オンライン ISSN 1347-4448 印 刷 版 ISSN 1348-5504 赤 門 マネジメント レビュー 10 巻 2 号 (2011 年 1 月 ) 1 研 究 会 報 告 コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 9 月 3 日 電 子 書 籍 は 如 何 に 普 及 するか? 飯 沢 篤 志 リコーIT ソリューションズ 株 式 会 社 フェロー E-mail: Atsushi.Iizawa@jrits.ricoh.co.jp 要 約 : 昨 今 ipad の 登 場 などにより 日 本 を 含 む 世 界 全 体 において 電 子 書 籍 市 場 が 拡 大 傾 向 にある アップル 社 に 留 まることなくソニー アマゾン グーグルといった 世 界 の 一 流 企 業 がこの 市 場 への 参 入 を 試 みており 今 後 この 市 場 は 拡 大 が 予 想 され る しかし 一 方 で 提 供 できるコンテンツの 量 や 質 電 子 書 籍 を 読 む 媒 体 と 電 子 ブッ クリーダーの 性 能 など 問 題 点 も 多 く これらの 問 題 点 をどうやって 乗 り 越 えていく かが 電 子 書 籍 普 及 の 今 後 の 鍵 といえるであろう キーワード:iPad 電 子 書 籍 普 及 電 子 ブックリーダー 1 はじめに 現 在 日 本 において 電 子 書 籍 というものが 盛 んに 議 論 されるようになってきている 私 自 身 も 今 年 アップルから 発 売 された ipad を 購 入 し 現 在 使 用 している 本 報 告 のタイト ルは 電 子 書 籍 は 如 何 に 普 及 するか? となっているが 本 報 告 では 電 子 書 籍 は 今 後 普 及 していくだろうけれども どういう 風 に 普 及 していくか ということに 論 点 を 絞 って 議 論 していきたい 私 は 1985 年 に 株 式 会 社 リコーに 入 社 し 20 年 強 ソフトウェア 研 究 所 で データベー ス 管 理 システム 文 書 管 理 システム 図 書 館 情 報 システム 特 許 システム 等 の 研 究 開 発 に 1 本 稿 は 2009 年 9 月 3 日 開 催 のコンピュータ 産 業 研 究 会 での 報 告 を 大 野 晴 彦 ( 東 京 大 学 )が 記 録 し 本 稿 掲 載 のために 報 告 者 の 加 筆 訂 正 を 経 て GBRC 編 集 部 が 整 理 したものである 文 責 は GBRC に 著 作 権 は 報 告 者 にある 2011 Global Business Research Center www.gbrc.jp 125
コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 9 月 3 日 従 事 してきた 1997 年 から 2001 年 は 超 多 地 点 型 大 規 模 分 散 データベース マルチメディ アデータベースの 研 究 を 2002 年 からは 次 世 代 オフィスシステムに 関 する 研 究 テーマを 推 進 してきた 2008 年 からはリコーソフトウェア 株 式 会 社 に 出 向 し マルチメディア 関 連 商 品 の 事 業 化 を 推 進 し 2010 年 4 月 から 現 職 についている 私 の 経 歴 の 中 で 電 子 書 籍 に 関 係 が 深 いのは LIMEDIO という 大 学 向 け 図 書 館 システムで ある LIMEDIO は 現 在 200 館 ほどの 大 学 図 書 館 に 導 入 されている リコーは 地 球 に 優 しい 人 に 優 しい 知 識 創 造 を 簡 単 に という 三 つの 理 念 を 掲 げ ており ペーパーレスを 実 現 する 電 子 書 籍 ビジネスとは 親 和 性 が 高 い このようなリコー において 電 子 書 籍 に 対 して 感 じていること 調 べたことを 報 告 し 電 子 書 籍 というものを 考 える 材 料 を 提 供 していく 2 電 子 書 籍 を 巡 るトピックス 電 子 書 籍 というものの 存 在 を 世 間 に 知 らしめたものとしてアップル 社 の ipad は 無 視 で きないであろう 日 本 では 2010 年 5 月 28 日 に 発 売 されたが その 際 には ipad を 求 めて 銀 座 に 1,200 人 もの 