東日本大震災の被災地における医療の復興状況 城西大学経営学部教授 元 埼玉県職員 伊 関 友 伸 東日本大震災の被災地3県において 岩手 宮城県は被災した病院の復旧も緩やか に進み 医師も増加傾向にある しかし 原発事故の影響を受けている福島県は 医 師不足が現在も深刻な状況にある 住民においては 外に出る機会が減少し コミュニケーションの機会が減少するこ となどを原因とする 生活不活発病 が問題となっている 生活不活発病 に対して の雇用が必要となり かえって地域の医療を崩壊させる可能性があるなどの批判が存 在する 1 復興の過程にある地域の医療機関 2011 平成 23 年 3 月 11 日 14 時 46 分ごろ 太平洋三陸沖を震源として発生した東日 本大震災は 住民の命を守る医療機関にも大きな影響を与えた 公立 公的病院だけを見 ても 岩手県では 岩手県立山田病院 60 床 岩手県立大槌病院 121 床 岩手県立高 田病院 136 床 などが津波の被害を受け 建物が使えない状況に追い込まれた 宮城県 では 気仙沼市立本吉病院 38 床 公立志津川病院 126 床 石巻市立病院 206 床 石巻市立雄勝病院 40 床 などが 津波の被害を受けて全壊した 福島県では 福島第 1 原子力発電所の事故により 福島県立大野病院 150 床 と南相馬市立小高病院 99 床 公的病院である福島県厚生連双葉厚生病院 260 床 が使用不能となっている 震災から 3 年を経過し 被災した医療機関は復興の過程にある 例えば 津波により被 災した岩手県立山田 大槌 高田病院は 現在 仮診療所が設置されているが 岩手県医 療局は 2013 年 3 月に県立大槌 山田病院 同年 8 月に高田病院の再建方針を示した 方 針は 被災病院が立地する地域は いずれも高齢化率が高く 高齢者を中心とした地域 医療を提供する必要があることから 引き続き一定程度の病床を確保すること 地域病 院の深刻な医師不足の中で 医師への過重な負担を少しでも軽減する必要があり 県立病 院間はもとより 他の医療機関や介護施設等との適切な役割分担と連携の下 良質な医療 都市とガバナンス Vol 21 33 震災から3年 は 医療者だけでなく 様々な関係者が協力をして問題解決に取り組むことが必要となる 現在 東北地方に医学部の新設が検討されているが 医大の新設により新たな教員 基礎自治体 広域自治体 国のあり方 東日本大震災の被災地における医療の復興状況
基 礎 自 治 体 広 域 自 治 体 国 のあり 方 ~ 震 災 から 3 年 ~ を 提 供 していく とし 県 立 山 田 病 院 大 槌 病 院 については 2016( 平 成 28) 年 度 の 開 院 を 目 標 に 1 病 棟 一 般 病 床 で 50 床 程 度 を 整 備 する 診 療 科 は 内 科 と 外 科 を 中 心 に これ までの 外 科 診 療 を 維 持 する 救 急 機 能 は 診 療 時 間 内 の 一 時 救 急 を 基 本 とし 時 間 外 は 地 域 の 拠 点 病 院 である 県 立 宮 古 釜 石 病 院 で 対 応 するとしている 県 立 高 田 病 院 も 病 床 数 を 50 60 床 開 院 が 2017( 平 成 29) 年 度 とする 以 外 は 県 立 山 田 大 槌 病 院 の 同 様 の 方 針 で 再 建 するとしている 1 2004 年 の 新 医 師 臨 床 研 修 制 度 の 導 入 後 常 勤 医 不 足 に 苦 しんでいた 地 域 の 医 療 機 能 も 回 復 しつつある 岩 手 県 の 場 合 地 域 の 拠 点 病 院 である 県 立 久 慈 宮 古 釜 石 大 船 渡 病 院 は 高 台 にあり 津 波 の 被 害 を 免 れた 2 病 院 機 能 が 維 持 されたことにより 震 災 後 に 