青 森 県 水 産 総 合 研 究 センター 研 究 報 告 第 5 号 (2007. 3) Bull.Aoori Pref.Fisher.Res.Centr.,No.5:1 10. 青 森 県 周 辺 海 域 の 透 明 度 佐 藤 晋 一 青 森 県 水 産 総 合 研 究 センター 038-2761 西 津 軽 郡 鯵 ヶ 沢 町 大 字 舞 戸 字 鳴 戸 384-37 E-ail:shinichi sato@ags.pref.aoori.jp キーワード: 透 明 度 季 節 変 化 経 年 変 化 Transparency of the waters surrounding Aoori Prefecture Shinichi SATO Abstract: I exained transparency data for the waters around Aoori Prefecture collected fro April 1929. In the Japan Sea, transparency was inial fro April to May and axial fro August to Septeber. The inial value appeared to result fro the spring bloo. In the Pacific Ocean, transparency was inial fro April to June, and this appeared to be related to the spring bloo. I looked at the annual low in both the iniu and axiu periods. In the region of the Pacific Ocean affected by the Tsugaru War Current, transparency was low in both the iniu and axiu periods. A periodicity of 1 to 7 years was found in the chronological data. An exaination of the regie shift showed that the shift was greatest in the 1940s. The correlation between chlorophyll a during the bloo and transparency was approxiately -0.6. 透 明 度 は 海 洋 表 層 の 平 均 的 な 海 水 の 濁 りの 指 標 であり, 白 昼 に 透 明 度 板 という 直 径 30センチの 白 色 の 平 らな 円 盤 を 水 平 に 水 中 に 降 ろし, 上 から 見 てこれがちょうど 見 えなくなる 限 界 の 深 さをメー トルで 表 すものである. 当 センターでは1910 年 代 から 海 洋 観 測 を 継 続 しているが, 透 明 度 のデータ についてはほとんど 利 用 されていないのが 現 状 で ある.ここでは 透 明 度 のデータを 整 理 し, 若 干 の 考 察 を 行 ったので 報 告 する. 材 料 及 び 方 法 海 洋 観 測 は1916 年 ( 大 正 5 年 )7 月 に 始 められた が, 透 明 度 のデータは1929 年 4 月 に 日 本 海 側 で 観 測 されたものが 最 も 古 い 記 録 であった. 資 料 とし ては 海 洋 調 査 要 報 ( 水 産 庁 44 号 -1929 年 前 期 か ら74 号 -1950 年 ), 青 森 県 水 産 試 験 場 事 業 報 告 ( 青 森 水 試 1929 年 から2003 年 ), 海 洋 観 測 資 料 ( 水 産 庁 1963 年 から1985 年 ) 及 び 定 線 観 測 結 果 表 ( 青 森 水 試 1986 年 から2003 年 )を 用 い, 本 県 沖 の 日 本 海 及 び 太 平 洋 のデータを 整 理 した. 結 果 1929 年 4 月 から2003 年 12 月 までに 本 県 沖 合 域 で 観 測 された 透 明 度 のデータは9,445 件 ( 日 本 海 側 4,850 件, 太 平 洋 側 4,595 件 )であった( 表 1). 水 平 的 な 広 がりは 日 本 海 側 で 北 緯 40 度 00 分 から41 度 51 分, 東 経 135 度 19 分 から140 度 20 分, 太 平 洋 側 で 北 緯 38 度 57 分 から43 度 00 分, 東 経 141 度 27 分 から % 図 1 観 測 された 透 明 度 の 度 数 分 布 データ 数 日 本 海 4,850 太 平 洋 4,595 1
