日 本 金 属 学 会 誌 第 73 巻 第 9 号 (2009)732 741 凝 固 中 断 実 験 による Sn Ag 系 合 金 の 凝 固 過 程 の 解 析 宮 内 喜 子 江 阪 久 雄 篠 塚 計 防 衛 大 学 校 機 能 材 料 工 学 科 J. Japan Inst. Metals, Vol. 73, No. 9 (2009), pp. 732 741 2009 The Japan Institute of Metals Characterization of Solidification Process in Sn Ag Alloys Using Interrupted Tests Yoshiko Miyauchi, Hisao Esaka and Kei Shinozuka Department of Materials Science and Engineering, National Defense Academy of Japan, Yokosuka 239 0811 Recently, lead free solders have been used in electronic equipments. Sn Ag Cu system is an important alloy for lead free solders. There have been so many reports for mechanical properties of bonding. It is important to understand the evolution of solidified structure of these alloys, though, such reports are few. In order to understand the solidification process of Sn Ag Cu alloys, Sn Ag alloys have been used in this study. Three alloys, hypo eutectic, eutectic, and hyper eutectic alloys have been prepared. The specimen was quenched during solidification and the solidifiedstructurewasinterruptedandcomparedwiththermalhistory. Inthecaseofhypo eutectic alloy, the specimen was composed by primary Sn and eutectic. It was found that a small undercooling was necessary for nucleation of eutectic. Such undercooling was not observed in eutectic and hyper eutectic alloys. This may be interpreted by the difference in the liquid composition when the eutectic solidification starts. In the case of eutectic and hyper eutectic alloys, the eutectic as well as b Sn may form at almost the same time of recalescence. In the case of hyper eutectic alloy, it was found that a large undercooling was not necessary for nucleation of Ag 3 Sn, even though it was facetted phase. Since the primary Ag 3 Sn was surrounded by the halo of b Sn and eutectic, the Ag 3 Sn phase may be a site for nucleation of b Sn and eutectic. (Received April 14, 2009; Accepted June 12, 2009) Keywords: lead free solder, tin silber alloy, solidified structure, undercooling, nucleation, liquid composition 1. 緒 言 はんだ 付 けの 歴 史 は 非 常 に 古 く,Sn Pb はんだは, 西 暦 300 年 頃 から 使 用 されてきた.はんだ 付 けは, 母 材 を 溶 かさ ないことおよび 低 温 で 接 合 できることなどが 他 の 接 合 法 に 見 られない 大 きな 特 徴 となっており, 電 子 工 業 における 接 合 技 術 の 中 でもプリント 配 線 板 の 接 合 技 術 に 不 可 欠 な 存 在 になっ ている.Sn Pb はんだに 含 まれる Pb の 役 割 は, 融 点,はん だ 付 性, 機 械 的 特 性, 経 済 性 から 極 めて 重 要 であるが,Pb の 毒 性 については 古 くから 問 題 となっていた. 白 粉 や 顔 料 と しての 鉛 白 や 自 動 車 用 アンチノック 剤 としての 鉛 有 機 化 合 物 による 環 境 汚 染 は, 使 用 禁 止 や 代 替 品 の 開 発 によって 問 題 が 解 決 され 1),1990 年 代 に 入 り,Sn Pb はんだによる Pb の 毒 性 が 最 後 の 課 題 となり, 近 年 Pb を 含 まない Pb フリーはん だの 開 発 が 活 発 に 進 んできた. 現 在, 日 本 では JEIDA 推 奨 成 分 である Sn 3.0Ag 0.5Cu 合 金 成 分 が JIS 化 され, 米 国 で は NEMI 推 奨 成 分 である Sn 4.0Ag 0.5Cu が 標 準 化 され, さらに EU でも ITRI が Pb フリーはんだ 規 格 化 を 推 進 して いる 2). Pb フリーはんだの 多 くは, 従 来 の Sn Pb はんだとの 種 々 の 材 料 特 性 の 違 いが 大 きく, 製 品 化 が 進 んだ 現 在 でも 問 題 点 が 残 されている. 標 準 化 されている Sn Ag Cu 系 の 凝 固 組 織 は,b Sn および Cu 6 Sn 5 や Ag 3 Sn に 限 られるが, 粗 大 な Cu 6 Sn 5 および Ag 3 Sn の 晶 出 は,そのサイズの 亀 裂 が 生 じる ことに 等 しく,Pb フリーはんだの 割 れによる 事 故 の 発 生 確 率 が 高 まる,という 懸 念 もある 3).これらのことをふまえ 本 研 究 では, 代 表 的 な 鉛 フリーはんだである Sn Cu Ag の 一 防 衛 大 学 校 大 学 院 生 (Graduate Student, National Defense Academy of Japan) Fig. 1 A part of equilibrium phase diagram of Sn Ag alloy.