医 師 が 県 外 に 退 出 することはなかった 病 院 の 中 には 震 災 後 に 大 幅 に 常 勤 医 師 数 を 回 復 して いる 病 院 もある 県 立 宮 古 病 院 は 2000 年 度 には 50 名 在 籍 していた 医 師 が 2010 年 度 に は 27 名 まで 減 少 し 医 療 継 続 の 危 機 に 直 面 していたが 震 災 直 後 に 着 任 した 佐 藤 元 昭 院 長 を 中 心 に 積 極 的 な 医 師 招 へい 活 動 を 展 開 全 国 に 医 師 募 集 を 発 信 したり 岩 手 医 科 大 か ら 医 師 派 遣 を 受 けた 結 果 2013 年 度 の 常 勤 医 師 数 は 37 名 まで 回 復 している 3 特 に 2007 年 以 降 医 師 が 不 在 となり 病 院 の 最 大 の 弱 点 であった 循 環 器 科 の 医 師 が 5 名 勤 務 するなど 診 療 体 制 も 充 実 しつつある 4 県 立 宮 古 病 院 にとって 現 在 も 医 師 数 は 決 して 十 分 であると は 言 えないが 地 域 の 中 核 病 院 としての 機 能 を 取 り 戻 しつつある 宮 城 県 においても 石 巻 市 では 東 北 最 大 の 仮 設 住 宅 のある 開 成 南 境 仮 設 住 宅 群 に 石 巻 市 立 病 院 開 成 仮 診 療 所 5 が 設 置 されているが 2016 年 を 目 標 に 新 しい 石 巻 市 立 病 院 の 再 建 が 計 画 されている 6 市 立 病 院 が 全 壊 した 石 巻 市 雄 勝 町 では 2011 年 10 月 に 雄 勝 診 療 所 が 開 設 され 無 医 地 区 が 解 消 されている 7 また 南 三 陸 町 では 被 災 後 外 来 機 能 を 公 立 南 三 陸 診 療 所 入 院 機 能 を 隣 の 自 治 体 である 登 米 市 の 旧 よねやま 病 院 の 病 床 を 借 りて 運 営 していたが 2015 年 度 開 院 を 目 指 して 新 たに 総 合 ケアセンターを 併 設 した 病 床 数 90 床 の 新 病 院 の 建 設 が 計 画 されている 8 医 師 の 派 遣 については 東 北 大 学 医 学 部 と 岩 手 医 科 大 学 が 中 心 となり 東 北 メディカル メガバンク 計 画 9 10 が 進 められており 宮 城 県 岩 手 県 において 大 規 模 ゲノムコーホート 研 究 1 岩 手 県 病 院 局 被 災 した 県 立 高 田 病 院 の 再 建 方 針 について 2 県 立 釜 石 病 院 は 耐 震 化 の 問 題 で 震 災 直 後 に 病 棟 が 使 用 不 可 能 になったが 耐 震 補 強 工 事 により 医 療 機 能 を 回 復 してい る 3 岩 手 日 報 2013 年 8 月 27 日 佐 藤 院 長 先 頭 に 医 師 不 足 から 増 員 傾 向 へ 県 立 宮 古 病 院 4 循 環 器 科 の 医 師 不 在 の 時 期 は 急 性 心 筋 梗 塞 や 狭 心 症 などで 心 臓 カテーテル 治 療 が 必 要 な 患 者 は 盛 岡 市 内 の 病 院 に 転 送 せざるを 得 なかった 2010 年 には 病 院 は 窮 状 につけこんだニセ 医 師 の 詐 欺 にあう 被 害 を 受 けた 現 在 は 夜 間 などでも 緊 急 時 にカテーテル 治 療 を 行 うことが 可 能 となっている 5 開 成 仮 診 療 所 では 長 野 県 佐 久 総 合 病 院 に 勤 務 していた 長 純 一 医 師 が 勤 務 し 仮 設 住 宅 に 住 む 住 民 向 けの 在 宅 医 療 や プライマリ ケアを 実 践 し マスコミなどでも 紹 介 されている 長 純 一 震 災 地 で 地 域 医 療 が 果 たす 役 割 治 療 2014 年 1 月 号 南 山 堂 2014 年 87 91 頁 6 石 巻 市 石 巻 市 立 病 院 復 興 基 本 計 画 7 2011 年 10 月 6 日 三 陸 河 北 新 報 社 雄 勝 町 に 待 望 の 診 療 所 無 医 地 区 解 消 喜 び 合 う 地 域 代 表 ら 迎 え 開 所 式 8 南 三 陸 町 南 三 陸 町 病 院 建 設 基 本 計 画 34 都 市 とガバナンス Vol.21
