第 10 章 今 回 の 災 害 における 特 徴 的 な 事 象 10.1 有 明 海 沿 岸 域 への 漂 流 漂 着 物 について 10.1.1 本 豪 雨 災 害 での 漂 流 漂 着 物 の 大 量 発 生 の 概 要 本 豪 雨 災 害 の 特 徴 として 沿 岸 海 域 への 漂 流 漂 着 物 が 大 量 に 発 生 したことが 挙 げられる. 一 般 的 に, 洪 水 時 の 流 木 の 発 生 要 因 として 河 畔 林 の 流 出 と 山 腹 崩 壊 により 森 林 の 樹 木 が 河 道 へ 流 出 することが 考 えられる.また, 本 豪 雨 災 害 ではプロパンガスのボンベなども 含 まれており, 流 木 だけではなく, 人 家 など 市 街 地 から 流 出 したものも 漂 流 漂 着 物 となっている. 流 木 やその 他 の 流 出 物 は, 洪 水 流 により 河 道 を 流 れながら,(1) 橋 梁,ダム, 堰 などの 河 川 横 断 構 造 物 に 集 積 するもの,(2) 堤 内 地 に 流 入 し 堆 積 す るもの,(3) 海 に 流 出 するものにおおまかには 分 類 される. 海 に 流 出 したものは, 洋 上 を 浮 遊 している ものを 漂 流 物, 海 岸 に 堆 積 したものを 漂 着 物 という. 表 10.1 に 県 別 の 漂 着 物 量 を 示 す. 注 意 書 きにも 書 いているがこの 数 値 自 体 は 現 時 点 で 確 定 しているものではないので 参 考 値 であるが, 九 州 沿 岸 の 総 量 で 約 7 万 m 3 の 漂 着 物 が 発 生 したことになる. 本 稿 では,このうち, 特 に 有 明 海 沿 岸 域 について 現 時 点 での 情 報 をまとめて 報 告 する. 表 10.1 県 別 の 漂 着 物 量 ( 単 位 :m 3 ) 福 岡 県 熊 本 県 佐 賀 県 長 崎 県 大 分 県 4,684 34,000 19,541 3,391 7,860 ( 注 意 : 熊 本 県 は 7/24 現 在, 佐 賀 県, 長 崎 県 は 8 月 現 在, 福 岡 県 は 10 月 現 在, 大 分 県 は 7 月 25 日 付 け 西 日 本 新 聞 より 引 用 した 数 値 であり,その 後 の 調 査 により 変 動 する 可 能 性 がある) 10.1.2 有 明 海 沿 岸 の 漂 流 漂 着 物 の 分 布 状 況 図 10.1 に 有 明 海 の 海 岸 と 港 湾 の 漂 着 物 の 量 ならびに 国 土 交 通 省 海 洋 環 境 整 備 船 海 輝 海 煌 によ る 7 月 12 日 ~8 月 31 日 における 漂 流 物 回 収 量 を 示 す. 漂 着 物 は, 筑 後 川 や 白 川 などの 一 級 河 川 の 河 口 付 近 の 海 岸 線 に 多 く 分 布 している. 有 明 海 西 岸 や 漁 業 者 への 聞 き 取 り 調 査 によると 諫 早 湾 から 島 原 半 島 沿 岸 にも 大 量 の 漂 着 物 が 生 じており, 一 級 河 川 の 河 口 から 遠 く 離 れた 海 岸 にまで 到 達 していることが 分 かる.また, 豪 雨 災 害 発 生 時 から 8 月 までは 数 日 間 は 北 よりの 風 が 卓 越 する 期 間 があったが, 全 期 間 を 通 してほぼ 南 寄 りの 風 が 卓 越 しており, 漂 流 物 はこの 影 響 を 大 きく 受 けたことが 推 察 される. 実 際 に, 鹿 島 市 の 海 岸 に 宇 城 市 のプロパンガスが 流 れ 着 いたと いう 報 告 があるなど, 熊 本 沿 岸 に 流 出 した 漂 流 物 が 南 風 で 佐 賀 県 沿 岸 に 到 達 したと 考 えられる. 図 10.2 に 佐 賀 県 東 与 賀 海 岸 における 漂 着 物 の 様 子 を 示 す. 写 真 からも 分 かるが, 佐 賀 県 の 海 岸 線 は 干 潟 が 多 く, 干 潮 時 には 漂 着 していても 満 潮 時 には 再 び 漂 流 していく 可 能 性 が 考 えられる. 漂 流 物 は 国 土 交 通 省 以 外 でも 県 や 漁 協 により 回 収 されているため 回 収 された 漂 流 物 の 総 量 は 不 明 で あるが, 少 なくとも 海 岸 に 漂 着 後 に 回 収 されるものの 方 が 圧 倒 的 に 多 いと 考 えられる. 10.1.3 有 明 海 沿 岸 の 漂 流 漂 着 物 の 被 害 回 収 状 況 豪 雨 直 後 より 大 量 に 発 生 した 漂 流 漂 着 物 の 影 響 により 有 明 海 沿 岸 全 域 で 漁 業 が 困 難 になった.また, 操 業 は 可 能 でも, 早 朝 や 夜 間 などは 漂 流 物 の 視 認 が 困 難 で, 流 木 などにより 漁 船 のスクリューが 損 傷 す 84
る 被 害 が 生 じた.さらには, 漁 網 を 用 いるスズキなどの 漁 では, 網 に 漂 流 物 がひっかかるのを 懸 念 し, 操 業 を 控 えるケースがあった. 加 えて, 9 月 上 旬 までに 漂 流 物 を 回 収 しなければノリ 養 殖 に 甚 大 な 被 害 が 出 ることが 懸 念 され, 関 係 自 治 体 や 漁 業 者 による 懸 命 な 回 収 作 業 が 行 われた( 図 10.3, 図 10.4). なお, 本 豪 雨 災 害 のような 広 範 囲 に 大 量 に 生 じた 海 岸 漂 着 物 は 災 害 関 連 緊 急 大 規 模 漂 着 流 木 等 処 理 対 策 事 業 として, 海 岸 管 理 者 ( 県 などの 地 方 公 共 団 体 )に 費 用 の 二 分 の 一 が 国 庫 から 補 助 される 制 度 があり, 本 豪 雨 災 害 でも 適 用 されている. また, 漁 協 の 異 なる 複 数 の 漁 業 者 から 回 収 事 業 について 聞 き 取 りを 行 ったが, 漁 協 により 対 応 の 状 況 が 大 きく 異 なり, 速 やかに 回 収 事 業 が 実 施 され 漁 船 操 業 が 可 能 になった 漁 協 と, 対 応 が 進 まなかった 漁 協 が 存 在 していた. 10.1.4 まとめ 本 稿 では, 本 豪 雨 災 害 における 漂 流 漂 着 物 について 有 明 海 沿 岸 域 を 中 心 に 現 時 点 で 収 集 した 情 報 を まとめた. 