金融調査研究会報告書「現代的な『金融業』のあり方~顧客価値を創造する金融業の拡大~」



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は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

為 が 行 われるおそれがある 場 合 に 都 道 府 県 公 安 委 員 会 がその 指 定 暴 力 団 等 を 特 定 抗 争 指 定 暴 力 団 等 として 指 定 し その 所 属 する 指 定 暴 力 団 員 が 警 戒 区 域 内 において 暴 力 団 の 事 務 所 を 新 たに 設

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中国会社法の改正が外商投資企業に与える影響(2)

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~


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弁護士報酬規定(抜粋)

平成25年度 独立行政法人日本学生支援機構の役職員の報酬・給与等について

損 益 計 算 書 自. 平 成 26 年 4 月 1 日 至. 平 成 27 年 3 月 31 日 科 目 内 訳 金 額 千 円 千 円 営 業 収 益 6,167,402 委 託 者 報 酬 4,328,295 運 用 受 託 報 酬 1,839,106 営 業 費 用 3,911,389 一

1. 前 払 式 支 払 手 段 サーバ 型 の 前 払 式 支 払 手 段 に 関 する 利 用 者 保 護 等 発 行 者 があらかじめ 利 用 者 から 資 金 を 受 け 取 り 財 サービスを 受 ける 際 の 支 払 手 段 として 前 払 式 支 払 手 段 が 発 行 される 場 合

検 討 検 討 の 進 め 方 検 討 状 況 簡 易 収 支 の 世 帯 からサンプリング 世 帯 名 作 成 事 務 の 廃 止 4 5 必 要 な 世 帯 数 の 確 保 が 可 能 か 簡 易 収 支 を 実 施 している 民 間 事 業 者 との 連 絡 等 に 伴 う 事 務 の 複 雑


1

している 5. これに 対 して 親 会 社 の 持 分 変 動 による 差 額 を 資 本 剰 余 金 として 処 理 した 結 果 資 本 剰 余 金 残 高 が 負 の 値 となるような 場 合 の 取 扱 いの 明 確 化 を 求 めるコメントが 複 数 寄 せられた 6. コメントでは 親

6-1 第 6 章 ストック オプション 会 計 設 例 1 基 本 的 処 理 Check! 1. 費 用 の 計 上 ( 1 年 度 ) 2. 費 用 の 計 上 ( 2 年 度 )- 権 利 不 確 定 による 失 効 見 積 数 の 変 動 - 3. 費 用 の 計 上 ( 3 年 度 )-

消 費 ~ 軽 減 率 消 費 の 軽 減 率 制 度 が 消 費 率 10% 時 に 導 入 することとされています 平 成 26 年 4 月 1 日 平 成 27 年 10 月 1 日 ( 予 定 ) 消 費 率 5% 消 費 率 8% 消 費 率 10% 軽 減 率 の 導 入 平 成 26

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二 資本金の管理

注 記 事 項 (1) 当 四 半 期 連 結 累 計 期 間 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 : 無 (2) 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 : 有 ( 注 ) 詳 細 は 添 付 資 料 4ページ 2.サマリー 情 報 (

Q IFRSの特徴について教えてください

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連結計算書

私立大学等研究設備整備費等補助金(私立大学等

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定款

リング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 に 係 る 繰 延 税 金 資 産 について 回 収 可 能 性 がないも のとする 原 則 的 な 取 扱 いに 対 して スケジューリング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 を 回 収 できることを 反 証 できる 場 合 に 原 則

m07 北見工業大学 様式①

PowerPoint プレゼンテーション

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平成22年度

1 総 合 設 計 一 定 規 模 以 上 の 敷 地 面 積 及 び 一 定 割 合 以 上 の 空 地 を 有 する 建 築 計 画 について 特 定 行 政 庁 の 許 可 により 容 積 率 斜 線 制 限 などの 制 限 を 緩 和 する 制 度 である 建 築 敷 地 の 共 同 化 や

要 な 指 示 をさせることができる ( 検 査 ) 第 8 条 甲 は 乙 の 業 務 にかかる 契 約 履 行 状 況 について 作 業 完 了 後 10 日 以 内 に 検 査 を 行 うものとする ( 発 生 した 著 作 権 等 の 帰 属 ) 第 9 条 業 務 によって 甲 が 乙 に

第 40 回 中 央 近 代 化 基 金 補 完 融 資 推 薦 申 込 み 公 募 要 綱 1 公 募 推 薦 総 枠 30 億 円 一 般 物 流 効 率 化 促 進 中 小 企 業 高 度 化 資 金 貸 付 対 象 事 業 の 合 計 枠 2 公 募 期 間 平 成 28 年 6 月 20

(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 き 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている

法 人 等 に 対 する 課 税 際 課 税 原 則 の 帰 属 主 義 への 見 直 しのポイント 総 合 主 義 から 帰 属 主 義 への 移 行 法 人 及 び 非 居 住 者 ( 法 人 等 )に 対 する 課 税 原 則 について 従 来 のいわゆる 総 合 主 義 を 改 め OECD

その 他 事 業 推 進 体 制 平 成 20 年 3 月 26 日 に 石 垣 島 国 営 土 地 改 良 事 業 推 進 協 議 会 を 設 立 し 事 業 を 推 進 ( 構 成 : 石 垣 市 石 垣 市 議 会 石 垣 島 土 地 改 良 区 石 垣 市 農 業 委 員 会 沖 縄 県 農

損 益 計 算 書 ( 自 平 成 25 年 4 月 1 日 至 平 成 26 年 3 月 31 日 ) ( 単 位 : 百 万 円 ) 科 目 金 額 営 業 収 益 75,917 取 引 参 加 料 金 39,032 上 場 関 係 収 入 11,772 情 報 関 係 収 入 13,352 そ

平 成 24 年 4 月 1 日 から 平 成 25 年 3 月 31 日 まで 公 益 目 的 事 業 科 目 公 1 公 2 公 3 公 4 法 人 会 計 合 計 共 通 小 計 苦 情 相 談 解 決 研 修 情 報 提 供 保 証 宅 建 取 引 健 全 育 成 Ⅰ. 一 般 正 味 財

第4回税制調査会 総4-1

第1章 簿記の一巡

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

容 積 率 制 限 の 概 要 1 容 積 率 制 限 の 目 的 地 域 で 行 われる 各 種 の 社 会 経 済 活 動 の 総 量 を 誘 導 することにより 建 築 物 と 道 路 等 の 公 共 施 設 とのバランスを 確 保 することを 目 的 として 行 われており 市 街 地 環

4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 新 規 社 ( 社 名 ) 除 外 社 ( 社 名 ) (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の

公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 有

第2回 制度設計専門会合 事務局提出資料

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代 議 員 会 決 議 内 容 についてお 知 らせします さる3 月 4 日 当 基 金 の 代 議 員 会 を 開 催 し 次 の 議 案 が 審 議 され 可 決 承 認 されました 第 1 号 議 案 : 財 政 再 計 算 について ( 概 要 ) 確 定 給 付 企 業 年 金 法 第

別 紙 第 号 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 議 案 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 を 次 のように 定 める 平 成 26 年 2 月 日 提 出 高 知 県 知 事 尾

●電力自由化推進法案

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2. 前 項 の 規 定 にかかわらず 証 券 会 社 等 又 は 機 構 を 通 じた 届 出 の 対 象 となっていない 事 項 については 当 会 社 の 定 める 書 式 により 株 主 名 簿 管 理 人 宛 に 届 け 出 るものとす る ( 法 人 株 主 等 の 代 表 者 ) 第

16 日本学生支援機構

定 性 的 情 報 財 務 諸 表 等 1. 連 結 経 営 成 績 に 関 する 定 性 的 情 報 当 第 3 四 半 期 連 結 累 計 期 間 の 業 績 は 売 上 高 につきましては 前 年 同 四 半 期 累 計 期 間 比 15.1% 減 少 の 454 億 27 百 万 円 となり

Taro-別紙1 パブコメ質問意見とその回答

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(6) 事 務 局 職 場 積 立 NISAの 運 営 に 係 る 以 下 の 事 務 等 を 担 当 する 事 業 主 等 の 組 織 ( 当 該 事 務 を 代 行 する 組 織 を 含 む )をいう イ 利 用 者 からの 諸 届 出 受 付 事 務 ロ 利 用 者 への 諸 連 絡 事 務

