第 3 章 ハイブリッド 自 動 車 の 永 久 磁 石 モータ 制 御 技 術 トヨタ 自 動 車 株 式 会 社 佐 々 木 正 一 トヨタ 自 動 車 株 式 会 社 佐 藤 栄 次 トヨタ 自 動 車 株 式 会 社 岡 村 賢 樹 株 式 会 社 豊 田 中 央 研 究 所 稲 熊 幸 雄 3.1 まえがき 自 動 車 の 排 出 ガスによる 環 境 問 題 は 以 前 から 叫 ばれ 電 気 自 動 車 (EV)の 開 発 が 進 められてきた その 結 果 として 小 規 模 のEVが 市 販 されていたが コ スト/ 性 能 などの 観 点 から 本 格 的 な 市 販 には 至 っていない しかし 排 ガスに よる 環 境 問 題 はより 強 く 叫 ばれ 低 公 害 車 の 開 発 が 急 務 となってきた そのた め EVの 開 発 が 継 続 されると 共 に より 実 現 性 の 高 い 内 燃 機 関 (エンジン)と 電 気 モータ(モータ)を 組 み 合 せたハイブリッド 車 (HV)の 研 究 開 発 が 盛 んに なり 本 格 的 な 量 産 車 として 市 販 されるに 至 った( 図 31) 図 31 トヨタプリウス 次 世 代 の 環 境 対 応 技 術 として 燃 料 電 池 車 (FCHV)の 研 究 開 発 も 活 発 に 行 わ れている これらEV HVやFCHVはいずれもパワートレーンにモータを 用 い ている モータは 駆 動 力 を 発 生 させるだけでなく 運 動 エネルギーの 回 生 によ 67
第 5 章 情 報 機 器 の 永 久 磁 石 モータ 技 術 株 式 会 社 日 立 製 作 所 岩 路 善 尚 5.1 技 術 動 向 パソコン 等 の 情 報 機 器 を 構 成 する 要 素 としては MPU やメモリ 等 の 半 導 体 素 子 が 代 表 的 なパーツである その 中 にあって 小 型 モータは 唯 一 の 機 械 動 力 源 であると 言 える 情 報 機 器 におけるモータの 役 割 は 大 別 して 2 種 類 ある 1 つは 冷 却 用 のファンモータの 駆 動 であり もう 1 つは ハードディスクや 光 ディスク 等 の 情 報 記 憶 媒 体 の 駆 動 用 である 本 章 では これらに 用 いられる 永 久 磁 石 モータのドライブ 技 術 について 概 要 を 説 明 する 5.1.1 冷 却 用 ファンモータ パソコンに 用 いられるマイクロプロセッサーの 性 能 向 上 に 伴 い これらの 半 導 体 素 子 の 冷 却 機 構 が 重 要 になっている 冷 却 ファンの 駆 動 用 モータとしては 消 費 電 力 が 少 なく 信 頼 性 が 高 いことが 要 求 されている また ノートパソコ ン 等 用 途 に 適 した 形 状 ( 薄 型 パソコンに 対 応 する 等 )に 設 計 しやすいことも 重 要 な 条 件 である これらの 条 件 を 満 たすモータとしては 永 久 磁 石 モータが 最 適 である 現 在 のパソコンにおいて 冷 却 ファンのほとんどが 永 久 磁 石 モ ータを 採 用 している その 大 きさ 形 状 は 実 に 様 々である 5.1.2 情 報 媒 体 用 スピンドルモータ 情 報 記 録 方 式 には 大 きく 2 種 類 ある 1 つはハードディスク( 磁 気 ディス ク)のように 回 転 速 度 を 常 に 一 定 として 同 心 円 状 に 情 報 を 記 録 再 生 する 方 式 と もう 1 つは DVD のように 線 速 度 一 定 (モータとしては 可 変 速 )で 情 報 を 記 録 再 生 する 方 式 である また 塵 埃 対 策 が 重 要 となるハードディス クは 密 閉 型 であり 媒 体 自 体 の 取 替 えが 前 提 となる 光 ディスクは 開 放 型 となっ ている これらの 記 録 システムには 多 数 のアクチュエータが 使 用 されている 永 久 磁 石 モータは 主 として 主 軸 駆 動 (スピンドル 駆 動 )に 用 いられている 図 51 に 光 ディスクとハードディスク 用 ドライバの 駆 動 方 式 の 変 遷 を 示 す 両 者 は 位 置 センサ 付 き 120 通 電 方 式 からスタートした 開 放 型 で 可 変 速 駆 動 の 光 ディスクは 位 置 センサ 付 き 方 式 がしばらくの 間 主 流 であった 近 年 高 速 化 ( 倍 速 化 競 争 )が 進 み それに 伴 う 騒 音 問 題 が 大 きな 課 題 になってきた 177