佐 藤 晋 一 表 1 海 域 別, 年 別 データ 数 図 2 透 明 度 の 月 平 均 値 ( 日 本 海 北 緯 40 度 35 分 12 地 点 分 ) 図 2 6 の 各 線 は 各 定 点 ごとの 月 平 均 値 を 示 す 図 3 透 明 度 の 月 平 均 値 ( 日 本 海 北 緯 41 度 12 地 点 分 ) 164 度 49 分 であった.また, 透 明 度 の 範 囲 は 日 本 海 側 で1から40( 平 均 13.6), 太 平 洋 側 で1か ら36 ( 平 均 15.5)となっていた( 図 1). (1) 季 節 変 動 日 本 海 側 では 多 くのデータが 北 緯 40 度 35 分 線 ( 舮 作 線 ) 及 び 北 緯 41 度 線 ( 十 三 線 )に 沿 ったか たちでとられていた. 北 緯 40 度 35 分 線 では 東 経 139 度 52 分 から138 度 20 分 まで2,747 個 のデータが あり, 比 較 的 まとまった12ヶ 所 について 月 平 均 値 を 算 出 した.その 結 果, 透 明 度 が 極 小 となるのは 5 月 で, 極 大 となるのは8 月 であった( 図 2, 図 7). 北 緯 41 度 線 では 東 経 140 度 16 分 から138 度 19 分 ま で1,550 個 のデータがあり, 比 較 的 まとまった12 ヶ 所 について 月 平 均 値 を 算 出 した.その 結 果, 透 明 度 が 極 小 となるのは4 月 で, 極 大 となるのは8 月 図 4 透 明 度 の 月 平 均 値 ( 太 平 洋 北 緯 41 度 25 分 13 地 点 分 ) 図 5 透 明 度 の 月 平 均 値 ( 太 平 洋 北 緯 41 度 6 地 点 分 ) 図 6 透 明 度 の 月 平 均 値 ( 太 平 洋 北 緯 40 度 30 分 15 地 点 分 ) 2
青 森 県 周 辺 海 域 の 透 明 度 図 7 各 観 測 ラインごとの 月 平 均 透 明 度 の 季 節 変 化 ( 日 本 海 側 ) から9 月 であった( 図 3, 図 7). 日 本 海 側 では 極 小 となるのは4 月 から5 月 ( 平 均 値 の 範 囲 は9.4 12.3) 及 び 沿 岸 側 の11 12 月 ( 平 均 値 の 範 囲 は11.0 16.5)であった. 極 大 は8 月 から9 月 ( 平 均 値 の 範 囲 は14.7 24.1) 及 び2 月 ( 平 均 値 の 範 囲 は16.7 18.8)で,8 9 月 は 東 経 139 度 付 近 に 中 心 がみられた. 舮 作 線 ( 北 緯 40 度 35 分 )と 十 三 線 ( 北 緯 41 度 00 分 )の 南 北 差 はほとんどみられなかった. 太 平 洋 側 では 多 くのデータが 北 緯 41 度 25 分 線 ( 尻 屋 線 ), 北 緯 41 度 00 分 線 ( 出 戸 線 ) 及 び 北 緯 40 度 30 分 線 ( 鮫 角 線 )に 沿 ったかたちでとられて いた. 北 緯 41 度 25 分 線 では 東 経 141 度 34 分 から145 度 20 分 まで1,110 個 のデータがあり, 比 較 的 まと まった13ヶ 所 について 月 平 均 値 を 算 出 した.その 結 果, 透 明 度 が 極 小 となるのは4 月 から6 月 で, 極 大 となるのは9 月 から2 月 であった( 図 4 図 8). 北 緯 41 度 線 では 東 経 141 度 30 分 から144 度 20 分 ま で485 個 のデータがあり, 比 較 的 まとまった6ヶ 所 について 月 平 均 値 を 算 出 した.その 結 果, 透 明 度 が 極 小 となるのは4 月 から6 月 で, 極 大 となるのは 12 月 及 び3 月 であった( 図 5, 図 8). 北 緯 40 度 30 分 線 では 東 経 141 度 35 分 から145 度 30 分 まで1,745 個 のデータがあり, 比 較 的 まとまっ た15ヶ 所 について 月 平 均 値 を 算 出 した.その 結 果, 透 明 度 が 極 小 となるのは4 月 から6 月 で, 極 大 図 8 各 観 測 ラインごとの 月 平 均 透 明 度 の 季 節 変 化 ( 太 平 洋 側 ) 3