第 9 号 凝 固 中 断 実 験 による Sn Ag 系 合 金 の 凝 固 過 程 の 解 析 733 部 を 構 成 している 二 元 系 合 金 の Sn Ag 系 に 着 目 した. Fig. 1 に Sn Ag 系 合 金 の 共 晶 組 成 付 近 の 模 式 図 を 示 す. この 平 衡 状 態 図 は,ファセット ノンファセットの 不 規 則 共 晶 であり, 過 共 晶 側 の 液 相 線 の 勾 配 が 大 きくなっているのが 特 徴 である.この 平 衡 状 態 図 によれば,Sn 3.5 mass Ag の 場 合,221 C で 共 晶 Ag 3 Sn および 共 晶 b Sn が 晶 出 するこ とになる.しかし, 実 際 に 液 体 のはんだを 冷 却 しても, 過 冷 融 液 中 で 核 生 成 することにより 凝 固 が 進 行 するため, 平 衡 状 態 図 通 りの 現 象 は 起 こらない. よって, 本 実 験 において 実 際 の Sn Ag 系 合 金 がどのよう な 過 程 を 経 て 凝 固 するのかということを 検 討 した. 2. 実 験 方 法 2.1 合 金 作 成 方 法 現 在 使 用 されている 鉛 フリーはんだには,Ag が 3.0~7.7 mass 含 まれている 4). 本 研 究 では, 共 晶 組 成 である 3.5 mass Ag, 亜 共 晶 組 成 である 2.0 mass Ag および 過 共 晶 組 成 である 7.5 mass Ag の 3 種 類 の 異 なる 合 金 を 使 用 し た. 合 金 の 原 料 には, 純 度 99.99 mass の Sn および Ag を 使 用 した. 電 気 炉 は 90 min かけて 450 C に 上 昇 させ,るつぼ 内 の Sn が 完 全 に 溶 解 した 後,さらに 30 min 溶 解 温 度 を 保 持 し,Ag を 完 全 に 溶 解 させた.Ag の 沈 降 による 合 金 濃 度 の 不 均 一 化 を 避 けるため, 溶 融 金 属 を 十 分 攪 拌 した. 攪 拌 後, 内 径 4 mm のパイレックスガラス 管 に 吸 引 して 急 冷 した. 急 冷 後 ガ ラス 管 を 砕 き, 以 後 の 実 験 用 材 料 とした. 2.2 凝 固 中 断 実 験 方 法 Fig. 2 A schematic drawing of an experimental apparatus. Fig. 3 Heat pattern of experiment. Fig. 2 に, 使 用 した 実 験 装 置 の 模 式 図 を 示 す. 電 気 炉 は, 外 径 50 mm, 内 径 42 mm, 全 長 240 mm のアルミナ 製 の 炉 心 管 にカンタル 線 を 巻 いたものであり, 外 部 コントローラー により 制 御 できる.また, 電 気 炉 内 の 下 部 に 十 分 に 水 の 入 っ た 水 槽 を 用 意 した. 合 金 の 重 量 は 5gとし, 表 面 には, 酸 化 物 の 除 去 のために 粉 末 状 の 松 脂 を 散 布 した. 試 料 は, 外 径 16 mm, 内 径 12 mm, 全 長 30 mm のアルミナ 製 のるつぼに 入 れるため, 凝 固 後 の 試 料 のサイズは, 直 径 約 10 mm の 球 状 になる.この 分 量 は, 試 料 が 大 きいと 水 冷 したときの 急 冷 効 果 は 小 さくな ること,また 同 じ 試 料 内 であっても 温 度 分 布 をもってしまう こと, 逆 に, 真 の 温 度 を 測 定 するには 熱 電 対 を 保 護 管 の 直 径 の 5 倍 程 度 入 れる 必 要 がある 5,6) ことから 小 さいと 測 温 精 度 に 問 題 が 生 じることなどを 考 慮 して 決 定 した.なお 熱 電 対 は, 外 径 1.2 mmq, 内 径 0.3 mmq の 二 つの 穴 の 保 護 管 に 通 した 0.1 mmq のアルメル クロメル 熱 電 対 を 使 用 した.こ のとき, 熱 電 対 先 端 はアルミナセメントで 薄 くコーティング を 行 い, 合 金 中 に 直 接 入 れた. 電 気 炉 内 は, 流 量 を 50 ml/min とした 高 純 度 Ar 雰 囲 気 と し, 均 熱 帯 付 近 の 温 度 を 完 全 に 試 料 を 溶 融 できる 温 度 である 350 C に 設 定 した.まず 基 準 となる 熱 履 歴 をとるために, Fig. 3 に 示 すようにそれぞれの 合 金 を 350 C で 10 min 保 持 した 後,3 C/min で 冷 却 した.そして, 試 料 が 完 全 に 凝 固 す るまでの 熱 履 歴 を 記 録 し, 組 織 観 察 に 供 した. 次 に, 熱 分 析 を 行 いながら 試 料 が 適 当 な 温 度 になったときに, 試 料 を 水 冷 容 器 に 落 下 させた. 電 気 炉 内 で 凝 固 が 進 む 途 中 に 水 中 へ 落 下 させると, 試 料 が 急 冷 されるので, 急 冷 前 に 固 相 であった 部 分 と 液 相 であった 部 分 を 区 別 することができる.この 試 料 を もとに, 各 組 成 における 一 連 の 凝 固 過 程 を 考 察 した. なお, 別 途 測 定 をした 結 果, 急 冷 時 の 冷 却 速 度 を 熱 履 歴 よ り 求 めると, 約 200 C/s であった 7). 2.3 組 織 観 察 方 法 試 料 の 観 察 は, 以 下 の 方 法 で 実 施 した. 試 料 の 中 央 付 近 の 縦 断 面 を#180~4000 の 耐 水 研 磨 紙 で 研 磨 し, 希 王 水 中 で 2 min 腐 食 した.その 後, 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 により, 内 部 の 詳 細 な 組 織 観 察 を 行 った. 3. 実 験 結 果 3 種 類 の 合 金 における,それぞれの 熱 履 歴 および 凝 固 終 了 後 の 断 面 写 真 を 示 す. 3.1 Sn 2.0 mass Ag 3.1.1 熱 履 歴 および 凝 固 終 了 後 の 組 織 Fig. 4 に 試 料 が 完 全 に 凝 固 するまでの 熱 履 歴,および 試 料
