第 1 回 総 合 研 究 大 学 院 大 学 科 学 者 賞 受 賞 講 演 Challenge is the Best Defense 石 橋 を 叩 いたら 渡 れない 中 央 大 学 理 工 学 部 物 理 学 科 教 授 中 村 真 ( 数 物 科 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程 2001 年 修 了 ) Shin Nakamura (Dept. of Phys., Chuo Univ.) (Doctor of Science, 2001 from GUAS)
自 己 紹 介 中 央 大 学 理 工 学 部 物 理 学 科 教 授 中 村 真 (なかむら しん) ( 総 研 大 数 物 科 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程 2001 年 修 了 ) 高 校 : 東 京 都 立 国 立 (くにたち) 高 校 一 年 間 河 合 塾 に 通 う クラブ: 硬 式 野 球 部 大 学 : 慶 應 義 塾 大 学 理 工 学 部 物 理 学 科 卒 業 研 究 : 一 次 元 合 金 の 成 長 に 関 するモンテカルロシミュレーション クラブ: 理 工 山 岳 部 理 工 硬 式 野 球 部 大 学 院 その1: 京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 物 理 学 第 2 専 攻 原 子 核 物 理 2 ( 原 子 核 実 験 @ 化 学 研 究 所 ) 研 究 テーマ: 化 合 物 半 導 体 中 の 動 的 核 スピン 偏 極 実 験 Axion 探 索 実 験 の 手 伝 い CERNでの 実 験... 博 士 課 程 まで 行 く
大 学 院 その2: 総 合 研 究 大 学 院 大 学 数 物 科 学 研 究 科 (KEK 理 論 部 ) D1に 編 入 ( 指 導 教 官 : 川 合 光 先 生 ) 研 究 テーマ: 素 粒 子 論 特 に 超 弦 理 論 途 中 で 川 合 先 生 が 京 大 教 授 となる ( 自 分 も 京 大 理 学 部 素 粒 子 論 へ) D3 で 結 婚 D4 で 博 士 号 取 得 (2001 年 ) その 後 ポスドク 研 究 員 等 として 各 地 を 転 々とする 基 研 KEK 理 研 ニールスボーア 研 究 所 (デンマーク) Center for Quantum Spacetime (CQUeST) ( 韓 国 ) APCTP( 韓 国 ) 京 大 理 ( 素 粒 子 論 ) 京 大 理 ( 原 子 核 理 論 ) 名 大 理 (クォークハドロン 理 論 : 特 任 准 教 授 ) 2014 年 4 月 から: 中 央 大 学 理 工 学 部 教 授 (2014 年 10 月 より 半 年 間 東 大 物 性 研 客 員 教 授 併 任 )
Question あなたは 今 27 歳 博 士 後 期 課 程 の3 年 生 だったとします しかし 残 念 ながら 研 究 活 動 が 軌 道 に 乗 っていません どうしますか? 選 択 1: そのまま 頑 張 って 研 究 を 続 ける 選 択 2: 研 究 テーマを 変 更 する 選 択 3: 思 い 切 って 研 究 分 野 を 変 更 する 選 択 4: 世 界 を 放 浪 する 私 の 選 択
思 い 切 って 研 究 分 野 を 変 更 する とは? 私 の 場 合 実 験 物 理 学 から 理 論 物 理 学 へ 変 更 実 験 不 安 定 原 子 核 の 磁 気 モーメント 測 定 を 目 的 とした 化 合 物 半 導 体 中 の 原 子 核 スピンの 偏 極 実 験 理 論 素 粒 子 理 論 特 に 超 弦 理 論 分 野 変 更 に 伴 い 京 大 物 理 D3 総 研 大 D1 当 然 学 位 は 取 らずに 分 野 変 更
Question あなたは 今 27 歳 博 士 後 期 課 程 の3 年 生 だったとします しかし 残 念 ながら 研 究 活 動 が 軌 道 に 乗 っていません どうしますか? 選 択 1: そのまま 頑 張 って 研 究 を 続 ける 選 択 2: 研 究 テーマを 変 更 する 選 択 3: 思 い 切 って 研 究 分 野 を 変 更 する 選 択 4: 世 界 を 放 浪 する 私 の 選 択
世 界 を 放 浪 する とは? 世 界 というか 中 国 だけれど 京 都 大 学 学 士 山 岳 会 日 中 友 好 梅 里 雪 山 峰 合 同 学 術 登 山 隊 に 参 加 (1996 年 : 実 験 のD3 総 研 大 入 学 前 年 ) 梅 里 雪 山 (6740m) 中 国 雲 南 省 とチベット 自 治 区 の 境 界 に 位 置 する 未 踏 峰 1991 年 1 月 中 合 同 登 山 隊 ( 第 2 次 隊 )17 名 が 行 方 不 明 我 々は 再 挑 戦 の 第 3 次 隊
私 が28 歳 の 誕 生 日 を 迎 えたのは 中 国 雲 南 省 の 省 都 昆 明
このバスで 移 動 チベット 族 の 人 々
村 々を 超 えて 山 へと 向 かう
この 峠 まで 行 くと キャンプ1
この 雪 原 に2 次 隊 17 名 が 眠 っている
読 売 新 聞 社 取 材 チームのテント
無 念 の 決 断
