平 成 27 年 10 月 22 日 判 決 言 渡 同 日 原 本 交 付 裁 判 所 書 記 官 平 成 26 年 (ワ) 第 6372 号 不 正 競 争 行 為 差 止 等 請 求 事 件 口 頭 弁 論 終 結 日 平 成 27 年 8 月 20 日 判 当 事 者 の 表 示 主 決 別 紙 当 事 者 目 録 記 載 のとおり 文 原 告 の 請 求 をいずれも 棄 却 する 訴 訟 費 用 は 原 告 の 負 担 とする 事 実 及 び 理 由 第 1 請 求 1 被 告 らは, 別 紙 営 業 秘 密 目 録 に 記 載 された 情 報 を 使 用 して, 業 務 請 負 を 目 的 とした 基 本 契 約, 業 務 請 負 契 約, 労 働 者 派 遣 を 行 うことを 目 的 とした 基 本 契 約 又 は 労 働 者 派 遣 契 約 等 を 締 結 し 又 は 締 結 を 勧 誘 する 行 為 その 他 これらに 付 随 する 営 業 行 為 を 行 ってはならない 2 被 告 らは, 別 紙 営 業 秘 密 目 録 記 載 の 情 報 が 記 載 又 は 記 録 された 一 切 の 資 料 及 びこれに 基 づいて 作 成 された 一 切 の 資 料 を 廃 棄 せよ 3 被 告 らは, 原 告 の 業 務 請 負 契 約 又 は 労 働 者 派 遣 契 約 の 取 引 先 に 対 し, 原 告 の 従 業 員 が 大 量 に 一 斉 退 職 するので 業 務 の 継 続 ができなくなる と 告 知 し てはならない 4 被 告 A( 以 下 被 告 A という )は, 原 告 に 対 し,1000 万 円 及 びこ れに 対 する 訴 状 送 達 の 日 の 翌 日 ( 平 成 26 年 4 月 12 日 )から 支 払 済 みまで 年 5 分 の 割 合 による 金 員 を 支 払 え 5 被 告 らは, 原 告 に 対 し, 連 帯 して,3525 万 5000 円 うち2508 万 円 に 対 する 訴 状 送 達 の 日 の 翌 日 ( 被 告 セントラルソフト 株 式 会 社 ( 以 下 被 告 会 社 という )につき 平 成 26 年 4 月 10 日, 被 告 Aにつき 同 月 12 日 )から,うち500 万 円 に 対 する 同 年 6 月 13 日 付 け 訴 えの 変 更 申 立 書 送 - 1 -
達 の 日 の 翌 日 ( 同 月 21 日 )から,うち517 万 5000 円 に 対 する 平 成 2 7 年 4 月 10 日 付 け 訴 えの 変 更 申 立 書 送 達 の 翌 日 ( 同 月 17 日 )から 各 支 払 済 みまで 年 5 分 の 割 合 による 金 員 を 支 払 え 第 2 事 案 の 概 要 被 告 Aは, 原 告 の 取 締 役 であったが, 退 任 後, 被 告 会 社 に 就 職 した 被 告 Aは, 退 任 に 際 し, 別 紙 営 業 秘 密 目 録 記 載 の 名 刺 帳 3 冊 ( 以 下 本 件 名 刺 帳 と 総 称 する )を 原 告 のオフィスから 持 ち 出 した( 以 下,これを 本 件 持 ち 出 し 行 為 という ) また, 被 告 Aの 退 任 後, 原 告 の 従 業 員 5 名 が 原 告 を 退 職 し, 被 告 会 社 に 就 職 した( 以 下,これを 本 件 転 職 という ) 本 件 持 ち 出 し 行 為 につき, 本 件 名 刺 帳 に 収 納 された 名 刺 に 記 載 された 情 報 は 原 告 の 営 業 秘 密 であり, 被 告 Aがこれを 不 正 に 取 得 して 被 告 会 社 における 営 業 活 動 に 使 用 したことが 被 告 Aにつき 不 正 競 争 防 止 法 ( 平 成 27 年 法 律 第 54 号 による 改 正 前 のもの 以 下 不 競 法 とい う )2 条 1 項 4 号 所 定 の 不 正 競 争 ( 以 下, 同 項 各 号 所 定 の 行 為 を 4 号 の 不 正 競 争 などという )に, 被 告 会 社 につき5 号 の 不 正 競 争 に 当 たり, 又 は 被 告 Aによる 不 法 行 為 が 成 立 すると 主 張 して,1 被 告 らに 対 し, 上 記 情 報 の 使 用 の 差 止 め( 不 競 法 3 条 1 項 ) 及 びこれが 記 載 された 資 料 等 の 廃 棄 ( 同 条 2 項 )を,2 被 告 Aに 対 し, 主 位 的 に 不 競 法 4 条 に 基 づき, 予 備 的 に 民 法 709 条 に 基 づき, 損 害 賠 償 金 1000 万 円 及 び 遅 延 損 害 金 の 支 払 を, 本 件 転 職 につき, 被 告 Aが 原 告 の 従 業 員 を 引 き 抜 いたことが 不 法 行 為 に 当 たり, 被 告 会 社 は 使 用 者 責 任 を 負 うと 主 張 して, 被 告 らに 対 し, 損 害 賠 償 被 告 Aが 被 告 会 社 に 就 職 した 後 に 原 告 の 顧 客 に 対 して 虚 偽 の 事 実 を 告 知 したこと( 以 下, 原 告 の 主 張 する 告 知 行 為 を 本 件 告 知 行 為 という )が 被 告 らによる14 号 の 不 正 競 争 又 は 不 法 行 為 に 当 たると 主 張 して, 被 告 らに 対 し,1 不 競 法 3 条 1 項 に 基 づき, 上 記 事 実 の 告 知 の 差 止 めを,2 主 位 的 に 不 競 法 4 条 に 基 - 2 -