東 日 本 大 震 災 の 被 災 地 における 医 療 の 復 興 状 況 を 行 うと 共 に 医 療 過 疎 地 域 に 医 師 の 派 遣 が 行 われている 2013 年 4 月 現 在 の 宮 城 県 内 へ の 派 遣 グループ 数 は 7 医 療 機 関 に 対 して 9 グループ 11 に 及 んでいる また 2013 年 度 から 気 仙 沼 市 立 本 吉 病 院 と 石 巻 市 立 病 院 開 成 仮 診 療 所 においてプライマリ ケア 連 合 学 会 認 定 の 後 期 研 修 プログラム 12 が 立 ち 上 がっている 徐 々にではあるが 復 興 の 歩 みを 進 めている 岩 手 宮 城 県 に 対 して 福 島 第 一 原 子 力 発 電 所 の 事 故 の 影 響 を 受 けた 福 島 県 の 地 域 医 療 の 復 興 は より 厳 しい 状 況 にある 図 被 災 地 3 県 の 公 立 病 院 常 勤 医 師 数 の 推 移 ( 地 方 独 立 行 政 法 人 含 む) 図 は 被 災 地 3 県 における 公 立 病 院 の 常 勤 医 師 数 の 推 移 である 震 災 前 から 福 島 県 の 医 師 数 の 減 少 の 幅 が 大 きく 震 災 後 の 2011 2012 年 度 も 他 県 の 医 師 が 増 加 傾 向 にあるのに 対 して 医 師 が 減 少 傾 向 にあることが 分 かる 実 際 の 現 場 も 相 当 数 の 病 院 が 医 師 不 足 に 苦 しんでいる 看 護 師 などの 医 療 人 材 も 深 刻 で 少 ない 医 療 職 員 数 に 対 して 多 くの 患 者 が 殺 到 し 医 療 崩 壊 の 危 機 に 直 面 している 病 院 もある しかし 福 島 県 内 の 多 くの 病 院 が 医 師 不 足 に 苦 しむ 中 で 医 師 数 が 大 幅 に 増 加 した 病 院 もある 南 相 馬 市 立 総 合 病 院 (230 床 )は 震 災 前 13 人 いた 医 師 が 原 発 事 故 による 職 員 9 東 北 大 学 東 北 メディカル メガバンク 機 構 機 構 長 山 本 雅 之 東 北 大 学 東 北 メディカル メガバンク 計 画 の 進 捗 状 況 に ついて 2013 年 8 月 12 日 10 15 万 人 規 模 のバイオバンクを 構 築 し ゲノム 情 報 と 解 析 結 果 を 比 較 することで 薬 の 副 作 用 の 低 減 や 将 来 なりやすい 病 気 の 予 測 などの 東 北 発 の 次 世 代 医 療 を 実 現 することを 目 指 す 11 岩 手 県 内 は4 医 療 機 関 4グループを 派 遣 12 気 仙 沼 市 立 本 吉 病 院 家 庭 医 療 専 門 医 コース( 東 北 大 学 連 携 プログラム) 石 巻 市 立 病 院 開 成 仮 診 療 所 被 災 地 で 家 庭 医 を 育 てる 都 市 とガバナンス Vol.21 35
