教 職 研 究 2014. 7 号, 33-44 中 学 校 における 法 的 思 考 力 判 断 力 の 育 成 に 関 する 実 証 的 研 究 模 擬 裁 判 を 取 り 入 れた 授 業 を 通 して 田 村 徳 至 ( 信 州 大 学 学 術 研 究 院 総 合 人 間 科 学 系 講 師 ) 1.はじめに 本 研 究 は 中 学 校 社 会 科 公 民 的 分 野 における 司 法 に 関 する 学 習 単 元 において 生 徒 に 役 割 演 技 をさせる 模 擬 裁 判 (さまざまな 証 拠 をもとに 審 議 )を 行 うことが 生 徒 の 学 習 意 欲 の 向 上 と 法 的 思 考 力 判 断 力 の 育 成 に 有 効 に 作 用 することを 実 証 することである 我 が 国 では 平 成 16 年 5 月 に 成 立 した 裁 判 員 法 に 基 づき 平 成 21 年 5 月 21 日 以 降 に 起 訴 された 刑 事 事 件 から 地 方 裁 判 所 において 実 施 される 一 審 のみ 裁 判 員 制 度 による 裁 *1 判 が 実 施 された( 実 際 の 裁 判 参 加 は 同 年 7 月 から 実 施 ) この 裁 判 員 裁 判 において 私 たち 市 民 は 裁 判 員 として 裁 判 官 とともに 刑 事 事 件 を 審 理 ( 有 罪 無 罪 を 決 定 し 有 罪 の 場 合 は 量 刑 までを 決 定 )することとなった 否 が 応 でも 関 心 を 持 たざるを 得 なくなって いる それゆえ 中 学 校 社 会 科 公 民 的 分 野 の 学 習 においては 将 来 の 市 民 の 司 法 参 加 に *2 向 けて これまで 以 上 に 法 的 思 考 力 判 断 力 の 基 礎 を 育 成 するための 法 教 育 を 一 層 推 進 しなければならない 状 況 にある 江 口 は 自 由 で 公 正 な 社 会 の 実 現 のためには 自 由 で 公 正 な 社 会 における 法 を 知 り 法 を 使 い 法 を 創 りかえ 法 を 越 えて 人 々が 共 生 し 一 緒 になって 問 題 を 絶 えず 解 決 し ていこうとすることを 学 ぶことが 大 切 であると 述 べている 1) 我 が 国 の 中 学 校 社 会 科 公 民 的 分 野 の 教 科 書 で 扱 う 司 法 は 国 の 政 治 という 大 項 目 に 位 置 付 けられ 国 会 内 閣 裁 判 所 の 順 に 記 述 されている 国 民 の 司 法 参 加 ( 刑 事 裁 判 における 裁 判 員 制 度 )が 行 *3 われている 現 在 は 裁 判 員 制 度 と 模 擬 裁 判 について 詳 しく 記 述 している 教 科 書 もみら れる 教 科 書 で 取 り 上 げられている 法 律 の 条 文 としては 日 本 国 憲 法 民 法 の 一 部 ( 主 に 家 族 に 関 すること) 労 働 法 ( 労 働 基 準 法 男 女 雇 用 機 会 均 等 法 など) 人 権 教 育 啓 発 推 進 法 アイヌ 文 化 振 興 法 障 害 者 基 本 法 など 人 権 や 差 別 に 関 するもの その 他 情 報 公 開 法 や 環 境 基 本 法 など 新 たな 権 利 に 関 するものや 消 費 者 基 本 法 などである この 中 には 公 法 の 一 つである 刑 法 に 関 する 記 述 はない しかし すでに 刑 事 裁 判 における 裁 判 員 制 度 が 開 始 されていることを 考 えると 義 務 教 育 の 最 終 段 階 である 中 学 校 3 年 生 において 模 擬 裁 判 を 行 うことを 通 して 司 法 の 意 義 などを 考 えることが 必 要 である 平 成 17 年 10 月 に 日 本 大 学 法 学 部 で 開 催 された 日 本 社 会 科 教 育 学 会 における 分 科 会 : 裁 判 員 制 度 の 導 入 を 視 野 に 入 れた 裁 判 員 模 擬 裁 判 が 実 施 された この の 内 容 は 平 成 33 33
教 職 研 究 7 号 14 年 7 月 に 東 京 駅 構 内 の 売 店 で 商 品 を 万 引 きした 被 告 人 が 追 いかけてきた 店 長 の 腹 部 をナイフで 刺 して 殺 害 せしめた 実 際 の 刑 事 事 件 を 基 にしたものである 主 催 した 船 山 は 立 法 行 政 司 法 のいずれの 分 野 においても 国 民 の 意 見 を 入 れていかなければ 十 分 に 機 能 しない 民 主 主 義 は 国 の 政 治 のあり 方 を 誰 かに 任 せることではなく 自 らが 国 の 主 人 公 であるという 自 覚 なしには 進 められないことを 考 えると 公 平 や 正 義 を 支 える 一 翼 を 担 う 司 法 に 国 民 が 参 加 することは 大 変 意 義 があることであると 考 えている 2) そのた め 近 い 将 来 裁 判 員 として 社 会 の 一 翼 を 担 う 中 学 生 に 対 し 法 に 関 する 教 育 を 実 施 して おく 必 要 がある これに 関 して 江 澤 は 法 教 育 を 法 やルールの 背 景 にある 価 値 観 や 司 法 制 度 の 