日 本 人 は 幸 福 か ~ 幸 福 度 先 進 国 との 比 較 と 日 本 人 の 幸 福 感 について~ 群 馬 県 立 前 橋 女 子 高 等 学 校 2 年 吉 川 綾 乃
Ⅰ はじめに 日 本 人 は 幸 福 か 高 校 生 の 私 にとって 非 常 に 大 きなテーマである 幸 福 かどうか というのは 非 常 に 個 人 的 な 感 覚 であり 年 齢 も 性 別 も 環 境 も 異 なる1 億 2000 万 人 には それぞれの 幸 福 感 がある 裕 福 な 生 活 をし 不 自 由 なく 毎 日 を 暮 らす 人 が 必 ずしも 幸 福 とは 限 らないだろうし はたから 見 れば 苦 しい 状 況 にあっても 幸 せを 感 じ 取 れる 人 もいるだろう 私 個 人 ではなく 日 本 人 は 幸 福 か という 問 いに 対 して 答 えを 出 すことは 容 易 ではない しかし 平 成 23 年 3 月 11 日 の 東 日 本 大 震 災 発 生 以 来 漠 然 と 幸 福 とは 一 体 何 だ ろう と 考 えることが 多 くなった 中 学 校 卒 業 の 日 に 起 きた 大 災 害 は 多 くの 人 々の 命 と 平 穏 な 生 活 を 奪 ったが 私 に 今 生 きていることや あたりまえの 日 常 を 送 れるこ とへの 感 謝 の 気 持 ちを 強 くさせた 想 像 を 絶 する 状 況 の 中 にあっても 前 向 きに 生 きる 人 々の 姿 や 被 災 地 の 人 々に 思 いを 馳 せる 日 本 人 の 行 動 に 日 本 人 の 中 に 新 しい 幸 福 感 ができつつあるように 感 じた そこで 私 は この 大 きなテーマを 選 択 し 考 えてみる ことにした 幸 福 感 や 幸 福 度 について 調 べていくうちに 大 変 驚 いたことは 私 が 感 覚 的 で 漠 然 としたものと 思 っていた 幸 福 というものを 様 々な 国 や 国 際 的 な 研 究 機 関 が 指 標 を 使 いながら 数 値 化 し より 満 足 度 の 高 い 社 会 を 作 ろうと 取 り 組 んでいること であった 幸 福 度 が 高 いといわれる 国 々と 比 較 する 中 で 日 本 人 の 幸 福 について 考 えて いきたいと 思 う Ⅱ 幸 福 度 指 数 について 2012 年 4 月 4 日 国 際 連 合 がブータンで 幸 福 度 研 究 討 論 会 を 開 催 し 世 界 156 カ 国 の 幸 福 度 指 数 を 示 した 健 康 や 生 活 水 準 社 会 精 神 衛 生 政 治 的 自 由 などの 観 点 から 評 価 され 1 位 がデンマーク 2 位 がフィンランド 3 位 がノルウェー 4 位 がオランダ 5 位 がカナダという 結 果 になった アメリカは 11 位 アジアではシンガポールが 日 本 を 上 回 って 33 位 日 本 が 44 位 であった 国 内 総 生 産 (GDP)の 高 い アメリカや 日 本 は 上 位 には 入 ることができなかった 1 位 のデンマークの GDP と 比 較 しても 日 本 の GDP はデンマークの 約 17 倍 アメリカは 約 46 倍 と 大 きな 差 がある それにもかかわらず 幸 福 度 指 数 はこの2カ 国 を 上 回 ってお り 経 済 的 に 豊 かでも 幸 福 とは 限 らないとことを 示 している 国 別 の 幸 福 度 を 示 す 調 査 は OECDや 民 間 調 査 機 関 なども 行 っているが どれも 同 様 に 日 本 の 順 位 は 高 くなく 40~80 位 程 度 にとどまっている 経 済 的 には 恵 まれながら 自 分 は 幸 せだ と 考 える 日 本 人 が 尐 ないということもよく 耳 にする 日 本 と 幸 福 度 指 数 の 高 い 国 々との 差 を 生 み 出 しているものは 何 なのだろうか
