脂 質 栄 養 に 関 する 日 中 比 較 とオメガ 3 系 列 脂 肪 酸 の 生 理 機 能 に 関 する 研 究 家 政 教 育 専 修 59 黄 鐘 倩.はじめに 日 本 では 過 去 年 間 に 食 生 活 の 欧 米 化 により 脂 質 摂 取 量 が 3 倍 以 上 に 増 大 し メタボリ ック 症 候 群 や 生 活 習 慣 病 が 増 加 した こうした 量 的 変 化 の 弊 害 はよく 認 識 されているが 脂 質 栄 養 の 質 的 変 化 についてはあまり 着 目 されていない 脂 肪 酸 には 体 内 で 生 合 成 可 能 な 飽 和 一 価 不 飽 和 脂 肪 酸 と 生 合 成 できず 食 事 からの 摂 取 が 必 要 な 必 須 脂 肪 酸 であるオ メガ オメガ 3 系 列 多 価 不 飽 和 脂 肪 酸 がある オメガ 系 列 からは 強 い 生 理 活 性 を 持 つ ホルモン 様 物 質 が 作 られ 炎 症 やアレルギー 反 応 を 促 進 する 一 方 オメガ 3 系 列 からは 弱 い 生 理 活 性 のものが 作 られるので これらの 反 応 を 抑 制 する また ドコサヘキサエン 酸 (DHA)などオメガ 3 系 列 は 脳 に 濃 縮 され 神 経 機 能 に 必 須 であり DHA が 転 写 因 子 の 活 性 を 調 節 していることが 新 たな 研 究 成 果 として 見 出 されている このように 必 須 脂 肪 酸 バ ランスは 各 種 疾 患 予 防 を 考 える 上 で 重 要 な 生 理 的 意 義 を 持 っている 本 研 究 では 科 学 的 知 見 に 基 づいて 国 際 的 な 比 較 により 脂 質 栄 養 の 摂 取 現 状 を 分 析 し ながら 若 年 層 における 食 生 活 の 問 題 点 を 捉 え オメガ 3 系 列 脂 肪 に 対 する 認 識 を 広 げ 各 種 疾 患 を 予 防 し 健 康 増 進 にオメガ 3 系 列 脂 肪 酸 の 重 要 性 を 明 らかにすることを 目 的 とし た 最 初 に 脂 質 栄 養 に 関 する 政 策 や 食 事 摂 取 基 準 の 現 状 を 日 本 と 中 国 で 比 較 し 最 新 の 科 学 的 知 見 が 反 映 されているかどうかを 評 価 した また 日 本 と 中 国 で 小 学 校 の 給 食 や 大 学 生 の 食 事 の 調 査 を 行 い 必 須 脂 肪 酸 バランスの 現 状 や 問 題 点 について 解 析 した 次 に オ メガ 3 系 列 脂 肪 酸 の 新 しい 生 理 機 能 として 同 じ 間 葉 系 幹 細 胞 から 分 化 する 筋 細 胞 と 骨 芽 細 胞 に 及 ぼす 影 響 について その 分 子 メカニズムを 解 析 した. 健 康 栄 養 政 策 や 食 事 摂 取 基 準 等 の 国 際 比 較 健 康 栄 養 政 策 の 組 織 を 比 較 したところ 日 本 で 関 わっている 行 政 機 関 は 厚 生 労 働 省 農 林 水 産 省 及 び 文 部 科 学 省 である アメリカにおいては 農 務 省 と 保 健 福 祉 省 が 主 な 担 い 手 となっている その 一 方 民 間 の 科 学 会 である 栄 養 学 会 が 行 政 機 関 の 委 託 を 受 け 健 康 栄 養 政 策 などを 決 めるのは 中 国 の 特 徴 であった フードガイドについては どの 国 も 穀 物 野 菜 果 物 乳 製 品 タンパク 源 ( 肉 類 魚 介 類 卵 豆 類 )の 5 つに 分 かれていた 脂 質 についてはアメリカと 中 国 では 考 慮 され ていたが 日 本 では 全 く 記 載 されていなかった 食 用 油 が 示 されてない 上 に オメガ 系 - -
