原 発 事 故 避 難 者 への 仮 設 住 宅 等 の 供 与 に 関 する 新 たな 立 法 措 置 等 を 求 める 意 見 書 2014 年 ( 平 成 26 年 )7 月 17 日 日 本 弁 護 士 連 合 会 第 1 意 見 の 趣 旨 国 は, 福 島 第 一 原 子 力 発 電 所 事 故 ( 以 下 原 発 事 故 という )の 避 難 者 の 入 居 する 仮 設 住 宅 等 ( 建 設 型 の 仮 設 住 宅, 民 間 借 り 上 げ 住 宅 等 のみなし 仮 設 住 宅, 公 営 住 宅, 公 務 員 宿 舎 等 を 含 む )について, 避 難 者 の 意 見 を 聴 く 機 会 を 速 やか に 設 けた 上 で, 災 害 救 助 法 に 基 づく 支 援 を 継 続 するのではなく, 以 下 の 内 容 を 含 んだ, 原 発 事 故 避 難 者 を 総 合 的 に 支 援 する 新 たな 立 法 措 置 を 行 うべきである 1 避 難 者 に 対 して, 人 命 最 優 先 の 原 則, 柔 軟 性 の 原 則, 生 活 再 建 継 承 の 原 則, 救 助 費 国 庫 負 担 の 原 則, 自 治 体 基 本 責 務 の 原 則, 被 災 者 中 心 の 原 則 の6 原 則 に 準 じた 総 合 的 支 援 をすること 2 避 難 者 に 対 する 住 宅 供 与 期 間 を 相 当 長 期 化 させるとともに,1 年 ごとに 延 長 するという 制 度 を 改 め, 避 難 者 の 意 向 や 生 活 実 態 に 応 じて 更 新 する 制 度 とする こと 3 避 難 者 の 意 向 や 生 活 実 態 に 応 じて, 機 動 的 かつ 弾 力 的 に 転 居 を 認 めること 4 新 たに 避 難 を 開 始 する 避 難 者 にも 住 宅 等 を 供 与 するとともに, 避 難 者 の 意 向 や 生 活 実 態 に 応 じて, 避 難, 帰 還, 帰 還 後 の 再 避 難 を 柔 軟 に 認 めること 5 国 の 直 轄 事 業 として 避 難 者 に 対 する 住 宅 供 与 等 を 行 い, 避 難 先 の 自 治 体 にか かわらず 安 定 かつ 充 実 した 支 援 を 行 うとともに, 避 難 先 の 地 域 特 性 に 合 わせた 自 治 体 独 自 の 上 乗 せ 支 援 も 認 めること 6 有 償 の 住 宅 への 移 転 又 は 切 替 えのあっせんを 積 極 的 に 行 わないこと 第 2 意 見 の 理 由 1 現 在 の 状 況 原 発 事 故 による 被 ばくのおそれのある 地 域 に 居 住 していた 住 民 は,それぞれ の 住 まいにおける 平 穏 な 生 活 から 一 転 し, 原 発 事 故 後 の 政 府 の 指 示 によって 避 難 を 強 いられ,あるいは, 放 射 能 による 健 康 への 影 響 等 を 回 避 するため 遠 方 へ の 避 難 を 余 儀 なくされた 福 島 県 における 避 難 者 は, 原 発 事 故 から3 年 数 か 月 を 経 た 現 在, 県 内 に 約 8 万 3000 人, 県 外 に 約 4 万 5000 人 にのぼってい る 1
避 難 者 の 多 くは,3 年 が 経 過 した 今 も 仮 設 住 宅 等 を 仮 の 住 まいとして 生 活 を 送 っている 2 仮 設 住 宅 制 度 について (1) 仮 設 住 宅 は, 災 害 救 助 法 第 4 条 第 1 項 第 1 号 に 基 づいて 供 与 され, 供 与 期 間 は, 原 則 2 年 まで, 延 長 は1 年 ごととされている( 供 与 期 間 2 年 について, 同 法 第 4 条 第 3 項, 同 施 行 令 第 3 条 第 1 項, 平 成 25 年 10 月 1 日 内 閣 府 告 示 第 228 号 第 2 条 第 2 号 トによる 建 築 基 準 法 第 85 条 第 4 項 延 長 1 年 ご とについて, 特 