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失 によって 告 知 事 項 について 事 実 を 告 げずまたは 不 実 のことを 告 げたときは 共 済 契 約 者 に 対 する 書 面 による 通 知 をもって 共 済 契 約 を 解 除 することができます た だし 当 組 合 がその 事 実 を 知 りまたは 過 失 によってこれを 知

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Q7 従 業 員 に 対 する 現 物 給 付 は 報 酬 給 与 額 に 含 まれます A7 法 人 が 役 員 又 は 使 用 人 のために 給 付 する 金 銭 以 外 の 物 又 は 権 利 その 他 経 済 的 利 益 (いわ ゆる 現 物 給 与 )については 所 得 税 において 給

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(1) 率 等 一 覧 ( 平 成 26 年 度 ) 目 課 客 体 及 び 納 義 務 者 課 標 準 及 び 率 法 内 に 住 所 を 有 する ( 均 等 割 所 得 割 ) 内 に 事 務 所 事 業 所 又 は 家 屋 敷 を 有 する で 内 に 住 所 を 有 し ないもの( 均 等

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1 特 別 会 計 財 務 書 類 の 検 査 特 別 会 計 に 関 する 法 律 ( 平 成 19 年 法 律 第 23 号 以 下 法 という ) 第 19 条 第 1 項 の 規 定 に 基 づき 所 管 大 臣 は 毎 会 計 年 度 その 管 理 する 特 別 会 計 について 資 産

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Transcription:

法 学 研 究 科 長 脇 田 滋 様 2014 年 2 月 7 日 審 査 委 員 会 主 査 脇 田 滋 副 査 矢 野 昌 浩 副 査 鈴 木 眞 澄 副 査 木 下 秀 雄 審 査 報 告 書 下 記 の 通 り 審 査 を 終 了 いたしましたのでご 報 告 いたします 1. 件 名 記 川 崎 航 史 郎 (かわさき こうしろう) 氏 の 申 請 にかかる 学 位 博 士 ( 法 学 ) ( 課 程 博 士 )の 論 文 の 審 査 2. 論 文 題 目 被 用 者 保 険 による 労 働 者 生 活 皆 保 障 の 法 的 課 題 3. 審 査 経 緯 対 象 論 文 を 審 査 するに 際 し 当 委 員 会 は 2014 年 1 月 29 日 に 口 述 試 問 を 実 施 し 別 紙 のような 結 論 を 得 るに 至 った なお 同 年 1 月 15 日 には 法 学 会 主 催 の 博 士 論 文 研 究 発 表 会 が 開 催 された 以 上 - 1 -

審 査 報 告 Ⅰ 論 文 の 構 成 川 崎 航 史 郎 氏 が 提 出 した 論 文 の 構 成 は 下 記 目 次 ( 主 要 項 目 のみ)の 通 りである 第 1 編 制 限 的 適 用 基 準 による 被 用 者 保 険 からの 排 除 第 1 章 パートタイマーに 対 する 健 康 保 険 厚 生 年 金 保 険 適 用 基 準 の 歴 史 的 形 成 過 程 第 1 節 健 康 保 険 厚 生 年 金 保 険 からのパートタイマー 排 除 による 無 年 金 無 保 険 者 の 大 量 発 生 第 2 節 戦 後 の 大 量 失 業 期 における 失 業 保 険 法 制 定 と 主 婦 の 排 除 第 3 節 主 婦 パートタイマーの 誕 生 と 健 康 保 険 厚 生 年 金 保 険 原 則 適 用 期 第 4 節 原 則 適 用 への 揺 さぶり: 適 用 基 準 をめぐる 関 係 者 の 綱 引 き 第 5 節 1980 年 における 方 針 転 換 第 6 節 1980 年 内 翰 の 法 的 問 題 点 第 7 節 検 討 第 8 節 適 用 対 象 のあり 方 第 2 章 低 所 得 零 細 事 業 所 労 働 者 の 被 用 者 保 険 からの 排 除 第 1 節 住 民 保 険 加 入 労 働 者 と 過 重 な 保 険 料 負 担 第 2 節 保 険 財 政 的 逆 選 択 論 を 理 由 とする 排 除 正 当 化 第 2 編 実 態 的 適 用 漏 れ 労 働 者 への 権 利 保 障 第 1 章 事 業 主 の 保 険 料 負 担 義 務 等 違 反 と 給 付 保 障 第 1 節 はじめに 第 2 節 事 業 主 の 被 保 険 者 資 格 取 得 届 出 と 厚 生 労 働 大 臣 による 被 保 険 者 資 格 確 認 の 法 構 造 第 3 節 確 認 規 定 創 設 時 の 議 論 第 4 節 労 働 保 険 徴 収 法 制 定 による 保 険 料 徴 収 権 発 生 の 構 造 変 化 第 5 節 事 業 主 の 義 務 違 反 による 保 険 料 不 徴 収 時 における 被 保 険 者 への 給 付 制 限 の 批 判 的 検 討 第 6 節 法 改 正 の 必 要 第 2 章 事 業 主 の 保 険 料 負 担 義 務 等 違 反 と 給 付 保 障 第 1 節 事 業 主 の 違 法 行 為 による 排 除 と 労 働 者 の 不 利 益 発 生 第 2 節 資 格 届 出 義 務 違 反 と 給 付 制 限 第 3 節 国 税 徴 収 権 に 関 する 租 税 法 学 の 議 論 状 況 第 4 節 確 認 制 度 に 対 する 厚 生 省 の 消 極 的 態 度 の 背 景 - 2 -

第 5 節 日 本 型 被 用 者 保 険 法 への 疑 問 第 3 編 強 制 適 用 社 会 保 険 の 国 際 的 発 展 第 1 章 被 用 者 強 制 適 用 保 険 の 形 成 過 程 第 1 節 強 制 適 用 社 会 保 険 の 二 つの 形 第 2 節 1942 年 ILO 社 会 保 障 への 途 第 3 節 1944 年 所 得 保 障 勧 告 第 4 節 1952 年 社 会 保 障 の 最 低 基 準 に 関 する 条 約 第 5 節 保 険 料 不 払 いと 給 付 への 権 利 第 2 章 雇 用 不 安 化 における ILO の 動 向 第 1 節 近 年 における 社 会 保 護 ( 社 会 保 障 )の 拡 充 戦 略 第 2 節 専 門 家 委 員 会 報 告 書 社 会 保 障 : 法 の 支 配 おわりに 皆 保 障 体 制 構 築 のための 課 題 川 崎 氏 は 2011 年 から 最 近 までに 本 論 文 に 関 連 するテーマで 次 の5 論 文 を 発 表 してきた 1 雇 用 保 険 法 における 事 業 主 の 被 保 険 者 資 格 取 得 届 出 義 務 違 反 と 被 保 険 者 の 権 利 保 障 被 保 険 者 資 格 の 遡 及 確 認 が 2 年 に 制 限 されていることへの 疑 問 を 呈 した 総 務 庁 行 政 監 察 局 1996 年 7 月 13 日 あっせんを 素 材 として 龍 谷 大 学 社 会 科 学 研 究 年 報 42 号 (2011 年 5 月 )63-72 頁 2 パートタイマーに 対 する 被 用 者 保 険 適 用 基 準 の 差 別 的 構 造 1980 年 内 翰 の 形 成 過 程 を 通 じた 批 判 的 検 討 龍 谷 法 学 44 巻 2 号 (2011 年 9 月 30 日 )455-505 頁 3 低 所 得 労 働 者 への 被 用 者 保 険 全 面 適 用 逆 選 択 論 による 零 細 事 業 所 労 働 者 排 除 の 批 判 的 検 討 龍 谷 大 学 社 会 科 学 研 究 年 報 43 号 (2013 年 5 月 )53-61 頁 4 被 用 者 保 険 における 受 給 権 保 障 と 事 業 主 保 険 者 の 責 任 ILO 社 会 保 障 基 準 を 参 考 として 社 会 保 障 法 日 本 社 会 保 障 学 会 誌 28 号 (2013 年 5 月 )184-197 頁 5 厚 生 年 金 保 険 法 における 強 制 適 用 原 則 形 骸 化 保 険 料 徴 収 権 の 消 滅 時 効 と 給 付 制 限 に 関 する 一 考 察 龍 谷 法 学 45 巻 1 号 (2012 年 7 月 )1-65 頁 本 論 文 は これら 既 発 表 の5 論 文 を 基 に その 内 容 を 補 正 加 筆 し さらに 序 と お わりに を 書 き 加 えて 一 つの 論 文 に 構 成 したものである Ⅱ 論 文 の 要 旨 序 川 崎 氏 は 序 で 労 働 者 生 活 皆 保 障 の 観 点 から 日 本 の 被 用 者 保 険 の 有 する 法 的 問 題 を 明 らかにするという 論 文 全 体 にわたる 問 題 意 識 を 明 らかにしている 現 在 雇 用 の 不 安 定 化 が 社 会 保 障 に 大 きな 影 響 を 与 えているが その 一 つとして - 3 -

