日 病 薬 誌 第 50 巻 1 号 (27 31)2014 年 がん 患 者 に 対 する 薬 剤 師 のトータルマネジメント 実 践 例 医 薬 情 報 委 員 会 プレアボイド 報 告 評 価 小 委 員 会 担 当 委 員 横 川 貴 志 ( 公 益 財 団 法 人 がん 研 究 会 有 明 病 院 薬 剤 部 ) がん 治 療 の 高 度 化 は,がん 患 者 の 生 存 期 間 を 着 実 に 延 長 し, 外 来 通 院 治 療 を 可 能 としました 一 方 で, 治 療 が 複 雑 化 した 現 状 もあり, 医 療 の 質 と 安 全 性 の 確 保 には 幅 広 い 対 応 力 が 求 められます がん 治 療 中 に 起 こるイベントは, 抗 がん 薬 の 副 作 用 だけではありません 副 作 用 のみに 着 目 するのではなく, 常 に 患 者 主 体 で 考 える 必 要 があります 目 の 前 の 患 者 に 対 して,できること,やるべきことを 薬 剤 師 の 視 点 で 考 え, 行 動 する ことが 重 要 です その 蓄 積 が, 安 全 な 治 療 の 継 続 につながり, 結 果 として 患 者 予 後 に 寄 与 すると 考 えます 今 回 のプレアボイド 広 場 では, 大 腸 がんのXELOX 療 法 に 焦 点 を 当 て,プレアボイド 報 告 につながった 事 例 を 紹 介 し ます 同 じ 治 療 法 であっても 介 入 ポイントは 患 者 ごとに 異 なること, 幅 広 い 視 野 で 患 者 をみる 必 要 があることを 示 せれ ばと 思 います 支 持 療 法 薬 の 追 加 で 悪 心 嘔 吐 を 制 御 し, 抗 がん 薬 の 治 療 強 度 低 下 を 回 避 した 事 例 悪 心 嘔 吐 の 重 篤 化,オキサリプラチンの 減 量,カペ シタビンのアドヒアランス 低 下 患 者 情 報 :43 歳, 女 性 合 併 症 :なし 処 方 情 報 :なし 結 腸 がんの 術 後 補 助 療 法 としてXELOX 療 法 を 導 入 し た 制 吐 療 法 として,パロノセトロン 注 0.75mg(day1), デキサメタゾン 注 6.6mg(day1),デキサメタゾン 錠 4 mg/ 日 (day2-3)を 投 与 した 7/23 外 来 にて,XELOX 療 法 2サイクル 目 施 行 8/13 XELOX 療 法 3サイクル 目 施 行 目 的 にて 来 院, 医 師 の 診 察 前 に 薬 剤 師 面 談 を 実 施 した その 際, 今 回 は 吐 き 気 が 辛 かったです 薬 (カペシタ ビン)を 飲 めなかった 時 がありました と 訴 え があった カペシタビン 服 薬 手 帳 の 記 録 を 基 に 問 診 を 行 い, 悪 心 嘔 吐 の 発 現 時 期, 食 事 摂 取 量, 体 重,カペシタビンの 服 用 状 況 を 確 認 した その 結 果, 悪 心 はday1より 発 現 し day5まで 持 続,day2に 嘔 吐 が1 回 あり,day3 夕 方 分 のカペシタビンを 服 用 できていなかった また, 一 時 的 な 食 事 摂 取 量 の 低 下, 体 重 減 少 があった( 治 療 開 始 時 : 50.2kg day3:47.8kg day7:49.0kg day21: 50.0kg) 以 上 より, 悪 心 Grade2, 嘔 吐 Grade1, 被 疑 薬 としてオキサリプラチンの 可 能 性 が 高 いと 評 価 した そこで,National Comprehensive Cancer Network(NCCN) ガイドライン( 悪 心 嘔 吐 対 策 ) 1) を 参 考 にアプレピタ ントの 追 加 (day1:125mg,day2-3:80mg)を 医 師 へ 提 案 した その 際,アプレピタントによるデキサメ タゾンの 血 中 濃 度 上 昇 を 考 えたが, 糖 尿 病 の 既 往 歴 がな いことより,デキサメタゾンの 投 与 量 は 変 更 しないこと を 医 師 との 協 議 で 