個人住民税徴収対策会議

入 札 参 加 者 は 入 札 の 執 行 完 了 に 至 るまではいつでも 入 札 を 辞 退 することができ これを 理 由 として 以 降 の 指 名 等 において 不 利 益 な 取 扱 いを 受 けることはない 12 入 札 保 証 金 免 除 13 契 約 保 証 金 免 除 14 入

対 象 者 株 式 (1,287,000 株 ) 及 び 当 社 が 所 有 する 対 象 者 株 式 (1,412,000 株 )を 控 除 した 株 式 数 (3,851,673 株 )になります ( 注 3) 単 元 未 満 株 式 も 本 公 開 買 付 けの 対 象 としております なお

財団法人○○会における最初の評議員の選任方法(案)


国 家 公 務 員 の 年 金 払 い 退 職 給 付 の 創 設 について 検 討 を 進 めるものとする 平 成 19 年 法 案 をベースに 一 元 化 の 具 体 的 内 容 について 検 討 する 関 係 省 庁 間 で 調 整 の 上 平 成 24 年 通 常 国 会 への 法 案 提

4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 有

続 に 基 づく 一 般 競 争 ( 指 名 競 争 ) 参 加 資 格 の 再 認 定 を 受 けていること ) c) 会 社 更 生 法 に 基 づき 更 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなされている 者 又 は 民 事 再 生 法 に 基 づき 再 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなさ

スライド 1

2. 会 計 規 程 の 業 務 (1) 規 程 と 実 際 の 業 務 の 調 査 規 程 や 運 用 方 針 に 規 定 されている 業 務 ( 帳 票 )が 実 際 に 行 われているか( 作 成 されている か)どうかについて 調 べてみた 以 下 の 表 は 規 程 の 条 項 とそこに

別 表 1 土 地 建 物 提 案 型 の 供 給 計 画 に 関 する 評 価 項 目 と 評 価 点 数 表 項 目 区 分 評 価 内 容 と 点 数 一 般 評 価 項 目 立 地 条 件 (1) 交 通 利 便 性 ( 徒 歩 =80m/1 分 ) 25 (2) 生 活 利 便

共 通 認 識 1 官 民 較 差 調 整 後 は 退 職 給 付 全 体 でみて 民 間 企 業 の 事 業 主 負 担 と 均 衡 する 水 準 で あれば 最 終 的 な 税 負 担 は 変 わらず 公 務 員 を 優 遇 するものとはならないものであ ること 2 民 間 の 実 態 を 考

経 常 収 支 差 引 額 等 の 状 況 平 成 26 年 度 予 算 早 期 集 計 平 成 25 年 度 予 算 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 3,689 億 円 4,597 億 円 908 億 円 減 少 赤 字 組 合 数 1,114 組 合 1,180 組 合 66

Microsoft PowerPoint - 基金制度

(Microsoft Word - \221\346\202P\202U\201@\214i\212\317.doc)

定款  変更

4 承 認 コミュニティ 組 織 は 市 長 若 しくはその 委 任 を 受 けた 者 又 は 監 査 委 員 の 監 査 に 応 じなければ ならない ( 状 況 報 告 ) 第 7 条 承 認 コミュニティ 組 織 は 市 長 が 必 要 と 認 めるときは 交 付 金 事 業 の 遂 行 の

った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる

(別紙3)保険会社向けの総合的な監督指針の一部を改正する(案)

平成24年度 業務概況書

就 業 規 則 ( 福 利 厚 生 ) 第 章 福 利 厚 生 ( 死 亡 弔 慰 金 等 ) 第 条 法 人 が 群 馬 県 社 会 福 祉 協 議 会 民 間 社 会 福 祉 施 設 等 職 員 共 済 規 程 に 基 づき 群 馬 県 社 会 福 祉 協 議 会 との 間 において 締 結 す

しかし 主 に 欧 州 の 一 部 の 回 答 者 は 受 託 責 任 について 資 源 配 分 の 意 思 決 定 の 有 用 性 とは 独 立 の 財 務 報 告 の 目 的 とすべきであると 回 答 した 本 ED に 対 する ASBJ のコメント レターにおける 意 見 経 営 者 の 受

Taro-条文.jtd

3 独 占 禁 止 法 違 反 事 件 の 概 要 (1) 価 格 カルテル 山 形 県 の 庄 内 地 区 に 所 在 する5 農 協 が, 特 定 主 食 用 米 の 販 売 手 数 料 について, 平 成 23 年 1 月 13 日 に 山 形 県 酒 田 市 所 在 の 全 国 農 業 協

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

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通 知 カード と 個 人 番 号 カード の 違 い 2 通 知 カード ( 紙 )/H27.10 個 人 番 号 カード (ICカード)/H28.1 様 式 (おもて) (うら) 作 成 交 付 主 な 記 載 事 項 全 国 ( 外 国 人 含 む)に 郵 送 で 配 布 希 望 者 に 交


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第5回法人課税ディスカッショングループ 法D5-4

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18 国立高等専門学校機構

Microsoft Word - ★HP版平成27年度検査の結果

Transcription:

第 5 章 貨 幣 間 競 争 下 の 銀 行 規 制 のあり 方 長 田 健 1.はじめに 貨 幣 ( 通 貨 )とは 決 済 手 段 として 一 般 に 通 用 している 資 産 を 指 し 最 も 基 本 的 な 形 態 は 中 央 銀 行 の 民 間 部 門 に 対 する 債 務 である 現 金 通 貨 ( 日 本 銀 行 券 )と 民 間 銀 行 が 自 らの 債 務 として 発 行 する 預 金 通 貨 である( 貝 塚 ほか[2002]) つまり 我 々は 決 済 をする 際 一 般 的 に 貨 幣 ( 現 金 預 金 )を 用 いる しかし 今 世 紀 に 入 りITやFintechの 発 展 と 共 に 消 費 者 による 現 金 や 預 金 を 用 いない 決 済 が 世 界 中 で 急 拡 大 している 経 済 に 様 々な 新 しい 決 済 手 段 つまり 新 しい 貨 幣 ( 現 金 預 金 以 外 の 貨 幣 ) が 生 まれ 消 費 者 がそれを 自 由 に 選 択 できるようになってきた 例 えば ケニアを 中 心 に 普 及 するM-Pesa( 携 帯 電 話 を 用 いた 決 済 サービス)は 発 展 途 上 国 における 最 も 有 名 な 成 功 例 の1つである ケニアの 人 口 の50%が 利 用 し GDPの25%がM-Pesa 上 で 動 い ていると 推 計 され 更 には 同 国 の 金 融 健 全 性 向 上 に 大 きく 貢 献 したと 言 われている(King [2012]) 1 M-Pesa 以 外 にも P2Pネットワークやブロックチェーンなどの 技 術 によって 生 ま れたBitcoin( 仮 想 通 貨 ) 1990 年 代 に 遡 ればNFC 技 術 (FeliCaなど) 2 などの 発 展 によって 生 まれたE-Money 3 が 挙 げられ それらは 日 本 においても 急 激 に 普 及 拡 大 している かつてハイエクが 唱 えた 貨 幣 間 競 争 が 現 実 に 起 こりつつあるのだろうか ハイエクは 1978 年 に 著 した Denationalization of Money 4 の 中 で 政 府 ( 中 央 銀 行 )による 貨 幣 発 行 の 独 占 を 排 除 し 民 間 による 貨 幣 発 行 とそれに 伴 う 貨 幣 間 の 競 争 の 必 要 性 を 訴 えている 池 田 西 部 [2012]の 邦 訳 を 引 用 すれば 民 間 機 関 が 異 なる 単 位 名 によって 明 確 に 区 別 できるさま 4 4 1 ケニアの 金 融 システムが 長 期 間 抱 えてきた 人 口 の 大 多 数 が 金 融 システムを 利 用 できない という 問 題 を M-Pesa が 改 善 したと 言 われている M-Pesa が 開 始 された 2006 年 において ケニア 家 計 の 70% 以 上 が 銀 行 口 座 を 持 っていなかった(もしくは 非 公 式 の 金 融 手 段 に 依 存 していた)と 言 わ れている(King[2012]) 2 NFC(Near Field Communication: 近 距 離 無 線 通 信 技 術 )のことで 日 本 などで 普 及 している FeliCa 以 外 にも 複 数 の 規 格 がある 3 Fung et al[2014]は Examples of Successful E-Money Initiatives(E-Money の 成 功 例 ) として オクトパスカード(Octopus Card 八 達 通 [ 香 港 ]) ゲルトカルテ(GeldKarte[ド イツ]) 電 子 マネー(Edy Suica など[ 日 本 ])を 挙 げている また Bitcoin は an Example of Decentralized E-Money( 発 行 主 体 が 中 央 銀 行 [ 政 府 ] で は な い E-Money) と し て 他 の E-Money とは 区 別 している 4 Denationalization of Money の 邦 訳 としては 貨 幣 発 行 自 由 化 論 ( 川 口 [1988])や 貨 幣 の 脱 国 営 化 論 ( 池 田 西 部 [2012])がある 本 稿 では 前 者 の 邦 訳 を 用 いる 77