定 非 常 災 害 の 被 害 者 の 権 利 利 益 の 保 全 等 を 図 るための 特 別 措 置 に 関 する 法 律 第 8 条 ) 建 築 基 準 法 第 85 条 は, 発 災 後 に 建 築 されるプレ ハブ 等 の 応 急 仮 設 建 設 物 について 定 めており, 供 与 期 間 2 年 及 び 延 長 は1 年 ごととする 定 めは,プレハブ 等 の 応 急 仮 設 建 築 物 の 安 全 性 と 耐 用 年 数 の 均 衡 から 定 められていると 解 される 東 日 本 大 震 災 では,プレハブ 等 の 応 急 仮 設 建 設 物 の 他 に, 民 間 住 宅 の 借 り 上 げ 住 宅 や, 公 営 住 宅 の 一 時 使 用 許 可 ( 地 方 自 治 法 第 238 条 の4 第 7 項 ) を 利 用 したもの(いわゆる みなし 仮 設 住 宅 )が, 多 数 活 用 されている みなし 仮 設 住 宅 はプレハブ 等 の 応 急 仮 設 建 築 物 と 異 なり, 建 築 基 準 法 等 が 定 める 所 定 の 基 準 を 満 たした 通 常 の 建 築 物 であるから, 供 与 期 間 2 年 及 び 延 長 は1 年 ごととする 合 理 性 はないにもかかわらず, 単 に みなし 仮 設 住 宅 の 制 度 を 明 確 に 定 めた 規 定 がないという 形 式 的 な 理 由 から, 応 急 仮 設 型 建 築 物 と 同 様, 供 与 期 間 2 年 及 び 延 長 は1 年 ごととして 運 用 されている (2) 仮 設 住 宅 等 の 供 与 は,あくまで 災 害 救 助 の 一 方 法 すなわち 緊 急 避 難 措 置 で あるため, 仮 設 住 宅 等 から 退 去 すれば 災 害 救 助 の 必 要 は 消 失 するという 建 前 で 運 用 されている そのため, 原 則 として 仮 設 住 宅 等 の 間 の 転 居 は 認 めない こととされている また,あくまで 災 害 直 後 の 救 助 であるという 建 前 から, 災 害 後 数 年 経 って から, 新 たに 仮 設 住 宅 等 を 提 供 することは 想 定 されてない (3) 災 害 救 助 法 に 基 づく 救 助 の 実 施 主 体 は 都 道 府 県 であり, 被 災 した 都 道 府 県 は 仮 設 住 宅 を 建 築 管 理 する 責 任 を 負 っているが, 国 が 定 めた 基 準 内 で 建 築 管 理 されている 場 合 は, 国 にその 費 用 を 救 助 費 として 負 担 してもらえるとい う 仕 組 みとなっている 避 難 者 を 受 け 入 れている 都 道 府 県 は, 避 難 元 の 都 道 府 県 への 求 償 を 確 実 にし,また 避 難 元 の 都 道 府 県 に 過 剰 な 負 担 を 負 わせない ためにも, 避 難 者 の 実 情 にかかわらず, 避 難 元 の 都 道 府 県 の 水 準 を 超 えた 方 法 で 救 助 するのを 躊 躇 する 傾 向 が 見 られる 本 来, 自 治 体 は 自 己 の 判 断 と 裁 量 により, 避 難 者 向 けの 仮 設 住 宅 等 の 供 与 2
をなし 得 るし, 相 当 の 長 期 にわたる 供 与 期 間 の 設 定 もできるが, 国 による 費 用 負 担 が 国 の 建 築 管 理 基 準 と 結 び 付 いている 現 行 制 度 下 では, 国 の 方 針 に 左 右 されることを 避 けられず,また, 避 難 元 の 県,すなわち 福 島 県 の 意 向 が 重 視 されている 3 避 難 者 の 実 情 (1) 東 京 電 力 原 子 力 事 故 により 被 災 した 子 どもをはじめとする 住 民 等 の 生 活 を 守 り 支 えるための 被 災 者 の 生 活 支 援 等 に 関 する 施 策 の 推 進 に 関 する 法 律 ( 以 下 支 援 法 という )では, 国 において 原 発 