1.はじめに MOL COMFORT 事 故 について NK 大 型 コンテナ 船 安 全 検 討 会 報 告 書 を 読 んで 2013 年 6 月 大 型 コンテナ 船 MOL COMFORT がインド 洋 で 荒 天 中 折 損 後 沈 没 した 神 田 修 治 これについて 国 交 省 日 本 海 事 協 会 (NK)を 中 心 とした 事 故 検 討 が 行 われ 2014 年 9 月 に 報 告 書 が 出 された (1) この 報 告 書 を 一 読 して 私 が 理 解 したことや 感 想 等 を 記 す 私 は 造 船 技 術 者 OB だが 現 役 中 主 に 潜 水 艦 艤 装 設 計 をやったので 水 上 船 の 船 体 構 造 強 度 に 関 しては 門 外 漢 であるが ひとりの 造 船 技 術 者 としてこの 問 題 に 関 心 を 持 ってきたので 雑 駁 ながら 考 察 したものである なお 事 故 船 MOL COMFORT は 2007 年 竣 工 の 8000TEU 大 型 コンテナ 船 MOL CREATION シリーズの 一 船 で 新 開 発 の 47k 高 張 力 鋼 を 使 用 して 船 殻 の 軽 量 化 と 省 エネ 化 を 図 った 高 度 技 術 のコンテナ 船 であり 紹 介 記 事 が 発 表 されている (2)(7) 2. 報 告 書 の 一 読 理 解 2.1 強 度 規 則 との 適 合 性 と 事 故 発 生 の 可 能 性 報 告 書 は 事 故 船 (A 船 )は 強 度 規 則 (IACS rule)に 適 合 しているとしている しかし 一 方 本 船 の 船 体 縦 曲 げ 強 度 と 外 力 による 曲 げモーメント 荷 重 それぞれについての 出 現 分 布 等 を 考 慮 し 検 討 すると 強 度 の 確 率 曲 線 左 側 と 荷 重 の 確 率 曲 線 右 側 は 重 なる 部 分 があり 確 率 は 小 さいがこのよ うな 事 故 は 起 こりうるとしている 2.2 縦 曲 げ 最 終 強 度 に 対 する 余 裕 度 の 他 船 との 比 較 検 討 報 告 書 は 次 の 項 目 につき 事 故 船 (A 船 )と 就 役 他 船 (B Q 船 の 16 例 )を 比 較 している 1 縦 曲 げ 強 度 規 則 (IACS) 要 求 値 に 対 する 余 裕 度 2 縦 曲 げ 最 終 強 度 (スミスの 方 法 )の 規 則 荷 重 に 対 する 余 裕 度 33 ホールドモデルの FEM シミュレーションによる 最 終 強 度 の 規 則 の 荷 重 に 対 する 余 裕 度 なお 上 記 16 例 はいずれも 6000~8000TEU の 大 型 コンテナ 船 である 1の 縦 曲 げ 強 度 規 則 の 余 裕 度 は A 船 で 1.08~1.10 他 船 では 1.03~1.39 で 差 はないとしている 2の 縦 曲 げ 最 終 強 度 の 余 裕 度 は A 船 で 2.25 他 船 では 2.20~2.80 で 差 はないとしている 3の 3 ホールドモデルシミュレーション 最 終 強 度 については 次 のように 差 があると 述 べている 余 裕 度 は A 船 1.28 他 船 では 1.48~2.12 で A 船 が 最 小 である 船 底 構 造 について 水 圧 による 面 外 荷 重 縦 曲 げモーメント 波 荷 重 を 考 え 船 底 外 板 の 二 軸 圧 縮 防 撓 パネルの 座 屈 により 座 屈 崩 壊 が 発 生 するか 否 かの 二 軸 応 力 ( 船 幅 方 向 船 長 方 向 ) 領 域 限 界 線 を 求 めて 比 較 し 共 通 の 条 件 のもとで 他 船 では 座 屈 崩 壊 が 発 生 しない 領 域 にあるのに 対 し A 船 のみは 座 屈 崩 壊 が 発 生 する 領 域 にあることがわかった 以 上 を 要 するに 事 故 船 A 船 と 他 船 ( 複 数 16 例 )を 比 較 すると 事 故 船 と 他 船 はともに 規 則 を 満 足 しており 縦 曲 げ 最 終 強 度 の 余 裕 度 もスミス 法 では 事 故 船 と 他 船 には 差 はないが 3 ホールド モデルシミュレーションによる 最 終 強 度 の 余 裕 度 には 差 があり 事 故 船 が 余 裕 度 最 小 となってい る そして 船 底 にかかる 水 圧 による 面 外 荷 重 を 考 えた 防 撓 パネルの 二 軸 圧 縮 においてある 共 通 の 条 件 下 では 他 船 は 安 全 領 域 内 なのに 対 し 事 故 船 ではこれより 外 れることが 判 った 1
