はじめに 冷 戦 終 焉 後 の 地 域 紛 争 の 激 化 やアメリカ 世 界 帝 国 論 の 興 隆 などにより 1990 年 代 から 帝 国 についての 議 論 が 盛 んになされるようになったことは 周 知 の 通 りである 帝 国 とは 近 代 国 民 国 家 と 異 なり 一 定 以



Similar documents
0605調査用紙(公民)

<6D313588EF8FE991E58A778D9191E5834B C8EAE DC58F4992F18F6F816A F990B32E786C73>

<4D F736F F D E598BC68A8897CD82CC8DC490B68B7982D18E598BC68A8893AE82CC8A C98AD682B782E993C195CA915B C98AEE82C382AD936F985E96C68B9690C582CC93C197E1915B927582CC898492B75F8E96914F955D89BF8F915F2E646F6

18 国立高等専門学校機構

m07 北見工業大学 様式①

<4D F736F F D2091E F18CB48D C481698E7B90DD8F9590AC89DB816A2E646F63>

定款

Microsoft PowerPoint - 報告書(概要).ppt

目 次 第 1 土 地 区 画 整 理 事 業 の 名 称 等 1 1. 土 地 区 画 整 理 事 業 の 名 称 1 2. 施 行 者 の 名 称 1 第 2 施 行 地 区 1 1. 施 行 地 区 の 位 置 1 2. 施 行 地 区 位 置 図 1 3. 施 行 地 区 の 区 域 1 4

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

< DB8CAF97BF97A6955C2E786C73>

(Microsoft Word - \221\346\202P\202U\201@\214i\212\317.doc)

<6D33335F976C8EAE CF6955C A2E786C73>

為 が 行 われるおそれがある 場 合 に 都 道 府 県 公 安 委 員 会 がその 指 定 暴 力 団 等 を 特 定 抗 争 指 定 暴 力 団 等 として 指 定 し その 所 属 する 指 定 暴 力 団 員 が 警 戒 区 域 内 において 暴 力 団 の 事 務 所 を 新 たに 設

その 他 事 業 推 進 体 制 平 成 20 年 3 月 26 日 に 石 垣 島 国 営 土 地 改 良 事 業 推 進 協 議 会 を 設 立 し 事 業 を 推 進 ( 構 成 : 石 垣 市 石 垣 市 議 会 石 垣 島 土 地 改 良 区 石 垣 市 農 業 委 員 会 沖 縄 県 農

Ⅰ 調 査 の 概 要 1 目 的 義 務 教 育 の 機 会 均 等 その 水 準 の 維 持 向 上 の 観 点 から 的 な 児 童 生 徒 の 学 力 や 学 習 状 況 を 把 握 分 析 し 教 育 施 策 の 成 果 課 題 を 検 証 し その 改 善 を 図 るもに 学 校 におけ

った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる

Ⅰ 人 口 の 現 状 分 析 Ⅰ 人 口 の 現 状 分 析 1 人

16 日本学生支援機構

一般競争入札について

公表表紙

< F2D819A8B638E968E9197BF82528E968BC68C7689E68F C>


学校安全の推進に関する計画の取組事例

検 討 検 討 の 進 め 方 検 討 状 況 簡 易 収 支 の 世 帯 からサンプリング 世 帯 名 作 成 事 務 の 廃 止 4 5 必 要 な 世 帯 数 の 確 保 が 可 能 か 簡 易 収 支 を 実 施 している 民 間 事 業 者 との 連 絡 等 に 伴 う 事 務 の 複 雑

<4D F736F F D208ED089EF95DB8CAF89C193FC8FF38BB CC8EC091D492B28DB88C8B89CA82C982C282A282C42E646F63>

●幼児教育振興法案

Microsoft Word - 佐野市生活排水処理構想(案).doc

Microsoft Word - 目次.doc

国立研究開発法人土木研究所の役職員の報酬・給与等について

 

容 積 率 制 限 の 概 要 1 容 積 率 制 限 の 目 的 地 域 で 行 われる 各 種 の 社 会 経 済 活 動 の 総 量 を 誘 導 することにより 建 築 物 と 道 路 等 の 公 共 施 設 とのバランスを 確 保 することを 目 的 として 行 われており 市 街 地 環

<4D F736F F D C482C682EA817A89BA90BF8E7793B1834B A4F8D91906C8DDE8A A>

公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

第4回税制調査会 総4-1

別 紙 第 号 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 議 案 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 を 次 のように 定 める 平 成 26 年 2 月 日 提 出 高 知 県 知 事 尾

<4D F736F F D F5A91EE8BC F368C8E3393FA8DC48D F C8E323893FA916493C B95AA8D CE3816A>

(2) 地 域 の 実 情 に 応 じた 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 保 育 の 必 要 な 子 どものいる 家 庭 だけでなく 地 域 の 実 情 に 応 じた 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 のために 利 用 者 支 援 事 業 や 地 域 子 育 て 支 援 事 業 な

(3) 善 通 寺 市 の 状 況 善 通 寺 市 においては 固 定 資 産 税 の 納 期 前 前 納 に 対 する 報 奨 金 について 善 通 寺 市 税 条 例 の 規 定 ( 交 付 率 :0.1% 限 度 額 :2 万 円 )に 基 づき 交 付 を 行 っています 参 考 善 通 寺

1 変更の許可等(都市計画法第35条の2)

の 提 供 状 況 等 を 総 合 的 に 勘 案 し 土 地 及 び 家 屋 に 係 る 固 定 資 産 税 及 び 都 市 計 画 税 を 減 額 せずに 平 成 24 年 度 分 の 固 定 資 産 税 及 び 都 市 計 画 税 を 課 税 することが 適 当 と 市 町 村 長 が 認 め