佐 藤 晋 一 となるのは8 月 から9 月 及 び12 月 から2 月 であった ( 図 6 図 8). 太 平 洋 側 では 極 小 となるのは4 月 から6 月 ( 平 均 値 の 範 囲 は4.4 13.0)であった. 鮫 角 線 では 141 度 30 分 以 西 のごく 沿 岸 部 で 周 年 低 い 値 ( 平 均 値 の 範 囲 は4.4 11.3)を 示 していた. 極 大 は2 3 月,8 9 月 及 び11 12 月 にみられた.2 3 月 はごく 沿 岸 側 ( 平 均 値 の 範 囲 は17.4 21.8) 及 び143 度 30 分 から144 度 30 分 ( 平 均 値 の 範 囲 は17.1 20.8)が 中 心 となっていた.8 9 月 は142 度 ( 平 均 値 の 範 囲 は16.1 17.3) 及 び144 度 30 分 か ら145 度 ( 平 均 値 の 範 囲 は16.2 19.2)が 中 心 と なっていた.また,11 月 から12 月 は141 度 30 分 か ら143 度 ( 平 均 値 の 範 囲 は16.0 20.3)が 中 心 と なっていた. 尻 屋 線 では2 3 月 に 東 経 143 度 30 分 から144 度 30 分 で 高 く, 鮫 角 線 では11 3 月 に141 度 30 分 143 度 の 沿 岸 側 で 高 め,141 度 40 分 以 西 のごく 沿 岸 部 では 周 年 低 めとなっているのが 特 徴 的 であった. (2) 一 次 式 でみた 経 年 変 動 透 明 度 の 極 小 期 と 極 大 期 について, 観 測 地 点 別 にデータ 数, 観 測 期 間 及 び 一 次 の 長 期 変 動 傾 向 値 をまとめて 表 2に 示 した. 日 本 海 は 極 小 期 として4 5 月, 極 大 期 として8 9 月, 太 平 洋 は 極 小 期 と して4 6 月, 極 大 期 として8 9 月 とした. 日 本 海 の 極 小 期 のデータを 使 って 傾 向 値 を 算 出 したところ, 舮 作 線 では 0.0139となり, 透 明 度 は 低 くなる 傾 向 を 示 した( 図 9). 十 三 線 でも 0.0231となり 同 様 の 傾 向 を 示 した( 図 10). 観 測 点 ごとにみると, 舮 作 線 では 全 ての 傾 向 値 が 負 の 値 となり, 東 経 138 度 40 分 から45 分 でその 傾 向 が 顕 著 であった.また, 十 三 線 でも 傾 向 値 に 負 の 値 がみられ, 東 経 140 度 6 分 以 東 の 沿 岸 側 でその 値 表 2 観 測 地 点 別 の 長 期 変 動 傾 向 データ 数 の 少 ない 地 点, 観 測 期 間 が 短 い 地 点 や 連 続 データがとられていない 地 点 は 削 除 した. 4
青 森 県 周 辺 海 域 の 透 明 度 y = -0.0139x+38.992 y=-0.0559x+130.19 図 9 透 明 度 の 経 年 変 化 ( 極 小 期 舮 作 線 ) 図 11 透 明 度 の 経 年 変 化 ( 極 大 期 舮 作 線 ) y=-0.0441x+106.72 y=-0.0231x+57.756 図 10 透 明 度 の 経 年 変 化 ( 極 小 期 十 三 線 ) 図 12 透 明 度 の 経 年 変 化 ( 極 大 期 十 三 線 ) が 大 きくなっていた. また, 極 大 期 をみると, 傾 向 値 は 舮 作 線 で 0.0559, 十 三 線 で 0.0441となり, 透 明 度 のより 強 い 低 下 傾 向 を 示 した( 図 11,12). 観 測 点 ごと にみると, 舮 作 線 では 全 ての 傾 向 値 が 負 の 値 とな り, 沖 側 ほどその 傾 向 が 顕 著 であった.