決 定 した 9/3 XELOX 療 法 4サイクル 目 施 行 目 的 にて 来 院 悪 心 嘔 吐 の 評 価 を 実 施 悪 心 Grade 1, 嘔 吐 なし, カペシタビンはすべて 服 用 できていた アプレピタント の 副 作 用 ( 吃 逆 便 秘 など)はなかった 術 後 補 助 療 法 の 目 的 はがんの 再 発 防 止 であり, 抗 がん 薬 の 治 療 強 度 を 維 持 して 治 療 を 完 遂 することが 重 要 です 本 症 例 では, 薬 剤 師 が 治 療 目 的 を 把 握 したうえで, 悪 心 嘔 吐 に 対 応 しています 制 吐 療 法 を 強 化 し, 悪 心 嘔 吐 が 制 御 されたことで,オキサリプラチンの 減 量,カペシ タビンのアドヒアランス 低 下 を 回 避 できた 事 例 です StageⅢ 結 腸 がん 患 者 に 対 する 術 後 補 助 XELOX 療 法 の 有 用 性 を 検 討 した 無 作 為 化 第 III 相 試 験 (NO16968 試 験 ) では,カペシタビンのrelative dose intensity(rdi)は 78%とされています 2) 当 然 ながら, 経 口 抗 がん 薬 は 服 27
用 しなければ 効 果 が 得 られません 服 用 の 有 無 と,アド ヒアランス 低 下 の 原 因 を 毎 回 確 認 する 必 要 があります 悪 心 の 評 価 は, 患 者 と 医 療 従 事 者 間 で 乖 離 があると 報 告 されています 3) そのため, 重 篤 度 をCommon Terminology Criteria for Adverse Events( 以 下,CTCAE)( ) で 客 観 的 に 評 価 することが 必 要 です その 際, 食 事 摂 取 量 と 体 重 がポイントとなります 悪 心 嘔 吐 の 原 因 を 評 価 するうえでは, 発 現 時 期 と 症 状 がポイントとなります 本 症 例 では, 悪 心 嘔 吐 の 発 現 時 期 はday1-5であり, 以 降 は 消 失 しています もし, 原 因 がカペシタビンであるならば, 服 用 期 間 中 は 症 状 が 持 続 します その 際 の 症 状 は 悪 心, 食 欲 不 振 が 主 で, 嘔 吐 まで 発 現 することは 稀 です また, 発 熱 や 下 痢 の 合 併 がないことから, 感 染 性 胃 腸 炎 も 考 えにくいと 判 断 して います 以 上 より,オキサリプラチンが 被 疑 薬 であり, 急 性 期 遅 発 期 の 悪 心 嘔 吐 と 評 価 しています 年 齢 (50 歳 未 満 ), 性 別 ( 女 性 ),アルコール 摂 取 量 ( 少 ない), 嘔 吐 の 経 験 ( 有 )は, 嘔 吐 誘 発 のリスク 因 子 と されています 4) 本 症 例 は 年 齢 と 性 別 が 該 当 しており, 嘔 吐 を 経 験 したことから, 制 吐 療 法 の 強 化 は 必 須 と 考 え 対 応 しています 新 規 薬 剤 の 追 加 は,ベネフィットだけでなくリスク( 副 作 用 相 互 作 用 )も 生 じます そのため,リスクまで 考 えて 薬 剤 追 加 の 必 要 性 を 検 討 することが 重 要 です 本 症 例 では,アプレピタントとデキサメタゾンの 相 互 作 用 に よる 血 糖 値 上 昇 の 可 能 性 を 考 え, 糖 尿 病 の 既 往 歴 を 確 認 しています そして, 血 糖 値 上 昇 のリスクは 低 く, 悪 心 嘔 吐 制 御 のベネフィットは 高 いと 判 断 し,アプレピタン トを 提 案 しています 末 梢 神 経 障 害 の 重 篤 度 に 応 じてオキサリプラチンの stop-and-go strategyを 提 案 し, 末 梢 神 経 障 害 重 篤 化 の 回 避 と 治 療 継 続 に 寄 与 した 事 例 オキサリプラチンの 末 梢 神 経 障 害 重 篤 化, 病 状 進 行 に よる 治 療 中 断 患 者 情 報 :65 歳, 男 性 