静 岡 県 立 大 学 短 期 大 学 1 研 究 紀 要 25 W 号 (2011 年 度 ) 7 妊 娠 中 の 栄 養 状 態 に 関 する 研 究 -1 妊 婦 の 栄 養 状 態 と BMI の 関 連 内 藤 初 枝 *1 久 保 田 君 枝 *2 Study on the relationship the nutrition of pregnant women-1 Relationship between Pregnancy Nutritional Status and BMI NAITO, Hatsue and KUBOTA, Kimie *1 静 岡 県 立 大 学 短 期 大 学 部 University of Shizuoka Junior College *2 浜 松 医 科 大 学 助 産 学 専 攻 Hamamatsu University of Medicine 1.はじめに 近 年 日 本 の 出 生 児 体 重 の 注 目 すべき 点 は 2500g 未 満 の 低 出 生 体 重 児 の 増 加 である この 50 年 間 で 体 重 増 加 傾 向 は 1980 年 をピークに 徐 々に 低 下 し 2000 年 以 降 も 確 実 に 減 少 が 続 き 現 在 に 至 っている 1) ところで 先 般 平 成 21 年 度 国 民 健 康 栄 養 調 査 の 概 要 が 発 表 され メタボリックシンドローム あるいは 子 ど もの 食 生 活 など 広 範 囲 のデータが 紹 介 されている 中 妊 孕 世 代 の 体 格 食 生 活 面 については 20~40 代 の 女 性 のやせ(BMI が 18.5 以 下 )の 増 加 や 脂 肪 摂 取 エ ネルギー 比 率 の 増 加 カルシウム 摂 取 量 の 不 足 などが 報 告 されている 2) 妊 娠 時 における 母 体 の 栄 養 状 態 の 良 否 は 出 産 後 の 母 子 の 健 康 状 態 に 大 きな 影 響 を 及 ぼす 特 に 近 年 若 い 女 性 のダイエット 志 向 による BMI 値 18.5 未 満 のやせにお いては 妊 娠 中 の 体 重 増 加 量 の 少 ない 傾 向 があり 早 期 産 や 低 体 重 児 出 産 のリ スクが 高 いことが 指 摘 され 3) さらに 低 体 重 児 は 成 人 になると 生 活 習 慣 病 特 に 高 血 圧 のリスクが 高 くなる という Barker DJ の 説 4) なども 報 告 されており 出 生 体 重 2500g 未 満 の 低 体 重 児 出 産 の 増 加 現 象 に 対 し 警 鐘 が 鳴 らされている またカルシウム 不 足 は すでに 十 代 からみられる 傾 向 であるが 津 田 ら 5) 坂 本 ら 6) などの 報 告 からも 低 出 生 体 重 児 出 生 と 何 らかの 関 連 性 が 予 測 される こ
2 のようにやせた 妊 婦 食 事 摂 取 量 の 少 ない 妊 婦 に 関 して 論 じた 報 告 は 上 記 以 外 にもいくつか 見 られる 7)~8) しかしこれらの 多 くは 妊 娠 前 に 限 定 した 栄 養 摂 取 調 査 や 食 事 の 聞 き 取 り 調 査 あるいは 疫 学 的 調 査 のみという 研 究 で 妊 娠 全 期 間 を 通 して 詳 細 な 食 事 内 容 と 胎 児 の 推 定 体 重 および 妊 婦 の 体 重 増 加 について 経 過 を 精 査 した 研 究 は 今 のところ 見 られない そこで 現 在 久 保 田 および 内 藤 ら は 妊 婦 の 非 妊 娠 時 の BMI 区 分 を 基 にして 妊 娠 期 間 初 期 各 期 間 の 妊 婦 の 食 事 を 詳 細 に 分 析 すると 共 に BMI 区 分 別 に 栄 養 摂 取 状 況 を 詳 細 に 調 べ また 各 時 期 の 胎 児 の 推 定 体 重 妊 婦 の 体 重 増 加 量 などを 測 定 し 妊 娠 期 間 中 の 食 事 のバランス 及 び 量 の 良 否 がどのように 胎 児 の 成 長 や 母 体 に 影 響 などの 関 し 検 討 している この 中 から 本 稿 では 妊 婦 の 非 妊 娠 時 の BMI 区 分 を 基 にし て 妊 娠 期 間 初 期 各 期 間 の 妊 婦 の 食 事 を 詳 細 に 分 析 し 栄 養 素 別 に 検 討 したものにつき 報 告 する 2. 