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Transcription:

第 2 章 ロシアの 影 響 圏 的 発 想 と 北 極 極 東 地 域 兵 頭 慎 治 はじめに 1991 年 にソ 連 邦 が 崩 壊 して 20 年 以 上 が 経 過 したが 21 世 紀 の 今 日 において ロシア 連 邦 の 領 土 が 拡 張 されるとは 誰 が 予 測 できたであろうか ロシアによるクリミア 編 入 は 実 力 行 使 により 現 状 変 更 を 迫 るという 既 存 の 国 際 秩 序 への 挑 戦 であり ポスト 冷 戦 時 代 の 終 わりを 予 兆 させる 出 来 事 となった 1991 年 のソ 連 解 体 によりロシアは 領 土 の 縮 小 を 余 儀 なくされたが ヴラジーミル プー チン 大 統 領 (Vladimir Putin)は 国 際 社 会 からの 孤 立 や 欧 米 からの 制 裁 を 恐 れることなく あっさりとクリミア 編 入 に 踏 み 切 った この 背 景 には 自 らの 縄 張 りともいえる 影 響 圏 というロシア 独 自 の 安 全 保 障 観 がある それは 政 治 的 経 済 的 な 思 考 とは 異 なるロシア 独 自 の 安 全 保 障 的 な 発 想 である ウクライナ 危 機 は 国 際 社 会 に 対 して ロシアの 影 響 圏 的 発 想 がいかに 強 固 であるかを 知 らしめたといえるであろう ロシアの 影 響 圏 から 離 脱 し ようとするウクライナに ロシアが 過 剰 なまでに 介 入 しようとする 理 由 がここにある こうした 問 題 意 識 に 基 づき 本 稿 は ウクライナ 危 機 にみられるロシアの 影 響 圏 的 発 想 の 特 徴 を 軍 事 面 から 整 理 するとともに バルト 3 国 を 除 いた 旧 ソ 連 地 域 における 地 上 影 響 圏 に 加 えて ロシアは 北 極 極 東 地 域 を 新 たな 洋 上 影 響 圏 と 見 なし 始 めているの ではないかという 仮 説 を 提 示 するものである 1. 軍 事 面 から 見 たロシアの 影 響 圏 的 発 想 ロシアの 影 響 圏 の 中 でも ウクライナは 最 重 要 の 存 在 である 歴 史 的 に キエフ 公 国 がロシアの 起 源 とされ ロシアのアイデンティティはウクライナ 抜 きには 語 れない しかも クリミア 編 入 に 関 する 2014 年 3 月 18 日 の 演 説 で プーチン 大 統 領 は クリミア はロシアの 固 有 領 土 (Крым это исконно русская земля) と 明 言 したように 1 クリミア 半 島 はソ 連 時 代 には 当 時 のロシア 共 和 国 ( 現 在 のロシア 連 邦 )に 属 していた 2 しかも クリミア 半 島 は 黒 海 の 制 海 権 を 握 る 地 政 学 的 に 重 要 な 場 所 であり ロシアは 年 間 9,800 万 ドル( 約 100 億 円 )を 支 払 って 黒 海 艦 隊 の 司 令 部 があるセヴァストポリを 2042 年 まで 借 り 受 けていた プーチンがクリミア 編 入 を 急 いだ 背 景 には 次 期 大 統 領 選 挙 で 親 欧 米 政 権 が 発 足 すれば 将 来 的 なウクライナの 北 大 西 洋 条 約 機 構 (NATO) 加 盟 と 黒 海 艦 隊 撤 退 の 可 能 性 が 高 まるからである 3 月 18 日 の 演 説 でも プーチン 大 統 領 は ロシアの 偉 大 な 軍 -31-

事 都 市 に NATO の 軍 艦 が 出 現 することはロシアにとって 脅 威 であると 述 べている 3 タタールのくびきと 呼 ばれる2 世 紀 以 上 に 及 ぶモンゴル 支 配 や ナポレオンやナチスに よる 度 重 なる 侵 攻 に 苦 しんだロシアは その 後 200%の 安 全 保 障 を 追 求 し 自 国 の 周 囲 に は 国 防 上 の 緩 衝 地 帯 が 不 可 欠 と 考 えるようになった ロシア 人 にとっては 70 年 近 く 同 一 国 家 を 構 成 していた 旧 ソ 連 地 域 は 影 響 圏 というよりも 失 われた 国 土 でしかない ロシアの 影 響 圏 発 想 の 源 には ロシア 連 邦 軍 事 ドクトリン( 以 下 軍 事 ドクトリン) と 呼 ばれるロシアの 軍 事 戦 略 が 存 在 する 2010 年 2 月 5 日 に 改 定 された 軍 事 ドクトリン の 特 徴 として イスラム 過 激 勢 力 によるテロリズムという 新 しいタイプの 非 伝 