機 能 意 義 を 考 える 指 向 型 の 教 育 であり 社 会 に 参 加 することの 重 要 性 を 意 3) 義 づける 社 会 参 加 型 の 教 育 としている 諸 個 人 により 思 想 や 価 値 観 が 異 なる 価 値 多 元 の 現 代 社 会 を 形 成 し さらに 維 持 発 展 させるためには 自 己 と 他 者 あるいは 社 会 全 体 で 生 じる 価 値 観 の 対 立 を 何 らかの 方 法 で 調 整 し 合 意 を 形 成 する 必 要 がある 中 学 校 学 習 指 導 要 領 社 会 公 民 的 分 野 で 新 たに 示 された 対 立 と 合 意 や 効 率 と 公 正 は 合 4) 意 を 形 成 するための 重 要 な 手 段 である また 平 成 20 年 版 の 現 行 学 習 指 導 要 領 解 説 で は 大 項 目 (3) 私 たちと 政 治 の 中 項 目 イ 民 主 政 治 と 政 治 参 加 に 国 民 の 権 利 を 守 り 社 会 の 秩 序 を 維 持 するために 法 に 基 づく 公 正 な 裁 判 の 保 障 があることについて 理 解 させる という 記 述 が 見 られる このことについて 中 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 社 会 編 は 法 に 基 づく 公 正 な 裁 判 の 保 障 については ( 中 略 ) 法 に 基 づく 公 正 な 裁 判 によっ て 社 会 の 秩 序 が 保 たれ 人 権 が 守 られていること そのため 司 法 権 の 独 立 と 法 による 裁 判 が 憲 法 で 保 障 されていることについて 理 解 させることを 意 味 している その 際 抽 象 的 な 理 解 にならないように 裁 判 官 検 察 官 弁 護 士 などの 具 体 的 な 働 きを 通 して 理 解 さ せるなどの 工 夫 が 必 要 である また 裁 判 員 制 度 にも 触 れながら 国 民 の 司 法 参 加 の 意 義 について 考 えさせ 裁 判 の 内 容 に 国 民 の 視 点 感 覚 が 反 映 されることになり 司 法 に 対 する 国 民 の 理 解 が 深 まり 信 頼 が 高 まることを 期 待 して 裁 判 員 制 度 が 導 入 されたことに 気 付 かせるとある 本 単 元 で 模 擬 裁 判 を 実 施 し さまざまな 証 拠 をもとに 根 拠 を 明 確 に し 意 見 が 異 なる 他 者 と 議 論 を 重 ねながら 被 疑 者 に 対 する 判 決 ( 有 罪 無 罪 )を 考 えるこ とは 個 人 と 個 人 あるいは 個 人 と 国 家 の 間 の 紛 争 を 解 決 する 基 本 的 な 考 え 方 法 曹 三 者 の 具 体 的 な 働 きを 学 ぶだけでなく 具 体 的 な 事 例 ( 架 空 の 事 件 も 含 む)を 扱 いながら 法 に 基 づく 構 成 な 裁 判 のしくみや 機 能 を 理 解 することに 関 して 大 変 意 義 がある 2. 法 的 思 考 力 判 断 力 を 向 上 させる 司 法 の 学 習 構 想 と 実 際 (1) 単 元 名 司 法 と 裁 判 ( 3 学 年 ) (2) 単 元 の 目 標 1 模 擬 裁 判 を 通 して 司 法 や 裁 判 員 制 度 についての 関 心 意 欲 を 高 める 34
中 学 校 における 法 的 思 考 力 判 断 力 の 育 成 に 関 する 実 証 的 研 究 2 証 拠 ( 物 的 証 拠 状 況 証 拠 )を 整 理 しながら 他 者 との 討 論 を 行 い 多 面 的 多 角 的 に 考 察 することを 通 して 法 的 思 考 力 判 断 力 を 高 める 3 司 法 ( 法 に 基 づいて 侵 害 された 権 利 を 救 済 し ルール 違 反 に 対 処 することによっ て 法 秩 序 の 維 持 形 成 を 図 ること)について 理 解 させる 4 法 曹 三 者 ( 裁 判 官 検 察 官 弁 護 士 )の 具 他 的 な 働 きについて 理 解 させる (3) 単 元 開 発 の 構 想 にあたっての 視 点 社 会 科 では 資 料 を 基 に 社 会 的 事 象 に 対 して 的 確 な 判 断 を 行 う 能 力 の 育 成 が 求 めら れている そこで 生 徒 一 人 一 人 に 客 観 的 なデータに 基 づく 根 拠 ( 証 拠 )を 比 較 検 討 しながら 判 断 できるように 多 面 的 多 角 的 な 考 察 を 行 う 場 面 を 設 定 した 1 司 法 ( 裁 判 )を 身 近 に 感 じさせるための 手 立 て 司 法 ( 裁 判 )を 身 近 なものとして 捉 えさせるために 模 擬 裁 判 判 決 に 関 する 評 議 場 面 を 設 定 し 興 味 関 心 を 高 め 主 体 的 な 学 習 態 度 を 促 したり 専 門 家 ( 新 潟 地 方 検 察 庁 ) の 方 から 司 法 に 関 する 講 話 を 頂 く 場 面 を 設 定 した 2 学 習 活 動 の 工 夫 学 習 課 題 に 対 し 意 欲 的 に 取 り 組 む 姿 勢 の 向 上 を 図 り 司 法 ( 裁 