研 究 方 法 1) 調 査 対 象 (1) 対 象 妊 婦 : 多 胎 妊 娠 在 胎 週 数 37 週 未 満 の 早 産 内 科 的 ( 現 病 歴 に 内 分 泌 疾 患 など) 妊 娠 に 伴 う 合 併 症 ( 妊 娠 性 糖 尿 病 妊 娠 高 血 圧 症 候 群 重 度 の 妊 娠 性 貧 血 など)に 該 当 しない 健 常 妊 婦 (100 事 例 ) 妊 婦 のBMIの 数 値 をもとに25 以 上 を 肥 満 25~18.5 以 上 を 標 準 18.5 未 満 をやせとして 分 類 する (2) 調 査 場 所 :H 大 学 病 院 産 科 外 来 調 査 アプローチの 方 法 : 妊 婦 外 来 において 対 象 条 件 にあてはまる 妊 婦 に 対 し 調 査 依 頼 書 および 口 頭 で 説 明 し 同 意 書 を 交 わす 対 象 施 設 に 対 して は 研 究 依 頼 を 挨 拶 文 と 口 頭 で 説 明 し 協 力 を 得 る 2) 調 査 期 間 : 平 成 20 年 4 月 から 平 成 22 年 3 月 まで 3) 調 査 方 法 (1) 食 事 調 査 : 初 期 の 各 妊 娠 週 数 の 期 間 に 連 続 3 日 間 の 食 事 摂 取 内 容 をデジタルカメラまたはカメラ 付 き 携 帯 電 話 にて 撮 影 する 1)2)3) 写 真 撮 影 時 には 配 給 したサイズの 明 確 な 用 紙 に 氏 名 週 数 を 記 載 してから 食 器 等 の 中 央 に 置 き 撮 影 する 1 具 体 的 内 容 食 事 調 査 については 妊 娠 初 期 (14~16 週 ) 妊 娠 (25~27 週 ) 妊 娠 末 期 (32~34 週 ) それぞれ 週 の 連 続 3 日 間 の 食 事 ( 間 食 も 含 む)の 喫 食 前 後 を デジタルカメラまたはカメラ 付 き 携 帯 電 話 で 撮 影 し 外 来 受 診 時 にメモ リーカードを 研 究 者 に 渡 す その 内 容 をパソコンにインストールする その 後 食 事 からの 読 み 取 りに 精 通 した 管 理 栄 養 士 が 写 真 から 献 立 の 食 材 およ
3 びその 重 量 を 読 み 取 り その 後 食 事 分 析 ソフトを 用 いて 栄 養 素 量 を 数 値 化 し 栄 養 バランス 等 を 検 討 する なお 市 販 食 品 に 関 しては 包 装 容 器 等 に 記 載 さ れている 栄 養 価 表 示 を 用 いた 3) データ 収 集 分 析 2 食 事 調 査 の 分 析 は 分 担 研 究 者 の 内 藤 を 中 心 に 管 理 栄 養 士 の 資 格 を 有 する 者 を 雇 用 する 栄 養 計 算 ソフト ヘルシーメーカー432 (マッシュルームソフト)を 使 用 し 栄 養 素 別 摂 取 量 を 算 出 し その 後 2010 年 版 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 に 基 づき 妊 婦 の 年 齢 生 活 活 動 指 数 別 に 示 された 推 奨 量 目 標 量 等 の 基 準 値 を 元 に 栄 養 素 別 エネルギー 比 率 等 を 求 める 同 時 に 3 大 栄 養 素 のPF Cバランスも 求 める 3. 倫 理 的 配 慮 1) 研 究 対 象 者 には 口 頭 にて 調 査 内 容 を 説 明 し 同 意 を 得 た 2) 研 究 への 参 加 不 参 加 は 対 象 者 の 自 由 意 思 により 決 定 することができ る 拒 否 した 場 合 でも 不 利 益 を 被 ることはない 3) 途 中 の 離 脱 も 可 能 である その 場 合 においても 不 利 益 を 被 ることはない ことを 説 明 した 4) 回 答 用 紙 は 回 答 者 の 匿 名 性 を 保 持 した 5)データは 無 記 人 とし 匿 名 性 を 保 持 した 6) 調 査 結 果 は 本 研 究 の 目 的 以 外 には 使 用 しない 4. 