1. はじめに 昨 今 食 に 関 する 番 組 は 必 ず 一 日 に 数 本 放 映 されていることからも 日 本 人 にと って 食 への 興 味 と 関 心 は 非 常 に 高 いように 感 じる その 中 に 問 題 と 感 じる 部 分 がい くつかみられる 例 えば 大 食 いや 早 食 いの 番 組 だ 大 量 の 食 べ 物 を 躊 躇 うことなく 口 にしていく 様 子 短 時 間 で 尐 しでも 多 く 食 べようと 食 べ 物 を 口 に 入 れる 様 子 からは 食 べ 物 へのありがたみが 全 く 感 じられず まるでゲームの 対 象 物 の 一 つに 過 ぎない 感 が ある さらにはバラエティ 番 組 での 罰 ゲーム 等 番 組 を 面 白 くする 演 出 に 食 べ 物 が 利 用 されている 様 子 からも 同 じことを 感 じる 私 たち 日 本 人 はいつから 食 べ 物 をこのように 粗 雑 に 扱 うようになってしまったの だろうか 高 度 経 済 成 長 期 以 降 女 性 の 社 会 進 出 も 徐 々に 進 んでいき 女 性 の 家 事 を 助 ける 商 品 が 数 多 く 誕 生 した 洗 濯 機 掃 除 機 炊 飯 器 電 子 レンジ 等 の 家 事 の 効 率 化 を 図 る 電 化 製 品 から レトルト 食 品 やインスタント 食 品 等 料 理 の 負 担 を 軽 減 する 加 工 食 品 に 至 るまで 時 間 と 労 力 の 削 減 を 手 助 けした 同 時 に ファーストフード 店 コンビ ニエンスストアといった 価 格 的 にも 利 便 性 においても 簡 単 便 利 手 軽 等 を 売 り にした 店 が 数 多 く 出 来 た 誰 でも 気 軽 に 何 でも 簡 単 に 手 に 入 るようになり 食 の 外 部 化 が 進 んだのである だがこうした 風 潮 は 間 違 った 食 事 方 法 や 偏 食 する 人 を 生 む 結 果 と もなった それは 食 に 対 して 奢 り 平 気 で 食 べ 物 を 残 し 捨 てるようになった 日 本 人 の 姿 に 繋 がることになる 2. 変 化 した 日 本 人 の 食 生 活 日 本 人 の 食 生 活 は ここ 数 十 年 で 大 きく 変 化 した かつての 日 本 人 の 食 事 は ご 飯 を 中 心 に 魚 芋 や 野 菜 の 煮 物 みそ 汁 漬 け 物 などでバランスよく 構 成 されていた し かし 現 代 の 食 事 は 欧 米 化 し 肉 類 からの 脂 質 摂 取 の 増 加 清 涼 飲 料 や 菓 子 類 からの 糖 分 摂 取 の 増 加 と 米 の 摂 取 量 の 減 尐 が 目 立 ち 食 物 繊 維 の 摂 取 量 も 大 幅 に 減 尐 した 食 生 活 の 変 化 は 図 1 をみると 明 らかなように 1960 年 から 40 年 余 りで 米 の 供 給 純 食 料 量 は 半 分 近 くになり 今 後 も 減 尐 傾 向 が 続 くといわれている 野 菜 をみると 1970 年 に 最 も 高 くなったが 徐 々に 減 尐 している 魚 介 類 も 年 々 増 加 傾 向 にあったが 近 年 減 尐 傾 向 にある 一 方 肉 類 や 牛 乳 乳 製 品 油 脂 類 などは 2~3 倍 に 増 大 している こ のことが 輸 入 農 産 物 の 増 大 を 招 き 米 が 余 る 状 況 を 生 じさせた 1
図 1 日 本 人 の 食 生 活 の 変 化 出 所 ) 全 国 地 球 温 暖 化 防 止 活 動 推 進 センターウェブサイト 5-8 日 本 人 の 食 生 活 の 変 化 (1 日 1 人 あたり 供 給 純 食 料 ) http://www.jccca.org/chart/chart05_08.html (2012/08/31 閲 覧 ) なぜこれほどまでに 食 生 活 が 変 化 したのか その 要 因 は 経 済 成 長 核 家 族 化 女 性 の 社 会 進 出 単 身 世 帯 の 増 加 などによって 現 代 の 生 活 様 式 が 多 様 化 し それに 忚 じて 食 品 加 工 技 術 の 革 新 やサービス 形 態 が 大 きく 変 化 したことにあると 言 われている 家 庭 で の 調 理 の 省 