豪 雨 災 害 時 の 沿 岸 への 流 木 などの 流 出 は 漁 船 操 業 などに 大 きな 影 響 をもたらし,さらに 漂 流 漂 着 物 は 廃 棄 物 でしかなく, 事 後 対 応 が 費 用 面 からも 地 方 自 治 体 には 非 常 に 負 担 が 大 きい. 前 述 し たが 流 域 からの 流 出 物 は 洪 水 被 害 も 助 長 するため, 豪 雨 被 害 軽 減 のためには,もともとの 発 生 量 を 抑 制 するような 対 策 が 最 も 効 果 的 であると 考 えられる. 本 稿 をまとめるにあたり, 佐 賀 県 県 土 づくり 本 部 農 山 漁 村 課, 熊 本 県 土 木 部 河 川 港 湾 局, 長 崎 県 環 境 部 廃 棄 物 対 策 課, 福 岡 県 県 土 整 備 部 港 湾 課, 国 土 交 通 省 九 州 地 方 整 備 局 熊 本 港 湾 空 港 整 備 事 務 所 から 貴 重 なデータの 提 供 を 受 けた.また, 多 くの 漁 業 者 の 方 に 聞 き 取 り 調 査 にご 協 力 頂 いた.ここに 記 して 謝 意 を 表 します. ( 田 井 明 ) 参 考 文 献 : 1) 熊 本 県 第 6 回 被 災 者 及 び 被 災 地 の 復 旧 復 興 本 部 資 料 http://www.pref.kumamoto.jp/site/1013/honbukaigi-6. html 2) 西 日 本 新 聞,2012 年 7 月 25 日 付 け 六 角 川 嘉 瀬 川 5,775 11,382 筑 後 川 矢 部 川 (322) 3,591 2,384 (1,093) (120) (421) 2,179 (257) 16,000 菊 池 川 1,212 (32) (23) 白 川 図 10.1 有 明 海 の 海 岸 港 湾 漂 着 物 の 分 布 と 回 収 された 漂 流 物 の 分 布 ( 単 位 :m 3, 括 弧 内 の 数 字 (78) 緑 川 は 国 土 交 通 省 海 洋 環 境 整 備 船 海 輝 海 煌 に (37) (433) よる 7 月 12 日 ~8 月 31 日 における 漂 流 物 回 収 量, 佐 賀 県, 熊 本 県, 長 崎 県 の 数 値 は 暫 定 値 ) 85
図 10.2 漂 着 物 の 状 況 ( 東 与 賀 海 岸,2012 年 7 月 31 日 撮 影 ) 図 10.3 漂 着 物 の 回 収 の 様 子 ( 東 与 賀 海 岸,2012 年 7 月 31 日 撮 影 ) 図 10.4 漁 業 者 による 漂 流 物 の 回 収 の 様 子 ( 島 原 半 島 沖, 有 明 漁 協 提 供 ) 86
10.2 本 豪 雨 災 害 における 人 的 被 害 の 概 要 本 豪 雨 災 害 における 人 的 被 害 ( 死 者 行 方 不 明 者 )についてまとめる.なお, 本 稿 では 2012 年 7 月 3 日 ~14 日 に 生 じた 人 的 被 害 を 対 象 にしていることに 注 意 されたい. 対 象 期 間 中 の 死 者 は 31 人 ( 熊 本 県 23 人, 福 岡 県 5 名, 大 分 県 3 名 ), 行 方 不 明 者 は 3 名 ( 熊 本 県 2 名, 大 分 県 1 名 )であった. 期 間 別 の 死 者 行 方 不 明 者 は,7 月 3 日 からの 豪 雨 で 2 名,7 月 11 日 からの 豪 雨 で 32 名 であった. 図 10.5 に 死 者 行 方 不 明 者 の 要 因 別 ( 土 砂 関 連, 洪 水 氾 濫 関 連, 不 明 )の 分 布 を 示 す.これから 明 らかなように 熊 本 県 阿 蘇 地 方 の 土 砂 関 連 による 犠 牲 者 が 圧 倒 的 に 多 い. 図 10.6 に 要 因 別 の 死 者 行 方 不 明 者 の 割 合 を 示 す. 土 砂 関 連 によるものが 多 く,このうち 23 名 は 自 宅 などの 家 屋 内 で 被 災 している. 2 名 は 外 出 中 に 土 砂 災 害 に 巻 き 込 まれたもの, 残 り 1 名 は 土 砂 災 害 に 巻 き 込 まれたものと 推 定 されるが, 行 方 不 明 のままである. 土 砂 災 害 は 午 前 4 時 ~6 時 という 未 明 に 発 生 しているケースが 多 く, 多 くの 方 が 就 寝 中 であったと 推 定 されること,また, 図 10.7 から 分 かるよ うに 大 雨 は 深 夜 ~ 未 明 に 生 じており,この 時 間 帯 の 避 難 行 動 が 困 難 で 遅 れてしまった 事 例 もあると 考 え られる. なお, 阿 蘇 市 からの 避 難 指 示 は 7 月 12 日 午 前 4 時 に 出 されている. 洪 水 氾 濫 によるものは, 7 人 で, 車 で 走 行 中 に 堤 防 道 路 が 陥 没 し 川 へ 転 落 したケース, 浸 水 して 動 かなくなった 車 を 降 りて 避 難 中 に 流 されたケース, 誤 ってクリークに 転 落 したケースなど 車 で 外 出 中 に 被 災 していた. 加 えて, 勤 務 先 で, 建 物 と 一 緒 に 河 川 に 流 された 例 もある.また, 阿 蘇 地 方 の 2 名 の 行 方 不 明 者 はいずれも 一 旦 避 難 した 後 に 再 び 避 難 所 を 出 て 行 方 不 明 になったものである. 図 10.8 に 年 代 別 の 死 者 の 割 合 を 示 す. 元 々の 人 口 割 合 も 関 係 するが,60 代 以 上 の 死 者 の 割 合 が 66% と 高 く 災 害 弱 者 と 考 えられる 高 齢 者 の 割 合 が 最 も 多 くなっていた. 一 方 で,20 代 の 割 合 も 比 較 的 多 かっ た(グラフは~20 代 と 標 記 しているが 全 て 20 代 の 方 であった). 本 稿 では, 本 豪 雨 災 害 における 人 的 被 害 の 概 要 についてまとめた.その 結 果, 九 州 での 過 去 の 豪 雨 に よる 被 害 と 同 様 に 土 砂 災 害 によるものが 最 も 多 かった.また, 避 難 行 動 中 や 一 旦 避 難 した 後 に 被 災 した ケースもあり, 今 後 の 防 災 策 を 考 える 際 の 教 訓 としなければならないであろう.また, 新 聞 記 事 には, 間 一 髪 で 九 死 に 一 生 を 得 た 事 例 も 多 く 紹 介 されており,これらも 貴 重 な 情 報 であると 言 える. 120.0 100.0 時 間 降 水 量 (mm) 80.0 60.0 40.0 20.0 0.0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 time(hour) 図 10.7 阿 蘇 乙 姫 の 7 月 12 日 の 時 間 降 水 量 の 推 移 87