事 故 の 避 難 者 の 住 宅 の 確 保 に 関 する 施 策 を 講 ずることとされているが, 支 援 法 の 基 本 的 施 策 に 関 するパ ブリックコメントを 募 集 した 際, 仮 設 住 宅 等 の 運 用 について, 新 規 受 付 を 再 開 すること, 供 与 期 間 を 延 長 すること, 供 与 中 の 生 活 実 態 の 変 化 による 借 り 換 えについて 柔 軟 な 対 応 を 求 めること について 多 数 の 意 見 が 寄 せられ た(2013 年 10 月 11 日 付 け 復 興 庁 被 災 者 生 活 支 援 等 施 策 の 推 進 に 関 する 基 本 的 な 方 針 ( 案 )に 対 するパブリックコメント 結 果 の 公 表 について ) また, 福 島 県 が 本 年 1 月 から2 月 にかけて 行 った 避 難 区 域 内 区 域 外 の 双 方 からの 避 難 者 に 対 する 福 島 県 避 難 者 意 向 調 査 の 調 査 結 果 によれば, 避 難 者 の6 割 以 上 が 住 まいについて 不 安 を 感 じており,4 割 以 上 が 仮 設 住 宅 等 の 入 居 期 間 延 長 を 求 め,また4 分 の1 以 上 が 仮 設 住 宅 等 の 住 み 替 えについて 柔 軟 な 対 応 を 求 めていることも 浮 き 彫 りになった さらに,いくつかの 避 難 先 自 治 体 における 意 向 調 査 等 でも, 現 在 の 避 難 生 活 で 困 っていること, 不 安 なこととして, 住 まいのこと, 避 難 生 活 の 先 行 きが 不 明 なこと との 回 答 が 最 も 多 くなっている これらの 避 難 者 の 声 から は, 避 難 者 が 背 負 っている 複 合 的 な 問 題 を 垣 間 見 ることができる (2) 災 害 救 助 法 に 基 づく 運 用 を 継 続 することの 問 題 避 難 者 が 背 負 っている 複 合 的 な 問 題 は, 災 害 救 助 法 に 基 づく 仮 設 住 宅 等 の 供 与 が, 原 発 事 故 の 特 性 に 十 分 に 対 応 できていないために 生 じている 従 前, 災 害 救 助 法 は, 地 震 や 津 波 等 の 自 然 災 害 時 に 適 用 されてきたところであるが, その 運 用 及 び 制 度 自 体 に 問 題 があるため, 同 法 の 抜 本 的 な 改 善 を 行 うべきこ とを, 当 連 合 会 としてもかねて 意 見 を 述 べてきた(2011 年 7 月 29 日 付 け 仮 設 住 宅 の 改 善 に 関 する 意 見 書 等 ) このような 災 害 救 助 法 を, 原 発 事 故 という 種 類 の 異 なる 事 象 に 当 てはめ 続 けること 自 体 が 不 合 理 であり,その 無 理 が 次 第 にしわ 寄 せとなって 避 難 者 を 複 合 的 に 苦 しめていると 見 るのが 自 然 である 国 は,これ 以 上 無 理 を 重 ねるのではなく, 大 きく 舵 を 切 り, 以 下 の 問 題 に 対 応 できるように, 災 害 救 助 法 とは 異 なる 新 たな 立 法 措 置 を 講 じる 3
べきである 避 難 者 が 抱 えている 一 つ 目 の 問 題 は, 来 年,あるいは 再 来 年, 自 分 や 家 族 がどこにいるか,いられるかが 分 からない というものである これまで 災 害 救 助 法 に 基 づく 仮 設 住 宅 が 供 与 されてきたのは, 地 震 や 津 波 等 の 自 然 災 害 が 主 であった これらの 自 然 災 害 では, 発 災 後 しばらくして 復 旧 復 興 計 画 が 策 定 され,これに 基 づいた 復 旧 復 興 事 業 が 進 められるので, 被 災 者 は 仮 設 住 宅 での 生 活 が 暫 定 的 であり,1 年 ごとに 更 新 されるという 制 度 であっても, 復 旧 復 興 