基 礎 自 治 体 広 域 自 治 体 国 のあり 方 ~ 震 災 から 3 年 ~ の 自 主 避 難 により 4 人 にまで 減 ったが 放 射 能 の 影 響 も 落 ち 着 いてくる 中 で 外 部 から 若 手 医 師 たちが 応 援 に 入 ってくる ホールボディカウンター(WBC)による 住 民 の 内 部 被 曝 調 査 子 どもの 尿 中 セシウム 検 査 や 総 合 診 療 科 の 新 設 による 訪 問 診 療 や 予 防 医 療 の 取 組 みなど 活 発 に 活 動 を 展 開 する 活 動 の 成 果 は 国 際 的 な 医 学 専 門 誌 に 投 稿 され 掲 載 された 若 い 医 師 たちの 活 動 が 全 国 に 情 報 発 信 されたことや 福 島 県 立 医 大 亀 田 総 合 病 院 の 支 援 もあり 南 相 馬 市 立 総 合 病 院 は 医 師 の 集 まる 病 院 となり 2013 年 9 月 の 常 勤 医 師 は 21 名 に 達 している 2012 年 8 月 には 震 災 前 は 指 定 を 受 けていなかった 基 幹 型 臨 床 研 修 病 院 の 指 定 を 協 力 型 臨 床 研 修 病 院 ( 亀 田 総 合 病 院 )からの 全 面 的 な 支 援 が 得 られる ことなどを 条 件 として 受 け 2013 年 4 月 からは 2 名 の 医 師 が 初 期 研 修 を 行 うなど 教 育 活 動 も 積 極 的 に 行 われている 13 また 4 月 の 経 営 統 合 直 前 に 原 発 事 故 に 直 面 し 病 院 が 帰 還 困 難 区 域 に 設 定 された 県 立 大 野 病 院 と JA 双 葉 厚 生 病 院 は 当 面 の 代 替 施 設 として 双 葉 郡 内 の 低 線 量 地 域 に 新 たな 医 療 施 設 を 整 備 する 方 向 で 検 討 に 入 るという 動 きも 出 ている 14 2 広 がる 生 活 不 活 発 病 と 保 健 医 療 福 祉 の 連 携 の 必 要 性 医 療 機 関 は 次 第 に 再 建 されつつあるが そもそも 被 災 地 は 地 理 的 条 件 が 悪 く 医 師 不 足 に 苦 しんでいた 地 域 である 15 さらに 福 祉 施 設 も 被 災 しており 今 後 も 絶 対 的 に 医 療 福 祉 資 源 が 少 ない 状 況 は 変 わらない 効 率 的 に 医 療 福 祉 資 源 を 使 うことが 必 要 となる 現 在 被 災 地 の 仮 設 住 宅 等 に 住 む 住 民 の 間 で 問 題 となっているのが 生 活 不 活 発 病 の 問 題 である 被 災 後 に 高 齢 者 が 多 く 地 域 に 残 る 中 で 住 民 に 高 血 圧 高 脂 血 症 糖 尿 病 などの 生 活 習 慣 病 うつ アルコール 依 存 症 などの 精 神 症 状 などの 生 活 不 活 発 病 が 増 えている 16 震 災 により 家 や 庭 畑 を 失 い 外 に 出 る 機 会 が 減 少 する 地 域 の 集 まりなど 住 民 間 のコミュニケーションもなくなる 行 政 が 仮 設 住 宅 に 入 居 する 時 に 公 平 性 を 保 つ ためにくじ 引 きで 仮 設 住 宅 に 入 る 順 番 を 決 めることが 多 かったことは 従 来 のコミュニ ティを 壊 し 住 民 の 孤 立 を 加 速 させた このような 医 療 福 祉 資 源 が 不 足 し 住 民 の 孤 立 による 生 活 不 活 発 病 が 発 生 している 状 況 においては 医 療 だけで 問 題 を 解 決 しようとしても 無 理 がある 医 師 だけでなく 保 健 師 看 護 師 臨 床 心 理 士 精 神 保 健 福 祉 士 などの 専 門 職 が 地 域 NPO 企 業 行 政 など 様 々 な 関 係 者 と 協 力 をして 住 民 の 健 康 問 題 の 解 決 に 取 り 組 むことが 求 められる できるだけ 病 13 東 日 本 大 震 災 と 地 域 医 