退職手当とは

景品の換金行為と「三店方式」について

<81696D373188A E58A77816A E93788D9191E5834B C8EAE82502E786C73>

Microsoft Word - 制度の概要_ED.docx

Taro-別紙1 パブコメ質問意見とその回答

<4D F736F F D D3188C091538AC7979D8B4B92F F292B98CF092CA81698A94816A2E646F63>

災害時の賃貸住宅居住者の居住の安定確保について

Microsoft Word - ★HP版平成27年度検査の結果

Microsoft Word 第1章 定款.doc

Microsoft Word - 都市計画法第34条第11号及び第12号

4 調 査 の 対 話 内 容 (1) 調 査 対 象 財 産 の 土 地 建 物 等 を 活 用 して 展 開 できる 事 業 のアイディアをお 聞 かせく ださい 事 業 アイディアには, 次 の 可 能 性 も 含 めて 提 案 をお 願 いします ア 地 域 の 活 性 化 と 様 々な 世

ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

代 議 員 会 決 議 内 容 についてお 知 らせします さる3 月 4 日 当 基 金 の 代 議 員 会 を 開 催 し 次 の 議 案 が 審 議 され 可 決 承 認 されました 第 1 号 議 案 : 財 政 再 計 算 について ( 概 要 ) 確 定 給 付 企 業 年 金 法 第

資料2 利用者負担(保育費用)

公 共 公 益 的 施 設 用 地 の 負 担 がほとんど 生 じないと 認 められる 土 地 ( 例 ) 道 路 に 面 しており 間 口 が 広 く 奥 行 がそれほどではない 土 地 ( 道 路 が 二 方 三 方 四 方 にある 場 合 も 同 様 ) ⑶ マンション 適 地 の 判 定 評

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 23 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 号 給 の 給 料 月 額 最 高 号 給 の 給 料 月 額 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 ( 単 位 : ) 6 級 7 級 8 級 135, , ,900 2

6 構 造 等 コンクリートブロック 造 平 屋 建 て4 戸 長 屋 16 棟 64 戸 建 築 年 1 戸 当 床 面 積 棟 数 住 戸 改 善 後 床 面 積 昭 和 42 年 36.00m m2 昭 和 43 年 36.50m m2 昭 和 44 年 36.

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 法 人 の 長 A 18,248 11,166 4, ,066 6,42

<6E32355F8D918DDB8BA697CD8BE28D C8EAE312E786C73>

私立大学等研究設備整備費等補助金(私立大学等

能勢町市街化調整区域における地区計画のガイドライン

象 労 働 者 を 雇 入 れした 事 業 所 を 離 職 した 雇 用 保 険 の 被 保 険 者 である 労 働 者 の 氏 名 離 職 年 月 日 離 職 理 由 が 明 らかにされた 労 働 者 名 簿 等 の 写 し 2 要 綱 第 9 条 第 2 項 第 1 号 アに 該 当 する 労

03 平成28年度文部科学省税制改正要望事項

[2] 控 除 限 度 額 繰 越 欠 損 金 を 有 する 法 人 において 欠 損 金 発 生 事 業 年 度 の 翌 事 業 年 度 以 後 の 欠 損 金 の 繰 越 控 除 にあ たっては 平 成 27 年 度 税 制 改 正 により 次 ページ 以 降 で 解 説 する の 特 例 (

平成25年度 独立行政法人日本学生支援機構の役職員の報酬・給与等について

(Microsoft Word - \220\340\226\276\217\221.doc)

(2) 単 身 者 向 け 以 外 の 賃 貸 共 同 住 宅 等 当 該 建 物 に 対 して 新 たに 固 定 資 産 税 等 が 課 税 される 年 から 起 算 して5 年 間 とする ( 交 付 申 請 及 び 決 定 ) 第 5 条 補 助 金 の 交 付 を 受 けようとする 者 は

質 問 票 ( 様 式 3) 質 問 番 号 62-1 質 問 内 容 鑑 定 評 価 依 頼 先 は 千 葉 県 などは 入 札 制 度 にしているが 神 奈 川 県 は 入 札 なのか?または 随 契 なのか?その 理 由 は? 地 価 調 査 業 務 は 単 にそれぞれの 地 点 の 鑑 定

<4D F736F F D2090BC8BBB959491BA8F5A91EE8A C52E646F63>

目 次 第 1. 土 区 画 整 理 事 業 の 名 称 等 1 (1) 土 区 画 整 理 事 業 の 名 称 1 (2) 施 行 者 の 名 称 1 第 2. 施 行 区 1 (1) 施 行 区 の 位 置 1 (2) 施 行 区 位 置 図 1 (3) 施 行 区 の 区 域 1 (4) 施

1 特 別 会 計 財 務 書 類 の 検 査 特 別 会 計 に 関 する 法 律 ( 平 成 19 年 法 律 第 23 号 以 下 法 という ) 第 19 条 第 1 項 の 規 定 に 基 づき 所 管 大 臣 は 毎 会 計 年 度 その 管 理 する 特 別 会 計 について 資 産

別 表 1 土 地 建 物 提 案 型 の 供 給 計 画 に 関 する 評 価 項 目 と 評 価 点 数 表 項 目 区 分 評 価 内 容 と 点 数 一 般 評 価 項 目 立 地 条 件 (1) 交 通 利 便 性 ( 徒 歩 =80m/1 分 ) 25 (2) 生 活 利 便