734 日 本 金 属 学 会 誌 (2009) 第 73 巻 断 面 の SEM 写 真 を 示 す.210 C 付 近 まで 過 冷 が 進 み,その 後 復 熱 した. 矢 印 で 示 したように,この 組 成 の 液 相 線 温 度 で ある 約 224 C に 極 めて 近 い 223 C 付 近 まで 上 昇 した.その 後 共 晶 温 度 である 221 C を 保 ったまま 凝 固 が 進 んだ. 凝 固 終 了 時 の 組 織 は, 楕 円 形 をした b Sn のデンドライトと 共 晶 組 織 であった. Fig. 5 は,Fig. 4 の 破 線 部 分 を 拡 大 した 図 である.Fig. 5 には,ふたつの 温 度 変 化 (リカレッセンス)が 確 認 され,それ ぞれの 値 は,(a) 部 では 11 C であり,(b) 部 では 0.9 C であ った. 3.1.2 途 中 急 冷 による 凝 固 過 程 の 検 討 Fig. 6 の(a)~(e)に 示 す 時 点 で, 試 料 を 急 冷 したときの 断 面 写 真 を Fig. 7 に 示 す.Fig. 7(a)は,240 C で 試 料 を 急 冷 した 試 料 である. 画 面 全 体 に, 数 ~ 数 十 mm 程 度 の 大 きさの b Sn のデンドライトがみられた.また,デンドライト 間 に は 共 晶 組 織 ( 白 い 領 域 )が 観 察 された.このデンドライトおよ び 共 晶 は,Fig. 4 に 示 した 組 織 に 比 べサイズが 非 常 に 小 さい Fig. 4 Thermal history and SEM image of the solidified structure of Sn 2.0 mass Ag alloy. ことから, 急 冷 時 に 晶 出 したものと 判 断 できる.したがっ て, 急 冷 前 の 試 料 はすべて 液 体 であったといえる. Fig. 7(b)は, 過 冷 中 である 218 C で 急 冷 した 試 料 であ る. 画 面 全 体 に, 十 mm 程 度 の 大 きさの b Sn のデンドライ トが 多 数 観 察 される.このデンドライトは,Fig. 7(a)のデ ンドライトに 比 べ 直 径 が 少 し 大 きいが, 微 細 な 組 織 であり, 急 冷 によって 晶 出 したものであると 判 断 できる.したがっ て, 過 冷 中 の 試 料 はすべて 液 体 であったといえる. Fig. 7(c)は, 復 熱 直 後 に 急 冷 した 試 料 である.ここに 見 られる b Sn のデンドライトは, 数 十 mm 程 度 の 大 きさにな っており, 丸 印 で 示 したように 一 部 のデンドライトの 界 面 か らは, 数 ~ 数 十 mm 程 度 の 大 きさの b Sn が 成 長 していた. 丸 印 で 示 したデンドライトの 直 径 は,Fig. 7(a),(b)で 晶 出 したデンドライトの 直 径 と 類 似 していることから,この 領 域 は 急 冷 前 には 液 体 であったと 判 断 できる.Fig. 7(c)は,b Sn のデンドライトが 成 長 しているときに 急 冷 した 試 料 であ ると 考 えられ,Fig. 5(a)に 示 した 復 熱 は,デンドライトの 晶 出 により 起 こったと 判 断 できる.また,Fig. 7(c )に 示 し た 共 晶 組 織 ( 白 い 領 域 )は,Fig. 4 で 示 す 共 晶 組 織 よりも 微 細 な 組 織 であることから, 急 冷 前 には 共 晶 凝 固 は 開 始 していな いと 判 断 できる. Fig. 7(d)は, 液 相 線 まで 温 度 が 上 昇 し,30 秒 経 過 した 後 に 急 冷 した 試 料 である.Fig. 7(c)に 比 べ,サイズのほぼ 等 しい b Sn のデンドライトが 観 察 された.また,デンドライ トの 間 隙 の 共 晶 領 域 は,Fig. 7(d )に 示 すように 非 常 に 微 細 であり,すべて 急 冷 時 に 晶 出 したと 判 断 できる.よって, 復 熱 後 しばらくの 間 は,デンドライトが 成 長, 粗 大 化 したとい える. Fig. 7(e)は, 復 熱 3 分 後 に 急 冷 した 試 料 である. 急 冷 時 には Fig. 5(b)で 示 したふたつ 目 の 過 冷 復 熱 がすでに 起 こ っており, 共 晶 温 度 付 近 で 一 定 になっている.Fig. 7(e)の 二 重 線 で 囲 んだ 領 域 は,Fig. 4 で 示 した 共 晶 組 織 とサイズが ほぼ 一 致 していることから, 急 冷 前 に 晶 出 していた 共 晶 組 織 であると 判 断 できる.Fig. 7(e )に 共 晶 領 域 の 拡 大 写 真 を 示 す. 急 冷 時 に 晶 出 した 共 晶 と 既 存 の 共 晶 組 織 は,はっきりと Fig. 5 Enlarged thermal history of the specimen indicated in Fig. 4. Fig. 6 Thermal history of the specimen of Sn 2.0 mass Ag alloy and times for interrupted test.