3. 船 体 強 度 について 前 項 には 縦 曲 げ 強 度 座 屈 崩 壊 最 終 強 度 等 の 語 句 が 出 ているので 不 完 全 ながらこれらの 解 説 を 記 しておく これらは 船 舶 工 学 の 基 礎 事 項 であり 関 係 者 には 周 知 のことだが 私 自 身 門 外 漢 なので 知 識 を 整 理 するとともに 以 後 の 記 述 において MATRIX 読 者 と 認 識 を 共 有 するために 記 す また 余 裕 度 とは 安 全 率 と 同 様 の 概 念 と 思 うが これについても 私 の 理 解 を 整 理 しておく 3.1 縦 曲 げ 強 度 ハルガーダ( 船 体 梁 ) 強 度 船 体 を 一 本 の 中 空 矩 形 断 面 の 梁 とみなし これが 海 に 浮 かんだとき 重 力 と 浮 力 の 差 の 前 後 方 向 の 分 布 や 波 の 影 響 によりこの 梁 は 上 または 下 に 弓 なりになるが これをそれぞれホギング サギ ングといい これに 対 する 強 度 を 縦 曲 げ 強 度 またはハルガーダ( 船 体 梁 ) 強 度 という 縦 曲 げ 強 度 は ホギング サギングにより 船 体 部 材 に 発 生 する 応 力 を 梁 理 論 により 計 算 し この 応 力 が 部 材 の 材 料 ( 鋼 材 )の 強 度 ( 引 張 強 度 降 伏 強 度 )に 対 して 余 裕 をもってある 値 以 下 になるように 部 材 の 寸 法 を 設 計 する この 余 裕 を 余 裕 度 または 安 全 率 という この 余 裕 について 船 級 協 会 等 では 事 故 な く 就 役 している 船 および 事 故 を 起 こした 船 に 関 する 多 数 の 実 績 データを 調 査 し それらに 基 づき 余 裕 度 を 判 断 して 船 級 規 則 に 部 材 の 所 要 寸 法 等 を 規 定 している 3.2 座 屈 崩 壊 と 最 終 強 度 について ところが 上 記 のように 応 力 を 基 準 尺 度 とし これに 余 裕 を 見 て 設 計 するという 方 法 は 現 実 に 起 こる 破 損 を 注 視 しそれが 起 こらないようにするという 考 え 方 からして 適 切 かという 問 題 がある なかでも 座 屈 現 象 は 鋼 材 の 降 伏 の 有 無 にわたって 発 生 し これが 起 点 となって 船 体 全 体 が 折 損 す るという 座 屈 崩 壊 現 象 があり これに 対 する 強 度 は 最 終 強 度 といわれ NK では 2006 年 から 鋼 船 規 則 に 取 入 れられている 私 は 海 技 大 学 校 非 常 勤 講 師 在 職 中 2004 年 図 書 室 で 読 書 して 英 国 の 教 科 書 BASIC SHIP THEORY (3) で 縦 曲 げ 強 度 において 座 屈 の 問 題 があることを 知 り また 1985 年 の RINA 論 文 集 を 読 んで 1901 年 英 海 軍 駆 逐 艦 COBRA 折 損 沈 没 事 故 があり 事 故 当 時 原 因 不 明 とされたが 80 年 以 上 後 の 検 討 の 結 果 座 屈 を 考 えれば 起 こりうることとした 論 文 (4)を 読 み しぶとい 原 因 究 明 態 度 とそのようなことをキチンと 教 科 書 に 記 すという 英 国 海 事 世 界 の 力 量 に 感 心 したことがある 近 年 日 本 でも 研 究 が 進 み 私 は 2010 年 大 阪 で 開 催 された 最 終 強 度 に 関 する 講 習 会 (5)に 参 加 した また 最 近 2012 年 に 出 版 された 日 本 船 舶 海 洋 工 学 会 の 教 科 書 (6)にも 記 載 され た 私 は MOL COMFORT 事 故 の 写 真 を 見 た 時 これは 座 屈 崩 壊 ではないかと 直 感 した 3.3 余 裕 