アベノミクスと 不 動 産 価 格 デフレ ー 不 動 産 エコノミクスの 視 点 からー 川 口 有 一 郎 早 稲 田 大 学 商 学 術 院 教 授 みずほ 総 研 フォーラム2013
不 動 産 価 格 デフレ 住 宅 価 格 と 物 価 上 昇 率 の 推 移 ( 月 次 :1993 年 6 月 ~2013 年 8 月 ) バブル 調 整 不 動 産 価 格 デフレ 250 0.009 0.007 200 0.005 0.003 150 0.001 100 0.001 0.003 50 1993/06 1994/02 1994/10 1995/06 1996/02 1996/10 1997/06 1998/02 1998/10 1999/06 2000/02 2000/10 2001/06 2002/02 2002/10 2003/06 2004/02 2004/10 2005/06 2006/02 2006/10 2007/06 2008/02 2008/10 2009/06 2010/02 2010/10 2011/06 2012/02 2012/10 2013/06 0.005 0 左 目 盛 :CPI 総 合 ( 除 く 生 鮮 食 品 ) 右 目 盛 : 東 証 住 宅 価 格 指 数 ( 首 都 圏 総 合 ) 12 区 間 移 動 平 均 ( 左 目 盛 :CPI 総 合 ( 除 く 生 鮮 食 品 )) ( 出 所 :Quick Astra Managerデータを 用 いて 筆 者 作 成 ) 川 口 有 一 郎 2 東 証 住 宅 価 格 指 数 ( 首 都 圏 総 合 ) ( 月 次 ) CPI 総 合 ( 除 く 生 鮮 食 品 ) の 増 加 率 ( 月 次 )
日 本 のデフレの 原 因 不 動 産 価 格 デフレ 仮 説 物 価 やサービス 価 格 のデフレは 経 済 全 体 に 深 刻 な 悪 影 響 をもたらさない 物 価 サービス 価 格 が 下 落 しても 強 い 経 済 成 長 を 示 した 例 がある ( 需 要 )デフレーションは 不 動 産 価 格 デフレに 伴 って 発 生 する 不 動 産 価 格 の 変 動 は 金 融 システムを 通 じてマクロ 経 済 に 多 大 な 影 響 を 与 える(リーマンショックまでマクロ 経 済 学 は 不 動 産 の 役 割 を 過 小 評 価 ) 日 本 経 済 の 停 滞 は 不 動 産 価 格 デフレから 脱 却 することによってもたらされる 言 い 換 えれば 不 動 産 価 格 の 下 落 が 止 まらない 限 りデフレから 脱 却 でき ない 参 考 : 前 頁 の 物 価 と 住 宅 価 格 の 間 には 共 和 分 関 係 がある( 因 果 の 方 向 は 定 かでないが ) アベノミクス( 従 来 の 総 合 経 済 対 策 + 異 次 元 の 量 的 質 的 な 金 融 緩 和 )は 不 動 産 価 格 デフレから 脱 却 できるか? アベノミクスにはこの 視 点 が 欠 けている 川 口 有 一 郎 3
250 200 150 100 50 0 不 動 産 価 格 デフレ 仮 説 住 宅 価 格 が 上 昇 しなければ 株 価 上 昇 は 長 続 きしない 1993/6 1994/2 1994/10 1995/6 1996/2 1996/10 1997/6 1998/2 1998/10 1999/6 2000/2 2000/10 2001/6 2002/2 2002/10 2003/6 2004/2 2004/10 2005/6 2006/2 2006/10 2007/6 2008/2 2008/10 2009/6 2010/2 2010/10 2011/6 2012/2 2012/10 東 証 住 宅 価 格 指 数 TOPIX( 月 次 : 20 03 年 1 月 = 10 0) 東 証 住 宅 価 格 指 数 ( 首 都 圏 総 合 ) TOPIX: 終 値 ( 出 所 :Quick Astra Managerデータを 用 いて 筆 者 作 成 ) 川 口 有 一 郎 4
アベノミクスで 資 産 市 場 ( 不 動 産 市 場 )に どのような 変 化 が 生 じたか? 川 口 有 一 郎 5