結 果 1) 妊 婦 の BMI 別 分 布 今 回 の 研 究 に 参 加 した 妊 婦 で 全 期 間 の 食 事 摂 取 写 真 が 揃 った 者 の 人 数 は 125 名 であ る これを BMI 別 に 分 類 した 結 果 を 図 1 に 示 した やせは 22% で 平 成 21 年 度 国 民 健 康 栄 養 調 査 による 20 30 歳 代 女 性 のや せの 割 合 と 同 程 度 と 高 い 比 率 を 示 しており BMI 値 に 関 しては 妊 婦 の 栄 養 指 導 を 行 う 際 留 意 しなければならない 項 目 の 一 つ であることを 確 認 した 2) 各 栄 養 素 の 摂 取 比 率 10% 22% 68% 図 1 妊 婦 の BMI 別 分 布 やせ 標 準 肥 満
4 調 査 対 象 となる 栄 養 素 を 21 種 類 とした この 中 から 妊 娠 期 に 特 に 配 慮 を 要 す るものを 選 択 し 13 項 目 (エネルギー 関 連 として 総 エネルギー 量 たんぱく 質 脂 質 糖 質 を ミネラル 関 連 として Ca Fe 食 塩 (Nacl) ビタミン 関 連 として VB 1 VB 2 VB 6 VC 葉 酸 さらに 炭 水 化 物 の 中 の 食 物 繊 維 など)について 検 討 を 行 った 2)エネルギー 関 連 の 栄 養 摂 取 状 況 (1) 推 定 エネルギー 必 要 量 からみたエネルギー 摂 取 比 率 妊 娠 中 は 初 期 胎 児 の 発 育 に 合 わせて エネルギー 摂 取 量 に は 付 加 量 が 設 定 されており 特 に 後 半 にかけて 妊 婦 の 食 事 は 質 とともに 量 的 に も 多 めに 摂 取 していかなければならない 9) 今 回 の 結 果 では 妊 娠 当 初 からネル ギー 摂 取 比 率 は 80% 程 度 と 低 く さらに 妊 娠 後 半 になるほど 摂 取 比 率 の 低 下 が 顕 著 となり は 程 度 まで 減 少 しており 付 加 量 に 対 してほとんど 対 応 していないことが 判 明 した( 図 2) このことから 多 くの 妊 婦 は 妊 娠 中 であっても 非 妊 娠 時 の 食 事 習 慣 が 大 きく 変 初 期 わることも 意 識 90% 的 に 変 えること 80% も 可 能 性 として 少 ない 状 況 にあ ることを 把 握 で 70% 50% 40% きた これを BMI 30% 区 分 別 に 調 べる 20% と いずれの 群 も 類 似 した 動 きが 10% 0% 見 られ わずかで あるが やせ 群 の 摂 取 比 率 は 各 期 全 体 やせ 標 準 肥 満 間 とも 他 の 群 と 比 較 して 低 い 図 2 妊 娠 各 期 のエネルギー 摂 取 比 率 傾 向 があり また 肥 満 群 ではやや 高 い 傾 向 があった いずれにせよ 妊 娠 期 間 中 を 通 しこのよう な 低 いエネルギー 摂 取 比 率 の 状 況 下 にあることは 胎 児 の 発 育 において 不 適 切 な 環 境 要 因 の 一 つとなることが 推 察 され 妊 娠 期 の 早 期 に 食 事 に 関 する 専 門 家 の 的 確 な 指 導 介 入 が 必 要 であることを 確 認 した (2) 摂 取 エネルギー 量 からみた 三 大 栄 養 素 のエネルギー 摂 取 比 率
5 妊 娠 各 期 間 の 1 日 のエ ネルギー 摂 取 量 は 食 事 やせ 群 摂 取 基 準 の 推 定 エネルギ 60 標 準 群 肥 満 群 ー 量 と 比 較 して 少 ない 傾 50 向 がみられたが 図 3 に 40 は 三 大 栄 養 素 (PFC) % 30 のエネルギー 摂 取 比 率 を 示 した バランスの 良 い 20 PFC 比 は たんぱく 質 10 15% 脂 質 25% 炭 水 化 0 物 であるが 今 回 たんぱく 質 脂 質 糖 質 の 結 果 では たんぱく 質 の 摂 取 比 率 は BMI の 区 分 図 3 三 大 栄 養 素 のエネルギー 比 率 に 関 