土 砂 関 連 洪 水 氾 濫 関 連 不 明 図 10.5 九 州 北 部 豪 雨 災 害 (7/3~7/14)の 要 因 別 死 者 行 方 不 明 者 の 分 布 洪 水 氾 濫 関 連 7 人,21% 土 砂 関 連 26 人,79% 80 代 ~ 10 人,29% 70 代 8 人,23% ~20 代 30 代 5 人,15% 1 人,3% 40 代 1 人,3% 50 代 3 人,9% 60 代 6 人,18% 図 10.6 九 州 北 部 豪 雨 災 害 (7/3~7/14)の 要 因 別 死 者 行 方 不 明 者 の 割 合 図 10.8 九 州 北 部 豪 雨 災 害 (7/3~7/14)の 年 代 別 死 者 行 方 不 明 者 の 割 合 最 後 に, 本 稿 での 死 者 行 方 不 明 者 の 情 報 は 西 日 本 新 聞, 熊 本 日 日 新 聞, 大 分 合 同 新 聞 の 記 事 を 元 に 著 者 がまとめ 直 したものである. 詳 細 な 取 材 をされた 各 新 聞 社 の 方 々に 対 し 敬 意 と 謝 意 を 表 すとともに, 災 害 時 の 犠 牲 者 情 報 の 重 要 性 を 防 災 の 最 前 線 を 担 う 行 政 が 認 識 し, 今 後 それらを 生 かした 有 効 な 人 的 被 害 の 軽 減 策 が 講 じられていくことを 期 待 する. 88 ( 田 井 明 )
10.3 水 力 発 電 施 設 の 被 災 について 10.3.1 はじめに 近 年 頻 発 している 豪 雨 災 害 において 水 力 発 電 施 設 が 目 立 って 被 災 している. 例 えば, 平 成 23 年 7 月 の 台 風 6 号 では 高 知 県 奈 半 利 川 の 電 源 開 発 平 鍋 ダムにおいて,ダム 湖 上 流 に 流 入 した 土 石 流 により 津 波 のような 段 波 が 発 生 し, 流 下 した 段 波 がダム 湖 に 進 入 後.ダム 堤 体 を 越 流 するという 災 害 が 発 生 した[ 秦 野 ら(2012)].この 段 波 はダム 天 端 上 2m(ダム 湖 水 面 からは 3m)の 高 さまで 達 したと 推 定 されており, 天 端 上 の 管 理 施 設 が 浸 水 したため 洪 水 吐 ゲートが 固 定 されたまま 操 作 不 能 に 陥 るという 事 態 に 至 った. また, 同 月 の 新 潟 福 島 豪 雨 においては, 阿 賀 野 川 水 系 只 見 川 流 域 において 電 源 開 発 の 水 力 発 電 所 6 カ 所 ( 総 出 力 約 134 万 kw)が 被 災 した[ 松 本 ら(2012)].この 豪 雨 では 只 見 川 流 域 内 のアメダス 観 測 点 で 既 往 最 大 の 72 時 間 降 雨 ( 只 見 :696mm, 宮 寄 上 :623.5mm)を 記 録 しており, 被 災 した 6 つの 発 電 所 (ダム) では 既 往 最 大 流 入 量 を 全 て 更 新 している.また, 同 豪 雨 では 東 北 電 力 管 内 29 箇 所 の 水 力 発 電 所 ( 総 出 力 約 137 万 kw)も 被 災 した. 同 年 9 月 には 台 風 12 号 により 紀 伊 半 島 で 発 生 した 水 害 により 関 西 電 力 管 内 で 11 カ 所 の 水 力 発 電 施 設 で 被 害 が 発 生 し, 平 成 25 年 初 頭 段 階 で 復 旧 していないものが 3 カ 所 ある[ 三 木 ら(2012)].また, 同 年 9 月 の 台 風 15 号 では 静 岡 県 において 中 部 電 力 湯 山 水 力 発 電 所 ( 最 大 出 力 22,200kW)の 使 用 水 量 のうち 15%を 供 給 していた 大 間 川 えん 堤 が 被 災 し, 平 成 24 年 11 月 まで 取 水 がで きない 状 態 であった[ 伊 藤 ら(2012)]. 今 回 の 九 州 北 部 豪 雨 では 九 州 電 力 管 内 の 九 州 北 部 地 域 において 計 15 カ 所 の 水 力 発 電 施 設 が 被 災 した ( 表 10.2). 各 施 設 の 被 災 要 因 はそれぞれ 異 なるが, 上 述 のように 近 年 の 豪 雨 災 害 では 水 力 発 電 施 設 の 被 災 が 目 立 っており, 大 規 模 化 する 水 害 に 対 する 脆 弱 性 や 対 応 策 の 検 討 が 必 要 ではないかと 考 えられる. また, 福 島 第 一 原 子 力 発 電 所 の 事 故 以 来, 原 子 力 発 電 が 大 飯 原 発 3,4 号 機 を 除 き 再 稼 働 できない 状 況 下 で, 水 力 発 電 は 火 力 発 電 を 除 くと 最 も 発 電 量 が 大 きいことに 加 えて, 再 生 可 能 エネルギーのシェアとし 表 10.2 今 回 の 豪 雨 により 被 災 した 水 力 発 電 所 発 電 所 名 場 所 河 川 ( 水 系 ) 出 力 [kw] 被 災 状 況 運 転 再 開 日 備 考 洗 玉 八 女 市 星 野 川 ( 矢 部 川 ) 340 水 車 発 電 機 冠 水 12/25 橋 詰 うきは 市 隈 上 川 ( 筑 後 川 ) 150 水 車 発 電 機 冠 水 12/12 栗 木 野 うきは 市 隈 上 川 ( 筑 後 川 ) 60 水 車 発 電 機 浸 水 8/31 小 塩 うきは 市 隈 上 川 ( 筑 後 川 ) 420 取 水 口 へ 土 砂 流 入 等 8/27 柳 又 日 田 市 高 瀬 川 ( 筑 後 川 ) 63,800 ダム 湖 等 へ 土 砂 流 入 9/11 調 査 実 施 女 子 畑 日 田 市 玖 珠 川 ( 筑 後 川 ) 29,500 導 水 路 一 部 損 傷 - 8/20 取 水 再 開 軸 丸 豊 後 大 野 市 大 野 川 12,500 水 車 発 電 機 冠 水 