アベノミクスで 不 動 産 市 場 にどのような 変 化 が 生 じたか? 金 利 の 低 下 によって 不 動 産 価 格 (J REIT 投 資 口 価 格 )が 上 昇 東 証 REIT 指 数 と10 年 国 債 利 回 り:(2010 年 9 月 27 日 ~2013 年 9 月 27 日 ) 1800 1.6 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 東 証 REIT 指 数 ( 左 軸 ) 10 年 国 債 利 回 り(%, 右 軸 ) ( 出 所 :Quick Astra Managerデータを 用 いて 筆 者 作 成 ) 川 口 有 一 郎 6
アベノミクスで 不 動 産 市 場 にどのような 変 化 が 生 じたか? 不 動 産 価 格 と 金 利 の 関 係 が 正 常 にもどった Jリート 投 資 口 価 格 と 金 利 の 関 係 ( 他 の 変 数 ( 次 期 の 分 配 金 リスクプレミアム および 分 配 金 の 長 期 期 待 成 長 率 )は 一 定 とする) なお 金 利 低 下 によるJリート 投 資 口 価 格 の 上 昇 は アベノミクス 以 前 ( 昨 年 の 春 頃 )から 生 じた( 前 頁 グラフを 参 照 のこと) 川 口 有 一 郎 7
アベノミクスで 不 動 産 市 場 にどのような 変 化 が 生 じたか? オフィスビル 価 格 の 上 昇 が 加 速 した 東 京 のオフィスビル 成 約 価 格 の 推 移 (4 半 期 指 数 ) 川 口 有 一 郎 8
住 宅 価 格 が 上 昇 に 転 じた 日 米 の 住 宅 価 格 の 推 移 ( 対 前 年 同 月 比 ) バーナンキ アベノミクス アベノミクスで 不 動 産 市 場 にどのような 変 化 が 生 じたか? 前 年 同 月 比 川 口 有 一 郎 9
海 外 の 投 資 家 は 日 本 の 不 動 産 市 場 をどうみているか? 川 口 有 一 郎 10
海 外 の 投 資 家 は 日 本 の 不 動 産 市 場 をどうみているか? 日 本 の 不 動 産 資 本 市 場 の 復 活 への 期 待 ( 日 本 英 国 米 国 豪 州 新 嘉 坡 の 不 動 産 株 の 推 移 :2010 年 9 月 27 日 ~2013 年 9 月 27 日 ) 180.00 160.00 140.00 120.00 100.00 80.00 日 本 米 国 豪 州 英 国 新 嘉 坡 60.00 40.00 ( 出 所 :Quick AstraManagerデータを 用 いて 筆 者 作 成 ) 川 口 有 一 郎 11
下 降 トレンドだが 安 定 している グローバル 不 動 産 マネーの 流 入 についての 日 英 比 較 グローバルな 不 動 産 資 本 フローのシェア(%) 45 40 35 30 25 20 15 10 5 海 外 の 投 資 家 は 日 本 の 不 動 産 市 場 をどうみているか? 0 2008 2009 2010 2011 2012 2013* 英 国 日 本 ( 出 所 :Real Capital Analyticsデータを 用 いて 筆 者 作 成 ) 川 口 有 一 郎 12
海 外 の 投 資 家 は 日 本 の 不 動 産 市 場 をどうみているか? 日 本 で 売 却 される 不 動 産 の 大 半 が 国 内 の 買 い 手 日 本 と 英 国 の 実 物 不 動 産 市 場 への 資 本 流 入 の 比 較 (2008 年 ~2013 年 :ただし 2013 年 は 筆 者 予 想 ) 70 英 国 70 日 本 60 60 50 50 40 40 $Bn 30 $Bn 30 20 20 10 10 0 2008 2009 2010 2011 2012 2013* 0 2008 2009 2010 2011 2012 2013* 国 内 海 外 国 内 海 外 ( 出 所 :Real Capital Analystic2013データを 用 いて 筆 者 作 成 ) 川 口 有 一 郎 13
