2012 年 11 月 15 日 放 送 第 111 回 日 本 皮 膚 科 学 会 総 会 2 教 育 講 演 7-1 本 邦 皮 膚 リンパ 腫 の 疫 学 岡 山 大 学 大 学 院 皮 膚 科 助 教 濱 田 利 久 はじめに 皮 膚 リンパ 腫 は 皮 膚 科 疾 患 の 中 でも 非 常 にまれな 疾 患 群 ですが 診 断 から 治 療 に 至 る まで 皮 膚 科 医 が 中 心 的 にかかわってゆくことが 必 要 な 疾 患 群 であることに 間 違 いはあ りません 日 本 皮 膚 科 学 会 認 定 皮 膚 科 専 門 医 の 研 修 目 標 および 研 修 内 容 にもこの 分 野 の 診 断 治 療 を 皮 膚 科 医 師 がおこなえるように 研 修 することが 独 立 した 項 目 で 取 り 上 げら れています この 分 野 は 疾 患 単 位 が 多 く 煩 雑 でかつ 病 名 やカテゴリーの 変 更 も 頻 繁 で 診 療 を 進 めるうえでも 常 に 最 新 のバージョンを 念 頭 にしておく 必 要 があります また, 欧 米 の 大 規 模 なレジストリより 疫 学 データが 蓄 積 され 広 く 利 用 されていますが,わが 国 で も 2007 年 より 日 本 皮 膚 科 学 会 と 日 本 皮 膚 悪 性 腫 瘍 学 会 の 共 同 事 業 という 形 式 で 倫 理 委 員 会 での 承 認 を 経 て, 皮 膚 リンパ 腫 全 国 症 例 数 調 査 が 開 始 され,Population-base で はありませんが 本 格 的 に 全 国 規 模 での 疫 学 データが 毎 年 集 積 できる 体 制 を 作 ってきま した 各 施 設 の 先 生 方 のご 協 力 により,2007 年 からの 5 年 間 で 実 に 1,942 症 例 登 録 さ れ, 欧 米 の 調 査 と 比 較 しても 遜 色 ない 規 模 でのデータ 集 積 が 行 えるようになっています 今 回,そのデータの 概 要 を 紹 介 し 菌 状 息 肉 症 /セザリー 症 候 群 につきましては 病 期 分 類 別 の 頻 度 と 初 期 治 療 について 検 討 を 加 えました 対 象 および 方 法 について 述 べます 症 例 登 録 の 方 法 ですが, 毎 年 1 月 に 全 国 約 600 の 皮 膚 科 研 修 施 設 に 直 接 郵 送 で 調 査 依 頼 をしています 各 施 設 で 前 年 1 年 間 の 新 規 皮 膚 リンパ 腫 症 例 を 登 録 していただくよう 依 頼 し, 当 初 は 百 数 十 施 設 でしたが 一 昨 年 以 降 は 200 を 超 えるご 施 設 より 電 子 メールで 参 加 承 諾 の 回 答 をいただくことができています 本 調 査 の 認 知 度 も 高 まっているものと 考 えています これらの 施 設 に 対 して 再 度, 記 入 用 のファイルを 添 付 した 電 子 メールを 送 付 し, 各 施 設 で 前 年 1 年 間 の 新 規 皮 膚 リンパ 腫
症 例 を 記 入 していただいた 後, 返 送 していただきこれを 集 計 しています 登 録 する 項 目 は 診 断 年 月, 年 齢, 性 別, 診 断 名, 病 期, 治 療, 合 併 症, 紹 介 元 および 紹 介 先 で, 事 務 局 では 個 人 との 連 結 が 不 可 能 な 形 式 でのデータ 収 集 としています 年 度 ごとの 症 例 数 ですが 2007 年 は 356 症 例,2008 年 は 366 症 例,2009 年 は 441 症 例,2010 年 は 381 症 例,2011 年 は 398 症 例 が 登 録 され,5 年 間 で 2,000 例 近 くに 達 しました 結 果 について 述 べます 1. 皮 膚 リンパ 腫 の 全 体 像 まず, 皮 膚 リンパ 腫 の 全 体 像 ですが,5 年 間 で 1,942 症 例 が 登 録 されました 0 歳 か ら 100 歳 で, 平 均 値 は 63.8 歳, 中 央 値 は 66.0 歳, 男 女 比 は 1.3 で, 年 度 ごとの 変 動 は 大 きくなく, 男 性 にやや 多 くなっています T/NK 細 胞 リンパ 腫 (Mature T- and NK-cell neoplasms) が 78.9%,B 細 胞 リンパ 腫 (Mature B-cell neoplasms) が 18.4%, 芽 球 性 形 質 細 胞 様 樹 状 細 胞 腫 瘍 (Blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm) が 1.2%で, この 構 成 比 率 も 大 きな 変 化 はみられ ません 個 別 の 疾 患 では, 頻 度 の 高 い 順 に 菌 状 息 肉 症 /セザリー 症 候 群 40.6%, 成 人 T 細 胞 白 血 病 リンパ 腫 (ATLL) 15.1%,びまん 性 大 細 胞 型 B 細 胞 リンパ 腫 11.0%, 原 発 性 皮 膚 未 分 化 大 細 胞 リンパ 腫 5.4%, 末 梢 性 T 細 胞 リンパ 腫 非 特 定 5.4% など となっています 本 邦 では ATLL が 欧 米 に 比 べて 高 頻 度 にみられますが, 一 番 発 症 頻 度 の 高 い 菌 状 息 肉 症 /セザ リー 症 候 群 については 欧 米 からの 報 告 と 大 きな 差 はありません 2. 