登 山 そのものは 失 敗 に 終 わる 登 山 後 中 国 雲 南 省 四 川 省 ~ベトナム 国 境 を 約 1 月 放 浪 し 返 還 前 の 香 港 経 由 で 帰 国 総 研 大 の 願 書 は 出 発 前 に 両 親 に 託 しておいた ( 出 願 時 期 は 登 山 中 のため 代 りに 投 函 するようにと ) 総 研 大 の 先 生 との 間 では 一 年 間 京 都 で 素 粒 子 理 論 の 勉 強 をしてくることになっていた
かくして 1997 年 の 早 春 チベット 帰 りの28 歳 の 男 が 総 研 大 D1への 入 学 試 験 ( 口 頭 試 問 )を 受 けたのだが 結 果 は 予 想 に 反 し 入 学 を 許 可 であった
入 学 の 条 件 当 時 の 受 入 教 員 から 言 われた 総 研 大 入 学 の 条 件 : 素 粒 子 理 論 に 年 齢 は 関 係 ない 年 齢 ではなく 成 長 を 見 る しかし ある 程 度 の 素 養 が 必 要 なのも 事 実 1 年 後 に 勉 強 の 進 み 具 合 を 確 認 し そのまま 進 んでよいか 判 断 する OKならば2 年 目 に 進 む 2 年 後 に 再 度 確 認 する 2 年 やってもダメな 人 は 何 年 やってもダメなので その 時 点 でダメと 判 断 したら 総 研 大 をやめてもらう それで 良 ければ 入 学 を 許 可
理 論 物 理 学 者 としてのスタート 1997 年 4 月 28 歳 : 2 回 目 のD1 4 歳 年 下 の 同 輩 2 3 歳 年 下 の 先 輩 に 囲 まれ 再 スタート 同 年 齢 の もと 同 輩 は 既 にPD 研 究 員 として 活 躍 必 要 に 応 じて 学 部 の 勉 強 の 復 習 にも 追 われた 1?? そんな 私 が なぜ 今 こうして 皆 さんの 前 で 理 論 物 理 学 の 教 授 として 受 賞 講 演 をしているのか? 4 1 4
物 理 学 における 理 論 的 枠 組 み 重 力 の 理 論 アインシュタインの 一 般 相 対 性 理 論 素 粒 子 の 理 論 量 子 力 学 場 の 量 子 論 物 質 の 理 論 統 計 物 理 学 流 体 物 理 学 など 多 粒 子 の 理 論
物 質 の 理 論 多 数 の 粒 子 が 集 まって 構 成 された 系 一 つ 一 つの 粒 子 の 動 きを 追 うのではなく それらを 平 均 化 した 集 団 としての 大 きな 挙 動 を 調 べる 学 問 経 済 に 例 えて 言 えば 一 人 の 家 計 簿 を 研 究 するのではなく 国 家 経 済 の 動 向 を 扱 うようなもの 統 計 物 理 学
統 計 物 理 学 平 衡 状 態 であれば 平 均 化 して 計 算 する 方 法 が 確 立 している 例 : ボルツマン 分 布 しかし エネルギーや 物 質 の 流 れ が 存 在 するなど 平 衡 状 態 にない 系 の 場 合 ( 非 平 衡 状 態 )は 平 均 化 して 計 算 する 方 法 が 完 全 には 確 立 していない 非 平 衡 物 理 学 現 代 物 理 学 における 挑 戦 的 課 題 の 一 つ しかも 身 の 回 りの 現 象 の 殆 どは 非 平 衡 現 象 例 えば 私 の 研 究 : 電 気 伝 導 の 現 象 など これに 重 力 理 論 を 応 用 する
重 力 の 理 論 ニュートン 万 有 引 力 惑 星 の 運 動 アインシュタイン 宇 宙 の 膨 張 光 の 屈 曲 重 力 は 時 空 の 幾 何 学
ブラックホール 一 般 相 対 性 理 論 の 帰 結 重 力 が 強 すぎて 光 でさえ 脱 出 できない 実 は 温 度 を 持 っている (ホーキングら)
私 の 研 究 非 平 衡 統 計 物 理 学 に ブラックホールの 物 理 学 を 応 用 する そのつながりは 超 弦 理 論 から 見 えてくる
私 の 研 究 専 門 的 には AdS/CFT 対 応 あるいは ゲージ 重 力 対 応 と 呼 ばれる 重 力 の 理 論 素 粒 子 の 理 論 物 質 の 理 論 アインシュタインの 一 般 相 対 性 理 論 量 子 力 学 場 の 量 子 論 超 弦 理 論 ここに 応 用 統 計 物 理 学 流 体 物 理 学 など 非 平 衡 物 理 学 多 粒 子 の 理 論
私 の 業 績 の 例 相 対 論 的 流 体 力 学 をブラックホールの 物 理 学 で 記 述 S. Kinoshita, S. Mukohyama, S. Nakamura and K-y. Oda, Phys. Rev. Lett. 102 (2009) 031601. S. Kinoshita, S. Mukohyama, S. Nakamura and K-y. Oda, Prog. Theor. Phys. 121 (2009) 121-164. 素 粒 子 奨 学 会 第 4 回 中 村 誠 太 郎 賞 (2010 年 ) 受 賞 非 線 形 電 気 伝 導 を 示 す 非 平 衡 系 の 新 しい 相 転 移 の 発 見 S. Nakamura, Phys. Rev. Lett. 109 (2012) 120602. 非 平 衡 定 常 系 の 有 効 温 度 概 念 S. Nakamura and H. Ooguri, Phys.Rev. D88 (2013) 126003. その 他 にも 2000 年 総 合 研 究 大 学 院 大 学 長 倉 研 究 奨 励 賞 受 賞 受 賞 受 賞 題 目 ゲージ 理 論 を 記 述 する 弦 理 論 の 構 成
どのようにして ここにたどり 着 いたのか?