労 働 者 に 適 用 されるはずの 健 康 保 険 厚 生 年 金 保 険 雇 用 保 険 ( 被 用 者 保 険 )の 適 用 を 受 けることなく そこから 排 除 された 状 態 で 働 く 者 が 大 量 に 発 生 していることを 挙 げ る 氏 は 厚 生 労 働 省 調 査 によっても 本 来 自 営 業 者 等 を 対 象 とするはずの 国 民 年 金 第 1 号 被 保 険 者 の 約 40%が 被 用 者 ( 労 働 者 )であり 彼 らが 本 来 適 用 を 受 けるはず の 被 用 者 保 険 から 排 除 されている 問 題 点 を 指 摘 する さらに 実 態 的 に 排 除 される 労 働 者 の 多 くが 非 正 規 労 働 者 であるが 彼 らは 被 用 者 保 険 の 適 用 を 受 けない 代 わりに 国 民 年 金 ( 第 1 号 被 保 険 者 )や 国 民 健 康 保 険 などの 住 民 保 険 に 加 入 している しかし 非 正 規 労 働 者 にとって 住 民 保 険 の 保 険 料 は その 収 入 が 低 いことに 比 べて 高 額 であるために 保 険 料 滞 納 によって 無 年 金 無 保 険 者 と なる 者 が 多 数 存 在 する そしてに 非 正 規 労 働 者 に 対 する 事 業 主 の 被 用 者 保 険 料 納 付 義 務 違 反 が 被 用 者 保 険 から 多 くの 労 働 者 を 排 除 して 無 保 険 無 年 金 者 を 生 み 出 していること さらに 雇 用 保 険 には 住 民 保 険 に 相 当 する 制 度 がないために 適 用 除 外 によって 即 無 保 険 者 となっている 問 題 点 を 指 摘 する これらが 氏 の 問 題 関 心 の 出 発 点 である 第 1 編 第 1 章 川 崎 氏 は 第 1 編 第 1 章 では 被 用 者 保 険 においてパートタイマーを 適 用 除 外 する 基 準 が 形 成 されてきた 過 程 を 歴 史 的 に 検 討 している まず パートタイマーを 適 用 除 外 する 基 準 には 1 雇 用 が 短 期 間 であること( 法 律 明 文 で 規 定 )と 2 短 時 間 労 働 ( 行 政 内 部 基 準 )の 二 つがある このうち 後 者 は 現 在 も 維 持 されている 1980 年 6 月 6 日 の 厚 生 省 内 翰 (80 年 内 翰 )である これは 健 康 保 険 等 の 被 保 険 者 資 格 の 取 扱 い 基 準 を 適 用 事 業 所 と 常 用 的 使 用 関 係 にある 者 とし パートタイマーについて 被 保 険 者 としての 具 体 的 適 用 基 準 を 通 常 の 労 働 者 の 4 分 の 3 以 上 の 労 働 日 数 と 労 働 時 間 を 有 する 者 とする 家 計 補 助 的 に 働 く 労 働 者 ( 被 扶 養 者 のまま 働 く 者 )であることを 適 用 除 外 の 根 拠 とするが 実 際 には 母 子 家 庭 の 母 親 など 家 計 維 持 型 パートタイマー が 増 えており この 80 年 内 翰 が その 被 用 者 保 険 加 入 率 を 低 水 準 に 抑 える 原 因 になっている 等 問 題 点 を 指 摘 する そして この 80 年 内 翰 が 出 されるまでの 過 程 を 考 察 する まず 戦 後 初 期 の 労 働 市 場 政 策 が 大 量 の 失 業 者 発 生 を 背 景 に 主 たる 家 計 担 当 者 すなわち 男 性 の 就 職 を 重 視 し 代 わりに 家 庭 復 帰 など 女 性 の 非 労 働 力 化 を 課 題 に 挙 げていた 1947 年 失 業 保 険 法 制 定 の 際 にも 女 性 排 除 が 意 図 され 政 府 部 内 には 女 性 を 適 用 除 外 する 意 見 があったが GHQの 男 女 同 権 論 などを 受 けて 政 府 案 は 女 子 排 除 を 採 用 しなか った しかし 1950 年 には 臨 時 内 職 的 に 雇 用 される 者 として 法 律 改 正 によらずに 行 政 手 引 で 家 計 補 助 的 労 働 従 事 者 を 失 業 保 険 から 適 用 除 外 する 運 用 を 定 めた (l950 年 基 準 ) さらに 1963 年 の 失 業 保 険 法 改 正 が 失 業 給 付 に 扶 養 加 算 を 創 設 して 家 計 維 持 的 労 働 者 を 主 たる 被 保 険 者 とすることを 明 確 化 した - 4 -

ところが 高 度 成 長 期 になると 労 働 力 不 足 を 背 景 に 家 庭 の 主 婦 をパートタイマー として 積 極 的 に 活 用 する 政 策 へ 転 換 する ただ 1969 年 労 働 省 婦 人 少 年 問 題 審 議 会 は パートタイム 雇 用 にも 通 常 の 労 働 者 と 身 分 的 区 別 なく 各 種 社 会 保 険 の 原 則 適 用 を 求 め その 具 体 化 策 の 検 討 を 労 働 大 臣 と 厚 生 大 臣 に 建 議 した しかし 当 時 具 体 化 されていた 基 準 は 原 則 適 用 から 乖 離 したものであった 失 業 保 険 適 用 について 短 時 間 就 労 者 (パートタイマー)も 原 則 として 1950 年 基 準 に 基 づいて 被 保 険 者 としないこととされた(1968 年 6 月 11 日 通 達 以 下 1968 年 基 準 ) 川 崎 氏 は この 1968 年 基 準 は 月 収 が 基 準 額 以 上 労 働 日 が 同 様 労 働 時 間 がおおむね 6 時 間 以 上 その 他 労 働 条 件 が 明 確 で 常 用 労 働 者 として 雇 用 される 見 込 みがあり 社 会 保 険 や 労 働 条 件 が 通 常 の 労 働 者 と 同 様 の 扱 いを 受 けている 場 合 にのみ 法 適 用 を 行 うとしており 実 際 には パートタイマーを 大 幅 に 適 用 除 外 した 基 準 であるとしている とくに その 所 得 基 準 は 扶 養 加 算 の 支 給 基 準 税 金 の 配 偶 者 控 除 基 準 公 務 員 の 扶 養 手 当 支 給 基 準 と 連 動 しているとし 被 扶 養 者 に 該 当 する 者 を 被 保 険 者 として 扱 わない 構 図 がこの 時 にできあがったと 指 摘 する また 労 働 時 間 について 一 日 の 所 定 労 働 時 間 が 6 時 間 以 上 4 分 の 3 以 上 としたことの 根 拠 が 不 明 であること 法 改 正 を 経 ず 時 間 の 基 準 が 設 定 された 影 響 は 非 常 に 大 きいとも 指 摘 し ている しかし 1956 年 7 月 10 日 厚 生 省 が 電 報 電 話 局 のパートタイムの 電 話 交 換 手 (ほとんどが 女 性 で 2ヵ 月 契 約 1 日 4 時 間 勤 務 )について 健 康 保 険 法 の 被 保 険 者 資 格 を 認 める 回 答 (1956 年 回 答 )で 失 業 保 険 とは 異 なり 事 業 所 での 就 労 も 考 慮 して 家 計 補 助 的 就 労 者 にも 被 保 険 者 資 格 を 認 めていたことを 紹 介 している 1960 年 代 には このようにパートタイマーにも 健 康 保 険 と 厚 生 年 金 保 険 を 原 則 適 用 する 法 運 用 が 続 いていたが 1970 年 代 に 入 ると 経 営 者 団 体 は 厚 生 省 に 対 して 女 子 パートタイマーは 家 庭 の 婦 人 等 の 一 時 的 就 業 であり パートタイマー 自 身 が 非 加 入 を 希 望 しているとして 失 業 保 険 と 同 様 に 適 用 除 外 を 求 める 要 望 を 提 出 した (1970 年 日 経 連 ) 川 崎 氏 は この 経 営 者 側 の パートタイマーへの 適 用 除 外 論 を 詳 細 に 検 討 するとともに 当 時 総 評 主 婦 の 会 が 厚 生 省 交 渉 など 活 発 な 活 動 をしてい たことを 紹 介 し 同 会 が パートタイマーを 被 扶 養 者 として 扱 うことを 拒 否 し 一 人 前 の 労 働 者 の 権 利 として 被 用 者 保 険 適 用 を 積 極 的 に 求 めていたことに 注 目 する そし て パートタイマーへの 被 用 者 保 険 適 用 をめぐって 1971 年 の 労 働 省 婦 人 少 年 局 婦 人 労 働 課 問 答 集 の 内 容 を 詳 細 に 分 析 し 従 来 のパートタイマーへの 被 用 者 保 険 原 則 的 適 用 の 方 針 を 転 換 させ 適 用 を 制 限 する 方 向 へ 舵 を 切 ったと 評 価 している さら に 70 年 代 末 から 80 年 代 初 の 関 連 した 政 策 提 言 を 分 析 し 1979 年 自 由 民 主 党 日 本 型 福 祉 社 会 論 が 家 庭 の 福 祉 機 能 を 重 視 して 女 性 が 社 会 進 出 して 家 庭 の 外 で 働 くことで 家 庭 を 弱 体 化 させることを 危 倶 する 一 方 女 性 はパートタイマーなどの 形 で 雇 うのに 適 して おり 女 性 企 業 社 会 の 三 者 にとって 利 点 もある としていたこと さら に 1982 年 第 2 次 臨 時 行 政 調 査 会 が 国 民 負 担 率 論 で 事 業 主 による 被 用 者 保 - 5 -

