2014 年 9 月 17 日 放 送 真 菌 性 眼 内 炎 の 予 防 と 治 療 兵 庫 医 科 大 学 感 染 制 御 部 講 師 中 嶋 一 彦 はじめに カンジダ 血 症 真 菌 による 眼 内 感 染 症 は 眼 科 手 術 や 外 傷 コンタクトレンズなどが 原 因 でフサリウム 属 やアスペルギルス 属 などの 糸 状 菌 による 感 染 症 を 生 じる 外 因 性 のもの と 血 流 を 介 して 主 にカンジダ 属 が 眼 内 に 運 ばれ 眼 内 で 増 殖 炎 症 を 生 じる 内 因 性 に 分 けることができます 今 回 は 眼 科 以 外 の 一 般 診 療 科 でも 広 くみられる 内 因 性 の 真 菌 性 眼 内 炎 について 解 説 します 内 因 性 眼 病 変 の 病 態 内 因 性 の 眼 病 変 の 病 態 は 真 菌 血 症 により 脈 絡 膜 の 血 管 に 運 ばれ 肉 芽 腫 性 脈 絡 膜 炎 を 生 じます 病 巣 はブルッフ 膜 を 越 え 網 膜 に 炎 症 が 及 びます 網 膜 にとどまる 場 合 は 脈 絡 網 膜 炎 となり 広 い 意 味 での 眼 内 炎 といえます そして 網 膜 からさらに 硝 子 体 へ 感 染 が 進 展 すると 硝 子 体 混 濁 を 生 じ 硝 子 体 に 膿 瘍 を 形 成 し 狭 い 意 味 での 眼 内 炎 となり ます また 網 膜 の 炎 症 が 拡 大 することにより 網 膜 剥 離 を 生 じ 重 度 の 視 力 低 下 や 失 明 を きたし 患 者 さんの 生 活 の 質 を 著 しく 低 下 させることになります
原 因 菌 とリスク 因 子 内 因 性 真 菌 性 眼 病 変 の 原 因 となる 真 菌 で 最 も 多 いものはカンジダ 属 で 90%を 占 める とされています カンジダ 属 の 他 にはアスペルギルス 属 クリプトコックス 属 などが 続 きます カンジダ 属 のなかでは Candida albicansが 最 も 多 く 44~60% C.tropicalis13~19% C.glabrata 8~19% C.parapsilosis 5%であったと 報 告 されています カンジダ 性 眼 病 変 はカンジダ 血 症 が 主 な 原 因 となりますので カンジダ 血 症 の 重 要 な 原 因 として 血 管 内 留 置 カテーテルがあげられます カンジダ 属 はカテーテル 関 連 性 血 流 感 染 の 原 因 菌 としては 4 番 目 に 多 く 血 流 感 染 の 9%はカンジダ 属 であったと 報 告 され ており 真 菌 性 眼 病 変 の 90%は 中 心 静 脈 カテーテルなど 靜 脈 内 にカテーテルの 留 置 がな されている 患 者 さんであったとの 報 告 があります その 他 の 本 症 のリスク 因 子 として 消 化 管 や 心 血 管 手 術 後 多 発 外 傷 広 範 囲 熱 傷 アルコール 中 毒 血 液 透 析 麻 薬 注 射 の 濫 用 臓 器 移 植 血 液 悪 性 腫 瘍 好 中 球 減 少 症 糖 尿 病 ステロイドや 広 域 抗 菌 薬 を 使 用 されている 患 者 さんなどがあげられます カンジダ 性 眼 病 変 の 臨 床 症 状 カンジダ 血 症 を 生 じた 患 者 さんのうち 脈 絡 網 膜 炎 から 硝 子 体 浸 潤 まで 含 め 眼 病 変 を 合 併 する 割 合 は 15~29%とされています 近 年 では 真 菌 性 眼 病 変 の 危 険 性 が 啓 発 されつ つあることで カンジダ 血 症 における 抗 真 菌 薬 の 早 期 開 始 の 重 要 性 が 認 識 され 重 篤 な 真 菌 性 眼 病 変 は 以 前 より 減 少 したとされますが 硝 子 体 まで 浸 潤 を 来 す 割 合 はカンジダ 性 眼 病 変 全 体 の 内 のうち 10% 程 度 はあるとされま す また カンジダ 血 症 が 証 明 されず 眼 症 状 から 眼 病 変 が 診 断 された 症 例 では 硝 子 体 浸 潤 を 来 