Economic Trends マクロ 経 済 分 析 レポート テーマ: 景 気 回 復 の 重 石 になる 原 油 価 格 2014 年 7 月 10 日 ( 木 ) ~2008 年 並 上 昇 で 家 計 負 担 増 +2.1 万 円 / 年 今 年 度 経 済 成 長 率 0.22pt 押 し 下 げ~ 第 一 生 命 経 済 研 究 所 経 済 調 査 部 主 席 エコノミスト 永 濱 利 廣 (03-5221-4531) ( 要 旨 ) 日 本 の 石 油 会 社 が 産 油 国 から 輸 入 する 原 油 価 格 が 上 昇 している 仮 にイラクなどの 地 政 学 的 リス クの 高 まりによる 供 給 懸 念 が 原 油 価 格 を 押 し 上 げれば 日 本 経 済 に 悪 影 響 が 及 ぶ 可 能 性 がある 2008 年 にはサブプライムローン 問 題 をきっかけにマネーが 先 進 国 の 金 融 商 品 から 商 品 市 況 にシ フトし WTI 先 物 価 格 が 147 ドル/バレルにまで 上 昇 した そして 個 人 消 費 や 設 備 投 資 の 悪 化 を 通 じて 2008 年 3 月 からの 景 気 後 退 局 面 入 りの 引 き 金 を 引 いた 2008 年 の 円 建 てドバイ 原 油 価 格 は 年 平 均 で+19.8% 程 度 上 昇 した 仮 に 今 年 も 同 程 度 の 上 昇 率 を 記 録 すれば 消 費 者 物 価 を 通 じて 今 年 度 の 家 計 負 担 を 2.1 万 円 / 年 以 上 増 加 させる また 今 期 の 売 上 高 要 因 で+3.3%pt のプラスに 働 く 一 方 で 変 動 費 要 因 で 12.9%pt のマイナスに 働 くことを 通 じ 今 期 の 経 常 利 益 を 9.6%pt 押 し 下 げることになる 更 に 今 年 度 の 実 質 GDP 成 長 率 を 0.22%pt 程 度 押 し 下 げる 要 因 となる 過 去 の 原 油 価 格 との 関 係 を 用 いれば 2014 年 4-6 月 期 7-9 月 期 の 交 易 損 失 は 季 節 調 整 値 でそれぞれ 25.1 兆 円 25.9 兆 円 程 度 になると 予 測 され 2014 年 1-3 月 期 に 過 去 最 高 を 記 録 し た 同 24.5 兆 円 を 更 に 上 回 る 可 能 性 がある これは 日 本 のように 原 油 をはじめとした 資 源 の 多 くを 海 外 に 依 存 する 国 々とって 所 得 が 資 源 国 へ 流 出 し 続 ける 環 境 にあることを 意 味 する 来 年 10 月 の 消 費 税 率 引 き 上 げの 判 断 の 際 には 今 年 7-9 月 期 の 経 済 成 長 率 が 重 視 されるため 原 油 高 騰 に 伴 う 景 気 への 悪 影 響 が 現 実 のものとなれば 今 年 12 月 に 予 定 されている 消 費 税 率 引 き 上 げの 判 断 に 影 響 を 及 ぼすかもしれない はじめに 日 本 の 石 油 会 社 が 産 油 国 から 輸 入 する 原 油 価 格 が 上 昇 している 6 月 分 の 長 期 既 契 約 の 価 格 による と サウジアラビア 産 の 代 表 油 種 で 前 月 比 +2% 上 昇 しており 半 年 ぶりの 高 値 となっている 原 油 価 格 が 上 昇 すれば 企 業 の 投 入 コストが 上 昇 する 一 方 で その 一 部 が 産 出 価 格 に 転 嫁 される このため 変 動 費 の 増 分 が 売 上 高 の 増 分 に 対 して 大 きいほど 利 益 に 対 する 悪 影 響 が 大 きくなる 傾 向 がある 最 近 では 2007 年 から 2008 年 にかけて 原 油 価 格 が 高 騰 した その 際 レギュラーガソリンの 価 格 は 全 国 平 均 で 180 円 /lを 超 えた また 公 共 交 通 機 関 の 利 用 が 増 えた 一 方 で 燃 油 サーチャージ の 高 騰 で 海 外 旅 行 客 が 減 り 自 家 用 車 を 利 用 した 外 出 も 激 減 した 最 も 象 徴 的 な 影 響 としては 2008 年 に 景 気 後 退 の 引 き 金 を 引 いたことである 企 業 では 投 入 コスト の 上 昇 を 通 じて 企 業 収 益 が 大 きく 圧 迫 され 価 格 上 昇 が 最 終 製 品 やサービスまで 転 嫁 された このた め 家 計 にとっても 消 費 者 物 価 の 上 昇 を 通 じて 実 質 購 買 力 の 低 下 がもたらされ 売 上 面 からも 企 業 収 益 に 悪 影 響 が 及 んだ そして 個 人 消 費 や 設 備 投 資 の 悪 化 を 通 じて 2008 年 3 月 からの 景 気 後 退 局 面 入 りを 認 めざるを 得 なくなったという 経 緯 がある 2008 年 と 言 えば サブプライムローン 問 題 をきっか