また, 十 三 線 でも 傾 向 値 に 負 の 値 がみられ, 沖 側 ほどそ の 傾 向 が 顕 著 であった. 太 平 洋 側 では 観 測 ラインごとの 傾 向 値 は 極 小 期 で 尻 屋 線 で0.0260, 出 戸 線 で0.0404, 鮫 角 線 で 0.0078と 北 側 で 透 明 度 が 高 くなる 傾 向 がみられ た( 図 13 15). 観 測 点 ごとにみると, 尻 屋 線 で は 東 経 141 度 40 分 以 西 で 負,142 度 以 東 では 正 の 値 を 示 した. 出 戸 線 では142 度 20 分 付 近 で 負 の 値 を 示 した.また, 鮫 角 線 では141 度 45 分 から142 度 で 負 の 値 をみせた. また, 極 大 期 をみると, 傾 向 値 は 尻 屋 線 で 0.0263, 出 戸 線 で0.0055, 鮫 角 線 で 0.0168と 尻 屋 線 及 び 鮫 角 線 で 透 明 度 が 低 くなる 傾 向 がみられ た( 図 16 18). 観 測 点 ごとにみると, 尻 屋 線 で は 東 経 141 度 40 分 付 近 で 負 の 値 を 示 した. 出 戸 線 では142 度 20 分 付 近 で 負 の 値 を 示 した.また, 鮫 角 線 では142 度 以 西 及 び144 度 付 近 で 負 の 値 をみせ た. (3)トレンドを 除 去 した 偏 差 でみた 経 年 変 動 表 3には 透 明 度 の 平 均 偏 差 時 系 列 の 長 期 変 動 傾 向 を 観 測 線 ごとにまとめて 示 した.この 際, 同 年 同 月 のデータは 平 均 して1 個 のデータとして 扱 か った( 図 19 23). 日 本 海 側 では 漸 減 傾 向 がみられ, 透 明 度 が 低 く なる 傾 向 が 認 められた. 周 期 性 をみると, 舮 作 線 では1 年,2 年,3 年,4 年,5 年,6 年 及 び7 年, 十 三 線 では1 年,2 年,3 年,4 年 及 び5 年 に 有 意 差 がみられた. 太 平 洋 側 では 尻 屋 線 及 び 出 戸 線 で 透 明 度 が 高 く なる 傾 向 がみられた.また, 鮫 角 線 では 顕 著 な 傾 向 はみられなかった. 周 期 性 をみると, 尻 屋 線 で は1 年,2 年,3 年,4 年 及 び5 年, 鮫 角 線 では1 年, 2 年 及 び3 年 に 有 意 な 周 期 性 がみられた.また, 出 戸 線 では61ヶ 月 までの 各 月 に 有 意 な 周 期 性 がみら れた. (4)レジームシフトとの 対 応 北 太 平 洋 の 気 候 海 洋 システムが 急 激 に 変 わる レジームシフトは20 世 紀 に1924/25 年,47/48, 76/77,88/89,98/99 年 の5 回 発 生 したことが 報 告 5
佐 藤 晋 一 y=0.026x-40.801 y=-0.0263x+66.312 図 13 透 明 度 の 経 年 変 化 ( 極 小 期 尻 屋 線 ) y=0.0229x-34.53 図 16 透 明 度 の 経 年 変 化 ( 極 大 期 尻 屋 線 ) y=0.0055x+4.1554 図 14 透 明 度 の 経 年 変 化 ( 極 小 期 出 戸 線 ) 図 17 透 明 度 の 経 年 変 化 ( 極 大 期 出 戸 線 ) y=-0.0078x+25.803 y=-0.0168x+48.682 図 15 透 明 度 の 経 年 変 化 ( 極 小 期 鮫 角 線 ) されている(Minobe 1999,2000).これらの 期 間 に 対 応 した 透 明 度 のトレンドを 除 去 した 偏 差 を 観 測 線 ごとに 平 均 値 を 算 出 し,レジームシフトとの 対 応 を 検 討 した( 図 24 28). 1924/25 年 のシフトについてはデータがなかっ たのでわからないが,これ 以 後 の4 回 分 について みると,47/48 年 のシフトについては4 測 線 で 透 明 度 の 偏 差 が 上 昇 する 傾 向 がみられ, 正 偏 差 となっ た.76/77 年 のシフトでは 太 平 洋 側 の 出 戸 線 及 び 鮫 角 線 で 偏 差 が 大 きく 下 降 した.98/99 年 のシフ トでは 太 平 洋 側 の3 測 線 で 偏 差 の 比 較 的 大 幅 な 上 昇 がみられた. 