12/13 調 査 実 施 竹 田 竹 田 市 大 野 川 7,000 水 車 発 電 機 冠 水 H25.1/30 調 査 実 施 黒 川 第 一 阿 蘇 郡 黒 川 ( 白 川 ) 42,200 発 電 機 冷 却 水 用 設 備 損 壊 7/25 黒 川 第 二 阿 蘇 郡 白 川 他 2,100 取 水 口 門 扉 等 冠 水 7/25 黒 川 第 三 菊 池 郡 白 川 2,800 水 車 発 電 機 浸 水 10/10 菊 池 川 第 一 菊 池 市 菊 池 川 1,400 取 水 口 へ 土 砂 流 入 等 7/27 菊 池 川 第 二 菊 池 市 菊 池 川 2,500 取 水 口 へ 土 砂 流 入 等 8/17 菊 池 川 第 五 菊 池 市 菊 池 川 1,500 取 水 口 へ 土 砂 流 入 7/20 梶 原 球 磨 郡 梶 原 川 他 ( 球 磨 川 ) 10,000 導 水 路 へ 土 砂 流 入 9/26 89
て 9 割 近 くの 発 電 量 を 持 っている.したがって, 持 続 的 に 水 力 発 電 を 利 用 していくことも 併 せて 検 討 す るべきではないかと 考 えられる.そこで, 豪 雨 災 害 調 査 の 一 環 として, 被 災 水 力 発 電 所 のうち 3 カ 所 ( 柳 又 水 力 発 電 所 高 瀬 川 ダム, 竹 田 水 力 発 電 所, 軸 丸 水 力 発 電 所 )について 平 成 24 年 12 月 6~7 日 にかけ て 調 査 を 実 施 した. 10.3.2 高 瀬 川 ダムの 被 災 状 況 大 分 県 日 田 市 内 に 位 置 する 柳 又 発 電 所 (S48 年 6 月 完 成, 出 力 63,800kW, 使 用 水 量 68m 3 /s, 有 効 落 差 106.7m, 流 域 面 積 558.1km 2 )は, 筑 後 川 本 川 上 流 域 である 大 山 川 に 設 置 された 大 山 川 取 水 堰 から 取 水 した 発 電 用 水 を 筑 後 川 支 川 の 高 柳 又 PS 瀬 川 に 一 度 注 水 し, 高 瀬 川 ダム(S47 年 7 月 完 高 女 子 畑 PS 成, 流 域 面 積 34km 2, 総 貯 水 量 27.3 万 m 3 瀬 川,ダム 堤 高 25.6m, 設 計 洪 水 流 量 520m 3 高 瀬 川 /s)を 利 用 して ダム 高 瀬 川 からの 取 水 量 と 併 せて 再 取 水 して 導 水 さ れている( 図 10.9). 今 回 の 豪 雨 では,7 月 14 日 の 7 時 に 高 瀬 川 ダム 上 流 域 平 均 で 最 大 の 1 時 大 山 川 取 水 堰 間 降 水 量 84mm( 日 降 水 量 442mm, 期 間 降 水 量 527mm. 九 州 電 力 調 べ)を 記 録 し,10 時 20 分 松 原 ダム ごろに 高 瀬 川 が 氾 濫 し 既 往 最 大 流 量 457m 3 /s が 発 生 した.これにより, 発 電 所 取 水 設 備 は 重 大 図 10.9 高 瀬 川 ダムと 柳 又 発 電 所 の 位 置 な 被 害 を 受 け,9 月 11 日 の 復 旧 まで 約 2 ヶ 月 に わたり 柳 又 発 電 所 は 稼 働 できない 状 態 が 続 いた. 特 に, 河 岸 浸 食 などに 起 因 する 土 砂 と 流 木 の 流 入 が 大 量 に 発 生 し,それらがダム 取 水 口 周 辺 に 堆 積 したため 取 水 口 を 一 部 閉 塞 する 事 態 となっ た.ダム 湖 内 に 堆 積 した 土 砂 量 は 約 30,000m 3, 取 水 口 内 は 約 2,500m 3 であった. また,ダム 下 流 域 では, 流 木 の 集 積 による 橋 梁 の 損 壊 や, 護 岸 道 路 路 肩 の 損 壊 など 多 数 の 被 害 も 発 生 している. 調 査 時 のダム 湖 内 の 状 況 を 図 10.10 に 示 す. 図 10.10 高 瀬 川 ダム(ダム 湖 内.H24.12.6 撮 影 ) 右 岸 側 に 積 まれた 土 砂 ( 赤 円 で 囲 まれたところ) がダム 湖 内 に 出 水 により 堆 積 した 土 砂 を 浚 渫 して 積 み 上 げたものである.ダム 湖 上 流 域 の 地 形 測 量 結 果 から, 今 回 の 出 水 で 新 たに 約 58,000m 3 の 土 砂 が 高 瀬 川 ダム 上 流 域 の 河 道 内 に 堆 積 したと 推 定 され,これ らが 経 年 的 に 流 入 することでダム 湖 における 堆 砂 速 度 が 上 昇 することが 懸 念 されている. 10.3.3 竹 田 軸 丸 発 電 所 の 被 災 状 況 大 分 県 竹 田 市 と 豊 後 大 野 市 を 流 れる 大 野 川 にある 竹 田 発 電 所 と 軸 丸 発 電 所 が 7 月 12 日 の 出 水 により 被 災 し, 後 者 は 12 月 13 日 に 再 稼 働 したが 前 者 は 平 成 25 年 1 月 30 日 まで 停 止 する 事 態 となった. 図 10.11 に 示 す 様 に, 竹 田 発 電 所 は 竹 田 調 整 池 堰 ( 通 称, 魚 住 ダム)により 取 水 し 導 水 されている.また, 軸 丸 発 90
電 所 は 竹 田 発 電 所 直 下 の 軸 丸 取 水 堰 から 取 水 し ている. 竹 田 発 電 所 は 昭 和 30 年 5 月 に 完 成 し, 出 力 7,000 kw, 使 用 水 量 22m 3 /s, 有 効 落 差 37. 4 m, 流 域 面 積 457km 2 をもつ. 一 方, 軸 丸 発 電 所 は, 大 正 9 年 5 月 に 完 成 し, 出 力 12,500kW, 使 用 水 量 25 m 3 /s, 有 効 落 差 62.8 m (1 号 ),63.18m (2 号 ), 流 域 面 積 503 km 2 をもつ. また, 竹 田 調 整 池 堰 は 昭 和 30 年 5 月 完 成, 流 域 面 積 326km 2, 総 貯 水 量 752 万 m 3, 堰 堤 高 10.2m, 設 計 洪 水 流 量 2,360m 3 /s である. 軸 丸 取 水 堰 につ いては, 頂 高 4.95m の 固 定 堰 であり 貯 水 能 力 は ない. 