Ⅲ 幸 福 度 指 数 上 位 国 との 比 較 幸 福 度 指 数 は 貧 困 状 況 平 均 寿 命 などの 健 康 状 態 雇 用 住 環 境 などから 算 出 され ているが 幸 福 度 指 数 の 高 い 国 と 日 本 の 違 いはどのような 点 なのだろうか 日 本 の 幸 福 度 を 高 めるために 必 要 なことは 何 か 幸 福 度 指 数 上 位 5 カ 国 と 日 本 の 社 会 との 違 いに 注 目 し (1) 税 金 と(2) 教 育 という2つの 面 から 考 えてみた (1) 税 金 世 界 的 に 幸 福 だと 言 われている 国 を 見 ると 税 金 が 高 く サービスが 充 実 してい ることが 挙 げられる 現 在 の 日 本 の 消 費 税 率 は 5% ここ 最 近 は 高 齢 化 が 進 む 日 本 の 将 来 を 懸 念 し 消 費 税 率 を 10%に 引 き 上 げようとする 動 きも 見 られる これに 比 べ 今 回 注 目 する 国 はどうだろうか デンマークは 消 費 税 率 が 25% フィンランドは 22% ノルウェーは 24% オランダは 19% カナダは 州 によって 異 なるが 5~18%である やはり 日 本 の 消 費 税 率 はたとえ 10%に 引 き 上 げたとしても 他 国 には 届 かない 消 費 税 をはじめ 税 率 が 高 い 国 々はその 分 集 めた 税 金 を 公 共 サービスなどにあて ている 特 にデンマークは 出 産 費 用 から 教 育 費 そして 葬 式 費 まで 国 が 負 担 してい る 日 本 では 到 底 考 えることはできないようなサービスが 実 際 に 提 供 されている 消 費 税 は 高 いながら このような 国 では 生 活 に 最 低 限 必 要 な 食 料 などにかかる 税 率 は 低 くなっている 食 料 品 などの 税 金 はフィンランドでは 17% ノルウェーでは 12% オランダでは 6%となっている このような 国 々を 見 ると 日 本 の 消 費 税 率 5% または 検 討 されている10%が 果 たして 適 切 なものなのか 考 えさせられる 確 かに 消 費 税 率 のアップは 所 得 が 低 い 人 々にとっては 生 活 を 大 変 厳 しくするものであり 増 税 することで 景 気 が 悪 くなっ てしまったり そのほかの 税 金 の 納 税 が 滞 ってしまったりすることもある しかし 税 収 入 が 増 えることで 国 は 国 民 のためにより 質 のよいサービスを 提 供 することがで きるようになる 短 期 的 にみると 増 税 は 幸 福 感 を 減 尐 させるかもしれないが 課 税 する 対 象 により 税 率 を 変 えるなど 日 本 も 生 活 への 影 響 を 配 慮 しながら 税 の 仕 組 みを 見 直 すことが 長 期 的 には 日 本 の 幸 福 度 を 上 げることになるのではないだ ろうか 医 療 技 術 の 進 歩 が 進 み 平 均 寿 命 が 延 びたことは 喜 ばしい 反 面 高 齢 化 と いう 課 題 に 直 面 している まだ10 代 である 私 だが 医 療 費 のことを 考 え 治 療 を 受 けることを 躊 躇 してしまうような 世 の 中 ではなく 長 寿 を 心 から 喜 べる 日 本 であっ てほしいと 思 う (2) 教 育 内 戦 や 貧 困 で 苦 しむ 国 々では 十 分 な 教 育 を 受 けることができない そのために
必 要 な 情 報 を 得 たり 職 業 に 就 くことができずに 厳 しい 生 活 を 余 儀 なくされてい る 教 育 を 受 けることが 当 たり 前 の 先 進 国 では 忘 れがちであるが やはり 教 育 は 幸 福 度 に 直 結 する 要 因 だ 途 上 国 ばかりでなく 幸 福 度 上 位 に 位 置 する 国 を 見 ると 総 じて 学 力 も 非 常 に 高 い 日 本 と 同 じように 中 学 校 までを 義 務 教 育 とし 小 学 校 から 大 学 まで 教 育 を 受 ける 年 数 にほとんど 変 わりはないにもかかわらず 国 際 的 な 学 力 の 比 較 では フィンランドやノルウェーなどは 日 本 より 常 に 高 いレベルにある 現 在 高 校 2 年 生 の 私 は 大 学 受 験 も 見 据 えて 学 校 だけではなく 塾 に 通 ったり 通 信 教 育 を 受 けたりしている 同 様 な 生 活 をしている 高 校 生 も 多 く 決 して 学 習 時 間 が 尐 ないとは 