合 併 症 : 高 血 圧 処 方 情 報 :カンデサルタン 錠 8mg/ 日 切 除 不 能 進 行 再 発 結 腸 がんに 対 してXELOX+ベバ シズマブ 療 法 を 導 入 した 3/5 XELOX+ベバシズマブ 療 法 8サイクル 目 施 行 目 的 にて 来 院 外 来 担 当 薬 剤 師 が 副 作 用 評 価 を 実 施 その 際, 最 近, 手 の 痺 れが 強 くなってきました と 訴 えがあった 両 手 指 に 症 状 があり 左 右 差 がないこと,サイクルごとの 蓄 積 を 考 え,オキサリプラチンによる 末 梢 神 経 障 害 の 可 能 性 を 考 えた そこで, 薬 剤 師 が ボタンをかけることがで きますか と 具 体 的 動 作 の 質 問 を 行 い, 患 者 は ボタン はなんとかできますが, 時 間 がかかります と 回 答 以 上 より, 末 梢 神 経 障 害 Grade 2と 評 価 した 施 行 サ イクル 数 を 考 えると,さらなる 重 篤 化 の 可 能 性 が 高 いと 判 断 し,オキサリプラチンの 中 止 を 医 師 へ 提 案 した 医 師 と 協 議 の 結 果,オキサリプラチンは 今 サイクルより 中 止 となった CTCAE ver 4.0 Grade 1 Grade 2 Grade 3 悪 心 摂 食 習 慣 に 影 響 のない 食 欲 低 下 顕 著 な 体 重 減 少, 脱 水 または 栄 養 失 調 を 伴 わない 経 口 摂 取 量 の 減 少 カロリーや 水 分 の 経 口 摂 取 が 不 十 分 ; 経 管 栄 養 /TPN/ 入 院 を 要 する 嘔 吐 24 時 間 に1-2エピソードの 嘔 吐 24 時 間 に3-5エピソードの 嘔 吐 24 時 間 に6エピソード 以 上 の 嘔 吐 神 経 系 障 害 : 末 梢 性 運 動 ニューロパチー 神 経 系 障 害 : 末 梢 性 感 覚 ニューロパチー TPN: 高 カロリー 輸 液 症 状 がない; 臨 床 所 見 または 検 査 所 見 のみ; 治 療 を 要 さない 症 状 がない; 深 部 腱 反 射 の 低 下 または 知 覚 異 常 中 等 度 の 症 状 がある; 身 の 回 り 以 外 の 日 常 生 活 動 作 の 制 限 中 等 度 の 症 状 がある; 身 の 回 り 以 外 の 日 常 生 活 動 作 の 制 限 高 度 の 症 状 がある; 身 の 回 りの 日 常 生 活 動 作 の 制 限 ; 補 助 具 を 要 する 高 度 の 症 状 がある; 身 の 回 りの 日 常 生 活 動 作 の 制 限 28
6/11 XELOX+ベバシズマブ 療 法 (オキサリプラチ ン 抜 き)12サイクル 目 外 来 担 当 薬 剤 師 が 副 作 用 評 価 を 実 施 その 際, 足 の 痺 れは 消 失, 手 のみに 軽 度 の 痺 れが 残 存 しているとの 情 報 を 患 者 より 聴 取 した そこで,8サイクル 目 の 時 と 同 様 に, 薬 剤 師 が ボタンをかけることができますか と 具 体 的 動 作 の 質 問 を 行 い, 患 者 は 治 療 開 始 前 と 同 様 にで きている, 最 近 はゴルフクラブのグリップをしっかり 握 れる と 回 答 以 上 より, 末 梢 神 経 障 害 Grade1に 改 善 していると 評 価 し,オキサリプラチンの 再 開 は 可 能 と 判 断 した オキ サリプラチンの 再 開 により 末 梢 神 経 障 害 が 再 度 重 篤 化 し, 趣 味 のゴルフに 影 響 する 可 能 性 を 考 えたが, 前 回 の 医 師 の 診 療 録 にて 腫 瘍 マーカー,コンピュータ 断 層 撮 影 ( 以 下,CT) 増 大 傾 向 とあったため,オキサリプラチン を 再 開 すべきタイミングと 判 断 した 医 師 へその 旨 を 提 案 し, 協 議 の 結 果, 今 サイクルよりオキサリプラチンが 再 開 となった 7/2 XELOX+ベバシズマブ 療 法 13サイクル 目 末 梢 