竹 田 調 整 池 堰 については, 国 土 交 通 省 波 野 雨 竹 田 調 整 値 堰 ( 魚 住 ダム) 図 10.11 竹 田 軸 丸 発 電 所 の 位 置 量 観 測 所 で 7 月 12 日 6:00 に 98.0mm の 時 間 降 水 量 を 記 録 した. 九 州 電 力 のデータによると 6:00 段 階 で 約 2,300m 3 /s,6:30 ごろに 約 2,600m 3 /s の 流 入 量 を 記 録 しており,5:30 ごろにゲートを 全 開 した. 左 岸 側 にある 取 水 口 の 網 場 には 流 木 が 多 数 集 積 し 取 水 口 が 塞 がれるなどの 被 害 が 発 生 した( 図 10.12). 竹 田 発 電 所 は, 発 電 所 建 屋 の 中 が GL 約 10mまで 掘 り 下 げた 場 所 に 発 電 機 が 設 置 されている. 今 回 の 出 水 では, 発 電 所 周 辺 からの 雨 水 の 流 入 と 稲 葉 川 沿 いの 土 堤 からの 浸 透 水 の 流 入 により, 発 電 所 内 が GL 約 +1m で 浸 水 し, 建 屋 内 は 完 全 に 冠 水 した( 図 10.13). 発 電 機, 水 車, 制 御 系 機 器 などが 全 て 水 没 し, 使 用 不 能 に 陥 った. 今 後, 建 屋 上 部 の 通 風 口 を 塞 ぐなどの 浸 水 対 策 を 行 う 予 定 とのことである. 軸 丸 取 水 堰 竹 田 PS 軸 丸 PS 108m 約 7m 10m 11m 図 10.12 竹 田 調 整 池 堰 ( 魚 住 ダム)( 左 :ダム 堤 体, 右 : 取 水 口.H24.12.7 撮 影 ) サージタンク 大 野 川 45m 稲 葉 川 浸 水 位 :GL+1m 図 10.13 竹 田 発 電 所 ( 左 : 発 電 所 浸 水 状 況 [H24.7.12 九 州 電 力 撮 影 ], 右 : 発 電 所 建 屋.[H24.12.7 撮 影 ]) 91
浸 水 位 :GL+4.5m 14.5m 図 10.14 軸 丸 発 電 所 ( 左 : 発 電 所 浸 水 状 況 [H24.7.12 九 州 電 力 撮 影 ], 中 右 : 発 電 所 [H24.12.7 撮 影 ]) 軸 丸 発 電 所 は, 発 電 所 建 屋 ( 高 さ 約 14.5m)が 周 辺 の 地 盤 から 約 10m 程 度 掘 り 下 げた 場 所 に 建 っており, 建 屋 地 盤 から 4.5m の 高 さまで 浸 水 した( 図 10.14).3m 3 /s の 排 水 性 能 の 排 水 ポンプ 2 台 により 排 水 した が, 発 電 機, 水 車, 制 御 系 機 器 などが 水 没, 使 用 不 能 に 陥 った.なお, 平 成 2 年 の 出 水 は 今 回 以 上 であ り, 建 屋 2 階 の 制 御 室 が 冠 水 した. 水 力 発 電 所 は 河 川 に 隣 接 して 設 置 する 構 造 が 多 く, 大 規 模 化 する 浸 水 に 対 する 浸 水 リスクが 増 大 していることから, 発 電 所 周 辺 や 放 水 口 などの 浸 水 対 策 が 急 務 といえる. 10.3.4 おわりに 九 州 北 部 豪 雨 災 害 において 九 州 電 力 管 内 の 15 箇 所 の 水 力 発 電 施 設 が 被 災 した. 平 成 24 年 は 平 年 と 比 べて 降 雨 量 が 大 きかったため,これらの 発 電 が 停 止 したにも 関 わらず, 幸 いなことに 水 力 発 電 実 績 は 計 画 (7 月 :113 万 kw)を 上 回 っていた[ 九 州 電 力 (2012)].しかし, 福 島 第 一 原 発 事 故 後 の 状 況 を 鑑 みれば, 水 力 発 電 という 有 力 な 再 生 可 能 エネルギー(シェア 9 割 )を 持 続 的 に 利 用 していくことが 必 要 であること は 論 を 俟 たないといえよう. 今 回 の 調 査 より, 大 規 模 化 する 豪 雨 における 水 力 発 電 施 設 の 浸 水 リスクが 明 らかになった. 今 後 は, 温 暖 化 による 豪 雨 災 害 外 力 の 増 加 への 適 応 も 視 野 に 入 れて,これらの 弱 点 を 克 服 するための 技 術 的 な 研 究 と, 既 設 の 水 力 発 電 を 持 続 的 に 利 用 するための 総 合 的 な 研 究 が 水 工 学 に 必 要 と 考 えられる. ( 矢 野 真 一 郎 ) 参 考 文 献 : 1) 三 木 伸 之, 松 本 好 司, 土 井 喜 則 : 台 風 12 号 による 水 力 発 電 所 土 木 施 設 の 被 害 状 況 と 復 旧, 電 力 土 木, No.362, pp.39-43, 2012. 2) 秦 野 輝 儀, 中 山 義 紀, 斉 藤 文 彦 : 土 石 流 の 流 入 に 起 因 する 平 鍋 ダムの 越 流 現 象, 電 力 土 木,No.362, pp.44-47, 2012. 3) 松 本 匡 司, 熊 谷 騰, 山 元 未 来 : 平 成 23 年 7 月 新 潟 福 島 豪 雨 による 水 力 発 電 所 被 害 とその 復 旧 状 況, 電 力 土 木,No.362, pp.48-51, 2012. 4) 伊 藤 公 人, 鈴 木 達 也, 鈴 木 直 樹 : 湯 山 水 力 発 電 所 大 間 川 えん 堤 の 台 風 被 害 復 旧 工 事, 電 力 土 木,No.362, pp.35-38, 2012. 5) 九 州 電 力 株 式 会 社 : 今 夏 の 需 給 実 績 について, 需 給 検 証 委 員 会 資 料, 資 料 3-2-2, 20p, 2012. 6) 電 気 新 聞,2012 年 9 月 25 日 1 面. 謝 辞 : 現 地 調 査 や 資 料 提 供 に 九 州 電 力 株 式 会 社 に 多 大 な 協 力 を 頂 いた.ここに 記 し 感 謝 の 意 を 表 します. 92