列 とオメガ 3 系 列 の 多 い 食 品 も 分 けられておらず 主 菜 においてオメガ 系 列 の 多 い 肉 と オメガ 3 系 列 の 多 い 魚 が 区 別 されていないことが 問 題 であった 食 品 成 分 表 を 比 較 したところ 日 本 と 比 較 して 中 国 においては 肉 類 を 赤 肉 類 と 家 禽 肉 類 に 分 ける 飲 料 類 をアルコールあり なしに 分 ける 赤 ちゃん 用 食 品 飴 類 即 席 食 品 などの 食 品 群 が 設 定 されていた 点 に 特 徴 があった また 食 品 成 分 の 項 目 に 関 しては 中 国 ではイソフラボンの 含 量 が 成 分 として 明 記 されていること グリセミック 指 数 (glycemic index)が 巻 末 に 添 付 されていることに 特 徴 が 見 られた 食 事 摂 取 基 準 では 日 本 と 中 国 は タンパク 質 炭 水 化 物 脂 質 の 摂 取 基 準 を 同 じレベ ルで 設 定 していた 一 方 アメリカでは タンパク 質 と 脂 質 が 総 エネルギーに 占 める 割 合 の 上 限 を 日 中 より 高 く 設 定 し 炭 水 化 物 の 下 限 を 日 中 より 低 く 設 定 していた 脂 質 の 摂 取 基 準 は 日 本 では 脂 質 飽 和 脂 肪 酸 オメガ 系 列 及 びオメガ 3 系 列 脂 肪 酸 の 摂 取 量 が 設 定 されていた 中 国 においては その 他 にオメガ 系 列 のリノール 酸 とオ メガ 3 系 列 のα-リノレン 酸 及 び EPA+DHA の 摂 取 量 も 設 定 されていた アメリカでは 飽 和 脂 肪 酸 リノール 酸 α-リノレン 酸 及 びコレステロールの 摂 取 量 が 設 定 されていた オ メガ 3 系 列 脂 肪 酸 の 摂 取 基 準 は 日 本 が 最 も 高 い 値 であり これは 魚 介 類 摂 取 量 の 多 い 日 本 食 の 長 所 を 反 映 したものであるといえる 3. 日 中 の 若 年 層 の 食 事 摂 取 状 況 と 必 須 脂 肪 酸 バランスの 比 較 調 査 日 中 の 小 学 生 の 給 食 の 分 析 については 秋 田 市 立 M 小 学 校 と 中 国 湖 南 省 長 沙 市 F 小 学 校 を 対 象 とし それぞれ か 月 分 の 給 食 献 立 を 分 析 し 相 違 点 を 比 較 した 料 理 数 から 内 容 物 食 器 まで 日 本 の 方 が 中 国 より 多 様 性 が 見 られた 特 に 食 事 に 牛 乳 が 出 されるのは 日 本 の 独 特 なものだと 思 われた 食 材 別 ごと 主 菜 を 比 較 したところでは 日 本 側 は 様 々な 食 材 を 用 いたことが 分 かった 中 国 側 においては 豚 肉 魚 介 類 イモ 類 の 使 用 頻 度 が 日 本 より 高 かった(Fig. A) 副 菜 では 日 本 側 に 野 菜 イモ 海 藻 などビタミンやミネラ ル 食 物 繊 維 の 給 源 になるものを 中 心 に 使 用 していた 中 国 側 では 野 菜 が 炒 め 物 として 広 く 使 われていた(Fig. B) 日 中 の 大 学 生 の 食 事 摂 取 状 況 の 分 析 については 日 本 は 秋 田 大 学 中 国 は 湖 南 省 中 医 薬 大 学 の 学 生 を 対 象 とし 週 間 の 食 事 を 記 録 してもらい 各 栄 養 素 および 必 須 脂 肪 酸 の 摂 取 量 を 分 析 して 比 較 評 価 を 行 った 日 栄 養 摂 取 量 を 比 較 したところ カルシウム 以 外 の 栄 養 素 の 摂 取 量 はいずれも 中 国 の 方 が 多 かった 食 品 群 別 摂 取 量 については 穀 類 および 魚 介 類 の 摂 取 は 両 国 で 同 じレベルであり 日 本 食 の 特 徴 の 一 つである 魚 介 類 はあまり 食 べ られていなかった また においては 肉 類 の 摂 取 が の 約 倍 油 脂 類 の 摂 取 が 約 倍 であり オメガ 系 脂 肪 酸 を 多 く 摂 取 していた - -