神 経 障 害 Grade1のまま 推 移 し, 趣 味 のゴルフも 続 けられている オキサリプラチンは 継 続 したままで 問 題 なしと 評 価 した 末 梢 神 経 障 害 は,オキサリプラチンの 代 表 的 な 副 作 用 の1つです 発 現 率 が 高 く 5),XELOX 療 法 を 継 続 するう えで 障 害 となります 担 当 薬 剤 師 は, 症 状 の 重 篤 化 を 正 確 に 評 価 するために, ボタンをかけられますか と 具 体 的 動 作 の 質 問 をしています それによって,オキサリ プラチンを 中 止 する 時 期, 再 開 する 時 期 が 明 確 になり, 治 療 を 継 続 できた 事 例 です 末 梢 神 経 障 害 が 重 篤 化 すると, 手 足 がしびれて 文 字 を 書 きにくい,ボタンをかけにくい, 飲 み 込 みにくい, 歩 きにくい 等 の 感 覚 性 の 機 能 障 害 が 発 現 します 添 付 文 書 上 では,オキサリプラチン 累 積 投 与 量 850mg/m 2 で10%, 1,020mg/m 2 で20%に 認 められたと 記 載 されています 担 当 薬 剤 師 は,この 情 報 を 念 頭 に 置 き 副 作 用 評 価 を 実 施 しています Grade 末 梢 神 経 障 害 がGrade3まで 重 篤 化 した 場 合,Grade 2 以 下 への 回 復 期 間 は13 週 ( 中 央 値 )とされています 6) つまり,Grade3まで 重 篤 化 すると, 患 者 のquality of life( 以 下,QOL)は 長 期 間 低 下 します 切 除 不 能 進 行 再 発 治 療 の 場 合, 延 命 だけでなくQOLの 維 持 も 重 要 で あり,Grade2の 段 階 でオキサリプラチンの 中 止 を 提 案 しています stop and go strategy 末 梢 神 経 障 害 の 重 篤 化 を 回 避 する 目 的 で,stop-andgo strategyの 概 念 がOPTIMOX 試 験 で 提 唱 されていま す 7) FOLFOX 療 法 を 用 いた 試 験 デザインですが,オキ サリプラチン 累 積 に 伴 う 末 梢 神 経 障 害 の 対 応 法 として, XELOX 療 法 施 行 時 にも 参 考 となります この 概 念 が 基 本 となり, 実 地 臨 床 においては 末 梢 神 経 障 害 の 重 篤 度 や 病 状 進 行 に 応 じてオキサリプラチンの 中 止 再 開 が 検 討 されます しかし,オキサリプラチンが 中 止 されたまま 再 開 のタイミングを 逃 し, 治 療 終 了 となるケースがあり ます 本 症 例 では, 薬 剤 師 が 末 梢 神 経 障 害 の 評 価 を 継 続 したことで,オキサリプラチンの 再 開 につながっていま す カペシタビンとワルファリンによる 相 互 作 用 を 予 測 し, 両 治 療 の 中 断 を 回 避 した 事 例 相 互 作 用 によるプロトロンビン 時 間 国 際 標 準 比 ( 以 下, PT-INR) 延 長 患 者 情 報 :68 歳, 女 性 合 併 症 : 高 血 圧, 心 房 細 動 処 方 情 報 :アムロジピン 錠 2.5mg/ 日 10/3 上 行 結 腸 がん 腹 膜 播 種 多 発 肝 転 移 に 対 する 1st-line 治 療 (XELOX 療 法 ) 導 入 目 的 にて 入 院 となった 持 参 薬 を 確 認 したところ, 心 房 細 動 に 対 してワルファ リンを 服 用 中 であった カペシタビンによるワルファリ ンへの 影 響 ( 効 果 増 強 )が 予 測 されたため,その 旨 を 医 師 へ 情 報 提 供 した しかし, 中 心 静 脈 ポートを 造 設 せず に 経 口 抗 がん 薬 で 治 療 したいとの 患 者 意 向 があり, 治 療 変 更 はなかった そこで,PT-INRの 変 動 を 確 認 してい くこととした 10/4 XELOX 療 法 1サイクル 目 導 入 10/8 XELOX 療 法 day5の 血 液 検 査 にてPT-INRが 変 29