づき, 予 備 的 に 民 法 709 条 ( 被 告 会 社 につき 民 法 715 条 1 項 )に 基 づき, さらに, 被 告 らに 対 し, 上 記 各 不 正 競 争 及 び 不 法 行 為 に 係 る 弁 護 士 費 用 300 万 円 及 び 遅 延 損 害 金 の 連 帯 支 払 を 求 めた 事 案 である 1 前 提 事 実 ( 争 いのない 事 実 並 びに 後 掲 の 各 証 拠 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 により 容 易 に 認 定 することができる 事 実 なお, 書 証 の 枝 番 の 記 載 は 省 略 する 以 下 同 じ ) 当 事 者 ア 原 告 は, 電 子 計 算 機 及 びその 周 辺 機 器 の 据 付 工 事, 保 守 及 び 修 理,ソ フトウェアの 開 発, 設 計, 製 作 及 び 保 守 並 びにそれらに 関 する 労 働 者 派 遣 事 業 等 を 目 的 とする 株 式 会 社 である イ 被 告 会 社 は, 電 子 計 算 機 に 関 する 各 種 システム 調 査, 研 究, 開 発, 販 売 及 び 保 守, 一 般 労 働 者 派 遣 業 等 を 目 的 とする 株 式 会 社 である ウ 被 告 Aは, 昭 和 63 年 7 月 に 原 告 に 入 社 し, 平 成 14 年 6 月 に 原 告 の 取 締 役 に 選 任 され,その 後 常 務 取 締 役, 常 務 執 行 役 員 となり, 平 成 24 年 4 月 12 日 に 常 務 取 締 役 事 業 戦 略 本 部 長 となったが( 執 行 役 員 は 同 月 11 日 限 り 退 任 ), 同 年 6 月 16 日 に 取 締 役 を 退 任 した 被 告 Aは, 同 年 8 月 1 日, 被 告 会 社 に 就 職 した 本 件 名 刺 帳 及 びその 持 ち 出 し( 本 件 持 ち 出 し 行 為 ) ア 本 件 名 刺 帳 は, 被 告 Aが 原 告 の 従 業 員 又 は 取 締 役 としての 在 職 又 は 在 任 中 に 営 業 活 動 等 を 通 じて 受 け 取 った 他 社 の 従 業 員 等 の 名 刺 を, 会 社 名 ア 行 ~サ 行 及 びタ 行 ~ワ 行 並 びに 大 手 取 引 先 3 社 の3 冊 に 分 けて, 会 社 名 の 五 十 音 順 又 は 会 社 ごとに 分 類 して 収 納 したものである 本 件 名 刺 帳 は, 被 告 Aの 在 任 中,その 秘 書 業 務 を 担 当 していた 原 告 従 業 員 の 袖 机 の 引 き 出 し(キャビネット)に 保 管 されていた ( 甲 16,18~20) イ 被 告 Aは, 取 締 役 退 任 の 翌 日 である 平 成 24 年 6 月 17 日 ( 日 曜 日 ) - 3 -
の 早 朝 に 原 告 のオフィスに 赴 き, 上 記 引 き 出 しから 本 件 名 刺 帳 を 取 り 出 して 持 ち 帰 ったが, 同 月 28 日 頃, 原 告 からの 問 合 せを 機 に,これを 原 告 に 返 還 した ( 甲 13,15) 原 告 従 業 員 の 退 職 及 び 被 告 会 社 への 就 職 ( 本 件 転 職 ) 原 告 は, 日 本 ヒューレット パッカード 株 式 会 社 ( 以 下 日 本 HP と いう )から ロイター 業 務 と 呼 ばれる 業 務 を 請 け 負 っていた B,C, D,E 及 びF( 以 下,これら5 名 を Bら5 名 という )は,いずれも 原 告 の 従 業 員 としてロイター 業 務 に 従 事 していたところ,B 以 外 の4 名 は 平 成 25 年 1 月 31 日 に,Bは 同 年 2 月 28 日 に 原 告 をそれぞれ 退 職 し, 各 退 職 の 翌 日 に 被 告 会 社 に 就 職 した 被 告 会 社 における 被 告 Aの 営 業 活 動 被 告 Aは, 平 成 24 年 11 月 20 日 頃,ロイター 業 務 を 担 当 していた 日 本 HPの 従 業 員 G( 以 下 G という )と 面 談 し, 原 告 の 従 業 員 の 退 職 に 関 する 話 をした 2 争 点 本 件 持 ち 出 し 行 為 について ア 本 件 名 刺 帳 の 営 業 秘 密 該 当 性 イ 本 件 持 ち 出 し 行 為 に 係 る 不 法 行 為 の 成 否 ウ 損 害 の 有 無 及 び 額 本 件 転 職 について ア 本 件 転 職 に 係 る 不 法 行 為 の 成 否 イ 損 害 の 有 無 及 び 額 本 件 告 知 行 為 について ア 虚 偽 の 事 実 の 告 知 の 有 無 イ 本 件 告 知 行 為 に 係 る 不 法 行 為 の 成 否 ウ 損 害 の 有 無 及 び 額 - 4 -
弁 護 士 費 用 請 求 の 当 否 3 争 点 に 関 する 当 事 者 の 主 張 本 件 持 ち 出 し 行 為 について ア ( 原 告 の 主 張 ) 本 件 名 刺 帳 は 合 計 2639 枚 の 名 刺 を 収 納 したものであり,これに 記 載 された 情 報 は, 以 下 のとおり, 不 競 法 2 条 6 項 所 定 の 営 業 秘 密 に 該 当 する a 秘 密 管 理 性 原 告 は,オフィスの 出 入 口 に 生 体 認 証 システムを 採 用 していた 本 件 名 刺 帳 を 収 納 していた 引 き 出 しは,そのオフィス 部 分 にあり, 原 告 の 担 当 秘 書 専 用 で, 同 人 以 外 がアクセスすることはなかった 名 刺 帳 の 表 示 とその 外 形 があれば, 誰 の 目 にも 秘 密 情 報 であるこ とは 明 らかであり, 多 数 の 名 刺 が 収 納 された 名 刺 帳 が 秘 密 として 管 理 