療 の 再 生 公 営 企 業 44(7) 地 方 財 務 協 会 2012 年 13 22 頁 14 福 島 民 報 2013 年 8 月 31 日 双 葉 郡 に 新 医 療 施 設 県 立 大 野 双 葉 厚 生 病 院 の 代 替 検 討 へ 15 2 次 医 療 圏 別 人 口 千 人 当 たり 医 療 施 設 従 事 医 師 数 は 全 国 平 均 の2.1 人 に 対 し 気 仙 1.2 釜 石 1.3 宮 古 1.1 久 慈 1.1 石 巻 1.4 気 仙 沼 1.1 相 双 1.1 いわき1.6( 日 医 総 研 二 次 医 療 圏 別 に 見 た 医 師 不 足 と 医 師 偏 在 (2008 年 版 ) ) 16 m3.com 医 療 維 新 復 興 五 段 階 の 三 段 階 まで 進 展 小 川 彰 岩 手 医 科 大 学 学 長 に 聞 く vol.1 避 難 住 民 の 不 安 軽 減 と 健 康 管 理 全 般 に 対 応 する よろず 健 康 相 談 を 発 案 国 立 病 院 機 構 災 害 医 療 センター 臨 床 研 究 部 小 早 川 義 貴 医 師 DtoD 12 号 総 合 メディカル 株 式 会 社 2013 年 36 都 市 とガバナンス Vol.21
東 日 本 大 震 災 の 被 災 地 における 医 療 の 復 興 状 況 気 を 防 ぐ 疾 病 だけでなく 生 活 の 中 にある 課 題 そのものについて 解 決 をすることが 重 要 と なる 問 題 解 決 においては 住 民 の 立 場 に 立 ち 丁 寧 なコミュニケーションを 取 ることが 必 要 となる 筆 者 は 被 災 地 の 医 療 福 祉 資 源 が 少 なく 地 域 コミュニティが 断 絶 した 姿 は 将 来 の わが 国 の 高 齢 化 の 先 取 りをしていると 考 えている これから 日 本 は 都 市 部 を 中 心 に 急 激 な 高 齢 化 を 迎 えることになる 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 の 日 本 の 都 道 府 県 別 将 来 推 計 人 口 ( 平 成 25 年 3 月 推 計 ) によると 2040 年 の 東 京 神 奈 川 埼 玉 千 葉 の 一 都 三 県 の 75 歳 以 上 の 高 齢 者 数 602 万 人 で 2010 年 の 推 計 人 口 から 284 万 人 も 増 加 する 急 激 な 高 齢 者 人 口 の 増 加 により 救 急 や 入 院 のための 病 床 や 医 療 従 事 者 が 不 足 することは 確 実 である 混 乱 による 社 会 不 安 も 起 きる 可 能 性 が 高 い 現 在 行 われている 被 災 地 の 地 域 医 療 再 生 は 将 来 の 都 市 部 の 高 齢 化 による 医 療 危 機 への 対 応 に 参 考 となる さらに 言 うならば 日 本 の 高 齢 化 の 先 は 世 界 の 高 齢 化 がある 世 界 各 国 で 日 本 の 高 齢 化 を 追 いかけて 高 齢 化 が 進 む 被 災 地 は 世 界 の 高 齢 化 政 策 の 最 先 端 を 走 っているとも 言 える 3 医 学 部 新 設 問 題 2013 年 10 月 4 日 安 倍 晋 三 総 理 は 復 興 支 援 策 として 東 北 地 方 への 医 学 部 新 設 を 検 討 す るよう 下 村 博 文 文 部 科 学 相 に 指 示 を 行 った 村 井 嘉 浩 宮 城 県 知 事 が 首 相 官 邸 を 訪 れ 被 災 地 医 療 を 支 える 人 材 養 成 のために 必 要 だ と 要 請 したことに 応 えたものであった 17 同 年 11 月 29 日 安 倍 総 理 の 指 示 を 受 けて 