計 画 に 希 望 を 見 出 し, 将 来 を 見 据 えた 生 活 再 建 に 取 り 組 むことがで きた また, 他 県 へ 避 難 した 場 合 でも 復 興 計 画 があるので, 自 分 がいつ 頃 帰 還 するかのめどを 立 てることができた しかし, 原 発 事 故 による 避 難 という 事 象 においては, 復 旧 復 興 計 画 の 立 案 はおろか, 事 故 の 収 束 すら 現 実 的 に 見 据 えることができないため, 避 難 者 は 将 来 を 見 据 えた 生 活 再 建 に 取 り 組 むことができない 希 望 が 見 えない 中 で 暫 定 的 な 生 活 に 耐 え 続 けているのである このような 状 況 では, 親 が 仕 事 を 探 す 際 には 単 年 の 期 間 雇 用 を 選 択 せざるを 得 なかったり, 子 どもは 進 学 先 が 定 まらないことで 勉 強 に 集 中 できなかったり, 友 人 付 き 合 いする 際 も 躊 躇 せざ るを 得 なかったりするのである このように, 将 来 が 見 通 せない,いつまでも 暫 定 的 な 状 態 が 継 続 している という 事 実 は, 著 しい 不 安 感 や 将 来 が 見 通 せない 絶 望 感 となって, 避 難 者 の 心 身 を 蝕 んでいるのである 福 島 県 の 災 害 関 連 死 者 数 は, 同 じ 被 災 地 である 岩 手 県 や 宮 城 県 と 異 なり, 災 害 直 後 ではなく 半 年 後 ~1 年 後 にピークを 迎 え ている これ 自 体, 避 難 者 の 避 難 生 活 の 過 酷 さを 物 語 っているが, 仮 設 住 宅 等 に 入 居 して 相 当 時 間 が 経 過 した 後 も, 災 害 関 連 死 者 数 が 高 い 水 準 で 発 生 し 続 けていることは, 避 難 生 活 の 過 酷 さと,これに 対 する 支 援 策 が 決 して 十 分 ではないことを 物 語 っている 支 援 方 法 を 抜 本 的 に 見 直 し, 関 連 死 の 増 加 を 是 非 とも 食 い 止 める 必 要 がある こうした 避 難 者 の 過 酷 な 心 理 は,かつて 暫 定 的 なありようがいつ 終 わる か 見 通 しのつかない 人 間 は, 目 的 をもって 生 きることができない ふつうの ありようの 人 間 のように, 未 来 を 見 すえて 存 在 することができないのだ そ のため, 内 面 生 活 はその 構 造 ががらりと 様 変 わりしてしまう 精 神 の 崩 壊 現 象 が 始 まるのだ (ヴィクトール E フランクル 夜 と 霧 )と 表 現 された 心 理 状 態 に 重 なるものがある こうした 避 難 者 の 実 情 を 直 視 すると, 更 新 が1 年 ごとで, 転 居 を 容 認 しな いような 現 在 の 仮 設 住 宅 等 の 供 与 に 関 する 制 度 が, 避 難 者 の 実 情 に 適 合 して 4
いないことは 明 らかである 二 つ 目 の 問 題 は, 原 則 として 転 居 が 認 められていないので, 狭 い 部 屋 に 多 人 数 で 生 活 したり, 転 勤 等 がある 仕 事 に 就 きにくいなど, 多 数 の 不 便 を 強 い られていることである これまで 災 害 救 助 法 に 基 づく 仮 設 住 宅 が 供 与 されて きたのは, 自 然 災 害 が 主 であった これら 自 然 災 害 の 影 響 は 万 人 に 等 しく 及 ぶので, 避 難 するか 否 かの 判 断 に 年 代 等 の 傾 向 等 はなく, 家 族 はまとまって 避 難 することができた しかし, 原 発 事 故 では, 乳 児 や 幼 児,あるいは 妊 婦 や 若 年 者 等 への 影 響 が 特 に 懸 念 されていることから, 親 の 世 帯 と 子 の 世 帯 が 別 々に 避 難 したり, 年 月 の 経 過 とともに, 