されなければならないことは, 通 常 の 社 会 人 であれば 常 識 である b 有 用 性 本 件 名 刺 帳 に 収 納 されていたのは 原 告 の 取 引 先, 取 引 見 込 み 顧 客 等 の 名 刺 であり, 会 社 名, 所 属, 氏 名, 住 所, 電 話 番 号 等 が 記 載 さ れている また, 会 社 名 の 五 十 音 順 に( 大 手 3 社 分 は 別 途 整 理 ), 見 開 き2 頁 で20 枚 整 列 して 収 納 されており,そのまま 顧 客 名 簿 と して 使 用 可 能 である そして,これらの 情 報 を 使 用 して, 現 在 の 顧 客 に 対 して 業 務 の 連 絡 を 取 ったり, 取 引 見 込 み 顧 客 に 対 して 営 業 活 動 を 行 ったりすることができるから, 本 件 名 刺 帳 には 有 用 性 がある c 非 公 知 性 本 件 名 刺 帳 に 収 納 された 名 刺 は, 営 業 上 の 必 要 の 範 囲 において 使 用 することを 前 提 に 提 供 するもので,それ 以 外 の 目 的 で 使 用 される - 5 -
こと, 一 般 に 公 表 されることは 予 定 されていない さらに, 上 記 の とおり 整 列 して 本 件 名 刺 帳 に 収 納 された2639 枚 の 名 刺 全 体 とし てみれば, 公 然 と 知 られていない 情 報 である 被 告 Aは, 平 成 24 年 6 月 16 日 に 取 締 役 を 退 任 し, 原 告 のオフィ スに 立 ち 入 る 権 限 を 失 った また, 原 告 は, 同 月 18 日 に 生 体 認 証 シ ステムから 被 告 Aの 情 報 を 抹 消 する 予 定 であった ところが, 被 告 A は,その 抹 消 前 の 日 曜 日 の 早 朝 にオフィスに 侵 入 し, 本 件 名 刺 帳 を 窃 取 した そして, 被 告 Aは, 被 告 会 社 入 社 後 の 同 年 11 月 20 日 頃, 本 件 名 刺 帳 の 情 報 を 利 用 して, 日 本 HPを 訪 れてGに 対 する 営 業 行 為 を 行 った 被 告 Aの 行 為 は, 営 業 秘 密 を 不 正 に 取 得 し, 使 用 したもの であって,4 号 の 不 正 競 争 に 該 当 する 被 告 会 社 は, 原 告 の 営 業 秘 密 が 不 正 に 取 得 されたことを 知 り, 又 は 重 大 な 過 失 により 知 らないで 被 告 Aから 当 該 情 報 を 取 得 し, 被 告 Aを 介 してこれを 使 用 したから,5 号 の 不 正 競 争 が 成 立 する よって, 原 告 は, 被 告 らに 対 し, 不 競 法 3 条 1 項 に 基 づき 本 件 名 刺 帳 に 記 載 された 情 報 の 使 用 の 差 止 めを, 同 条 2 項 に 基 づきこれが 記 載 された 資 料 等 の 廃 棄 を 求 める ( 被 告 らの 主 張 ) 本 件 名 刺 帳 は, 以 下 のとおり, 秘 密 管 理 性, 有 用 性 及 び 非 公 知 性 を 欠 くから, 営 業 秘 密 に 該 当 しない a 社 屋 出 入 口 に 生 体 認 証 システム 等 を 導 入 して 従 業 員 以 外 の 者 が 社 内 に 入 れないようにすることは 一 般 的 であるから, 原 告 が 同 システ ムを 導 入 していたことは 本 件 名 刺 帳 を 秘 密 として 管 理 していたこと を 裏 付 ける 事 情 とならない また, 本 件 名 刺 帳 が 保 管 されていた 引 き 出 しは 施 錠 されておらず, 原 告 の 従 業 員 であれば 誰 でも 取 り 出 す ことができた さらに, 本 件 名 刺 帳 に 秘 密 であることを 示 す 表 示 は - 6 -
なく, 原 告 においては, 名 刺 帳 等 を 秘 密 として 管 理 するようにとの 指 示 も 注 意 喚 起 もされていなかった b 本 件 名 刺 帳 に 収 納 された 名 刺 は 被 告 Aが 自 らの 業 務 の 過 程 で 収 集 したものであり, 原 告 はその 存 在 すら 認 識 していなかった 原 告 は 現 在 の 顧 客 の 連 絡 先 は 当 然 把 握 していたし, 見 込 み 客 に 対 して 営 業 活 動 を 行 うために 本 件 名 刺 帳 を 活 用 することもなかった c 本 件 名 刺 帳 に 収 納 された 名 刺 にはごく 一 般 的 な 事 項 が 記 載 されて いるにすぎず,どのような 人 物 でも 名 刺 交 換 等 によって 取 得 するこ とができる 被 告 Aが 早 朝 にオフィスに 行 ったのは, 前 日 の 株 主 総 会 において 意 に 沿 わない 退 任 をさせられた 気 まずさから,なるべく 他 の 従 業 員 に 会 わない 時 間 帯 を 選 んだためである 退 職 後 の 従 業 員 等 が 会 社 からの 貸 与 物 を 返 却 したり 私 物 を 回 収 したりするために 会 社 を 訪 れるのは 当 然 に 予 定 された 行 為 であり,このような 合 理 的 な 理 由 があればオフィス への 立 入 りも 許 される また, 被 告 Aは,コピーを 取 ることなく 本 件 名 刺 帳 を 原 告 に 返 却 しており, 本 件 名 刺 帳 の 情 報 を 使 用 したこともな い したがって, 本 件 持 ち 出 し 行 為 について4 号 又 は5 号 の 不 正 競 争 は 成 立 しない イ ( 原 告 の 主 張 ) 本 件 名 刺 帳 に 収 納 された 名 刺 は, 被 告 Aが 原 告 の 取 締 役 の 地 位 にある 期 間 中, 職 務 執 行 の 過 程 で, 原 告 の 取 締 役 としての 名 刺 と 交 換 に 収 集 さ れたものであるから,その 所 有 権 は 原 告 に 属 する また, 本 件 名 刺 帳 は, 原 告 のオフィス 内 に 保 管 されていたから, 原 告 に 占 有 がある - 7 -