第 9 号 凝 固 中 断 実 験 による Sn Ag 系 合 金 の 凝 固 過 程 の 解 析 735 区 別 できる.Fig. 7(d)および Fig. 7(e)でみられた 組 織 の 違 いから,Fig. 5(b)に 示 した 復 熱 によって 共 晶 が 晶 出 したと 判 断 できる. 以 上 の 結 果 から, 亜 共 晶 組 成 は,まず b Sn のデンドライ トが 大 きな 復 熱 とともに 初 晶 として 晶 出 し, 十 分 に 成 長 した 後 に 共 晶 凝 固 が 進 んだ.また, 共 晶 の 晶 出 には, 別 の 小 さな 過 冷 が 必 要 であった. 3.2 Sn 3.5 mass Ag 3.2.1 熱 履 歴 および 凝 固 終 了 後 の 組 織 Fig. 8 に 試 料 が 完 全 に 凝 固 するまでの 熱 履 歴,および 試 料 断 面 の SEM 写 真 を 示 す.210 C 付 近 まで 過 冷 が 進 み, 復 熱 後, 共 晶 温 度 である 221 C を 保 ったまま 凝 固 が 終 了 した. 復 熱 後 は, 亜 共 晶 組 成 とは 異 なり 一 定 温 度 を 保 ち, 過 冷 復 熱 の 現 象 は 一 度 であった.また, 写 真 に 示 すように 大 部 分 は 共 晶 組 織 となっているが, 初 晶 Ag 3 Sn および 丸 い b Sn の デンドライトや Halo もみられた. 3.2.2 途 中 急 冷 による 凝 固 過 程 の 検 討 Fig. 9 の(a)~(d)に 示 す 時 点 で, 試 料 を 急 冷 したときの 断 面 写 真 を Fig. 10 に 示 す. Fig. 10(a)は,240 C において 急 冷 したときの 試 料 であ る. 画 面 全 体 に, 十 mm 程 度 の 大 きさの b Sn のデンドライ Fig. 7 SEM images of solidified structure on the longitudinal cross section of Sn 2.0 mass Ag alloy in the interrupted test.
736 日 本 金 属 学 会 誌 (2009) 第 73 巻 Fig. 8 Thermal history and SEM image of the solidified structure of Sn 3.5 mass Ag alloy. Fig. 9 Thermal history of the specimen of Sn 3.5 mass Ag alloy and times for interrupted test. トが 観 察 された.また, 白 く 見 える 領 域 は, 非 常 に 微 細 な 共 晶 組 織 であった.よって,このデンドライトおよび 共 晶 は, 急 冷 によって 晶 出 したものであるといえる.したがって, 急 冷 前 の 試 料 はすべて 液 体 であったといえる. Fig. 10(b)は, 過 冷 中 である 218 C に 急 冷 したときの 試 料 である. 画 面 全 体 に 数 mm 程 度 の 大 きさの b Sn のデンドラ イトは, 急 冷 によって 晶 出 したものである.このことから, 過 冷 中 の 試 料 はすべて 液 体 であったといえる. Fig. 10(c)は, 復 熱 直 後 に 急 冷 した 試 料 である. 矢 印 で 示 すように, 画 面 中 央 付 近 に 数 百 mm の b Sn がデンドライト 状 に 成 長 していた.このような 形 状 のデンドライトは,Fig. 10(a),(b)では 観 察 されなかったことから, 復 熱 時 にデン ドライトが 晶 出 したと 判 断 できる.また,Fig. 10(c )に 示 すように, 初 晶 Ag 3 Sn も 観 察 された.この 初 晶 Ag 3 Sn は 50 mm まで 成 長 していることから, 復 熱 直 前 までに 成 長 を 続 けていたと 判 断 できる. 一 方 で, 試 料 全 体 に Fig. 10(c ) に 示 す 組 織 が 観 察 された.Fig. 10(c )の 二 重 線 で 囲 んだ 領 域 は, 急 冷 時 に 晶 出 した 共 晶 組 織 に 比 べ 粗 い 組 織 であること から, 急 冷 前 にすでに 晶 出 していたと 判 断 できる.また, 復 熱 から 急 冷 凝 固 に 至 るわずか 数 秒 間 に 数 百 mm にまで 成 長 し たと 考 えられる.Fig. 10(c)~(c )から 復 熱 時 の 凝 固 過 程 を 予 測 すると,Fig. 10(c)の b Sn はデンドライト 状 に 成 長 し ていることから,Fig. 8 に 観 測 される 10 C 程 度 の 復 熱 は, b Sn の 晶 出 により 起 こったものであり, 続 いて 共 晶 Ag 3 Sn が 晶 出 したと 判 断 できる. Fig. 10(d)は, 復 熱 1 分 後 に 急 冷 した 試 料 である. 白 く 見 える 領 域 は, 急 冷 によって 晶 出 した 共 晶 組 織 である. 共 晶 凝 固 は,Fig. 10(d)の 右 下 から 左 上 に 向 かい 成 長 しており, Fig. 10(d )に 示 す 共 晶 組 織 と Fig. 8 に 示 す 共 晶 組 織 のサイ ズはほぼ 等 しかった. 以 上 より, 共 晶 組 成 は,まず Ag 3 Sn が 初 晶 として 成 長 す る.さらに 過 冷 が 進 むと, 復 熱 時 に b Sn のデンドライトが 晶 出 し,それとほぼ 同 時 に 共 晶 凝 固 も 始 まった. 3.3 Sn 7.5 mass Ag 3.3.1 熱 履 歴 および 凝 固 終 了 後 の 組 織 Fig. 11 に 試 料 が 完 全 に 凝 固 するまでの 熱 履 歴 と 試 料 断 面 の SEM 写 真 を 示 す. 