世 帯 分 離 の 避 難 に 伴 う 心 理 的, 経 済 的 負 担 を 避 けるため, 別 々に 避 難 していた 家 族 が 集 まり, 時 間 の 経 過 とと もに 同 居 家 族 の 人 数 が 変 わるケースが 多 くなっている さらに, 原 発 事 故 に 起 因 する 複 合 的 なストレスにより, 家 庭 内 の 関 係 性 が 悪 化 している 例 も 少 な くない また, 原 発 事 故 では 避 難 過 程 や 経 路 に 多 数 の 混 乱 があったため,ひとまと まりになって 避 難 できていない 家 族 が 多 く, 当 初 はバラバラに 避 難 したり, 一 時 的 に 一 緒 に 住 む,などの 事 象 も 多 数 起 きている さらに, 避 難 者 に 子 ど もが 多 いところ, 避 難 の 長 期 化 とともに 子 どもは 成 長 していくので, 個 室 や 受 験 勉 強 用 のスペースが 必 要 になるなど, 転 居 を 必 要 とする 事 象 が 多 数 発 生 している 以 上 のような 事 情 から, 避 難 者 は 転 居 を 必 要 とする 事 態 に 直 面 し,あるい はこれから 直 面 するのである 三 つ 目 の 問 題 は, 新 たに 避 難 を 開 始 するケースに 対 応 できていない,とい うことである 原 発 事 故 による 避 難 は 長 期 化 し, 事 故 収 束 のめどすら 立 って いないところ, 事 故 直 後 は 独 身 等 の 理 由 で 避 難 を 選 択 しなかったが,その 後 の 結 婚, 妊 娠, 出 産 等 を 契 機 に 避 難 を 開 始 する 避 難 者 が 出 てきている 災 害 救 助 法 に 基 づく 仮 設 住 宅 は, 自 然 災 害 等 の 発 生 直 後, 一 斉 に 避 難 するケース に 当 てはめられてきたところ,このような 原 発 事 故 特 有 の 避 難 に 十 分 に 対 応 できていない こういった 事 象 は, 現 在 も 発 生 しているし, 数 年 後,あるい は10 年 以 上 後 に 発 生 することも 十 分 に 考 えられるのである 四 つ 目 の 問 題 は, 避 難 先 の 自 治 体 がどこであるかによって, 避 難 者 が 受 け られる 支 援 が 異 なっている,ということである ある 自 治 体 では, 仮 設 住 宅 等 に 一 時 入 居 している 避 難 者 に, 期 限 の 更 新 ごとに 期 限 までに 必 ず 退 去 い たします, 明 渡 し 勧 告 に 従 います 等 を 記 した 誓 約 書 を 繰 り 返 し 提 出 させ たり, 有 償 入 居 への 切 替 えを 迫 ったりして, 避 難 者 が 心 理 的 に 追 い 詰 められ 5
ているが, 避 難 先 の 自 治 体 の 運 用 によって 大 きな 扱 いの 差 があることは 不 合 理 である 原 発 事 故 は, 自 然 災 害 のように 自 治 体 が 自 ら 対 応 するという 性 質 のものではなく, 国 が 責 任 を 持 って 一 律 に 対 応 すべき 事 象 である 以 上 のように, 原 発 事 故 による 避 難 は, 地 震 や 津 波 等 を 原 因 とする 避 難 と はその 性 質 を 全 く 異 にしているのであるから, 災 害 救 助 法 に 基 づく 現 在 の 仮 設 住 宅 等 の 運 用 で 対 応 し 続 けること 自 体 に 無 理 があり,この 無 理 が 避 難 者 を 苦 しめているのである 4 必 要 な 立 法 措 置 について 以 上 の 実 情 と 制 度 の 現 状 を 踏 まえ, 原 発 事 故 避 難 者 への 仮 設 住 宅 等 の 供 与 に ついては, 次 の(1)に 記 載 する 調 査 を 行 った 上 で,(2) 以 下 に 記 載 する 内 容 を 含 んだ 新 たな 立 法 措 置 を 講 じるべきである (1) 避 難 者 への 聴 き 取 り 及 び 調 査 現 在, 残 念 ながら 原 発 事 故 避 難 者 の 対 応 は 不 十 分 といわざるを 得 ないが, それは 国 や 自 治 体 が 避 難 者 の 実 情 に 肉 薄 しておらず, 深 刻 な 状 況 を 把 握 して いないところに 原 因 がある したがって,まず 避 難 者 の 切 実 な 声 をしっかり 聴 き, 実 態 を 把 握 することが 重 要 である そもそも, 支 援 法 第 14 条 では, 国 は 避 難 者 の 意 見 を 聴 くことが 義 務 付 けられているのであるから, 速 やかに 避 難 者 の 意 見 を 聴 く 機 会 を 設 けるべきである また, 地 方 自 治 体 においても, 手 厚 い 支 援 を 行 っている 自 治 体 は 独 自 に 実 態 調 査 を 行 っており, 他 方, 支 援 が 十 分 でないと 思 われる 自 治 体 は 調 査 を 行 っておらず,また, 避 難 者 とのコミュニケーションの 機 会 も 少 ない 調 査 結 果 を 取 りまとめていない 自 治 体 では, 同 一 自 治 体 内 の 関 係 部 署 間 で 情 報 の 共 有 もなされておらず, 例 えば, 生 活 支 援 の 中 心 を 担 う 部 署 が, 仮 設 住 宅 等 の 入 居 期 限 延 長 の 状 況 さえ 知 らないという 例 も 散 見 され, 避 難 者 に 対 する 支 援 が 十 分 になされていないことの 一 因 となっている 各 地 の 自 治 体 は, 避 難 者 の 実 情 を 十 分 に 調 査 するべきである (2) 基 本 原 則 避 難 者 は, 現 在, 大 きな 不 安 と 葛 藤 に 苦 悩 し, 安 心 して 人 間 らしく 生 活 で きる 条 件 を 実 感 できない 状 況 にあるが,この 惨 状 は, 人 権 の 観 点 から 見 直 せ ば, 居 住 の 権 利 が 危 うくされ, 生 存 権 が 脅 かされているものといわざるを 得 ず, 当 連 合 会 が 一 貫 して 提 唱 している 人 間 復 興 の 理 念 に 背 くものといわなけ ればならない 災 害 救 助 法 の 適 用 に 当 たっては, 現 在 の 運 用 原 則 を 改 め, 人 命 最 優 先 の 原 則, 柔 軟 性 の 原 則, 生 活 再 建 継 承 の 原 則, 救 助 費 国 庫 負 担 の 原 則, 自 6
治 体 基 本 責 務 の 原 則, 被 災 者 中 心 の 原 則 を 立 てて, 災 害 救 助 法 の 抜 本 的 な 運 用 改 善 に 努 めるべきであると 提 唱 しているところであるが(2012 年 4 月 20 日 付 け 当 連 合 会 防 災 対 策 推 進 検 討 会 議 中 間 報 告 に 対 する 意 見 書 ), 原 発 事 故 の 避 難 者 に 対 する 仮 設 住 宅 等 供 与 の 政 策 も 同 様 の 視 点 をもって 改 め られるべきである むしろ, 災 害 救 助 法 は 自 然 災 害 を 想 定 した 制 度 設 計 となっており, 原 発 事 故 の 避 難 者 への 対 応 制 度 としては 限 界 があるといわざるを 得 ず, 上 記 の 新 た な6 原 則 に 準 じた 新 たな 制 度 を 創 設 することが 望 ましいと 言 える (3) 相 当 長 期 の 期 限 延 長 当 連 合 会 は,2014 年 5 月 16 日 付 けで 原 発 事 故 避 難 者 の 住 宅 の 供 与 期 間 の 延 長 等 を 求 める 会 長 声 明 を 公 表 した その 後, 多 くの 仮 設 住 宅 等 に ついて 期 限 が1 年 延 長 されたことは 一 定 の 評 価 に 値 するが, 既 に 述 べたとお り,1 年 ごとに 延 長 するという 制 度 では 避 難 者 支 援 として 不 十 分 である