判 )に 当 事 者 意 識 を 持 った 生 徒 を 育 成 するために 以 下 のような 学 習 活 動 を 設 定 する 事 実 認 識 の 重 要 性 を 認 識 させるために 裁 判 員 形 式 の 模 擬 裁 判 にする 模 擬 裁 判 と 評 議 の 間 を 十 分 に 確 保 するために 評 議 する 場 面 を 3 回 設 定 する 有 罪 派 無 罪 派 を 意 識 的 に 同 種 異 種 のメンバーで 組 み 合 わせた 話 合 いの 場 を 設 定 する(ワールド カフェ *4 ) さまざまな 証 拠 を 結 びつけて 考 えることを 通 して なぜ 有 罪 か 無 罪 かを 考 えること ができる 判 断 力 を 育 成 するために 7 種 類 の 証 拠 物 件 を 明 確 にし その 中 でどの 証 拠 をどのように 考 えて 判 断 すればよいのか なぜそのような 判 決 ( 結 論 )としたの かなどを 評 議 する 場 面 を 設 定 する (4) 単 元 構 成 1 裁 判 と 裁 判 所 の 種 類 と 裁 判 員 制 度 2 模 擬 裁 判 ( 架 空 の 刑 事 事 件 )と 1 回 目 の 判 決 3 同 種 のグループによる 評 議 4 異 種 ( 有 罪 派 無 罪 派 ) 混 合 のグループによる 評 議 と 2 回 目 の 判 決 5 学 級 全 体 による 評 議 と 3 回 目 の 判 決 6 新 潟 地 方 検 察 庁 の 方 の 講 話 7 学 習 のまとめ 35
教 職 研 究 7 号 3. 単 元 の 指 導 計 画 間 ねらい 学 習 内 容 学 習 活 動 留 意 点 事 前 1 次 1 2 2 次 3 問 ( 事 前 意 識 調 査 ) 事 前 になぜ 国 民 が 裁 判 に 参 加 する 必 要 があるのだろうか について 書 かせておく わからない 生 徒 は どのようなことを 学 習 したいかについて 記 述 する 架 空 の 刑 事 事 件 の 模 擬 裁 判 を 行 うことを 通 して 法 的 な 見 方 考 え 方 を 知 る 裁 判 の 基 本 的 な 仕 組 みや 裁 判 員 制 度 が 導 入 されるのは 地 方 裁 判 所 の 裁 判 であり 刑 事 事 件 の 中 でも 重 大 な 事 件 であること などを 理 解 する ビデオ 私 たちの 裁 判 所 を 視 聴 する 警 察 官 と 検 察 官 の 違 いをワークシートに 記 述 する 模 擬 裁 判 を 行 い 有 罪 か 無 罪 かをそれぞれ 証 拠 を 基 にして 1 回 目 の 判 決 を 考 える 模 擬 裁 判 中 に 各 役 職 の 生 徒 が 演 じている 内 容 を 見 聞 しなが ら 自 分 なりに 有 罪 無 罪 の 証 拠 となるところをメモする 推 定 無 罪 について 考 える 個 人 による 1 回 目 の 判 決 を その 理 由 とともにワークシート に 記 入 する 小 グループになり 自 分 が 判 断 した 理 由 を 明 確 にして 意 見 交 換 を 行 う( 通 常 の 生 活 班 ) 同 種 異 種 同 士 のグループに 分 かれて 証 拠 の 二 面 性 に 着 目 して 協 議 する ワークシートに 記 入 されていた 1 回 目 の 判 決 結 果 を 黒 板 に 記 述 する 前 に 記 入 していたワークシートに 基 づき 最 初 に 同 種 の 意 見 のみのグループを 編 成 し なぜそのような 判 決 としたのか 理 由 などを 共 有 する 証 拠 を 丁 寧 にくみ 取 り 個 人 の 考 え( 有 罪 か 無 罪 か)を 明 確 にする 次 に 異 種 ( 有 罪 派 無 罪 派 混 合 )のグループを 編 成 し お 互 いに 意 見 交 換 をする 数 人 の 生 徒 が 発 表 し 学 級 全 体 で 検 討 する 証 拠 の 見 方 については 次 のことを 理 解 する 1 証 拠 の 二 面 性 に 着 目 させる 2それぞれの 証 拠 の 重 要 性 を 考 えさせる 3どの 証 拠 を 重 要 視 するかで 判 断 が 異 なってくる 人 によって 証 拠 の 捉 え 方 とそこから 生 じる 結 論 が 異 なること から 証 拠 の 重 要 性 を 理 解 する 裁 判 員 制 度 が 開 始 され 一 般 市 民 が 刑 事 裁 判 に 参 加 し 評 決 を 下 す 重 要 性 に ついて 気 づかせたい 警 察 官 と 検 察 官 の 違 いを 確 実 に 把 握 させる 判 決 にあたっては 証 拠 を 基 にして 考 える 自 分 の 主 観 ではなく 客 観 的 な 証 拠 に 基 づくもので あること 根 拠 を 明 確 にすること 36
