連 載 多 様 な 働 き 方 時 の 賃 金 設 計 <2> な 働 き 方 の 実 ( 後 ) 株 式 会 社 プライムコンサルタント ( 編 集 部 注 : 連 載 第 1 回 多 様 な 働 き 方 の 実 態 ( 前 編 )と 併 せてご 覧 ください) 働 き 方 によって 賃 金 水 準 はどのように 違 うのでしょうか 前 回 は 具 体 的 なイメ ージを 持 ちやすいように 架 空 の 会 社 P 社 人 事 部 の A 部 長 の 視 点 から 確 認 してきま した 今 回 はその 続 きです A 部 長 は 部 下 の B さんに 命 じ フルタ イム 社 員 とパートタイム 社 員 とに 分 けて 雇 用 形 態 別 の 賃 金 水 準 を 比 較 してきましたが 今 度 はフルタイムとパートタイムを 一 緒 に 比 べたいと 思 い 改 めて B さんに 相 談 しま した 7) 全 雇 用 区 分 での 比 較 A 部 長 の 相 談 に 対 し 計 算 が 得 意 な B さ んは 図 表 2 図 表 3( 連 載 第 1 回 前 編 参 照 )を 使 って 8 種 類 の 雇 用 形 態 別 の 時 給 を 出 そうと 考 えました ただ 年 齢 別 比 較 は 膨 大 なので 年 齢 計 を 使 って 全 体 観 をつ かむことにしました 図 表 4 がその 結 果 です 賞 与 の 影 響 が 気 になるので 賃 金 基 準 と 年 収 基 準 の 2 種 類 の 時 給 を 計 算 しました 1は 時 給 額 の 一 覧 です 正 規 / 非 正 規 で は 正 社 員 の 方 が 高 く 労 働 時 間 の 違 いでは 正 社 員 非 正 社 員 ともにフルタイムの 方 が 高 くなっています 雇 用 期 間 の 違 いを 見 る と 正 社 員 は 無 期 契 約 の 方 が 高 いのに 対 し 非 正 社 員 では 有 期 契 約 の 方 が 高 く 正 社 員 と 非 正 社 員 の 傾 向 が 異 なっています 理 由 としては 高 賃 金 の 高 度 専 門 職 者 が 一 定 期 間 契 約 社 員 ( 非 正 社 員 有 期 契 約 )とし て 雇 用 されていることが 推 測 されます 2は 正 社 員 フルタイム 無 期 契 約 を 100 としたときの 他 の 雇 用 区 分 の 時 給 水 準 を 指 数 化 してグラフにしたものです ど の 雇 用 区 分 でも 賃 金 基 準 より 年 収 基 準 の 指 数 が 低 く 賞 与 が 加 わると 格 差 がさらに 広 がることがわかります 最 も 低 いのは 非 正 社 員 パートタイム 無 期 契 約 で 年 収 基 準 では 4 割 程 度 まで 下 がっています 以 上 の 結 果 全 雇 用 区 分 を 高 い 順 に 並 べ 36
ると 1 から 8 で 示 した 順 位 になりました ( 3) 3: 今 回 の 分 析 は 産 業 企 業 規 模 など すべての 合 計 ですので 自 社 に 照 ら した 細 かい 議 論 をされる 場 合 は 貴 社 に 近 い 集 計 を 参 照 してください A 部 長 は 雇 用 形 態 の 違 いだけでこんな に 格 差 がつくものだろうかと 疑 問 を 感 じま した そこで 仕 事 の 内 容 が 同 じときの 処 遇 格 差 を 知 りたいと 思 い 再 度 B さんに 相 談 したところ 独 立 行 政 法 人 労 働 政 策 研 究 研 修 機 構 の 調 査 に 参 考 になる 情 報 があ 図 表 4: 雇 用 区 分 別 の 時 給 比 較 ( 産 業 計 企 業 規 模 計 男 女 計 ) 1 雇 用 区 分 別 の 時 給 額 雇 用 区 分 平 均 年 齢 時 給 ( 円 ) 正 規 / 非 正 規 所 定 労 働 時 間 期 間 の 定 め ( 歳 ) 賃 金 基 準 年 収 基 準 正 社 員 フルタイム 無 期 契 約 41.2 1,947 2,442 有 期 契 約 48.8 1,620 1,863 パートタイム 無 期 契 約 47.0 1,398 1,580 有 期 契 約 54.5 1,377 1,485 非 正 社 員 フルタイム 無 期 契 約 47.2 1,128 1,200 有 期 契 約 45.8 1,256 1,362 パートタイム 無 期 契 約 45.4 1,019 1,041 有 期 契 約 44.6 1,032 1,060 2 雇 用 区 分 別 の 時 給 額 の 比 較 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 100 1. 正 社 員 フルタイム 無 期 契 約 100 83 2. 正 社 員 フルタイム 有 期 契 約 76 72 3. 正 社 員 パートタイム 無 期 契 約 65 71 4. 