本 件 持 ち 出 し 行 為 は 不 法 行 為 に 該 当 する ( 被 告 Aの 主 張 ) 本 件 名 刺 帳 に 収 納 された 名 刺 は 被 告 Aが 独 自 の 判 断 で 収 集 し, 保 管 し たものであり, 原 告 から 指 示 を 受 けたりしていない また, 原 告 は 本 件 名 刺 帳 の 存 在 を 把 握 しておらず, 原 告 の 就 業 規 則 上, 従 業 員 等 が 集 めた 名 刺 の 所 有 権 が 原 告 に 帰 属 するとの 定 めもない 本 件 名 刺 帳 に 収 納 され た 名 刺 は 被 告 Aの 所 有 物 であり, 本 件 持 ち 出 し 行 為 は 窃 取 に 当 たらない ウ ( 原 告 の 主 張 ) 本 件 名 刺 帳 の 価 値 は, 以 下 のとおり,1025 万 4970 円 を 下 らな い 2639 枚 3 枚 (1 回 の 面 談 で 取 得 する 平 均 枚 数 ) 2 時 間 (1 回 の 名 刺 交 換 に 要 する 時 間 )=1759 時 間 (2639 枚 の 名 刺 入 手 に 要 する 時 間 ) 100 万 円 ( 被 告 Aの 在 任 中 の 平 均 月 収 ) 171.5 時 間 (1か 月 の 所 定 労 働 時 間 )=5830 円 5830 円 1759 時 間 =1025 万 4970 円 よって, 原 告 は, 被 告 Aに 対 し, 上 記 のうち1000 万 円 及 びこれに 対 する 不 正 競 争 又 は 不 法 行 為 の 後 である 訴 状 送 達 の 日 の 翌 日 から 支 払 済 みまで 民 法 所 定 の 年 5 分 の 割 合 による 遅 延 損 害 金 の 支 払 を 求 める ( 被 告 Aの 主 張 ) 争 う 本 件 転 職 について ア ( 原 告 の 主 張 ) 被 告 Aは,ロイター 業 務 に 従 事 していた 原 告 の 従 業 員 に 対 し, 被 告 - 8 -
会 社 の 通 常 の 採 用 手 続 によることなく, 被 告 会 社 の 会 社 説 明 会 を 開 催 し, 自 ら 採 用 面 接 を 行 う,Bを 介 して 勧 誘 するなどしてBら5 名 を 引 き 抜 き, 被 告 会 社 に 入 社 させた 被 告 Aによる 引 き 抜 き 行 為 は, 原 告 に 対 する 害 意 をもって, 競 業 避 止 義 務 に 反 して 行 われ, 社 会 的 相 当 性 の 範 囲 を 逸 脱 したものであるから, 不 法 行 為 に 該 当 する 被 告 Aによる 引 き 抜 き 行 為 は 被 告 会 社 の 業 務 に 関 するものであるの で, 被 告 会 社 はこれにつき 使 用 者 責 任 を 負 う ( 被 告 らの 主 張 ) Bら5 名 は,いずれも 原 告 における 待 遇 に 不 満 を 持 っており, 各 自 の 意 思 で 原 告 を 辞 め, 被 告 会 社 に 就 職 したものである 被 告 Aは,Bから 転 職 について 相 談 を 受 け, 他 にも 転 職 を 希 望 する 原 告 従 業 員 がいたこと から 会 社 説 明 会 を 開 催 したのであり,Bら5 名 に 対 する 引 き 抜 き 行 為 を していない イ ( 原 告 の 主 張 ) 被 告 Aの 引 き 抜 き 行 為 により, 原 告 はBら5 名 が 転 職 しなかった 場 合 に 得 られた 利 益 相 当 額 の 損 害 を 被 った その 額 は,1 人 につき 月 34 万 5000 円 (ロイター 業 務 担 当 従 業 員 1 人 当 たりの1か 月 の 平 均 売 上 金 75 万 円 原 告 の 利 益 率 46%)であるので, 平 成 25 年 2 月 ~ 平 成 2 6 年 2 月 分 が2208 万 円 (B 以 外 の4 名 につき 各 13か 月,Bにつき 12か 月 の 合 計 64か 月 分 ), 同 年 3 月 ~5 月 分 が517 万 5000 円 (Bら5 名 につき 合 計 15か 月 分 )となる よって, 原 告 は, 被 告 らに 対 し, 上 記 の 合 計 2725 万 5000 円 及 びこれに 対 する 不 法 行 為 の 後 である 訴 状 送 達 の 日 の 翌 日 ( 平 成 26 年 2 月 分 まで) 又 は 平 成 27 年 4 月 10 日 付 け 訴 えの 変 更 申 立 書 送 達 の 翌 日 ( 同 年 3 月 分 以 降 )から 各 支 払 済 みまで 民 法 所 定 の 年 5 分 の 割 合 による - 9 -