約 190 C まで 過 冷 し, 復 熱 後, 共 晶 温 度 である 221 C を 保 ったまま 凝 固 が 進 んだ. 共 晶 組 成 とほ ぼ 同 様 の 熱 履 歴 を 示 し, 過 冷 復 熱 現 象 は 一 度 だけ 観 測 され た. 凝 固 組 織 は, 初 晶 Ag 3 Sn および 共 晶 組 織 に 加 え,b Sn の Halo やデンドライトもみられた. 3.3.2 途 中 急 冷 による 凝 固 過 程 の 検 討 Fig. 12 の(a)~(g)に 示 す 時 点 で, 試 料 を 急 冷 したときの 断 面 写 真 を Fig. 13 に 示 す. Fig. 13(a)は,350 C において 急 冷 した 試 料 である. 画 面 全 体 に, 微 細 な 組 織 が 確 認 されたことから, 急 冷 前 の 試 料 は すべて 液 体 であったといえる. Fig. 13(b)は,280 C のときに 急 冷 した 試 料 である. 平 衡 状 態 図 から 本 合 金 の 液 相 線 温 度 は 267 C と 想 定 していた が, 数 十 mm の 初 晶 Ag 3 Sn が 観 察 された.また, 初 晶 の 周 囲 には 微 細 な 共 晶 組 織 が 観 察 された. 実 際 には, 液 相 線 温 度 以 上 で 凝 固 が 始 まるとは 考 えられず, 平 衡 状 態 図 の 過 共 晶 側 の 勾 配 が 急 なために 見 積 もった 液 相 線 温 度 に 間 違 いがあった ことや, 作 成 した 試 料 の 組 成 が 読 み 取 った 状 態 図 の 組 成 とわ ずかにずれていたことや, 平 衡 状 態 図 自 体 に 誤 りがある 可 能 性 などが 考 えられる. Fig. 13(c)は,260 C で 急 冷 した 試 料 である. 初 晶 Ag 3 Sn が 細 長 く 成 長 していた. 初 晶 の 周 囲 には,Fig. 13(b)と 同 様 に, 非 常 に 微 細 な 共 晶 組 織 が 観 察 された. Fig. 13(d)は,240 C で 急 冷 した 試 料 である.Fig. 13(c) に 比 べ, 針 状 の 初 晶 Ag 3 Sn が 太 くなっていた.また, 初 晶 の 周 囲 には b Sn が 観 察 された.さらにその 周 囲 には, 急 冷 による 共 晶 凝 固 が 確 認 された. Fig. 13(e)は, 過 冷 中 である 215 C で 急 冷 した 試 料 であ る. 初 晶 Ag 3 Sn の 周 囲 には 数 mm の b Sn のデンドライト が 観 察 された. Fig. 13(f)に, 復 熱 直 後 に 急 冷 した 試 料 を 示 す.Fig. 13 (f) 中 には,2 つの 初 晶 Ag 3 Sn が 存 在 しており, 左 側 の 初 晶 Ag 3 Sn は,b Sn の Halo によって 覆 われていた.しかし,
第 9 号 凝 固 中 断 実 験 による Sn Ag 系 合 金 の 凝 固 過 程 の 解 析 737 Fig. 10 SEM images of solidified structure on the longitudinal cross section of Sn 3.5 mass Ag alloy in the interrupted test. 右 側 の 初 晶 には 共 晶 組 織 と,その 外 側 に 数 百 mm 程 度 のデン ドライト 状 の b Sn が 晶 出 していた.Fig. 13(f)には,Fig. 13(e)にみられなかった 共 晶 組 織 や Halo が 観 察 されたこと から,Fig. 11 に 見 られた 10 C 程 度 の 復 熱 は,b Sn の Halo および 共 晶 組 織 の 生 成 によって 起 こったといえる. Fig. 13(g)に 復 熱 2 分 後 に 急 冷 した 試 料 を 示 す. 初 晶 Ag 3 Sn 全 体 がこぶのような 形 状 の Halo で 覆 われ,その 周 囲 に 広 がる 共 晶 組 織 が 右 下 および 左 下 から 中 央 付 近 に 向 かい 成 長 を 続 けていた.Fig. 13(f)に 比 べ, 急 冷 時 に 液 体 だった 領 域 が 狭 くなっていることから, 共 晶 凝 固 が 進 んだと 判 断 でき る. 共 晶 組 織 周 辺 の 拡 大 写 真 を Fig. 13(g )に 示 す. 共 晶 Ag 3 Sn は b Sn によって 囲 まれていた.これは, 共 晶 Ag 3 Sn の 生 成 に 伴 い 吐 き 出 された b Sn である. 辻 らは,Sn 5.5 mass Ag の 試 料 を 用 いて 一 方 向 凝 固 を 行 い, 共 晶 組 織 の 先 行 相 が 共 晶 Ag 3 Sn であると 述 べている 8). 本 実 験 において は, 共 晶 Ag 3 Sn と b Sn はラメラ 状 に 成 長 していたが, 急 冷 時 に 成 長 速 度 のより 速 い b Sn が 共 晶 Ag 3 Sn の 周 囲 を 取 り 囲 んだと 考 えられる.また, 復 熱 後 しばらく 時 間 が 経 過 し ているにもかかわらず,Halo の 周 辺 から 新 たに 共 晶 が 晶 出 していないことから,Halo 上 では 共 晶 凝 固 が 起 こりにくい と 判 断 できる. 以 上 より, 過 共 晶 組 成 は,まず 初 晶 Ag 3 Sn が 成 長 し,b Sn の Halo および 共 晶 凝 固 の 開 始 にともない 復 熱 が 起 こ り, 徐 々に 共 晶 凝 固 が 広 がった.