統 的 な 脅 威 より グルジア 紛 争 のような 国 家 間 紛 争 という 伝 統 的 な 脅 威 への 対 処 をより 重 視 している 点 が 指 摘 される 2005 年 にプーチン 大 統 領 ( 当 時 )が 軍 事 ドクトリン の 改 定 を 指 示 した 際 に 当 時 安 全 保 障 上 最 も 重 視 されたイスラム 過 激 勢 力 によるテロリズム への 対 処 を 新 文 書 にどのように 反 映 させるかが 課 題 とされた しかしながら 2008 年 8 月 に 隣 国 グルジアと 軍 事 衝 突 が 発 生 したこと 2009 年 4 月 に 約 10 年 に 及 んだ 第 二 次 チェチェ ン 紛 争 の 終 結 が 宣 言 されたことなどから 旧 文 書 と 同 様 に 新 軍 事 ドクトリン において も 引 き 続 き 伝 統 的 な 脅 威 を 重 視 する 姿 勢 が 維 持 された 4 ロシアが 伝 統 的 な 脅 威 を 引 き 続 き 重 視 するようになった 結 果 旧 ソ 連 圏 をロシアの 伝 統 的 影 響 圏 と 見 なす 発 想 が 濃 厚 となった カラー 革 命 や NATO 拡 大 への 反 発 など 欧 米 諸 国 の 影 響 力 が 旧 ソ 連 圏 に 及 ぶことにロシアは 抵 抗 し その 帰 結 としてグルジア 紛 争 が 発 生 した ロシアの 影 響 圏 的 発 想 は これまでは 米 国 の 単 独 行 動 主 義 に 反 発 するロシア の 対 外 行 動 として 現 象 面 からのみ 説 明 されてきた しかし 以 下 で 述 べるように その 行 動 規 範 が 新 軍 事 ドクトリン に 明 記 されたことにより 影 響 圏 的 発 想 に 基 づく 対 外 行 動 が 国 家 の 戦 略 文 書 において 公 式 化 されたのである 新 文 書 において 影 響 圏 的 発 想 を 如 実 に 示 す 主 な 規 定 は 以 下 の 2 つに 集 約 される 第 1 は ロシア ベラルーシ アルメニア カザフスタン キルギス タジキスタン ウズベ キスタンの 7 カ 国 から 成 る 軍 事 協 力 機 構 集 団 安 全 保 障 条 約 機 構 (CSTO) における 集 団 安 全 保 障 体 制 の 強 化 ( 第 18 項 5 ) 及 び CSTO 加 盟 国 に 対 する 武 力 攻 撃 を 全 ての 加 盟 国 に 対 する 侵 略 と 見 なして 対 応 する 集 団 防 衛 ( 第 21 項 )の 規 定 である 近 年 ロシアは CSTO 緊 急 展 開 合 同 軍 の 創 設 も 進 めており CSTO 加 盟 国 内 部 において 自 らの 軍 事 的 求 心 力 を 高 めようと 考 えている 第 2 は ロシア 軍 の 国 外 派 遣 ( 第 26 項 6 )である 2008 年 のグルジア 紛 争 を 踏 まえて 2009 年 11 月 に 国 防 に 関 する 連 邦 法 が 改 正 され ロシアの 国 益 や 自 国 民 保 護 国 際 平 和 と 安 全 のために ロシア 軍 の 国 外 派 遣 を 可 能 とする 法 整 備 が 行 われた 7 この 国 防 法 の 改 -32-

正 を 受 けて 軍 事 ドクトリン においても グルジアなど CSTO に 非 加 盟 の 旧 ソ 連 諸 国 に 対 して 必 要 な 条 件 が 満 たされれば ロシア 軍 が 軍 事 展 開 することが 新 たに 規 定 された 8 改 正 された 国 防 法 によれば 1ロシア 領 外 の 部 隊 への 攻 撃 2ロシアに 対 する 他 国 から の 要 請 3ロシア 領 外 のロシア 国 民 の 保 護 4 海 賊 取 締 船 舶 航 行 の 安 全 確 保 の 場 合 には ロシア 軍 を 国 外 に 派 遣 することが 可 能 となる 実 際 に この 国 防 法 の 規 程 に 従 って 2014 年 3 月 1 日 プーチン 大 統 領 はロシア 議 会 上 院 に 対 してウクライナへの 軍 投 入 を 承 認 する よう 求 めたのである この 法 律 が 整 備 された 2009 年 の 段 階 で ロシア 軍 の 国 外 展 開 を 想 定 していた 地 域 は グルジアに 続 いて NATO 加 盟 の 可 能 性 があるウクライナであったことは 当 時 から 多 くのロシアの 軍 事 専 門 家 が 指 摘 している ただし ロシア 軍 の 国 外 展 開 という 選 択 肢 をロシアが 手 にすることは それ 自 体 を 目 的 とするよりも NATO 加 盟 を 牽 制 する ための 軍 事 的 圧 力 の 1 つと 