ざま 4 4 な 種 類 の 貨 幣 を 発 行 することを 許 され 公 衆 がそれを 自 由 に 選 択 できること が 必 要 だと 主 張 している 5 一 方 ハイエクと 同 じくシカゴ 大 学 やモンペルラン 協 会 の 主 要 メンバーの1 人 であったミルトン フリードマンは この 貨 幣 発 行 自 由 化 論 に 対 して 現 実 的 ではない と 主 張 したと 言 われており 20 世 紀 を 代 表 する 経 済 学 者 2 人 をもってしても 一 国 内 における 貨 幣 間 の 競 争 が 経 済 厚 生 を 高 めるか 否 かは 議 論 が 分 かれたという( 江 頭 [2011]) 6 Fintech 等 の 普 及 に 伴 う 新 しい 貨 幣 の 登 場 により 期 せずして 貨 幣 間 競 争 が 経 済 へ 与 え る 影 響 について 議 論 すべき 時 代 が 再 び 訪 れたのかもしれない 7 Bitcoinなどの 仮 想 通 貨 は 日 本 円 や 米 ドルなどの 各 国 通 貨 とは 異 なる 単 位 を 用 いており ハイエクの 言 う 単 位 名 によって 明 確 に 区 別 できる 新 しい 貨 幣 である 8 一 方 日 本 で 普 及 する 電 子 マネーは 通 貨 単 位 として 円 を 用 いており ハイエクの 言 う 民 間 機 関 が 自 由 に 発 行 した 貨 幣 ではあるが 単 位 名 によっ て 明 確 に 区 別 できる 貨 幣 ではない ゆえに 厳 密 にはハイエクの 貨 幣 間 競 争 の 議 論 とは 一 致 しない しかし 仮 想 通 貨 電 子 マネーともに 民 間 機 関 が 自 由 に 発 行 した 現 金 や 預 金 を 用 いない 新 しい 決 済 手 段 であるという 意 味 において 本 稿 では 新 しい 貨 幣 と 呼 び その 普 及 の 現 状 と 影 響 を 分 析 することとする 本 稿 が 扱 う 貨 幣 間 競 争 は 流 動 性 供 給 主 体 間 の 競 争 と 言 い 換 えられる 経 済 にはある 一 定 の 流 動 性 需 要 が 存 在 し 銀 行 は 預 金 という 非 常 に 流 動 性 の 高 い 資 産 を 経 済 に 供 給 し その 需 要 に 応 えてきた 存 在 であると 考 えられている(DeAngelo and Stulz[2015]) 多 様 な 新 しい 貨 幣 の 普 及 は 流 動 性 の 高 い 資 産 の 多 様 化 であり 流 動 性 供 給 主 体 の 多 様 化 と 捉 えられる つまり 今 まで 銀 行 がほぼ 独 占 的 に 供 給 してきた 流 動 性 資 産 ( 決 済 性 の 高 い 資 産 ) を 他 の 事 業 者 も 供 給 するようになった 結 果 経 済 に 起 こりうる 変 化 を 分 析 する 9 それを 踏 まえ 銀 行 規 制 のあり 方 について 考 察 を 進 める 競 争 は 資 本 主 義 経 済 の 基 本 原 理 で あるが Level Playing Field( 公 平 な 競 争 環 境 )が 確 保 されない 競 争 は 時 として 市 場 に 歪 み をもたらす 世 界 金 融 危 機 後 に 導 入 されたバーゼルⅢを 中 心 とする 厳 しい 銀 行 規 制 や 銀 商 分 離 の 考 えに 基 づき 長 年 適 用 されてきた 業 務 範 囲 規 制 など 銀 行 業 は 他 の 流 動 性 供 給 主 体 に 比 べ 規 制 が 厳 しい 本 稿 では 競 争 環 境 が 公 平 とは 言 い 難 い 環 境 下 での 貨 幣 間 競 争 は 銀 行 システム を 不 安 定 にする 可 能 性 を 示 し 公 平 な 競 争 環 境 の 整 備 の 必 要 性 について 述 べていく 5 江 頭 [2011]によれば ハイエクの 主 張 は 貨 幣 に 対 する 政 府 の 独 占 を 排 除 すること 自 体 が 目 的 である ( 中 略 )ただし 貨 幣 発 行 の 秩 序 は 競 争 過 程 の 中 から 生 まれてくるルールによって 支 えられ ることになる としている 6 ハイエクとフリードマンは 自 由 主 義 者 の 国 際 団 体 であるモンペルラン 協 会 の 主 要 メンバーであり 共 に 共 産 主 義 の 脅 威 と 戦 った 盟 友 であった( 江 頭 [2011]) 7 電 子 マネーの 実 証 実 験 が 各 国 で 行 われた 2000 年 前 後 に 電 子 マネーが 経 済 に 与 える 影 響 に 関 する 研 究 は 日 本 国 内 でも 行 われた( 伊 藤 ほか[1999] 石 田 川 本 [2000]) 8 Bitcoin の 単 位 は BTC と satoshi である(1 satoshi = 0.00000001BTC) 9 King[2012]は 現 金 小 切 手 クレジットカードに 代 わる 決 済 手 段 群 のことを モバイル 決 済 モ バイルワレット と 呼 び ( 米 国 において)それらが 今 後 小 切 手 を 次 にクレジットカードを そ して 現 金 を 打 ち 負 かしていくと 予 想 している 78