険 の 保 険 料 負 担 軽 減 を 求 めていたことに 注 目 する また 1979 年 3 月 20 日 の 国 会 質 問 をめぐって 政 府 委 員 が 都 道 府 県 ごとの 扱 いの 差 を 解 消 して 統 一 した 基 準 を 作 る とした 答 弁 が 80 年 内 翰 につながったことも 明 らかにしている 川 崎 氏 は 80 年 内 翰 が 保 険 関 係 の 成 立 を 完 全 に 単 一 の 個 別 企 業 内 における 労 働 関 係 に 限 定 した 問 題 点 を 指 摘 し 個 別 事 業 主 との 常 用 的 使 用 関 係 を 求 め 企 業 と の つながり の 見 返 りとしての 性 格 福 利 厚 生 的 に 被 用 者 保 険 を 捉 えていることを 批 判 している また 80 年 内 翰 という 行 政 内 部 の 文 書 による 基 準 設 定 の 問 題 を 論 じてい る 同 内 翰 は 一 方 でパートタイマー 及 び 事 業 主 からの 保 険 料 不 徴 収 の 根 拠 となって 問 題 性 を 帯 びないようにみえるが 他 方 では 母 子 家 庭 や 非 正 規 労 働 者 同 士 の 共 働 き 世 帯 など 80 年 内 翰 が 想 定 するモデルから 外 れる 者 にとっては 被 用 者 保 険 適 用 から 排 除 されることになることから 行 政 内 部 の 文 書 である 内 翰 の 手 続 き 的 違 法 性 を 提 起 して 内 翰 それ 自 体 の 法 適 合 性 を 否 定 する そして 結 局 内 翰 基 準 を 満 たす 非 正 規 労 働 者 に 対 する 低 い 被 用 者 保 険 適 用 率 の 原 因 は 行 政 内 部 による 適 用 基 準 が 明 文 で 明 確 にされていないという 形 式 面 と 定 めた 内 容 自 体 が 不 明 確 であるという 実 体 面 両 方 に 適 用 不 徹 底 の 原 因 がある とし 厚 生 労 働 省 の 運 用 に 被 用 者 保 険 適 用 漏 れの 原 因 があり 本 来 無 用 の 労 使 間 の 紛 争 を 誘 発 していることを 具 体 的 な 争 訟 例 を 紹 介 している そして 80 年 内 翰 を 支 持 する 代 表 的 論 者 である 台 豊 氏 が 少 なくとも 法 制 定 当 時 において 生 計 を 維 持 するには 至 らない 程 度 の 副 業 的 な 就 労 を 被 用 者 保 険 法 の 保 障 関 係 に 含 めることは 想 定 されていなかったと 考 えてよいであろう とすることを 詳 細 に 批 判 する 第 二 次 大 戦 前 の 健 康 保 険 法 制 定 時 に 既 に 優 先 的 に 社 会 保 険 制 度 の 適 用 対 象 として 想 定 されていたのが 自 己 の 労 働 によって 賃 金 を 得 て それによって 生 活 をする 労 働 者 であった( 清 水 玄 社 会 保 険 論 )こと 戦 前 戦 中 における 社 会 保 険 の 主 たる 対 象 者 として 労 務 者 其 の 他 小 額 所 得 者 ということが 繰 り 返 し 言 及 されてい ることを 指 摘 し その 観 点 からすれば 生 計 を 維 持 するに 至 らない 低 賃 金 労 働 者 を 排 除 する 理 論 は まさに 社 会 保 険 としては 逆 行 する と 指 摘 している 最 後 に 川 崎 氏 は 現 行 法 律 上 使 用 従 属 関 係 にある 者 が 適 用 対 象 であると 明 確 に 規 定 されているので それを 徹 底 するために 80 内 翰 に 基 づく 現 在 の 不 明 確 な 基 準 を 改 める 必 要 性 を 力 説 して 第 1 章 の 結 論 としている 第 1 編 第 2 章 第 2 章 では 法 定 の 基 準 によって 適 用 除 外 される 零 細 事 業 所 労 働 者 の 問 題 点 を 取 り 上 げて 彼 らを 適 用 除 外 する 法 の 意 図 を 探 っている そして 被 用 者 保 険 の 全 面 的 な 強 制 適 用 が 実 現 されていない 実 質 的 な 理 由 として 保 険 運 営 者 である 厚 生 省 ( 当 時 )の 担 当 者 が 健 康 保 険 の 強 制 適 用 事 業 所 以 外 の 零 細 事 業 所 は 保 険 関 係 が 不 明 確 で 賃 金 も 低 く 保 険 料 の 滞 納 がありうるという 認 識 を 示 し そのために 強 制 適 用 を - 6 -

及 ぼさないとしていたことを 指 摘 する つまり 医 療 保 険 においては 誰 にも 同 一 の 医 療 サービスを 行 うことになるので 賃 金 額 の 低 い 零 細 事 業 所 労 働 者 を 加 入 させると 保 険 財 政 が 逼 迫 するという 保 険 財 政 を 健 全 に 保 つという 保 険 者 の 立 場 から 低 所 得 者 を 被 用 者 保 険 には 加 入 させたくないという 方 針 が 厚 生 省 内 であったことを 指 摘 している 第 2 編 さらに 川 崎 氏 は 第 2 編 では 実 態 的 適 用 漏 れ 労 働 者 が 被 用 者 保 険 給 付 対 象 か ら 排 除 される 原 因 を 第 1 章 は 雇 用 保 険 を 対 象 に 第 2 章 では 厚 生 年 金 保 険 を 対 象 に 検 討 を 行 っている 第 2 編 第 1 章 次 に 川 崎 氏 は 多 くの 労 働 者 が 雇 用 保 険 から 排 除 されている 問 題 を 指 摘 し 実 態 として 事 業 主 が 保 険 料 負 担 を 避 けるために 労 働 者 を 保 険 に 加 入 させない 場 合 事 業 主 の 届 出 義 務 違 反 によって 事 業 主 ではなく 労 働 者 が 不 利 益 を 被 る 問 題 を 検 討 し ている 雇 用 保 険 は 強 制 適 用 の 社 会 保 険 であり 保 険 関 係 は 法 が 定 める 客 観 的 事 実 の 発 生 によって 当 然 に 成 立 し 労 働 者 は 適 用 事 業 に 雇 用 されるに 至 った 日 から 被 保 険 者 となる ただ 手 続 き 上 の 要 請 として 雇 用 保 険 法 は 厚 生 労 働 大 臣 による 被 保 険 者 資 格 確 認 制 度 を 定 めている この 確 認 には 裁 量 性 はなく 適 用 事 業 に 雇 用 される という 要 件 に 該 当 する 限 り 必 ず 行 わなければならない 同 法 は 事 業 主 に 被 保 険 者 資 格 取 得 届 出 義 務 ( 第 7 条 )と 保 険 料 の 支 払 い 義 務 ( 第 68 条 )を 課 してい る ただ 大 臣 による 職 権 で 被 保 険 者 資 格 確 認 ( 第 9 条 )は 実 際 にはほとんど 行 われ ていない つまり 事 業 主 が 届 出 義 務 等 を 怠 っていた 場 合 労 働 者 が 離 職 して 雇 用 保 険 給 付 受 給 の 段 階 になって 初 めて 自 らの 被 保 険 者 資 格 の 有 無 や 被 保 険 者 期 間 を 明 確 に 認 識 することとなる 事 業 主 が 届 出 義 務 等 を 懈 怠 していた 場 合 大 臣 に 対 する 確 認 の 請 求 によって 遡 って 確 認 が 行 われ 確 認 請 求 は いつでもできる とされている たしかに 事 業 主 の 届 出 義 務 等 違 反 時 における 被 保 険 者 自 らの 手 による 権 利 救 済 手 段 を 用 意 している( 法 第 8 条 )が 遡 及 確 認 で 被 保 険 者 期 間 と 認 定 されるのは 2 年 間 に 限 定 される( 第 14 条 2 項 2 号 ) 現 行 制 度 では 失 業 給 付 の 給 付 日 数 は 長 期 雇 用 者 に 有 利 に 設 定 されているが 遡 及 確 認 が 行 われた 場 合 確 認 の 日 の 2 年 前 の 日 より 前 の 期 間 は 所 定 給 付 日 数 の 算 定 で 考 慮 されず( 法 第 22 条 4 項 ) 事 業 主 が 届 出 義 務 等 を 懈 怠 しているとき 被 保 険 者 ( 労 働 者 )が 2 年 制 限 の 不 利 益 を 受 ける 構 造 となっている 確 かに 2010 年 の 雇 用 保 険 法 改 正 は この 不 利 益 発 生 構 造 を 部 分 的 に 是 正 して 雇 用 保 険 料 が 賃 金 から 天 引 きされていた 場 合 に 限 り 2 年 を 超 える 以 前 の 期 間 も 被 保 険 者 期 間 として 遡 って 扱 われることとし 所 定 給 付 日 数 の 算 定 に 反 映 す ることにした ただ 保 険 料 天 引 き が 明 確 である 場 合 に 限 られた 是 正 であり 保 険 加 入 自 体 を 認 めず 保 険 料 天 引 きもしていない 事 業 所 に 勤 務 していた 労 働 者 は 救 済 対 - 7 -