わらず 全 期 間 を 通 して 概 ね 15% 程 度 となり 良 好 なバランスを 示 していた しかし 脂 質 のエネルギー 比 率 に 関 しては 国 民 健 康 栄 養 調 査 結 果 の 20 歳 代 女 性 28.3% 30 歳 代 女 性 27.3% の 高 値 と 同 様 BMI の 区 分 に 関 わらず 全 期 間 を 通 して 概 ね 32% 程 度 と 非 常 に 高 い 値 を 示 し 全 体 的 にエネルギー 摂 取 量 が 少 ない 摂 取 状 況 であるにもかかわら ず 脂 質 に 限 っては 習 慣 的 過 剰 摂 取 の 傾 向 があることが 把 握 できた 一 方 糖 質 に 関 しては BMI の 区 分 に 関 わらず 全 期 間 を 通 して 概 ね 50% 程 度 と 低 い 値 を 示 し 若 干 ではあるが になるほど 糖 質 の 摂 取 比 率 は 低 くなる 傾 向 がみられ た これらの 結 果 から 三 大 栄 養 素 のエネルギー 摂 取 比 率 では 高 脂 質 比 とこれ に 相 対 する 低 糖 質 比 が 明 らかとなり バランスの 悪 いエネルギー 摂 取 比 率 とな った このことから BMI の 区 分 に 関 わらず 全 期 間 を 通 して 総 エネルギー 量 が 少 なかった 主 要 因 が 糖 質 摂 取 不 足 によるものであることが 明 かとなった 糖 質 摂 取 状 況 に 関 して 注 目 したいのは 妊 娠 初 期 の 摂 取 比 率 は 各 BMI の 区 分 の 平 均 値 は 50.78% は 49.46%であり 若 干 の 減 少 傾 向 を 示 していた こ の 結 果 を 具 体 的 な 食 事 内 容 から 見 ると 白 飯 パン 麺 などの 主 食 の 摂 取 が 少 なく なかでも 白 飯 に 関 しては 1 回 に 摂 取 する 白 飯 量 が 茶 碗 半 分 程 度 あるいは 食 べないなど 意 図 的 に 白 飯 を 控 える 傾 向 が 見 られた 胎 児 の 成 長 は 妊 娠 中 に 急 激 に 高 まり 必 要 とされるエネルギーを 十 分 供 給 することが 必 須 であ り この 時 期 に 主 食 を 初 めとする 十 分 な 食 事 量 を 摂 ることは 大 変 重 要 なことで ある 同 時 に 過 食 に 伴 う 母 体 の 過 体 重 も 見 逃 すことのできない 状 況 の 中 妊 娠 期 間 に 増 加 する 母 体 体 重 との 関 係 にも 十 分 考 慮 しなければならない 妊 娠 期 間 中 妊 婦 は 自 分 の 体 重 の 増 加 をこまめに 把 握 しながら 主 食 を 中 心 とした 食 事 量 を 増 やすことに 心 がけていかなければならない また 妊 婦 に 食 事 指 導 する 側
6 もこの 点 に 配 慮 した 指 導 介 入 が 重 要 である 3) 各 種 ミネラルの 摂 取 比 率 1 140% 120% 前 期 100% 80% 40% 20% 0% 全 体 やせ 標 準 肥 満 全 体 やせ 標 準 肥 満 全 体 やせ 標 準 肥 満 Ca Fe 食 塩 図 4 各 種 ミネラルの 摂 取 率 妊 娠 中 においては Ca は 無 論 微 量 ミネラルの 不 足 に 注 意 しなければならな い ここでは Ca,Fe など 不 足 し 易 いミネラルと 過 剰 傾 向 が 見 られる 食 塩 (Nacl) の 3 種 類 について 検 討 した( 図 4) 今 回 分 析 した 13 種 類 の 栄 養 素 の 中 で 最 も 摂 取 率 が 低 かったものは Fe で 最 も 摂 取 率 が 高 かったものは 食 塩 (Nacl)であっ た これらの 結 果 は 国 民 健 康 栄 養 調 査 の 結 果 と 同 様 の 傾 向 であった また Ca では BMI の 区 分 妊 娠 期 間 に 関 わらず 推 奨 量 650mgに 対 し 平 均 414.1mg で 概 ね 63.7%と 少 ない 結 果 を 示 した 食 事 内 容 からは 牛 乳 あるいはヨーグル トなどの 乳 製 品 を 摂 る 習 慣 ができていない 妊 婦 