本 稿 の 構 成 は 以 下 のとおりである 第 2 節 にて 新 しい 貨 幣 の 普 及 の 現 状 について 整 理 す る 第 3 節 では 銀 行 理 論 (DeAngelo and Stulz[2015]など)に 基 づき 新 しい 貨 幣 の 普 及 およびそれに 伴 う 貨 幣 間 競 争 ( 流 動 性 供 給 主 体 間 の 競 争 )が 金 融 システムに 与 える 影 響 を 分 析 し 現 在 の 銀 行 規 制 に 対 するインプリケーションを 導 く 第 4 節 では 両 節 の 議 論 を 踏 まえ 現 在 求 められる 銀 行 規 制 のあり 方 について 述 べる 2. 新 しい 貨 幣 の 普 及 の 現 状 新 しい 貨 幣 は 貨 幣 なのか 2016 年 3 月 4 日 情 報 通 信 技 術 の 進 展 等 の 環 境 変 化 に 対 応 するための 銀 行 法 等 の 一 部 を 改 正 する 法 律 案 が 提 出 され 本 国 会 ( 第 190 回 国 会 )にて 審 議 される 10 当 該 法 案 は 銀 行 法 をは じめとする 複 数 の 法 律 の 改 正 案 で 構 成 されているが 特 に 資 金 決 済 法 ( 資 金 決 済 に 関 する 法 律 ) の 改 正 案 は 世 間 の 注 目 を 集 め この 改 正 案 によって 仮 想 通 貨 が 貨 幣 として 認 定 される など の 一 部 報 道 があった しかし これらの 報 道 は 厳 密 には 間 違 いであり 改 正 案 の 定 義 ( 表 1)に 基 づくと 仮 想 通 貨 は 財 産 的 価 値 という 用 語 で 認 知 されたに 過 ぎない 11,12 この 改 正 案 はBitcoinに 代 表 され る 仮 想 通 貨 に 対 する 初 の 法 制 度 の 整 備 であり 2014 年 に 発 生 した MTGOX(Bitcoin 交 換 所 ) の 破 産 や 2015 年 のG7エルマウ サミット 首 脳 宣 言 による 国 際 的 な 要 請 などを 背 景 とした マ ネーロンダリング 対 策 テロ 資 金 対 策 利 用 者 保 護 のためのルール 作 りである 法 的 にはまだ 貨 幣 と 認 められていない 仮 想 通 貨 であるが 経 済 学 的 には 貨 幣 と 呼 べ るのだろうか 一 般 的 に 経 済 学 において 貨 幣 は 貨 幣 の 三 大 機 能 ( 一 般 的 交 換 手 段 価 値 の 尺 度 価 値 の 保 蔵 )を 有 するもの と 定 義 され 実 務 的 (マクロ 経 済 学 的 )には 現 金 通 貨 および 預 金 通 貨 の 総 額 であるマネーストック 統 計 によって 貨 幣 の 量 を 把 握 している Mishkin[2015]は Bitcoinが 未 来 の 貨 幣 となるか という 問 いに 対 して 一 般 的 交 換 手 段 としては 機 能 するが 残 り2つの 機 能 ( 価 値 の 保 蔵 価 値 の 尺 度 )が 低 いために 貨 幣 とはな らないだろうと 分 析 している 13 Bitcoinは 取 引 費 用 の 低 さ と 匿 名 性 (Bitcoinの 所 有 者 が 10 本 稿 は 2016 年 4 月 に 執 筆 しており 本 稿 が 刊 行 される9 月 には 決 議 の 結 果 が 出 ていると 考 えられる 11 片 岡 [2016]は 下 記 のように 述 べている 今 回 仮 想 通 貨 が 貨 幣 として 認 定 されるといった 一 部 報 道 がありましたが 厳 密 にいうと 法 的 には 誤 りです 正 確 には 次 のようなことです (1)ビットコインなどの 仮 想 通 貨 が 支 払 手 段 として 利 用 され または 通 貨 ( 法 定 通 貨 )と 交 換 する 業 務 が 規 制 法 の 対 象 となる (2)その 結 果 仮 想 通 貨 が 経 済 的 に 事 実 上 貨 幣 と 同 様 の 機 能 を 有 することを 法 律 上 は 財 産 的 価 値 という 用 語 で 認 知 したこととなる したがって 仮 想 通 貨 の 本 体 は モノ でも 通 貨 でもありません 依 然 として 電 子 的 手 段 に よる 一 般 的 な 財 産 的 価 値 ということになります この 点 は 今 までと 位 置 付 けに 変 化 はなく ただ 部 分 的 に 通 貨 と 同 じ 機 能 を 認 めて それに 必 要 な 規 制 をするということです 12 これ 以 外 にも モノ と 見 なされていた 仮 想 通 貨 が 貨 幣 としての 機 能 を 有 すると 認 められる 結 果 仮 想 通 貨 の 売 買 に 対 して 消 費 税 が 課 せられていたが 法 案 成 立 後 は 消 費 税 の 対 象 とならない との 報 道 もあったがこれも 間 違 いである 13 Mishkin[2015]pp.55-56 79

誰 であるかを 特 定 できない) という2つの 特 徴 により 交 換 手 段 としての 魅 力 が 高 く 決 済 手 段 として 利 用 されるが 高 いボラティリティ ゆえに 価 値 が 保 蔵 されず 価 値 の 尺 度 となりえ ないとしている 確 かに 過 去 7 年 間 の 価 格 推 移 ( 表 2)を 見 ると 価 格 は 非 常 に 変 動 している 貨 幣 ではなく 決 済 性 の 高 いリスク 資 産 として 捉 えるほうが 適 切 だろう 14 以 上 より 新 しい 貨 幣 の1つである 仮 想 通 貨 は 法 的 にも 経 済 学 的 にも 貨 幣 と 呼 ぶ 段 階 ではない しかし 新 しい 決 済 手 段 ( 一 般 的 交 換 手 段 )として 機 能 し 価 格 の 上 昇 などからも 明 らかなように 急 速 に 普 及 拡 大 している 今 後 従 来 の 貨 幣 ( 現 金 通 貨 や 預 金 通 貨 )に 代 替 補 完 する 存 在 になる 可 能 性 は 否 定 できない では 電 子 マネーはどうだろうか 電 子 マネーは 日 本 円 という 単 位 を 使 う 決 済 手 段 であ り 価 値 の 変 動 は(インフレ 率 が 安 定 している 限 り) 殆 どない ゆえに 貨 幣 の 三 大 機 能 を 有 し ており 経 済 学 上 の 貨 幣 と 言 える しかし 法 的 には 貨 幣 ではなく 資 金 決 済 法 が 定 めるところ の 前 払 式 支 払 手 段 の1つであり マネーストック 統 計 にも 算 入 されない 前 払 式 支 払 手 段 とは あらかじめお 金 を 払 い 商 品 の 購 入 の 際 に 決 済 手 段 として 利 用 するものの 総 称 であり 電 子 マネー 以 外 にも 商 品 券 やネットプリペイドカードなどが 挙 げられる( 表 3) 電 子 マネーは 発 行 量 の 観 点 から 見 ても 現 金 通 貨 や 預 金 通 貨 に 比 べてまだ 小 さく 現 時 点 で は 経 済 全 体 への 影 響 は 軽 微 であり マクロ 経 済 として 貨 幣 として 扱 う 段 階 ではないのかも しれない 表 4-1は 電 子 マネーおよび 他 の 通 貨 ( 現 金 通 貨 [ 日 本 銀 行 券 硬 貨 ] 預 金 通 貨 ) の 残 高 を 示 している 15 電 子 マネー 残 高 は2015 年 9 月 末 時 点 で2,311 億 円 であり 対 M 1 比 で 0.04% 対 預 金 通 貨 ( 個 人 )で0.06% 対 日 本 銀 行 券 で0.25% 対 硬 貨 で4.98%と 他 の 通 貨 に 比 べるとその 残 高 は 小 さい 16 しかし 年 率 13~20% 以 上 で 増 加 を 続 ける 成 長 速 度 は 他 の 通 貨 に 比 べて 際 立 っている( 表 4-2) 電 子 マネーと 同 じく 少 額 の 決 済 ( 消 費 ) に 使 用 される 硬 貨 と 比 較 すると 硬 貨 の 増 加 率 は 0.5~1.0%と 他 の 通 貨 に 比 べ 変 化 が 小 さく また 電 子 マネー 残 高 の 対 硬 貨 比 率 も 2008 年 から2015 年 の7 年 間 で1.8%から5.0%にまで 達 している 電 子 マネーが 少 額 消 費 で 普 及 している 可 能 性 が 推 測 される 表 5は 電 子 マネー 決 済 と 全 銀 システム 決 済 ( 小 口 内 為 取 引 )の 比 較 を 示 している 決 済 シス テムの 違 いや 決 済 金 額 の 規 模 の 違 いがあるので 単 純 比 較 は 難 しいが 件 数 (1 営 業 日 平 均 ) 14 利 用 可 能 店 舗 数 という 観 点 からも 貨 幣 としての 機 能 はまだ 低 い Bitcoin 日 本 語 情 報 サイトによる と 2016 年 4 月 16 日 現 在 日 本 国 内 における Bitcoin 決 済 が 可 能 な 店 舗 は 86 店 舗 ( 実 店 舗 59 件 通 信 販 売 27 件 )である 尚 電 子 マネーで 最 も 加 盟 店 数 が 多 い 楽 天 Edy は 約 40 万 店 である 15 電 子 マネー は 下 記 8つの 電 子 マネーの 合 計 額 : 楽 天 Edy( 専 業 系 ) SUGOCA ICOCA PASMO Suica Kitaca( 以 上 交 通 系 ) WAON nanaco( 以 上 流 通 系 ) 交 通 系 電 子 マネー は 乗 車 や 乗 車 券 購 入 に 利 用 されたものは 含 めていない 16 Bitcoin の 残 高 に 関 しては 単 位 が 異 なるため 比 較 が 難 しいが blockchain.info によると 2009 年 1 月 には 50BTC であった Bitcoin の 総 数 は 直 近 (2016 年 4 月 28 日 )で 15,482,350BTC まで 増 加 している 現 在 の Bitcoin と 日 本 円 の 変 換 レートは 約 5 万 円 なので 約 7,700 億 円 の Bitcoin が 世 の 中 に 存 在 することになる 尚 Bitcoin は 発 行 上 限 数 が 2,100 万 BTC と 決 まっている 80