象 にならず 現 在 においても 2 年 制 限 の 不 利 益 問 題 は 解 決 されていない 川 崎 氏 は この 2 年 制 限 について 法 的 な 検 討 を 加 え 2 年 制 限 とした 根 拠 を 確 認 制 度 創 設 当 時 から 現 在 に 至 る 歴 史 的 経 過 をたどり 2 年 制 限 に 合 理 的 な 理 由 が 存 在 するのかを 検 討 する 川 崎 氏 によれば 確 認 の 制 度 は 失 業 保 険 法 の 第 8 次 改 正 (1955 年 )によって 創 設 されたが 事 後 的 な 確 認 が 2 年 に 制 限 される 不 利 益 扱 いは 確 認 規 定 創 設 時 から 存 在 した 2 年 制 限 の 理 由 について 行 政 解 釈 は 保 険 料 の 納 付 義 務 は 過 去 2 年 を 超 えた 期 間 分 については 発 生 しないにもかかわらず これを 以 って 受 給 要 件 の 基 礎 と することは 最 初 より 被 保 険 者 資 格 の 取 得 が 確 認 されて 正 当 に 保 険 料 を 納 付 した 者 に 比 して 不 当 に 利 益 を 得 ることとなる と 説 明 するが 川 崎 氏 は これを 保 険 料 を 支 払 わないにもかかわらず 給 付 だけ 受 けようとすることを 認 めないという 態 度 として 批 判 す る つまり 確 認 がなければ 保 険 料 の 納 付 義 務 と 徴 収 権 は 発 生 しないため 保 険 料 徴 収 権 の 消 滅 時 効 も 進 行 しないが 一 旦 確 認 がなされた 場 合 には 保 険 料 徴 収 権 も 確 認 後 に 一 括 して 発 生 し 確 認 以 降 保 険 料 徴 収 権 の 消 滅 時 効 も 進 行 する それゆ え 遡 及 確 認 が 長 期 に 遡 ってなされた 場 合 確 認 された 期 間 に 係 る 膨 大 な 保 険 料 納 付 義 務 が 一 括 して 発 生 する その 負 担 軽 減 のために 遡 つての 保 険 料 決 定 を 2 年 に 制 限 した というのが 2 年 制 限 創 設 の 理 由 となっている 川 崎 氏 は 以 上 のような 2 年 制 限 創 設 の 理 由 を 批 判 する まず 届 出 義 務 等 が 事 業 主 にあることを 無 視 しているとし あたかも 被 保 険 者 ( 労 働 者 )が 自 ら 届 出 義 務 等 違 反 者 であり 労 働 者 が 不 当 に 利 益 だけを 得 ようする 者 としていること さらに 保 険 者 た る 政 府 自 身 の 責 任 を 放 棄 していることを 強 調 する すなわち 事 業 主 の 義 務 違 反 と 保 険 者 による 消 極 的 保 険 適 用 によって 生 じる 保 険 料 不 徴 収 の 結 果 を 全 て 義 務 者 で 被 保 険 者 ( 労 働 者 ) 個 人 に 対 して 保 険 給 付 制 限 という 形 で 転 嫁 するからである さらに 川 崎 氏 は 失 業 保 険 法 における 確 認 と 連 動 した 保 険 料 額 確 定 とそれに 基 づく 徴 収 権 発 生 という 構 造 が 1972 年 の 労 働 保 険 徴 収 法 制 定 によって 変 化 したことを 指 摘 する つまり 労 災 保 険 では 被 保 険 者 資 格 概 念 がなく 確 認 制 度 も 存 在 しない ので 労 災 保 険 に 合 わせた 徴 収 法 では 必 然 的 に 確 認 と 保 険 料 決 定 は 無 関 係 となっ た これによって 遡 及 しての 確 認 時 において 2 年 より 前 の 被 保 険 者 期 間 を 認 めない 根 拠 として 挙 げられた 保 険 料 を 決 定 しないため という 失 業 保 険 法 時 の 理 由 づけは 妥 当 しなくなったことを 川 崎 氏 は 指 摘 する とくに 徴 収 法 が 保 険 料 徴 収 を 事 業 に 就 労 するすべての 労 働 者 に 支 払 う 賃 金 総 額 を 事 業 主 が 保 険 者 に 支 払 う 保 険 料 賦 課 の 基 準 とした( 個 人 単 位 から 事 業 所 単 位 へ)こと 徴 収 法 制 定 過 程 では 労 働 省 が 失 業 保 険 の 被 保 険 者 についても 保 険 料 算 定 の 基 礎 である 賃 金 総 額 について 同 様 な 考 えをもっていたことを 明 らかにしている 川 崎 氏 は これが 現 在 の 健 保 厚 生 年 金 保 険 雇 用 保 険 の 考 え 方 である 個 別 労 働 者 が 被 保 険 者 に 該 当 するか 否 かを 確 認 し その 者 に 支 払 う 賃 金 を 事 業 主 が 保 険 者 に 支 払 う 保 険 料 賦 課 の 基 準 とする 考 え 方 と - 8 -

は 異 なるものであった 点 に 注 目 する 川 崎 氏 は この 労 働 保 険 料 を 拠 出 する 事 業 主 の 責 任 が 個 々の 労 働 者 の 何 某 の 保 険 事 故 に 対 する 具 体 的 責 任 として 評 価 するわけではない あくまで 使 用 者 たる 地 位 に 伴 う 責 任 として 社 会 化 された 形 態 において 評 価 し 保 険 料 賦 課 の 基 準 とされる 支 払 賃 金 総 額 は 保 険 給 付 の 対 象 となる 労 働 者 各 人 の 賃 金 の 合 計 額 に 限 定 される べきではなく 使 用 する 労 働 者 全 員 の 賃 金 総 額 であるべき という 立 法 者 の 見 解 を 肯 定 的 に 紹 介 している 徴 収 法 の 構 造 上 個 々の 被 保 険 者 の 資 格 発 生 に 基 づく 大 臣 の 確 認 と それに 基 づく 保 険 料 額 の 決 定 を 分 離 するという 基 本 的 な 思 考 に 基 づき 現 在 でも 保 険 料 賦 課 の 基 準 は 賃 金 総 額 という 概 念 を 維 持 している ただ 後 に 省 令 制 定 の 段 階 で 失 業 保 険 の 被 保 険 者 非 該 当 者 分 の 賃 金 は 賃 金 総 額 から 除 外 する 扱 いとなった 川 崎 氏 は 小 括 として 次 のように 指 摘 する 失 業 保 険 法 制 定 時 から 現 在 までを 通 じて 事 業 主 の 義 務 違 反 による 保 険 料 の 不 徴 収 が 当 然 に 被 保 険 者 への 給 付 に 不 利 益 を 与 える 構 造 となっている しかし 受 給 権 利 者 たる 被 保 険 者 は 届 出 等 に 関 して 何 等 の 義 務 を 負 っておらず 義 務 者 たる 事 業 主 の 義 務 違 反 行 為 のペナルティとして 被 保 険 者 への 給 付 を 制 限 することは 公 平 正 義 の 観 点 からも 正 当 化 することはでき ない さらに 失 業 という 生 活 事 故 の 原 因 の 一 端 が 事 業 主 にある 点 からも その 責 任 者 たる 事 業 主 の 義 務 違 反 によって 被 保 険 者 の 給 付 を 否 定 することは 正 義 に 反 する ことになる と また 労 働 保 険 料 として 雇 用 保 険 と 一 元 的 に 徴 収 される 労 災 保 険 でも 事 業 主 の 届 出 義 務 違 反 や 保 険 料 の 不 納 付 などに 基 づく 保 険 料 徴 収 権 の 消 滅 時 効 の 問 題 があ るが 労 災 保 険 法 は 1965 年 改 正 前 までは 保 険 関 係 の 未 届 時 や 保 険 料 の 不 納 付 時 には 保 険 給 付 の 制 限 をしていた( 旧 18 条 )が 裁 判 所 は 給 付 制 限 による 実 質 的 な 不 利 益 が 労 働 者 に 生 じるとし 保 険 運 営 者 の 政 府 には 強 力 な 保 険 料 徴 収 権 が 存 在 していることを 根 拠 に 保 険 料 不 徴 収 により 労 働 者 に 不 利 益 となるような 給 付 制 限 を 行 うことに 否 定 的 な 評 価 を 下 した( 和 歌 山 地 裁 1953 年 3 月 16 日 判 決 ) その 後 労 災 保 険 法 は 1965 年 同 条 を 削 除 し 代 わりに 強 制 適 用 事 業 の 保 険 加 入 者 が 保 険 関 係 の 成 立 についての 届 出 を 怠 っていた 期 間 中 に 生 じた 事 故 保 険 加 入 者 が 保 険 料 を 納 付 しない 期 間 中 に 生 じた 事 故 について 保 険 給 付 を 行 ったとき 政 府 は その 保 険 給 付 に 要 した 費 用 に 相 当 する 金 額 の 全 部 または 一 部 を 当 該 保 険 加 入 者 ( 事 業 主 )から 徴 収 することができる 規 定 が 設 けられた( 労 災 保 険 法 30 条 の 4( 当 時 ))ことを 指 摘 する さらに ILO が 労 働 者 に 対 する 社 会 保 障 給 付 確 保 の 手 段 として 事 業 主 ( 使 用 者 )の 役 割 を 重 視 し 1942 年 の 報 告 書 社 会 保 障 への 途 で 強 制 適 用 保 険 を 実 効 性 あるものにするために 事 業 主 による 保 険 料 徴 収 と 保 険 料 負 担 が 重 要 であるとす る そして 1944 年 の 所 得 保 障 勧 告 では 18 項 で 労 働 者 からの 使 用 者 による 保 険 - 9 -