そこで, 供 与 期 間 を 相 当 長 期 化 させるとともに,1 年 ごとに 更 新 するとい う 方 法 を 改 め, 避 難 者 の 意 向 や 生 活 実 態 に 合 わせて 更 新 できる 制 度 に 改 める べきである (4) 転 居 の 容 認 国 は, 一 貫 して 仮 設 住 宅 等 の 転 居 を 原 則 として 認 めない 方 針 であるが, 既 に 福 島 県 は, 県 外 避 難 者 の 帰 還 者 に 対 するみなし 仮 設 の 提 供 を 行 っており, 国 もこれを 容 認 している さらに, 避 難 先 の 自 治 体 においてはみなし 仮 設 に 転 居 した 例 もある そもそも, 国 が 仮 設 住 宅 等 の 転 居 を 原 則 として 認 めないのは, 建 設 型 の 仮 設 住 宅 が 短 期 間 の 提 供 にとどまることを 前 提 として, 住 宅 提 供 をもって 救 助 を 終 了 すると 解 しているからに 過 ぎない 原 発 事 故 避 難 者 の 実 情 に 合 わせ, 生 活 実 態 や 必 要 に 合 わせ, 機 動 的 かつ 弾 力 的 に 転 居 を 認 める 制 度 が 必 要 である (5) 新 たな 避 難 や 再 避 難 に 対 応 できる 避 難 住 宅 供 与 原 発 事 故 は 未 だ 収 束 しておらず, 除 染 も 決 して 十 分 に 果 たされていない 以 上, 結 婚, 妊 娠, 出 産 等 を 契 機 に 新 たに 避 難 を 開 始 する 避 難 者 が 出 てくるの は 当 然 であるから, 将 来 にわたって,いつでも 避 難 できる 制 度 が 必 要 である このような 事 態 は, 避 難 後 福 島 に 帰 還 した 者 についても 同 様 に 発 生 するので あるから, 再 避 難 にも 対 応 できる 制 度 が 必 要 である また, 低 線 量 被 爆 の 影 響 の 有 無 や 程 度 に 関 する 知 見 が 様 々であり, 町 の 復 旧 復 興 のめども 立 っていない 現 状 に 照 らせば, 一 度 避 難 先 を 引 き 払 って 福 島 7
に 戻 ったら 二 度 と 避 難 できないという 制 度 では, 避 難 や 帰 還 の 選 択 権 を 十 分 に 保 障 することはできない いつでも 避 難 したくなったら 避 難 でき,いつで も 戻 ることができる, 一 度 戻 った 後 も 町 の 状 況 や 放 射 線 の 影 響 からまた 避 難 を 希 望 したら 避 難 できる,ここまでの 権 利 を 実 質 的 に 保 障 しなければ, 原 発 事 故 という 特 殊 な 事 象 においては, 人 命 最 優 先 も, 被 災 者 を 中 心 とした 人 間 復 興 も 果 たすことはできない なお, 帰 還 を 考 えている 避 難 者 に, 帰 還 を 躊 躇 させている 一 つの 要 因 は, 一 度 仮 設 住 宅 を 返 してしまうともう 一 度 原 発 事 故 が 起 きたときに 避 難 する 先 がない,という 不 安 である 避 難 や 帰 還 を 希 望 する 者 の 意 思 を 真 に 尊 重 する ためには,この 不 安 にも 対 応 できる,いつでも 避 難 や 帰 還 を 認 め, 再 避 難 も 認 める 制 度 が 是 非 とも 必 要 である (6) 国 の 直 轄 による 避 難 者 支 援 避 難 者 は, 原 発 事 故 により 避 難 を 余 儀 なくされている これによる 被 害 は 完 全 に 賠 償 されるべきであるが,それとは 別 に, 避 難 者 がその 被 害 を 軽 減 す るため,どこに 避 難 するかの 自 由 は 十 分 に 保 障 されるべきである また, 原 発 事 故 が 未 だ 収 束 していないことに 照 らせば, 避 難 後 に 仕 事 や 家 庭 の 都 合 で 他 県 への 転 居 を 必 要 とする 避 難 