原 発 性 皮 膚 リンパ 腫 ( 注 : 皮 膚 科 でよく 取 り 扱 う 疾 患 群 含 む) 次 に 原 発 性 皮 膚 リンパ 腫 について 述 べますが, 本 論 に 入 る 前 にここで 取 り 扱 う 疾 患 の 範 囲 について 簡 単 に 説 明 させていただきます まず, 原 発 性 皮 膚 リンパ 腫 の 定 義 で すが, 診 断 時 に 皮 膚 以 外 の 病 変 をみとめない リンパ 腫 という 定 義 があります しか しすべての 原 発 性 皮 膚 リンパ 腫 が 疾 患 単 位 としてみとめられているわけではありま せん 疾 患 単 位 につきましては 2008 年 改 訂 の WHO 分 類 ( 第 4 版 )に 準 拠 しますが 2005 年 の WHO-EORTC 分 類 で 取 り 上 げられた 皮 膚 リンパ 腫 のカテゴリーも 援 用 して 皮 膚 病 変 が 主 病 変 あるいは 診 療 上 重 要 な, 血 管 内 大 細 胞 型 B 細 胞 リンパ 腫 や, 成 人 T 細 胞 白 血 病 リンパ 腫 で, 皮 膚 病 変 が 主 症 状 のくすぶり 型 や 慢 性 型 についても,このカテ
ゴリーで 取 り 扱 い,データ 収 集 と 解 析 をおこなっています また 節 外 性 辺 縁 帯 リ ン パ 腫 ( い わ ゆ る MALT リンパ 腫 )についても 原 発 性 皮 膚 リンパ 腫 のカテゴリーで 取 り 扱 い,データ 収 集 しています この 方 法 で 症 例 を 抽 出 しますと 1,565 症 例 が 原 発 性 皮 膚 リンパ 腫 および 皮 膚 との 親 和 性 の 高 いリ ンパ 腫 群 の 症 例 でした 皮 膚 T 細 胞 /NK 細 胞 リンパ 腫 が 85.2%, 皮 膚 B 細 胞 リンパ 腫 が 14.8% でした 従 来 からの 報 告 から, 皮 膚 リンパ 腫 は リンパ 腫 全 体 に 比 べると T/NK 細 胞 リンパ 腫 の 割 合 が 高 いのが 特 徴 ですが, 本 邦 では T/NK 細 胞 リンパ 腫 の 割 合 がさらに 高 く,B 細 胞 リンパ 腫 の 割 合 が 低 いことが 明 らかになっています 疾 患 別 では 菌 状 息 肉 症 セザリー 症 候 群 が 50.4%とおよそ 半 数 を 占 めて 最 多 です 続 いて,ATLL 7.4%, 原 発 性 皮 膚 未 分 化 大 細 胞 リンパ 腫 6.6%, 皮 下 脂 肪 織 炎 様 T 細 胞 リンパ 腫 1.2%, 欧 米 にはまれで 本 邦 や 韓 国 に 好 発 する 節 外 性 NK/T 細 胞 リンパ 腫 鼻 型 は 1.2% でした B 細 胞 系 では, 原 発 性 皮 膚 濾 胞 中 心 リンパ 腫 と 節 外 性 MALT リンパ 腫 がそれぞれ 2.4%, 4.2%と 欧 米 に 比 べてかなり 頻 度 が 低 くなっているのが 特 徴 的 です 原 発 性 皮 膚 びまん 性 大 細 胞 型 B 細 胞 リンパ 腫, 下 肢 型 は 4.1%, 血 管 内 大 細 胞 型 リンパ 腫 は 1.2%でした わが 国 では ATLL と 節 外 性 NK/T 細 胞 リンパ 腫, 鼻 型 の 発 症 頻 度 が 高 いために 欧 米 に 比 べて NK/T 細 胞 リンパ 腫 の 頻 度 が 高 くなる 一 因 と 考 えられます 3. 菌 状 息 肉 症 /セザリー 症 候 群 の 病 期 分 類 別 頻 度 次 に, 菌 状 息 肉 症 /セザリー 症 候 群 の 病 期 分 類 別 の 発 症 頻 度 について 述 べます 5 年 間 で 菌 状 息 肉 症 /セザリー 症 候 群 788 症 例 が 登 録 され, 年 齢 分 布 は 13 歳 から 95 歳, 平 均 値 61.0 歳, 中 央 値 63.0 歳, 男 女 比 は 1.4 と 男 性 にやや 多 くなっています またセザ リー 症 候 群 は 4.3%で, 英 国 の 単 一 施 設 からのデータと 比 較 すると 本 邦 では 発 症 年 齢 が やや 高 くセザリー 症 候 群 の 割 合 がやや 低 い 傾 向 にありました バリアントでは 毛 包 向 性 菌 状 息 肉 症 が 4.9%で,パジェット 様 細 網 症 1.0%, 肉 芽 腫 様 弛 緩 皮 膚 0.3% と 後 2 者 は 非 常 に 稀 です 病 期 分 類 別 頻 度 では 73.1%が 病 期 ⅡA までの 早 期 菌 状 息 肉 症 でし た 生 命 予 後 が 不 良 になり 進 行 率 も 上 昇 する 病 期 ⅡB は 11.3%,セザリー 症 候 群 を 含 む 病 期 Ⅳは 7.6%で, 病 期 別 頻 度 は 英 国 からのデータと 類 似 していました