すことはまれで はありません カンジダ 性 眼 病 変 の 臨 床 症 状 は 初 期 には 眼 症 状 は 見 られないとされます 脈 絡 膜 を 越 え 硝 子 体 へ 炎 症 が 生 じると 飛 蚊 症 目 のかすみなどがみられ 眼 病 変 が 進 行 すると 視 力 の 低 下 や 眼 痛 なども 出 現 します 診 断 のためには 血 液 培 養 から 真 菌 が 検 出 されれば 必 ず 眼 科 医 による 眼 底 検 査 が 必 要 です また 真 菌 血 症 がなくとも 抗 菌 薬 不 応 性 の 発 熱 や 炎 症 所 見 が 持 続 し 視 力 低 下 飛 蚊 症 眼 痛 などの 症 状 が 有 る 際 にも 眼 病 変 の 存 在 を 疑 う 必 要 があります 深 在 性 真 菌 症 の 補 助 診 断 に 用 いられる 血 清 β-d グルカンの 値 が 高 値 を 持 続 する 際 にも 真 菌 性 眼 病 変 が
存 在 しないか 検 査 する 必 要 があります カンジダ 血 症 が 判 明 した 患 者 さんで 初 回 の 眼 底 検 査 では 眼 病 変 がみられない 場 合 で も 1 週 間 後 の 再 検 査 で 10% 程 度 に 眼 病 変 が 見 られたとの 報 告 もありますので カンジ ダ 血 症 が 判 明 した 直 後 だけではなく 1 週 間 後 にも 再 度 眼 底 検 査 を 行 う 必 要 があります 眼 底 検 査 では 初 期 病 変 は 網 脈 脈 絡 膜 炎 であり 黄 白 色 の 滲 出 斑 がみられ ます 進 行 し 硝 子 体 への 炎 症 が 波 及 す ると 羽 毛 状 雪 玉 状 数 珠 状 とよば れる 硝 子 体 混 濁 が 出 現 し 眼 底 の 透 見 は 不 良 となります また 前 房 内 に 炎 症 細 胞 が 出 現 し 悪 化 するとフィブリ ン 析 出 前 房 蓄 膿 虹 彩 後 癒 着 続 発 性 緑 内 障 へと 進 行 することもあります 治 療 / 抗 真 菌 薬 選 択 のポイント 治 療 としては 第 一 にカンジダ 血 症 の 原 因 となる 中 心 静 脈 カテーテルなどは 早 急 に 抜 去 をする 必 要 があります それに 併 せて 抗 真 菌 薬 の 全 身 投 与 が 基 本 となります 抗 真 菌 薬 の 選 択 の 重 要 なポイントは 抗 真 菌 薬 の 眼 内 への 移 行 性 原 因 菌 種 および 重 症 度 にあ ります 抗 真 菌 薬 を 全 身 投 与 した 際 の 硝 子 体 への 抗 真 菌 薬 の 移 行 性 を 血 中 濃 度 と 比 較 すると アゾール 系 であるフルコナゾールは 69~85% 程 度 ボリコナゾールでは 約 53% イトラ コナゾールで 約 4%です 従 来 第 一 選 択 として 用 いられてきたアムホテリシン B も 移 行 性 は 15% 程 度 で 決 して 良 いわけではありません しかし アムホテリシン B 脂 質 化 製 剤 は 動 物 実 験 のモデルでは 旧 来 のアムホテリシン B より 移 行 性 が 良 とされるため アム ホテオリシン B 脂 質 化 製 剤 の 選 択 が 推 奬 されます また 抗 真 菌 薬 の 投 与 が 長 期 に 必 要 となることもあり 腎 障 害 の 副 作 用 を 防 ぐ 面 からもアムホテオリシン B 脂 質 化 製 剤 の 使 用 が 推 奬 されます なお アムホテオリシン B 脂 質 化 製 剤 の 使 用 にあたっては 低 K 血 症 を 来 しやすく 低 K 血 症 は 腎 機 能 障 害 につながるため 血 清 K のモニタリングと 補 充 を 行 う 必 要 があります 一 方 キャンディン 系 薬 は ミカファンギンでは 0.46% カ