けにマネーが 先 進 国 の 金 融 商 品 から 商 品 市 況 にシフトし 特 にWTI 先 物 価 格 は 147 ドル/バレルに まで 上 昇 した 以 上 の 事 実 を 勘 案 すれば 仮 にイラクなどの 地 政 学 的 リスクの 高 まりによる 供 給 不 安 が 原 油 価 格 を 押 し 上 げれば 日 本 経 済 に 悪 影 響 が 及 ぶことは 否 定 できない 家 計 の 負 担 増 は+1,788 円 / 月 円 建 ての 原 油 先 物 価 格 を 見 ると 今 年 1~7 月 までの 平 均 価 格 は 10,795 円 /バレルに 達 し 昨 年 平 均 から+4.8% 上 昇 している 一 方 2008 年 には 急 騰 の 後 の 急 落 により 年 平 均 で 9,649 円 /バレル にとどまったが 前 年 比 で 見 れば+19.8%も 上 昇 したことになる そこで 各 物 価 統 計 を 用 いて 円 建 てドバイ 原 油 価 格 と 各 物 価 の 前 年 比 の 関 係 を 見 ると 川 上 の 財 ほ ど 押 し 上 げ 圧 力 が 強 まるようだ 事 実 2011 年 1 月 ~2014 年 3 月 の 原 油 価 格 と 各 物 価 の 時 差 相 関 係 数 を 調 べると 国 内 企 業 物 価 で1ヵ 月 後 消 費 者 物 価 と 企 業 向 けサービス 価 格 で5ヵ 月 後 が 最 も 高 く なる そして 円 建 てドバイ 原 油 価 格 の+1% 上 昇 はそれぞれ 国 内 企 業 物 価 を 約 0.10% 消 費 者 物 価
を 約 0.027% 企 業 向 けサービス 価 格 を 約 0.021% 押 し 上 げる 関 係 があることが 分 かる( 資 料 3) 従 って この 関 係 を 用 いて 今 年 の 原 油 価 格 が 2008 年 と 同 程 度 の 上 昇 率 となった 場 合 の 影 響 を 試 算 すれば 円 建 て 原 油 価 格 が+19.8% 上 昇 することにより 国 内 企 業 物 価 が 19.8% 0.10% 1.98%pt 程 度 の 押 し 上 げ 圧 力 となる それに 続 くのが 消 費 者 物 価 で 19.8% 0.027 0.54%pt 程 度 そして 企 業 向 けサービス 価 格 も 19.8% 0.021% 0.42%pt 程 度 の 押 し 上 げ 圧 力 となり 幅 広 く 物 価 に 影 響 が 出 る 特 に 消 費 者 物 価 が 上 昇 すれば 家 計 にも 負 担 増 をもたらす このため 2013 年 における 二 人 以 上 世 帯 の 月 平 均 支 出 額 約 33.9 万 円 ( 総 務 省 家 計 消 費 状 況 調 査 )を 基 にすれば 0.54%pt の 消 費 者 物 価 の 上 昇 は 家 計 負 担 を 33.9 万 円 0.54% 1,788 円 / 月 程 度 年 に 換 算 すれば 約 2.1 万 円 以 上 増 加 させる 計 算 になる 円 安 の 好 影 響 を 上 回 る 原 油 高 の 悪 影 響 一 方 資 本 金 1000 万 円 以 上 の 非 金 融 法 人 企 業 の 経 常 利 益 を 要 因 分 解 し 2000 年 代 後 半 以 降 の 円 建 て 原 油 価 格 と 時 差 相 関 係 数 を 調 べると 円 建 て 原 油 価 格 の1% 上 昇 は1 四 半 期 後 の 売 上 高 要 因 に+ 0.16%pt 2 四 半 期 後 の 変 動 費 要 因 にそれぞれ 0.65%pt 程 度 寄 与 する 関 係 があることが 分 かる( 資 料 4 資 料 5) 従 って 今 年 の 円 建 て 原 油 価 格 が 2008 年 並 に+19.8% 上 昇 すると 仮 定 すれば 今 期 の 売 上 高 要 因 が+3.3%pt 増 益 に 働 くのに 対 し 変 動 費 要 因 が 12.9%pt 減 益 に 働 き 都 合 今 期 か ら 来 期 にかけての 経 常 利 益 を 9.6%pt 程 度 押 し 下 げることになる ( 注 ) 要 因 分 解 は 以 下 の 通 り π/π(-1)= S (1-v-w-r-d)/π(-1) 売 上 高 要 因 -S v/π(-1) 変 動 費 要 因 -S w/π(-1) 人 件 費 要 因 -S r/π(-1) 金 融 費 用 要 因 -S d/π(-1) 減 価 償 却 費 要 因 π: 経 常 利 益 S: 売 上 高 v: 売 上 高 変 動 費 比 率 w: 売 上 高 人 件 費 比 率 r: 売 上 高 純 金 融 費 用 比 率 d: 売 上 高 減 価 償 却 費 比 率 : 前 年 差