Taro-学校だより学力調査号.jtd


法 人 等 に 対 する 課 税 際 課 税 原 則 の 帰 属 主 義 への 見 直 しのポイント 総 合 主 義 から 帰 属 主 義 への 移 行 法 人 及 び 非 居 住 者 ( 法 人 等 )に 対 する 課 税 原 則 について 従 来 のいわゆる 総 合 主 義 を 改 め OECD

PowerPoint プレゼンテーション

資料1:勧告の仕組みとポイント 改【完成】

平 成 27 年 11 月 ~ 平 成 28 年 4 月 に 公 開 の 対 象 となった 専 門 協 議 等 における 各 専 門 委 員 等 の 寄 附 金 契 約 金 等 の 受 取 状 況 審 査 ( 別 紙 ) 専 門 協 議 等 の 件 数 専 門 委 員 数 500 万 円 超 の 受

スライド 1


(2) 広 島 国 際 学 院 大 学 ( 以 下 大 学 という ) (3) 広 島 国 際 学 院 大 学 自 動 車 短 期 大 学 部 ( 以 下 短 大 という ) (4) 広 島 国 際 学 院 高 等 学 校 ( 以 下 高 校 という ) ( 学 納 金 の 種 類 ) 第 3 条

<4D F736F F D F8D828D5A939982CC8EF68BC697BF96B38F9E89BB82CC8A6791E52E646F63>


2 出 願 資 格 審 査 前 記 1の 出 願 資 格 (5) 又 は(6) により 出 願 を 希 望 する 者 には, 出 願 に 先 立 ち 出 願 資 格 審 査 を 行 いますので, 次 の 書 類 を 以 下 の 期 間 に 岡 山 大 学 大 学 院 自 然 科 学 研 究 科 等

寄 附 申 込 書 平 成 年 月 日 一 般 社 団 法 人 滋 賀 県 発 明 協 会 会 長 清 水 貴 之 様 ご 住 所 ご 芳 名 ( 会 社 名 ) 印 下 記 により 貴 協 会 に 寄 附 を 申 し 込 みます 記 1. 寄 附 金 額 金 円 也 1. 寄 付 金 の 種 類

目 次 高 山 市 連 結 財 務 諸 表 について 1 連 結 貸 借 対 照 表 2 連 結 行 政 コスト 計 算 書 4 連 結 純 資 産 変 動 計 算 書 6 連 結 資 金 収 支 計 算 書 7

 三郷市市街化調整区域の整備及び保全の方針(案)

スライド 1

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

大学と学生第545号ビジネスモデルからみた卒業生就職支援の課題_関西学院大学(澤谷 敏行)-JASSO

1 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )について 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )の 構 成 構 成 記 載 内 容 第 1 章 はじめに 本 マニュアルの 目 的 記 載 内 容 について 説 明 しています 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 5 章 第 6 章 林 地

定款  変更

税制面での支援

タイトル

●電力自由化推進法案

<4D F736F F D2091DE90458F8A93BE82C991CE82B782E98F5A96AF90C582CC93C195CA92A58EFB82CC8EE888F882AB B315D2E312E A2E646F63>

Taro-08国立大学法人宮崎大学授業

2. ど の 様 な 経 緯 で 発 覚 し た の か ま た 遡 っ た の を 昨 年 4 月 ま で と し た の は 何 故 か 明 ら か に す る こ と 回 答 3 月 17 日 に 実 施 し た ダ イ ヤ 改 正 で 静 岡 車 両 区 の 構 内 運 転 が 静 岡 運

も く じ 1 税 源 移 譲 1 2 何 が 変 わったのか 改 正 の 3 つ の ポイント ポイント1 国 から 地 方 へ 3 兆 円 規 模 の 税 源 が 移 譲 される 2 ポイント2 個 人 住 民 税 の 税 率 構 造 が 一 律 10%に 変 わる 3 ポイント3 個 々の 納

Transcription:

マユズミ 黛 アキツ 略 歴 秋 津 2004 年 9 月 東 京 大 学 大 学 院 総 合 文 化 研 究 科 地 域 文 化 研 究 専 攻 博 士 課 程 単 位 取 得 満 期 退 学 2007 年 4 月 2009 年 3 月 東 京 外 国 語 大 学 アジア アフリカ 言 語 文 化 研 究 所 共 同 研 究 員 2009 年 4 月 2010 年 3 月 北 海 道 大 学 スラブ 研 究 センタープロジェ クト 研 究 員 2010 年 4 月 2012 年 3 月 広 島 修 道 大 学 経 済 科 学 部 准 教 授 2012 年 4 月 東 京 大 学 大 学 院 総 合 文 化 研 究 科 准 教 授 ( 現 在 に 至 る) バルカンにおける 食 文 化 と 帝 国 的 秩 序 オスマン 帝 国 の 支 配 とトルコ 料 理 の 分 布 との 相 関 関 係 Food Culture of the Balkans and Imperial Order: Correlation between the Ottoman Rule and the Spread of Turkish Cuisine The aim of this study is to discuss historical empires through the spread of culinary culture, which has not yet been considered as a tool of analysis. This study focused on the Balkans, one of the main parts of the Ottoman Empire, and gave consideration to centre-periphery relations and the central rule over the provinces of the Empire through the spread of Turkish cuisine in the Balkans. Turkish cuisine is mixture of nomadic, Islamic and Mediterranean culinary traditions. It was formed in the Ottoman Empire and spread over the provinces. To this day, one can see its strong influence in Balkan cuisine. Field research in Romania, Bulgaria, Serbia and Macedonia in 2009 and 2010 examined dishes names, ingredients and categories in cookery books etc. Among many kinds of dishes in these countries, the following four typical Turkish dishes were chosen as a sample: işkembe çorbası, köfte, şiş kebabı and baklava. Our research made clear that there is a difference between Turkish cuisine in Turkey and that in these Balkan countries, particularly in the ingredients and categorization. There is also a difference between Romania and the other Balkan countries in the dishes names. 119