見 られていた 同 法 律 では 一 般 的 に 認 められている 国 際 法 の 原 則 および 規 範 並 びにロシア 連 邦 が 締 結 する 国 際 条 約 に 従 うことが 条 件 とされており 無 条 件 での 国 外 軍 事 介 入 は 認 められていな い クリミア 半 島 で 軍 事 活 動 を 行 ったのは 自 警 団 であり ロシア 軍 の 国 外 展 開 にはあたら ないとロシアが 主 張 する 背 景 には 一 方 的 な 国 外 軍 事 介 入 が 国 際 法 や 国 連 憲 章 に 反 すると いう 認 識 をロシアが 有 していることを 示 している こうした 影 響 圏 的 発 想 に 大 きな 影 響 を 与 えたのが 安 全 保 障 会 議 事 務 局 において 国 家 安 全 保 障 戦 略 や 軍 事 ドクトリン の 改 訂 作 業 に 携 わった 当 時 のユーリー バルエフス キー(Iurii Baluevskii) 安 全 保 障 会 議 副 書 記 ( 元 ロシア 連 邦 軍 参 謀 総 長 )である 2007 年 3 月 発 行 の 軍 事 専 門 誌 軍 事 思 想 に 掲 載 された 自 らの 論 文 新 軍 事 ドクトリンに 向 けて において バルエフスキーは ロシアにとっての 脅 威 として 1ロシアの 伝 統 的 影 響 圏 に 対 する 米 国 の 影 響 力 拡 大 2NATO のさらなる 拡 大 3エネルギー 供 給 をめぐる 摩 擦 4 国 際 テロリズム 5 民 族 主 義 と 分 離 主 義 6ロシアや 同 盟 国 に 対 する 有 害 な 情 報 活 動 を 掲 げた 9 バルエフスキーは ロシアにとっての 最 大 の 脅 威 が 米 国 の 影 響 力 拡 大 であるとし ロシ アの 国 防 が 対 象 とするのはロシアの 国 境 付 近 だけではなくロシアの 伝 統 的 影 響 圏 であると 主 張 した この 場 合 ロシアの 伝 統 的 影 響 圏 とは 既 に NATO に 加 盟 したバルト3 国 は 除 いた 旧 ソ 連 圏 全 体 を 指 している つまり ロシアが 軍 事 的 影 響 力 を 行 使 し 得 る 範 囲 は CSTO 加 盟 国 のみならず ロシア 軍 の 国 外 派 遣 を 通 じてグルジアやウクライナなどの 非 加 盟 国 にも 拡 大 されることになる 10 この 発 想 に 基 づいて 前 述 したようにロシア 軍 の 国 外 派 遣 を 可 能 にする 国 防 法 の 改 正 が 行 われた このように グルジア 紛 争 以 降 ロシアの 軍 事 戦 略 の 立 案 において バルエフスキーのような 伝 統 的 な 安 全 保 障 を 重 視 する 軍 保 守 派 の -33-

発 言 力 が 高 まり しかも 彼 らの 主 張 が 新 文 書 に 色 濃 く 反 映 されたことが 確 認 される 11 2.ロシアの 影 響 圏 に 進 出 する NATO と 中 国 軍 事 ドクトリン において ロシアの 影 響 圏 への 侵 入 者 と 見 なしているのが 米 国 率 いる NATO である 冷 戦 終 結 後 NATO は 3 度 にわたり 拡 大 し 2004 年 にはついに 旧 ソ 連 のバルト 3 国 を 呑 み 込 み ロシアの 飛 び 地 カリニングラード 州 は NATO 加 盟 国 に 包 囲 され た 冷 戦 時 代 の 西 側 の 軍 事 同 盟 がソ 連 解 体 後 も 存 続 し ロシアの 影 響 圏 内 で 膨 張 すること は 冷 戦 の 敗 者 たるロシアからすれば 屈 辱 以 外 の 何 物 でもない しかも 冷 戦 終 結 直 前 に NATO 不 拡 大 を 条 件 にゴルバチョフが 統 一 ドイツの NATO 入 りを 認 めたといわれており 欧 米 がこの 約 束 を 反 故 にしたとプーチン 大 統 領 は 批 判 している そのプーチンは 9.11 事 件 直 後 に ロシアの 影 響 圏 である 中 央 アジアへの 米 軍 駐 留 を 自 ら 認 め 米 国 の 力 を 借 りてイスラム 過 激 勢 力 に 対 処 しようとした しかしながら 対 テロ 作 戦 終 了 後 も 米 軍 のプレゼンスが 長 期 化 したため 軍 などの 保 守 派 がそのプーチンの 決 断 を 非 難 した さらに 米 国 が 後 押 ししたとロシアが 考 えるカラー 革 命 により ウクライ ナやグルジアに NATO 加 盟 を 標 榜 する 親 欧 米 政 権 が 誕 生 したことから プーチンは 自 らの 影 響 圏 に 欧 米 のプレゼンスが 浸 透 することを 過 剰 なまでに 警 戒 するようになった