エネルギー 化 が 望 まれ 日 本 人 の 食 生 活 に 占 める 加 工 食 品 の 割 合 は 年 々 増 加 し 加 工 食 品 への 依 存 度 は 今 後 ますます 増 加 すると 思 われる 食 事 の 内 容 が 加 工 食 品 に 偏 った 場 合 脂 肪 や 食 塩 の 過 剰 摂 取 食 物 繊 維 の 不 足 などが 起 こりやすくなる また 近 年 は 和 洋 中 何 でも 食 べるという 大 変 な 飽 食 の 国 となっている 米 を 中 心 としたこれ までの 食 生 活 は 薄 れ 最 近 になってようやく 欧 米 化 した 食 生 活 が 見 直 されつつある 欧 米 食 は 味 付 けの 濃 いものが 多 く 味 覚 障 害 や 生 活 習 慣 病 を 引 き 起 こす 要 因 ともなると いう 指 摘 もある 2
そもそも 現 代 の 日 本 で 食 の 大 切 さを 真 に 理 解 している 人 は どのくらいいるの だろうか 今 日 本 では 誰 でも 簡 単 に 食 べたい 物 が 食 べたい 時 に 手 に 入 り 当 たり 前 のように 毎 日 三 食 の 食 事 ができ 一 見 豊 かな 時 代 となったように 思 われる しかし その 当 たり 前 に 慣 れすぎて 食 事 という 行 為 の 大 切 さ 日 々の 食 事 の 重 要 性 を 忘 れてしまっているような 気 がする 自 分 の 好 きな 物 ばかりを 食 べたり 偏 った 食 事 をしたりしていると 身 体 的 にも 精 神 的 にも 支 障 が 生 じることがあるのだ また 食 事 を 摂 る 際 についてくるのが おいしさ であるが この おいしさ とは 感 情 認 知 のプロセスが 反 映 されているので 多 面 的 で 複 雑 である 個 人 差 が 大 き いのも 年 を 重 ねるごとに 変 化 していくのもそのためである したがって 目 鼻 口 で 食 べるおいしさには 飽 きるという 現 象 が 生 じることもある しかし 気 持 ちで 食 べる おいしさ 頭 で 食 べるおいしさには 摂 取 する 物 が 同 一 の 物 であっても それをよりお いしいと 感 じさせることもある 例 えば 家 族 のそれぞれが 別 々に 小 さな 鍋 で 鍋 物 を 食 べる 場 面 と 一 つの 大 きな 鍋 で 互 いに 分 け 合 いながら 食 べる 場 面 を 比 較 してみれば 後 者 のほうがおいしいと 感 じるであろう 私 たちは 食 物 を 食 べる だけではなく その 食 物 の 食 べられる 場 面 状 況 の 全 て を 食 べる 存 在 である そういうわけで 作 って 食 べる 一 緒 に 食 べる 感 謝 し て 食 べる ことがおいしさを 引 き 出 す 上 でも 食 事 を 大 切 にする 上 でも 必 要 なのだ 3. 料 理 を 作 らない 親 料 理 行 動 の 減 尐 多 忙 になった 日 本 人 をサポートする 役 割 を 持 つ ファーストフードやコンビニエンス ストアなどが 増 えたことは その 便 利 さゆえに 日 本 人 の 食 生 活 を 変 えてしまう 要 因 とな った 昼 食 だけでなく 朝 食 や 夕 食 にも 沢 山 の 加 工 食 品 が 登 場 するようになり 一 人 暮 らしをする 若 者 や 単 身 赴 任 者 の 中 には 三 食 全 てをコンビニ 弁 当 や 外 食 で 済 ませる 人 も 珍 しくないのではないだろうか また 子 供 の 野 菜 嫌 いや 好 き 嫌 いが 増 えていることについて 幼 稚 園 に 持 たせる 弁 当 が 関 わっているのではないかと 思 わせる 記 事 ( 大 橋 巨 泉 今 週 の 遺 言 第 2010 年 4 月 24 日 号 http://www.kyosen.com/column/?p=333 (2012/08/31 閲 覧 ))を 目 にした それによ ると 近 頃 の 母 親 は 朝 は 火 を 使 いたくない 鍋 やまな 板 も 出 したくない という 理 由 で 1~3 品 の 冷 凍 食 品 と 一 品 の 手 作 り 料 理 ( 多 くは 卵 焼 きかウインナー)で 野 菜 料 理 はほとんど 入 らない その 理 由 は 幼 稚 園 から 入 れないように 言 われているという 3