料 徴 収 義 務 と 第 25 項 において 保 険 料 徴 収 義 務 の 不 履 行 によって 保 険 給 付 が 制 限 されるべきではないとしていことを 指 摘 する 川 崎 氏 は この 三 点 から 被 用 者 保 険 として 早 急 に 2 年 制 限 規 定 を 撤 廃 し 保 険 料 不 徴 収 時 においても 給 付 制 限 を 行 うことをしないよう 法 改 正 を 行 う 必 要 があるとして 第 二 編 第 1 章 の 結 論 としている 第 2 編 第 2 章 厚 生 年 金 保 険 法 でも その 適 用 事 業 所 で 事 業 主 が 被 保 険 者 資 格 取 得 届 出 義 務 や 実 際 に 支 払 った 賃 金 に 基 づく 保 険 料 納 付 義 務 を 懈 怠 したことによって 労 働 者 ( 被 保 険 者 )が 保 険 給 付 を 否 定 される 事 態 が 生 じている しかし 事 業 主 の 義 務 違 反 に 対 する 被 保 険 者 の 救 済 としては 1 民 事 の 損 害 賠 償 と 22007 年 特 例 法 ( 厚 生 年 金 保 険 の 保 険 給 付 及 び 保 険 料 の 納 付 の 特 例 等 に 関 する 法 律 )による 年 金 記 録 第 三 者 委 員 会 が 認 定 した 場 合 に 限 って 当 該 労 働 者 の 年 金 記 録 を 訂 正 して 厚 生 年 金 保 険 の 年 金 額 に 反 映 する 解 決 方 法 がある しかし 1は 損 害 の 認 定 過 失 相 殺 が 争 点 となる こと 年 金 給 付 の 回 復 を 一 時 金 で 回 復 することに 限 界 があること 2は 保 険 料 天 引 き があった 場 合 に 限 られ 非 正 規 労 働 者 など 当 初 から 保 険 加 入 手 続 き 自 体 がない 労 働 者 は 救 済 対 象 から 除 外 されていること 等 の 問 題 点 がある 川 崎 氏 は 三 面 的 な 法 関 係 である 被 用 者 保 険 において 保 険 者 ( 国 )が 事 業 主 の 義 務 違 反 によって 不 利 益 が 生 じないように 被 保 険 者 ( 労 働 者 )への 給 付 を 保 障 する 責 任 を 負 うことを 強 調 する そして 日 本 の 被 用 者 保 険 には 徹 底 的 に 保 険 適 用 を 行 い 漏 れなく 保 障 させるという 構 造 理 念 及 び 実 際 の 運 用 が 欠 落 している そのため 現 状 は 被 用 者 保 険 という 労 働 者 の 生 活 保 障 ( 労 働 者 保 護 )を 目 的 とする 制 度 が 事 業 主 の 義 務 違 反 で 形 骸 化 していることを 指 摘 している こうした 問 題 意 識 に 基 づき 川 崎 氏 は 事 業 主 が 納 付 義 務 等 を 怠 った 場 合 に 労 働 者 に 保 険 給 付 上 の 不 利 益 が 生 じる 構 造 を その 根 拠 となっている 厚 生 年 金 保 険 法 の 関 連 規 定 に 焦 点 をあてて 検 討 する 厚 生 年 金 保 険 法 は 適 用 事 業 所 に 使 用 される 者 で 一 定 の 除 外 事 由 に 該 当 しない 限 り 被 保 険 者 資 格 が 当 然 に 発 生 するとしている 本 人 や 適 用 事 業 所 の 事 業 主 の 意 思 に 関 わらず 保 険 関 係 が 生 じる 強 制 適 用 方 式 である ただ 事 業 主 は 労 働 者 を 使 用 するに 至 った 日 から 5 日 以 内 に 厚 生 労 働 大 臣 に 被 保 険 者 の 資 格 の 取 得 報 酬 月 額 等 に 関 する 事 項 につき 届 出 を 行 う 義 務 を 負 い 違 反 には 罰 則 が 定 められている 資 格 届 出 を 受 けた 大 臣 は 被 保 険 者 資 格 の 確 認 を 行 い 標 準 報 酬 月 額 も 確 定 する この 決 定 によって 被 保 険 者 及 び 事 業 主 が 負 担 すべき 保 険 料 額 が 確 定 する なお 大 臣 の 資 格 確 認 は 職 権 または 被 保 険 者 自 身 の 請 求 に 基 づいても 行 われる この 被 保 険 者 の 請 求 に 基 づく 資 格 確 認 は いつでも 行 うことができる そして 大 臣 が 有 する 保 険 料 徴 収 権 が 消 滅 時 効 に 係 った 場 合 は その 期 間 の 保 険 料 に 基 づく 保 険 給 付 は 行 われない( 法 第 75 条 ) ただし 被 保 険 者 の 大 臣 に 対 する 資 格 確 認 請 求 及 び 事 業 - 10 -

主 による 資 格 届 出 以 降 に 消 滅 した 保 険 料 徴 収 権 に 基 づく 給 付 が 行 われる( 法 第 75 条 但 書 ) しかし 厚 生 省 は 保 険 者 の 保 険 料 徴 収 権 や 事 業 主 の 保 険 料 納 付 義 務 等 は 資 格 確 認 によって 発 生 し 資 格 確 認 以 前 では 法 的 効 力 が 発 生 していないために 保 険 料 徴 収 権 の 行 使 ができないとするが 他 方 で 保 険 料 徴 収 権 の 消 滅 時 効 の 起 算 点 は 権 利 を 行 使 することができる 時 からとし その 期 日 を 一 律 に 法 律 で 定 める 保 険 料 納 期 限 と 解 して 大 臣 による 資 格 確 認 と 時 効 は 無 関 係 とし 保 険 料 徴 収 権 が 行 使 できな い 状 態 でも 消 滅 時 効 は 進 行 するという 矛 盾 した 解 釈 をとる そして 実 務 では 遡 及 し て 資 格 確 認 を 行 う 場 合 でも 原 則 2 年 上 限 でしか 資 格 確 認 をしない 川 崎 氏 は このように 遡 及 を2 年 に 限 る 行 政 解 釈 の 矛 盾 を 詳 細 に 検 討 している と くに 社 会 保 険 審 査 会 裁 決 (2003 年 5 月 30 日 裁 決 )が 被 保 険 者 資 格 確 認 処 分 より 前 に 保 険 料 徴 収 権 の 消 滅 時 効 進 行 が 開 始 することへの 疑 問 を 示 しながら 当 該 確 認 処 分 を 待 つまでもなく 客 観 的 な 被 保 険 者 資 格 取 得 の 要 件 が 備 わった 時 点 で 消 滅 時 効 期 間 の 進 行 が 開 始 するという 恣 意 的 な 解 釈 を 採 用 していることを 批 判 する さらに 資 格 確 認 の 遡 及 を いつでも できるとする 法 第 31 条 1 項 を 不 当 に 制 限 することなど 厚 生 年 金 保 険 法 の 他 の 関 連 規 定 との 不 整 合 を 詳 細 に 検 討 している そして 被 保 険 者 資 格 確 認 をめぐる 山 本 工 務 店 事 件 での 最 高 裁 判 決 (1965 年 6 月 18 日 )と 下 級 審 判 決 を 検 討 して 同 事 件 高 裁 判 決 が 被 保 険 者 資 格 の 取 得 段 階 と 効 力 の 発 生 段 階 を 明 確 に 分 け 前 者 では 抽 象 的 保 険 関 係 であるが 大 臣 の 資 格 確 認 によって 具 体 的 権 利 義 務 として 保 険 料 支 払 い 義 務 等 が 発 生 する 段 階 に 至 るとしていることを 指 摘 する そして 保 険 料 徴 収 権 の 行 使 は 大 臣 の 資 格 確 認 行 為 が 必 要 であるとする 同 裁 判 所 の 判 断 からは 確 認 前 に 徴 収 権 の 消 滅 時 効 が 進 行 する とはいえないと 結 論 する 関 連 して 川 崎 氏 は 国 税 徴 収 権 に 関 する 租 税 法 学 の 議 論 状 況 を 詳 細 に 紹 介 して 国 税 通 則 法 による 国 税 徴 収 権 と 脱 税 への 対 応 との 比 較 で 厚 生 年 金 保 険 法 の 保 険 料 徴 収 権 をめぐる 行 政 解 釈 に 根 拠 がないことを 強 調 する そして 当 初 は 拠 出 なくとも 給 付 あり という 給 付 本 位 主 義 の 立 場 であった 厚 生 省 が 内 閣 法 制 局 との 意 見 対 立 にもかかわらず 1954 年 法 改 正 で 従 来 の 扱 いを 修 正 したこと そして 保 険 料 納 付 義 務 を 負 うべき 事 業 主 が 法 違 反 したとき ペナルティを 事 業 主 ではなく 被 保 険 者 ( 労 働 者 )に 与 えるという 拠 出 本 位 主 義 の 行 政 解 釈 に 転 換 したことを 歴 史 的 な 資 料 を 丹 念 に 示 して 論 証 している 第 3 編 川 崎 氏 は 日 本 の 被 用 者 保 険 が 抱 える 問 題 を 国 際 的 視 点 からとらえ 労 働 者 に 対 する 被 用 者 保 険 強 制 適 用 の 形 成 過 程 と 意 義 を 検 討 し 世 界 的 雇 用 不 安 化 の 中 で 労 働 者 への 社 会 的 保 護 を 推 進 する 活 動 を 行 う ILO の 社 会 保 障 条 約 監 視 状 況 を 紹 介 し ている とくに ILO1944 年 所 得 保 障 勧 告 が 社 会 保 障 給 付 をできるだけすべての 対 - 11 -