はじめに 冷 戦 終 焉 後 の 地 域 紛 争 の 激 化 やアメリカ 世 界 帝 国 論 の 興 隆 などにより 1990 年 代 から 帝 国 についての 議 論 が 盛 んになされるようになったことは 周 知 の 通 りである 帝 国 とは 近 代 国 民 国 家 と 異 なり 一 定 以 上 の 領 域 に 居 住 する 多 様 な 人 々を 多 様 な 支 配 によって 緩 やかに 統 合 する 政 治 体 であ る そうした 支 配 の 在 り 方 は 帝 国 崩 壊 後 に 成 立 した 各 国 民 国 家 の 性 格 とその 後 の 歴 史 の 歩 みに 大 きな 影 響 を 与 え 特 に 冷 戦 構 造 の 崩 壊 と 共 にカフカースやバルカンなどの 地 域 紛 争 が 激 化 したことか ら 過 去 の 帝 国 支 配 の 在 り 方 は 多 くの 人 々の 関 心 を 引 き 付 けることとなった こうした 帝 国 の 支 配 構 造 については これまで 様 々な 研 究 者 が 様 々なアプローチから 学 際 的 に 研 究 を 進 め 現 在 までに 多 くの 成 果 が 公 にされている それらの 中 には 政 治 経 済 のみならず 帝 国 内 の 社 会 文 化 に 着 目 した ものも 存 在 するが そうした 中 で 食 文 化 に 注 目 して 帝 国 を 論 じた 研 究 はほとんど 知 られていない 一 般 に 国 家 は 周 辺 地 域 の 富 を 中 央 に 集 め それを 周 辺 に 再 分 配 する 機 能 を 持 つ それは 帝 国 も 同 様 であるが 特 に 帝 国 の 場 合 中 央 政 府 による 支 配 の 度 合 いは 地 域 ごとに 異 なるため その 中 央 = 周 辺 関 係 は 多 様 である この 帝 国 内 の 中 央 = 周 辺 関 係 は ある 地 域 と 帝 都 との 間 の 様 々な 物 の 往 復 運 動 により 規 定 される それらの 中 には 人 物 資 金 など 目 に 見 えるものもあれば 法 思 想 流 行 といった 目 に 見 えないものもある そうした 様 々な 要 素 の 中 央 = 周 辺 間 の 往 復 運 動 を 見 る 際 料 理 というものはかなり 有 効 な 手 掛 かりになるのではないかと 考 えられる 何 故 なら 料 理 とは 一 方 では 現 地 の 食 材 の 制 約 を 受 けるため 食 糧 の 流 通 など 経 済 面 での 中 央 = 周 辺 関 係 を 知 る 手 掛 かり となるからであり また 他 方 料 理 は 一 連 の 調 理 法 の 体 系 でもあり それらは 人 々が 有 する 技 術 とし ての 文 化 であるため 料 理 には 帝 国 中 央 からの 人 思 想 情 報 などの 流 れが 関 わるからである 筆 者 が 寄 せている 問 題 関 心 と 展 望 は 以 上 であるが 上 述 の 通 り 帝 国 論 の 中 でのこうした 研 究 は 筆 者 の 知 る 限 りほとんど 存 在 しないため 今 後 試 行 錯 誤 しながらその 方 法 論 を 見 つけ 出 さなくて はならない 本 研 究 課 題 はそのための 最 初 の 試 みとして 筆 者 の 専 門 とするバルカンという 地 域 に 注 目 したものである バルカンは20 世 紀 初 頭 には ヨーロッパの 火 薬 庫 と 呼 ばれ 1990 年 代 にも 深 刻 な 民 族 紛 争 が 生 じたが この 地 域 の 歴 史 には 約 500 年 に 亘 るオスマン 帝 国 支 配 の 歴 史 が 大 きな 影 響 を 与 えている オスマン 帝 国 によるバルカン 支 配 とその 影 響 については 多 くの 先 行 研 究 が 存 在 するが 今 回 はトルコ 料 理 を 切 り 口 としてこの 問 題 を 考 えたい これまでの 研 究 史 について 触 れておくと オスマン 帝 国 における 食 文 化 研 究 はそれなりの 蓄 積 が あると 言 えるが そのほとんどは 帝 都 イスタンブル とりわけ 宮 廷 内 の 食 に 関 するものであり 帝 国 の 中 心 以 外 の 地 域 における 食 に 関 する 研 究 はほとんど 見 られない この 主 な 要 因 は オスマン 帝 国 においてはいわゆる 地 方 史 が 記 述 されることがほとんどなく 帝 国 内 各 地 方 の 人 々の 暮 らしを 知 る 一 次 史 料 が 少 ないことにある トルコにおいてもバルカン 諸 国 においても 食 文 化 から 帝 国 支 配 を 考 察 する 研 究 が 今 まで 現 れていないのは 主 にこうした 史 料 的 制 約 のためと 思 われる 本 研 究 はこう した 制 約 を 踏 まえつつ オスマン 帝 国 を 食 の 観 点 から 本 格 的 に 論 じるための 予 備 的 な 考 察 という 位 置 付 けである 120