思 えないが この 学 力 の 差 はどこからくるのだろうか 医 療 や 福 祉 と 同 様 に 教 育 への 社 会 保 障 が 充 実 しているフィンランドは 特 別 教 育 熱 心 なわけではないが PISA(OECD 生 徒 の 学 習 到 達 度 調 査 )では 日 本 を 上 回 り 常 に 世 界 トップクラスの 成 績 である フィンランドは 学 力 向 上 ではなく 子 供 が 満 足 できる 学 校 生 活 を 教 育 の 第 一 の 目 的 としており 高 校 まではあらゆる 教 育 費 が 無 料 となっている 大 学 でも 一 人 暮 らしの 生 活 費 が 無 料 であり 奨 学 金 制 度 も 充 実 していることだ これによって たとえ 経 済 的 に 苦 しい 家 庭 に 生 まれたとしても しっかりと 教 育 を 受 けることができる フィンランドの 教 育 でもう 一 つ 特 徴 的 なことは 生 徒 同 士 の 優 劣 をつけるような テストを 16 歳 までは 実 施 しないことだ そのためにクラス 内 で 生 徒 と 生 徒 の 学 力 の 差 が 大 きくなってしまうが 尐 人 数 でのクラス 編 成 や 低 学 力 の 生 徒 への 徹 底 的 な 支 援 により 他 の 国 に 比 べて 生 徒 同 士 の 学 力 の 差 が 極 めて 小 さい テストによる ランキング 付 けは 良 い 成 績 が 出 れば 学 習 意 欲 の 向 上 に 通 じるが 悪 い 成 績 が 続 けば 学 習 意 欲 はそがれ 生 徒 同 士 の 学 力 の 差 は 大 きくなる 成 績 によって 生 徒 を 分 けない ためのシステムが 世 界 トップクラスの 学 力 に 結 びついている 日 本 の ように 他 人 と 競 う 中 で 学 力 向 上 を 目 指 すことに 慣 れている 私 にとって 他 との 競 争 ではなく 一 人 一 人 が 向 上 する 教 育 で 高 い 学 力 をつけるという 考 え 方 は とても 新 鮮 だ ゆとり とも 違 う 教 育 が 高 い 学 力 を 育 み その 学 力 が 生 かされて 高 い 幸 福 度 につながっているのだと 思 う Ⅳ 日 本 人 と 幸 福 感 数 値 化 された 指 標 をもとにランク 付 けされた 幸 福 度 先 進 国 と 日 本 の 社 会 の 違 い を 税 と 教 育 という 視 点 で 考 えてきた 幸 福 度 の 高 い 国 々のシステムに 学 ぶことは 多 い しかしながら そのまま 日 本 に 持 ってきて あてはめれば 日 本 人 は 幸 福 になるのだ ろうか システムを 導 入 して 長 い 時 間 がたてば 日 本 の 社 会 にも 変 化 は 現 れるかも しれない しかし すぐに 幸 福 感 が 上 昇 するとは 考 えにくい 幸 福 感 はその 国 の 歴 史 や 社 会 の 成 り 立 ち 伝 統 や 慣 習 独 特 の 価 値 観 など 数 値 に 表 すことのできない 要
因 にも 大 きく 影 響 を 受 けるものだと 思 う 私 は 特 に 東 日 本 大 震 災 から 約 1 年 半 たった 今 日 本 人 の 中 に 新 しい 幸 福 の 基 準 ができつつあるように 感 じている 震 災 で 失 ったものはあまりにも 大 きいけれど 私 たち 日 本 人 に 自 分 が 持 っているお 金 やモノの 量 で 計 ることのできない 幸 せに 気 付 かせてくれた 絆 の 言 葉 に 代 表 されるように 人 々とのつながりが 安 心 感 やや すらぎ 幸 福 感 を 高 める 大 きな 要 因 の 一 つとなったと 思 う 他 人 の 痛 みを 自 分 の 痛 み として 震 災 後 多 くの 組 織 が 募 金 活 動 を 始 め たくさんの 募 金 が 集 まった 私 自 身 も 群 馬 県 高 校 生 震 災 孤 児 支 援 募 金 に 参 加 し 駅 前 で 募 金 への 協 力 を 呼 びかけた みん な 素 通 りしていってしまうのではないか という 心 配 をよそに がんばって あ りがとう という 言 葉 とともに 募 金 箱 には 次 々と 被 災 地 への 思 いが 入 れられていっ た 自 