象 者 に 広 げることを 目 的 として 第 2 条 で 所 得 保 障 は できる 限 り 強 制 適 用 社 会 保 険 の 基 礎 の 上 にこれを 組 織 するとし 第 4 条 で 使 用 者 は その 使 用 するすべての 者 に 関 し 醸 出 金 を 徴 収 する 責 を 負 い 且 つ 報 酬 を 支 払 うとき 被 用 者 の 納 入 すべき 金 額 を その 報 酬 中 から 控 除 する 権 利 を 持 たなければならない と 使 用 者 の 責 任 を 重 視 してい ることを 強 調 する とくに 第 25 条 で 使 用 者 ( 事 業 主 )が 保 険 料 徴 収 義 務 を 懈 怠 し た 場 合 の 給 付 保 障 に 関 して 使 用 者 が 支 払 うべき 醸 出 金 を 正 当 に 徴 収 しなかったこ とを 理 由 として その 者 は 給 付 を 受 ける 資 格 を 奪 われない としたことを 強 調 する ま た 1952 年 社 会 保 障 の 最 低 基 準 に 関 する 条 約 (102 号 条 約 )について 高 橋 武 氏 の 研 究 を 紹 介 し 同 条 約 が 給 付 に 対 する 実 際 の 保 険 料 拠 出 は 給 付 への 権 利 の 条 件 と しては 相 対 化 されており 雇 用 に 伴 う 給 付 への 権 利 という 労 働 者 の 身 分 地 位 に 基 づいた 給 付 へと 変 化 していると 解 することができること 給 付 のために 醸 出 実 績 が 絶 対 的 な 条 件 ではなくなっていることに 注 目 している また 最 近 の 雇 用 不 安 定 化 の 中 で 2011 年 の 社 会 保 障 : 法 の 支 配 をめぐる 文 書 で 202 号 勧 告 ( 各 国 における 社 会 的 保 護 の 床 )を 2012 年 に 採 択 していることを 紹 介 する 川 崎 氏 は 日 本 の 被 用 者 保 険 が その 適 用 対 象 を 狭 め 給 付 への 権 利 も 被 保 険 者 資 格 ではなく 保 険 料 拠 出 へと 変 化 させて 現 実 機 能 として 多 くの 労 働 者 を 対 象 から 排 除 しているのに 対 して ILO は 戦 前 は 受 給 権 を 醸 出 を 前 提 に 捉 えていたが それ 自 体 が 相 対 化 していること また 醸 出 制 度 を 維 持 する 被 用 者 保 険 でも 保 険 料 の 納 付 義 務 者 たる 事 業 主 が 違 法 に 保 険 料 納 付 をしないことを 以 て 給 付 を 否 定 してはな らないとし 被 保 険 者 の 権 利 を 保 障 していることを 示 唆 的 に 紹 介 している そして 給 付 に 最 終 的 責 任 を 負 う 政 府 の 役 割 を 確 認 し それによって 労 働 者 の 生 活 保 障 を 広 く 実 効 あるものにする 必 要 性 を 強 調 している Ⅲ 審 査 委 員 会 の 評 価 1 課 題 設 定 と 歴 史 的 分 析 方 法 川 崎 氏 の 問 題 関 心 の 出 発 点 は 被 用 者 保 険 からの 実 態 的 適 用 漏 れ 労 働 者 の 増 大 である 日 本 の 社 会 保 険 は 職 域 での 被 用 者 保 険 から 始 まり 1960 年 代 初 めに 住 民 保 険 を 自 営 業 者 等 にまで 拡 大 して いわゆる 国 民 皆 保 険 国 民 皆 年 金 が 実 現 し た 一 方 高 度 経 済 成 長 のなかで 長 期 安 定 雇 用 慣 行 が 形 成 されたが 近 年 に 至 る 雇 用 社 会 の 動 揺 の 中 で 不 安 定 雇 用 が 拡 大 し 被 用 者 保 険 から 漏 れる 労 働 者 が 拡 大 し た 川 崎 氏 の 研 究 は こうした 雇 用 不 安 定 化 に 伴 うワーキング プア の 増 加 という 状 況 の 中 で 十 分 に 機 能 していない 被 用 者 保 険 の 法 制 度 上 の 問 題 を 検 討 しようとするも のである とくに 川 崎 氏 は 労 災 保 険 が 非 正 規 労 働 者 を 適 用 対 象 から 排 除 しないのに 対 し それ 以 外 の 三 つの 被 用 者 保 険 が 非 正 規 労 働 者 を 排 除 してきたことに 注 目 する 非 正 - 12 -

規 労 働 者 は 家 計 補 助 的 労 働 者 ( 被 扶 養 者 )である 場 合 には 医 療 年 金 保 険 の 適 用 を 受 けるのに 対 し 生 計 維 持 的 労 働 者 が 非 正 規 労 働 者 である 場 合 には 労 働 者 であ るにもかかわらず 被 用 者 保 険 ではなく 住 民 保 険 に 加 入 し その 保 険 料 負 担 を 求 めら れる 住 民 保 険 では 保 険 料 事 業 主 負 担 がなく 給 付 水 準 も 低 い その 結 果 日 本 では 社 会 保 険 自 体 が 低 賃 金 労 働 者 にさらなる 貧 困 リスクをもたらし ワーキング プアを 作 り 出 す 温 床 の 一 つになっている 川 崎 氏 は このような 社 会 保 険 の 構 造 からの 脱 却 と 労 働 者 の 生 活 保 障 のための 仕 組 みとしての 被 用 者 保 険 の 再 生 を 目 指 している 川 崎 氏 の 研 究 は こうした 課 題 設 定 の 明 確 性 的 確 性 と 従 来 の 関 連 研 究 には 見 ら れない 鋭 い 分 析 視 角 が 特 徴 である 研 究 の 中 心 論 点 である パートタイマーへの 被 用 者 保 険 不 適 用 や 事 業 主 による 加 入 手 続 義 務 保 険 料 納 付 義 務 懈 怠 などは 被 用 者 保 険 制 度 の 根 幹 にかかわる きわめて 重 要 な 論 点 であるが 従 来 の 学 会 では 十 分 に 論 じられてこなかった 川 崎 氏 は これらの 問 題 を 正 面 から 取 り 上 げ 独 自 の 鋭 い 視 点 から 深 く 究 明 している とくに 研 究 手 法 として 現 行 法 制 度 を 歴 史 的 に 検 討 している 点 が 特 徴 である その 際 雇 用 保 険 と 健 康 保 険 厚 生 年 金 を 対 比 しつつ 厚 生 省 ( 当 時 )の 行 政 実 務 による 健 康 保 険 厚 生 年 金 保 険 からの 非 正 規 労 働 者 排 除 (1980 年 内 翰 )が 従 前 の 労 働 省 ( 当 時 )の 行 政 実 務 ( 労 働 省 )による 雇 用 保 険 の 適 用 除 外 をモ デルにしていること 後 者 は 不 完 全 就 業 をなくすという 政 策 的 意 図 とセットとなっていた が 前 者 は 経 営 団 体 からの 要 望 と 家 庭 の 福 祉 機 能 低 下 を 危 惧 する 自 民 党 の 日 本 型 福 祉 社 会 論 とを 背 景 としていることなどを 明 らかにする このあたりの 歴 史 的 分 析 が 本 論 文 におけるもっとも 刺 激 的 な 論 証 の 一 つとなっている また 川 崎 氏 が 文 献 を 渉 猟 して 隠 れていた 議 論 や 素 材 を 発 掘 していること 作 業 が 丹 念 で 粘 り 強 いことには 驚 かされる 2 制 度 構 造 にまで 及 ぶ 分 析 川 崎 氏 は 具 体 的 な 社 会 保 障 制 度 上 の 問 題 である 1980 年 内 翰 発 出 までの 経 過 と その 問 題 点 ( 第 1 編 ) と 被 保 険 者 資 格 確 認 の 効 力 の 問 題 点 ( 第 2 編 ) を 取 り 上 げ そ の 問 題 構 造 についてまで 分 析 している これらの 論 点 は 社 会 保 障 法 学 でこれまでも 取 り 上 げられてきたが その 議 論 は 問 題 の 深 い 構 造 に 至 るものではなく その 時 点 での 行 政 の 取 扱 いを 容 認 した 上 で 制 度 全 体 の 構 成 を 一 般 的 に 論 ずるという 程 度 の 検 討 にとどまっていた これに 対 して 川 崎 氏 は 1980 年 内 翰 が 社 会 保 険 制 度 運 用 上 当 然 に 出 されたものではないこと 資 格 確 認 による 遡 及 の 期 間 限 定 が 保 険 運 用 者 側 の 都 合 による 側 面 が 強 かったことを 抉 り 出 すことに 成 功 している 川 崎 氏 のこうした 議 論 の 具 体 性 と 結 論 の 明 確 性 は 現 実 に 社 会 保 険 の 適 用 改 善 を 求 めて 努 力 してきた 関 係 者 ( 労 働 組 合 弁 護 士 社 会 保 険 労 務 士 等 の 実 務 家 )の 注 目 を 集 めており 川 崎 氏 がこれまで 発 表 した 論 文 が 既 にいくつかの 具 体 的 争 訟 で 引 用 さ れていることからも 明 らかである 例 えば 語 学 学 校 の 外 国 人 講 師 が 健 康 保 険 と 厚 生 - 13 -