度 安 全 率 について 安 全 率 ( 余 裕 度 )とは 破 損 等 が 起 こると 考 えられる 荷 重 A と 実 際 にかかると 考 えられる 荷 重 B と の 比 である 上 記 3 1 項 の 縦 曲 げ 強 度 の 場 合 は A としては 部 材 鋼 材 の 降 伏 応 力 とされるが こ れは 降 伏 応 力 を 超 えると 部 材 に 永 久 変 形 を 生 じて 不 具 合 という 観 点 からも 妥 当 と 言 える B とし ては 船 の 運 航 中 考 えられる 載 貨 や 波 等 の 最 酷 状 態 を 考 え これを 条 件 として 部 材 に 発 生 する 応 力 を 計 算 する そうすると 安 全 率 は A/B となる 安 全 率 が 大 ということは 安 全 性 が 大 と まずは 言 うことができる ところが 安 全 率 には 強 度 や 荷 重 の 予 測 等 が 完 全 でなく 未 知 の 要 因 があることに 備 えた 余 裕 という 側 面 もある すなわち 未 知 要 因 が 大 きい 場 合 は 安 全 率 も 大 きく 取 る 必 要 があり 解 明 理 解 が 進 み 未 知 要 因 が 小 となれば 安 全 率 も 小 とすることができるのである 例 えば NK 規 則 の 縦 曲 げ 強 度 に 関 しては 1970 年 代 の 規 定 から 私 が 逆 算 すると 軟 鋼 ( 降 伏 応 力 24kgf/mm2)に 対 し 許 容 応 力 15kgf/mm2 程 度 となるから 安 全 率 は 24/15=1.60 程 度 であった 1987 年 NK 規 則 は 改 正 され これについて 同 様 に 逆 算 すると 許 容 応 力 は 17.84kgf/mm2 になり 安 全 率 は 1.33 に 下 2
がった これは 海 洋 波 や 船 体 構 造 の 強 度 的 応 答 などについての 解 明 が 進 んだ 成 果 といえる 従 って 注 意 すべきことは 安 全 率 が 大 きいことは 安 全 性 が 高 いこととまずは 言 えるが 他 面 未 知 要 因 に 対 する 余 裕 という 側 面 から 見 ると 逆 に 技 術 が 進 むと 安 全 率 は 低 くすることができる ともいえる 余 裕 度 安 全 率 を 考 えるときこの 二 面 性 に 注 意 しなければならない 4. 報 告 書 を 読 んだ 感 想 4.1 最 終 強 度 について 日 本 のコンテナ 船 技 術 について 報 告 書 は この 事 故 は 船 底 外 板 の 局 部 的 座 屈 が 起 点 となった 座 屈 崩 壊 で 最 終 強 度 の 問 題 であ るとしている これは 前 記 (3.2 項 )の 私 の 直 感 とも 合 致 しており やはりそうか と 私 は 思 った 報 告 書 は 類 似 の 健 全 な 他 船 について 同 様 の 検 討 を 行 い 比 較 し 事 故 船 は 最 終 強 度 に 関 する 余 裕 度 が 他 船 に 比 べて 小 であり また 船 底 にかかる 水 圧 の 面 外 荷 重 を 考 えた 二 軸 圧 縮 応 力 下 におけ る 座 屈 崩 壊 について ある 共 通 の 条 件 下 で 他 船 では 発 生 しないのに 事 故 船 では 発 生 すると 述 べて いる 最 終 強 度 は 近 年 になって 重 要 問 題 として 取 上 げられ 日 本 でも 2006 年 NK 規 則 に 取 入 れ られ 2010 年 船 舶 海 洋 工 学 会 の 講 習 会 が 行 われ 2012 年 発 行 の 教 科 書 にも 取 上 げられたことと 私 は 認 識 している(3.2 項 参 照 ) このように 近 年 議 論 が 進 み 学 会 の 講 習 会 が 行 われ NK 規 則 や 教 科 書 にも 取 り 入 れられ 斯 界 で 注 目 されている 現 象 が 原 因 となって この 事 故 は 起 こった といえる もしそうなら これは 事 前 に 心 配 して 予 防 対 策 や 余 裕 をとることが 他 船 に 比 べ 不 足 で あったための 事 故 という 可 能 性 がある もちろん 操 船 等 他 の 要 因 も 考 えなければならないがそれ は 現 在 不 明 である 報 