1.オスマン 帝 国 の 興 隆 とトルコ 料 理 の 成 立 最 初 に トル コ 料 理 とは 何 か? とい う 定 義 の 問 題 で あ る が トル コ 料 理 を 最 も 簡 単 に 定 義 する ならば 現 在 のトルコ 共 和 国 で 一 般 に 食 されている 料 理 のことである しかしその 成 立 の 背 景 を 考 慮 した 場 合 トルコ 料 理 は 長 い 時 間 をかけて 歴 史 的 に 形 成 されたものであり 特 に600 年 以 上 存 続 した 巨 大 なイスラーム 帝 国 としてのオスマン 帝 国 の 下 で 基 礎 が 固 まり 19 世 紀 以 降 の 西 洋 料 理 の 影 響 を 多 少 受 けつつ 成 立 した 料 理 と 定 義 できる 従 って 現 在 のトルコ 共 和 国 以 外 の 領 域 であって も かつてオスマン 帝 国 の 支 配 を 受 けた 地 域 には トルコ 料 理 がかなりの 程 度 存 在 することになり 本 稿 では トルコ 料 理 を この 歴 史 的 背 景 を 踏 まえた 後 者 の 意 味 で 用 いることにする オスマン 帝 国 は 13 世 紀 にイスラーム 戦 士 集 団 としてアナトリアにいたトルコ 系 遊 牧 部 族 のうち オスマンという 人 物 に 率 いられた 集 団 から 興 隆 した 当 初 はアナトリア 北 西 部 のわずかな 領 域 を 支 配 するのみであったが 次 第 に 支 配 領 域 を 拡 大 し 14 世 紀 半 ばになるとヨーロッパ 側 のバルカンへ 進 出 して 同 地 にあった 諸 国 を 次 々と 征 服 した さらに15 世 紀 半 ばにはビザンツ 帝 国 の 帝 都 コンスタンティ ノープルを 征 服 し 16 世 紀 初 頭 にはシリア アラビア 半 島 エジプトなど アラブ 地 域 の 多 くをも 領 有 し 三 大 陸 にまたがる 広 大 な 帝 国 を 築 いた このようなオスマン 帝 国 の 成 立 と 拡 大 の 過 程 は 帝 国 の 中 での 料 理 の 成 立 に 大 きな 影 響 を 与 えた 上 の 拡 大 過 程 で 明 らかなように オスマン 帝 国 の 支 配 層 は 当 初 トルコ 系 遊 牧 部 族 であり 遊 牧 民 の 食 がトルコ 料 理 の 基 本 であると 言 える 今 日 でも 羊 を 余 すところなく 利 用 する 数 々の 料 理 や チーズ やヨーグルトなどの 乳 製 品 の 多 用 などの 特 徴 が 見 られる そのうえで 彼 らはイスラーム 化 して 故 郷 の 中 央 アジアから 戦 士 としてイスラーム 世 界 に 流 入 定 着 したため その 過 程 で 当 時 イスラーム 世 界 の 中 核 であったアラブ イラン 世 界 の 食 文 化 とイスラーム 的 食 習 慣 の 影 響 を 強 く 受 けることになった 例 えば 右 手 を 用 いる 習 慣 や 豚 肉 の 禁 忌 イスラーム 暦 による 特 定 の 年 中 行 事 に 食 される 様 々な 菓 子 や 料 理 などである 言 葉 の 面 でも 代 表 的 なトルコ 料 理 の 一 つである 肉 料 理 のケバブ(kebap)が アラビア 語 のカバーブ(kabâb)に 由 来 することを 見 れば その 影 響 の 強 さが 窺 えるだろう その 後 の オスマン 帝 国 の 領 土 拡 大 によるアラブ 地 域 の 支 配 は オスマン 帝 国 にその 影 響 を 定 着 させることと なった その 他 にトルコ 料 理 成 立 に 大 きな 影 響 を 与 えたのは 旧 ビザンツ 帝 国 領 をその 支 配 下 に 治 めたことによる いわゆる 地 中 海 料 理 との 出 会 いであった オリーブ 油 の 使 用 や ズッキーニ セロ リ レモン イチジクなどの 野 菜 や 果 物 いわしなどの 魚 といった 地 中 海 周 辺 地 域 に 特 有 の 食 材 の 受 容 である こうして1453 年 以 降 コンスタンティノープルの 新 たな 主 となったオスマン 支 配 層 の 遊 牧 民 的 イス ラーム 的 な 食 の 慣 習 は ビザンツ 地 中 海 的 な 食 の 要 素 と 交 わり 徐 々に 社 会 に 新 しい 食 文 化 が 浸 透 することになったのである 三 大 陸 にまたがる 各 地 域 から 様 々な 食 材 時 にはその 地 方 の 郷 土 料 理 などが 帝 都 にもたらされ 帝 国 中 央 で 新 たな 融 合 洗 練 が 見 られた 後 料 理 は 帝 国 中 心 の 文 化 と して 各 地 方 に 伝 わっていった そして17 世 紀 頃 からはジャガイモや 茄 子 トマトといった 新 大 陸 の 食 材 19 世 紀 半 ば 頃 からは 西 洋 料 理 の 影 響 などをも 取 り 込 みつつ 今 日 我 々が 目 にするトルコ 料 理 が 成 立 したのである 例 えば 現 在 のトルコの 一 般 的 な 朝 食 メニューは チーズ ハムやサラミ( 牛 肉 や 七 面 鳥 など 豚 肉 以 外 ) オリーブ トマト キュウリ バター はちみつ ジャム 紅 茶 などである 我 々はこれら 121