738 日 本 金 属 学 会 誌 (2009) 第 73 巻 ァセット 相 では 約 0.1 C である というこれまでの 報 告 9) と 異 なり,ファセット 相 であるが, 小 さな 過 冷 度 で 比 較 的 容 易 に 晶 出 したと 考 えられる. 4.1.2 初 晶 Ag 3 Sn 上 の 共 晶 および Halo の 晶 出 初 晶 Ag 3 Sn 上 には,b Sn の Halo が 晶 出 する 場 合 と, 共 晶 組 織 が 晶 出 する 場 合 があった. 本 実 験 において, 初 晶 から 分 岐 成 長 している 共 晶 Ag 3 Sn は 明 瞭 には 確 認 できなかった Fig. 11 Thermal history and SEM image of the solidified structure of Sn 7.5 mass Ag alloy. Fig. 12 Thermal history of the specimen of Sn 7.5 mass Ag alloy and times for interrupted test. 4. 考 察 4.1 凝 固 形 態 と 過 冷 量 4.1.1 初 晶 Ag 3 Sn の 晶 出 と 過 冷 量 Sn 7.5 mass Ag 合 金 における 共 晶 温 度 での Ag 3 Sn の 体 積 率 は,てこの 法 則 から 5.7 と 求 められる.この 値 は 共 晶 点 における Ag 3 Sn の 体 積 率 であり, 初 晶 の 晶 出 直 後 の 体 積 率 はさらにわずかであったため, 熱 分 析 曲 線 に 顕 著 な 変 化 が 現 れなかった 可 能 性 が 考 えられる. 今 回 の 実 験 では,0.1 mmq の 熱 電 対 を 用 い, 考 えられる 最 も 高 感 度 な 測 定 を 行 っ たが,ファセット 相 である Ag 3 Sn の 核 生 成 にともなう 過 冷 復 熱 現 象 は 観 察 されなかった.また, 本 実 験 において 初 晶 Ag 3 Sn は, 液 相 線 温 度 に 極 めて 近 い 温 度 で 既 に 晶 出 して いた. 以 上 から, 初 晶 Ag 3 Sn は 一 般 的 に 成 長 と 核 生 成 の ための 過 冷 量 は,ファセット 相 では 約 2~3 C でありノンフ が, 共 晶 周 辺 を 拡 大 した Fig. 14(b)に 示 すように, 初 晶 Ag 3 Sn の 表 面 には, 凸 に 突 き 出 た 領 域 が 確 認 されており, 共 晶 凝 固 は 初 晶 Ag 3 Sn を 起 点 として 成 長 する 場 合 があると 考 え られる.そのメカニズムを 考 えると, 初 晶 Ag 3 Sn 上 で 共 晶 として b Sn が 晶 出 した 場 合, 大 きな 駆 動 力 を 新 たに 必 要 と することなく 共 晶 Ag 3 Sn は,すぐそばで 初 晶 Ag 3 Sn から 成 長 すると 考 えられる. 次 に 共 晶 b Sn の 成 長 について 考 える. 共 晶 組 織 は 一 般 的 には 規 則 的 に 並 んで 成 長 していくが,Kurz and Fisher は, 共 晶 成 長 における 界 面 に 不 純 物 がある 場 合 や 成 長 速 度 が 大 き くなった 場 合 には, 界 面 が 乱 れるとしている 10). 界 面 が 乱 れる 方 法 には, 共 晶 セルとして 乱 れる 方 法 と 共 晶 のひとつの 相 が 乱 れる 方 法 (Fig. 15(a))のふたつがあるが, 今 回 使 用 し た Sn Ag 系 合 金 においては, 後 者 に 記 述 した 界 面 の 乱 れが 起 こっていると 考 えられる.すなわち,Fig. 15(b)に 示 すよ うに, 初 晶 Ag 3 Sn の 周 囲 に 晶 出 した 共 晶 組 織 のうち, 不 安 定 な 共 晶 b Sn が,デンドライトへ 遷 移 したと 思 われる.よ って,Fig. 13(f)に 見 られた 100 mm 程 度 のデンドライト は, 界 面 が 不 安 定 でありなおかつ 濃 度 が 高 い 領 域 の 共 晶 b Sn から 成 長 したデンドライトであると 考 えられる. 一 方 で,Fig. 13(g)に 示 すように,こぶのような 形 状 で 初 晶 Ag 3 Sn 全 体 を 取 り 囲 むように 典 型 的 な Halo として 成 長 し ているものもあった. 初 晶 Ag 3 Sn 上 での b Sn の 形 態 につ いては, 以 上 のように 初 晶 Ag 3 Sn 周 辺 の Sn の 濃 度 分 布 が 大 きく 影 響 していると 考 えられる. 4.1.3 初 晶 Ag 3 Sn と b Sn の 晶 出 B äottger らは Al 4Cu 1Mg 14Si の 4 元 系 合 金 において, Si の 初 晶 が 晶 出 した 後 に,それとは 無 関 係 に Al のデンドラ イトが 晶 出 し,さらに 二 元 および 三 元 共 晶 凝 固 が 進 むことを 明 らかにしている 11,12).これは, 初 晶 にひき 続 き 晶 出 する 第 二 相 が 必 ずしも 第 一 相 である 初 晶 上 に 晶 出 する 必 要 がないこ とを 示 している. 