図 18 透 明 度 の 経 年 変 化 ( 極 大 期 鮫 角 線 ) (5)クロロフィルa 量 との 関 係 クロロフィルa 量 は1998 年 から 太 平 洋 の 観 測 時 に 測 定 を 行 っている.これに 対 応 する 透 明 度 のデ ータがある 場 合 を 抜 き 出 して 両 者 の 関 係 を 検 討 し た( 図 29).なお, 透 明 度 は 植 物 プランクトン 量 に 大 きく 影 響 される 時 期 と 雪 解 けや 豪 雨 など 陸 水 の 流 入 による 濁 りや 夜 光 虫 など 植 物 色 素 を 持 たな いベン 毛 虫 の 影 響 が 大 きい 時 期 が 考 えられるた め, 植 物 プランクトンに 起 因 するとみられる 春 の ブルーム 時 期 に 限 ったサンプルでクロロフィルa と 透 明 度 の 関 係 を 検 討 した. 抽 出 時 期 は6 月 のみ となった. クロロフィルa 量 のデータは 表 面,20 層 及 び これらの 平 均 値 を 用 いたが,いずれも 傾 向 として 6
青 森 県 周 辺 海 域 の 透 明 度 図 19 透 明 度 のトレンドを 除 去 した 時 系 列 ( 日 本 海 舮 作 線 ) 図 21 透 明 度 のトレンドを 除 去 した 時 系 列 ( 太 平 洋 尻 屋 線 ) 図 20 透 明 度 のトレンドを 除 去 した 時 系 列 ( 日 本 海 十 三 線 ) 図 22 透 明 度 のトレンドを 除 去 した 時 系 列 ( 太 平 洋 出 戸 線 ) は 透 明 度 が 高 いほどクロロフィルa 量 は 低 くなっ ていた. 相 関 は 0.6 程 度 であった. 考 察 透 明 度 の 日 本 海 側 での 季 節 変 動 は4 月 から5 月 に 極 小 で,8 月 から9 月 に 極 大 となった.4 月 から5 月 の 極 小 は 春 のブルーミングの 時 期 にあたるためと 思 われる.8 月 から9 月 の 極 大 は 沖 合 側 に 極 大 の 中 心 があることから, 対 馬 暖 流 の 表 層 付 近 の 水 温 が 極 大 となる 時 期 に 近 いためと 考 えられる. 太 平 洋 側 では4 月 から6 月 に 極 小 となった.これ も 春 のブルーミングと 密 接 な 関 係 にあるものと 思 図 23 透 明 度 のトレンドを 除 去 した 時 系 列 ( 太 平 洋 鮫 角 線 ) われる.また, 鮫 角 線 ではごく 沿 岸 部 で 周 年 低 い 値 を 示 した.この 海 域 は 水 深 100 以 浅 の 遠 浅 の 地 形 であることや 人 為 的 な 汚 染 による 影 響 と 考 え ることもできる. 表 3 トレンドを 除 去 した 時 系 列 の 長 期 変 動 傾 向 ( 観 測 線 ごと) 7
佐 藤 晋 一 1933 年 48 77 99 89 2004 1933 年 48 77 89 99 2004 図 24 レジームごとの 平 均 偏 差 ( 舮 作 線 ) 図 26 レジームごとの 平 均 偏 差 ( 尻 屋 線 ) 89 1954 年 77 89 99 2004 1930 年 48 77 2004 99 図 25 レジームごとの 平 均 偏 差 ( 十 三 線 ) 図 27 レジームごとの 平 均 偏 差 ( 出 戸 線 ) 一 方, 極 大 となる 時 期 は8 月 から9 月 と12 月 から 3 月 に 分 散 していた. 鮫 角 線 では8 月 から9 月, 東 経 143 度 から145 度 の 沖 合 側 で 透 明 度 が 極 大 となっ た.この 海 域 は 親 潮 の 沖 合 側 にあたり, 夏 期 の 最 も 水 温 の 上 がる 時 期 ( 表 層 では18 20 台 )にあ たるためと 考 えられる. 鮫 角 線 では12 月 から3 月,142 度 30 分 以 西 の 沿 岸 側 で, 出 戸 線 では12 月 と3 月 に142 度 以 西 の 沿 岸 側 で 極 大 となった.いずれも 津 軽 暖 流 域 で, 鉛 直 混 合 期 であるためと 考 えられる. 尻 屋 線 では3 月 に143 度 30 分 付 近 で 極 大 となっ た.