最 後 に 選 択 された 初 期 治 療 について 解 説 します 病 期 ⅠA-ⅡA の 早 期 菌 状 息 肉 症 では, ステロイド 外 用 や 光 線 療 法 がおもに 選 択 されており,それぞれ 88.8%と 70.3%の 症 例 に 施 行 されていました 腫 瘤 を 形 成 する 病 期 ⅡB では,41.4%の 症 例 に 放 射 線 療 法 が 施 行 されていましたがステロイド 外 用 や 光 線 療 法 も 早 期 菌 状 息 肉 症 ( 病 期 ⅠA-ⅡA)と 同 様 に 頻 用 されていました 紅 皮 症 型 菌 状 息 肉 症 (T4)の 病 期 Ⅲは 本 邦 で 使 用 可 能 な 治 療 法 が 限 定 されていることもあってステロイド 外 用 と 光 線 療 法 がメインに 選 択 され,そ れぞれ 95.1%と 75.4%の 症 例 に 施 行 されていました 病 期 Ⅳでは, 単 剤 および 多 剤 併 用 化 学 療 法 が 25.4%と 35.6%の 症 例 に 施 行 されていましたが,ステロイド 外 用 や 光 線 療 法 に 加 えて, 放 射 線 療 法 も 施 行 されており, 集 学 的 な 治 療 が 試 みられている 様 子 がうか がえます おわりに 以 上,2007 年 に 開 始 しました 皮 膚 リンパ 腫 全 国 症 例 数 調 査 の 結 果 から,わが 国 にお ける 皮 膚 リンパ 腫 の 現 状 について 概 説 しました 本 調 査 研 究 は, 学 会 員 の 皆 様 のご 協 力 に よって 充 実 したデータ 収 集 が 毎 年 行 える 体 制 となり 大 変 感 謝 しています また, 開 始 より 5 年 間 で 2,000 例 に 迫 る 症 例 が 登 録 されたことは 特 筆 すべきことで,ここで 得 られた 調 査 結
果 は 非 常 に 価 値 が 高 いものと 自 負 しています 今 後 ともこの 調 査 は 継 続 してゆく 予 定 で, システムの 不 具 合 を 改 善 しつつ,より 精 度 の 高 いデータが 得 られるよう 目 指 してゆきたい と 思 います 学 会 員 の 皆 様 には 是 非 この 調 査 研 究 の 趣 旨 をご 理 解 いただき, 今 後 とも 毎 年 の 調 査 にご 協 力 いただけますようお 願 いします 文 献 1. Willemze R, Jaffe ES, Cerroni L, et al. WHO-EORTC classification for cutaneous lymphomas. Blood. 2005; 105: 3768-3785. 2. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Ed. Swerdlow, SH, Campo E, Harris NL, Jaffe ES, Pileri SA, Stein H, Thiele J, Vardiman JW. IARC Press, Lyon, 2008. 3. 皮 膚 リンパ 腫 全 国 疫 学 調 査 資 料 :http://www.okayama-hihuka.jp/pdf/kekka2011.pdf 4. Bradford PT, Devesa SS, Anderson WF, Toro JR. Cutaneous lymphoma incidence patterns in the United States: a population-based study of 3884 cases. Blood. 2009; 113: 5064-5073. 5. 菅 谷 誠, 河 井 一 浩, 大 塚 幹 夫, ら. 皮 膚 リンパ 腫 診 療 ガイドライン 2011 年 改 訂 版. 日 皮 会 誌 2012: 122: 1513-1531. 6. Agar NS, Wedgeworth E, Crichton S, et al. Survival outcomes and prognostic factors in mycosis fungoides/sezary syndrome: validation of the revised International Society for Cutaneous Lymphomas/European Organisation for Research and Treatment of Cancer staging proposal. J Clin Oncol. 2010; 28: 4730-4739.