自 分 なりに 分 析 すると 諦 めなかった 転 んでもタダでは 起 き 上 がらなかった 正 攻 法 に 頼 らなかった 常 識 的 なシナリオにこだわらなかった 周 囲 の 環 境 ( 指 導 者 と 研 究 環 境 )が 良 かった 自 分 が 成 長 できる 環 境 に 身 を 置 いた ナンバー1ではなくオンリー1を 目 指 した 結 局 理 論 物 理 学 が 大 好 きだった
諦 めなかった 転 んでもタダでは 起 き 上 がらなかった 転 ばぬ 先 の 杖 転 んだ 後 の 杖 転 ばないことが 重 要 なのではない 転 んだ 後 にどう 起 き 上 がるかが 重 要 起 き 上 がり 方 次 第 では 転 ばなかった 場 合 より 事 態 が 好 転 している 何 か 困 難 に 突 き 当 たった 時 今 自 分 と 他 人 が 気 づいていない 解 決 法 が 必 ず 一 つ 以 上 存 在 している
正 攻 法 に 頼 らなかった 常 識 的 なシナリオにこだわらなかった 石 橋 を 叩 いて 渡 る 石 橋 は 叩 いたら 渡 れない 偏 狭 な 常 識 で 自 分 の 可 能 性 を 狭 めてはいけない 1km 先 で 自 分 がどう 歩 くかなど 誰 もシミュレートしない 10m 先 までしっかり 歩 く そしてそれを 続 ける ただし 同 時 に 1km 先 のビジョン( 希 望 )くらいは 持 っておこう
結 局 理 論 物 理 学 が 大 好 きだった 夢 を 追 う 夢 のない 殺 伐 とした 人 生 を 歩 む 気 になるのか? 今 の 夢 は 3 年 後 の( 今 とは 違 うかも 知 れないし 同 じかも 知 れない) 夢 に 連 続 している 人 間 野 心 的 でなくてはならない 自 分 を 奮 い 立 たせる 方 法 を 考 えよ 身 長 +15cm くらいのハードルを 常 に 設 定 せよ
ナンバー1ではなくオンリー1を 目 指 した 常 識 は 非 常 識 世 の 中 まだ 見 たことのない 世 界 の 方 が 多 い マニュアルに 囚 われない 行 動 が 可 能 か? 行 動 例 : 東 京 から 京 都 まで 移 動 : 自 転 車 +ヒッチハイク 2 研 究 職 に 就 く: 大 学 院 変 更 + 放 浪 +やりなおし( 真 剣 ) 研 究 における 自 分 の 道 自 分 の 研 究 領 域 ( 縄 張 り)を 確 立 せよ
簡 単 にあきらめるべきではない 1997 年 4 月 2 回 目 のD1 28 歳 4 歳 年 下 の 同 輩 2 3 歳 年 下 の 先 輩 に 囲 まれ 再 スタート あなただって きっと できるはずでしょう? 18 年 後 中 央 大 学 教 授 東 大 客 員 教 授 教 科 書 執 筆 中 学 術 誌 にレビュー 記 事 の 執 筆 結 婚 し 2 児 の 父
それでは 総 研 大 は? 周 囲 の 環 境 ( 指 導 者 と 研 究 環 境 )が 良 かった 自 分 が 成 長 できる 環 境 に 身 を 置 いた 私 にとっては 良 い 打 ち 上 げロケットであった 当 時 総 研 大 以 外 に 私 を 拾 ってくれる 所 は 無 かった 研 究 所 であったため 多 くのスタッフ 研 究 者 学 生 ( 受 託 性 など)を 擁 し 知 識 吸 収 の 機 会 が 多 かったし 業 界 に 知 人 を 多 く 作 ることができた 私 の 人 生 の 恩 人 だと 思 っています
石 橋 を 叩 いたら 渡 れない Challenge is the Best Defense. 総 研 大 で ともに 夢 を 叶 えましょう