > 塩 素 の 順 であった また 測 定 時 の 繰 り 返 し 誤 差 (RSD)もヨウ 素 が 一 番 良 く 続 いて 臭 素 塩 素 の 順 であった 特 に 塩 素 の 場 合 はバッ クグランドが 高 いため 安 定 性 が 悪 い 4.2 ICP-AES ICP-AES は ICP を 熱 源 とした 発 光 分 光 分 析 法 の 一 つである アルゴンガスを 流 したトー チ 管 に 高 周 波 をかけ トーチ 管 内 に 生 成 される 電 磁 場 によりアルゴンガスを 電 離 しプラズマ を 発 生 される 分 析 をしようとする 試 料 溶 液 を 6000K 以 上 の 高 温 アルゴンプラズマ 中 に 導 入 し 成 分 元 素 を 励 起 される その 励 起 された 原 子 が 低 いエネルギー 準 位 に 戻 るときに 発 光 す る 発 光 する 光 の 波 長 は 元 素 に 特 有 であり 光 の 強 度 は 試 料 中 の 元 素 の 量 に 比 例 する 発 光 線 の 波 長 から 元 素 の 種 類 を 同 定 し その 強 度 から 各 元 素 の 濃 度 を 感 度 良 く 求 めることができる 9
また 化 学 干 渉 イオン 化 干 渉 が 尐 なく 共 存 主 要 元 素 濃 度 (マトリックス)が 高 い 試 料 の 分 析 もが 可 能 である 一 般 に 測 定 可 能 な 元 素 の 定 量 下 限 値 は 元 素 にもよるが 数 100 数 10ppb 程 度 である この ICP-AES 法 は 感 度 的 にはフレーム 原 子 吸 光 法 より 良 いが フレームレス 原 子 吸 光 法 と 比 べると 同 等 か 元 素 によっては 劣 る しかし 多 元 素 同 時 分 析 が 可 能 である 点 は 原 子 吸 光 法 に 比 べて 大 きな 利 点 である また ICP-MS 法 と 比 べると 同 じく 多 元 素 同 時 分 析 ができるも のの 感 度 的 には 劣 る しかし ICP-MS 法 では 測 定 しにくい Na K Ca Mg Al P などの 元 素 分 析 にはこの ICP-AES 法 が 適 している 高 マトリックス 試 料 の 分 析 には 威 力 を 発 揮 する ICP-AES 法 による 実 際 の 分 析 では ICP-MS 法 と 同 様 に 調 整 した 試 料 溶 液 を 用 いることがで きる 試 料 溶 液 と 目 的 元 素 を 含 んだ 検 量 溶 液 を 測 定 し 濃 度 を 求 める 機 器 のウオーミング アップも ICP-MS 法 に 比 べ 速 く 装 置 のメンテナンス 等 もやりやすい 4.3 原 子 吸 光 原 子 吸 光 法 はアセチレンなどのフレーム 中 や 黒 鉛 炉 ( 高 電 流 を 流 す)など 高 温 状 態 下 に 試 料 溶 液 を 噴 射 し 元 素 を 原 子 化 し そこに 光 を 透 過 して 吸 収 スペクトルを 測 定 することで 元 素 の 濃 度 を 測 定 する 方 法 である 原 子 化 された 状 態 に 目 的 元 素 の 波 長 の 光 を 入 射 すると その 元 素 の 濃 度 に 応 じてそれが 吸 収 されるので 元 素 の 同 定 および 定 量 が 可 能 になる この 方 法 は 個 々の 元 素 に 対 し 高 い 選 択 性 をもっており 装 置 もそれほど 複 雑 ではないので 広 く 利 用 されている しかし 一 度 に1 元 素 の 定 量 しかできなく また ICP-MS 法 や ICP-AES 法 と 比 べると フレーム 法 においては 分 析 感 度 的 の 点 で 劣 る 実 際 の 分 析 法 は ICP-MS の 試 料 調 整 法 と 同 様 の 方 法 が 使 える 検 量 溶 液 も 同 様 なものが 使 用 できるが 感 度 的 には 大 きく 違 うので 適 切 な 濃 度 の 溶 液 を 作 成 する 必 要 がある 参 考 文 献 [1]Y. Muramatsu, S. Yoshida: Determination of I-129 and I-127 in environmental samples by NAA and ICP-MS. J. Radioanal. Nuclear Chemistry, 197 (1995) p.149-159. [2] S. Yoshida, Y, Muramatsu, et al.: Determination of major and Trace elements in Japanese rock reference samples by ICP-MS. Int. J. Environ. Anal. Chem., 63 (1996) p.195-206. [3] 村 松 康 行 吉 田 聡 : ICP-MS による 環 境 試 料 の 多 元 素 分 析 放 射 線 科 学 40 (1997) p.164-170 [4] 平 井 昭 司 : 現 場 で 役 立 つ 化 学 分 析 の 基 礎 (オーム 社 2006 年 ) [5] 上 本 道 久 ( 監 修 ):ICP 発 光 分 析 ICP 質 量 分 析 の 基 礎 と 実 際 - 装 置 を 使 いこなすために (オーム 社 2008 年 ) 10