答 えが 最 も 多 い 園 側 の 主 張 は 子 供 たちに 完 食 の 達 成 感 を 与 えるため 子 供 が 嫌 いな 物 は 入 れない 食 べきれるよう 量 は 尐 なめにして 下 さい ということだそうだ こうし て 野 菜 は 幼 稚 園 弁 当 から 減 尐 消 失 しているが 異 を 唱 える 親 はほとんどいないとい う 私 はこの 記 事 を 目 にし 子 供 たちの 成 長 をサポートすることが 役 割 であるはずの 幼 稚 園 側 が このような 指 導 をしている 事 実 に 驚 いた 嫌 いな 物 は 除 き 量 は 尐 なめ のお 弁 当 は 子 供 達 にどれほどの 達 成 感 をもたらすことができるのだろう 私 自 身 の 幼 尐 期 を 振 り 返 り 時 間 がかかっても 苦 手 な 物 を 食 べられたときの 達 成 感 はとても 大 きか った さらに 嫌 いな 物 を 無 理 に 食 べさせない 親 側 の 理 由 に 工 夫 して 野 菜 料 理 を 作 って も 成 果 が 出 ないと 私 がいらいらする からやめた 食 べさせようとして 言 っても 子 供 が 聞 かないと 私 がカチンとくる から 言 わない など 多 くの 主 婦 が 自 分 が 頭 に 来 る 私 が 疲 れる 私 のストレスになる からやらないという 子 供 もなかなかの もので 嫌 いな 物 を 出 されると おえっ と 吐 く 真 似 をするそうだ そして いまどき の 親 は 子 供 が 演 じていることを 承 知 しつつも 自 分 の 楽 さ を 重 ねて 好 きな 物 だけ 作 るようになるのだ 問 題 は 親 が 子 供 のためにしなければならない 役 目 を 自 分 の 気 持 ちを 優 先 させて 怠 っ ている 点 にある 親 が 自 分 が 嫌 だからやらない という 考 えで 育 めば 子 供 は 好 きな 物 が 何 でも 与 えられると 思 い 込 んでも 仕 方 ない 4. 一 緒 に 食 べること の 大 切 さ 家 族 で 食 卓 を 囲 み 食 事 の 時 間 を 共 有 している 家 庭 は 今 日 の 日 本 にどのくらいあるだ ろうか 何 がコミュニケーション 不 足 の 原 因 となっているのか これは 日 本 人 が 忙 し いということがひとつの 理 由 となる 夜 遅 くまで 仕 事 をしている 親 習 い 事 や 部 活 に 追 われる 子 供 それぞれが 自 分 の 時 間 を 持 つことで 忙 しくなり すれ 違 いが 生 じる こう して ごはんを 一 緒 に 食 べなくなりコミュニケーションの 時 間 も 減 るのだ 現 在 の 日 本 の 家 庭 では 個 食 化 孤 食 化 が 急 速 に 進 んでいる 原 因 としては 核 家 族 化 が 進 んだこと 両 親 が 共 働 きであることに 加 えて 子 供 が 習 い 事 等 で 家 族 の 食 事 の 時 間 のずれが 大 きく なったことにある そして 子 供 はテレビやゲームを 相 手 に 独 り で 食 事 を 摂 るよう になってしまったのだ 食 事 は 家 族 とのコミュニケーションの 場 でもある 子 供 にとってはそれ 以 外 に 4
情 緒 の 安 定 にも 大 きく 影 響 する 上 望 ましい 食 習 慣 や 体 を 作 り 作 った 人 や 食 材 に 対 す る 感 謝 の 気 持 ち 心 を 育 てるなど 大 切 な 教 育 の 場 でもある したがって それを 失 って しまったら コミュニケーションがとれず 子 供 は 好 きな 物 だけを 食 べるようになり 栄 養 が 偏 ってしまうかもしれないし 正 しいしつけもできず 食 事 のマナーも 悪 くな る 子 供 の 生 活 習 慣 病 が 増 えたり 食 事 中 にゲームをしたりという 現 状 からも 親 が 面 と 向 かって 相 手 をできていないことが 窺 える 5. 