海 外 の 投 資 家 は 日 本 の 不 動 産 市 場 をどうみているか? アベノミクスは 不 動 産 市 場 の 回 復 を 加 速 するが 日 本 の 不 動 産 は 低 位 安 定 なアセットクラス 東 京 の 不 動 産 取 引 量 はニューヨーク ロンドンに 次 いで 第 3 位 ( 市 場 規 模 が 大 きい) 分 散 投 資 の 観 点 から 日 本 の 投 資 不 動 産 には 一 定 割 合 の 資 金 を 配 分 サイクル: 日 本 の 不 動 産 市 場 はマーケット タイミングからは 買 い アベノミクスは 日 本 の 不 動 産 サイクルの 回 復 を 加 速 ( 円 安 による 投 資 環 境 の 好 転 を 含 む) Jリート: 外 部 成 長 および 新 規 上 場 による 投 資 法 人 の 増 加 などにより 拡 大 すると 見 込 む 海 外 投 資 家 の 増 加 私 募 ファンド: 海 外 のエクイティ 投 資 家 一 部 メザニン 投 資 家 が 積 極 的 (コア 投 資 バリュー 投 資 ) トレンド: 日 本 の 不 動 産 市 場 の 長 期 的 なファンダメンタルズの 好 転 は 懐 疑 的 アベノミクスが 日 本 の 不 動 産 のトレンドを 引 き 上 げる という 見 方 については 懐 疑 的 人 口 統 計 学 的 特 性 の 重 し: 人 口 減 少 将 来 の 世 帯 数 減 少 ( 先 進 国 で 移 民 を 受 け 入 れない 特 殊 性 ) 国 の 債 務 残 高 の 重 し:デモグラフィック 特 性 と 組 み 合 わせた2 次 元 マップ 上 で 日 本 不 動 産 市 場 は 下 位 インカム 成 長 のトレンド:GDP 成 長 率 によって 決 まる 部 分 が 多 い( 日 本 の 不 動 産 市 場 の 成 長 は 期 待 薄 ) グローバルな 流 動 性 : 海 外 投 資 家 にとっての 魅 力 的 な 投 資 機 会 は 少 ない( 国 内 投 資 家 向 けの 市 場 ) 川 口 有 一 郎 14
日 本 の 不 動 産 市 場 の 活 性 化 には 何 が 必 要 か? 川 口 有 一 郎 15
不 動 産 のインカム 収 入 が 半 減 した 理 由 は? 東 京 都 心 3 区 オフィスビルの 純 賃 貸 収 入 の 推 移 (1970 2009) 450 日 本 の 不 動 産 市 場 の 活 性 化 には 何 が 必 要 か? 400 350 300 250 200 150 100 50 0 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 インカム 指 数 ( 名 目 値 ) インカム 指 数 ( 実 質 値 ) ( 出 所 : 旧 MTB IKOMAデータを 用 いて 筆 者 作 成 ) 過 去 のデフレの 原 因 は 労 働 人 口 や 国 の 債 務 残 高 ではない 川 口 有 一 郎 16
日 本 の 不 動 産 市 場 の 活 性 化 には 何 が 必 要 か? バブル 崩 壊 後 の 良 い 金 融 政 策 と 悪 い 金 融 政 策 160 バブル 崩 壊 後 の 日 米 の 住 宅 価 格 の 推 移 日 本 住 宅 価 格 1995 年 11 月 =100: 米 国 住 宅 価 格 2009 年 5 月 =100 140 120 米 国 :QE1 2 3( バーナンキ プット ) 100 80 日 本 : 実 質 金 利 ( 高 ) 60 40 1993/6 1994/3 1994/12 1995/9 1996/6 1997/3 1997/12 1998/9 1999/6 2000/3 2000/12 2001/9 2002/6 2003/3 2003/12 2004/9 2005/6 2006/3 2006/12 2007/9 2008/6 2009/3 2009/12 2010/9 2011/6 2012/3 2012/12 東 証 住 宅 価 格 指 数 ( 首 都 圏 総 合 ) US_Case Shiller *バブル 調 整 後 に 住 宅 価 格 の トレンド を 変 える( 不 動 産 価 格 デフレを 避 ける)こと ( 出 所 : 東 京 証 券 取 引 所 及 びスタンダートプアーズのデータを 用 いて 筆 者 作 成 ) 川 口 有 一 郎 17