より 現 実 的 な 経 済 全 体 への 影 響 について 内 閣 府 短 期 日 本 経 済 マクロ 計 量 モデル(2011 年 版 ) の 乗 数 を 用 いて 試 算 すれば 今 年 の 原 油 価 格 が 2008 年 と 同 程 度 の 上 昇 率 となった 場 合 今 年 度 の 実 質 GDP 成 長 率 を 0.22%pt 押 し 下 げる 要 因 となる このように 足 元 の 円 安 原 油 高 はマクロ 全 体 で 見 ても 無 視 できない 悪 影 響 が 生 じる 可 能 性 がある また 原 油 価 格 と 我 が 国 の 交 易 利 得 ( 損 失 )には 強 い 相 関 がある( 資 料 6) 交 易 利 得 ( 損 失 )と は 一 国 の 財 貨 と 他 国 の 財 貨 との 数 量 的 交 換 比 率 である 交 易 条 件 が 変 化 することによって 生 じる 貿 易 の 利 得 もしくは 損 失 のことであり 輸 出 入 価 格 の 変 化 によって 生 じる 国 内 と 海 外 における 所 得 の 流 出 入 の 損 失 を 示 す そしてこの 関 係 に 基 づけば 2014 年 4-6 月 期 7-9 月 期 の 交 易 損 失 は 季 節 調 整 値 でそれぞれ 25.1 兆 円 25.9 兆 円 程 度 となり 2014 年 1-3 月 期 に 過 去 最 高 を 記 録 した 同 24.5 兆 円 を 更 に 上 回 る 可 能 性 がある
原 油 価 格 が 来 年 10 月 の 消 費 税 率 引 き 上 げの 判 断 を 左 右 する 可 能 性 も 近 年 はシェール 革 命 により 米 国 の 原 油 輸 入 が 減 っており 世 界 の 需 給 条 件 の 緩 和 を 反 映 して 原 油 価 格 の 抑 制 要 因 となっている しかし シェール 革 命 で 米 国 が 中 東 情 勢 の 安 定 にあまり 力 を 入 れなくな ると 依 然 として 中 東 原 油 に 大 きく 依 存 している 日 本 は その 影 響 を 受 ける 可 能 性 がある このため 今 後 も 中 東 情 勢 の 緊 迫 が 持 続 すれば ドバイ 産 の 原 油 価 格 は 更 なる 供 給 懸 念 の 状 態 が 続 こう 一 方 今 後 は 米 国 経 済 がQE3の 出 口 終 了 に 伴 い 利 上 げ 観 測 が 高 まることが 予 想 され 原 油 の 取 引 通 貨 であ るドルはさらに 上 昇 する 可 能 性 がある 従 って 今 後 もしばらく 原 油 の 輸 入 価 格 は 高 水 準 で 推 移 し 中 期 的 に 見 ても 原 油 の 輸 入 価 格 が 高 止 まる 可 能 性 がある これは 日 本 のように 原 油 をはじめとした 資 源 の 多 くを 海 外 に 依 存 する 国 々とって 所 得 が 資 源 国 へ 流 出 し 続 ける 環 境 にあることを 意 味 する 従 って 資 源 の 海 外 依 存 度 が 高 い 日 本 経 済 は 資 源 価 格 上 昇 の 悪 影 響 を 相 対 的 に 受 けやすく 構 造 的 に 苦 境 に 立 たされやすい 環 境 にあるといえよう 尚 足 元 の 原 油 先 物 価 格 は 先 月 後 半 をピークに 足 元 では 落 ち 着 いた 動 きになっている しかし イ ラク 情 勢 の 緊 迫 化 による 原 油 高 騰 のインパクトが 現 実 のものとなれば 政 府 が 今 年 12 月 に 最 終 判 断 するとされている 来 年 10 月 の 消 費 税 率 引 き 上 げの 判 断 に 大 きく 影 響 を 及 ぼすかもしれない という のも 判 断 の 際 に 最 も 重 視 される 経 済 指 標 が 今 年 12 月 に 公 表 される7-9 月 期 のGDP 二 次 速 報 値 とされているためである このため 本 来 原 油 価 格 が 落 ち 着 いていれば 年 率 換 算 で2%を 上 回 るは ずだった 経 済 成 長 率 が イラク 情 勢 の 悪 化 による 原 油 高 騰 に 伴 い 成 長 率 が 年 率 換 算 で2%を 下 回 るこ とも 想 定 される 足 元 の 景 気 に 関 しては 消 費 増 税 に 伴 う 駆 け 込 み 需 要 の 反 動 による 落 ち 込 みから 夏 場 にかけて 回 復 するとみられている しかし 今 後 の 景 気 動 向 を 見 通 す 上 では 中 東 情 勢 緊 迫 化 による 原 油 高 騰 と いったリスク 要 因 も 潜 んでいることには 注 意 が 必 要 であろう