を 見 るとその 規 模 は 全 銀 システムに 匹 敵 する 増 加 率 の 観 点 から 見 ても 件 数 金 額 ともに 年 率 15% 以 上 の 速 さで 拡 大 を 続 けており 全 銀 システムとの 差 は 歴 然 である これらのデータ もまた 電 子 マネーが 少 額 決 済 手 段 として 普 及 拡 大 している 可 能 性 を 示 唆 している ただし 1 件 当 たりの 決 済 金 額 は 少 額 で 推 移 しており その 額 にも 殆 ど 変 化 がない 電 子 マネー 各 社 が 利 用 金 額 に 上 限 を 設 けていること 電 子 マネーによる 内 国 為 替 取 引 ( 振 込 等 )が できないことなどが 原 因 だと 考 えられる 17 新 しい 貨 幣 は 法 律 上 統 計 上 はまだ 貨 幣 と 認 められていないが 発 行 量 や 決 済 件 数 の 増 加 率 は 従 来 の 通 貨 に 比 べると 際 立 っている 貨 幣 の 三 大 機 能 という 経 済 学 の 尺 度 で 整 理 し た 場 合 電 子 マネーはそれらの 機 能 を 有 しているので 貨 幣 と 捉 えられるが 2つの 機 能 ( 価 値 の 保 蔵 価 値 の 尺 度 )が 乏 しい 仮 想 通 貨 はリスク 資 産 の1つとして 捉 えるほうが 適 切 である と 整 理 できる( 表 6) 日 本 において 新 しい 貨 幣 の 普 及 は 消 費 者 ( 家 計 )レベルで 進 展 して いるが 現 在 日 本 において 貨 幣 間 競 争 が 起 こっているとはまだ 言 い 難 い 資 金 循 環 統 計 によると 2015 年 12 月 末 において 家 計 は62.4 兆 円 の 現 金 368.5 兆 円 の 流 動 性 預 金 を 保 有 しており それらは 経 済 全 体 の 現 金 流 動 性 預 金 のそれぞれ61% 65%に 相 当 する つまり 銀 行 が 発 行 する 流 動 性 預 金 の 半 分 以 上 が 家 計 によって 保 有 されている 家 計 が 預 金 以 外 の 決 済 手 段 で 彼 らの 流 動 性 需 要 を 満 たすようになった 場 合 預 金 流 出 に 伴 い 銀 行 部 門 の 経 営 に 大 きな 影 響 を 与 える 可 能 性 はある しかし 現 在 の 電 子 マネーとBitcoinの 発 行 額 を 足 し 合 わせたとしても 家 計 の 流 動 性 需 要 の0.2% 程 度 であり 流 動 性 預 金 や 現 金 の 存 在 を 脅 かす( 貨 幣 間 競 争 が 発 生 する)には 相 当 の 時 間 もしくは 今 以 上 の 成 長 スピードが 必 要 とさ れる 3. 貨 幣 間 競 争 が 金 融 システムに 与 える 影 響 本 節 では 最 近 刊 行 されたDeAngelo and Stulz [2015]を 中 心 に 銀 行 理 論 に 基 づき 貨 幣 間 競 争 ( 流 動 性 供 給 主 体 間 の 競 争 )が 金 融 システムに 与 える 影 響 について 考 察 を 進 める DeAngelo and Stulz [2015]は 銀 行 の 資 本 構 成 ( 自 己 資 本 比 率 )に 関 する 理 論 研 究 であ り 新 しい 貨 幣 や 貨 幣 間 競 争 を 直 接 的 に 扱 った 研 究 ではない なぜ 銀 行 の 自 己 資 本 比 率 は 他 の 産 業 に 比 べ 低 いのか 言 い 換 えれば なぜMM 理 論 が 銀 行 には 当 てはまらないのか とい う 問 いは 経 済 学 銀 行 論 の 研 究 者 達 が 長 年 取 り 組 んできたものである そして その 問 いに 対 する 有 力 な 仮 説 は セーフティーネット( 預 金 保 険 制 度 など)や 税 金 といった 諸 制 度 が 銀 行 の 本 来 の 最 適 な 資 本 構 成 を 歪 めた( 自 己 資 本 比 率 を 低 めた)というものであった ゆえにそれ を 根 拠 として 世 界 金 融 危 機 後 現 在 の 銀 行 の 自 己 資 本 比 率 は 低 過 ぎるものでありMM 理 論 に 立 脚 すれば 自 己 資 本 比 率 を 今 より 高 めても 社 会 的 コストはない とする 自 己 資 本 比 率 規 制 17 各 社 の 利 用 金 額 上 限 は2 5 万 円 ただし 前 払 決 済 手 段 の 利 用 可 能 金 額 の 上 限 は 各 社 自 主 的 なも のであり 法 律 ( 資 金 決 済 法 )の 定 めによるものではない 81

強 化 論 (Admati and Hellwig[2014]など)が 唱 えられるようになった しかし DeAngelo and Stulz [2015]は 銀 行 の 自 己 資 本 比 率 の 低 さはセーフティーネットや 税 金 に よるものではなく 銀 行 が 流 動 性 供 給 機 能 を 有 する 限 りにおいて 銀 行 にとっての 最 適 解 であることを 理 論 的 に 示 した 18 理 論 の 概 略 は 以 下 のとおりである 経 済 には 常 に 流 動 性 資 産 に 対 する 需 要 ( 流 動 性 需 要 )が 存 在 し その 需 要 に 対 して 預 金 という 資 産 を 提 供 し 応 えてきたのが 銀 行 である そして 人 々が 流 動 性 を 需 要 するがゆえに 預 金 には( 負 の) 流 動 性 プレミアムが 生 じる(つまり 流 動 性 の 高 さゆえに 金 利 が 低 くなる) この 流 動 性 プレミアムは 銀 行 の 資 金 調 達 の 観 点 からすると 預 金 による 資 金 調 達 が 相 対 的 に 低 コストになることを 意 味 するので 結 果 として 銀 行 は 高 レバ レッジになる つまり 銀 行 という 流 動 性 供 給 主 体 は 貨 幣 ( 預 金 ) によって 低 コストで 資 金 調 達 できるがゆえに 高 レバレッジになるという では この 研 究 に 基 づき 新 しい 貨 幣 の 普 及 とそれに 伴 う 貨 幣 間 競 争 が 金 融 システムに 与 え る 影 響 について 考 えてみよう 19 仮 想 通 貨 や 電 子 マネーは 預 金 同 様 経 済 の 流 動 性 需 要 に 応 え て 発 行 されている 資 産 であり 発 行 主 体 は 流 動 性 供 給 機 能 を 有 していると 考 えられる つまり 新 しい 貨 幣 は 発 行 主 体 からすれば 流 動 性 プレミアムを 有 した 低 コストの 資 金 調 達 手 段 と 見 るこ とができる 実 際 電 子 マネーを 例 に 挙 げれば 現 在 日 本 で 発 行 されている 電 子 マネーには 金 利 がつかないので 発 行 者 は 名 目 金 利 0%で 資 金 を 調 達 していることになり 貸 借 対 照 表 上 にも 負 債 項 目 の1つとして 計 上 される ゆえに 新 しい 貨 幣 の 発 行 主 体 も 銀 行 同 様 高 レバレッジ が 最 適 解 であり そうなるインセンティブを 有 していることになる Diamond and Dybvig [1983]は 流 動 性 資 産 を 発 行 して 資 金 調 達 する 銀 行 は 経 営 の 良 し 悪 しに 関 係 なく 均 衡 解 として 常 に 銀 行 取 り 付 けが 起 こる 可 能 性 を 有 していることを 示 した この 均 衡 解 の 存 在 は 預 金 保 険 制 度 などのセーフティーネットの 導 入 や 自 己 資 本 比 率 規 制 など の 銀 行 規 制 の 理 論 的 根 拠 の1つとなった 同 じ 論 理 は 新 しい 貨 幣 にも 当 てはまるだろう 20 し かし 現 在 日 本 における 電 子 マネー 仮 想 通 貨 の 発 行 主 体 に 対 するセーフティーネットや 規 制 は 銀 行 のそれらと 比 べて 非 常 に 簡 略 的 なものであり 預 金 保 険 制 度 や 自 己 資 本 比 率 規 制 に 相 当 する 制 度 も 存 在 しない 電 子 マネーに 関 しては 利 用 者 の 資 産 保 全 の 観 点 から 供 託 義 18 Diamond and Dybvig[1983]を 嚆 矢 に 多 くの 研 究 が 明 らかにしてきた 銀 行 の 流 動 性 供 給 機 能 は MM 理 論 では 考 慮 されていない その 機 能 を 仮 定 すれば 銀 行 の 自 己 資 本 比 率 の 低 さが 最 適 解 で あることを 理 論 的 に 説 明 できるとしている 19 DeAngelo and Stultz[2015]の 理 論 モデルは 銀 行 を 想 定 したセッティングになっているが 本 稿 では 当 該 モデルが 新 しい 貨 幣 の 発 行 主 体 にも 当 てはまると 仮 定 する 厳 密 な 検 討 は 今 後 の 研 究 課 題 とする 20 電 子 マネー( 前 払 式 支 払 手 段 )は 原 則 払 戻 し 禁 止 であるので 要 求 払 い 預 金 とは 異 なり 現 金 の 引 出 しは 起 こらない しかし 利 用 者 が Sun Spot 型 取 り 付 けのように 一 斉 に 電 子 マネーを 利 用 ( 電 子 マネーを 財 サービスに 交 換 )する 可 能 性 は 存 在 する 82