今 回 の 共 晶 組 成 および 過 共 晶 組 成 の 結 果 に おいて,ファセットの 初 晶 Ag 3 Sn が 晶 出 していたにもかか わらず,ノンファセットの b Sn の 晶 出 に 10 C 程 度 の 過 冷 が 必 要 であった.これは, 初 晶 Ag 3 Sn が b Sn の 核 生 成 の 起 点 となりえるが,b Sn の 晶 出 を 容 易 にする 作 用 がない, つまり B äottger らの 結 果 と 同 様 にファセットの Ag 3 Sn とノ ンファセットの b Sn は 無 関 係 に 晶 出 することを 表 している と 考 えられる. 4.2 各 組 成 の 凝 固 プロセス これまで 述 べたように, 組 成 によって 凝 固 過 程 が 異 なって いた. 凝 固 プロセスに 違 いが 生 じた 理 由 は, 固 液 界 面 の 液 相 組 成 が 異 なっているためであると 考 えられる. 各 組 成 の 凝 固 プロセスを, 平 衡 状 態 図 を 用 いて 考 察 した.
第 9 号 凝 固 中 断 実 験 による Sn Ag 系 合 金 の 凝 固 過 程 の 解 析 739 Fig. 13 SEM images of solidified structure on the longitudinal cross section of Sn 7.5 mass Ag alloy in the interrupted test. 4.2.1 亜 共 晶 組 成 の 凝 固 プロセス 亜 共 晶 組 成 の 凝 固 プロセスを Fig. 16(a)の ~ に 示 す. まず, 共 晶 温 度 以 下 まで 過 冷 が 進 み, 初 晶 のデンドライト の 核 生 成 により, 復 熱 が 起 こり 液 相 線 温 度 まで 上 昇 する. その 後 温 度 降 下 に 伴 い, 共 晶 点 付 近 を 過 ぎても 延 長 した 液 相 線 に 沿 って b Sn は 成 長 を 続 ける.このときの b Sn の 界 面 付 近 は,0.9 C という 共 晶 の 過 冷 度 から 考 えると,わずか に 過 共 晶 組 成 であるが 大 部 分 は 共 晶 組 成 であるものと 考 えら れる. 新 たに 共 晶 Ag 3 Sn が 晶 出 するためには 過 冷 ( 駆 動 力 ) が 必 要 であり, 共 晶 点 以 下 まで 過 冷 が 進 むと, 今 度 は 共 晶 Ag 3 Sn の 核 生 成 に 伴 う 復 熱 が 起 こり, 共 晶 温 度 まで 上 昇 す る. 4.2.2 共 晶 組 成 の 凝 固 プロセス 共 晶 組 成 の 凝 固 プロセスを Fig. 16(b)の ~ に 示 す. まず, 共 晶 点 に 達 したとき,b Sn, 初 晶 Ag 3 Sn および 共 晶 のいずれも 晶 出 できる 条 件 になるが,さらに 冷 却 が 進 む
740 日 本 金 属 学 会 誌 (2009) 第 73 巻 Fig. 14 SEM images of solidified structure on the longitudinal cross section of Sn 7.5 mass Ag alloy of just after recalescence in the interrupted test. (a)lower magnification, (b) higher magnification. Fig. 16 A schematic view of relationship between temperature and solute content in the liquid near the solid interface. (a) hypo eutectic, (b) eutectic, (c) hyper eutectic. Fig. 15 Schematic drawing of instability of eutectic interface. (a) Dendrites formed from one Ag 3 Sn and eutectic Sn developed into dendrites. (b) Eutectic formed on primary Ag 3 Sn and eutectic Sn developed into dendrites. と, 比 較 的 小 さな 過 冷 度 で 晶 出 可 能 な Ag 3 Sn が 初 晶 的 に 晶 出 する. 初 晶 Ag 3 Sn は 冷 却 とともに 成 長 を 続 けるが,この ときの 液 相 組 成 は,わずかに 亜 共 晶 組 成 になっているものと 推 定 される. b Sn の 晶 出 に 伴 う 復 熱 が 起 こり, 共 晶 温 度 まで 上 昇 する.b Sn は Halo または 共 晶 として 晶 出 したた め, 液 相 濃 度 は 過 共 晶 組 成 である.また, 初 晶 Ag 3 Sn は 共 晶 Ag 3 Sn の 成 長 場 所 となるので, 速 やかに 共 晶 凝 固 が 始 まる.したがって, 共 晶 開 始 の Ag 3 Sn の 晶 出 のためには, 新 たに 過 冷 を 必 要 としなかったと 考 えられる. 4.2.3 過 共 晶 組 成 の 凝 固 プロセス 過 共 晶 組 成 の 凝 固 プロセスを Fig. 16(c)の ~ に 示 す. まず, 液 相 線 温 度 に 達 すると Ag 3 Sn の 晶 出 が 起 こるが, このとき 過 冷 復 熱 は 観 測 されない.そして,さらに 冷 却 が 進 むと Ag 3 Sn は 成 長 を 続 け, 初 晶 Ag 3 Sn 界 面 の 液 相 濃 度 は Fig. 16(c)の 直 線 のように 液 相 線 に 沿 って 変 化 する. 共 晶