その 後 NATO 入 りを 目 指 すグルジアとの 間 で 2008 年 8 月 に 紛 争 が 発 生 し その 結 果 ロシアはグルジア 領 内 に 存 在 する 南 オセチアとアブハジアの 独 立 を 一 方 的 に 承 認 し 国 際 法 上 はグルジア 領 内 であるが 中 央 統 治 が 及 ばない 主 権 の 空 白 地 帯 が 生 まれた NATO は 集 団 防 衛 機 能 を 持 つ 軍 事 同 盟 であるがゆえに 未 承 認 国 家 が 内 在 する 国 家 を 招 き 入 れる ことはなく 事 実 上 グルジアの NATO 加 盟 の 道 は 閉 ざされたのである 図 ロシア ウクライナ グルジアの 地 図 -34-

ロシアの 影 響 圏 への 侵 入 者 とロシアが 見 なしているのは 欧 米 勢 力 だけではない ロシ アがクリミア 編 入 に 踏 み 切 った 理 由 の 1 つに クリミアに 浸 透 する 中 国 の 影 響 力 排 除 があ ると 考 えられる 近 年 経 済 や 安 全 保 障 の 分 野 において ウクライナと 中 国 が 急 接 近 して いることを プーチン 大 統 領 が 快 く 思 っていなかったからである 12 旧 ソ 連 圏 における 中 国 の 経 済 進 出 は 中 央 アジアに 続 いて ウクライナにも 及 んでいる ロシアが 編 入 したクリミア 半 島 は 中 央 アジアと 黒 海 を 経 由 して 中 国 と 欧 州 を 結 ぶ 大 シ ルクロード 構 想 の 拠 点 にあたる この 構 想 は 2013 年 9 月 に 習 近 平 国 家 主 席 がカザフスタ ンを 訪 問 した 際 に 提 唱 したもので 中 国 西 部 の 発 展 を 目 的 として 地 域 経 済 協 力 をアジア 内 陸 部 から 欧 州 全 体 にまで 広 げようとする 広 大 な 経 済 構 想 である 13 この 構 想 に 基 づき 中 国 はクリミア 半 島 で 港 湾 高 速 道 路 空 港 などのインフラ 整 備 に 30 億 米 ドルを 投 資 す るほか ウクライナ 本 土 では 石 炭 ガス 化 工 場 の 建 設 や 航 空 機 の 共 同 開 発 も 予 定 している さらに ウクライナ 東 部 では 人 民 解 放 軍 系 の 組 織 が 日 本 の 農 地 の3 分 の2にあたる 300 万 ヘクタールを 50 年 間 租 借 して 中 国 最 大 の 海 外 農 場 を 建 設 する 計 画 が 浮 上 しており こ れが 実 現 すれば 国 外 における 最 大 級 の 租 借 地 となる 他 方 巨 額 の 対 外 債 務 を 抱 え デフォルトの 危 機 に 直 面 するウクライナも 経 済 支 援 先 として 欧 米 やロシアとともに 中 国 も 天 秤 にかけていた 2013 年 12 月 北 京 でヤヌコー ヴィッチ 大 統 領 と 習 近 平 国 家 主 席 が 会 談 し お 互 いを 戦 略 的 パートナーと 認 める 友 好 協 力 条 約 を 締 結 した 14 前 述 したように その 中 で ウクライナが 核 の 脅 威 に 直 面 した 際 に 中 国 が 相 応 の 安 全 保 障 を 提 供 するという 文 言 が 含 まれた ロシアの 核 の 脅 威 を 想 定 した 動 きとして この 条 約 の 内 容 がロシアを 刺 激 したという 15 ウクライナによる 中 国 への 旧 ソ 連 製 兵 器 の 売 却 も ロシアは 問 題 視 している ウクライ ナは 中 国 初 の 空 母 遼 寧 に 加 えて ロシアが 売 却 に 応 じなかった スホイ 33 戦 闘 機 の 試 作 機 まで 中 国 に 売 却 し 中 国 はこれを 基 に 初 の 艦 載 戦 闘 機 殲 15 の 開 発 に 成 功 した といわれる 世 界 銀 行 の 統 計 によれば ウクライナの 2012 年 の 武 器 輸 出 高 は 米 露 中 に 続 いて 世 界 第 4 位 であり ロシアの 軍 需 産 業 からすれば 旧 ソ 連 製 兵 器 の 売 却 における 競 合 相 手 である 最 近 では 戦 車 3 両 が 搭 載 可 能 な 世 界 最 大 級 の 揚 陸 用 ホバークラフト ズーブ ル を 中 国 に 売 却 しており 東 アジアの 安 全 保 障 環 境 に 影 響 を 与 えるとして 当 時 の 岸 田 外 相 がウクライナ 外 相 に 懸 念 を 表 明 している ちなみに 同 船 はロシアに 編 入 されたクリミ ア 半 島 の 造 船 所 で 建 造 されており 中 国 は 4 隻 の 輸 出 契 約 をウクライナと 結 び 既 に 2 隻 が 納 入 された 模 様 である 16-35-