遅 延 損 害 金 の 連 帯 支 払 を 求 める なお, 上 記 主 張 が 認 められないとしても, 原 告 の 損 害 額 は, 少 なくと も 以 下 のとおり1884 万 8768 円 となる 4771 万 8445 円 ( 平 成 24 年 4 月 ~ 平 成 25 年 1 月 にロイタ ー 業 務 で 得 た 原 告 の 利 益 ) 20 名 (ロイター 業 務 担 当 者 ) 10 か 月 =23 万 8592 円 (1 人 1か 月 当 たりの 逸 失 利 益 ) 23 万 8592 円 (64か 月 +15か 月 )=1884 万 8768 円 ( 被 告 らの 主 張 ) 争 う 本 件 告 知 行 為 について ア ( 原 告 の 主 張 ) 被 告 Aは, 平 成 24 年 11 月 20 日 頃, 日 本 HPの 購 買 担 当 のGに 対 し, 12 月 賞 与 支 給 後 に, 原 告 のロイター 業 務 担 当 の 従 業 員 が 大 量 に 一 斉 退 職 するので 業 務 の 継 続 ができなくなる 旨 の 事 実 を, 具 体 的 な 原 告 従 業 員 の 氏 名 を 挙 げて 告 知 した しかし, 一 斉 退 職 及 び 業 務 の 継 続 不 可 能 という 事 実 はいずれも 存 在 しないから, 被 告 Aが 告 知 し た 事 実 は 虚 偽 であって, 原 告 の 営 業 上 の 信 用 を 害 するものである したがって, 被 告 Aによる 本 件 告 知 行 為 は14 号 の 不 正 競 争 に 該 当 する 本 件 告 知 行 為 は 被 告 会 社 が 被 告 Aにさせたものということができる から, 被 告 会 社 についても14 号 の 不 正 競 争 が 成 立 する よって, 原 告 は, 被 告 らに 対 し, 不 競 法 3 条 1 項 に 基 づき, 上 記 虚 偽 の 事 実 を 告 知 することの 差 止 めを 求 める ( 被 告 らの 主 張 ) - 10 -
被 告 Aは, 日 本 HPのGに 対 して, 原 告 のロイター 業 務 担 当 の 従 業 員 が 退 職 する 可 能 性 がある 旨 の 話 はしたが, 原 告 の 業 務 の 継 続 ができなく なるなどといった 発 言 はしていない イ ( 原 告 の 主 張 ) 被 告 Aは, 原 告 の 執 行 役 員 であったから, 執 行 役 員 規 程 に 基 づき, 競 業 行 為 を 行 ってはならない 義 務 を 負 う 上 記 アの 虚 偽 事 実 の 告 知 は 競 業 避 止 義 務 に 違 反 し, 不 法 行 為 に 該 当 する また, 被 告 会 社 はこれにつき 使 用 者 責 任 を 負 う ( 被 告 らの 主 張 ) 争 う ウ ( 原 告 の 主 張 ) 原 告 は 本 件 告 知 行 為 によって 営 業 上 の 信 用 を 害 された その 損 害 額 は 500 万 円 を 下 回 らない よって, 原 告 は, 被 告 らに 対 し,500 万 円 及 びこれに 対 する 不 正 競 争 又 は 不 法 行 為 の 後 である 平 成 26 年 6 月 13 日 付 け 訴 えの 変 更 申 立 書 送 達 の 日 の 翌 日 から 支 払 済 みまで 民 法 所 定 の 年 5 分 の 割 合 による 遅 延 損 害 金 の 連 帯 支 払 を 求 める ( 被 告 らの 主 張 ) 争 う ( 原 告 の 主 張 ) 原 告 は 本 件 訴 訟 の 遂 行 を 弁 護 士 に 依 頼 した その 弁 護 士 費 用 の 額 は3 00 万 円 を 下 回 らない よって, 原 告 は, 被 告 らに 対 し,300 万 円 及 びこれに 対 する 不 正 競 - 11 -
争 又 は 不 法 行 為 の 後 である 訴 状 送 達 の 日 の 翌 日 から 支 払 済 みまで 民 法 所 定 の 年 5 分 の 割 合 による 遅 延 損 害 金 の 連 帯 支 払 を 求 める ( 被 告 らの 主 張 ) 争 う 第 3 当 裁 判 所 の 判 断 1 前 記 前 提 事 実 に 加 え, 証 拠 ( 甲 1,2,10,16,18~21,26, 乙 6, 証 人 I, 被 告 A 本 人 ) 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば, 以 下 の 事 実 が 認 められる ア 原 告 は 資 本 金 約 8 億 円 の 株 式 会 社 であり, 従 業 員 数 は400~450 名 程 度 である 原 告 のオフィスのあるビルへの 入 館 にはカードキーが 必 要 であり,さらに,オフィス 部 分 の 入 口 には 生 体 認 証 システムが 設 けら れ, 入 室 が 制 限 されていたものの,オフィス 内 に 従 業 員 が 立 ち 入 れない 箇 所 は 特 段 定 められていなかった 本 件 名 刺 帳 は 被 告 Aの 秘 書 業 務 を 担 当 する 従 業 員 の 袖 机 の 引 き 出 しに 保 管 されていたが,この 引 き 出 しは 施 錠 されていなかった イ 本 件 名 刺 帳 は 市 販 の 名 刺 ホルダーを 使 用 したものであり, 表 紙 及 び 背 表 紙 に 名 刺 帳 と 記 載 され, 背 表 紙 に 別 紙 営 業 秘 密 目 録 添 付 の 各 別 紙 のとおり 会 社 名 の 頭 文 字 等 が 明 記 されていたが, 秘 の 文 字 その 他 秘 密 情 報 であることを 示 す 表 示 は 付 されていなかった ウ 原 告 は, 従 業 員 又 は 取 締 役 が 業 務 上 入 手 した 名 刺 の 管 理 や 処 分 につき, 就 業 規 則 等 に 定 めを 置 いておらず, 従 業 員 らに 対 しこの 点 に 関 する 指 示 をすることもなかった 被 告 Aは, 取 引 先 等 から 受 領 した 名 刺 を 上 記 秘 書 業 務 を 担 当 する 従 業 員 に 管 理 させており, 同 従 業 員 は, 被 告 Aの 指 示 に 従 い, 被 告 Aから 手 渡 された 名 刺 を 会 社 名 で 分 類 して 本 件 名 刺 帳 に 収 納 していた 本 件 名 刺 帳 に 収 納 されていたのは 被 告 Aが 入 手 した 名 刺 の - 12 -