10.4 九 州 北 部 豪 雨 の 災 害 復 旧 の 特 徴 平 成 24 年 の 豪 雨 は 7 月 3 日 から 14 日 に 及 ぶ 前 線 性 の 豪 雨 で 北 部 九 州 の 広 い 範 囲 で 災 害 が 発 生 して いる. 特 に 筑 後 川 水 系 の 日 田 盆 地 では,7 月 3 日 および 7 月 13 日 の 2 度 にわたる 氾 濫 の 発 生, 直 轄 堤 防 の 決 壊 など 激 甚 な 災 害 となっている. 本 節 では, 筆 者 が 災 害 復 旧 アドバイザーとして, 関 係 した 日 田 盆 地 の 河 川, 矢 部 川 水 系 の 福 岡 県 管 理 区 間, 白 川 水 系 の 河 川, 大 分 県 の 玉 来 川 などを 参 考 に, 今 回 の 災 害 に 対 する 復 旧 について 報 告 した い. 現 在, 災 害 復 旧 計 画 設 計 が 行 われている 時 期 であり, 定 量 的, 具 体 的 な 記 述 ができない 部 分 は お 許 しいただきたい. 東 北 震 災 における 安 全 度 の 議 論, 近 年 の 計 画 規 模 を 超 える 災 害 の 発 生, 治 水 と 環 境 技 術 の 統 合 など, 現 在, 河 川 技 術 は 時 代 的 な 転 換 期 にあると 考 えられる. 今 回 の 九 州 北 部 豪 雨 の 災 害 復 旧 にあたって, 今 後 の 河 川 技 術 を 考 えるのに 大 変 参 考 になる 考 え 方 や 動 向 が 含 まれていると 考 えられる. 今 回 の 災 害 復 旧 の 特 徴 的 な 観 点 を 以 下 に 列 挙 する. 1 災 害 レベルの 考 え 方 を 整 理 する 必 要 があること: 東 北 の 震 災 復 興 にあたって Level1( 従 来 の 防 災 のレベル), Level2( 数 百 年 に 一 度 という 施 設 での 対 応 が 困 難 なレベル)という 2 つの 災 害 外 力 概 念 が 提 示 された.また, 近 年, 河 川 災 害 においても 計 画 規 模 を 大 きく 超 える 水 害 が 発 生 している.このような 時 代 背 景 の 中 で, 災 害 復 旧 の 安 全 度 のレベルをどのように 考 えればよい のか?また 上 下 流 のバランスをどのように 考 えればよいのか? 2 治 水 技 術 と 環 境 技 術 との 統 合 化 : 中 小 河 川 の 技 術 基 準 が 2008 年 に 制 定,2010 年 に 改 訂 され, 中 小 河 川 の 改 修 技 術 はこれをもって 治 水 技 術 と 環 境 技 術 の 統 合 があるレベルでなされたと 考 えて よいが,この 技 術 基 準 が 災 害 復 旧 の 現 場 でどの 程 度 反 映 されていくのか? 3 計 画 規 模 を 超 える 外 力 に 対 する 治 水 技 術 : 計 画 規 模 をこえる 出 水 に 対 応 した 災 害 復 旧 の 河 道 計 画 技 術, 輪 中 堤 などの 堤 内 地 側 の 施 設 設 計 技 術 はどうあるべきか? 4 地 形 的 ( 歴 史 的 な 河 道 改 修 なども 含 む)な 河 川 の 特 徴 に 対 応 した 河 川 改 修 技 術 : 山 地 穿 入 蛇 行 河 道, 盆 地 河 川 の 災 害 などにおける, 土 砂 対 策, 河 道 処 理 などの 取 り 扱 いはどうあるべきか? 10.4.1 災 害 復 旧 のレベル 図 10.15 に 示 すように, 水 害 の 規 模 は 場 所 によってさまざまであり,また 掘 り 掘 りこみ 築 堤 数 百 年 に1 度 満 杯 流 量 で 下 流 HWLで 整 備 計 画 流 量 or こみ 河 道 と 築 堤 河 道 では 災 害 復 旧 に 対 す 画 レベル+ 住 宅 則 となるが 複 雑 見 合 いor 整 備 計 堤 防 満 杯 で 被 災 流 量 が 原 る 考 え 方 も 異 なる.この 図 は,ここ 数 年 基 本 方 針 レベル 地 対 策 満 杯 で 被 災 流 量 HWLで 整 備 計 画 流 量 or の 災 害 復 旧 時 の 多 自 然 川 づくりアドバイ 数 十 年 に1 度 もしくは 整 備 計 画 堤 防 満 杯 で 被 災 流 量 が 原 流 量 もしくは 下 流 則 となるが 複 雑 ザーの 経 験 に 基 づいて 概 念 化 したもので 見 合 い+ 住 宅 地 ある. 近 年 の 大 規 模 な 水 害 からの 災 害 復 旧 は 整 備 計 画 レベル 数 年 に1 度 対 策 被 災 流 量 激 特 ( 激 甚 災 害 緊 急 特 別 措 置 事 業 )ある 図 10.15 洪 水 の 規 模, 堤 防 の 有 無 による 対 処 方 針 いは 改 良 復 旧 事 業 と 呼 ばれる 制 度 のもと で 行 われている. 改 良 復 旧 には, 災 害 復 旧 助 成 事 業 や 河 川 等 災 害 関 連 事 業 などがある. さて,これらの 事 業 による 対 処 流 量 の 考 え 方 は,その 場 の 河 川 の 状 況 により 個 々に 判 断 されるが, 概 念 的 には 以 下 のようになろう. 洪 水 の 規 模 が 整 備 計 画 流 量 よりも 小 さいときには, 被 災 流 量 および 下 流 の 流 下 能 力 見 合 い 流 量 が 災 93
害 復 旧 時 の 対 象 流 量 となる. 整 備 計 画 流 量 よりも, 被 災 流 量 が 小 さい 時 には 下 流 の 流 下 能 力 は 被 災 流 量 より 大 きいことが 多 いので, 大 抵 の 場 合, 被 災 流 量 = 災 害 復 旧 の 対 処 流 量 となる. 被 災 流 量 が 整 備 計 画 流 量 より 大 きく 基 本 方 針 流 量 より 小 さい 場 合 には, 整 備 計 画 流 量, 被 災 流 量, 下 流 の 流 下 能 力 見 合 い 流 量 の 3 流 量 が 検 討 の 対 象 流 量 となる. 基 本 方 針 流 量 よりも 被 災 流 量 が 小 さい ということは, 河 道 で 将 来 的 には 対 応 を 可 能 とする 流 量 であるため, 被 災 流 量 まで 河 道 で 流 すことが 検 討 される.この 3 つの 流 量 に 対 する 処 置 方 法 は 複 雑 である.たとえば, 日 田 盆 地 上 流 の 河 川 では, 谷 地 形 の 中 を 蛇 行 して 流 れる 河 川 であり 山 附 き 部 により 洪 水 が 発 散 せず 空 間 的 に 閉 じているため, 河 道 は 下 流 見 合 い 流 量 での 掘 削 を, 住 居 がある 場 所 のみ 特 殊 堤 などによる 被 災 流 量 での 改 修 が 検 討 され ている.