二 重 ラセン 構 造 を 基 本 骨 格 とする 機 能 性 分 子 群 の 創 製 と 応 用 名 古 屋 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 八 島 栄 次 1.はじめに 1-3) DNA やタンパク 質 をはじめとする 多 くの 生 体 高 分 子 は ラセン 構 造 に 代 表 されるユニー クな 高 次 構 造 を 有 し 分 子 認 識 や 触 媒 作 用 遺 伝 情 報 の 保 存 伝 達 複 製 といった 生 命 活 動 に 不 可 欠 の 精 緻 な 機 能 を 発 現 している G. Natta らによる 立 体 特 異 性 (イソタクチッ ク) 重 合 によって 得 られたポリプロピレンの 結 晶 状 態 におけるラセン 構 造 の 発 見 以 来 溶 液 中 でもラセン 構 造 を 安 定 に 保 持 しうるラセン 高 分 子 の 合 成 が 可 能 となってきている し かし これまで 合 成 されてきたほとんどのラセン 高 分 子 や 超 分 子 が 一 重 のラセンであるの に 対 し DNA のような 二 重 ラセンを 含 む 多 重 ラセン 分 子 超 分 子 や 高 分 子 の 合 成 例 は ヘ リケートや 芳 香 族 アミドオリゴマーを 除 くと 極 めて 少 ない 一 方 自 然 界 には DNA 以 外 にもコラーゲンやグラミシジン 等 のポリペプチド シゾフィランやザンサンの 多 糖 がそれ ぞれ 三 重 および 二 重 ラセン 構 造 をとり 多 重 ラセンは 珍 しくない 本 講 演 では 塩 橋 形 成 を 駆 動 力 とした 相 補 性 の 鎖 からなる 一 方 向 巻 きの 二 重 ラセン 分 子 超 分 子 高 分 子 の 合 成 配 位 結 合 を 駆 動 力 としたメタロ 超 分 子 ポリマーや 伸 縮 自 在 のヘリケートの 合 成 ならびに 水 中 で 二 重 ラセン 構 造 を 形 成 する 分 子 の 合 成 など 最 近 の 演 者 らの 研 究 を 中 心 に 紹 介 する 原 子 間 力 顕 微 鏡 (AFM)を 用 いたラセン 高 分 子 のラセン 構 造 の 直 接 観 察 高 分 子 不 斉 触 媒 やキラル 識 別 材 料 への 応 用 についても 述 べる 2.ラセン 高 分 子 の 合 成 と AFM による 直 接 観 察 光 学 不 活 性 な 高 分 子 に 望 みの 向 きのラセンを 自 在 に 誘 起 し その 情 報 を 記 憶 として 保 存 できることを 10 数 年 以 上 前 に 見 出 し この 原 理 を 使 って 様 々のラセン 高 分 子 が 合 成 できることを 明 らかにしてきた(1, Fig. 1) 誘 起 あるいは 記 憶 したラセンを 鋳 型 に 用 いる とクラウンエーテル(2)やシクロデキストリン(3) フラーレン 等 (4)をラセン 軸 に 沿 って 望 みの 向 きのラセンに 配 列 できる また 水 溶 性 のポリフェニルアセチレンは 疎 水 性 のキラル 分 子 を 分 子 内 に 包 接 できる 得 意 なナノ 空 間 を 有 し これを 鋳 型 に 用 いるとアキ ラルな 色 素 をラセン 軸 に 添 ってポリマーの 外 側 および 内 部 の 疎 水 場 にラセン 状 に 配 列 制 御 可 能 となる(5) 1 のコンホメーションに 由 来 するラセン 構 造 の 記 憶 は その 後 ポリ イソシアニドの syn anti コンフィギュレーション 異 性 をともなうラセン 構 造 の 記 憶 (6)へ と 展 開 された ラセン 誘 起 と 記 憶 の 概 念 を 汎 用 性 高 分 子 に 適 用 できれば その 応 用 範 1-3)