の 中 に 遊 牧 民 イスラーム 地 中 海 新 大 陸 の 要 素 を 見 ることが 出 来 よう このようにトルコ 料 理 は オスマン 帝 国 という600 年 余 り 存 続 した 巨 大 帝 国 の 下 で 様 々な 要 素 が 融 合 して 歴 史 的 に 成 立 した 料 理 なのである 2.オスマン 帝 国 の 中 のバルカンの 位 置 と 役 割 次 にオスマン 帝 国 のバルカン 支 配 について 触 れておこう バルカンという 地 域 は オスマン 帝 国 の 中 では 総 じて 中 核 地 域 と 位 置 付 けられる すなわちオスマン 帝 国 のいわゆる 古 典 期 を 支 えた 軍 事 土 地 制 度 であるティマール 制 が 多 くの 地 域 で 施 行 され イスタンブルとヨーロッパとの 間 の 主 要 交 通 路 が 通 り 多 くの 物 人 金 情 報 が 往 来 する 場 所 であった そして 何 よりも 帝 国 にとってのバルカンの 重 要 性 は 帝 都 イスタンブルへの 食 糧 必 需 品 の 供 給 地 としてであった 16 世 紀 半 ばに 人 口 が 約 40 万 とも5 0 万 とも 言 われるイスタンブルへ 安 定 的 に 食 糧 や 必 需 品 を 供 給 することは 帝 国 政 府 の 最 重 要 課 題 の 一 つであり バルカンは 羊 肉 小 麦 塩 など 多 くの 必 需 品 の 供 給 地 として 重 要 な 役 割 を 担 っ た それ 故 オスマン 政 府 のバルカン 支 配 の 問 題 は 帝 国 の 根 幹 にかかわる 重 要 な 問 題 であったので ある このように 重 要 な 中 核 地 域 としてのバルカンに 対 し オスマン 政 府 は 一 律 に 強 力 な 直 接 統 治 を 導 入 したわけではなく その 支 配 の 在 り 方 は 地 域 によって 差 異 があったことに 注 意 しなくてはならな い 上 述 の 通 り ティマール 制 が 施 行 されたのはバルカン 全 域 ではなく 険 しい 山 岳 地 帯 であるモ ンテネグロ イスタンブルから 見 てドナウの 向 こう 側 に 位 置 し 現 在 のルーマニアを 構 成 するワラキ ア モルドヴァ トランシルヴァニアの 三 国 そしてヴェネツィアとイスタンブルの 中 間 に 位 置 し 東 地 中 海 貿 易 の 中 継 点 として 繁 栄 したラグーザ(ドゥブロヴニク)などには 導 入 されなかった これらの 地 域 は 食 糧 供 給 や 貢 納 の 義 務 などと 引 き 換 えに 現 地 の 統 治 機 構 が 存 続 し 一 定 の 自 立 が 認 められ るなど 間 接 統 治 が 行 われたのである さらにこれらの 間 接 統 治 地 域 の 間 でも 中 央 政 府 との 関 係 は 一 律 ではなく 比 較 的 中 央 の 統 制 の 緩 やかなラグーザから 厳 しいワラキア モルドヴァまで 多 様 で あった このようにオスマン 帝 国 は バルカンをその 地 域 それぞれの 事 情 にあわせて 柔 軟 に 支 配 しており 少 なくとも16 世 紀 までは こうした 柔 軟 性 を 持 ちつつも イスタンブルの 皇 帝 を 中 心 に 各 地 に 専 制 的 な 支 配 を 敷 いたのであった 3. 調 査 の 方 法 と 結 果 このようなオスマン 帝 国 による 多 様 な 支 配 を 受 けたバルカンでは 総 じてその 食 生 活 の 中 に 今 日 で も 各 地 でトルコ 料 理 の 強 い 影 響 が 見 られることが 知 られている 現 在 見 られるその 広 がりと 定 着 は どのようなものか またその 広 がりと 定 着 は 歴 史 的 にどのような 過 程 をたどったのか そしてそれら はオスマン 帝 国 支 配 の 何 と 関 連 しているのか 中 央 からの 地 理 的 な 距 離 なのか 中 央 による 支 配 統 制 の 強 弱 なのか あるいは 中 央 = 地 方 間 の 物 資 の 流 通 量 や 人 の 往 来 の 頻 度 によるものなのか いず れにしてもこうした 問 題 を 検 討 することにより 帝 国 というものの 本 質 の 一 端 が 明 らかになるのでは ないかと 考 える 122

今 回 の 調 査 では この 問 題 を 考 察 する 出 発 点 として 現 在 のバルカンにおけるトルコ 料 理 の 広 がり について 現 地 調 査 を 行 った 2 度 の 調 査 で 訪 れたのは トルコ ルーマニア ブルガリア セルビア マケドニアの5 カ 国 であり 訪 問 地 はほとんどが 首 都 に 限 られたが そこで 市 場 やスーパーマーケッ トでの 食 材 の 調 査 食 堂 や 伝 統 料 理 レストランでのメニュー 調 査 そして 料 理 食 文 化 関 連 文 献 の 調 査 と 収 集 を 行 った 特 に 今 回 は 典 型 的 なトルコ 料 理 のうち スープ 類 からは 胃 袋 スープであるイ シュケンベ チョルバス(işkembe çorbası 写 真 1) 肉 料 理 からは 羊 肉 の 小 型 ハンバーグあるいは つくねとも 言 うべきキョフテ( köfte 写 真 2)と 串 焼 き の シ シ ケバ ブ( şiş kebabı 写 真 3) そして デ ザ ートからは シロップ が けの 焼 き 菓 子 バクラヴァ( baklava 写 真 4)を 主 な 調 査 対 象 とし それぞ れの 名 称 素 材 ジャンルの 分 類 と 定 義 などについて 調 査 した 写 真 1 イシュケンベ チョルバス 写 真 2 キョフテ 写 真 3 シシ ケバブ 写 真 4 バクラヴァ (1) 名 称 について 表 1が 各 国 での 調 査 対 象 の 料 理 名 称 を 比 較 したものである ここから 明 らかなように ほとんど の 地 域 でトルコ 語 の 借 用 語 が 用 いられているが ルーマニアだけ 他 の 系 統 の 単 語 が 多 用 されている 例 えば 串 焼 肉 では トルコ 語 で 串 を 意 味 するşişの 代 わりに ラテン 語 起 源 の 串 (frigare) から 派 生 したfrigăruieが 同 じく 胃 袋 スープにはişkembeで は な く 腹 腔 胃 を 意 味 す る ラ テ ン 語 起 源 の burtăが 使 用 されるなど ラテン 語 起 源 の 言 葉 が 使 われている ルーマニアにおいてはこれ 以 外 にも 例 えば バルカン 諸 国 の 多 くで トルコ 語 のturşuの 借 用 語 が 用 いられている 酢 漬 けにも muratură というおそらくラテン 語 起 源 の 語 が 用 いられるなど 他 の 料 理 名 称 に 関 しても 同 様 の 多 くの 例 が 見 ら れる 123