年 金 保 険 の 被 保 険 者 資 格 確 認 を 請 求 したのに 対 して 社 会 保 険 事 務 所 ( 当 時 )が 確 認 を 拒 否 したため 生 じた 争 訟 事 案 では 使 用 者 が 1980 年 内 翰 を 根 拠 に 通 常 の 就 労 者 を 語 学 講 師 ではない 事 務 職 員 の 就 労 時 間 を 基 準 に 講 師 の 時 間 計 算 は 担 当 コ マ 数 から 割 り 出 し 一 時 的 に 担 当 コマ 数 が 減 少 した 講 師 について 4 分 の3 基 準 を 下 回 ったとして 社 会 保 険 適 用 から 排 除 したことが 争 われている 現 在 も 1980 年 内 翰 に よる 運 用 が 使 用 者 だけでなく 社 会 保 険 当 局 によって 維 持 されている 川 崎 氏 の 論 考 は 1980 年 内 翰 の 有 する 現 実 的 弊 害 を 考 えるうえでも 有 効 である また 川 崎 氏 がめざす 被 用 者 保 険 適 用 徹 底 の 方 向 性 は この 間 立 法 でもようやく 取 り 上 げ 始 められた( 短 時 間 労 働 者 への 社 会 保 険 適 用 等 に 関 する 特 別 部 会 での 議 論 や 提 案 )が 川 崎 氏 が 前 記 の 歴 史 的 分 析 とともに 国 際 的 にも 見 過 ごされてきた ILO の 議 論 に 新 たな 光 を 当 てて 国 際 標 準 の 制 度 の 方 向 をめぐる 論 点 を 掘 り 起 こして 示 している 点 も 大 いに 評 価 することができる 3 厚 生 年 金 保 険 法 (75 条 と 92 条 )をめぐる 詳 細 な 解 釈 論 第 2 編 第 2 章 で 川 崎 氏 は 厚 生 年 金 保 険 法 ( 以 下 法 )の 92 条 1 項 と 75 条 を めぐる 詳 細 な 解 釈 論 を 展 開 している これら 二 つの 条 文 を 整 合 的 に 解 釈 することは 難 しい なぜなら 第 1 に 同 じく 時 効 消 滅 と 規 定 していながら 被 保 険 資 格 者 の 保 険 給 付 受 給 権 は 民 法 上 の 定 期 金 債 権 ( 基 本 権 )とその 支 分 権 たる 定 期 給 付 債 権 に 類 似 した 性 格 を 有 すると 考 えられ( 民 法 168 条 169 条 ) 法 92 条 1 項 の 5 年 の 時 効 消 滅 は 基 本 権 に 関 する 規 定 と 解 されるが 厚 労 大 臣 の 保 険 料 徴 収 権 は 行 政 処 分 ( 被 保 険 者 資 格 確 認 処 分 標 準 報 酬 額 決 定 処 分 標 準 賞 与 額 決 定 処 分 法 18 条 1 項 本 文 20 条 1 項 24 条 の 3 なお 保 険 料 につき 81 条 3 項 不 服 申 立 ての 対 象 に つき 90 条 以 下 参 照 )を 前 提 とする 権 利 であり 本 来 行 政 処 分 は 何 時 まで 行 使 できるか という 行 政 法 上 の 問 題 が 伏 在 するからである この 点 国 税 通 則 法 70 条 は 明 文 で 課 税 庁 の 権 限 行 使 期 間 ( 除 斥 期 間 )を 規 定 し た 稀 な 立 法 である それ 故 第 2 に 明 文 で 準 用 を 規 定 していない 民 法 の 時 効 法 理 を どこまで 援 用 できるかが 問 題 となる 川 崎 氏 は 被 保 険 者 の 資 格 確 認 は 2 年 前 以 前 には 保 険 料 徴 収 権 が 時 効 消 滅 し ているから 遡 及 できない という 現 在 の 行 政 実 務 を 厳 しく 批 判 する その 論 証 が 本 論 文 の 白 眉 となっているが それによると 法 が 規 定 していない 保 険 料 徴 収 権 の 時 効 消 滅 の 起 算 点 を 当 該 権 利 を 行 使 することができるとき ( 民 法 166 条 )と 解 し 保 険 料 徴 収 権 は 被 保 険 者 の 資 格 発 生 時 = 事 業 所 に 使 用 されたときを 起 算 点 とし 厚 労 大 臣 自 身 の 資 格 確 認 (これは 裁 量 を 許 さない 覊 束 行 為 )を 停 止 条 件 とする 権 利 と 構 成 し それ 故 右 資 格 確 認 により 保 険 料 徴 収 権 は 行 使 可 能 となるから 消 滅 時 効 はその 条 件 成 就 = 資 格 確 認 のときから 進 行 する と 解 する 加 えて 厚 労 大 臣 の 確 認 行 為 は 被 保 険 者 が いつでも 請 求 でき また 被 保 険 者 であった 者 も 同 様 (31 条 1 項 )という 確 認 - 14 -