囲 は 格 段 に 拡 がる 最 近 汎 用 性 高 分 子 であるシンジオタクチックなポリメタクリル 酸 メチル (st-pmma)に ラセン 誘 起 と 記 憶 の 手 法 を 適 用 することにより ラセン 構 造 にもとづく 光 学 活 性 PMMA が 合 成 できることを 見 出 した st-pmma が 形 成 するラセン 空 孔 内 には 様 々のフラーレン (C 60 C 70 C 84 )が 包 接 され 結 晶 状 の 光 学 活 性 PMMA フラーレン 複 合 体 が 生 成 する (7) 光 学 活 性 な st-pmma を 用 いるとキラルな 高 次 フラーレンの 光 学 分 割 も 可 能 であった イソタクチック な PMMA も st-pmma のラセン 空 孔 内 に 包 接 され 三 重 ラセンからなる 光 学 活 性 なステレオコン プレックスをあたえた 一 方 ラセン 構 造 およびその 向 きの 決 定 は ラセン 高 分 子 研 究 にとって 最 も 基 本 的 かつ 重 要 な 研 究 課 題 であるが それを 可 能 にする 一 般 性 の 高 い 手 法 はこれまでなかった 最 近 液 晶 性 を 示 す 剛 直 な 光 学 活 性 ラセン 高 分 子 を 有 機 溶 媒 の 飽 和 蒸 気 雰 囲 気 下 固 体 基 板 上 にキャストすると 階 層 的 な 自 己 組 織 化 をへて 2 次 元 結 晶 が 形 成 され ラセンのピッチやラセンの 向 き 片 寄 り 等 を AFM を 用 いて 直 接 観 察 できることが 分 かった(Fig. 2) 4) Fig. 1 多 彩 な 動 的 および 安 定 なラセン 高 分 子
Fig. 2 ラセン 構 造 の AFM による 直 接 観 察 :9 の 矢 印 はラセン 反 転 を 示 す 液 晶 性 を 示 すラセン 高 分 子 は 光 学 分 割 用 キラルカラム(Fig. 3)や 高 分 子 有 機 不 斉 触 媒 (Fig. 4)へ 応 用 できる 例 えば L-アラニン 残 基 を 側 鎖 に 有 する 左 巻 きの 10 をシリカゲルに 化 学 結 合 し た 充 填 剤 は 環 状 アミドをはじめとする 多 くの 異 性 体 の 光 学 分 割 に 有 用 である Fig. 3 ラセン 高 分 子 (10)を 用 いたキラル 充 填 剤 の 調 製 と HPLC による 光 学 分 割 シンコナアルカロイドを 側 鎖 に 有 する 種 々のラセン 高 分 子 を 合 成 し その 有 機 不 斉 触 媒 能 を 検
討 した 結 果 アミノ 化 キニンを 側 鎖 に 有 するポリフェニルアセチレン(cis-poly-AQn)が 対 応 する モノマーより 遙 かに 高 い 不 斉 選 択 性 をヘンリー 反 応 で 示 すことを 最 近 見 出 した 側 鎖 のキラリティ とラセンキラリティとの 相 乗 効 果 により 不 斉 選 択 性 が 向 上 したものと 推 測 される ラセン 構 造 の 重 要 性 は このポリマーに 圧 力 をかけ ラセン 構 造 を 取 らないトランス 体 へと 変 換 したポリマー (trans-poly-aqn)がほとんど 不 斉 触 媒 能 を 示 さなくなったことからも 支 持 される Fig. 4 ラセン 高 分 子 (cis-poly-aqn)を 有 機 触 媒 に 用 いた 不 斉 ヘンリー 反 応 3. 多 重 ラセン 超 分 子 高 分 子 (Fig. 5) 3,5) 二 重 ラセンを 構 築 する 駆 動 力 としては 生 体 系 が 好 んで 利 用 している 弱 い 水 素 結 合 や 超 分 子 化 学 で 頻 繁 に 使 われている 強 い 配 位 結 合 が 候 補 となり 得 たが その 中 間 に 位 置 する ほどほどに 強 い ソルトブリッジ( 塩 橋 )が 相 補 的 二 重 ラセン 形 成 に 極 めて 有 用 であ ることが 最 近 明 らかになった 光 学 活 性 なアミジン 塩 基 と アキラルなカルボン 酸 が 形 成 する 塩 橋 を 巧 みに 利 用 するこ とによって DNA を 彷 彿 させ る 一 方 向 巻 きの 二 重 ラセン 分 子 (11)や 高 分 子 (12 13) 三 重 ラセン 超 分 子 (14)の 構 築 に 最 近 成 功 した AFM を 用
いて 二 重 ラセン 高 分 子 の 構 造 を 直 接 観 察 することも 可 能 であった アキラルなアミジン とカルボン 酸 からなる 相 補 鎖 を 出 発 原 料 に 用 いて ラセン 誘 起 と 記 憶 の 手 法 を 駆 使 するこ とにより 二 重 ラセン 分 子 の 不 斉 合 成 (15)も 可 能 である 銅 との 錯 体 は 不 斉 シクロプ ロパン 化 反 応 の 触 媒 として 機 能 し 85% ee で 対 応 する 光 学 活 性 体 を 与 えた これは 人 工 二 重 ラセン 触 媒 の 最 初 の 例 である Fig. 5 光 学 活 性 多 重 