A) 主 菜 B) 副 菜 35 日 本 M 小 中 国 F 小 3 5 日 本 M 小 中 国 F 小 使 用 回 数 8 使 用 回 数 5 5 Fig.. 日 本 と 中 国 の 小 学 校 給 食 メニューの 比 較 A) 三 大 栄 養 素 の 割 合 B) 穀 物 と 動 物 性 タンパク 質 の 割 合 7 総 エネルギーに 占 める 割 合 (%) 5 3 総 エネルギーに 占 める 割 合 (%) 5 3 タンパク 質 脂 質 炭 水 化 物 穀 物 エネルギー 動 物 性 タンパク 質 C) 各 種 脂 肪 酸 比 D)ω 系 列 とω3 系 列 脂 肪 酸 比 5 SMP 比 ( 分 率 ) 3 脂 肪 酸 の 摂 取 量 (g) 8 飽 和 一 価 不 飽 和 多 価 不 飽 和 ω ω3 Fig.. 日 中 大 学 生 の 食 事 摂 取 の 比 較 三 大 栄 養 素 の 割 合 からみると は 炭 水 化 物 の 摂 取 が 5%を 下 回 り 脂 質 の 摂 取 が3%を 超 えた も 同 様 に 脂 質 の 摂 取 が% 以 上 と 高 かった(Fig. A) また 両 国 とも 穀 物 エネルギーより 動 物 性 タンパク 質 を 約 倍 多 く 摂 取 していた(Fig. B) 各 種 脂 肪 酸 比 においては は 飽 和 脂 肪 酸 の 摂 取 が 比 較 的 に 多 かったが 中 国 人 大 学 生 は 一 価 不 飽 和 脂 肪 酸 の 摂 取 が 多 かった(Fig. C) オメガ 系 列 とオメガ 3 系 列 脂 肪 酸 比 においては どちらともオメガ 系 列 の 摂 取 が 圧 倒 的 に 多 かった 特 に 中 国 にお いては オメガ 系 列 の 摂 取 は 日 本 側 の 約 倍 となっていた(Fig. D). 培 養 細 胞 を 用 いたオメガ3 系 列 脂 肪 酸 の 生 理 機 能 3 に 関 する 研 究 マウス 由 来 CC 細 胞 の 筋 細 胞 への 分 化 を 調 べたと ころ DHA を μm 添 加 した 細 胞 では 長 くて 太 い 筋 管 を 形 成 し 筋 細 胞 への 分 化 が 促 進 されることが 示 さ れた また mrna 発 現 を 解 析 したところ α-リノレ ン 酸 処 理 によりMyogの 発 現 が 顕 著 に 上 昇 した(Fig. 3) - 3 - Relative quantity (Myog/Cypa).5.5.5 コントロール ハ ルミチン 酸 α-リノレン 酸 リノール 酸 オレイン 酸 DHA EPA アラキト ン 酸 Fig. 3. Myog 遺 伝 子 の 発 現
Myog は 筋 分 化 に 重 要 な 転 写 因 子 であり オメガ 3 系 列 脂 肪 酸 が 遺 伝 子 発 現 を 制 御 し 筋 細 胞 の 分 化 を 促 進 することが 示 された マウス 由 来 MC3T3-E 細 胞 の 骨 芽 細 胞 への 分 化 を 調 べたところ DHA 処 理 によりすると 濃 度 依 存 的 に 骨 芽 細 胞 への 分 化 が 促 進 されたことが 分 かった 骨 芽 細 胞 分 化 のマーカー 酵 素 であるアルカリフォスファターゼ 活 性 を 測 定 したところ DHA 処 理 により 顕 著 に 上 昇 した ことから DHA が 骨 代 謝 を 促 進 骨 形 成 力 を 高 める 効 果 を 有 することが 示 された 5.オメガ3 系 列 脂 肪 酸 の 摂 取 がマウスに 及 ぼす 影 響 の 解 析 マウス 筋 肉 組 織 の mrna 発 現 を 調 べたところ ヒラメ 筋 と 長 趾 伸 筋 のいずれも 脂 肪 燃 焼 系 酵 素 の Acox が 魚 油 で 最 も 高 かった(Fig. A, D) ミトコンドリア 生 合 成 を 制 御 する 転 写 因 子 である PGC- の 発 現 は 魚 油 とシソ 油 で 高 かっ た(Fig. B, E) 筋 特 異 的 転 写 因 子 の Myog の 発 現 は α- リノレン 酸 含 