務 21 があるが その 内 容 は 預 金 保 険 制 度 に 比 べ 簡 素 なものであり EUの 電 子 マネーに 対 する 規 制 ( 他 の 財 産 から 隔 離 )に 比 べ 流 動 性 資 産 に 対 する 保 護 の 程 度 も 低 い 22 経 済 理 論 に 基 づ き 新 しい 貨 幣 にも 銀 行 同 様 のセーフティーネットや 規 制 ( 自 己 資 本 比 率 規 制 など)を 整 備 す る 必 要 があると 考 えられる DeAngelo and Stulz[2015]は 彼 らの 理 論 に 基 づき 流 動 性 供 給 主 体 間 の 競 争 の 激 化 は 高 レバレッジ 化 を 引 き 起 こす というインプリケーションを 導 いている つまり 競 争 の 激 化 は 新 しい 貨 幣 の 発 行 主 体 および 銀 行 の 高 レバレッジ 化 を 引 き 起 こす 可 能 性 がある この 可 能 性 を 踏 まえた 上 で 流 動 性 供 給 主 体 に 対 する 制 度 規 制 を 設 計 する 必 要 もある 23 新 しい 貨 幣 に 対 する 自 己 資 本 比 率 規 制 導 入 は Level Playing Fieldという 観 点 からも 議 論 を 進 める 必 要 がある DeAngelo and Stulz[2015]は 彼 らの 理 論 に 基 づき 銀 行 にのみ 厳 し い 自 己 資 本 比 率 規 制 を 課 し 他 の 流 動 性 供 給 主 体 に 課 さなかった 場 合 銀 行 の 競 争 力 が 低 下 し 流 動 性 供 給 機 能 は 他 の 流 動 性 供 給 主 体 (シャドー バンク 等 )に 奪 われる というインプリ ケーションも 導 いている 世 界 金 融 危 機 後 に 導 入 されたバーゼルⅢにおいて 自 己 資 本 比 率 規 制 が 大 幅 に 強 化 された( 図 1) 24 こういった 自 己 資 本 比 率 規 制 の 存 在 は 新 しい 貨 幣 の 発 行 主 体 ( 流 動 性 供 給 主 体 )に 対 する 銀 行 の 競 争 力 を 低 下 させ 預 金 流 出 を 引 き 起 こし 銀 行 経 営 を 悪 化 させる 可 能 性 がある つまり 銀 行 のみに 自 己 資 本 比 率 規 制 が 存 在 するという 条 件 の 下 での 新 しい 貨 幣 の 普 及 とそ れに 伴 う 貨 幣 間 競 争 は 銀 行 システムから 預 金 を 流 出 させ 金 融 システムを 不 安 定 にする 可 能 性 があると 解 釈 できる ただし この 議 論 は 銀 行 預 金 に 金 利 が 付 され 新 しい 貨 幣 に 金 利 が 付 されない 場 合 には 起 こ らない 可 能 性 が 高 い 他 の 条 件 が 等 しければ 流 動 性 を 需 要 する 経 済 主 体 にとって 金 利 が 付 される 流 動 性 資 産 のほうが 魅 力 的 であるからだ つまり 現 在 の 日 本 の 新 しい 貨 幣 は 利 子 が 付 与 されないので 仮 に 銀 行 が 発 行 する 預 金 の 金 利 が 十 分 に 高 ければ 銀 行 は 競 争 力 を 維 持 でき このような 事 態 は 起 こらないだろう しかし 長 引 く 超 低 金 利 政 策 および2016 年 2 月 から 導 入 されたマイナス 金 利 政 策 により 日 本 の 銀 行 預 金 金 利 はほぼ0%で 推 移 しており 新 しい 貨 幣 に 対 して 金 利 という 優 位 性 は 存 在 しない 低 金 利 が 続 く 限 りにおいて 銀 行 の 競 争 力 は 21 電 子 マネーに 限 らず 法 的 に 前 払 式 支 払 手 段 と 認 められると 利 用 者 保 護 等 の 観 点 から 供 託 金 を 積 む 必 要 が 出 てくる 22 3 月 末 あるいは9 月 末 において 発 行 している 前 払 式 支 払 手 段 の 未 使 用 残 高 が 1,000 万 円 を 超 えた ときは その 未 使 用 残 高 の2 分 の1 以 上 の 額 に 相 当 する 額 を 供 託 する 必 要 がある 23 この 上 で 忘 れてならないのは 高 レバレッジ 化 ( 低 い 自 己 資 本 比 率 )は 最 適 解 であるという 点 である 現 在 のバーゼルⅢのような 非 常 に 厳 しい 自 己 資 本 比 率 規 制 はかえって 流 動 性 供 給 主 体 の 最 適 な 資 本 構 成 を 歪 める 可 能 性 がある 24 最 低 所 要 自 己 資 本 比 率 は8% で 変 わらないが 質 の 高 い 資 本 ( 普 通 株 等 Tier 1)の 所 要 割 合 が 高 まり 景 気 循 環 に 応 じて 積 み 増 すカウンターシクリカル バッファー(CCB:Countercyclical Buffer) や 資 本 保 全 バッファー グローバルなシステム 上 重 要 な 銀 行 (G-SIBs:Global Systemically Important Banks)に 対 する 追 加 的 な 所 要 自 己 資 本 など 自 己 資 本 比 率 規 制 は 大 幅 に 強 化 された 83