第 9 号 凝 固 中 断 実 験 による Sn Ag 系 合 金 の 凝 固 過 程 の 解 析 741 温 度 以 下 まで 冷 却 されると,Ag 3 Sn は 延 長 した 液 相 線 に 沿 って 成 長 を 続 ける.Ag 3 Sn の 周 囲 には, 成 長 に 伴 い 排 出 さ れた Sn がパイルアップしている. b Sn の 晶 出 に 伴 う 復 熱 が 起 こり, 共 晶 温 度 まで 上 昇 する.このとき,b Sn は Halo または 共 晶 として 晶 出 しているので,マスバランスか ら b Sn の 界 面 の 液 相 組 成 は, 過 共 晶 組 成 になっているも のと 推 定 される.また, 初 晶 Ag 3 Sn は, 共 晶 凝 固 の 核 にな るため, 新 たな 過 冷 を 必 要 とすることなく 速 やかに 共 晶 凝 固 が 開 始 すると 考 えられる. 5. 結 言 熱 分 析 と 急 冷 凝 固 を 組 み 合 わせた 凝 固 中 断 実 験 法 を Sn Ag 合 金 に 適 用 し, 下 記 の 結 論 を 得 た. 過 共 晶 組 成 では, 初 晶 Ag 3 Sn 晶 出 時 に 過 冷 が 観 測 さ れなかったことから, 初 晶 Ag 3 Sn はファセット 相 である が,その 晶 出 は 比 較 的 容 易 であった. 過 共 晶 組 成 における 初 晶 Ag 3 Sn の 周 囲 には,Halo の b Sn および 共 晶 b Sn が 晶 出 した. 初 晶 Ag 3 Sn 上 では 容 易 に 共 晶 Ag 3 Sn が 成 長 する. 亜 共 晶 組 成 の 共 晶 凝 固 は,b Sn が 晶 出 した 後 に 起 こ り,b Sn の 核 生 成 には, 比 較 的 大 きな 過 冷 が 必 要 であっ た.しかし, 共 晶 組 成 および 過 共 晶 組 成 における 共 晶 凝 固 は, b Sn の 晶 出 にともなう 復 熱 と 同 時 に 始 まった. 文 献 1 ) T. Osawa: Handazukeno ohanashi, ( Nihonkikakukyokai, Tokyo, 2001) pp. 31 35. 2) M. Tanaka, S. Terashima and T. Sasaki: Materia Japan 48(2009) 138 140. 3) T. Abe: Nikkei Business (2007.10.15) 10. 4) K. Suganuma: Namari Free Handazukegijyutsu, (Kougyochosa Kai, Tokyo,2006) pp. 190 196. 5 ) Nihon Netusokutei Gakkai: Neturyosokutei Netubunseki Handbook, (Maruzen, Tokyo, 1998) pp. 37 39. 6) I. Tanasawa: Seisankenkyu 28(1976) 419 428. 7) Y. Miyauchi, H. Esaka, M. Tamura and K. Shinozuka: J. Japan Inst. Metals 72(2008) 804 811. 8) M. Tsuji, H. Esaka, M. Tamura and K. Shinozuka: Scientific and Engineering Reports of the National Defense Academy 39(2002) 183 188. 9) J. D. Verhoeven: Fundamentals of Physical Metallurgy, (John Wiley & Sons, Inc., New York, USA, 1975) pp. 264 268. 10) W. Kurz and D. J. Fisher: Fundamentals of Solidification, (Trans Tech Publications, Aedermannsdorf, Switzerland,1984) pp. 113 116. 11) B. B äottger, J. Eilen and I. Steinbach: Acta Mater. 54(2006) 2697 2704. 12) U. Hecht, S. G. Fries and S. Rex: Proc. the First International Symposium on Microgravity Research and Applications in Physical Sciences and Biotechnology, (2000) pp. 565 572.