みであり, 原 告 の 顧 客 リストは 別 途 作 成 されていた エ 原 告 は, 従 業 員 又 は 取 締 役 が 退 職 又 は 退 任 する 際, 業 務 上 入 手 した 名 刺 を 残 置 するよう 指 示 したことはなく,その 処 分 は 当 該 従 業 員 等 に 任 せ ていた 被 告 Aの 取 締 役 退 任 に 当 たっても, 本 件 名 刺 帳 を 持 ち 出 さない よう 求 めることはなかった 技 術 上 又 は 営 業 上 の 情 報 が 不 競 法 上 の 営 業 秘 密 として 保 護 されるために は, 当 該 情 報 が 秘 密 として 管 理 され, 事 業 活 動 に 有 用 であって,かつ, 公 然 と 知 られていないことを 要 する( 不 競 法 2 条 6 項 ) 原 告 は, 本 件 名 刺 帳 に 収 納 された 名 刺 に 記 載 された 情 報 が 原 告 の 営 業 秘 密 に 当 たる 旨 主 張 するが, 名 刺 は 他 人 に 対 して 氏 名, 会 社 名, 所 属 部 署, 連 絡 先 等 を 知 らせることを 目 的 として 交 付 されるものであるから,その 性 質 上,これに 記 載 された 情 報 が 非 公 知 であると 認 めることはできない な お, 守 秘 義 務 を 負 うべき 状 況 下 で 特 定 の 者 に 対 して 名 刺 を 手 交 するような 場 合 には,その 記 載 内 容 が 非 公 知 性 を 有 することもあり 得 ようが, 本 件 に おいてそのような 事 情 は 見 当 たらない また, 本 件 名 刺 帳 に 収 納 された2639 枚 の 名 刺 を 集 合 体 としてみた 場 合 には 非 公 知 性 を 認 める 余 地 があるとしても, 本 件 名 刺 帳 は, 上 記 認 定 事 実 によれば, 被 告 Aが 入 手 した 名 刺 を 会 社 別 に 分 類 して 収 納 したにとどま るのであって, 当 該 会 社 と 原 告 の 間 の 取 引 の 有 無 による 区 別 もなく, 取 引 内 容 ないし 今 後 の 取 引 見 込 み 等 に 関 する 記 載 もなく,また, 古 い 名 刺 も 含 まれ, 情 報 の 更 新 もされていないものと 解 される( 甲 16 参 照 ) これに 加 え, 原 告 においては 顧 客 リストが 本 件 名 刺 帳 とは 別 途 作 成 されていたと いうのであるから, 原 告 がその 事 業 活 動 に 有 用 な 顧 客 に 関 する 営 業 上 の 情 報 として 管 理 していたのは 上 記 顧 客 リストであったというべきである そ うすると, 名 刺 帳 について 顧 客 名 簿 に 類 するような 有 用 性 を 認 め 得 る 場 合 があるとしても, 本 件 名 刺 帳 については, 有 用 性 があると 認 めることはで - 13 -
きない さらに, 上 記 認 定 事 実 によれば, 原 告 においては, 従 業 員 又 は 取 締 役 が 業 務 上 入 手 した 名 刺 の 管 理 や 処 分 につき 就 業 規 則 等 に 定 めを 置 いておらず, 従 業 員 等 に 対 しこの 点 に 関 する 指 示 をすることもなかったというのである から, 上 記 顧 客 リストの 記 載 とは 別 に 従 業 員 等 が 所 持 する 名 刺 については, その 処 分 を 従 業 員 等 に 委 ねていたと 認 めるのが 相 当 である 本 件 名 刺 帳 は, 上 記 認 定 の 収 納 及 び 管 理 の 状 況 に 照 らせば, 被 告 Aが 原 告 から 処 分 を 委 ね られた 名 刺 を 単 に 自 己 の 営 業 活 動 等 のために 整 理 していたにすぎないもの というべきであり, 原 告 が 管 理 していたとみることはできない また, 原 告 による 管 理 を 認 め 得 るとしても, 本 件 名 刺 帳 が 保 管 された 引 き 出 しは 施 錠 されておらず, 秘 密 とする 旨 の 表 示 もなかったというのであるから, 秘 密 管 理 性 を 認 めることは 困 難 である 以 上 によれば, 本 件 名 刺 帳 を 営 業 秘 密 ということはできないから,4 号 又 は5 号 の 不 正 競 争 をいう 原 告 の 主 張 は 失 当 と 解 すべきである 2 原 告 は, 本 件 持 ち 出 し 行 為 につき, 不 正 競 争 の 成 立 が 認 められないとして も, 不 法 行 為 に 当 たる 旨 主 張 する 含 め 退 職 又 は 退 任 する 従 業 員 及 び 取 締 役 に 対 し, 業 務 上 受 領 した 名 刺 の 管 理 や 処 分 について 特 段 の 指 示 をしていなかったというのであり, 被 告 Aは, 本 件 名 刺 帳 につき 原 告 が 何 ら 関 心 を 払 っていなかったので, 取 締 役 退 任 に 際 し 自 らが 収 集 した 名 刺 を 持 ち 帰 ったとみることができる また, 前 記 前 提 事 実 ており, 本 件 持 ち 出 し 行 為 により 原 告 に 何 らかの 損 害 が 生 じたとうかがわせ る 証 拠 はない 本 件 における 以 上 の 事 情 の 下 では, 本 件 持 ち 出 し 行 為 が 不 法 行 為 に 当 たることはないと 解 すべきである - 14 -