中 学 校 における 法 的 思 考 力 判 断 力 の 育 成 に 関 する 実 証 的 研 究 4 5 3 次 6 7 考 えを 異 にする 人 との 混 合 グループで 審 議 する 証 拠 の 二 面 性 を 踏 まえ グループで 再 度 評 議 する グループごとに 合 意 した 点 意 見 対 立 があった 点 を 発 表 する 自 分 と 異 なる 意 見 の 人 を 説 得 するには どのようなことを 主 張 するべきか 考 える 2 回 目 の 判 決 をワークシートに 記 入 する 2 回 目 の 判 決 結 果 を 踏 まえ 学 級 全 体 で 評 議 し 3 回 目 の 判 決 ( 最 終 判 決 )を 行 う 評 議 を 踏 まえて 個 人 で 最 終 的 に 判 断 し ワークシートに 記 入 する どの 証 拠 をどのように 判 断 したのか 理 由 をしっかりと 記 入 す る 学 級 としての 評 決 をとり 結 果 に 対 する 考 えをワークシート にまとめる 司 法 の 役 割 と 裁 判 員 制 度 の 意 義 について 理 解 する 新 潟 地 方 検 察 庁 の 職 員 から 司 法 の 役 割 裁 判 員 制 度 の 意 義 役 割 や 法 的 な 思 考 とはどのようなものかなどについて 講 話 を いただく 学 級 全 体 としての 評 決 を 確 認 する 本 単 元 の 学 習 全 体 を 通 して 学 んだことについての 感 想 を 記 述 する 事 後 アンケートに 記 入 する 予 想 される 反 論 に 対 する 回 答 も 考 える 自 分 の 考 えと 違 う 判 決 に なった 場 合 感 情 論 では なく 冷 静 に 証 拠 をもと にして 分 析 した 考 えを 記 入 する 今 までの 学 習 を 振 り 返 り ながら 聞 く 生 徒 の 意 識 の 変 容 につい て 探 る 4. 指 導 の 実 際 2 生 徒 に 役 割 分 担 をさせた 上 で 架 空 の 刑 事 事 件 について 模 擬 裁 判 を 行 った 裁 判 官 など の 役 職 の 演 技 をしていない 多 くの 生 徒 は 裁 判 員 役 になり 検 察 官 役 弁 護 士 役 の 生 徒 と のやり 取 りを 見 聞 しながら 判 決 を 考 えるにあたってポイントとなる 部 分 などをメモし ていた その 後 個 人 で 有 罪 か 無 罪 か 1 回 目 の 判 決 を 行 った その 際 なぜ 有 罪 または 無 罪 と 判 断 したのか その 際 に 客 観 的 な 根 拠 となる 証 拠 は 何 かを 考 えさせた この 段 階 では 生 徒 個 人 で 考 えた 判 断 とし グループによる 審 議 は 行 わ なかった その 結 果 有 罪 16 人 無 罪 13 人 となった 有 罪 無 罪 を 判 断 した 理 由 を 学 級 全 体 に 問 うたところ 次 のような 発 言 があった 37
教 職 研 究 7 号 C1 私 は 有 罪 だと 思 う 一 に ホッチキスの 証 拠 の 件 がとてもあやしい さらに 無 罪 であるという 決 定 的 な 証 拠 がない この 発 言 に 対 して 別 の 女 子 生 徒 が 以 下 のような 発 言 をした C2 私 は 無 罪 であると 考 えます それは 被 告 にはあやしいところが 多 く 特 にホッチ キスの 件 については 一 番 あやしい しかし 封 筒 から 指 紋 が 採 取 されていないこと もあり 確 実 に 有 罪 とは 言 えないのではないだろうか 推 定 無 罪 である 3 最 初 に 個 人 でじっくりとシナリオを 読 みながら 有 罪 無 罪 と 考 えられる 証 拠 や 状 況 を 一 つ 一 つ 整 理 させた その 後 同 意 見 の 生 徒 同 士 のグループで 審 議 を 行 わせた これ は 自 分 の 1 回 目 の 判 決 の 証 拠 に 対 するとらえ 方 や 考 え 方 を 共 有 するためである 3 の 後 半 から 4 では 1 回 目 の 判 決 内 容 と 違 う 生 徒 を 織 り 交 ぜた 混 合 のグループを 編 成 した これは 同 意 見 のグループで 話 し 合 いをもとにして 考 えた 自 分 の 判 決 理 由 と 証 拠 の 二 面 性 を 次 の 話 し 合 いで 1 回 目 の 判 決 よりはっきりさせるねらいがあるからで ある 4 グループ 内 で 交 わされた 意 見 の 一 部 C3 5 万 5 千 円 ものお 金 を 裸 でもっていたというのはおかしい 偶 然 というにはとても 不 自 然 だと 思 う C1 無 罪 と 考 えている 人 は 偶 然 と 言 っているけど 偶 然 なんて 言 っていたらきりが ない いくらたまたま 財 布 を 忘 れた といっても 常 識 で 考 えたら 5 万 円 以 上 も のお 金 をそのまま 持 っていること 自 体 怪 しいと 思 う そして アリバイも 証 明 でき ないではないか C2 被 疑 者 を 犯 人 とする 決 め 手 に 欠 けた 証 拠 が 多 く 犯 人 とするには 物 足 りない 状 況 証 拠 だけではダメ 証 拠 そのものが 曖 昧 である やはり 老 婆 から 奪 い 取 ったのであれば 被 疑 者 の 指 紋 が 封 筒 に 残 っているはずであ る 封 筒 だけ 諮 問 をふき 取 るなんてことができる( 考 える)だろうか 4 の 最 後 に 2 回 目 の 判 決 を 行 った 結 果 的 にこの 2 回 目 の 判 決 が 大 きなターニ ングポイントとなった 有 罪 無 罪 の 生 徒 を 混 在 させたグループとして 話 し 合 いをさせ たことで 判 断 が 違 うと 同 じ 証 拠 でも 見 方 が 違 っていたりするなど 新 たな 視 点 を 発 見 し 証 拠 の 二 面 性 を 実 感 できたようである 5 4 と 同 様 に 判 決 内 容 が 違 う 生 徒 で 審 議 するグループを 編 成 し( 前 のメンバーを 入 れ 替 えた)3 回 目 の 審 議 を 行 った 以 下 は あるグループ 内 での 審 議 内 容 の 一 部 である 38