食 べ 物 を 平 気 で 捨 てる 日 本 人 現 在 の 日 本 にみられるもう 一 つの 問 題 は 食 糧 廃 棄 率 の 多 さである 2005 年 度 農 林 水 産 省 食 品 ロス 統 計 調 査 によると 私 たちは 年 間 5800 万 トンの 食 糧 を 輸 入 しながら そ の 3 分 の 1(1940 万 トン)を 捨 てている これは 食 糧 の 廃 棄 率 では 世 界 一 の 消 費 大 国 アメリカを 上 回 り 廃 棄 量 は 世 界 の 食 料 援 助 総 量 740 万 トンをはるかに 上 回 り 3000 万 人 分 ( 途 上 国 の 5000 万 人 分 )の 年 間 食 料 に 匹 敵 している そして 日 本 の 食 品 廃 棄 の 実 に 半 分 以 上 にあたる 1100 万 トンが 家 庭 から 捨 てられている ということらしい つまり 日 本 は 食 糧 の 7 割 以 上 を 輸 入 しながら 世 界 一 の 残 飯 大 国 なのだ 私 は ファミリーレストランでアルバイトをしているが 下 膳 される 食 器 に 食 べ 残 し があるのをよく 目 にする お 金 を 払 っていれば 食 べ 残 しても 平 気 なのだろうか 現 在 世 界 では 飢 餓 が 原 因 で 1 日 に 4~5 万 人 (1 年 間 に 1500 万 人 以 上 )の 人 が 亡 くなって おり そのうち 7 割 以 上 が 子 供 たちだ 飢 餓 になるのは 食 糧 が 十 分 に 作 られてい ないからではない 世 界 で 穀 物 は 年 間 23 億 トン 生 産 されている これは 世 界 中 の 人 が 生 きていくのに 必 要 な 量 のおよそ 2 倍 である しかし 私 たち 日 本 人 のように 食 べ 物 が いつでも 十 分 手 に 入 るのは 世 界 のおよそ 2 割 の 人 だけなのだ 穀 物 は 人 間 が 食 べるだ けではなく 先 進 国 では 6 割 が 家 畜 の 餌 になっている 結 果 として 先 進 国 にすむ 世 界 の 2 割 足 らずの 私 たちが 世 界 の 穀 物 の 半 分 以 上 消 費 しているのだ 私 たちが 便 利 な 生 活 を 送 っている 裏 で 飢 餓 に 苦 しむ 人 々が 沢 山 いることを 忘 れてはならない 6. まとめ 日 本 人 は 発 展 途 上 国 の 人 々から 見 たら 幸 福 に 見 えるかもしれない 毎 日 食 べ 物 に 困 っている 人 はほとんどいない スラムもなく 治 安 もいい 義 務 教 育 の 下 で 当 たり 前 の ように 学 校 に 通 い 学 ぶことができる 医 療 設 備 技 術 に 関 しても 世 界 トップクラスと 5
言 えよう 衛 生 面 も 断 然 トップである しかしながら 私 たち 日 本 人 は 幸 福 である 状 況 を 当 然 のように 受 け 止 める 奢 り が 生 じているのだ そうした 大 人 をみて 成 長 した 子 供 達 も 与 えられること を 当 たり 前 と 受 け 止 め 物 の 大 切 さや 人 を 敬 う 気 持 ちも 損 なわれてしまったように 感 じる このような 世 の 中 で 私 たちが 出 来 ることはいったいなんだろう 食 を 学 ぶ 者 の 一 人 として 食 の 大 切 さを 忘 れ 食 物 を 粗 雑 に 扱 う 日 本 人 が 増 えていることや 正 しい 食 事 を 教 えるべき 家 庭 での 食 事 の 内 容 が 煩 雑 になっていること それがきっ かけで 栄 養 に 偏 りが 生 じ 疾 病 を 引 き 起 こす 原 因 となっている 事 態 に 危 機 感 を 覚 える 現 在 の 日 本 では 子 供 に 対 して 食 育 を 行 うだけでは 足 りない 子 を 持 つ 親 に 対 する 食 育 こ れからの 未 来 の 担 い 手 である 若 者 に 対 する 食 育 高 齢 者 に 対 する 食 育 など 国 民 全 員 に 対 する 食 育 が 必 要 となる しかし 現 在 の 日 本 には 関 心 のある 人 しか 参 加 しないとい う 傾 向 がある 関 心 のある 人 とはすでにある 程 度 の 知 識 を 有 している 人 である 本 当 に 食 育 が 必 要 な 人 は 参 加 しようともしないのが 現 状 だ このような 日 本 でどうやって 食 の 大 切 さを 広 めたらいいのだろうか 課 題 は 山 積 する 一 方 であるが 悲 観 的 にならず ま ずは 身 近 な 人 に 発 信 することから 始 めたい 6