請 求 の 無 限 定 性 を 強 調 し そこから 確 認 行 為 自 体 に 期 間 的 制 約 はないのであるか ら 結 局 資 格 確 認 時 に 雇 われの 時 点 まで 遡 った 期 間 の 保 険 料 徴 収 権 の 停 止 条 件 が 成 就 し 資 格 確 認 の 時 点 で 一 挙 に 保 険 料 徴 収 権 の 行 使 が 可 能 となる と 結 論 付 ける その 際 川 崎 氏 は 国 税 通 則 法 が 課 税 要 件 を 充 足 したことにより 成 立 する 抽 象 的 納 税 義 務 を 具 体 的 納 税 義 務 に 転 換 する 更 正 決 定 等 の 確 定 権 を 除 斥 期 間 ( 同 法 70 条 ) 租 税 徴 収 権 を 消 滅 時 効 ( 同 72 条 )として 区 別 するが ともに 権 利 行 使 の 始 期 が 法 定 納 期 限 ( 申 告 期 限 )と 規 定 されているところに 注 目 する 氏 によれば 租 税 徴 収 権 は 確 定 権 を 含 む 広 義 に 解 されているが そうなると 本 来 徴 収 権 は 納 税 義 務 が 確 定 され て 初 めて 行 使 されるのだから 徴 収 権 の 消 滅 時 効 起 算 点 である 法 定 納 期 限 は 権 利 を 行 使 できるとき となるのかが 問 題 となる しかし 国 税 通 則 法 は 民 法 との 整 合 性 よりも 租 税 関 係 の 明 確 性 を 優 先 させたのであり そうすることが 国 の 強 力 な 徴 収 権 限 から 裁 量 性 を 排 除 し 納 税 義 務 者 の 権 利 を 保 障 することとなり それが 民 主 主 義 に 適 合 する 所 以 である( 租 税 法 律 主 義 ) と 解 する こうした 租 税 法 学 の 議 論 を 参 考 にすると 厚 生 年 金 保 険 の 現 在 の 実 務 における 資 格 確 認 の 時 点 から 過 去 2 年 間 しか 保 険 料 徴 収 は できない という 扱 いも 首 肯 できる 何 故 なら 法 92 条 1 項 は 被 保 険 者 の 資 格 確 認 と 保 険 料 の 確 定 及 びそれに 伴 う 保 険 料 徴 収 権 の 行 使 可 能 期 間 を 一 体 として 消 滅 時 効 期 間 として 規 定 したのであり それ 故 遡 及 的 に 行 使 する 保 険 料 確 定 権 は 2 年 間 に 制 限 されるからである しかし 氏 はこれを 厳 しく 批 判 する 第 1に 法 31 条 は 被 保 険 者 は いつでも 確 認 の 請 求 ができると 規 定 し さらに 大 臣 の 資 格 確 認 に 租 税 通 則 法 のような 期 間 制 限 はな いこと 第 2 に 保 険 料 徴 収 権 と 違 って 租 税 法 は 強 力 な 課 税 権 徴 収 権 を 前 提 にして いること 第 3 に 租 税 法 学 が 目 指 した 課 税 庁 の 恣 意 性 の 排 除 は パートタイマーの 排 除 にみられるように 被 用 者 保 険 法 では 完 全 に 破 られていることなどからである その 結 果 上 述 のような 結 論 に 至 る ただ 氏 の 立 論 に 問 題 がないわけではない 第 1 は 国 税 通 則 法 は 更 正 又 は 決 定 等 を 国 税 徴 収 権 の 時 効 中 断 事 由 とも 規 定 しており( 同 法 73 条 氏 の 議 論 にこの 点 がない) 広 義 の 徴 収 権 が 更 正 決 定 等 の 確 定 権 を 含 むという 理 解 は 必 ずしも 一 般 的 ではないこと 第 2 に 現 行 の 実 務 の 根 拠 とされている 保 険 料 の 義 務 違 反 に 対 する 制 裁 論 を 批 判 する 中 で 義 務 を 負 っているのは 事 業 主 であり 被 保 険 者 には 義 務 自 体 が 存 在 しないと 強 調 するが 事 業 主 が 負 っているのは 保 険 料 の 納 付 義 務 であ り 被 保 険 者 は 事 業 主 同 様 に 保 険 料 の 負 担 義 務 を 負 っている 点 ( 法 82 条 )を 看 過 していること 第 3 に 国 税 徴 収 権 の 理 解 として 納 税 義 務 の 確 定 は 徴 収 権 行 使 の 停 止 条 件 とみるべきであると 強 調 しているが そうだとすると 右 条 件 が 成 就 して 初 めて 徴 収 権 が 行 使 されるはずであるが 国 税 通 則 法 は 法 定 納 期 限 を 国 税 徴 収 権 の 消 滅 時 効 の 起 算 点 としていること( 同 法 72 条 1 項 かえって 同 法 73 条 1 項 は 更 正 決 定 等 - 15 -

を 徴 収 権 の 時 効 消 滅 の 中 断 事 由 としていることは 上 述 のとおり)とも 整 合 しないこと そ して 第 4 に 結 局 は 法 9 条 1 項 の 事 業 所 に 使 用 される 者 の 解 釈 上 80 年 内 翰 は 許 容 されるのかという 点 こそ 重 要 となろうが この 解 釈 に 関 する 判 例 の 分 析 が 必 ず しも 十 分 とは 言 えないことなどを 指 摘 しうる しかし そうした 点 はあるにしても 氏 の 議 論 は 学 界 がかねて 放 置 していた 重 要 論 点 を 正 面 から 果 敢 に 取 り 上 げ 幅 広 く 論 じている 点 は 大 いに 評 価 しうる 4 被 用 者 保 険 をめぐる 今 後 の 方 向 本 論 文 では 今 後 のあるべき 制 度 の 方 向 性 をそれ 自 体 としては 論 じていない た だ 川 崎 氏 が 重 視 しているのは 労 災 保 険 の 仕 組 みであり さらに 労 災 保 険 と 雇 用 保 険 を 一 体 的 なものとして 扱 った 労 働 保 険 徴 収 法 の 基 本 的 な 考 え 方 である 労 災 保 険 は 事 業 に 使 用 されている 以 上 当 然 に 適 用 される 使 用 者 の 責 任 保 険 である 労 働 保 険 徴 収 法 制 定 時 あるいは 同 法 に 関 する 行 政 サイドの 理 解 では これに 倣 って 労 働 者 の 非 自 発 的 離 職 を 使 用 者 の 責 任 として 捉 え 同 責 任 をカバーするものとして 雇 用 保 険 を 捉 える 考 え 方 が 示 されている(この 点 を 同 法 の 法 案 作 成 者 にインタビューをするなど して 明 らかにした 点 も 功 績 の 一 つである) この 見 方 からすれば 労 働 市 場 に 参 加 す る 者 であれば 失 業 時 の 所 得 保 障 のための 雇 用 保 険 の 適 用 対 象 とするべきである 要 するに 労 災 保 険 の 仕 組 みから 雇 用 保 険 (あるいは 両 保 険 をあわせた 労 働 保 険 )の 基 本 的 な 仕 組 みを 理 解 し さらにその 論 理 を 健 康 保 険 厚 生 年 金 に 及 ぼすというの が 労 働 者 の 生 活 保 障 のための 仕 組 みとして 社 会 保 険 制 度 の 再 生 を 図 るうえで 川 崎 氏 が 採 用 した 方 法 論 であると 理 解 することができる 昨 今 のワーキング プア 問 題 に 対 応 して 雇 用 保 険 の 非 正 規 労 働 者 への 適 用 が 拡 大 され 従 来 行 政 解 釈 で 行 われて いた 適 用 除 外 が 雇 用 保 険 法 それ 自 体 に 明 文 化 されたのに 対 し 健 康 保 険 厚 生 年 金 に 関 する 取 扱 いが 従 来 のままとなっている 現 状 (2016 年 に 健 康 保 険 厚 生 年 金 の 適 用 拡 大 が 行 われる 予 定 であるが その 影 響 は 限 定 的 であり 基 本 的 な 問 題 状 況 に 変 化 はない)において この 溝 を 埋 めるだけでなく 国 民 一 般 ではなく 労 働 者 という 地 位 に 対 応 した 統 一 的 な 社 会 保 険 制 度 を 構 想 するうえで 重 要 な 視 点 が 示 唆 されていると 考 えられる 5 結 論 以 上 川 崎 氏 は 社 会 保 障 法 分 野 での これまでの 学 説 のみならず 行 政 解 釈 実 務 や 労 使 双 方 の 主 張 の 変 遷 を 明 らかにすべく 大 量 の 文 献 を 丹 念 に 収 集 し さらには 当 時 の 関 係 者 にインタビューをしていること また 狭 く 社 会 保 障 法 分 野 の 文 献 だけではな く 行 政 法 税 法 民 法 などの 関 連 隣 接 分 野 の 文 献 や 議 論 をも 広 く 検 討 して 意 欲 的 に 問 題 を 考 察 し 自 説 をまとめ 上 げている そして 上 記 の 問 題 意 識 方 法 論 手 法 に もとづき 貧 困 リスクの 高 い 非 正 規 低 賃 金 労 働 者 のための 生 活 保 障 の 仕 組 みとして - 16 -

日 本 における 社 会 保 険 制 度 の 改 革 方 向 を 意 欲 的 に 示 した 点 に 本 論 文 の 最 大 の 意 義 があると 評 価 できる たしかに 川 崎 氏 の 論 文 は 比 較 法 研 究 がILO 等 に 限 られている 点 での 物 足 りなさ や 論 述 上 の 技 術 的 未 熟 さも 見 られ 考 察 についても 多 くの 課 題 が 残 されている たと えば 取 り 上 げる 保 険 の 種 類 が 場 面 により 違 っているが 医 療 年 金 雇 用 ( 失 業 )とい う 保 障 対 象 とそれをカバーする 各 保 険 の 構 造 がそれぞれ 独 自 性 を 有 することを 踏 まえ て 労 働 者 保 険 ( 労 働 保 険 )としての 共 通 性 を 整 理 する 必 要 があることを 指 摘 す ることができる つまり 社 会 保 険 論 さらに 社 会 保 障 法 論 全 体 の 構 造 を 描 き 出 す 課 題 が 残 されている しかし 本 論 文 で 氏 は 気 鋭 の 若 手 研 究 者 として 十 分 な 研 究 力 量 と 旺 盛 な 研 究 意 欲 を 示 しているので 残 された 総 論 的 課 題 の 追 究 においても 今 後 が 大 いに 期 待 できると 思 われる 以 上 審 査 の 結 果 本 審 査 委 員 会 は 川 崎 航 史 郎 氏 の 対 象 論 文 が 龍 谷 大 学 学 位 規 程 第 13 条 第 5 項 に 規 定 する 課 程 博 士 論 文 の 要 件 を 満 たすものであり 本 学 大 学 院 博 士 課 程 修 了 論 文 ( 法 学 )として 適 切 であると 判 定 した - 17 -