上 図 が 示 すように ロシア 軍 関 係 者 によれば ロシアの 影 響 圏 とは 旧 ソ 連 地 域 の 地 上 部 分 に 加 えて 最 近 では 北 極 海 やオホーツク 海 の 洋 上 部 分 も 含 まれ いずれにも 進 出 して いるのは 中 国 だけだという 中 国 は ウクライナから 購 入 した 砕 氷 船 雪 龍 により 2012 年 夏 に 北 極 点 の 真 上 を 通 る 北 極 海 航 路 の 開 拓 に 成 功 したほか 17 2013 年 7 月 には 史 上 初 め て 中 国 海 軍 の 艦 艇 5 隻 が 宗 谷 海 峡 を 通 じてオホーツク 海 に 進 出 した 18 近 年 ロシアが 北 極 の 軍 事 プレゼンスを 強 化 し 19 オホーツク 海 で 大 規 模 な 軍 事 演 習 を 繰 り 返 しているのは 中 国 による 北 方 海 洋 進 出 と 無 関 係 ではない ウクライナが 中 国 の 海 洋 戦 力 の 強 化 を 後 押 し その 結 果 中 国 がロシアの 洋 上 影 響 圏 に 進 出 していることを ロシアは 警 戒 していると 考 えられる 3. 北 極 における 軍 事 プレゼンスの 強 化 近 年 ロシアは 北 極 地 域 を 戦 略 的 に 重 視 する 姿 勢 を 強 めており 北 極 関 連 の 公 的 文 書 を 整 備 するとともに 軍 事 プレゼンスの 強 化 を 図 っている こうした 動 きも これまで 述 べ てきた 影 響 圏 的 発 想 と 無 関 係 ではない 地 理 的 にみると 北 緯 66 度 33 分 以 北 の 北 極 圏 に 占 めるロシアの 領 土 および 人 口 は 北 極 沿 岸 諸 国 の 中 で 最 大 である ロシアの 北 極 地 域 は ロシアの GDP の 11% 輸 出 総 額 の 22%を 占 めており ロシアの 経 済 活 動 に 一 定 の 役 割 を 果 たしている 20 北 極 海 底 には 金 銀 鉄 亜 鉛 スズ ニッケル ダイヤモンドなどの 鉱 物 資 源 をはじめ 石 油 天 然 ガス -36-

においては 世 界 の 未 確 認 埋 蔵 量 の 約 4 分 の 1 が 手 付 かずの 状 態 にあると 指 摘 されており ロシアが 保 有 する 天 然 資 源 の 多 くがロシアの 北 極 地 域 に 集 中 している 北 極 におけるこう した 資 源 が 戦 略 的 な 重 要 性 を 持 つとともに ロシアの 経 済 成 長 や 経 済 構 造 の 近 代 化 にとっ て 主 要 な 役 割 を 果 たしている 2014 年 12 月 ロシアのドンスコイ 天 然 資 源 環 境 相 は ロシアが 2015 年 3 月 25 日 まで に 北 極 海 における 120 万 平 方 キロメートルの 海 域 を 自 国 の 大 陸 棚 として 国 連 大 陸 棚 限 界 委 員 会 (CLCS)に 申 請 することを 明 らかにした 同 氏 によると 594 の 油 田 159 のガス 田 2 つの 大 きなニッケル 鉱 床 350 の 金 鉱 床 がロシアの 北 極 圏 内 で 発 見 されており これ らはロシアにおける 化 石 燃 料 の 約 6 割 に 匹 敵 するという 21 ロシアが 北 極 を 戦 略 的 に 重 視 し 始 めているもう 一 つの 理 由 は 地 球 温 暖 化 に 伴 う 永 久 海 氷 の 縮 小 により 北 極 海 航 路 が 誕 生 していることである 北 極 海 航 路 に 関 しては 毎 年 11 月 から 4 月 までの 半 年 間 は 海 氷 で 覆 われ 航 行 可 能 期 間 が 夏 場 に 限 定 されているが 北 極 海 の 海 氷 範 囲 が 急 速 に 縮 小 しているため 年 間 の 航 行 可 能 期 間 が 拡 大 し 将 来 的 には 通 年 航 行 が 可 能 になると 見 られている これにより 欧 州 と 東 アジアを 結 ぶ 航 路 の 距 離 がスエズ 運 河 経 由 の 3 分 の 2 に 短 縮 され 海 賊 問 題 なども 存 在 しないことから 将 来 的 に 世 界 の 物 流 が 大 きく 変 わる 海 運 革 命 が 生 じるとの 指 摘 もある 22 ロシアが 考 える 洋 上 影 響 圏 とは ロシアが 表 現 するところの 北 極 極 東 地 域 を 指 す プーチン 大 統 領 の 各 種 演 説 や 各 種 国 家 文 書 においても 北 極 圏 と 極 東 地 域 を 並 立 し て 表 現 することが 多 くなっている これは