下 村 文 科 相 は 特 別 措 置 として 2015 年 春 に 東 北 地 方 に 医 学 部 を 新 設 する 方 針 を 表 明 する 医 学 部 の 新 設 は 1979 年 の 琉 球 大 学 医 学 部 を 最 後 に 認 められていなかった 入 学 定 員 や 奨 学 金 に 地 域 枠 を 設 け 相 当 数 の 卒 業 生 が 東 北 地 方 にとどまることを 想 定 している 18 同 年 10 月 18 日 安 倍 総 理 を 本 部 長 とする 日 本 経 済 再 生 本 部 が 決 定 した 国 家 戦 略 特 区 における 規 制 改 革 事 項 等 の 検 討 方 針 においても 医 学 部 の 新 設 に 関 する 検 討 が 盛 り 込 まれている 東 北 地 方 における 医 学 部 新 設 を 契 機 に 全 国 で 医 学 部 新 設 が 相 次 ぐ 可 能 性 が 存 在 する 一 方 医 学 部 の 新 設 に 対 して 日 本 医 師 会 全 国 医 学 部 長 病 院 長 会 議 国 立 大 学 医 学 部 長 会 議 全 国 自 治 体 病 院 協 議 会 は 東 北 地 域 を 含 め 医 学 部 新 設 について 慎 重 な 対 応 を 求 め ている 同 年 9 月 26 日 に 全 国 医 学 部 部 長 病 院 長 会 議 は 国 家 戦 略 特 区 における 規 制 緩 19 和 の 一 つに 医 学 部 新 設 が 盛 り 込 まれたことについて 要 望 書 を 公 表 し 深 い 憂 慮 を 表 17 朝 日 新 聞 2013 年 10 月 5 日 東 北 に 医 学 部 新 設 検 討 を 首 相 が 指 示 18 朝 日 新 聞 2013 年 11 月 29 日 東 北 に 医 学 部 2015 年 春 開 学 へ 36 年 ぶり1 校 新 設 19 全 国 医 学 部 長 病 院 長 会 議 医 学 部 ( 医 科 大 学 ) 新 設 について 慎 重 な 対 応 を 求 める 要 望 書 都 市 とガバナンス Vol.21 37
基 礎 自 治 体 広 域 自 治 体 国 のあり 方 ~ 震 災 から 3 年 ~ 明 している 要 望 書 では 医 学 教 育 では 医 学 生 1 名 に 臨 床 教 員 1 名 が 必 要 であり 一 つ の 医 大 の 新 設 で 約 300 500 名 の 教 員 となる 医 師 が 必 要 となること 教 員 の 雇 用 のために 病 院 勤 務 医 を 教 育 教 員 に 振 り 替 える 必 要 が 生 じ 病 院 勤 務 の 医 師 不 足 を 加 速 させ 医 師 不 足 地 域 の 医 療 を 崩 壊 させる 危 険 性 があること 全 国 の 国 公 私 立 大 学 の 医 学 部 (80 校 )では 2008( 平 成 20) 年 度 から 医 学 部 の 定 員 増 が 図 られ 2013 年 度 までの 6 年 間 で 1,416 名 (1.19 倍 )が 増 員 されており この 数 は 約 14 大 学 が 新 設 されたのと 同 じであること 特 に 被 災 3 県 の 3 大 学 ( 福 島 県 立 医 科 大 学 東 北 大 学 岩 手 医 科 大 学 )では 従 来 の 定 員 の 52% 増 の 135 名 が 増 員 されており 1.5 校 分 の 医 学 部 の 新 設 を 行 ったのと 同 じであること 医 学 部 定 員 増 では 地 域 枠 入 学 制 度 が 整 備 され 医 師 不 足 県 である 岩 手 県 でも 地 域 枠 卒 業 生 が 県 内 医 療 を 担 うようになれば 7 年 後 の 2020 年 には 厚 生 労 働 省 の 必 要 医 師 数 を 充 足 することにな ること 医 学 部 定 員 