動 (2.05 3.56) 患 者 の 採 血 部 位 を 確 認 したが, 内 出 血 はなかった カ ペシタビンによる 影 響 でPT-INRが 延 長 した 可 能 性 を 考 え, 医 師 へ 情 報 提 供 した 協 議 の 結 果,ワルファリン 処 方 医 へ 連 絡 し, 投 与 量 を 補 正 する 方 針 となった 処 方 医 指 示 の 下,ワルファリンが3mg/ 日 から1.5mg/ 日 へ 減 量 となった 10/11 PT-INR:2.20(day8) 10/15 PT-INR:1.31(day12) 処 方 医 指 定 の 目 標 治 療 域 (1.70-2.30)より 低 値 であっ たため, 医 師 と 協 議 し,ワルファリンは2mgへ 増 量 と なった 10/16 退 院 が 決 定 以 上 の 経 過 に 関 して, 担 当 医 から ワルファリン 処 方 医 へ 情 報 提 供 された 以 後,ワルファリン 処 方 医 と 連 携 しながらXELOX 療 法, 心 房 細 動 の 治 療 は 継 続 可 能 であった がん 化 学 療 法 開 始 前 に 併 用 薬 剤 を 把 握 し, 予 定 されて いる 抗 がん 薬 との 相 互 作 用 を 確 認 しています カペシタ ビンとワルファリンは, 添 付 文 書 上 で 併 用 注 意 と 記 載 されており, 血 液 凝 固 能 検 査 値 異 常, 出 血 による 死 亡 例 も 報 告 されています しかし, 本 症 例 のように, 両 薬 剤 とも 治 療 に 不 可 欠 であった 場 合, 併 用 を 避 けることは できません そこで,カペシタビンの 影 響 によりPT- INRが 変 動 することを 予 測 して, 医 師 へ 情 報 提 供 してい ます その 結 果,カペシタビンとワルファリンの 中 断 を 回 避 し, 両 治 療 を 継 続 できた 事 例 です XELOX 療 法 は,カペシタビンを14 日 間 服 用,7 日 間 休 薬 するスケジュールで 実 施 されます すなわち, 来 院 は21 日 間 ごとであり, 来 院 日 の 採 血 では 相 互 作 用 が 消 失 している 可 能 性 があります カペシタビン 継 続 患 者 に 対 してワルファリンを 単 回 投 与 し,S-ワルファリンのAUCが57%, 半 減 期 (t 1/2 )が 51% 延 長 したとの 報 告 がありますが 8),ワルファリン 反 復 投 与 下 での 詳 細 な 報 告 はありません そのため, 発 現 時 期 まで 予 測 することが 困 難 であり, 複 数 回 のPT-INR 測 定 により 変 動 の 推 移 を 評 価 しています また, 患 者 の 自 覚 症 状 ( 採 血 部 位 の 内 出 血, 歯 肉 出 血, 鼻 血, 血 痰, 血 便 )を 確 認 しています 通 常 より 入 院 期 間 が 長 くなり ましたが,PT-INR 変 動 の 推 移 がワルファリン 処 方 医 へ 情 報 提 供 されたことで, 治 療 継 続 が 可 能 となりました がん 化 学 療 法 の 治 療 効 果 により 疼 痛 の 閾 値 が 変 化 し 発 現 した,オピオイド 製 剤 による 傾 眠 を 回 避 した 事 例 オピオイド 製 剤 による 傾 眠 患 者 情 報 :65 歳, 男 性 原 疾 患 : 直 腸 がん 合 併 症 :なし 処 方 情 報 : ロキソプロフェン 錠 180mg/ 日 酸 化 マグネシウム 錠 750mg/ 日 ( 適 宜 調 節 可 ) 直 腸 がん 術 後 および 高 血 圧 フォロー 中 に 左 前 胸 部 痛 を 訴 え, 当 院 にて 精 査 した 結 果, 直 腸 がん 術 後 再 発, 胸 壁 両 側 副 腎 縦 隔 リンパ 節 脳 転 移 ありと 診 断 された 脳 転 移 に 対 してガンマナイフを 他 院 にて 実 施 