3 前 記 前 提 事 実 に 加 え, 証 拠 ( 甲 10,29,34, 乙 1~6, 証 人 I, 同 J, 同 B, 被 告 A 本 人 ) 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば, 以 下 の 事 実 が 認 め られる ア 原 告 の 従 業 員 数 は400~450 名 程 度 であるが, 離 職 率 が 高 く, 平 成 24 年 には 年 初 従 業 員 448 名 のうち80 名 が, 平 成 25 年 には 同 4 06 名 のうち57 名 が 退 職 した 原 告 の 経 営 陣 の 中 には, 勤 続 年 数 が1 5 年 以 上 の 従 業 員 に 対 してハローワークに 行 くよう 指 示 するなど, 従 業 員 が 漫 然 と 長 期 間 勤 続 することに 否 定 的 な 考 え 方 があった Bら5 名 は, 原 告 における 従 業 員 の 処 遇 に 不 満 を 抱 き, 将 来 に 不 安 を 感 じており, 機 会 があれば 転 職 したいと 考 えていた イ 原 告 は, 日 本 HPからロイター 業 務 を 請 け 負 っており, 平 成 24 年 4 月 頃 には20 名 前 後 の 人 員 をこれに 充 てていた なお,ロイター 業 務 と は, 日 本 HPがロイター 社 から 受 託 した 金 融 機 関 向 けトレーディングシ ステムの 配 信 システムの 設 置, 保 守 等 の 業 務 をいう Bら5 名 はいずれ もロイター 業 務 の 担 当 であり,Bは, 平 成 22 年 7 月 以 降,ロイター 業 務 の 責 任 者 を 務 めていた ウ 日 本 HPは, 平 成 24 年 7 月 頃, 原 告 に 対 し,ロイター 社 からの 受 託 業 務 の 減 少 に 伴 い, 原 告 に 委 託 しているロイター 業 務 を 縮 小 すると 申 し 入 れた Bは,この 頃,その 話 を 聞 き,ロイター 業 務 に 従 事 する 人 員 が 削 減 されるものと 考 え,これを 機 に 転 職 することを 決 意 した そして, かつての 上 司 であり, 原 告 を 退 任 して 間 もない 被 告 Aに 転 職 について 相 談 したところ, 被 告 A( 当 時 は 被 告 会 社 への 就 職 前 であった )は 慎 重 に 考 えるようにと 助 言 した エ Bは,その 後 も 被 告 Aに 数 回 転 職 の 相 談 をし,その 中 で, 被 告 Aが 就 職 した 被 告 会 社 を 転 職 先 の 一 つと 考 えるようになった Bは,また,ロ - 15 -
イター 業 務 を 担 当 する 原 告 の 従 業 員 らに,ロイター 業 務 が 縮 小 されるこ と 及 び 自 分 が 転 職 を 考 えていることを 告 げた 上 記 従 業 員 らの 中 には, 自 らも 転 職 を 希 望 しているとして,Bにその 旨 を 話 すものがいた Bは, 被 告 Aに 対 し, 自 らの 転 職 先 候 補 の 一 つとして 被 告 会 社 を 挙 げるととも に, 自 分 以 外 にも 転 職 希 望 者 がいるので, 被 告 会 社 の 会 社 説 明 会 を 開 い てほしいと 希 望 した 被 告 Aは, 被 告 会 社 のネットワーク3 部 の 部 長 職 にあり, 従 業 員 の 採 用 を 決 定 する 立 場 になかったが, 人 事 関 係 の 担 当 者 と 協 議 をして 会 社 説 明 会 を 開 催 することとし,その 日 時 等 をBに 伝 えた オ 同 年 11 月 頃, 被 告 会 社 において 会 社 説 明 会 が 開 催 され,Bら5 名 を 含 む10 名 弱 の 原 告 従 業 員 が 参 加 した 被 告 会 社 側 の 出 席 者 は 被 告 A 及 びその 上 司 らであり, 被 告 会 社 の 概 要 や 業 務 内 容 等 の 説 明 がされた そ の 後, 会 社 説 明 会 参 加 者 のうち 就 職 を 希 望 する 者 に 対 する 個 別 の 面 接 が 行 われ, 被 告 Aもこれに 携 わった カ Bら5 名 のうちB 以 外 は 平 成 25 年 1 月 末 に,Bは 同 年 2 月 末 に 原 告 を 退 職 し, 被 告 会 社 に 就 職 した 原 告 においてはロイター 業 務 の 縮 小 に 伴 い 担 当 者 を 削 減 することが 予 定 されており,Bら5 名 の 退 職 により 業 務 に 支 障 が 生 じることはなかった 原 告 は, 平 成 26 年 5 月 末 頃,ロイ ター 業 務 を 終 了 した 他 方,Bら5 名 は, 被 告 会 社 においてロイター 社 の 業 務 を 担 当 していない 上 記 認 定 事 実 によれば,Bら5 名 は,かねてから 原 告 での 勤 務 に 不 満 を 感 じていたところ,ロイター 業 務 の 縮 小 を 機 に 転 職 を 決 意 し, 原 告 を 退 職 して 被 告 会 社 に 就 職 したものであり, 被 告 Aは,その 過 程 で,Bからの 相 談 に 乗 り,Bの 希 望 に 応 じて 会 社 説 明 会 を 開 催 し, 被 告 会 社 の 管 理 職 とし て 採 用 面 接 に 関 与 したにとどまるということができる そうすると, 本 件 転 職 はBら5 名 が 各 自 の 意 思 に 基 づいて 行 ったとみるべきものであって, 被 告 Aによる 不 法 行 為 は 成 立 しないと 判 断 するのが 相 当 である - 16 -