増 に 伴 って 各 学 年 の 留 年 率 が 有 意 に 増 加 しており 医 学 部 定 員 増 によ る 更 なる 定 員 増 は 医 師 の 知 識 技 能 低 下 などを 招 き 国 民 の 求 める 有 能 な 医 師 像 とかけ 離 れる 危 険 性 があること 医 師 不 足 対 策 で 最 も 重 要 なことは 医 師 の 地 域 偏 在 診 療 科 間 偏 在 解 消 であり 実 効 ある 偏 在 解 消 政 策 の 実 施 が 必 要 であることを 指 摘 する さらに 9 月 30 日 には 全 国 医 学 部 長 病 院 長 会 議 は 国 家 戦 略 特 区 での 医 学 部 新 設 に 反 対 する というメッセージを 発 表 する メッセージでは 国 家 戦 略 特 区 における 経 済 成 長 のために 医 学 教 育 を 行 う という 考 え 方 を 批 判 し 現 在 国 民 が 必 要 としているのは 医 療 崩 壊 の 主 たる 原 因 である 地 域 における 医 師 不 足 医 師 偏 在 の 解 決 であり この 問 題 は 既 に 地 域 枠 などの 既 設 大 学 の 医 学 部 入 学 定 員 の 増 加 によって 解 決 しつつあり 現 在 必 要 な ことは これら 増 加 した 学 生 の 質 を 高 めるための 教 育 施 設 設 備 さらにはスタッフの 充 実 である と 指 摘 する 日 本 医 師 会 も 9 月 25 日 の 定 例 記 者 会 見 において 全 国 医 学 部 部 長 病 院 長 会 議 と 同 様 の 懸 念 を 示 している 20 被 災 3 県 の 医 療 復 興 にはあらゆる 手 段 を 尽 くして 取 り 組 むべきとして 被 災 3 県 の 医 学 部 は 入 学 定 員 増 のほか 医 師 の 教 育 派 遣 を 通 じた 地 域 医 療 支 援 に 取 り 組 もうとしており このような 動 きを 国 として 強 力 に 支 援 すべきと 主 張 する 具 体 的 には 3 県 に 設 置 されている 地 域 医 療 支 援 センター 21 の 機 能 強 化 のほか 1 政 治 主 導 で 被 災 地 の 医 学 部 に 医 療 復 興 講 座 を 設 置 するなどにより 大 学 医 学 部 における 役 職 身 分 を 保 障 し キャリアアップにつなげること 2 国 が 通 常 の 外 数 で 運 営 費 交 付 金 ( 私 学 助 成 金 )を 全 額 措 置 すること 3 国 がその 講 座 の 医 師 の 採 用 を 全 面 的 に 支 援 することなどを 提 言 している 確 かに 東 北 地 方 の 医 師 数 は 全 国 的 に 見 ても 少 ない 状 況 にある また 宮 城 県 の 場 合 人 口 と 経 済 の 規 模 に 対 して 医 科 大 学 が 東 北 大 学 医 学 部 1 校 しかなく 東 北 大 学 医 学 部 は 世 20 2013 年 9 月 25 日 日 本 医 師 会 定 例 記 者 会 見 資 料 医 学 部 新 設 について 21 厚 生 労 働 省 のモデル 事 業 として 医 師 の 地 域 偏 在 の 解 消 に 取 り 組 むコントロールタワーとして 実 働 医 師 を 配 置 して 地 域 に 派 遣 する 組 織 38 都 市 とガバナンス Vol.21