告 書 では 事 故 船 は 規 則 に 適 合 していたとしているが 規 則 適 合 ということ で 済 ませることはできない 問 題 であると 私 は 思 う 規 則 適 合 の 船 が 事 故 を 起 こしたということは 規 則 に 不 備 があったとも 言 え 報 告 書 記 載 のように 規 則 の 見 直 しは 当 然 必 要 と 思 うが その 他 にも 考 えなければならない 問 題 があると 思 う 近 年 はマニュアル 化 などといい 規 則 やマニュアル 通 りであればそれで 善 とすることが 多 いよう だがそれでは 不 足 と 私 は 思 う 人 間 の 細 心 で 周 到 な 注 意 や 心 配 を 加 えた 設 計 工 作 検 査 運 用 等 の 技 術 活 動 が 大 切 であると 思 う マニュアルやコンピュータシステムが 発 達 するのは 善 いこと だが そのために 人 間 能 力 が 低 下 することがあるのではないか あってはならないと 思 う 現 在 大 型 コンテナ 船 建 造 の 世 界 では 韓 国 勢 に 席 巻 され 10,000TEU を 超 える 大 型 コンテナ 船 は 現 在 (2014 年 11 月 ) 竣 工 ベースで 日 本 は 川 崎 NACKS のみ 建 造 実 績 はあるが それ 以 外 は 実 績 無 しという 状 況 である これは 技 術 的 経 験 が 途 切 れるということで 上 記 の 事 前 の 注 意 や 心 配 と いうことに 影 響 があるのではないかと 私 は 思 う これまで 私 は 日 本 のコンテナ 船 は 建 造 隻 数 は 少 なく 超 大 型 化 の 先 端 でもないが 安 全 確 保 や 省 エネ 等 の 面 ではシッカリしていると 思 ってき た しかしこの 事 故 に 直 面 し 報 告 書 を 読 んで そうではないことを 思 い 知 らされた 大 変 残 念 なことである 4.2 余 裕 度 安 全 率 について 造 船 技 術 者 の 自 己 評 価 と 自 負 報 告 書 では 事 故 船 の 他 にも 類 似 の 船 について 同 様 の 検 討 を 行 い 比 較 して 事 故 船 は 最 終 強 度 に 対 する 余 裕 度 が 他 船 に 比 べ 最 も 低 いとしている 余 裕 度 というものは3.2 項 でのべたように 未 知 要 因 が 大 きければ 余 裕 大 が 必 要 で 技 術 が 進 んで 未 知 要 因 が 減 少 すれば 余 裕 度 を 小 にすること 3
ができる 従 って 余 裕 度 には 未 知 要 因 に 対 する 自 己 の 現 有 技 術 力 をどう 認 識 し 評 価 するかとい う 人 間 技 術 者 のありかたを 反 映 するような 側 面 があると 思 う 事 故 船 は 新 開 発 の 47k 高 張 力 鋼 を 世 界 で 初 めて 使 用 しているがこの 鋼 材 は 降 伏 応 力 47kgf/mm2 これまでの 軟 鋼 24kgf/mm2 の 約 2 倍 の 強 度 を 有 するもので コンテナ 船 の 大 きな ハッチ 開 口 のため 断 面 積 が 小 さく 応 力 負 荷 の 大 きい 上 甲 板 部 に 使 用 されている (7) 事 故 船 はこ の 高 張 力 鋼 を 使 用 して 軽 量 な 船 殻 を 作 るという 狙 いのもと 当 然 構 造 の 軽 量 化 や 部 材 の 寸 法 低 減 が 図 られたと 思 う その 過 程 で 余 裕 度 は 極 力 低 く 抑 えられたと 思 うが そこには 造 船 所 技 術 者 の 我 々の 技 術 は 進 んでいる という 自 負 があったと 思 う しかし 自 負 の 行 き 過 ぎには 充 分 注 意 し 自 戒 することが 必 要 と 私 は 思 う 報 告 書 では 座 屈 崩 壊 最 終 強 度 に 対 する 余 裕 度 は 他 船 に 比 して 小 と 記 しているが ここに 自 負 の 影 響 があったのではないかと 私 は 思 う これに 関 連 して 以 前 私 が 本 船 の 紹 介 記 事 (2)を 読 んだとき その 中 に コンテナ 船 はどこでもできる 船 大 手 が 造 る 船 で はない という 発 言 が 記 されていたが これに 私 は 違 和 感 を 覚 えた 5. 