日 本 の 不 動 産 市 場 の 活 性 化 には 何 が 必 要 か? 不 動 産 のインカム 成 長 性 のさらなる 低 下 ( 今 回 の 金 融 危 機 ) 東 京 オフィスビル 市 場 の 賃 料 と 空 室 率 の 推 移 ( 出 所 : 三 鬼 商 事 オフィスデータを 用 いて 筆 者 推 計 ) 川 口 有 一 郎 18
アベノミクスの 需 要 創 出 は 一 時 的? 供 給 抑 制 が 必 要? 東 京 オフィビル 市 場 の 需 要 と 供 給 の 推 移 日 本 の 不 動 産 市 場 の 活 性 化 には 何 が 必 要 か? ( 出 所 : 三 鬼 商 事 オフィスデータを 用 いて 筆 者 推 計 ) 川 口 有 一 郎 19
日 本 の 不 動 産 市 場 の 活 性 化 には 何 が 必 要 か? 六 大 都 市 の 生 産 性 の 向 上 その 一 つは 投 資 可 能 な 不 動 産 (400 兆 円 )とインフラ(700 兆 円 )の 流 動 化 促 進 日 本 における 企 業 不 動 産 (CRE) Jリート 保 有 物 件 の 立 地 とインフラストラクチャ 日 本 東 京 福 岡 大 阪 凡 例 : 名 古 屋 札 幌 仙 台 ( 出 所 : 不 動 産 証 券 化 協 会 石 川 氏 資 料 を 用 いて 筆 者 作 成 ) 川 口 有 一 郎 20
崩 壊 しない 不 動 産 ブーム 日 本 の 不 動 産 市 場 の 活 性 化 には 何 が 必 要 か? 不 動 産 価 格 のブームとバーストを 決 める3つの 要 素 1 住 宅 購 入 者 や 不 動 産 投 資 家 の 期 待 は 数 十 年 ~ 約 百 年 に 及 ぶ 長 期 的 なファンダメンタルズの 不 確 実 性 と 大 いに 関 係 している 2 これらの 市 場 参 加 者 の 上 記 に 関 する 信 念 は 多 様 であり かつ 彼 ら 同 士 の 様 々な 出 会 いによって その 信 念 は 変 化 する 3 その 結 果 例 えば 楽 観 派 懐 疑 派 および 中 間 派 の 市 場 シェ アが 変 化 し これが 不 動 産 価 格 の 変 動 をもたらす この 社 会 的 動 学 をうまく 制 御 することで 崩 壊 しない 不 動 産 ブームを 創 ることが 可 能 となる 川 口 有 一 郎 21
日 本 の 不 動 産 市 場 の 活 性 化 には 何 が 必 要 か? まずは リアルアセット クラスの 増 大 を 日 本 のリアルアセット 上 記 のインフラと 不 動 産 など( 約 1,100 兆 円 ) 流 動 化 の 仕 組 みはすでにある さらなる 流 動 化 の 促 進 のための 規 制 緩 和 ( 例 : 流 動 化 における 課 税 の 繰 り 延 べなど) 公 的 年 金 による 積 極 的 な 投 資 を パフォーマンス:Jリートや 私 募 不 動 産 投 資 ファンド> 日 本 の 株 式 (TOPIX) アベノミクスの 出 口 では 国 債 に 代 わる 新 たな 投 資 商 品 が 求 められる 六 大 都 市 の 不 動 産 市 場 の 活 性 化 ビルの 適 正 な 供 給 スケジュール( 官 民 による 都 市 ビジョンの 明 確 化 ) オフィスなどの 床 需 要 の 創 出 ( 例 : 国 内 外 のTMTセクターの 誘 致 促 進 など) 移 民 政 策 の 検 討 を 始 めることで 悲 観 派 の 信 念 を 更 新 することを 狙 う 資 産 流 動 化 は 雇 用 の 創 出 にも 寄 与 資 産 流 動 化 は 多 様 なサービス 業 の 分 業 と 専 門 特 化 を 前 提 とする 資 産 流 動 化 の 促 進 は 雇 用 やビルの 床 需 要 の 増 加 に 寄 与 する 崩 壊 しない 不 動 産 ブーム 不 動 産 デフレからの 脱 却 川 口 有 一 郎 22