ロシアが 戦 略 的 に 重 視 する 北 極 地 域 と 極 東 地 域 が 北 極 海 航 路 によって 結 ばれ ロシアが 両 地 域 を 戦 略 的 に 一 体 化 された 1 つのシア ター( 戦 域 )と 見 なし 始 めていることを 意 味 する 例 えば プーチン 大 統 領 は 大 統 領 就 任 式 当 日 の 2012 年 5 月 7 日 に 公 布 した 軍 および 国 防 産 業 の 近 代 化 に 関 する 大 統 領 令 の 中 で 北 極 と 極 東 地 域 の 海 軍 の 増 強 を 指 示 している 23 また 2013 年 12 月 20 日 にプーチン 大 統 領 は 連 邦 保 安 庁 (FSB)に 対 して 北 極 極 東 地 域 における 国 境 警 備 の 強 化 も 指 示 し ている 24 ロシアは 北 極 地 域 における 国 益 擁 護 の 観 点 から 同 地 域 において 軍 事 的 プレゼンスを 高 める 動 きを 示 している 北 極 海 の 融 氷 は 軍 事 安 全 保 障 の 観 点 からもロシアにとって 大 きな 問 題 である 冷 戦 時 代 北 極 は 米 ソが 直 接 向 き 合 う 戦 略 正 面 であるにもかかわらず 軍 事 展 開 が 不 能 な 地 域 として 軍 事 作 戦 上 の 対 象 地 域 とはならず 核 ミサイルの 発 射 飛 翔 ルートでしかなかった 北 極 航 路 が 誕 生 すれば 海 軍 艦 艇 の 活 動 範 囲 が 広 がり 陸 上 への 軍 事 展 開 が 可 能 な 海 域 が 誕 生 するため ロシアのみならず 北 極 海 沿 岸 国 にとっては 新 たな 戦 略 正 面 が 浮 上 することとなる そこで ロシアにとっては 西 部 ( 欧 州 ) 南 部 (コーカ -37-

サス 中 央 アジア) 東 部 ( 極 東 )に 加 えて 北 部 ( 北 極 )という 第 4 の 戦 略 正 面 が 誕 生 す ることとなる 25 2013 年 2 月 20 日 プーチン 大 統 領 の 指 示 に 基 づき ロシア 政 府 は 2020 年 までのロシ ア 連 邦 北 極 圏 の 発 展 と 国 家 安 全 保 障 に 関 する 戦 略 と 題 する 文 書 を 公 表 した 26 この 中 で 北 極 圏 における 軍 事 脅 威 に 対 する 防 衛 態 勢 の 確 立 が 指 摘 されている まず 2015 年 までの 第 一 段 階 として 国 家 安 全 保 障 を 強 化 するための 必 要 な 条 件 を 整 備 し 2020 年 までの 第 二 段 階 として1 北 極 圏 の 領 土 住 民 重 要 施 設 を 防 護 するための 総 合 的 な 安 全 保 障 システムの 発 展 2 北 極 における 一 般 任 務 部 隊 の 戦 闘 即 応 態 勢 を 必 要 な 水 準 に 維 持 3 北 極 における ロシアの 主 権 戦 略 抑 止 力 武 力 紛 争 時 に 侵 略 を 撃 退 するための 必 要 かつ 十 分 なレベルで の 戦 闘 即 応 態 勢 及 び 動 員 準 備 態 勢 の 確 保 が 掲 げられている こうした 方 針 の 下 2013 年 9 月 26 日 北 方 艦 隊 民 間 船 砕 氷 船 がノーバヤ ゼムリャ 群 島 にて 北 極 圏 の 安 全 航 行 に 関 する 訓 練 として 上 陸 訓 練 を 実 施 したほか 2013 年 12 月 には 北 極 軍 集 団 の 創 設 が 明 らかにされた また 2015 年 にはムルマンスク 州 に 2016 年 にはヤマル ネネツ 自 治 管 区 に 北 極 海 沿 岸 の 巡 回 北 極 海 沿 岸 の 施 設 及 び 領 域 の 警 備 等 を 任 務 とする 地 上 軍 北 極 旅 団 が 創 設 される 予 定 である また 2014 年 12 月 1 日 には 西 部 南 部 中 部 東 部 の 4 つの 統 合 戦 略 司 令 部 に 加 え 新 たに 北 部 統 合 戦 略 司 令 部 が 発 足 し 北 方 艦 隊 に 加 え 北 極 旅 団 航 空 防 空 軍 の 一 部 が 含 まれ 北 極 圏 に 所 在 する 陸 海 空 軍 部 隊 を 2016 年 までに 一 括 指 揮 する 見 通 しとなった 洋 上 影 響 圏 における 極 東 地 域 とは 主 にオホーツク 海 を 指 している オホーツク 海 は 冷 戦 時 代 の 潜 水 艦 発 射 弾 道 ミサイル 搭 載 原 子 力 潜 水 艦 の 聖 域 に 加 えて 北 極 海 への 抜 け 道 防 止 という 新 たな 戦 略 的 な 価 値 が 付 与 