者 もいるのであるから, 避 難 後 の 転 居 も 含 め て, 避 難 先 がどの 自 治 体 であるかにかかわらず, 安 定 かつ 充 実 した 支 援 が 受 けられなければならない そこで, 国 は 安 定 かつ 充 実 した 支 援 を 一 律 に 行 うとともに, 避 難 先 の 地 域 特 性 に 合 わせた 自 治 体 独 自 の 上 乗 せ 支 援 を 柔 軟 に 認 め, 市 町 村 や 都 道 府 県 を またいだ 転 居 も 柔 軟 に 可 能 とする 制 度 とすべきである (7) 有 償 への 切 替 えあっせんの 見 直 し 区 域 内 避 難 者 に 対 する 災 害 公 営 住 宅 が 建 設 され,また, 区 域 外 避 難 者 を 対 象 とした 子 育 て 定 住 支 援 賃 貸 住 宅 や 定 住 帰 還 促 進 賃 貸 住 宅 等 の 事 業 も 進 め られており,これら 住 宅 への 入 居 あっせんが 強 力 に 進 められている 支 援 法 の 基 本 方 針 の 支 援 対 象 地 域 からの 避 難 者 に 対 する, 公 営 住 宅 の 入 居 要 件 の 緩 和 措 置 の 検 討 も 同 じ 支 援 の 方 向 性 として 理 解 することができる しかし, これは 同 時 に 無 償 の 仮 設 住 宅 の 打 切 りを 推 進 する 流 れにつながっており, 実 質 的 には, 経 済 的 な 困 窮 状 態 をもって 帰 還 を 促 進 させる 政 策 である また, 公 営 住 宅 の 一 時 使 用 で 居 住 している 避 難 者 に 対 しても, 一 般 の 有 償 入 居 に 転 換 するように 求 める 動 きも 増 加 している しかし, 原 発 事 故 はいまだ 収 束 しておらず, 多 くの 避 難 者 は, 復 旧 復 興 の めども 立 たない 中, 暫 定 的 な 避 難 生 活 を 余 儀 なくされており, 本 格 的 な 生 活 8
再 建 に 取 り 組 むことすらできていない 時 の 経 過 とともに, 家 計 は 痛 み 困 窮 しつつある 中 で, 住 宅 を 有 償 化 させ 避 難 者 の 経 済 的 負 担 を 増 加 させることで 帰 還 を 半 ば 強 制 するようなことは, 避 難 の 権 利 の 実 質 的 な 侵 害 であって 許 さ れない しかも, 有 償 への 切 替 えは,その 避 難 者 に 対 する 災 害 救 助 の 終 了 を 意 味 す るところ, 十 分 な 支 援 施 策 が 整 備 されていないにもかかわらず, 国 が 避 難 者 への 救 助 を 打 ち 切 るようなことはあってはならない したがって, 現 時 点 においては, 住 宅 の 有 償 化 へのあっせんを 推 進 する 方 針 を 見 直 すべきである (8) 原 発 事 故 による 避 難 者 を 支 援 する 立 法 措 置 我 が 国 では, 現 在 48 基 の 原 子 力 発 電 所 が 運 転 を 停 止 しているが, 運 転 停 止 中 も 核 燃 料 棒 の 冷 却 作 業 は 継 続 しており, 新 たな 原 発 事 故 が 発 生 する 可 能 性 はないとはいえない 将 来 のエネルギー 政 策 の 行 方 にかかわらず,この 状 態 は 当 面 の 間 継 続 するのであるから, 原 発 事 故 発 生 後 の 賠 償 について 原 子 力 損 害 の 賠 償 に 関 する 法 律 が 存 在 するのと 同 じように, 原 発 事 故 発 生 後 に 避 難 者 を 安 全 かつ 十 分 に 支 援 する 災 害 救 助 法 とは 異 なる 法 律 が 必 要 である 国 は, 現 在 の 避 難 者 の 切 実 な 声 をしっかり 聴 き, 実 態 を 把 握 し, 避 難 者 の 意 見 を 踏 まえ, 避 難 者 を 十 分 に 支 援 する 立 法 措 置 を 講 じるべきである 以 上 9