すなわち 農 地 と 住 宅 地 ともに 安 全 度 を 向 上 させるが, 下 流 への 負 担 を 過 度 に 上 げないように 配 慮 し, 住 宅 地 に 対 しては 再 度 災 害 防 止 を 担 保 する 方 式,すなわち 土 地 利 用 別 に 安 全 度 に 差 をつける 方 式 が 採 用 されている.また 掘 り 込 み 河 道 において, 整 備 計 画 上 余 裕 高 が 見 込 まれているところにお いては,H.W.L.で 整 備 計 画 流 量, 河 道 満 杯 流 量 で 被 災 流 量 が 検 討 される 場 合 もある. 築 堤 河 川 においては,H.W.L.で 整 備 計 画 流 量 を 対 処 流 量 とし, 河 道 満 杯 流 量 を 被 災 流 量 とする 場 合 もあるが, 一 方 で,H.W.L.で 整 備 計 画 流 量 を 流 下 させる 計 画 とするが,それ 以 上 の 流 量 に 対 しては 計 画 論 上, 特 に 対 処 しない 場 合 も 見 られる.これは 堤 防 には 余 裕 高 が 必 要 であり, 余 裕 高 を 使 って 洪 水 を 流 下 させるという 考 え 方 を 良 しとしない 考 え 方 である. 河 川 管 理 施 設 等 構 造 令 の 解 説 では 余 裕 高 は 洪 水 時 の 風 浪,うねり, 跳 水 等 による 一 時 的 な 水 位 上 昇 に 対 して, 堤 防 の 高 さにしかるべき 余 裕 を 取 る 必 要 がある としており,これを 根 拠 とすれば, 余 裕 高 の 中 に 洪 水 を 流 下 させる 概 念 を 入 れ 込 む ことはおかしいとする 考 え 方 である.また 河 川 管 理 施 設 等 構 造 令 には, 堤 防 は, 護 岸, 水 制 その 他 こ れらに 類 する 施 設 と 一 体 として, 計 画 高 水 位 ( 高 潮 区 間 にあつては, 計 画 高 潮 位 ) 以 下 の 水 位 の 流 水 の 通 常 の 作 用 に 対 して 安 全 な 構 造 とするものとする. とあり, 堤 防 は H.W.L. 以 下 の 洪 水 に 対 して 安 全 な 構 造 は 必 須 であるが, 安 全 性 は 担 保 されないものの H.W.L. 以 上 の 洪 水 の 流 下 を 認 めていないわけ ではない.これに 関 する 議 論 は 十 分 に 収 束 しているとはいえない. 注 : 見 合 い 流 量 という 概 念 は 明 確 に 規 定 されているわけではないが, 洪 水 時 の 下 流 の 流 下 能 力 を 考 えた 時 に 他 の 河 川 の 合 流 量 などを 差 し 引 いた 流 量 の 概 念 である. 下 流 での 氾 濫 が 生 じさせない 流 量 である. これに 関 しては 波 形 の 概 念 が 入 っているのかどうかという 点 については, 明 瞭 ではなく 議 論 の 余 地 があるが, 筆 者 は 氾 濫 によりつぶれている 洪 水 波 形 が, 改 修 によりピークが 立 つ, 洪 水 到 達 時 間 が 短 くなるなどの 波 形 の 概 念 も 加 味 され た 流 量 概 念 とすることが 望 ましいと 考 えている. 対 象 流 量 と 対 処 流 量 :ここでは 計 画 立 案 時 の 対 象 となる 流 量 のことを 対 象 流 量, 実 際 の 復 旧 時 に 河 道 等 で 対 処 する 流 量 のことを 対 処 流 量 として 使 い 分 けている. 10.4.2 中 小 河 川 の 技 術 基 準 の 普 及 に 関 して 中 小 河 川 の 技 術 基 準 は 2008 年 に 制 定,2010 年 に 護 岸 に 関 する 基 準 が 付 け 加 わり 改 定 された.その 中 のいくつかのポイントについて, 災 害 復 旧 でどのように 取 り 扱 われているのかを 概 観 する. a) 川 幅 の 拡 幅 技 術 基 準 では, 流 下 能 力 を 増 大 させる 時, 河 床 掘 削 よりも 川 幅 拡 幅 を 原 則 としている.この 原 則 は, 河 川 改 修 による 流 速 の 増 大, 掃 流 力 の 増 大 を 抑 えるという 治 水 効 果, 洪 水 時 の 流 速 を 抑 制 し, 植 物 の 繁 茂 を 促 し, 洪 水 時 の 魚 類 等 の 生 物 の 流 出 を 防 止 するなどの 環 境 効 果 を 持 っており, 中 小 河 川 の 技 術 基 準 の 中 で 重 要 な 事 項 である. これまで, 用 地 取 得 が 難 しい,あるいは 災 害 復 旧 の 制 度 では 用 地 取 得 が 困 難 などの 理 由 から 川 幅 拡 幅 が 検 討 され 実 行 に 移 されることはそれほど 多 くなかった.しかしながら, 今 回 の 災 害 復 旧 では, 川 94
幅 拡 幅 の 原 則 が 普 及 し 始 めたという 感 想 を 持 っている.たとえば, 福 岡 県 が 行 っている 星 野 川 の 復 旧 では, 氾 濫 が 発 生 したところを 局 部 的 に 対 象 として 流 下 能 力 の 増 大 を 行 っているが, 川 幅 拡 幅 を 原 則 とした 流 下 能 力 の 増 大 が 図 られている( 図 10.16). 川 幅 を 拡 幅 する 方 式 をとっているところは, 河 床 掘 削 が 岩 河 床 で 河 床 掘 削 が 容 易 ではない, 一 部 区 間 のみの 被 災 で 一 連 の 河 床 掘 削 が 困 難 であるという 側 面 もある. 図 10.16 川 幅 拡 幅 の 改 修 例 b) 護 岸 と 河 岸 の 仕 分 け 2010 年 に 改 定 された 中 小 河 川 の 技 術 基 準 では, 河 岸 部 の 記 述 が 加 えられた. 河 岸 とは 河 道 の 側 岸 に 対 応 するのり 肩 からのり 尻 までの 範 囲 を 指 し, 護 岸 とは, 流 水 による 侵 食 作 用 から 堤 内 地 を 保 護 するために 設 けられる 構 造 物 とされた.この 基 準 によって, 河 岸 と 護 岸 を 区 別 し, 環 境 的 な 機 能 は 護 岸 の 川 表 側 にある, 河 岸 により 担 保 することとなった. 