表 1 (2) 素 材 分 類 と 定 義 について 調 査 を 行 った 地 域 のほとんどの 住 民 はキリスト 教 徒 であるため 肉 料 理 に 関 してはトルコとは 異 な り 豚 肉 の 使 用 が 見 られた イシュケンベ チョルバスについては トルコでは 牛 や 羊 の 胃 袋 が 使 わ れるのに 対 し 調 査 を 行 ったバルカン 各 国 では 羊 はほとんど 見 られず 牛 の 他 に 豚 の 胃 袋 なども 使 用 される またキョフテやシシ ケバブについても 調 査 地 では トルコで 使 われる 羊 肉 や 牛 肉 (シ シ ケバブについては 鶏 肉 も)の 他 豚 肉 も 使 用 されている キョフテとシシ ケバブに 関 しては 一 般 に 牛 肉 と 豚 肉 の 使 用 が 多 い ルーマニアのミティテイ(mititei)あるいはミチ(mici)については む しろ 豚 肉 の 使 用 が 一 般 的 である バクラヴァに 関 しては トルコでは 一 般 的 なピスタチオ(fıstık)の 使 用 が 見 られず くるみが 一 般 的 である このように 名 称 や 料 理 法 は 共 通 であっても 使 用 され る 材 料 に 違 いが 見 られる 次 に 料 理 の 分 類 と 定 義 の 問 題 であるが まずトルコにおけるキョフテは 形 状 を 問 わず 小 判 型 細 長 型 ともに 指 し 示 すが 調 査 を 行 ったバルカン 諸 国 では トルコ 語 の キョフテ を 起 源 とする 語 は 小 判 型 のものに 限 定 され 細 長 型 のものにはケバブ あるいはケバプチェ(ケバブの 指 小 辞 )の 語 が 用 いられている ややこしいのは トルコにおいてキョフテは 串 に 刺 して 焼 かれる 一 部 を 除 き 網 焼 き を 意 味 するウズ ガ ラ( ızgara)というジャンルに 入 れられ ケバブとは 一 般 に 見 なされない トル コにおける 伝 統 的 なケバブとは 串 焼 きの 他 水 を 加 えることなく 調 理 した 肉 料 理 全 般 を 指 し シ シ ケバブのような 我 々の 思 い 浮 かべる 典 型 的 な 串 焼 タイプ 以 外 にも オーヴンでの 蒸 し 焼 き ある いは 水 をほとんど 加 えず 野 菜 などと 一 緒 に 煮 込 むタイプの 肉 料 理 もケバブに 含 まれるのである しか し 調 査 を 行 ったバルカン 各 国 においては ケバブがそのような 広 い 意 味 にも 用 いられるのだが 単 独 で ケバブ といえば 主 に 細 長 型 のキョフテを 意 味 する このように ケバブ の 示 す 内 容 について トルコとバルカン 諸 国 とではややずれが 存 在 する またこれに 関 しても ルーマニアでは ケバブ の 語 は 辞 書 には 見 られるものの 一 般 的 な 料 理 書 やメニューにおいてその 名 が 付 く 料 理 名 は 見 られな い このように 調 査 を 行 ったバルカン 諸 国 におけるトルコ 料 理 は 地 域 的 な 食 材 の 状 況 や 食 に 関 す る 宗 教 上 の 禁 忌 の 問 題 などから 使 用 される 素 材 についてトルコとは 相 違 が 見 られるなど 調 理 法 や 調 理 体 系 として 広 く 定 着 していると 言 える しかし 料 理 名 の 調 査 から バルカンとトルコで 料 理 の 分 類 や 料 理 名 の 示 す 内 容 にずれが 見 られた こうした ずれ の 存 在 については オスマン 帝 国 内 での 料 理 の 広 がりと 定 着 の 歴 史 的 変 遷 をたどる 必 要 があり 今 後 は 文 献 による 調 査 が 必 要 となるだ 124