課 題 報 告 書 を 読 んだ 後 に 思 う 疑 問 等 5.1 品 質 管 理 材 料 引 当 管 理 の 問 題 事 故 船 には 47k 高 張 力 鋼 が 使 用 されている この 特 別 な 材 料 が 強 度 部 材 として 所 定 の 位 置 に 正 しく 充 当 されていたかの 品 質 管 理 について 報 告 書 には 記 載 がないが どうであったか 私 の 経 験 で 潜 水 艦 建 造 においても 種 々の 高 張 力 鋼 が 使 用 されたが 高 張 力 の 等 級 に 応 じて 鋼 材 のプライ マーの 色 を 変 える 等 の 工 夫 をし 以 後 の 追 跡 確 認 のための 記 録 手 段 が 取 られていたが 事 故 船 で はどうであったか 事 故 船 が 沈 没 した 今 となってはこのような 記 録 により 追 跡 確 認 すること(トレ ーサビリティ)が 残 された 手 段 として 重 要 であるから 実 態 を 明 らかにすることが 大 切 と 思 う 5.2 乗 員 からの 海 象 条 件 や 破 損 状 況 等 の 情 報 この 事 故 では 乗 員 が 全 員 救 出 されたことは 不 幸 中 の 幸 いであった しかしこの 乗 員 からの 事 故 に 関 する 情 報 は 事 故 直 後 から 現 在 に 至 るまでまったくと 言 ってよ いほど 公 開 されず 報 告 書 にも 記 述 がない 乗 員 からの 情 報 特 に 当 時 の 海 象 状 況 とそれに 応 じ た 操 船 についての 情 報 すなわち 異 常 な 荒 天 や 波 浪 があったかどうか 荒 天 の 中 で 意 図 的 減 速 等 の 荒 天 対 策 はどうであったか 船 体 が 折 損 した 時 の 音 響 や 衝 撃 はどうであったか 等 々は 今 回 事 故 の 原 因 究 明 と 今 後 の 対 策 検 討 のために 重 要 なことであるので 調 査 公 表 すべきと 思 う 5.3 運 輸 安 全 委 員 会 運 輸 安 全 委 員 会 は 2008 年 に 発 足 した 私 たち MTS では 2009 年 103 例 会 において 委 員 会 発 足 の 意 義 や 役 割 について 講 演 (8)を 聴 いたが この 委 員 会 は 重 大 な 海 難 例 えば 国 際 航 路 に 従 事 する 500GT 以 上 の 船 舶 の 全 損 等 の 事 故 を 担 当 することとなっているので 今 回 事 故 の 調 査 はこの 委 員 会 の 役 割 ではないかと 思 う 前 項 の 乗 員 からの 情 報 についてもこの 委 員 会 が 調 査 するのが 適 当 と 私 は 思 う しかるにこの 委 員 会 のこの 事 故 に 関 する 調 査 活 動 についてはほとんど 発 表 されてい ないようである この 委 員 会 の 役 割 範 囲 が 日 本 籍 船 日 本 領 海 に 限 定 される 等 の 事 情 があるのだ ろうか もしそうであるならば 本 船 のような 便 宜 置 籍 船 は 日 本 造 船 所 が 日 本 船 社 のために 建 造 した 船 舶 であるにもかかわらず 運 輸 安 全 委 員 会 の 調 査 検 討 から 漏 れてしまうと 思 う 現 今 の ように 便 宜 置 籍 船 が 圧 倒 的 に 多 い 日 本 海 運 造 船 界 において これでは 船 舶 のようなグローバルな 運 輸 システムの 安 全 確 保 のうえで 不 備 であるとともに 日 本 の 造 船 技 術 にとっても 事 故 に 学 ぶ 4
チャンスが 失 われることになると 思 う もともと 運 輸 安 全 委 員 会 は 海 難 事 故 に 対 して 責 任 とか 懲 戒 とは 別 に 事 故 原 因 を 科 学 技 術 的 に 究 明 しようとする 理 念 であると 思 われるので 国 籍 とか 領 海 のような 限 界 に 縛 られずに 活 動 できる 仕 組 みが 必 要 ではないかと 私 は 思 う 5.4 地 球 温 暖 化 と 海 象 条 件 悪 化 について 現 在 地 球 温 暖 化 の 環 境 問 題 が 言 われ 現 実 に 海 水 温 度 の 上 昇 が 観 測 されている 海 水 温 度 の 上 昇 は