がかなり 見 られ 毎 日 しっかり っている 妊 婦 と 全 く 摂 らない 妊 婦 の 二 極 化 が 明 かとなった Ca は 牛 乳 を 初 め として 比 較 的 摂 取 易 い 栄 養 素 であり 妊 娠 初 期 からの 指 導 介 入 を 行 えば 十 分 改 善 できる 栄 養 素 であることから 初 期 の 介 入 の 重 要 性 を 再 確 認 した 次 に Fe については 妊 娠 中 Fe の 需 要 は 増 加 するが 非 妊 娠 時 からしっかり Fe を 摂 る 習 慣 ができていない 場 合 は 極 度 の 貧 血 に 陥 ることも 稀 ではない 今 回 の 結 果 からも BMI の 区 分 妊 娠 期 間 に 関 わらず 推 奨 量 に 対 し 平 均 6.01mgと 少 ない 結 果 を 示 した Feは 中 の 付 加 量 が 15mgと 大 幅 に 増 加 するが 妊 娠 後 半 に 入 るほど 少 ない 摂 取 状 況 が 顕 著 となっていた なお 国 民 健 康 栄 養 調 査 でも 若 い 女 性 の 40% 程 度 に Fe 欠 乏 が 見 られ そのうち 10% 程 度 は 鉄 欠 乏 性 貧 血 といわれており 妊 孕 世 代 を 中 心 として 様 々な 機 会 に Fe の 重 要 性 および
7 効 率 よい 摂 取 方 法 などを 紹 介 すべく 具 体 的 な 対 応 策 を 考 えていかなければなら ない 食 塩 (Nacl)については BMIの 区 分 妊 娠 期 間 に 関 わらず7.5g 未 満 の 目 標 値 に 対 し 平 均 9.29gと 過 剰 摂 取 を 示 し100%を 超 えていた 食 塩 に 関 してもCa 同 様 個 人 差 が 大 きく 過 剰 摂 取 している 者 と 極 端 にすくない 者 の 二 極 化 が 明 ら かとなった なお 注 目 したいのは 食 塩 の 摂 取 に 関 しては 食 塩 摂 取 7.5g 以 下 / 日 と 少 ない 摂 取 量 の 妊 婦 の 食 事 が 必 ずしも 良 好 な 食 事 内 容 であるとはいえな いケースも 見 られた 点 である このようなケースでは 欠 食 や 一 回 の 食 事 量 が 著 しく 少 ないことから 塩 分 摂 取 量 も 少 なくなったという 悪 い 食 事 内 容 のもので 20% 程 度 の 妊 婦 に 確 認 された 一 方 塩 分 摂 取 量 が 過 剰 摂 取 を 示 した 妊 婦 の 食 事 内 容 では 献 立 の 種 類 も 多 くしかも 比 較 的 栄 養 素 摂 取 バランスも 充 実 している が しょうゆ 味 噌 塩 などを 調 味 料 とする 和 食 系 が 多 く その 結 果 食 塩 摂 取 量 が 多 くなる 傾 向 が 推 察 された このようなケースの 食 事 指 導 介 入 を 実 施 する 際 には 全 体 としての 良 好 な 食 事 内 容 は 大 幅 に 変 更 せず 日 ごろから 薄 味 に 慣 れてもらうよう 減 塩 指 導 を 実 施 する 必 要 があるが このような 指 導 は 妊 娠 高 血 圧 症 候 群 予 防 のためにも 効 果 的 である 4)ビタミンの 摂 取 比 率 ビタミンの 中 には 胎 児 の 臓 器 形 成 や 母 体 に 影 響 を 及 ぼすものがたくさんあ り 食 事 摂 取 基 準 では12 種 類 のビタミンに 付 加 量 が 設 けられている 本 研 究 で は VA VD VE VB 1 前 期 VB 2 VB 6 VB 12 葉 酸 90% VCの9 種 類 を 分 析 したが 80% 特 に 妊 孕 世 代 において 日 70% 頃 から 意 識 して 摂 取 する ことが 望 ましいVB 1 VB 2 50% VB 6 および 葉 酸 に 関 して 40% 報 告 する 30% (1)VB 1 VB 2 の 摂 取 比 率 20% エネルギー 代 謝 に 関 連 10% 深 いビタミンである 0% 全 体 やせ 標 準 肥 満 全 体 やせ 標 準 肥 満 VB 1 VB 2 について 図 5に 結 VB1 VB2 果 を 示 す いずれのビタ ミンとも 妊 娠 から 付 加 図 5 VB 1 およびVB 2 の 摂 取 率 量 が 加 わることから 摂 取 比 率 は 徐 々に 低 くなっていた のVB 1 摂 取 量 は0.71mgで 50% 程 度 であった 次 にVB 2 に 関 しても 妊 娠 から 徐 々に 摂 取 比 率 は 低 くなり のVB 2 摂 取 量