低 下 し これにより 銀 行 システムが 不 安 定 になる 可 能 性 がある また 金 利 以 外 の 理 由 ( 例 え ば 更 なる 技 術 発 展 に 伴 う 新 しい 貨 幣 の 利 便 性 向 上 や 付 加 サービスの 提 供 など 25 )で 新 しい 貨 幣 が 預 金 よりも 魅 力 的 になった 場 合 もしくはマイナス 金 利 政 策 下 で 銀 行 の 預 金 金 利 がマイ ナスになるようなことがあれば 銀 行 の 競 争 力 低 下 は 免 れない 公 平 な 競 争 環 境 の 整 備 という 観 点 から 考 えると 自 己 資 本 比 率 規 制 だけでなく 流 動 性 供 給 主 体 間 に 存 在 する 不 公 平 な 規 制 の 是 正 も 検 討 すべきであろう 例 えば 銀 商 分 離 の 考 えに 基 づ き 長 年 適 用 されてきた 業 務 範 囲 規 制 である 26 日 本 の 業 務 範 囲 規 制 に 関 しては 銀 行 による 事 業 会 社 株 式 の 保 有 に 関 しては 厳 しく 制 限 を 課 す 一 方 事 業 会 社 による 銀 行 株 式 の 保 有 について は 100% 保 有 を 認 める ワンウェイ 規 制 となっている このワンウェイ 規 制 は( 狭 義 の) 銀 行 の 競 争 力 を 低 下 させ 銀 行 システムを 不 安 定 にする 可 能 性 がある 4.まとめ 1994 年 にビル ゲイツが Banking is necessary; banks are not と 予 言 したと 言 われてい る IT 技 術 の 進 展 により 従 来 の 店 舗 型 銀 行 は 淘 汰 され 様 々な 業 態 が 新 規 参 入 し 提 供 する 銀 行 サービスのみが 残 るという 展 望 である 本 稿 が 扱 う 貨 幣 ( 決 済 サービス) もまた 従 来 銀 行 が 独 占 的 に 提 供 してきたものであり Fintech 等 の 技 術 革 新 によって 他 業 態 による 新 規 参 入 が 進 み 競 争 が 徐 々に 激 しくなってきている 本 稿 は 新 しい 貨 幣 ( 仮 想 通 貨 電 子 マネー) の 普 及 とそれに 伴 う 貨 幣 間 競 争 の 激 化 が 金 融 システムにどのような 変 化 をもたらすのか 考 察 を 進 めてきた 前 節 の 議 論 に 基 づけば 新 しい 貨 幣 の 普 及 とそれに 伴 う 貨 幣 間 競 争 は 以 下 2 点 を 通 じて 金 融 システムに 負 の 影 響 を 与 える 可 能 性 があり それらに 向 けた 対 策 が 必 要 とされている 1つ 目 が 貨 幣 間 競 争 による 銀 行 システムの 不 安 定 化 であり それに 対 しては 流 動 性 供 給 主 体 間 の 競 争 環 境 を 歪 めないような 制 度 規 制 の 整 備 が 必 要 とされる 例 えば 新 しい 貨 幣 の 発 行 主 体 に 対 する 自 己 資 本 比 率 規 制 の 導 入 (もしくは 銀 行 に 対 する 自 己 資 本 比 率 規 制 の 緩 和 撤 廃 27 ) 業 務 範 囲 規 制 (ワンウェイ 規 制 )の 緩 和 撤 廃 である しかし 第 2 節 で 概 観 したように 現 在 日 本 において 新 しい 貨 幣 の 普 及 は 進 展 しているとはいえ 貨 幣 間 競 争 が 起 こっている 段 階 で はない ゆえに この 負 の 影 響 は 当 分 発 生 することはないと 考 えられるが 長 期 的 視 点 に 立 ち 25 金 利 に 相 当 するようなサービスも 始 まっている 例 えば ビュー スイカ カード(JR 東 日 本 のク レジットカード)を 用 いて Suica(JR 東 日 本 の 電 子 マネー)に 毎 月 2 万 円 ( 年 間 24 万 円 ) 入 金 した 場 合 クレジットカード 利 用 による 発 生 ポイントを Suica に 交 換 することで 年 間 3,000 円 ( 年 率 1.25%)を 得 ることができる(2016 年 4 月 現 在 ) 26 この 規 制 は 新 しい 貨 幣 と 銀 行 預 金 の 競 争 を 歪 める 規 制 ではなく 狭 義 の 銀 行 ( 都 市 銀 行 地 方 銀 行 などの 伝 統 的 な 銀 行 )と 新 たな 形 態 の 銀 行 (インターネット 専 業 銀 行 など)との 競 争 を 歪 める 規 制 である 27 世 界 金 融 危 機 後 の 規 制 強 化 の 流 れの 中 で 自 己 資 本 比 率 規 制 の 緩 和 撤 廃 は 現 実 的 には 難 しい 政 策 かもしれないが 当 該 規 制 に 対 しては 理 論 的 実 務 的 に 効 果 を 疑 問 視 する 研 究 が 存 在 することは 忘 れてはならない(Shimizu[2007]など) 84

Level Playing Fieldの 観 点 から 制 度 規 制 の 整 備 を 進 める 必 要 がある 2 点 目 が 新 しい 貨 幣 の 発 行 主 体 の 高 レバレッジ 化 であり それに 向 けたセーフティーネット や 規 制 の 整 備 である 例 えば 預 金 保 険 制 度 や 自 己 資 本 比 率 規 制 などの 銀 行 規 制 に 準 じた 制 度 規 制 の 整 備 である これらの 制 度 規 制 が 未 整 備 のまま 新 しい 貨 幣 の 普 及 を 放 置 することは 消 費 者 保 護 の 観 点 金 融 システム 日 本 経 済 への 影 響 の 観 点 からも 避 けるべきである 日 本 経 済 のみならず 先 進 国 経 済 は 低 金 利 が 続 き 同 時 にFintechの 技 術 革 新 が 続 いている 今 後 新 しい 貨 幣 ( 新 しい 決 済 手 段 )は 急 拡 大 し 貨 幣 間 競 争 も 現 実 味 を 帯 びてくると 考 えられ 早 急 な 対 応 が 求 められる 競 争 は 資 本 主 義 経 済 の 基 本 原 理 である 競 争 を 制 限 するのではなく 競 争 技 術 革 新 を 促 し 同 時 に 競 争 環 境 を 歪 めるような 制 度 規 制 の 改 善 廃 止 の 検 討 を 進 め る 必 要 がある (2016 年 5 月 脱 稿 ) 表 1 資 金 決 済 法 改 正 案 による 仮 想 通 貨 の 定 義 資 金 決 済 法 改 正 案 (2016 年 3 月 4 日 第 190 回 国 会 に 提 出 ) 第 2 条 第 5 項 この 法 律 において 仮 想 通 貨 とは 次 に 掲 げるものをいう 一 物 品 を 購 入 し 若 しくは 借 り 受 け 又 は 役 務 の 提 供 を 受 ける 場 合 に これらの 代 価 の 弁 済 のために 不 特 定 の 者 に 対 して 使 用 することができ かつ 不 特 定 の 者 を 相 手 方 と して 購 入 及 び 売 却 を 行 うことができる 財 産 的 価 値 ( 電 子 機 器 その 他 の 物 に 電 子 的 方 法 により 記 録 されているものに 限 り 本 邦 通 貨 及 び 外 国 通 貨 並 びに 通 貨 建 資 産 を 除 く 次 号 において 同 じ )であって 電 子 情 報 処 理 組 織 を 用 いて 移 転 することができるも の 二 不 特 定 の 者 を 相 手 方 として 前 号 に 掲 げるものと 相 互 に 交 換 を 行 うことができる 財 産 的 価 値 であって 電 子 情 報 処 理 組 織 を 用 いて 移 転 することができるもの 表 2 Bitcoinの 価 格 推 移 (1 月 時 点 ) 28 年 (1 月 ) 2009 2010 2011 2012 2013 過 去 最 高 12 月 5 日 2014 2015 2016 円 /BTC 0 0.09 43 418 1,940 127,800 94,026 25,483 46,119 Bitcoin 日 本 語 情 報 サイト(http://jpbitcoin.com/)に 基 づき 筆 者 作 成 28 2009 年 1 月 3 日 : 使 用 開 始 日 2010 年 1 月 は 価 格 変 動 がなかったため 直 前 (2009 年 10 月 ) の 価 格 を 使 用 85