量 の 高 いシソ 油 で 高 かった(Fig. C, F) Relative quantity (Acox/β-Actin) Relative quantity (Acox/β-Actin) A) ヒラメ 筋 Acox B)ヒラメ 筋 PGC-α C) ヒラメ 筋 Myog.8.8.9...8...7....5.8.8...3..........8... Relative quantity (PGC-α/β-Actin) D) 長 趾 伸 筋 Acox E) 長 趾 伸 筋 PGC-α F) 長 趾 伸 筋 Myog Relative quantity (PGC-α/β-Actin)....8... Relative quantity (Myog /β-actin) Relative quantity (Myog/β-Actin).8....8... Fig.. マウス 筋 肉 組 織 の 遺 伝 子 発 現 に 及 ぼす 食 餌 油 脂 の 影 響. 総 合 考 察 3 年 に 世 界 無 形 文 化 遺 産 に 登 録 された 和 食 は 栄 養 学 的 には 低 脂 肪 低 カロリーとい う 特 徴 があり 食 事 摂 取 基 準 でもこの 点 が 確 認 された また 魚 介 類 が 豊 富 でオメガ 3 系 列 脂 肪 酸 摂 取 量 が 高 いことが 利 点 であり その 摂 取 基 準 は 他 国 より 高 く 設 定 されていた 一 方 で 中 国 では オメガ 系 列 含 量 の 高 い 植 物 油 を 多 く 使 用 し 一 般 市 民 には 必 須 脂 肪 酸 バランスはほとんど 認 識 されていない 今 後 このような 脂 質 栄 養 分 野 における 優 れた 日 本 での 研 究 成 果 を 和 食 文 化 とともに 国 際 的 に 広 めていく 必 要 がある しかし このような 日 本 食 の 利 点 は 子 供 や 若 者 では 失 われつつある 可 能 性 があること が 本 研 究 においても 小 学 校 の 給 食 献 立 や 大 学 生 の 食 事 調 査 から 示 唆 された 今 後 健 康 栄 養 政 策 の 類 似 点 と 相 違 点 をと 正 しく 把 握 した 上 で 不 足 点 を 改 善 し よりよい 食 事 摂 取 方 針 ガイドへ 取 り 組 んで 必 須 脂 肪 酸 の 基 礎 研 究 から 情 報 の 生 活 者 への 認 知 までをつ なげる 活 動 を 国 際 的 に 展 開 していくべきだと 考 えられる 本 研 究 では オメガ 3 系 脂 肪 酸 の 生 理 機 能 に 関 する 新 たな 側 面 を 培 養 細 胞 及 びマウス 用 いた 基 礎 実 験 により 解 析 した DHA やα-リノレン 酸 などのオメガ 3 系 列 脂 肪 酸 の 処 理 によ り 遺 伝 子 発 現 プロファイルが 変 化 することで 間 葉 幹 細 胞 の 分 化 が 制 御 されることが 示 さ れた 特 に DHA は 脂 肪 細 胞 の 分 化 を 抑 制 骨 粗 鬆 症 の オメガ3 系 列 脂 肪 酸 予 防 改 善 する 一 方 で 筋 細 胞 及 び 骨 芽 細 胞 の 分 化 筋 細 胞 を 促 進 することが 明 らかとなった(Fig. 促 進 促 進 5) これらより オメガ 3 系 列 脂 肪 酸 が 抑 制 骨 芽 細 胞 メタボリック 症 候 群 の 予 防 改 善 オメガ3 系 列 脂 肪 酸 Fig. 5. オメガ 3 系 列 脂 肪 酸 による 間 葉 系 幹 細 胞 の 分 化 制 御 と 疾 患 予 防 効 果 脂 肪 細 胞 - -
メタボリック 症 候 群 などの 生 活 習 慣 病 や 骨 粗 鬆 症 の 予 防 においても 重 要 であるという 科 学 的 な 裏 付 けの 強 化 につながると 考 えられる 今 後 このような 情 報 を 活 用 して 食 生 活 の 改 善 に 役 立 てられるような 活 動 を 推 進 することが 望 まれる - 5 -