東 日 本 大 震 災 の 被 災 地 における 医 療 の 復 興 状 況 界 レベルの 研 究 を 行 う 大 学 であり 東 北 地 方 全 体 に 医 師 を 派 遣 しているため 宮 城 県 内 の 病 院 に 医 師 を 十 分 に 派 遣 できない 面 がある 実 際 宮 城 県 内 でも 交 通 の 便 の 悪 い 中 小 の 病 院 の 医 師 不 足 は 深 刻 である 新 しい 医 大 設 置 に 対 して 東 北 地 方 の 地 方 自 治 体 の 温 度 差 が ある 中 で 宮 城 県 が 医 大 の 新 設 を 推 進 することも 無 理 がない 面 がある 22 東 北 地 方 に 医 学 部 を 新 設 する 場 合 は 東 北 地 方 の 既 存 の 医 学 部 と 適 切 に 連 携 を 図 ること 勤 務 医 の 引 き 抜 きが 起 きないように 慎 重 に 教 員 任 用 を 行 うこと 医 師 養 成 の 目 的 を 立 地 条 件 の 悪 い 地 方 に 勤 務 する 医 師 の 養 成 急 激 に 進 む 高 齢 化 に 対 応 するため 総 合 診 療 科 の 医 師 の 養 成 を 第 一 とすることが 必 要 であると 考 える そして 医 学 部 新 設 の 議 論 をする 際 に 思 い 出 すべきは 小 泉 内 閣 時 代 の 医 療 構 造 改 革 で ある 日 本 医 師 会 や 大 学 医 局 を 既 得 権 者 として 悪 者 にして 改 革 を 進 めた 結 果 起 きたのが 医 療 崩 壊 であった インターネット 上 に 書 かれた 表 現 であるが 正 義 の 反 対 は 悪 ではなく もう 一 つの 正 義 である 相 手 を 悪 魔 化 して 一 方 的 に 押 し 切 ることは 後 で 問 題 を 起 こすことが 多 い 医 学 部 新 設 については 地 域 に 必 要 な 医 師 が 勤 務 するという 視 点 を 第 一 に 考 えるべきで ある 医 学 部 新 設 による 経 済 成 長 という 視 点 は 医 療 費 の 増 大 や 医 師 の 都 市 偏 在 を 加 速 さ せるなどマイナスの 問 題 をはらむものであることに 注 意 すべきである 重 要 なことは 医 療 現 場 の 意 見 に 耳 を 傾 けることである その 上 で できるだけトラブルが 起 きないように 漸 進 的 に 変 革 を 進 めていくことが 必 要 と 考 える 4 共 感 を 広 げることの 重 要 性 筆 者 は 日 ごろ 地 域 医 療 問 題 の 解 決 における 共 感 の 重 要 性 について 訴 えている 医 療 は 人 が 人 に 対 して 行 うサービスである 現 場 で 医 療 を 行 う 医 療 者 がやる 気 を 持 って 仕 事 ができるようにしなければ 良 い 医 療 は 実 現 できない 意 見 対 立 の 中 で とにかく 権 力 で 意 思 を 決 定 し 人 に 強 制 すれば 良 いという 考 えもある しかし それは どこか に 矛 盾 としわ 寄 せが 起 きる 可 能 性 が 高 い 関 係 者 に 共 感 がある 方 が 積 極 的 な 行 動 を 期 待 できるし 強 制 による 反 発 が 強 すぎると 人 々の 前 向 きな 行 動 は 期 待 できない 地 域 に 関 わるすべての 関 係 者 が 地 域 医 療 についてよく 学 び コミュニケーションを 円 滑 に して 再 生 に 取 り 組 み 共 感 を 広 げることが 重 要 である 当 然 物 事 を 進 めると 意 見 が 対 立 することがある しかし 地 域 の 医 療 の 将 来 を 考 え 現 場 の 意 見 を 聴 きながら 行 うべきことを 徹 底 的 に 議 論 すれば 答 えは 出 てくるものと 考 える 現 状 の 厳 しさを 踏 まえた リアルであるが 希 望 のある 問 題 解 決 に 共 感 は 生 まれ ると 考 える 22 m3.com 医 療 維 新 医 学 部 新 設 安 倍 総 理 の 理 解 で 実 現 村 井 嘉 浩 宮 城 県 知 事 に 聞 く Vol.1 都 市 とガバナンス Vol.21 39