これに 対 し, 原 告 は, 被 告 AがBら5 名 に 対 して 社 会 的 相 当 性 の 範 囲 を 逸 脱 した 引 き 抜 き 行 為 を 行 った 旨 主 張 するが, 本 件 の 証 拠 上, 被 告 AがB ら5 名 に 対 し 積 極 的 に 転 職 を 働 きかけたといった 事 実 は 認 められない し たがって, 原 告 の 上 記 主 張 を 採 用 することはできない 4 前 記 前 提 事 実, 証 拠 ( 甲 22,23, 乙 6, 証 人 J, 被 告 A 本 人 ) 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 によれば, 以 下 の 事 実 が 認 められる ア 被 告 Aは, 平 成 24 年 9 月 頃, 転 職 の 挨 拶 をするため, 原 告 在 籍 中 に 世 話 になった 日 本 HPのGを 訪 問 した 被 告 Aは,Gから 被 告 Aの 退 任 による 影 響 について 尋 ねられた 際, 今 後 原 告 を 退 職 する 従 業 員 が 何 人 か いるかもしれない 旨 話 した Gは, 退 職 の 話 が 具 体 的 になったら 連 絡 し てほしい 旨 頼 んだ イ 被 告 Aは, 前 記 会 社 説 明 会 開 催 の 前 後 である 同 年 11 月 20 日 頃, 日 本 HPのGを 訪 問 し,Bら5 名 のうち 一 部 の 実 名 を 挙 げて,ロイター 業 務 を 担 当 している 原 告 の 従 業 員 が 複 数 退 職 する 可 能 性 がある 旨 伝 えた Gは,その 直 後 に 原 告 に 電 話 連 絡 を 取 り, 原 告 の 執 行 役 員 と 面 談 して, ロイター 業 務 担 当 の 従 業 員 が 大 量 に 退 職 するとの 情 報 があり,そうであ るとすれば 業 務 の 継 続 ができないリスクになると 考 えられるので, 事 実 関 係 を 調 査 してほしいと 要 望 した 原 告 は, 上 記 の 情 報 は 事 実 無 根 であ り,ロイター 業 務 の 遂 行 に 問 題 はない 旨 回 答 した 上 記 事 実 関 係 によれば, 被 告 AはGに 対 して ロイター 業 務 を 担 当 する 原 告 の 従 業 員 が 複 数 退 職 する 可 能 性 がある 旨 の 事 実 を 告 知 したにとどま とは 認 められない したがって, 被 告 Aの 行 為 が14 号 の 不 正 競 争 に 当 た るということはできない これに 対 し, 原 告 は, 被 告 AがGに 対 し 原 告 のロイター 業 務 担 当 の 従 - 17 -
業 員 が 大 量 に 一 斉 退 職 するので 業 務 の 継 続 ができなくなる 旨 発 言 したと 主 張 する しかし, 原 告 が 主 張 の 根 拠 とする 証 拠 ( 甲 10,22~25, 28, 証 人 I, 同 J)のうち 被 告 Aが 上 記 の 発 言 をしたとの 部 分 はいずれ も 伝 聞 ないし 推 測 に 基 づくものであり,これにより 被 告 Aの 発 言 内 容 を 認 メール( 甲 22) 中 のGからの 入 電 内 容 に 関 する 記 載 によれば, 業 務 の 継 続 ができなくなる との 部 分 は,Gが 被 告 Aから 聞 いた 話 ではなく,G が 考 えた 事 項 を 原 告 に 伝 えたものと 認 めることが 相 当 である したがって, 原 告 の 上 記 主 張 を 採 用 することはできない 5 原 告 は, 本 件 告 知 行 為 につき,14 号 の 不 正 競 争 に 当 たらないとしても 不 法 行 為 が 成 立 する 旨 主 張 する しかし, 原 告 の 主 張 は, 被 告 Aが 原 告 主 張 の 発 言 をしたことを 前 提 とするものであるところ,そのような 発 言 をしたと 認 められないことは 上 記 4のとおりである したがって, 不 法 行 為 をいう 原 告 の 主 張 も 失 当 と 解 すべきである 第 4 結 論 以 上 によれば, 原 告 の 請 求 はその 余 の 点 について 判 断 するまでもなくいず れも 理 由 がないから, 主 文 のとおり 判 決 する 東 京 地 方 裁 判 所 民 事 第 46 部 裁 判 長 裁 判 官 長 谷 川 浩 二 裁 判 官 清 野 正 彦 裁 判 官 藤 原 典 子 - 18 -
別 紙 当 事 者 目 録 東 京 都 品 川 区 < 以 下 略 > 原 告 日 本 サード パーティ 株 式 会 社 同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 津 留 崎 裕 小 林 深 志 久 保 田 智 史 日 野 修 男 東 京 都 千 代 田 区 < 以 下 略 > 被 告 セントラルソフト 株 式 会 社 東 京 都 府 中 市 < 以 下 略 > 被 告 A 上 記 両 名 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 武 藤 功 渡 邊 淳 子 相 良 恵 美 牧 野 盛 匡 新 谷 紀 之 前 川 理 佐 坪 川 哲 也 粂 井 範 之 - 19 -
別 紙 営 業 秘 密 目 録 1 名 刺 帳 1( 別 紙 1のとおり)に 収 納 された 会 社 名 の ア 行 ~サ 行 の 名 刺 1095 枚 2 名 刺 帳 2( 別 紙 2のとおり)に 収 納 された 会 社 名 の タ 行 ~ワ 行 の 名 刺 931 枚 3 名 刺 帳 3( 別 紙 3のとおり)に 収 納 された 原 告 取 引 先 3 社 の 名 刺 613 枚 上 記 各 名 刺 帳 に 収 納 された 名 刺 合 計 2639 枚 に 記 載 された 会 社 名 部 署 役 職 氏 名 会 社 住 所 電 話 番 号 ファクシミリ 番 号 電 子 メールアドレ ス 以 上 - 20 -