この 時 期 は 親 潮 水 の 張 り 出 しが 最 も 顕 著 で, 水 温 2 台 の 水 が 数 100メートルまで 及 ぶ 時 期 のた めと 考 えられる. 経 年 変 動 を 一 次 の 傾 向 値 でみると, 日 本 海 側 で は 極 小 期, 極 大 期 ともに 透 明 度 が 低 くなる 傾 向 を 示 したが,その 傾 向 は 極 大 期 で 顕 著 であった. 地 理 的 な 分 布 をみると, 極 小 期 は 津 軽 海 峡 西 口 付 近 で 低 下 傾 向 をみせた 一 方, 極 大 期 では 同 海 域 の 透 明 度 は 上 昇 する 傾 向 をみせた.これは,この 海 域 の 透 明 度 の 変 動 幅 が 大 きくなってきていることを 1929 年 48 77 89 99 2004 図 28 レジームごとの 平 均 偏 差 ( 鮫 角 線 ) クロロフィル(g/l) 透 明 度 () 図 29 透 明 度 とクロロフィルa 量 の 関 係 (クロロフィルa 量 は 表 面 と 20 層 の 平 均 値 ) ( 太 平 洋 1998 1999 年 2001 2003 年 ) 8
青 森 県 周 辺 海 域 の 透 明 度 示 すものと 思 われる.また,その 沖 側 では 逆 の 傾 向 を 示 し, 対 馬 暖 流 の 透 明 度 の 変 動 幅 が 小 さくな ってきていることを 示 すものと 考 えられる. 太 平 洋 側 の 極 小 期 では 北 側 で 透 明 度 が 上 昇, 極 大 期 では 尻 屋 線 と 鮫 角 線 で 下 降 する 傾 向 をみせ た. 地 理 的 な 分 布 をみると, 極 小 期 は 沿 岸 側 の 海 域 で 透 明 度 が 低 くなる 傾 向 をみせ, 極 大 期 には 同 様 の 傾 向 は 沿 岸 域 から 沖 合 域 にまで 広 がってい た. 津 軽 暖 流 の 影 響 の 及 ぶ 範 囲 では 極 小 期, 極 大 期 ともに 透 明 度 が 低 くなってきているものと 思 わ れる. 透 明 度 の 傾 向 変 動 をみると, 太 平 洋 側 の 尻 屋 線 及 び 出 戸 線 を 除 いて 低 くなる 傾 向 を 示 した.100 年 間 に 換 算 すると 日 本 海 側 の 舮 作 線 及 び 十 三 線 で 4 5 透 明 度 が 低 くなったことになり, 太 平 洋 側 の 尻 屋 線 及 び 出 戸 線 で2 3 透 明 度 が 高 くなった ことになる.この 要 因 として, 本 県 日 本 海 側 は 対 馬 暖 流 の 収 束 する 海 域 であり, 人 為 的 な 汚 染 が 現 れやすいことが 原 因 と 考 えられ, 太 平 洋 側 では 温 暖 化 による 解 氷 水 の 増 加 により 水 温 の 下 降 傾 向 が より 強 く 現 れたことが 考 えられる. トレンドを 除 去 した 時 系 列 には1 7 年 ぐらいま での 周 期 性 が 認 められた.1 年 周 期 は 季 節 変 動 で あるが,5 6 年 周 期 は 対 馬 海 峡 や 日 本 海 中 部 にお いて 報 告 されている( 磯 田,1995).その 間 の 周 期 性 については 不 明 であるが,データの 欠 測 が 多 いことに 問 題 があるのかもしれない. レジームシフトとの 対 応 では47/48 年 のシフト との 対 応 がよく 現 れていた. 一 方 では,1925/26 年,42/43,57/58,70/71,76/77 年 のレジームシ フトも 報 告 されている( 花 輪,2004 年 ).これら についても 同 様 の 処 理 を 行 い, 透 明 度 の 偏 差 との 対 応 を 調 べてみた.その 結 果,25/26 年 はデータ がないためわからないが,42/43 年 のシフトでは 太 平 洋 の3 観 測 線 で 偏 差 の 大 幅 な 上 昇 がみられ, 舮 作 線 で 偏 差 の 大 幅 な 下 降 がみられた.57/58 年 のシフトでは 十 三 線, 出 戸 線 及 び 鮫 角 線 で 偏 差 の 大 幅 な 下 降 がみられ, 鮫 角 線 で 偏 差 の 大 幅 な 上 昇 がみられた.70/71 年 のシフトでは 尻 屋 線 で 偏 差 の 大 幅 な 下 降, 鮫 角 線 で 偏 差 の 大 幅 な 上 昇 がみら れるという 結 果 となった. いずれにしても,1940 年 代 のシフトとの 対 応 が 最 もよくみられた.