当 院 にて, XELOX 療 法 を 導 入 する 目 的 で 入 院 となった 7/18 XELOX 療 法 1サイクル 目 導 入 この 時 点 で, 左 前 胸 部 背 部 痛 に 対 してオキシコドン 徐 放 製 剤 ( 以 下,OXN 徐 放 製 剤 )30mg/ 日,オキシ コドン 速 放 製 剤 ( 以 下,OXN 速 放 製 剤 )5mg/ 回 を 服 用 中 であった XELOX 療 法 の 服 薬 指 導 時 に,numerical rating scale ( 以 下,NRS)による 疼 痛 評 価 を 実 施 したところ, 安 静 時 0/10, 体 動 時 2/10であった まれに 突 出 痛 があるが, OXN 速 放 製 剤 を 服 用 することで 疼 痛 は 軽 減 できており (NRS:5 1), 服 用 回 数 は1-2 回 / 日 であった 悪 心 傾 眠 便 秘 はなかった 以 上 より, 現 投 与 量 の 継 続 で 問 題 ないと 評 価 した 7/22 退 院 となり, 以 降 は 外 来 にてフォローしていく こととなった 9/19 XELOX 療 法 4サイクル 目 施 行 目 的 にて 来 院 疼 痛 に 関 して 患 者 へ 質 問 すると, 痛 みというよりは, 押 せば 違 和 感 がある 感 じです と 訴 えがあった 疼 痛 評 価 の 結 果, 以 前 あった 背 部 痛 は 消 失, 左 胸 部 痛 はNRS: 0-1/10であり,OXN 速 放 製 剤 の 使 用 はなかった また, 日 中 の 傾 眠 が 持 続 していた 腫 瘍 マーカーを 確 認 すると, XELOX 療 法 導 入 前 と 比 較 して 低 下 傾 向 にあった(6/26 carcinoembryonic antigen( 以 下,CEA):693.5ng/mL, carbohydrate antigen( 以 下,CA)19-9:319.1ng/mL 9/19 CEA:332.4ng/mL,CA19-9:69.8ng/mL) 30
XELOX 療 法 の 治 療 効 果 により 疼 痛 の 閾 値 が 変 化 し, 現 状 のOXN 徐 放 製 剤 が 過 量 投 与 となっていると 考 えられ た そこで,OXN 徐 放 製 剤 の 減 量 (30mg/ 日 20mg/ 日 ) を 医 師 へ 提 案 した 医 師 より, 胸 腹 部 CTの 結 果 から 治 療 効 果 が 得 られている と 回 答 があり, 協 議 の 結 果, OXN 徐 放 製 剤 は20mg/ 日 へ 減 量 となった 10/10 XELOX 療 法 5サイクル 目 施 行 目 的 にて 来 院 疼 痛 評 価 を 実 施 したところ, 背 部 痛 はなく, 左 胸 部 痛 NRS:0-1/10,OXN 速 放 製 剤 の 使 用 はなかった また, 日 中 の 傾 眠 は 消 失 していた そのため,OXN 徐 放 製 剤 は 現 投 与 量 のまま 継 続 でよいと 評 価 した オピオイド 製 剤 過 量 投 与 時 の 症 状 として 傾 眠 がありま す 薬 剤 を 追 加 することばかり 考 えず, 継 続 の 必 要 性, 投 与 量 の 妥 当 性 を 評 価 し, 薬 剤 の 中 止 減 量 を 提 案 する ことも 重 要 です 本 症 例 では, 薬 剤 師 が 疼 痛 評 価 を 継 続 し, 抗 がん 薬 治 療 の 効 果,あるいは 病 状 進 行 によって 疼 痛 の 閾 値 が 変 化 する 可 能 性 を 念 頭 に 置 き 対 応 しています その 結 果,オピオイド 製 剤 過 量 投 与 による 傾 眠 の 重 篤 化 を 回 避 できた 事 例 です 本 稿 では,1つの 治 療 法 に 焦 点 を 当 て, 薬 剤 師 の 介 入 事 例 を4 例 紹 介 しました どの 事 例 も, 他 職 種 にはない 薬 剤 師 の 視 点 からアプローチしています また,CTCAE やNRSなど,evidence-based medicine(ebm)に 