中 学 校 における 法 的 思 考 力 判 断 力 の 育 成 に 関 する 実 証 的 研 究 C4 私 は 被 疑 者 を 怪 しいと 思 うが 推 定 無 罪 であると 思 う やはり 指 紋 が 検 出 されて いないのに 犯 人 と 断 定 することはできない C5 これだ!という 明 確 な 証 拠 がないので 無 罪 である これに 対 し 有 罪 と 考 えるグループには 以 下 のような 考 えがあった C6 供 述 が 曖 昧 だし アリバイがないのは 有 罪 と 考 えられる C7 証 言 の 信 憑 性 に 欠 ける 指 紋 は 雨 で 消 えたのではないか 服 装 は 証 言 どおり グループ 内 と 学 級 全 体 での 活 発 な 議 論 の 後 3 回 目 ( 最 終 評 決 )の 判 断 を 行 った その 結 果 最 終 的 に 有 罪 10 人 無 罪 20 人 となった 5. 本 実 験 授 業 の 学 習 効 果 の 検 討 (1) 司 法 の 学 習 に 対 する 興 味 本 実 験 授 業 の 前 後 に 司 法 に 関 する 学 習 に 対 する 興 味 について 質 問 紙 法 で 調 査 をした ところ 表 1 のようになった 表 1 司 法 の 学 習 に 対 する 興 味 ( 授 業 前 と 授 業 後 ) とても 興 味 あり やや 興 味 あり あまり 興 味 なし ほとんど 興 味 なし 授 業 前 4(14%)ns 10(36%) 9(32%) 5(18%) 授 業 後 8(27%)ns 20(67%) 2( 6%) 表 中 の 数 値 は 左 側 が 人 数 ( )がパーセント 有 意 に は 多 い は 少 ない 授 業 前 :n=28 授 業 後 :n=30 授 業 前 と 授 業 後 の 司 法 の 学 習 に 対 する 興 味 についてクロス 集 計 をχ 2 検 定 したところ とても 興 味 あり には 有 意 差 は 認 められなかったが やや 興 味 あり あまり 興 味 な し ほとんど 興 味 なし の 項 目 は 5% 水 準 で 有 意 であった 授 業 前 に ほとんど 興 味 な し と 回 答 した 生 徒 のうち 3 人 は やや 興 味 あり に 移 動 し あまり 興 味 なし の 生 徒 は 全 員 が やや 興 味 あり に 移 動 しており 司 法 の 学 習 に 対 する 興 味 を 高 めることに 本 実 験 授 業 が 有 効 に 作 用 したといえる (2) 指 導 法 学 習 活 動 の 有 効 性 本 実 験 授 業 で 実 施 した 学 習 活 動 ( 学 習 スタイル)について 学 習 するのに 興 味 をもて たかどうか の 質 問 紙 調 査 を 行 った 39
教 職 研 究 7 号 表 2 学 習 活 動 ( 学 習 スタイル)の 有 効 性 学 習 に 興 味 をもてた 学 習 に 興 味 をもてなかった 模 擬 裁 判 28(93%) 2( 7%) 有 罪 無 罪 に 関 する 討 論 20(67%) 10(33%) 有 罪 無 罪 に 関 する 評 議 25(83%) 5(17%) 検 察 庁 の 方 からの 説 明 21(70%) 9(30%) 表 中 の 数 値 は 左 側 が 人 数 ( )がパーセント n=30 表 2 の 結 果 から 司 法 の 学 習 に 関 して 模 擬 裁 判 と 有 罪 無 罪 に 関 する 評 議 (グルー プ 学 習 )が 特 に 生 徒 の 興 味 関 心 を 引 きつけ 学 習 意 欲 を 喚 起 することに 有 効 であった といえる 学 級 全 体 での 討 論 に 関 する 評 価 が 低 かったのは 証 拠 を 基 に 自 分 なりに 客 観 的 に 判 断 することができたかどうかと 発 言 する 生 徒 に 偏 りが 出 てしまったことが 原 因 と 考 えられる 学 習 のまとめの 段 階 で 実 施 した 検 察 庁 の 方 からの 説 明 に 関 しては 学 習 事 項 を 確 認 することができ 実 際 の 検 察 の 仕 事 などを 紹 介 していただいたこともあり 概 ね 好 評 であった (3) 裁 判 員 に 対 する 意 欲 本 実 験 授 業 後 に 将 来 さまざまな 条 件 をクリアーしたとして 最 終 選 出 の 場 面 にいた としたら 裁 判 員 をやってみたいかどうか 質 問 紙 法 で 調 査 したところ 表 3 のようになった 表 3 裁 判 員 をしてみたいか ぜひしてみたい ややしてみたい あまりやりたくない やりたくない 10(33%) 12(40%) 8(27%) 表 中 の 数 値 は 左 側 が 人 数 ( )がパーセント n=30 全 体 的 な 傾 向 として 模 擬 裁 判 で 法 曹 三 者 ( 裁 判 官 