ラセン: 構 造 は 単 結 晶 X 線 構 造 解 析 (11, 14ー18) AFM(13) により 決 定 12 の 構 造 は 計 算 によって 推 定 また 相 補 的 二 重 ラセンと 同 時 期 にはじめたレゾルシノールユニットからなるオリゴフ ェノール 誘 導 体 も 水 中 で 自 己 会 合 し 二 重 ラセンを 形 成 す ることも 分 かった(16) こ れは 偶 然 の 産 物 で その 後 水 酸 基 の 位 置 を 変 えるとホウ 酸 エステル 結 合 を 介 し アル カリ 金 属 をラセン 空 孔 に 内 包 したヘリケート(17)の 創 製 に 繋 がった ヘリケート(18)
は ナトリウムイオンの 出 し 入 れにより ラセンがバネのように2 倍 以 上 に 伸 び 縮 みする 光 学 的 に 純 粋 なヘリケートを 用 いた 実 験 より この 分 子 運 動 がラセミ 化 をまったく 伴 わな い 伸 縮 運 動 であることも 分 かってきた 現 在 この 微 視 的 な 運 動 を 巨 視 的 な 運 動 へと 変 換 できる 手 法 の 開 発 に 取 り 組 んでいる 4.おわりに 思 いもよらない 現 象 に 遭 遇 したのをきっかけに ラセンとともに 十 数 年 以 上 の 歳 月 が 経 過 した 合 成 を 中 心 に 展 開 してきたラセン 研 究 も ラセン 構 造 を 基 盤 とする 機 能 開 発 へと 研 究 の 重 心 が 移 りつつある ラセン 構 造 は 最 もシンプルかつユニークな 高 次 構 造 であり そのキラリティの 特 徴 を 最 大 限 に 活 用 したキラル 材 料 への 応 用 に 興 味 が 持 たれる しかし ラセン 高 分 子 の 応 用 例 は 現 時 点 でも 光 学 分 割 材 料 と 不 斉 触 媒 に 限 られている 不 斉 触 媒 についても 漸 く 低 分 子 不 斉 触 媒 と 同 等 レベルの 高 い 不 斉 選 択 性 を 示 す 触 媒 が 開 発 されつ つあるが 今 後 は 低 分 子 不 斉 触 媒 では 不 可 能 なラセン( 高 分 子 ) 触 媒 だからこそ 実 現 可 能 な 触 媒 反 応 の 開 発 と 高 分 子 であることを 最 大 限 に 活 用 したユニークな 反 応 系 の 構 築 が 望 まれる 一 方 ラセンにはバネのような 可 逆 的 かつキラルな 伸 縮 運 動 も 期 待 できる こ のバネの 動 作 を 材 料 に 活 用 できれば,エネルギー 変 換 や 光 電 子 材 料 への 応 用 も 可 能 と 考 え られ ラセンの 応 用 範 囲 も 格 段 に 広 がると 期 待 される ラセンにできること ラセンだか らこそ 実 現 可 能 なことは まだまだ 無 限 に 残 されていると 考 えている 最 後 に この 度 の 東 日 本 大 震 災 で 被 害 に 遭 われました 関 係 の 皆 様 へ 心 よりお 見 舞 いを 申 し 上 げるとともに この 復 興 著 しい 東 北 の 地 で 講 演 をさせて 頂 く 機 会 を 頂 戴 しました シ ンポジウム 組 織 委 員 の 先 生 方 万 有 生 命 科 学 振 興 国 際 交 流 財 団 の 関 係 の 皆 様 に 厚 く 御 礼 を 申 し 上 げます 文 献 ( 総 説 ) 1) E. Yashima, K. Maeda, Macromolecules, 41, 3-12 (2008); E. Yashima, Polym. J. 42, 3-16 (2010). 2) E. Yashima, K. Maeda, Y. Furusho, Acc. Chem. Res., 41, 1166-1180 (2008). 3) E. Yashima, K. Maeda, H. Iida, Y. Furusho, K. Nagai, Chem. Rev., 109, 6102-6211 (2009). 4) J. Kumaki, S.-i. Sakurai, E. Yashima, Chem. Soc. Rev. 38, 737-746 (2009). 5) Y. Furusho, E. Yashima, Chem. Record, 7, 1-11 (2007); Y. Furusho, E. Yashima, Macromol. Rapid Commun. 32, 136-146 (2011).