されつつある 中 国 の 砕 氷 船 や 軍 艦 が 相 次 いで 宗 谷 海 峡 を 通 ってオホーツク 海 から 太 平 洋 に 抜 けているが もう 一 つの 出 入 り 口 が 北 方 領 土 付 近 となる ロシア 軍 は 2012 年 から 国 後 択 捉 の 両 島 の 駐 屯 地 を 整 備 し 対 艦 ミサイルの 配 備 を 計 画 するなど 軍 近 代 化 を 着 実 に 進 展 させている オホーツク 海 の 聖 域 化 の 意 義 が 強 まれば 国 後 択 捉 島 の 軍 事 的 価 値 も 相 対 的 に 高 まることになるであ ろう 27 おわりに ロシアからすれば 欧 米 や 中 国 はロシアの 影 響 圏 への 進 出 者 にあたるが 日 本 はそれに は 該 当 しない それどころか 最 近 ロシアは 自 らの 影 響 圏 と 見 なす 北 極 海 やオホーツ ク 海 において 安 全 保 障 やエネルギーの 分 野 において 日 本 に 協 力 を 求 めるようになってい る そこで 日 露 間 の 新 たな 協 力 分 野 として 北 極 問 題 が 浮 上 している 2013 年 には ロシ -38-

アの 支 援 も 受 けて 日 本 は 北 極 評 議 会 (AC)のオブザーバーとなったほか 北 極 海 航 路 の 整 備 や 資 源 開 発 シーレーン 確 保 など 日 本 とロシアが 協 力 する 余 地 は 大 きいといえるだ ろう 2014 年 7 月 日 本 の 商 船 会 社 が 世 界 初 の 北 極 海 航 路 の 実 用 化 として 3 隻 の 砕 氷 輸 送 船 を 導 入 して 2018 年 から 北 極 圏 内 のヤマル 半 島 から 液 化 天 然 ガス(LNG)を 欧 州 とアジ アに 運 搬 することを 公 表 した 北 東 アジアからの 北 極 海 航 路 は 日 本 海 やオホーツク 海 が ゲートウェイとなることから 将 来 的 には 海 上 自 衛 隊 とロシア 海 軍 によるテロ 海 賊 対 策 共 同 訓 練 をオホーツク 海 や 北 極 海 に 拡 大 していくことも 予 想 される こうしたなか 北 極 海 航 路 の 通 り 道 となる 北 方 領 土 の 地 政 学 的 な 重 要 性 にも 何 らかの 変 化 が 生 じるかもしれ ない ロシアの 極 東 シベリア 地 域 の 開 発 と 日 露 協 力 のあり 方 を 考 える 場 合 ロシアが 洋 上 影 響 圏 と 見 なしつつある 北 極 海 やオホーツク 海 の 存 在 を 考 慮 する 必 要 があるだろう - 注 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 ロシア 大 統 領 ウェブサイト<http://news.kremlin.ru/transcripts/20603> クリミアは もともとソ 連 時 代 にロシア 共 和 国 に 属 していたが 1954 年 に 当 時 のフルシチョフ 書 記 長 がウクライナ 併 合 300 年 を 記 念 してウクライナ 共 和 国 に 移 管 した 経 緯 がある 同 上 詳 しくは 拙 稿 プーチン 政 権 における 国 家 安 全 保 障 概 念 の 改 訂 をめぐる 動 き 国 家 安 全 保 障 概 念 から 国 家 安 全 保 障 戦 略 へ ロシア 外 交 の 現 在 Ⅱ ( 北 海 道 大 学 スラブ 研 究 センター 2006 年 5 月 ) 軍 事 ドクトリン の 本 文 には 規 定 ごとに1~53 までの 通 し 番 号 が 付 与 されていることから 便 宜 的 に 本 稿 でもそれを 用 いる 本 文 に 関 しては ロシア 連 邦 安 全 保 障 会 議 ホームページ <http://www.scrf.gov.ru/documents/33.html>を 参 照 第 26 項 ロシア 連 邦 とその 国 民 の 利 益 の 擁 護 国 際 的 な 平 和 と 安 全 の 維 持 を 目 的 に 広 く 認 められた 国 際 法 の 原 則 及 び 規 範 ロシア 連 邦 の 国 際 条 約 及 び 連 邦 法 体 系 に 基 づき ロシア 連 邦 の 外 でロシア 連 邦 軍 の 部 隊 を 機 動 的 に 使 用 することができる ロシア 連 邦 憲 法 第 102 条 と 国 防 に 関 する 連 邦 法 第 5 条 は 軍 の 国 外 使 用 問 題 は 議 会 上 院 の 専 管 事 項 と 定 めているが 2008 年 8 月 のグルジア 紛 争 の 際 には 上 院 は 軍 の 国 外 使 用 を 認 める 決 定 を 紛 争 後 に 行 うなど 軍 の 国 