このため 位 置 センサ 付 きの 構 成 で 正 弦 波 化 が 行 われ 近 年 ではさらにセンサ レス 化 が 進 んでいる また ハードディスクは 小 型 化 の 要 求 から 位 置 センサレスが 適 用 され 近 年 ではやはり 静 音 化 の 目 的 で 正 弦 波 化 ( 或 いは 疑 似 正 弦 波 化 )が 進 んでいる インバータ 制 御 器 制 御 器 光 ディスク 用 ドライバ (a)ホールic 正 弦 波 駆 動 (c) 位 置 センサレス 擬 似 正 弦 波 ( 正 弦 波 ) 位 置 センサ 付 き 120 通 電 方 式 位 置 センサ 付 き 正 弦 波 駆 動 方 式 位 置 センサレス 120 通 電 方 式 位 置 センサレス 正 弦 波 駆 動 方 式 ( 疑 似 正 弦 波 ) ハードディスク 用 ドライバ 制 御 器 (b)120 通 電 位 置 センサレス 図 51 情 報 機 器 におけるモータ 制 御 技 術 の 動 向 5.2 情 報 機 器 におけるモータ 制 御 技 術 表 51 に 情 報 機 器 用 モータドライブ IC の 例 を 示 す ここでは 小 型 モー タ 用 ( 主 にファン 用 )ワンチップドライバ IC と 光 ディスク 用 のドライバの 一 例 を 示 している 家 電 や 一 般 産 業 では マイコンによる 組 込 ソフトでモータ 制 御 を 実 現 しているのに 対 し 情 報 機 器 関 係 は 専 用 の IC/LSI が 一 般 的 に 用 いられている その 理 由 は 1 市 場 規 模 ( 台 数 )が 大 きいため 量 産 効 果 が 見 込 めること 2 小 型 化 のためには 専 用 (カスタム)LSI が 必 要 であること 178
3 冷 却 ファンや 情 報 媒 体 等 の 負 荷 特 性 は 均 一 であり 製 品 毎 の 個 別 仕 様 が 比 較 的 少 ないこと 等 が 挙 げられる 表 51 情 報 機 器 用 モータドライブ IC の 例 用 途 製 品 例 特 徴 1W クラス モータ 用 2STB121(オムロン ) 位 置 センサレス/ 擬 似 正 弦 波 静 音 化 光 ディスク 専 用 IC スピンドル 以 外 5 チャ ンネルのドライバ 内 蔵 BD7905BFS(ローム ) M63043FP( ルネサステク ノロジ) ホール IC 位 置 センサ 使 用 / 180 通 電 静 音 PWM 位 置 センサレス 使 用 / 正 弦 波 状 電 流 で 静 音 化 停 止 中 の 位 置 検 出 機 能 5.2.1 冷 却 ファンモータ 用 ドライバ SL 2 SL 1 V CC OSC V M 逆 起 検 出 用 コンハ レータ 起 動 回 路 スロープ 回 路 出 力 段 U TEST U V W 位 置 検 出 加 熱 保 護 駆 動 信 号 処 理 波 形 合 成 電 流 制 限 回 路 V W R S 正 逆 切 替 出 力 飽 和 防 止 回 路 GND FR (0/Vcc) FG NF V CRL C S 図 52 疑 似 正 弦 波 センサレス 駆 動 用 ドライバ IC(2STB121)の 内 部 ブロック 図 179
る 燃 費 の 向 上 が 可 能 であり エンジンにはない 大 きな 可 能 性 を 持 っている 今 後 自 動 車 分 野 においてモータ 駆 動 技 術 はますます 重 要 性 を 増 していくであろ う これからのHVには 燃 費 などの 環 境 性 能 はもとより 自 動 車 本 来 の 魅 力 である 走 る 楽 しさ 快 適 性 安 全 な 走 り を 高 めることが 求 められている こ れらの 機 能 アップの 基 本 となる 動 力 性 能 を 向 上 させるためには 車 体 の 軽 量 化 やエンジンの 出 力 向 上 と 共 に モータの 高 出 力 化 高 性 能 化 が 必 要 である モ ータの 高 出 力 化 のためには モータ 本 体 の 電 気 設 計 機 械 設 計 の 改 良 と 共 に モータ 制 御 や 電 気 システムの 改 良 も 非 常 に 重 要 である 著 者 らは 電 気 自 動 車 やHVの 開 