これはこの 期 を 境 に 水 温 の 高 温 期 に 入 り, 透 明 度 も 高 くなったことを 示 してい ると 考 えられる. ブルーム 期 のクロロフィルa 量 と 透 明 度 との 相 関 は 0.6 程 度 となった. 今 後,データの 蓄 積 がな されれば 両 者 の 相 関 は 高 まっていくものと 期 待 さ れる 透 明 度 とクロロフィルa 量 との 関 係 がつか められれば,より 長 い 時 系 列 をもつ 透 明 度 のデー タを 使 って 過 去 の 表 層 クロロフィルa 量 の 推 移 を 推 定 することができ, 生 態 系 モデルへの 貢 献 など も 期 待 できる. 要 約 1929 年 4 月 以 降 に 青 森 県 周 辺 海 域 で 観 測 された 透 明 度 のデータを 整 理 した. 透 明 度 の 日 本 海 側 での 季 節 変 動 は4 月 から5 月 に 極 小 で,8 月 から9 月 に 極 大 となった.4 月 から5 月 の 極 小 は 春 のブルーミングの 時 期 にあたるためと 思 われた.8 月 から9 月 の 極 大 は 対 馬 暖 流 の 表 層 付 近 の 水 温 が 極 大 となる 時 期 に 近 いためと 考 えられ た. 太 平 洋 側 では4 月 から6 月 に 極 小 となった.これ も 春 のブルーミングと 関 係 があるものと 思 われ た. 一 方, 極 大 となる 時 期 は8 月 から9 月 と12 月 か ら3 月 にみられた.8 月 から9 月 は 親 潮 の 沖 合 側 で, 夏 期 の 最 も 水 温 の 上 がる 時 期 にあたるためと 考 えられた.12 月 から3 月 は 沿 岸 側 で 極 大 となっ た.これは 津 軽 暖 流 域 で, 鉛 直 混 合 期 にあたるた めと 考 えられた.3 月 の 極 大 は 親 潮 水 の 張 り 出 し が 最 も 顕 著 であるためと 考 えられた. 経 年 変 動 をみると, 日 本 海 側 では 極 小 期, 極 大 期 ともに 透 明 度 が 低 くなる 傾 向 を 示 した. 太 平 洋 側 の 津 軽 暖 流 水 の 影 響 の 及 ぶ 範 囲 では 極 小 期, 極 大 期 ともに 透 明 度 が 低 くなっていると 思 われた. トレンドを 除 去 した 時 系 列 には1 7 年 ぐらいま での 周 期 性 が 認 められた. レジームシフトとの 対 応 では1940 年 代 のシフト との 対 応 が 最 もよくみられた.これはこの 期 を 境 に 水 温 の 高 温 期 に 入 り, 透 明 度 も 高 くなったこと 9
佐 藤 晋 一 を 示 していると 考 えられた. ブルーム 期 のクロロフィルa 量 と 透 明 度 との 相 関 は 0.6 程 度 であった. 謝 辞 データ 入 力 に 当 たっては 青 鵬 丸 尾 鷲 政 幸 甲 板 員 に 多 大 なる 助 力 をいただきました ここに 記 して 謝 意 を 表 します 参 考 文 献 磯 田 豊 是 松 弘 志.1995. 対 馬 暖 流 域 における 水 温 塩 分 溶 存 酸 素 の 鉛 直 断 面 分 布 の 経 年 変 化. 海 と 空, 71(2):47 47 気 象 庁 編 集 気 象 業 務 支 援 センター 発 行.1999. 海 洋 観 測 指 針,( 第 1 部 ):9 10. 海 洋 調 査 要 報 ( 水 産 庁,44 号 1929 年 前 期 から74 号 1950 年 ) 青 森 県 水 産 試 験 場 事 業 報 告 ( 青 森 水 試,1929 年 から 2003 年 ) 海 洋 観 測 資 料 ( 水 産 庁,1963 年 から1985 年 ) 定 線 観 測 結 果 表 ( 青 森 水 試,1986 年 から2003 年 ) 杉 本 隆 成. 2 0 0 4. 海 流 と 生 物 資 源 成 山 堂 書 店, 268pp. 花 輪 公 雄.2004.1998 年 に 日 本 周 辺 でレジームシフトは 起 こったか? 水 産 海 洋 学 会 主 催 講 演 要 旨 集. 4-5pp. 10