検 察 官 弁 護 士 ) 役 や 評 議 に 活 発 に 参 加 していた 生 徒 は してみたい という 積 極 的 な 傾 向 が 見 られた 生 徒 の 中 には 実 際 に 殺 人 事 件 などの 凶 悪 犯 罪 を 裁 くことになった 場 合 血 のついたナイフや 殺 害 さ れた 被 害 者 の 顔 や 遺 体 の 写 真 などを 見 ることになる そのようなことに 自 分 が 精 神 的 に 耐 えられるかどうか 分 からない という 意 見 を 述 べるなど 中 学 3 年 生 の 段 階 で 冷 静 に 自 己 分 析 をしていた 生 徒 もいた 司 法 に 関 して 市 民 が 意 見 を 述 べることができなければ 真 の 民 主 主 義 を 実 現 することは 難 しいと 考 えることからすれば 裁 判 員 を 積 極 的 に 受 け 入 れようとする 姿 勢 は 大 切 である (4) 法 的 思 考 力 判 断 力 の 育 成 1 有 罪 か 無 罪 かをさまざまな 証 拠 を 結 びつけて 考 えることを 通 して 法 的 思 考 力 判 断 力 を 高 める 学 習 を 進 める 40
中 学 校 における 法 的 思 考 力 判 断 力 の 育 成 に 関 する 実 証 的 研 究 実 際 の 裁 判 員 裁 判 でも 一 つ 一 つの 証 拠 にどういう 特 徴 があるのかおさえておかない と 審 議 することができない そこで 本 単 元 においても 証 拠 の 二 面 性 に 着 目 させるよ うに 丁 寧 に 授 業 を 進 めた 最 終 判 決 前 に 有 罪 派 無 罪 派 の 根 拠 となる 証 拠 考 えをまとめたもの( 板 書 の 一 部 ) ⅰホチキスの 穴 ⅱお 札 の 枚 数 と 種 類 ⅲ 事 件 の 服 装 ⅳ 位 置 関 係 ( 犯 行 現 場 と 被 疑 者 の 所 在 地 ) ⅴ 指 紋 の 有 無 ⅵ 供 述 の 信 憑 性 ⅶアリバイの 7 点 について 丁 寧 にメモさせ た この 作 業 をすることにより 証 拠 には 二 面 性 があり その 証 拠 をどのように 解 釈 す るかで 有 罪 か 無 罪 かを 左 右 する 重 要 な 場 面 であることを 理 解 させることができる その 後 なぜ 有 罪 無 罪 と 考 えるのか 証 拠 をどのように 見 取 っているのかを 考 えさせ 話 し 合 いの 場 を 設 定 した 有 罪 と 考 える 生 徒 は 被 疑 者 の 証 言 の 信 憑 性 とホチキス 跡 などの 偶 然 性 に 対 し 疑 問 をもっている( 状 況 証 拠 重 視 )としているが 無 罪 と 考 える 生 徒 は 指 紋 がないなど 物 的 証 拠 を 重 視 している 傾 向 が 見 受 けられた グループ 内 での 話 し 合 いで 相 手 を 説 得 しようとする 発 言 内 容 から 本 実 践 は 生 徒 の 法 的 思 考 力 判 断 力 を 向 上 させ ることに 有 効 に 作 用 した 一 例 であったといえる 2 対 立 を 合 意 に 至 らせるために 有 罪 無 罪 のグループ 分 けで 同 種 異 種 を 組 み 合 わせ 根 拠 を 説 明 し 合 う 場 を 設 定 する 1 回 目 の 判 断 の は 模 擬 裁 判 を 行 った 直 後 での 判 断 であった 模 擬 裁 判 後 一 旦 自 教 室 に 戻 り 役 付 きの 生 徒 も 傍 聴 人 役 の 生 徒 も 模 擬 裁 判 でのやり 取 りを 見 聞 したことを もとに 有 罪 無 罪 かを 判 断 した 2 回 目 の 判 断 をさせるにあたって 幅 広 く 考 えを 持 たせ るために 有 罪 派 無 罪 派 混 合 のグループ 編 成 とした それは 意 見 が 違 う 相 手 に 自 分 の 考 えを 納 得 させる(なぜ 自 分 の 考 えが 正 しいのか)には 丁 寧 に 話 し 合 うことが 重 要 で あると 考 えたからである しかし 一 部 の 活 発 な 生 徒 による 意 見 の 主 導 で 個 人 の 考 えが 左 右 しかねないため 対 策 として 適 机 間 指 導 をするとともに 7 種 類 の 証 拠 をどのよ 41
教 職 研 究 7 号 うに 考 えるのかを 常 に 頭 に 置 いておくことを 指 導 した その 結 果 2 回 目 の 判 断 では 7 名 の 生 徒 が 有 罪 から 無 罪 へと 考 えを 変 更 した 1 回 目 と 2 3 回 目 の 人 数 が 違 うのは 欠 席 者 の 関 係 である 有 罪 から 無 罪 に 考 えを 変 更 した 生 徒 は 無 罪 と 考 える 生 徒 の 意 見 を 聞 い ていくうちに 極 めて 怪 しいが 有 罪 と 言 える 明 確 な 物 的 証 拠 がないことから 推 定 無 罪 という 考 えに 至 った さらに 意 見 の 対 立 ( 有 罪 か 無 罪 )をどのように 合 意 に 導 くか ( 導 くことの 難 しさ)をつかみ 取 らせることができた これらは 異 種 混 合 のグループ 編 成 にした 成 果 である (5) 学 習 後 の 感 想 から 学 習 する 前 から 興 味 があった 実 際 に 学 習 