8 は88mgで 程 度 まで 減 少 していった なおVB 2 ではBMIの 区 分 による 摂 取 率 の 違 いは 特 に 見 られなかった (2)VB 6 および 葉 酸 の 摂 取 比 率 ホモシスチン- 前 期 メチオニン 代 謝 に 70% 重 要 なビタミンで あるVB 6 および 葉 50% 酸 の 食 事 摂 取 基 準 40% については 妊 婦 の 推 奨 量 はVB 6 は 1.9mgである 摂 取 30% 20% 10% 比 率 については 0% 全 体 やせ 標 準 肥 満 全 体 やせ 標 準 肥 満 VB 6 摂 取 比 率 は 全 体 平 均 では0.89mg VB6 葉 酸 概 ね40% 程 度 であった 図 6 VB 6 および 葉 酸 の 摂 取 率 BMIの 区 分 では 肥 満 群 で 全 期 間 を 通 し50%を 超 えていたが いずれの 群 も 摂 取 率 としては 明 らかに 不 足 していた また 葉 酸 の 食 事 摂 取 基 準 の 妊 婦 の 推 奨 量 は480mgであるが 妊 娠 期 間 BMIの 区 分 に 関 わらず50% 程 度 と 少 ない 結 果 を 示 した (3)VCの 摂 取 比 率 VCは 食 習 慣 として 毎 日 野 菜 や 果 物 を 十 分 摂 取 する 家 庭 とほとんど 摂 らない 家 庭 で 摂 取 量 に 明 瞭 に 差 がで るビタミンの 一 つで 食 事 摂 取 基 準 の 妊 婦 の 推 奨 量 は 110mgである 本 研 究 結 果 か ら 全 般 を 通 して 食 事 内 容 が 良 好 である 場 合 は VC 摂 取 比 率 が 高 い 傾 向 を 示 した BMIの 区 分 からは 前 期 80% 70% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 全 体 やせ 標 準 肥 満 Vc やせ 群 標 準 群 では 概 ね55% 図 7 VCの 摂 取 率 程 度 肥 満 群 では70% 近 い 摂 取 率 となった ( 図 7)
9 5) 食 物 繊 維 の 摂 取 比 率 妊 婦 に 常 習 的 に 見 られ 80% る 便 秘 解 消 のためにも 食 70% 事 摂 取 基 準 の 目 標 量 であ る17g 程 度 の 摂 取 が 望 ま 50% れる 栄 養 素 である ( 図 8) 40% 結 果 から 肥 満 群 の 初 期 で 30% 70% 程 度 と 若 干 高 率 を 示 20% し やせ 群 では 概 ね50% 10% 0% 程 度 と 少 ない 傾 向 を 示 し 全 体 やせ 標 準 肥 満 た VCの 摂 取 比 率 と 比 較 食 物 繊 維 するとBMIの 区 分 妊 娠 期 間 いずれにおいても 図 8 食 物 繊 維 の 摂 取 率 同 様 の 摂 取 率 を 示 し 野 菜 果 物 の 摂 取 状 況 がVC, 食 物 繊 維 の 双 方 に 影 響 していることが 把 握 できた 6. 考 察 福 岡 秀 興 (2003)はやせ 型 (smell thin or short disproportional)の 体 形 を 示 す 発 育 の 阻 害 された 新 生 児 は 特 に 成 人 病 発 症 に 対 するリスクが 高 く また 注 意 すべき 対 象 妊 婦 として やせた 妊 婦 の 場 合 妊 娠 中 の 体 重 増 加 量 は 少 な い 傾 向 があり 早 期 産 や 低 出 生 体 重 児 を 発 症 する 率 は 最 も 高 く 十 分 な 栄 養 指 導 や 栄 養 補 給 がなされなければならないと 述 べている 3) そこで 本 研 究 では BMI の 区 分 別 に 妊 娠 期 に 準 じて13 種 類 の 栄 養 素 の 摂 取 比 率 を 比 較 したところ 食 事 