分 のことよりも 他 人 の 幸 福 を 願 う 利 他 という 考 え 方 も 自 分 の 中 にすと んと 落 ちた 震 災 直 後 被 災 された 方 が 一 列 に 並 んで 配 給 を 待 つ 姿 や 略 奪 や 暴 動 を 起 こすこと もなく 支 援 する 人 々に 感 謝 を 伝 える 姿 が 全 世 界 に 報 道 され 日 本 人 の 秩 序 や 礼 節 が 称 賛 された 利 他 の 精 神 や 人 との 絆 秩 序 礼 節 などは 数 値 で 計 ることはできないが これらが 日 本 の 社 会 の 中 に 根 付 いていることで どれほど 私 たちが 安 心 して 暮 らして いられることだろう 法 律 で 作 られたセイフティネットも 大 事 であるが 日 本 社 会 に 心 のセイフティネットがあることを 日 本 人 としての 誇 りに 思 う 悲 惨 な 状 態 にあっ ても この 国 に 生 まれてよかった 幸 せだ と 感 じられ 人 が 多 い 国 こそが 幸 福 度 の 高 い 国 と 言 えるのではないだろうか Ⅴ おわりに 日 本 人 は 幸 福 か というテーマについて 数 値 に 表 れた 幸 福 度 と 数 値 に 表 すこと のできない 感 覚 的 な 幸 福 度 という2つの 面 から 考 えてきた 数 値 で 他 国 と 比 較 した 際 には 日 本 の 幸 福 度 は 高 くないが 数 値 に 表 すことができない 日 本 人 独 特 の 考 え 方 や 行 動 様 式 が まさかの 時 のセイフティネットとして 働 くため この 国 で 暮 らす 人 々 の 幸 福 度 は 決 して 低 くないと 私 は 考 える 近 年 国 際 競 争 力 を 高 めるために グローバル 人 材 を 採 用 し 社 内 公 用 語 を 英 語 に する 企 業 も 出 てきた また グローバル 社 会 に 対 応 するため 秋 入 学 の 導 入 を 検 討 す る 大 学 も 増 えてきた 高 校 生 の 私 たちが 大 学 を 卒 業 して 社 会 人 になる 頃 日 本 社 会 はまた 大 きく 変 化 しているかもしれない たくさんの 国 々の 価 値 観 に 触 れて 日 本 人 の 価 値 観 にも 尐 しずつ 変 化 してくるかしれないし 多 様 性 は 私 に 選 択 の 自 由 を 増 やし 豊 かな 人 生 に 導 いてくれるかもしれない しかし どのように 変 化 しても 他 人 の 痛 みを 自 分 の 痛 みとしてとらえる 日 本 人 の 価 値 観 や 幸 福 感 を 共 有 したいと 願 う 気 持 ち 利 他 の 精 神 を 私 を 持 ち 続 けていたい 社 会 が 変 化 しても 変 わることなく
日 本 人 の 幸 福 感 を 構 成 する 大 事 な 要 素 だと 思 うからだ 一 方 で 経 済 の 低 迷 や 大 規 模 自 然 災 害 発 生 の 可 能 性 により 将 来 に 対 して 漠 然 と した 不 安 な 気 持 ちを 持 つ 人 が 多 い 明 確 な 未 来 が 思 い 描 けないと 幸 福 感 を 感 じること は 難 しい 内 閣 府 も 幸 福 度 についての 研 究 を 進 めているが 幸 福 感 を 個 人 的 な 価 値 観 や 感 じ 方 に 大 きく 影 響 する 個 人 の 問 題 としてとらえて 終 わることなく どうすれ ば 尐 しでも 幸 福 度 を 増 やすことができるのか また 国 内 の 幸 福 の 総 量 を 増 やすこと ができるのか この 課 題 に 引 き 続 き 取 り 組 んでいく 必 要 があると 思 う 参 考 文 献 参 考 サイト 河 野 庸 介 (2000 年 ) フィンランド メソッド でわが 子 の 学 力 を 伸 ばす 主 婦 の 友 社 世 界 各 国 の 消 費 税 の 税 率 一 覧 http://www.777money.com/ (2012/09/17) 世 界 幸 福 度 指 数 http://www.chinapress.jp/media/29956 (2012/09/17) World Joint Club http://worldjc.com/3170 (2012/09/17)