してさらに 知 識 を 得 ることができた 模 擬 裁 判 が 特 に 分 かりやすかった 学 習 前 は 裁 判 に 対 するイメージがあやふやなものでしたが 今 回 の 学 習 で 裁 判 ( 司 法 ) がなんたるものかはっきりと 知 ることができた 今 後 私 たちの 生 活 のどこかで 関 わ ってくるであろうことを 忘 れないようにしたい 自 分 にはあと 6 年 先 のことですが もし 自 分 が 裁 判 員 に 選 ばれたとしたら 冷 静 に 評 議 に 参 加 したいと 思 いました 教 科 書 だけではよくわからなかった 本 当 の 裁 判 の 様 子 や 裁 判 の 進 み 方 などがよく 理 解 できた 今 までは 全 く 分 からなかった 裁 判 のことが この 学 習 を 通 して TV で 観 るようなものではなく 本 当 に 大 切 なことであると 実 感 し ました 模 擬 裁 判 の 後 に 有 罪 にするか 無 罪 にするか たくさん 討 論 をしました 有 罪 とも 無 罪 とも 考 えることができたので 判 決 するのが 大 変 でした 学 校 の 授 業 でこれだけ 迷 うのだから 本 当 の 裁 判 ではもっと 大 変 だろうと 思 いました 検 察 庁 の 方 の 説 明 は 難 しいところもあったけど 細 かいところまで 知 ることができてよかった 先 生 による 教 科 書 を 使 った 授 業 より 模 擬 裁 判 など 実 践 した 方 が どのような 状 況 な のかなどについてわかりやすかった もしこれが 本 当 の 裁 判 員 裁 判 の 判 決 であれば 裁 判 官 と 裁 判 員 による 多 数 決 で 被 告 人 は 無 罪 となりますが 僕 はやはり 有 罪 であると 思 う 確 かに 怪 しき 者 は 罰 せず という 言 葉 があるが 状 況 的 に 無 罪 とは 言 い 難 い しかし 無 罪 派 の 人 たちを 納 得 さ せられるだけの 力 が 自 分 にないことが 残 念 だ もし 有 罪 ならどのくらいの 刑 になるのだろうか 実 際 の 裁 判 なら 検 察 官 が 求 刑 す ることから 始 まるのだけど まず 検 察 官 がどのくらいの 刑 を 求 刑 するのか 疑 問 だ これらの 生 徒 の 感 想 からも 本 実 験 授 業 が 生 徒 の 学 習 意 欲 の 向 上 と 司 法 ( 裁 判 )に 対 する 理 解 度 の 向 上 に 有 効 であった さらに 他 者 との 判 決 に 関 する 評 議 において 有 罪 とも 無 罪 とも 判 断 することができる 様 々な 証 拠 をどのように 解 釈 を 行 えばよいのかその 42
中 学 校 における 法 的 思 考 力 判 断 力 の 育 成 に 関 する 実 証 的 研 究 重 要 性 に 気 づく 生 徒 もおり 論 理 的 思 考 力 を 育 成 する 効 果 がある また 模 擬 裁 判 のや りとりだけで 有 罪 か 無 罪 かの 判 断 をさせることで 事 実 を 認 定 することの 難 しさ を 生 徒 に 実 感 させることができた 模 擬 裁 判 の 実 施 は 一 人 一 人 の 生 徒 に 対 して 裁 判 員 制 度 について 自 分 なりの 考 えを 持 たせることができ 学 習 意 欲 の 向 上 や 論 理 的 思 考 能 力 の 育 成 に 有 効 に 作 用 するといえる 6.おわりに 社 会 科 の 授 業 で 模 擬 裁 判 を 扱 うことは 平 成 20 年 版 の 現 行 学 習 指 導 要 領 の 改 訂 で 新 た に 盛 り 込 まれたものではない しかし 現 行 の 学 習 指 導 要 領 で 現 代 社 会 をとらえる 見 方 や 考 え 方 の 基 礎 として 対 立 と 合 意 効 率 と 公 正 などについて 理 解 させることが 設 定 されたことを 鑑 みると 中 学 生 の 段 階 から 模 擬 裁 判 とその 判 決 の 審 議 を 通 して 司 法 の 学 習 を 行 うことは 市 民 的 資 質 を 養 う 上 でも 必 要 であると 考 える 司 法 制 度 改 革 審 議 会 意 *5 見 書 において 学 校 教 育 等 における 司 法 に 関 する 学 習 機 会 を 充 実 させることが 望 まれ る という 期 待 に 応 えるためには 学 校 教 育 において 司 法 の 仕 組 みや 働 きに 関 する 学 習 がこれまで 以 上 に 展 開 される 必 要 がある 大 杉 は そのためには 法 教 育 のカリキュラム 教 材 や 指 導 法 の 開 発 及 び 評 価 方 法 の 開 発 など 多 くの 課 題 がある 5) と 指 摘 している そ のためには 教 師 ( 学 校 )と 法 曹 関 係 者 ( 機 関 )の 両 者 がこれまで 以 上 に 積 極 的 に 関 わっ ていく 必 要 がある 教 材 開 発 の 一 つの 視 点 としては 具 体 的 な 実 践 方 法 として 生 徒 の 身 近 な 事 例 をシナ リオ 化 ( 例 えば 傘 の 窃 盗 など 学 校 内 で 発 生 する 事 例 )し 生 徒 の 学 習 意 欲 をより 喚 起 し ていくことも 考 えられる 