スポファンギンは 検 出 できない 濃 度 であり キャンディン 系 薬 の 移 行 性 は 極 めて 不 良 で す 従 って 硝 子 体 に 病 変 が 有 る 場 合 にはキャンディン 系 薬 は 使 用 できません 一 方 網 膜 脈 絡 膜 へは 34% 程 度 移 行 するため 病 変 が 脈 絡 網 膜 内 にとどまる 際 に 限 り キャンデ ィン 系 薬 の 使 用 も 考 慮 されます 硝 子 体 浸 潤 が 強 い 場 合 や 黄 斑 部 に 近 い 部 位 に 病 変 がある 際 には アムホテリシン B 脂 質 化 製 剤 を 選 択 肢 し これに 加 え 眼 内 への 移 行 が 良 好 であるフルシトシンを 併 用 しま す しかし フルシトシンは 単 独 使 用 では 耐 性 化 を 来 しやすいため 必 ずアムホテリシ ン B 脂 質 化 製 剤 の 併 用 薬 として 用 います 原 因 となるカンジダ 属 の 菌 種 により 抗 真 菌 薬 の 感 受 性 に 違 いがあるため 血 液 培 養 や 眼 科 手 術 で 得 られた 菌 種 により 抗 真 菌 薬 を 使 い 分 ける 必 要 があります C.albicans で はホス-フルコナゾールが 第 一 選 択 になります 第 二 選 択 としてアムホテリシンB 脂 質 化 製 剤 やボリコナゾールが 選 択 されます また C.parapsilosis C.tropicalis もホス-フルコナゾールへの 感 受 性 も 良 いため ホス-フルコナゾールが 第 一 選 択 薬 となり 第 二 選 択 としてアムホテリシン B 脂 質 化 製 剤 とボリコナゾールが 選 択 されます 一 方 C.glabrata や C.krusei はホス-フルコナゾールへの 感 受 性 が 良 くありません C.glabrata によるカンジダ 血 症 などでは 感 受 性 のよいキャンディン 系 薬 が 使 用 されま すが 硝 子 体 へ 浸 潤 がある 際 には 移 行 性 を 考 慮 しアムホテリシン B 脂 質 化 製 剤 が 第 一 選 択 となります 第 二 選 択 としてミカファンギンやキャスポファンギンなどのキャンディ ン 系 薬 も 考 慮 されますが あくまでも 網 膜 に 病 変 がとどまる 際 にのみに 限 定 されます C.krusei は 第 一 選 択 としてボリコナゾールまたはアムホテリシン B 脂 質 化 製 剤 が 第 一 選 択 となりますが 感 受 性 試 験 を 行 い 感 受 性 があるものを 選 択 する 必 要 があります 原 因 となるカンジダ 属 が 不 明 な 場 合 には 第 一 選 択 薬 としてホスー フルコナゾールを 第 二 選 択 薬 としてボリコ ナゾールあるいはアム ホテリシン B 脂 質 化 製 剤 の 使 用 が 推 奬 されて います
難 治 症 例 では 病 巣 の 除 去 や 薬 剤 の 移 行 性 改 善 原 因 真 菌 の 検 体 採 取 を 目 的 として 硝 子 体 手 術 が 行 われます また 硝 子 体 手 術 ができず 全 身 投 与 では 改 善 が 得 られない 場 合 抗 真 菌 薬 の 全 身 投 与 に 加 え 硝 子 体 内 に 直 接 抗 真 菌 薬 が 注 入 されることもあります 抗 真 菌 薬 の 投 与 期 間 は 3 週 間 から 3 ヶ 月 程 度 は 必 要 であるとされますが 眼 底 検 査 に より 網 膜 病 変 が 完 全 に 瘢 痕 化 するまで 投 与 が 必 要 です また 抗 真 菌 薬 の 投 与 終 了 後 も 少 なくとも 6 週 間 までは 眼 底 検 査 を 行 い 眼 病 変 の 再 燃 が 生 じていないか 確 認 する 必 要 があります 眼 病 変 が 脈 絡 網 膜 炎 のみであれば 視 力 予 後 は 一 般 に 良 好 です カンジダ 性 眼 病 変 はカンジダ 血 症 に 伴 って 生 じることが 多 いため 発 症 自 体 を 予 防 す ることは 困 難 です しかし カンジダ 血 症 が 判 明 した 際 には 必 ず 眼 底 検 査 を 行 うことに より カンジダ 性 眼 病 変 を 早 期 に 発 見 することが 可 能 であり 正 しい 治 療 を 行 うことに より 重 症 化 を 防 ぎ 患 者 さんの 視 力 を 守 ることができます