行 列 が 発 生 し そのことが 数 多 くのメディアで 報 じられた アップル 社 は 国 別 の 販 売 数 を 発 表 しないが 世 界 全 体 での 販 売 台 数 は 320 万 台 にも 上 り 現 在 ipad の 市 場 は 急 速 に 拡 大 している 私 も 発 売 数 日 後 に 銀 座 のアップルストアを 訪 れたが 中 は 満 員 状 態 で 購 入 は 2 時 間 待 ちというほどの 盛 況 振 りであった 翌 週 末 に 予 約 したが 一 週 間 ほどで 入 手 でき 品 薄 感 を 強 く 感 じるほどではなかった もちろん 電 子 書 籍 のブックリーダーは ipad だけではなく 他 にも 多 数 存 在 する 例 えば 2007 年 から Kindle を 発 売 しているアマゾンは 2010 年 Kindle DX を 発 売 し た また ソニーも SONY Reader を 発 売 している サイズが 小 さいものであれば アップルの iphone もブックリーダーのひとつである 現 在 電 子 書 籍 が 日 本 に 浸 透 しつつあるということが 伺 える 根 拠 として 以 下 の 三 つの 事 象 が 挙 げられる (1) 自 炊 という 言 葉 の 登 場 自 炊 とは 本 を 裁 断 してスキャンし スキャンしたものをブックリーダーで 各 個 人 が 読 むという 現 象 である 裁 断 機 が 売 れているというニュースを 耳 にもするが 本 を 切 っ 126
コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 5 月 12 日 てしまうという 行 為 には 抵 抗 を 感 じることもあるだろう (2) 第 17 回 東 京 国 際 ブックフェア 第 17 回 東 京 国 際 ブックウェアが 7 月 7 10 日 に 開 催 され そこでは 電 子 書 籍 に 高 い 関 心 が 寄 せられていた 例 えば Google エディション を 始 め 多 くの 電 子 書 籍 販 売 サービ スを 各 社 がアピールしたり ボイジャーが 一 般 ユーザーに 電 子 書 籍 普 及 のための 努 力 を 呼 びかけたりなど 様 々な 立 場 の 人 々が 電 子 書 籍 普 及 のために 動 いていた こういう 場 所 に 来 ると 世 の 中 全 体 が 電 子 書 籍 について 騒 いでいるのか という 印 象 をもってしまうが 一 方 で 出 版 業 界 の 焦 りのようなものも 感 じられる (3) 電 子 書 籍 に 関 する 書 籍 の 増 加 電 子 書 籍 について 様 々な 立 場 の 人 が それぞれの 視 点 で 著 書 を 出 している その 中 でも 電 子 書 籍 の 衝 撃 2 はアマゾンランキングで 4 位 に 入 るほどの 売 れ 筋 である 電 子 書 籍 に 関 するこれらの 本 は これから 電 子 書 籍 は 普 及 していくであろう という 論 調 のもの が 多 く 見 受 けられる 一 方 田 原 総 一 朗 氏 の デジタル 教 育 は 日 本 を 滅 ぼす 3 のように 電 子 書 籍 が 本 に 取 って 代 わろうとする 世 の 中 に 議 論 を 投 げかける 書 籍 も 少 なからずある このように 世 の 中 全 体 で 電 子 書 籍 への 気 運 が 高 まりつつある 中 世 の 中 は 電 子 書 籍 に 対 してどのような 関 心 を 投 げかけているのだろうか 私 個 人 としては 電 子 書 籍 の 登 場 で 本 のスペースを 減 らすことは 出 来 るのか が 一 番 の 関 心 ごとであるが 現 時 点 ではまだな んともいえない 状 況 ではある 一 方 リコーというコピーやプリンタで 紙 に 印 刷 することで 収 益 をあげている 企 業 とし ては 電 子 書 籍 がどの 程 度 普 及 すればペーパーレスとしての 機 能 を 発 揮 するのであろう か という 点 が 関 心 事 となる 電 子 書 籍 が 普 及 すれば 文 章 を 紙 で 読 む 必 要 性 が 低 下 し ペーパーレスが 進 行 するのではないかという 心 配 があるが 現 在 の 普 及 率 では 社 会 全 体 と してペーパーレスに 繋 がっているというよりも 個 別 での 動 きに 留 まってしまっている 感 が 否 めない 2 3 佐 々 木 俊 尚 (2010) 電 子 書 籍 の 衝 撃 : 本 はいかに 崩 壊 し いかに 復 活 するか? ディスカ ヴァー トゥエンティワン. 田 原 総 一 朗 (2010) デジタル 教 育 は 日 本 を 滅 ぼす: 緊 急 提 言!: 便 利 なことが 人 間 を 豊 かにする ことではない! ポプラ 社. 127
コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 9 月 3 日 3 書 籍 電 子 書 籍 の 状 況 以 上 電 子 書 籍 の 現 状 について 紹 介 してきた 次 は 書 籍 市 場 等 の 情 報 を 踏 まえながら 電 子 書 籍 について 議 論 していきたい (1) 出 版 業 界 の 現 状 と 変 化 まずは 書 籍 と 雑 誌 の 販 売 推 移 について 見 ていきたい 出 版 販 売 額 の 推 移 を 見 てみると 1996 年 の 2.6 兆 円 をピークに 減 少 傾 向 にあり 現 在 は 1 兆 9,355 億 円 程 度 である その 出 版 を 書 籍 と 雑 誌 に 分 類 し それぞれの 変 化 を 追 ってみると 書 籍 は 横 ばいで 雑 誌 が 凋 落 し ている 書 籍 は 新 刊 点 数 は 増 加 している この 傾 向 は 新 しく 出 版 するものの 売 れずに すぐに 消 えていってしまう 書 籍 が 多 い ことを 示 しているといえる 一 方 雑 誌 は 2009 年 に 創 刊 された 雑 誌 は 146 誌 (41 誌 減 ) 休 刊 廃 刊 となったのは 230 誌 (35 誌 増 ) と 創 刊 が 減 少 し 休 刊 廃 刊 が 増 えつつある 例 えば 有 名 な 雑 誌 月 刊 プレイボーイ 現 代 諸 君! が 休 刊 となるなど 歴 史 ある 雑 誌 が 消 えていってしまっている これは 情 報 を 享 受 する 媒 体 が 雑 誌 からインターネットに 移 行 したことが 大 きな 原 因 と 見 られる 次 に 日 本 における 書 籍 雑 誌 の 流 通 についてみていくと 取 次 を 介 して 流 通 を 行 うのが 日 本 の 特 徴 である また 売 れ 残 った 本 を 出 版 社 に 返 本 できる 委 託 販 売 制 度 や 定 価 販 売 を 義 務 付 ける 再 販 制 度 のような 本 屋 にリスクが 小 さい 制 度 が 存 在 している 電 子 書 籍 が 本 に 取 って 代 わるとすると これらの 仕 組 みは 大 きく 変 更 を 余 儀 なくされるであろう もちろん このような 出 版 市 場 はこれまでも 大 きく 変 わってきている 小 田 光 雅 氏 の 出 版 状 況 クロニクル 4 によると 1970 年 代 半 ばまでは 第 1 次 市 場 が 出 版 社 取 次 書 店 ( 商 店 街 ) 第 1.5 次 市 場 が 古 書 業 界 第 3 次 市 場 が 公 共 図 書 館 だった しかし 1980 年 代 以 降 新 古 本 産 業 のブックオフが 第 2 次 市 場 として 表 れ 2000 年 前 後 からネット 販 売 アマゾンが 第 4 次 市 場 として 現 れた これまでも 出 版 市 場 は 大 きく 変 貌 を 遂 げており これからも 大 きく 変 わっていく 可 能 性 は 十 分 にある 次 に 出 版 社 数 と 書 店 数 の 推 移 について 見 ていくと 出 版 社 と 書 店 数 は 共 に 減 少 傾 向 にあ る 出 版 社 は 1997 年 がピークで 4,612 社 あったものが 2008 年 には 3,979 社 にまで 落 ち 込 んでいる 一 方 書 店 は ピーク 時 は 新 聞 の 配 達 所 と 同 じ 程 度 の 23,000 店 舗 もあったと 4 小 田 光 雄 (2009) 出 版 状 況 クロニクル 論 創 社. 128
コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 5 月 12 日 いうにもかかわらず 2009 年 現 在 は 15,519 店 舗 に 減 少 してしまっている この 原 因 は 複 合 型 書 店 の 柱 であった CD DVD のセル レンタルの 不 振 などと 見 られている 最 近 では 書 店 の 絶 対 数 が 減 少 し 平 均 の 床 面 積 が 増 加 する 一 方 で 総 床 面 積 も 減 少 傾 向 にある これに 対 して 公 共 図 書 館 の 状 況 を 見 てみると 図 書 館 の 数 蔵 書 の 数 共 に 増 加 傾 向 にあ る これらのことから 書 籍 を 書 店 で 購 入 して 読 むという 文 化 から 図 書 館 で 借 りて 読 む という 文 化 に 移 行 してきているとがわかる 不 景 気 になるとこの 風 潮 が 強 まると 思 われ るが ベストセラーを 図 書 館 が 購 入 し 貸 し 出 しをするのはいかがなものか という 議 論 も 浮 上 してきている 今 後 は 書 店 と 図 書 館 のバランスが 重 要 になってくると 思 われる (2) 電 子 書 籍 について ここで 今 まで 曖 昧 に 扱 ってきた 電 子 書 籍 の 定 義 を 明 確 にする 電 子 書 籍 といって も 様 々な 意 味 で 用 いられている 言 葉 なので どの 定 義 で 電 子 書 籍 というかは 注 意 が 必 要 である Wikipedia では 電 子 書 籍 とは 古 くより 存 在 する 紙 とインクを 用 いた 印 刷 物 で はなく 電 子 機 器 のディスプレイで 読 むことの 出 来 る 出 版 物 である 5 とされている 以 下 では この 電 子 書 籍 の 定 義 が 時 代 を 超 えてどのように 変 わってきたのかについて 見 て いく 最 初 は 電 子 書 籍 を 含 む 概 念 として 広 く 電 子 出 版 という 言 葉 が 広 く 普 及 していた 例 えば 1980 年 代 から 本 や 雑 誌 の 編 集 過 程 で 電 子 化 が 起 きていた また 同 時 期 に CD- ROM 等 の 新 しい 出 版 形 態 も 生 まれてきた 例 えば 日 本 で 最 初 の 電 子 書 籍 といわれる 最 新 科 学 技 術 用 語 辞 典 6 がある また 1990 年 代 に 入 ると 小 型 電 子 ブックプレー ヤーが 登 場 し 2000 年 以 後 に 東 芝 の ブック やソニーの LIBRIe 等 の 読 書 専 用 端 末 が 登 場 する この 頃 から 次 第 に CD-ROM の 形 態 を 取 らなくなってくる さらにインターネットが 普 及 すると インターネット 経 由 で 出 版 コンテンツを 配 信 する オンライン 出 版 が 生 まれるようになる 現 在 は このビジネスモデルを 電 子 書 籍 というこ とが 多 い また デジタル 化 された 出 版 コンテンツを 必 要 な 部 数 だけ 紙 に 印 刷 する オン デマンド 本 も 登 場 している なお 電 子 出 版 は 便 宜 上 は 学 術 雑 誌 が 電 子 化 された 電 子 ジャーナルと 電 子 書 籍 と 区 別 される 電 子 ジャーナルは 現 在 多 くの 大 学 に 導 入 され 大 学 にとっては 必 要 不 可 欠 なもの となっている 5 http://ja.wikipedia.org/wiki/ 電 子 書 籍 129
コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 9 月 3 日 では 次 に 電 子 書 籍 と Web テキストには 一 体 どのような 違 いがあるのであろうか 深 沢 英 次 氏 によると 大 きく 以 下 の 七 つに 集 約 される それに 従 ってみていく 1パッケージングされている コンテンツがスタンドアロンで 独 立 している ブログや Twitter などのようにソー シャルではない 2 有 料 である 無 料 であってもフリーではなく ゼロ 円 の 商 品 として 流 通 している (ように 見 え る) 3 提 供 されるコンテンツの 種 類 日 記 や 散 文 ではなく 小 説 やルポ ハウトゥガイドなど コンテンツとして 完 結 して いるものが 提 供 される 4コンテンツのボリューム 文 字 数 にして 最 低 でも 数 万 文 字 以 上 ページ 数 では 100 ページ 以 上 あたり それより も 多 い 分 には 問 題 ないが 少 ない 場 合 書 籍 として 認 知 しにくくなる 5 縦 書 き 明 朝 体 などの 組 版 書 籍 のメタファーとしては 有 効 だが ケータイ 小 説 などの 成 功 を 見 ると 普 通 の 人 は それほどこだわりや 意 識 を 持 っていないのかもしれない 送 り 手 ( 出 版 側 ) が 考 える よりも 禁 則 や 組 版 に 対 する 一 般 人 の 要 求 は 低 いところで 成 立 していると 考 える 6 手 に 持 って 持 ち 運 べるデバイス ハードウェアごとの 特 性 が 違 うため 出 版 時 にどのデバイスを 選 択 するのかが 重 要 また 互 換 性 や 保 存 性 の 問 題 もある 7ページングされている スクロールではなく 表 示 が 1 枚 ずつページ 切 り 換 えしていくこと また ウインド ウ 内 でページ 全 体 が 最 後 まで 見 渡 せること これが 一 番 重 要 かもしれない 例 えば ipad の 機 能 では 以 下 のような 機 能 がある 1フォントや 文 字 の 大 きさを 自 由 に 変 えられる 2 動 きが 本 の 動 きを 意 識 して 作 られている ページをめくる 際 実 際 の 本 をめくるよう な 動 きでページが 移 り 変 わっていく 6 藤 原 鎮 男 (1985) 最 新 科 学 技 術 用 語 辞 典 三 修 社. 130
コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 5 月 12 日 3 検 索 機 能 も 付 加 されている 4 小 さくて 見 づらい 文 字 は 拡 大 して 見 ることも 可 能 5iPad の 動 きに 対 応 して 動 くコンテンツが 有 る ( 動 く 絵 本 のようなリアリティがあ る ) このように ipad は 本 では 実 現 不 可 能 なことを 可 能 にしている そのため 電 子 書 籍 を 提 供 する 側 としては ipad にコンテンツを 提 供 する 際 に それに 合 わせた 工 夫 をする 価 値 があるのである (3) 日 本 米 国 中 国 の 電 子 書 籍 市 場 の 拡 大 では 次 に 電 子 書 籍 市 場 がどのように 拡 大 しているかについて 見 ていく 日 本 の 電 子 書 籍 市 場 は 2009 年 は 前 年 比 26.7% 増 の 574 億 円 で 順 調 に 拡 大 傾 向 を 示 している しかし ケータイ 向 け 市 場 が 513 億 円 と ケータイ 向 け 市 場 に 依 存 している 状 態 は 否 めない その 中 でも 電 子 コミックが 428 億 円 と 多 くのシェアを 占 めており 電 子 書 籍 ( 文 芸 系 ) や 電 子 写 真 集 は 市 場 としてはとても 小 さい しかし 2009 年 に 出 現 した 新 規 プラットフォーム (スマートフォンや ipad) 向 け 電 子 書 籍 市 場 が 2009 年 に 6 億 円 の 市 場 規 模 となっており 今 後 拡 大 していくと 思 われる 一 方 米 国 の 電 子 書 籍 市 場 はどのように 推 移 しているのであろうか 最 近 になり 多 くの 企 業 が 電 子 ペーパー 端 末 を 開 発 し 市 場 が 活 性 化 している 例 えば アマゾンが Kindle 2 と Kindle DX を 発 売 ソニーが Reader シリーズを 3 機 種 発 売 バーンズ&ノーブルが Nook を 発 売 する 等 電 子 書 籍 に 関 する 市 場 の 動 きは 活 発 である それを 反 映 するかのよ うに 2009 年 の 米 国 電 子 書 籍 市 場 は 卸 値 で 前 年 比 176.5% 増 の 1 億 6,950 万 ドルと 順 調 に 成 長 している 2010 年 度 も 上 期 で 前 年 度 の 卸 値 を 超 える 1 億 7,970 万 ドルとなっており 今 後 の 成 長 が 期 待 される 最 後 に 中 国 の 電 子 書 籍 市 場 の 状 況 であるが こちらも 順 調 であり 電 子 書 籍 利 用 者 数 販 売 冊 数 売 上 と 全 て 成 長 している しかし 電 子 書 籍 の 販 売 冊 数 の 増 加 率 が 鈍 化 しているに もかかわらず 全 体 の 売 上 が 順 調 に 増 加 しているという 統 計 結 果 が 出 ており この 理 由 は 不 明 である 131
コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 9 月 3 日 4 電 子 書 籍 普 及 の 課 題 これまで 電 子 書 籍 の 現 状 について 説 明 してきたが これからは 現 在 の 電 子 書 籍 が 普 及 す るための 課 題 に 焦 点 を 当 てて 話 を 進 めていきたい 読 者 の 側 から 電 子 書 籍 を 捉 えると ブックリーダーが 紙 の 代 替 品 として 使 えるか もしくは 紙 を 読 むよりもいい 体 験 を 出 来 る 媒 体 となるか コンテンツが 適 正 価 格 で 十 分 な 量 配 給 される 仕 組 みが 出 来 るか と いう 課 題 がある 一 方 出 版 側 の 立 場 に 立 ってみると 出 版 に 関 する 権 利 関 係 をどのよ うに 解 消 するのか 如 何 にフォーマットを 統 一 の 方 向 へ 向 かわせられるか などが 問 題 となってくる また 流 通 の 立 場 でも 読 者 に 電 子 書 籍 を 届 けるプラットフォームを 如 何 に 届 けるか という 問 題 がある ここでは 読 者 と 出 版 の 立 場 での 課 題 に 焦 点 を 絞 って 議 論 していきたい (1) 電 子 書 籍 のブックリーダーについて まず 電 子 書 籍 のブックリーダーについて 考 える 現 状 の 日 本 において ブックリーダー は 以 下 の 四 つに 分 類 できる 1 電 子 ペーパー 端 末 Kindle や SONY Reader がこれに 当 てはまる 紙 に 最 も 近 い 質 感 を 実 現 し 本 を 見 る ときと 同 じように 反 射 光 を 利 用 して 本 を 読 むことが 可 能 なので 長 時 間 の 読 書 に 向 いて いる なお 電 子 ペーパーとは 紙 のような 見 易 さ 超 低 消 費 電 力 薄 型 軽 量 を 売 りにする 新 しいディスプレイのひとつである 現 在 E-ink 社 のマイクロカプセル 型 電 気 泳 動 方 式 が 主 流 であるが 他 のディスプレイと 比 べてカラー 化 で 遅 れをとっているため カ ラー 化 を 急 いでいる 2タブレット PC ipad Android 端 末 がこれに 当 てはまる 液 晶 なので 上 記 の 電 子 ペーパー 端 末 よりも 美 しいディスプレイを 売 りにしており Web や 動 画 音 楽 等 との 連 携 が 容 易 である しかしディスプレイが 液 晶 であるため 長 時 間 の 読 書 には 不 向 きだと 言 われる 3スマートフォン iphone Android 携 帯 端 末 などがこれに 当 てはまる iphone は ipad の 40%ほどのサイ 132
コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 5 月 12 日 ズでコンパクトであるため 携 帯 が 可 能 である 4 携 帯 電 話 携 帯 ゲーム 機 普 及 台 数 が 多 いのが 強 みである 携 帯 電 話 は 決 済 の 仕 組 みが 確 立 されているし 携 帯 ゲーム 機 は 高 いポテンシャルを 持 っている (2) 電 子 ブックリーダー 発 展 の 歴 史 次 に このような 電 子 ブックリーダーはどのように 発 展 してきたのかについて その 歴 史 を 整 理 する まず 1998 年 10 月 に 電 子 書 籍 を 日 本 に 定 着 させるために ebook Japan という 電 子 書 籍 コンソーシアムが 設 立 された その 流 れを 受 け 2004 年 2 月 に 松 下 が (シグマ) ブック を 4 月 にはソニーがリブリエを 日 本 で 発 売 した しかし 売 上 は 芳 しいものではなく 次 第 に 撤 退 の 道 を 辿 っていった 一 方 日 本 には 時 期 的 に 遅 れを 取 ったもののアメリカでは 2006 年 9 月 には SONY Reader が 2007 年 11 月 には Kindle 1 が 発 売 された 日 本 とは 異 なり アメリカでは 電 子 書 籍 市 場 は 順 調 に 拡 大 した そして 2010 年 4 月 にはアップル 社 から 情 報 端 末 ipad が 発 売 され それが 日 本 でも 5 月 に 発 売 され 現 在 に 至 る では なぜ 日 本 において 電 子 書 籍 は 失 敗 したのであろうか 著 作 権 の 問 題 取 次 ぎ 中 心 の 流 通 の 問 題 等 様 々いわれてはいるが 最 も 大 きな 問 題 はコンテンツの 量 だったと 思 わ れる リブリエや ブックが 