九 州 北 部 豪 雨 の 大 規 模 災 害 復 旧 においては, 河 岸 と 護 岸 が 区 別 される 計 画 が 当 初 案 から 示 されるも のが 多 く, 行 政 の 設 計 部 局,コンサルタントにもこの 考 え 方 は 普 及 してきているようである. c) 河 床 掘 削 時 のスライドダウン 改 修 前 の 環 境 が 良 好 な 時, 河 床 掘 削 時 に 河 床 を 平 らにせず, 現 況 の 形 状 を 崩 さないように, 河 床 部 の 横 断 形 状 をそのままスライドダウンさせることが 技 術 基 準 では 原 則 となっている.この 原 則 に 関 し ては, 掘 削 による 河 道 計 画 にはほぼ 盛 り 込 まれており,この 原 則 はほぼ 普 及 している. 10.4.3 輪 中 堤 防 などの 氾 濫 許 容 型 の 技 術 について 九 州 では 北 川 の 激 特 で 霞 堤 が, 川 内 川 の 激 特 では 輪 中 堤 が 建 設 されるなど, 大 規 模 災 害 復 旧 時 に 氾 濫 許 容 型 の 治 水 が 行 われる 事 例 が 増 えてきている. 九 州 北 部 豪 雨 に 対 しても 阿 蘇 盆 地 を 流 れる 白 川 の 支 川 黒 川 流 域 などでは, 氾 濫 許 容 型 の 治 水 が 検 討 されている. 氾 濫 流 の 下 流 への 集 中 を 抑 制 するため の 横 堤, 住 宅 地 を 氾 濫 から 守 るための 輪 中 堤, 遊 水 地 などである.このような 伝 統 的 な 治 水 技 術 を 用 いた 新 しい 技 術 は, 今 後 の 地 球 温 暖 化 による 豪 雨 災 害 の 頻 発 が 予 測 されている 時 代 において, 重 要 な 技 術 である.しかしながら, 輪 中 堤, 横 堤 などの 伝 統 的 な 堤 防 技 術 の 計 画 論, 設 計 論 については 十 分 な 蓄 積 がないのが 現 状 である.これらの 施 設 の 内 水 や 大 洪 水 時 の 避 難 などを 含 めた, 計 画 論, 技 術 論 に 関 するフォローアップや 研 究 が 求 められる. 10.4.4 地 形 的 な 河 川 の 特 徴 と 復 旧 a) 穿 入 蛇 行 河 川 九 州 の 火 山 地 帯 では, 著 しく 蛇 行 が 発 達 した 掘 り 込 みの 穿 入 蛇 行 の 河 川 が 多 数 みられる. 今 回 の 洪 水 においても 大 分 県 の 玉 来 川 などがその 典 型 例 である. 河 道 は 谷 底 平 野 の 中 を 蛇 行 しながら 流 下 し, 大 きな 蛇 行 を 繰 り 返 しながら 流 下 する. 今 回 の 豪 雨 災 害 を 観 察 すると 急 湾 曲 部 から 氾 濫 が 発 生 する 例 が 極 めて 多 いことに 気 付 く( 図 10.17). 95
急 湾 曲 部 では 大 幅 な 水 位 上 昇 がみられ, 洪 水 の 越 水, 洪 水 流 が 護 岸 裏 側 を 走 り 洗 掘 するこ とによる 護 岸 の 崩 壊, 倒 壊, 流 木 の 流 入 など が 起 こり, 田 畑 や 住 宅 に 大 きな 被 害 を 与 えて いる. 現 在 の 河 道 計 画 においても, 湾 曲 部 の 左 右 岸 の 水 位 差 について 配 慮 されるが, 穿 入 蛇 行 河 川 においては 蛇 行 曲 率 が 急 であり, 湾 曲 による 水 位 上 昇 だけではなく, 衝 突 により 運 動 エネルギーが 水 位 エネルギーへと 転 換 さ れることによる 水 位 上 昇 が 生 じている.これ らに 対 応 するためには, 計 画 流 量 時 の 急 湾 曲 図 10.17 玉 来 川 湾 曲 部 外 側 からの 破 壊 が 多 数 み 部 の 水 位 上 昇 分 を 護 岸 高 さに 見 込 む, 湾 曲 部 られる 外 岸 側 に 水 害 防 備 林 などを 配 置 し, 氾 濫 流 の 流 速 低 減, 土 砂 や 流 木 の 監 視 などを 行 う, 護 岸 天 端 の 保 護 工 の 設 置 などの 手 法 が 有 効 であると 考 えら れるが, 今 回 の 災 害 復 旧 では 十 分 に 盛 り 込 めなかった 手 法 である. 穿 入 蛇 行 河 川 の 水 理 についての 研 究 はこれまで 十 分 に 行 われたことはなく, 九 州 において 特 に 重 要 な 研 究 課 題 である. b) 平 野 出 口 の 河 川 山 地 から 平 地 への 出 口 は 扇 状 地 などが 発 達 する 土 砂 堆 積 空 間 である. 今 回 の 出 水 で 日 田 盆 地 の 花 月 川 において, 山 地 から 平 野 への 出 口 で 大 量 の 土 砂 が 堆 積 し, 河 川 氾 濫 および 水 田 の 埋 没 が 発 生 してい る. 河 川 の 勾 配 変 化 点 に 洪 水 時, 土 砂 が 堆 積 し 氾 濫 することはしばしば 観 察 されることであるが,こ れに 対 する 対 処 を 砂 防 ダム 以 外 の 方 法 で 行 う 例 は,あまり 見 られない. 今 回 の 災 害 復 旧 では, 遊 砂 空 間 を 確 保 することが 検 討 されている. ヨーロッパではドイツのバイエルン 州 において 小 河 川 の 出 口 に 遊 砂 地 を 設 置 する 例 やスイスの FLAZ 川 の 分 水 路 計 画 において 河 道 の 一 連 の 区 間 を 拡 幅 し 下 流 に 対 する 土 砂 調 節 区 間 とする 例 が 見 ら れる. 遊 砂 空 間 は, 局 所 的 な 土 砂 の 堆 積 に 対 応 すると 同 時 に 下 流 の 河 床 の 安 定 にも 寄 与 すると 考 えられる. 洪 水 時 の 土 砂 堆 積 も 大 きな 問 題 であるが, 上 流 からの 土 砂 供 給 量 の 減 少 も 河 道 の 維 持 や 河 川 環 境 の 保 全 の 観 点 から 現 代 の 河 川 技 術 の 課 題 である. 中 小 河 川 の 技 術 基 準 では, 河 道 幅 を 一 律 にしないことを 河 川 環 境 の 観 点 から 推 奨 しているが, 河 床 の 安 定 という 観 点 からも 川 幅 が 広 い 区 間 は 重 要 であり 再 評 価 が 必 要 である. 平 地 部 での 遊 砂 空 間 の 確 保 という 概 念 と 技 術 は 今 後 さらに 進 化 させるべき 課 題 であ ると 考 えている. ( 島 谷 幸 宏 ) 図 10.18 花 月 川 の 水 田 埋 没 の 状 況 図 10.19 ドイツの 遊 砂 地 96