指 導 法 の 開 発 としては 小 学 校 と 連 携 し 小 学 生 と 中 学 生 の 役 割 を 分 担 することができればより より 効 果 的 な 司 法 の 学 習 を 行 うことができると 考 える そのためには 事 前 に 年 間 指 導 計 画 に 裁 判 傍 聴 や 模 擬 裁 判 を 設 定 し 計 画 的 に 授 業 を 行 うことがより 一 層 大 切 である < 参 考 資 料 > 事 件 の 内 容 は 男 性 が 老 婆 の 巾 着 を 奪 って 怪 我 をさせた という 架 空 の 強 盗 致 傷 事 件 である 被 疑 者 は 犯 行 を 否 認 しているが 警 察 は 数 々の 証 拠 ( 物 的 証 拠 状 況 証 拠 )をも とに 起 訴 した 本 単 元 で 扱 った 模 擬 裁 判 のシナリオは 法 務 省 のホームページに 記 載 され ているものを 参 考 にした http://www.moj.go.jp/keiji1/saibanin_info_saibanin_kyozai.html なお 本 稿 は 平 成 23 年 度 新 潟 県 教 育 庁 義 務 教 育 課 委 嘱 中 学 校 教 育 課 程 研 究 員 として 実 践 研 究 を 行 い 平 成 24 年 度 新 潟 県 中 学 校 新 教 育 課 程 研 究 集 会 資 料 に 掲 載 されたものを 加 筆 修 正 したものである 43
教 職 研 究 7 号 < 註 > *1 裁 判 員 はくじで 選 出 され 国 民 が 裁 判 に 参 加 することによって 国 民 の 視 点 感 覚 が 裁 判 の 内 容 に 反 映 されることになる その 結 果 裁 判 が 身 近 になり 国 民 の 司 法 に 対 する 理 解 と 信 頼 が 深 まることが 期 待 されている そして 国 民 が 自 分 を 取 り 巻 く 社 会 について 考 えることにつながり より 良 い 社 会 への 一 歩 となることが 期 待 されている 法 律 を 専 門 とする 一 般 市 民 は 数 少 ないので 裁 判 員 は 評 議 の 内 容 と 自 分 の 常 識 を 基 に 判 断 することになる *2 法 的 思 考 力 判 断 力 はリーガルマインドとも 言 われている 本 来 の 意 味 は 法 的 三 段 論 法 ( 事 実 認 定 : 証 拠 から 事 実 認 定 を 確 定 させる) ( 法 の 解 釈 と 適 用 : 適 用 する 法 を 選 択 し その 意 味 を 明 確 にし 事 実 関 係 を 当 てはめる) ( 判 決 : 結 論 ) のこと であるが 本 研 究 では 中 学 生 に 対 して 法 的 思 考 力 判 断 力 の 基 礎 を 高 めることを 意 図 しているので 狭 義 のリーガルマインド( 主 に 事 実 認 定 )を 中 心 として 実 施 した *3 東 京 書 籍 公 民 921 の PP.86-89 を 参 照 *4 ワールド カフェはファシリテーションの 手 法 であり 本 来 は 意 見 の 合 意 形 成 を 図 る ための 手 法 である 本 実 験 授 業 では 他 者 と 意 見 交 換 することによって 新 しい 考 えが 生 まれたり グループを 一 度 解 体 して 同 じ 意 見 同 士 のグループ 内 での 発 想 を 一 度 ブ レイクスルーする 体 験 を 踏 ませることによって 話 し 合 いにおける 雰 囲 気 の 重 要 性 証 拠 に 対 する 見 方 考 え 方 の 多 様 性 について 理 解 を 深 めるために 用 いた *5 司 法 制 度 改 革 審 議 会 意 見 書 は 平 成 13 年 6 月 21 日 に 21 世 紀 の 日 本 を 支 える 司 法 制 度 と 題 して 提 出 されたものである 司 法 法 曹 国 民 それぞれに 役 割 が 期 待 されて いる 国 民 に 対 しては 統 治 主 体 権 利 主 体 である 国 民 は 司 法 の 運 営 に 主 体 的 有 意 的 に 参 加 し プロフェッションたる 法 曹 との 豊 かなコミュニケーションの 場 を 形 成 維 持 するように 努 め 国 民 のための 司 法 を 国 民 自 らが 実 現 し 支 えなければならな い と 報 告 している < 参 考 文 献 > 1) 江 口 勇 治 全 国 法 教 育 ネットワーク 編 法 教 育 の 可 能 性 学 校 教 育 における 理 論 と 実 践 2001 年 P.22 2) 船 山 泰 範 日 本 社 会 科 教 育 学 会 編 社 会 科 教 育 研 究 No,98 2006 年 PP.34-35 3) 江 澤 和 雄 レファレンス (657 号 ) 国 立 国 会 図 書 館 学 校 教 育 と 法 教 育 2005 年 PP.92-93 4) 文 部 科 学 省 中 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 社 会 編 日 本 文 教 出 版 平 成 20 年 9 月 PP.110-114 5) 大 杉 昭 英 日 本 社 会 科 教 育 学 会 編 社 会 科 教 育 研 究 No,93 2004 年 P.23 44