基 づい た 評 価 を 実 施 し, 臨 床 試 験 や 薬 物 体 内 動 態 のデータを 基 に 薬 剤 の 特 性 を 考 慮 したうえで 提 案 しています つまり, 薬 学 的 根 拠 が 明 確 な 介 入 であり, 薬 剤 師 にしかできない 患 者 マネジメントといえます 近 年, 医 療 の 質 と 安 全 性 の 向 上 のために,チーム 医 療 が 推 奨 されています よく 耳 にする 言 葉 であり 聞 こえは 良 いのですが, 本 質 を 理 解 しなければ 意 味 がありません チーム 医 療 の 本 質 は, 仲 良 く 一 緒 に 行 動 することではな く, 各 々の 視 点 で 評 価 し, 意 見 をぶつけ 合 い, 協 議 して 最 善 策 を 決 定 していくことだと 考 えます 医 療 スタッ フの 協 働 連 携 によるチーム 医 療 の 推 進 について の 医 政 局 長 通 知 ( 平 成 22 年 4 月 30 日 医 政 発 0430 第 1 号 )が 発 出 された 経 緯 を 理 解 し, 薬 剤 師 の 職 能 を 発 揮 していき ましょう 1)National Comprehensive Cancer Network : Clinical Practice Guidelines in Oncology : Antiemesis Version 1, 2013. 2)D.G. Haller et al. : Capecitabine plus oxaliplatin compared with fluorouracil and folinic acid as adjuvant therapy for stage III colon cancer, J Clin Oncol,, 1465-1471 (2011). 3)E. Basch et al. : The Missing Voice of Patients in Drug- Safety Reporting, NEJM,, 865-869 (2010). 4)J.M. Koeller et al. : CINV Mechanism, Perceptions, and Treatment Guidelines, Support Care Cancer,, 519-522 (2002). 5)J. Cassidy et al. : Randomized Phase III Study of Capecitabine Plus Oxaliplatin Compared With Fluorouracil/Folinic Acid Plus Oxaliplatin As First-Line Therapy for Metastatic Colorectal Cancer, J Clin Oncol,, 2006-2012 (2008). 6)A. de Gramont et al. : Leucovorin and fluorouracil with or without oxaliplatin as first-line treatment in advanced colorectal cancer, J Clin Oncol,, 2938-2947 (2000). 7)C. Tournigand et al. : OPTIMOX1 : A Randomized Study of FOLFOX4 or FOLFOX7 With Oxaliplatin in a Stop-and- Go Fashion in Advanced Colorectal Cancer-A GERCOR Study, J Clin Oncol,, 394-400 (2006). 8)R. Camidge et al. : Significant Effect of Capecitabine on the Pharmacokinetics and Pharmacodynamics of Warfarin in Patients With Cancer, J Clin Oncol,, 4719-4725 (2005). 31