2) 摂 取 基 準 の 目 標 量 を 超 えた 栄 養 素 は 脂 質 と 食 塩 で 国 民 健 康 栄 養 調 査 結 果 でも 過 剰 摂 取 に 対 し 警 鐘 を 鳴 らしている 栄 養 素 である いずれも 食 習 慣 として 過 剰 摂 取 が 常 習 化 しやすい 栄 養 素 であることから 妊 娠 初 期 の 早 期 から 問 診 な どを 通 して 摂 取 状 況 をアセスメントし 妊 婦 に 対 し 留 意 すべき 栄 養 素 である ことを 指 導 する 必 要 がある 一 方 食 事 摂 取 基 準 の 推 奨 量 に 対 し 最 も 摂 取 率 が 低 いFeに 関 しては 全 期 間 を 通 して 平 均 5.82 mg で 妊 娠 期 の 付 加 量 を 加 える と30% 程 度 の 充 足 率 となっていた 若 い 女 性 のFeの 不 足 に 伴 う 貧 血 の 問 題 は 妊 娠 前 できれば 高 校 生 の 時 期 までに 貧 血 改 善 の 重 要 性 を 教 育 の 場 あるいは 調 理 実 習 などを 設 けるなどの 対 策 を 立 て 簡 単 にFeの 摂 取 ができる 具 体 的 方 法 な どを 提 示 して 啓 蒙 することが 急 務 である Fe 剤 の 活 用 も 一 つの 方 法 ではあるが 基 本 は 食 事 の 改 善 が 第 一 であることも 徹 底 していくべきであろう Feと 同 様 摂 取 率 が 低 いエネルギー 量 に 関 しては 主 食 の 少 なさによる 糖 質 摂 取 率 低 下 が 大 きな 課 題 であり 胎 児 の 成 長 は 妊 娠 中 に 急 激 に 高 まり 必 要 とされるエ ネルギーを 十 分 供 給 することが 必 須 であり この 時 期 に 主 食 を 初 めとする 十 分 前 期
10 な 食 事 量 を 摂 ることは 大 変 重 要 なことである 妊 娠 期 間 に 増 加 する 母 体 体 重 と の 関 係 もあり 過 体 重 にならないよう 配 慮 しなければならない また 妊 婦 に 食 事 指 導 する 側 もこの 点 に 配 慮 した 指 導 介 入 が 重 要 で 若 い 女 性 のやせ 志 向 から くるダイエットの 大 きな 誤 りを 様 々な 機 会 に 是 正 していくことが 求 められる またVB 1 は 糖 質 代 謝 に 不 可 欠 のビタミンであるが 今 回 の 糖 質 摂 取 率 が 程 度 であったことを 考 慮 すれば このようにVB 1 摂 取 率 が50% 程 度 と 少 なく ても いわゆるVB 1 欠 乏 症 などは 見 られなかった ただしVB 1 欠 乏 症 が 見 られなか ったことを 良 しとせず 妊 婦 の 糖 質 摂 取 に 関 しては 今 後 しっかり 摂 取 できる 具 体 的 な 指 導 方 法 を 考 えていかなければならない 同 時 に 糖 質 摂 取 時 にはVB 1 の 摂 取 を 増 やすよう 指 導 していくことも 必 要 である 葉 酸 は 初 期 に 不 足 すると 神 経 形 成 障 害 を 起 こすといわれるビタミンで 本 来 妊 娠 前 から 十 分 な 摂 取 が 望 ま れる 母 性 衛 生 の 分 野 では 確 実 な 葉 酸 摂 取 を 促 すため 妊 娠 を 希 望 する 対 象 者 にサプリメントの 葉 酸 服 用 を 勧 めている 今 回 の 調 査 でも7% 程 度 の 妊 婦 が 葉 酸 を 服 用 していたが その 割 合 は 非 常 に 低 かった 栄 養 指 導 の 立 場 からもサプリ メントの 葉 酸 の 意 義 を 十 分 理 解 し 指 導 に 向 けて 紹 介 していくことが 大 切 であ る VCに 関 しても 日 常 果 物 を 摂 る 習 慣 なども 確 認 されているが 今 後 妊 婦 の 食 事 内 容 を 具 体 的 に 精 査 する 必 要 がある ところで 全 体 的 に 肥 満 群 では 他 の 群 と 比 較 して 食 事 摂 取 状 況 が 充 実 してい るケースが 多 く あたかも 妊 娠 期 の 付 加 量 に 沿 った 食 事 内 容 の 妊 婦 が 見 受 けら れた