発 売 されてもこのような 問 題 は 解 消 せず 購 入 した 本 が 60 日 で 消 えてしまう という 今 では 考 えられないような 問 題 も 残 っていた 一 方 アメリカ の 電 子 書 籍 市 場 を 席 巻 したキンドルは 何 が 画 期 的 であったのだろうか その 理 由 には 以 下 の 三 つが 挙 げられる 13G 通 信 回 線 で 簡 単 でスピーディーな 購 入 が 可 能 なインターフェイス 通 信 機 能 内 臓 で 通 信 代 はアマゾンが 処 理 するという 形 式 をとった 2 物 理 的 制 約 を 離 れ 膨 大 な 数 の 書 籍 が 購 入 可 能 に 発 売 当 時 は 約 9 万 点 しかなかったものが 現 在 では 約 60 万 点 もの 書 籍 が 購 入 可 能 に なった この 60 万 という 数 字 はほとんどの 書 籍 が 購 入 可 能 といっても 過 言 ではない ほどである また 無 料 本 も 多 く その 数 は 180 万 以 上 といわれており 日 本 とは 桁 が 違 う 普 及 率 である 3 戦 略 的 低 価 格 売 れ 筋 の 書 籍 の 値 段 を 9.99 ドルにすることで ハードカバーの 約 3 分 の 1 という 圧 133
コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 9 月 3 日 倒 的 安 さを 実 現 した 4 複 数 デバイスでも 読 書 が 続 けられる 仕 組 み PC でも iphone でも 購 入 した 本 を 読 むことができる (3) ユーザーの 視 点 からの 電 子 書 籍 自 ら ipad を 使 って 体 験 した 最 初 の 電 子 書 籍 読 書 体 験 から 電 子 書 籍 について 思 うとこ ろを 述 べる まず それほど 違 和 感 なく 普 通 にシーケンシャルには 読 むことが 可 能 であ る しかし 本 来 の 紙 の 本 なら 可 能 であった 拾 い 読 み や あちこちを 参 照 しながら 読 む 付 箋 を 貼 る といった 行 為 がやりにくいのは 不 便 である 集 中 力 が 続 きにくい 側 面 も ある また ipad の 重 量 はカバー 付 で 820 グラムのため 世 間 では 重 いといわれているが 実 際 に 使 ってみるとそこまで 重 いとは 思 わない また 現 在 の 重 さのほとんどがバッテ リーによる 重 さであるので 今 後 の 技 術 進 歩 によっては 大 幅 な 軽 量 化 も 期 待 できる (4) 出 版 社 視 点 からの 電 子 書 籍 次 に 出 版 社 の 立 場 から 電 子 書 籍 という 商 品 が 出 版 社 にどういう 転 換 を 与 えるかを 見 て いく まず 紙 の 書 籍 と 電 子 書 籍 の 制 作 フローを 比 較 してみる 電 子 書 籍 が 登 場 すると 印 刷 する 工 程 ( 刷 版 印 刷 ) を 省 略 できるという 特 徴 がある 言 い 換 えれば 電 子 書 籍 が 普 及 すると この 省 かれる 工 程 を 今 まで 担 当 していた 企 業 は 大 打 撃 を 食 らうことになるとい うことになる しかしそう 簡 単 には 電 子 書 籍 に 移 行 できない 特 に 問 題 なのは 電 子 書 籍 フォーマットである 現 在 EPUB PDF XMDF というような それぞれ 違 った 特 徴 を 持 つ 様 々なフォーマットが 存 在 している もしこの 現 状 が 続 くのであるならば ひとつ のコンテンツを 様 々なフォーマットに 変 換 するという 手 間 が 必 要 になってくる よって これからは 中 間 フォーマットというものを 作 成 し フォーマットを 統 一 する 動 きがある このような 状 態 は 電 子 書 籍 販 売 プラットフォームにも 影 響 を 及 ぼしている App Store ibookstore など 多 くの 販 売 プラットフォームが 存 在 するが そのプラットフォーム ごとに 採 用 しているフォーマットが 異 なっている また それぞれの 販 売 プラットフォー ムごとに 本 棚 という 機 能 があるのだが ここでも フォーマットごと プラット フォームごとに 本 棚 が 分 かれてしまうという 現 象 が 発 生 している しかしこのような 問 題 を 抱 えつつも 出 版 物 のデジタル 化 の 流 れとして 2006 年 から Google の 検 索 サービス Google ブックス が 開 始 されている これは 本 の 全 文 検 索 が 可 134
コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 5 月 12 日 能 であり 20%までが 閲 覧 可 能 というものだ さらに Google は Google エディション というサービスを 発 表 した これは 有 料 で 全 文 を 閲 覧 可 能 という 大 胆 なビジネススタイ ルであるが このサービスは 2009 年 度 に 権 利 問 題 で 大 問 題 を 引 き 起 こした しかし 米 国 では 2010 年 7 月 に 開 始 され 日 本 でも 2011 年 から 開 始 される 予 定 である 現 在 日 本 においてデジタル 化 されている 出 版 物 は 国 立 国 会 図 書 館 でウェブ 公 開 している 15 万 冊 程 度 で 少 量 であるため Google の 動 きは 日 本 全 体 に 大 きな 影 響 を 与 えそうである 図 書 館 にもデジタル 化 の 影 響 は 大 きい 前 述 のように 国 立 国 会 図 書 館 でもデジタル 化 計 画 というものが 存 在 する これは 戦 前 のものは 閲 覧 可 能 にするが 戦 後 のものは 閲 覧 不 可 というモデルである また 館 長 の 長 尾 氏 は デジタル 時 代 の 無 償 貸 し 出 しは 本 の 売 上 に 影 響 を 及 ぼす と 考 え 有 償 貸 し 出 しを 考 案 している ( 長 尾 モデル) このようにデジタルネットワーク 社 会 において 出 版 物 をどう 利 用 活 用 していけばい いかは 国 立 図 書 館 だけではなく 国 も 考 えている 総 務 省 文 部 科 学 省 経 済 産 業 省 の 三 つの 省 が 3 省 共 同 懇 談 会 (3 省 デジ 懇 ) というものを 設 立 し 今 後 のデジタルネット ワーク 社 会 でどのような 施 策 とアクションプランを 行 っていけばいいかを 検 討 した 5 まとめ ここまで 様 々な 視 点 から 電 子 書 籍 を 見 てきたが 今 後 普 及 するためにはいったい 何 が 必 要 なのであろうか 大 きく 分 けて 三 つあると 思 う 1 電 子 ブックリーダーを 本 の 代 替 品 としてより 使 いやすい 媒 体 にする 例 : 軽 量 化 拾 い 読 み 等 の 実 現 2 紙 の 本 では 実 現 できないような 独 自 の 強 みを 持 たせる 例 : 動 画 や 音 楽 を 絡 ませた 独 自 のエンターテイメントを 提 供 3 購 入 レンタル ( 図 書 館 ) 売 却 のインフラ 整 備 買 ったものの 所 有 権 の 確 保 は 予 想 以 上 に 難 しいなか それをどのように 可 能 にするか このような 困 難 のほかにも 国 土 が 広 大 であるが 故 に 書 店 インフラが 整 備 されてい ないアメリカで 電 子 書 籍 が 流 通 したのは 最 もではあるが 書 店 インフラがしっかり 整 備 さ れている 日 本 において 普 及 は 難 しいのではないか ( 小 城 武 彦 丸 善 社 長 朝 日 新 聞 8 月 28 日 ) という 意 見 や デジタル 書 籍 は 今 後 拡 大 を 見 せるであるが 細 かいニュアンスが 大 135
コンピュータ 産 業 研 究 会 2010 年 9 月 3 日 事 になってくる 書 物 や 単 純 でない 文 章 等 は 紙 の 書 籍 でしか 読 み 込 めない よってこれから も 書 籍 や 雑 誌 の 重 要 性 が 失 われることはない ( 田 原 総 一 朗 緊 急 提 言! デジタル 教 育 は 日 本 を 滅 ぼす )といった 意 見 も 存 在 するのは 事 実 である しかし 今 後 電 子 書 籍 市 場 は 2014 年 に 2009 年 の 約 2.3 倍 の 1,300 億 円 市 場 に 達 するともいわれている 特 に スマー トフォン 市 場 を 含 む 新 プラットフォーム 市 場 が 急 速 に 成 長 することが 予 想 されている こ のような 困 難 を 乗 り 越 え 日 本 においても 電 子 書 籍 市 場 が 拡 大 していくことを 期 待 する 136