表 3 資 金 決 済 法 による 前 払 式 支 払 手 段 の 定 義 資 金 決 済 法 第 3 条 この 章 において 前 払 式 支 払 手 段 とは 次 に 掲 げるものをいう 一 証 票 等 29 に 記 載 され 又 は 電 磁 的 方 法 30 により 記 録 される 金 額 31 に 応 ずる 対 価 を 得 て 発 行 される 証 票 等 又 は 番 号 記 号 その 他 の 符 号 32 であって その 発 行 者 等 33 から 物 品 を 購 入 し 若 しくは 借 り 受 け 又 は 役 務 の 提 供 を 受 ける 場 合 に これらの 代 価 の 弁 済 の ために 提 示 交 付 通 知 その 他 の 方 法 により 使 用 することができるもの 二 証 票 等 に 記 載 され 又 は 電 磁 的 方 法 により 記 録 される 物 品 又 は 役 務 の 数 量 に 応 ずる 対 価 を 得 て 発 行 される 証 票 等 又 は 番 号 記 号 その 他 の 符 号 34 であって 発 行 者 等 に 対 し て 提 示 交 付 通 知 その 他 の 方 法 により 当 該 物 品 の 給 付 又 は 当 該 役 務 の 提 供 を 請 求 することができるもの 29 証 票 電 子 機 器 その 他 の 物 30 電 子 的 方 法 磁 気 的 方 法 その 他 の 人 の 知 覚 によって 認 識 することができない 方 法 をいう 31 金 額 を 度 その 他 の 単 位 により 換 算 して 表 示 していると 認 められる 場 合 の 当 該 単 位 数 を 含 む 32 電 磁 的 方 法 により 証 票 等 に 記 録 される 金 額 に 応 ずる 対 価 を 得 て 当 該 金 額 の 記 録 の 加 算 が 行 われるも のを 含 む 33 発 行 する 者 又 は 当 該 発 行 する 者 が 指 定 する 者 34 電 磁 的 方 法 により 証 票 等 に 記 録 される 物 品 又 は 役 務 の 数 量 に 応 ずる 対 価 を 得 て 当 該 数 量 の 記 録 の 加 算 が 行 われるものを 含 む 86

表 4 電 子 マネーと 貨 幣 ( 現 金 通 貨 預 金 通 貨 )の 残 高 の 推 移 電 子 マネー 日 本 銀 行 券 発 行 高 4 1. 残 高 ( 億 円 :9 月 末 ) 貸 幣 流 通 高 ( 硬 貨 ) 現 金 通 貨 M1 預 金 通 貨 個 人 統 計 種 別 電 子 マネー 計 算 通 貨 流 通 高 マネーストック 統 計 2008 年 831 754,929 45,297 4,815,136 718,814 4,096,322 2,848,993 2009 年 995 759,173 45,262 4,860,543 723,911 4,136,632 2,829,701 2010 年 1,196 768,546 45,025 5,010,940 735,495 4,275,445 2,903,964 2011 年 1,372 788,829 45,035 5,257,326 754,685 4,502,641 3,074,518 2012 年 1,540 809,287 45,189 5,486,371 778,889 4,707,482 3,204,831 2013 年 1,770 835,762 45,662 5,737,442 797,808 4,939,634 3,358,687 2014 年 2,034 864,618 46,052 5,992,507 825,861 5,166,646 3,498,962 2015 年 2,311 915,617 46,439 6,294,753 874,344 5,420,409 3,657,272 電 子 マネー 日 本 銀 行 券 発 行 高 4 2. 増 加 率 (%: 前 年 比 ) 貸 幣 流 通 高 ( 硬 貨 ) 現 金 通 貨 M1 預 金 通 貨 個 人 2009 年 19.7 0.6-0.1 0.9 0.7 1.0-0.7 2010 年 20.2 1.2-0.5 3.1 1.6 3.4 2.6 2011 年 14.7 2.6 0.0 4.9 2.6 5.3 5.9 2012 年 12.2 2.6 0.3 4.4 3.2 4.5 4.2 2013 年 14.9 3.3 1.0 4.6 2.4 4.9 4.8 2014 年 14.9 3.5 0.9 4.4 3.5 4.6 4.2 2015 年 13.6 5.9 0.8 5.0 5.9 4.9 4.5 電 子 マネー 4 3. 電 子 マネー 残 高 の 対 当 該 通 貨 残 高 比 率 (%) 日 本 銀 行 券 発 行 高 貸 幣 流 通 高 ( 硬 貨 ) 現 金 通 貨 M1 預 金 通 貨 個 人 2008 年 - 0.11 1.83 0.02 0.12 0.02 0.03 2009 年 - 0.13 2.20 0.02 0.14 0.02 0.04 2010 年 - 0.16 2.66 0.02 0.16 0.03 0.04 2011 年 - 0.17 3.05 0.03 0.18 0.03 0.04 2012 年 - 0.19 3.41 0.03 0.20 0.03 0.05 2013 年 - 0.21 3.88 0.03 0.22 0.04 0.05 2014 年 - 0.24 4.42 0.03 0.25 0.04 0.06 2015 年 - 0.25 4.98 0.04 0.26 0.04 0.06 日 本 銀 行 ホームページに 基 づき 筆 者 作 成 電 子 マネーに 関 するデータは 電 子 マネー 計 数 の 長 期 時 系 列 データ(2007 年 9 月 ~2014 年 12 月 ) 決 済 動 向 (2016 年 4 月 ) による それ 以 外 のデータは 時 系 列 統 計 データ 検 索 サイト による 87

表 5 電 子 マネー 決 済 と 全 銀 システム 決 済 の 推 移 電 子 マネー 決 済 ( 年 間 ) 件 数 金 額 1 件 当 たり 件 数 * 前 年 比 前 年 比 金 額 (1 営 業 日 平 均 ) 単 位 百 万 件 % 億 円 % 円 千 件 2013 年 3,294 21.1 31,135 27.1 952 13,445 2014 年 4,040 22.6 40,140 28.0 994 16,490 2015 年 4,040 15.8 46,443 15.7 993 16,490 * 件 数 (1 営 業 日 平 均 ) は 営 業 日 を245 日 として 件 数 を245 倍 して 筆 者 算 出 全 銀 システム 小 口 内 為 取 引 決 済 (1 件 1 億 円 未 満 ) (1 営 業 日 平 均 : 片 道 ベース) 件 数 金 額 1 件 当 たり 件 数 * 前 年 比 前 年 比 金 額 (1 営 業 日 平 均 ) 単 位 千 件 % 億 円 % 千 円 千 件 2013 年 6,009 2.6 31,745 5.6 528 12,018 2014 年 6,172 2.7 32,852 3.5 532 12,344 2015 年 6,308 2.2 33,691 2.6 534 12,616 * 件 数 (1 営 業 日 平 均 ) は 件 数 を2 倍 して 筆 者 算 出 決 済 動 向 (2016 年 4 月 ) ( 日 本 銀 行 )に 基 づき 筆 者 作 成 表 6 通 貨 電 子 マネー 仮 想 通 貨 の 比 較 現 金 通 貨 預 金 通 貨 電 子 マネー 仮 想 通 貨 発 行 主 体 中 央 銀 行 民 間 銀 行 一 般 事 業 法 人 単 位 日 本 円 円 以 外 (BTCなど) 法 律 上 ( 統 計 上 ) 貨 幣 貨 幣 ではない 経 済 学 上 ( 貨 幣 の 三 大 機 能 ) 貨 幣 ( 貨 幣 の 三 大 機 能 を 有 している) 貨 幣 ではない 88

図 1 バーゼルⅢにおける 自 己 資 本 比 率 規 制 の 強 化 16.5 G-SIBs 1-3.5%) 13 10.5 8 6 4.5 4 Tier2 (4.0%) Tier1 (4.0%) CCB 0-2.5%) (2.5%) Tier2 (2.0%) Tier1 (1.5) Tier1 (4.5 0 参 考 文 献 Admati, A., & Hellwig, M. (2014). The bankers' new clothes: What's Wrong with Banking and What to Do about It. Princeton University Press. (アナト アドマティ, マルティン ヘルビッヒ[ 著 ] 土 方 奈 美 [ 訳 ][2014] 銀 行 は 裸 の 王 様 である 東 洋 経 済 新 報 社 ) DeAngelo, H., & Stulz, R. M. (2015). Liquid-claim production, Risk Management, and Bank Capital Structure: Why High Leverage is Optimal for Banks. Journal of Financial Economics, 116(2), 219-236. Diamond, D. W., & Dybvig, P. H. (1983). Bank runs, Deposit Insurance, and Liquidity. The Journal of Political Economy, 401-419. Fung, B. S. C., Molico, M., & Stuber, G. (2014). Electronic Money and Payments: Recent Developments and Issues. Bank of Canada. 89

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