それと 接 する 大 気 へのエネルギー 供 給 の 増 大 となり 大 気 の 不 安 定 や 乱 れ 台 風 や 荒 天 の 激 甚 化 をまねくと 予 想 される これは 今 後 の 船 体 強 度 検 討 において 考 慮 すべき 外 力 荷 重 の 増 大 となり これまでの 関 係 規 則 では 強 度 不 足 という 事 態 をきたす 可 能 性 があると 思 う これまで 私 たちの 有 する 海 象 データの 見 直 し 規 則 の 見 直 し 等 が 必 要 になると 思 う 船 体 強 度 に 関 する 要 因 のみでなく 荒 天 中 抵 抗 増 大 等 船 舶 技 術 一 般 に 関 する 基 礎 的 事 項 につき 多 くの 見 直 しが 必 要 になると 思 われる これらに 関 する 観 測 とデータ 蓄 積 と 予 測 の 活 動 が 重 要 になると 思 う 6.おわりに 今 回 事 故 は 人 命 の 喪 失 はなく 財 産 の 損 失 についても 海 上 保 険 等 により 補 償 されるようである が 事 故 原 因 等 の 技 術 的 観 点 からは それで 済 ますことのできない 問 題 であると 私 は 思 う 報 告 書 で 推 定 している 原 因 は 座 屈 崩 壊 最 終 強 度 という 近 年 話 題 となり 周 知 のことであり これが 原 因 で 事 故 となったことは 問 題 であると 思 う 日 本 造 船 全 体 の 問 題 ではないと 思 うが しかし 各 造 船 所 技 術 者 はこれを 他 山 の 石 として 検 討 吟 味 しシッカリ 補 強 しなければならないと 私 は 思 う また 私 が 思 うには ものづくり 船 づくりの 世 界 では やはり 自 分 の 頭 や 感 覚 器 官 や 手 足 を 使 っ て 実 際 に 船 をつくり その 船 を 使 いこなすという 経 験 が 大 切 だと 思 う そのような 経 験 教 訓 の 中 から 例 えば 船 底 外 板 の 座 屈 を 防 ぐために 骨 材 を 増 やしておくとか 材 料 の 引 当 は 適 切 か 確 認 し 記 録 するとか 溶 接 歪 を 管 理 するとか 運 航 中 各 部 に 異 常 な 変 形 が 発 生 していないか 確 認 し もしあれば 対 策 するとかの 経 験 豊 かな 人 間 による 普 段 の 細 かい 地 道 な 努 力 によってものづくり が 達 成 されるのだと 思 う このような 営 々とした 経 験 が 途 切 れると 人 間 の 能 力 は 知 らず 知 らず のうちに 低 下 するような 気 がする 船 づくりには 船 を 造 るという 経 験 の 継 続 が 大 切 と 思 う グロ ーバルなきびしい 価 格 競 争 で 受 注 が 困 難 ななか また 他 方 では 経 験 豊 かな 人 間 地 道 な 努 力 の 人 材 が 逼 迫 している 現 在 さらにいまどきの 風 潮 世 相 を 考 えると これはまことに 困 難 な 苦 難 の 道 であるが 工 夫 と 努 力 を 重 ねて 船 づくりの 経 験 を 絶 やさず 足 元 を 固 めなければならないと 思 う 参 考 文 献 (1) 大 型 コンテナ 船 安 全 検 討 報 告 書 ClassNK 2014.9 pp33~ (2)ニッポン 造 船 の 技 術 力 コンテナ 船 COMPASS 2007.11 (3)K.J.Rawson, E.C.Tupper, BASIC SHIP THEORY, 5 th ed. B&H 2001/1968 (4)J.A.Faulkner, The Loss of HMS COBRA, A Reassessment RINA 1985 (5)ここをもっと 知 りたい CSR 最 終 強 度 日 本 船 舶 海 洋 工 学 会 関 西 支 部 講 習 会 テキスト 2010 (6) 藤 久 保 昌 彦 他 船 体 構 造 構 造 編 船 舶 海 洋 シリーズ6 日 本 船 舶 海 洋 工 学 会 成 山 堂 2012 (7) 末 永 一 夫 他 MOL CREATION の 紹 介 咸 臨 18 pp51 2008.05 (8) 西 村 敏 和 運 輸 安 全 委 員 会 の 発 足 MATRIX67 pp13~ 2009.12 5