発 を 通 してモータ 駆 動 技 術 の 研 究 開 発 に 取 り 組 み 実 用 化 して 量 産 車 に 織 込 んできた 初 期 のEV 開 発 の 時 代 においては 誘 導 モータを 中 心 に 検 討 してきたが 希 土 類 磁 石 の 登 場 によって( 永 久 磁 石 ) モータが 小 型 高 効 率 の 観 点 から 優 位 になり 研 究 はモータに 集 中 した 本 章 では 最 新 のハイブリッド 車 用 モータ 駆 動 技 術 である 高 出 力 モータ 制 御 と 可 変 電 圧 システムについて 紹 介 する 2 ~5) 3.2 モータの 特 性 と 基 本 制 御 3.2.1 モータの 特 性 HVの 駆 動 用 モータとしてはモータが 主 流 である 理 由 は 誘 導 モータの ような 界 磁 電 流 が 不 要 のため2 次 銅 損 がなく 高 効 率 であることと 強 力 な 希 土 類 磁 石 により 磁 束 密 度 を 高 くすることができ 小 型 化 が 可 能 なためである モ ータも 種 々のタイプがある 広 範 囲 運 転 及 び 製 作 コストの 観 点 から 図 32の 逆 突 極 型 のリラクタンストルクを 利 用 する 埋 め 込 み 型 のタイプが 主 に 使 われてい る 1 ) 図 32 逆 突 極 型 の 埋 め 込 み 磁 石 モータの 構 成 例 68
式 (3.1) (3.2)はモータの 定 常 状 態 の 電 圧 方 程 式 とトルクの 式 であ る vd R = vq ωld ωlq id 0 R iq ωφ (3.1) T { Φiq ( Ld Lq) idiq} = p (3.2) ここで vd vq id iq ω Ld Lq R Φ p Tは それぞれモータ 電 圧 のd q 軸 成 分 モータ 電 流 のd q 軸 成 分 電 気 角 速 度 インダクタンスのd q 軸 成 分 巻 線 抵 抗 鎖 交 磁 束 極 対 数 モータトルクである 式 (3.2)の 右 辺 第 1 項 が 磁 石 トルク 右 辺 第 2 項 がリラクタンストルクである 図 33に 電 流 振 幅 を 一 定 とした 場 合 の 電 流 位 相 に 対 するトルクを 示 す 図 33 電 流 位 相 トルク 特 性 ここでの 位 相 βは 磁 石 による 起 電 力 の 位 相 を90 として 示 している モー タトルクは 電 流 位 相 角 を90 よりも 進 めた 場 合 に 最 大 となる トルクτp は 磁 石 トルクτpとリラクタンストルクτr の 和 である それぞれのトルクは τ = τ1 sin ( β ) p (3.3) ( β ) τ r = τ 2 sin 2 (3.4) と 示 される 両 トルクの 関 係 を 整 理 したのが 図 34であり 電 流 位 相 を90 より 進 めることでτp が 減 少 するが τr の 増 加 が 大 きく 総 合 トルクが 大 きくなるた めである 図 33において 各 電 流 振 幅 のグラフのトルク 最 大 となる 点 を 結 んだ 線 が 69
トルク/ 電 流 が 最 大 となるモータの 最 適 動 作 ラインである このライン 上 で 動 作 させればモータを 効 率 良 く 大 きなトルクを 出 すことができる このライン 上 で 動 かす 制 御 を 最 大 トルク 制 御 と 言 う 図 34 磁 石 トルクとリラクタンストルク 図 35 電 流 位 相 電 圧 特 性 図 35は 電 流 振 幅 を 一 定 とした 場 合 の 位 相 に 対 する 単 位 回 転 数 当 たりの 誘 起 電 圧 定 数 を 示 す 電 流 位 相 を 進 めると 誘 起 電 圧 定 数 は 低 くなる 特 性 となってい る 誘 起 電 圧 は 回 転 数 に 比 例 するため 高 回 転 域 では 高 電 圧 となる 誘 起 電 圧 がインバータの 電 源 電 圧 よりも 高 くなると 電 流 の 制 御 が 不 能 となるため 電 流 位 相 を 進 めて 誘 起 電 圧 を 低 く 抑 えなければならない これを 弱 め 界 磁 制 御 と 言 う 弱 め 界 磁 制 御 ではモータの 動 作 点 が 図 33の 最 適 動 作 ラインよりも 右 の 領 域 となるので 同 じ 電 流 に 対 してトルクが 小 さくなり 効 率 も 悪 くなるが 70