ろう 今 回 の 調 査 で 際 立 ったのがルーマニアの 特 殊 性 である トルコ 料 理 は 多 く 見 られるものの 料 理 名 についてはドナウ 以 南 の 地 域 ほどトルコ 語 起 源 の 言 葉 が 使 用 されていない これは 元 々 料 理 を 受 け 入 れても 名 前 は 受 け 入 れなかったためか あるいはトルコ 語 の 料 理 名 が 定 着 した 後 近 代 になって 別 の 名 前 に 置 き 換 えられたのかは さらに 詳 しい 調 査 を 行 う 必 要 がある いずれにしてもオスマン 帝 国 の 支 配 が 間 接 的 なものにとどまり ドナウ 以 南 のオスマン 臣 民 の 立 ち 入 りが 政 府 の 許 可 を 受 け た 者 のみに 限 定 されていたというオスマン 中 央 政 府 の 支 配 のあり 方 が こうした 結 果 に 影 響 を 与 えた 可 能 性 が 考 えられる 4. 研 究 史 料 としての 旅 行 記 の 可 能 性 今 回 日 本 においても 調 査 地 においても 本 課 題 に 関 する 一 定 量 の 文 献 を 収 集 した それらのう ち オスマン 帝 国 での 料 理 の 成 立 や 広 がりをたどる 手 掛 かりとなる 一 次 史 料 の 本 格 的 な 分 析 は 今 後 の 課 題 として 残 されたが 今 回 収 集 した 文 献 を 調 べる 中 で バルカンを 通 過 した 人 物 による 旅 行 記 が 重 要 な 手 掛 かりとなり 得 ることが 明 らかとなった こうした 旅 行 記 のうち バルカン 諸 国 では 自 国 の 範 囲 のみの 抜 粋 であることが 多 いが 主 に 西 欧 人 により 書 かれた 旅 行 記 が 自 国 語 に 翻 訳 され 出 版 されている またオスマン 帝 国 の 旅 行 家 として 知 られているエヴリヤ チェレビー(Evliya Çelebi 1611 1682または83)の 残 した10 巻 にも 及 ぶ 旅 行 記 (Seyahatnâme)には オスマン 帝 国 内 外 の 料 理 や 食 材 についてのかなりの 情 報 が 含 まれており バルカンに 関 しても 例 外 ではない 近 年 この 旅 行 記 に 記 述 されている 食 に 関 する 情 報 を 集 め 分 析 した 研 究 なども 現 れており 史 料 としていわゆる 地 方 史 というものがほとんど 存 在 しないオスマン 帝 国 の 一 地 方 を 扱 うためには こうした 旅 行 記 の 分 析 が 有 効 であるといえよう おわりに 課 題 と 展 望 以 上 のように 本 課 題 は 料 理 というものを 分 析 の 切 り 口 として 帝 国 の 本 質 を 明 らかにしようとす る これまでほとんど 研 究 が 見 られない 大 きな 問 題 関 心 に 基 づき その 第 一 歩 としてバルカンとオス マン 帝 国 の 一 地 域 に 焦 点 を 当 てて トルコ 料 理 の 広 がりを 調 査 したものであった 時 間 的 予 算 的 制 約 からバルカンの 全 域 で 調 査 を 行 うことはかなわず ドナウの 南 の 地 とルーマニアの 違 いが 明 ら かになった 以 外 は 未 だ 結 論 めいたことは 得 られていない 今 後 旧 オスマン 帝 国 の 外 縁 に 位 置 する ハンガリー トランシルヴァニア ボスニア クロアチア( 特 にドゥブロヴニク)などでの 調 査 を 行 う 必 要 があり また 各 国 の 地 方 料 理 そして 少 数 民 族 として 存 在 するトルコ 系 コミュニティーの 食 につい ての 調 査 なども 不 可 欠 であると 考 える その 一 方 で 上 で 示 した 旅 行 記 などの 一 次 史 料 を 使 用 して トルコ 料 理 のバルカンへの 広 がりの 歴 史 的 過 程 を 明 らかにすることもこれから 本 格 的 に 取 り 組 むべき 課 題 である しかしいずれにしても 本 研 究 助 成 によって 食 による 帝 国 研 究 の 第 一 歩 を 踏 み 出 す ことが 出 来 たわけであり こうした 機 会 を 与 えて 下 さった 財 団 法 人 アサヒビール 学 術 振 興 財 団 に 対 し 心 から 謝 意 を 表 したい 今 後 はこれまでの 反 省 点 や 上 述 の 問 題 点 を 踏 まえ この 研 究 をさらに 継 続 し 発 展 させることが 必 要 であると 考 える 125

参 考 文 献 トルコ 料 理 東 西 交 差 路 の 食 風 景 柴 田 書 店 1992 年 鈴 木 董 食 はイスタンブルにあり 君 府 名 物 考 NTT 出 版 1995 年 鈴 木 董 トルコ ( 世 界 の 食 文 化 9) 農 山 漁 村 文 化 協 会 2003 年 Voki Kostić, Gastronomski dnevnik: kuvar od 700 recepata, Beograd, 1998. Constantin Bacalbaşa, Dictatura Gastronomică: 1501 de feluri de mâncǎri din 1935, Bucureşti, 2010. Димитър Мантов, Българска традиционна кухня: 2000 изпитани рецепти, София, 1999. Адрjиана Алачки, Македонски традиционален готвач: Од моето срце за Вашата трпеза, Скопjе, 2010. Maria Kaneva-Johnson, The Melting Pot: Balkan Food and Cookery, Prospect books, 1999. Arif Bilgin, Özge Samancı eds., Türk mutfağı, Ankara: T.C. Kültür ve Turizm Bakanlığı, 2008. Marianna Yerasimos, 500 yıllık Osmanlı Mutfağı, İstanbul, 2002. Evliyâ Çelebi Seyahatnâmesi, 10 vols., İstanbul: Yapı Kredi Yayınları, 1996-2007. Robert Dankoff & Sooyong Kim eds., An Ottoman Traveller: Selections from the Book of Travels of Evliya Çelebi, London, 2010. 126