外 派 遣 を 巡 る 法 体 系 の 不 備 が 問 題 となった そこで 国 外 での 自 国 民 保 護 などを 理 由 として 軍 の 国 外 派 遣 を 可 能 とし さらに 軍 の 国 外 派 遣 の 最 終 決 定 権 を 大 統 領 に 持 たせることなどが 規 定 された Kommersant, 6 February 2010. Ю. Н. Балуевский, «Теоретические и методологические основы формирования Военной Доктрины Российской Федерации», Военная Мысль, 2007, no. 3, p. 16. 乾 一 宇 力 の 信 奉 者 ロシア (JCA 出 版 2011 年 )251 頁 2009 年 5 月 20 日 にモスクワで 筆 者 と 面 談 したサヴェリエフ 世 界 経 済 国 際 関 係 研 究 所 (IMEMO) 戦 略 研 究 部 長 の 発 言 2014 年 1 月 29 日 にモスクワで 筆 者 と 面 談 した 欧 州 安 全 保 障 問 題 を 専 門 とするパルハーリナ 社 会 科 学 学 術 情 報 研 究 所 副 所 長 の 発 言 日 本 経 済 新 聞 朝 刊 (2014 年 3 月 11 日 ) 人 民 網 日 本 語 版 (2013 年 12 月 6 日 )<http://j.people.com.cn/94474/8476834.html> 2014 年 1 月 29 日 にモスクワで 筆 者 と 面 談 した 欧 州 安 全 保 障 問 題 を 専 門 とするパルハーリナ 社 会 科 学 学 術 情 報 研 究 所 副 所 長 の 発 言 -39-

16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 China Defense Manufacture, April 25 2013 <http://www.china-defense-mashup.com/ukraine-deliveries-world-largest-hovercraft-to-pla-navy.html>. 東 アジア 戦 略 概 観 2014 ( 防 衛 研 究 所 2014 年 3 月 )257~260 頁 東 アジア 戦 略 概 観 2014 ( 防 衛 研 究 所 2014 年 3 月 )215 頁 詳 しくは 拙 稿 ロシアの 北 極 政 策 -ロシアが 北 極 を 戦 略 的 に 重 視 する 理 由 - 防 衛 研 究 所 紀 要 ( 防 衛 研 究 所 2013 年 11 月 )を 参 照 されたい エフゲニー ルキヤノフ ロシア 連 邦 安 全 保 障 会 議 副 書 記 による 北 極 2013 変 化 する 北 極 圏 におけ る 地 政 学 と 海 洋 資 源 と 題 する 演 説 (ノルウェー トロムソ 2013 年 1 月 21 日 ) the Arctic Frontiers のウェブサイト <http://www.arctic-frontiers.com/index.php?option=com_docman&task=cat_view&gid=289&itemid=516> <http://www.adn.com/article/20141217/russia-follow-denmark-arctic-shelf-claim-march>. 日 本 北 極 海 会 議 報 告 書 ( 海 洋 政 策 研 究 財 団 2012 年 3 月 )82~98 頁 President of Russia<http://eng.kremlin.ru/acts?since=07.05.2012&till=07.05.2012>, accessed on May 7, 2012. <http://news.kremlin.ru/news/19872>. 坂 口 賀 朗 ロシアの 軍 改 革 と 海 軍 強 化 の 動 向 ブリーフィング メモ ( 防 衛 研 究 所 2013 年 1 月 ) 2020 年 までのロシア 連 邦 北 極 圏 の 発 展 と 国 家 安 全 保 障 に 関 する 戦 略 ロシア 政 府 <http://government.ru/news/432>2013 年 2 月 25 日 アクセス 小 谷 哲 男 北 極 問 題 と 東 アジアの 国 際 関 係 北 極 のガバナンスと 日 本 の 外 交 戦 略 ( 日 本 国 際 問 題 研 究 所 2013 年 3 月 ) 84 頁 <http://www2.jiia.or.jp/pdf/resarch/h24_arctic/07-kotani.pdf> -40-