しかしこれは 付 加 量 に 配 慮 した 食 事 摂 取 をしていたというよりも お そらく 非 妊 娠 時 から 食 事 摂 取 量 を 多 目 に 摂 るような 食 習 慣 が 形 成 されており 妊 娠 中 も 従 来 どおり 食 事 摂 取 量 を 多 目 に 摂 っていたものと 推 論 され この 場 合 は 出 産 後 過 剰 摂 取 の 食 習 慣 に 対 し 正 しい 食 事 習 慣 を 指 導 する 必 要 がある 本 来 妊 娠 期 間 はバランスの 良 い 食 事 であると 共 に 時 期 に 応 じて 量 も 増 やし ていかなければならないが 今 回 の 結 果 からは 全 期 間 を 通 して 付 加 量 に 配 慮 した 食 事 摂 取 内 容 ができている 者 は 非 常 に 少 なく これに 関 しても 妊 娠 初 期 か らの 的 確 な 食 事 指 導 の 必 要 性 を 実 感 した ただ 本 研 究 でテーマとしている や せの 妊 婦 の 食 事 摂 取 量 は 標 準 肥 満 の 各 群 と 比 較 して 少 ないであろう とい う 仮 定 は 現 時 点 の 結 果 からは 立 証 できなかった この 結 果 は 河 野 らの 一 般 に 母 体 の 低 栄 養 では 出 生 体 重 は 小 さくなると 考 えられているが 母 体 の 栄 養 状 態 とは 必 ずしも 直 線 的 な 関 係 ではない 11) とする 結 果 と 同 様 であった いずれ にせよ 今 回 の 結 果 で 警 鐘 すべきは やせ 群 だけでなくすべての 群 で 食 事 内 容 が 貧 弱 な 傾 向 にある 点 である 今 回 は 妊 婦 の 食 事 内 容 に 限 定 して 報 告 したが 今 後 出 生 児 の 体 重 や 具 体 的 な 食 事 内 容 の 解 析 なども 検 討 し 妊 婦 の 食 事 に 関 し 問 題 点 を 提 示 し 改 善 方 法 を 模 索 していく 予 定 である
11 引 用 文 献 1) 福 岡 秀 興 : 現 代 の 妊 産 婦 の 栄 養 問 題 妊 産 婦 のための 食 生 活 指 針 策 定 の 意 義 と 背 景, 臨 床 栄 養,109(2),150-153,2006. 2) 平 成 21 年 度 国 民 健 康 栄 養 調 査 3) 福 岡 秀 興 : 妊 娠 中 体 重 増 加 を 考 える 胎 児 期 低 栄 養 と 成 人 病 発 症 について (Barker 説 ) 臨 床 栄 養 Vol.102 No.3 2003.3 4)Barker,D.J.:Fetal origins of coronary heart disease,bmj,311,171-174,1995 5) 津 田 淑 江 他 : 妊 娠 前 の 母 親 の 食 生 活 栄 養 状 態 と 低 体 重 出 産 との 関 連, 日 本 家 政 学 会 誌,53 (10),1009-1020,2002. 6) 坂 本 裕 子 : 妊 娠 期 の 食 品 摂 取 状 況 と 栄 養 指 導 のあり 方 について, 栄 養 学 雑, 61(3),171-182,2003.7 7) 上 田 惠 子 吉 田 昭 三 森 川 肇 : 非 妊 時 の 体 格 別 にみた 妊 娠 母 体 の 至 適 体 重 増 加 に 関 する 研 究, 母 性 衛 生,48(1),122-131,2007 8) 中 林 正 雄 他 : 妊 婦 の 体 重 増 加 最 近 の 傾 向, 臨 床 婦 人 科 産 科,60(3),252-255, 2006 9)2010 年 度 食 事 摂 取 基 準 10)Godfrey,K.,Robinson,s.,Barker,D.J.: Maternal nutrition in early and late pregna ncy in relation to placental and fetal growth. BMJ, 312, 410-414, 1996 11) 河 野 由 美 三 科 潤 : 周 産 期 の 栄 養 と 身 体 発 育, 周 産 期 医 学,35 増 刊 号,509-513, 2005. (2012 年 2 月 13 日 受 理 )