正 社 員 パートタイム 有 期 契 約 61 58 6. 非 正 社 員 フルタイム 無 期 契 約 49 65. 非 正 社 員 フルタイム 有 期 契 約 56 52. 非 正 社 員 パートタイム 無 期 契 約 43 53. 非 正 社 員 パートタイム 有 期 契 約 43 賃 金 基 準 年 収 基 準 資 料 出 所 : 厚 生 労 働 省 平 成 26 年 賃 金 構 造 基 本 統 計 調 査 ( 注 ) 1. 時 給 額 は 下 記 の 要 領 で 筆 者 が 算 出 した 賃 金 基 準 : フルタイム は 所 定 内 給 与 額 所 定 労 働 時 間 パートタイム は 1 時 間 当 たり 所 定 内 給 与 額 年 収 基 準 : フルタイム は 図 表 3の 年 収 ( 所 定 労 働 時 間 12) パートタイム は 図 表 2の 年 収 ( 1 時 間 当 たり 所 定 内 給 与 額 1 日 あたり 所 定 内 実 労 働 時 間 数 実 労 働 日 数 12) 2.2は 正 社 員 フルタイム 無 期 契 約 の 時 給 額 =100 としたときの 指 数 2015.8.25 先 見 労 務 管 理 37
りました ⑵ 労 働 政 策 研 究 研 修 機 構 の 調 査 結 果 図 表 5 は 図 表 1( 連 載 第 1 回 前 編 参 照 )と 同 じ 調 査 の 中 で 同 じ 仕 事 をし ている 正 社 員 と 比 較 した 年 収 水 準 を 尋 ね た 結 果 です 各 雇 用 区 分 の 水 準 を 無 限 定 正 社 員 を 100 としたときの 指 数 で 表 してい ます 図 表 2-3の 年 収 指 数 は (ウ) フル タイム 非 正 社 員 無 期 契 約 が 50 (エ) 同 有 期 契 約 が 55 となっていました これに 対 し 図 表 5 の フルタイム 非 正 社 員 は 77.0 とかなり 高 くなっています ま た 定 年 再 雇 用 社 員 についても 賃 金 セ ンサスから 推 計 した 53%( 連 載 第 1 回 前 編 参 照 )よりも 高 い 70.1 になっています 仕 事 の 内 容 を 加 味 すると 格 差 は 縮 まると 考 えられます ⑶ A 部 長 の 感 想 と 疑 問 図 表 5 を 見 た A 部 長 は これまで 契 約 社 員 などの 賃 金 を 仕 事 の 内 容 を 踏 まえて 決 めてきて 良 かったと 思 いました その 一 方 で 非 正 社 員 だから という 理 由 で 仕 事 内 容 が 同 じなら 昇 給 しない 賞 与 は 対 象 外 としてきたことには 疑 問 を 感 じ 最 近 社 内 で 次 のような 声 が 増 えていること を 思 い 出 しました ベテランのパート 社 員 は 若 手 の 正 社 員 に 教 えたり 改 善 提 案 もするのになぜ 昇 給 がないのか 定 年 前 と 同 じ 役 割 責 任 なのに 嘱 託 だ からといってなぜこんなに 年 収 が 減 るの か 正 社 員 の 中 にも 転 勤 や 残 業 ができない 人 が 増 えているのに 契 約 社 員 だけ 昇 給 や 賞 与 がないのはおかしい 非 正 社 員 の 中 にも 生 計 を 支 える 人 が 増 え ている A 部 長 の 視 点 をかりて 多 様 な 働 き 方 の 賃 金 の 実 態 を 見 てきました 皆 さんの 感 想 は いかがでしょうか 4. 多 様 な 働 き 方 の 背 景 制 約 社 員 が 基 幹 業 務 の 担 い 手 に 雇 用 形 態 別 の 賃 金 比 較 から 正 社 員 と 非 正 社 員 の 間 に 格 差 があることがはっきり 確 認 できました かつては 非 正 社 員 だから 仕 方 ない とされた 格 差 が 現 在 は 大 きな 問 題 となっています その 背 景 は 非 正 社 員 が 4 割 弱 に 増 えたことだけでなく A 部 長 が 思 い 出 した P 社 内 の 声 にも 表 れて います これらは 次 の 3 つに 整 理 されると 思 います 1 非 正 社 員 の 仕 事 の 一 部 が 高 度 化 し 正 社 員 の 仕 事 と 重 なる 部 分 が 増 えてきた 2 正 社 員 の 中 に 転 勤 や 残 業 ができない 人 が 図 表 5: 同 じ 仕 事 をしている 正 社 員 との 年 収 比 較 ( 無 限 定 正 社 員 = 100) 雇 用 区 分 年 収 水 準 無 限 定 正 社 員 100.0 限 定 正 社 員 87.9 フルタイム 非 正 社 員 ( 有 期 無 期 問 わない) 77.0 定 年 再 雇 用 社 員 70.1 資 料 出 所 : 労 働 政 策 研 究 研 修 機 構 人 材 マネジメントのあり 方 に 関 する 資 料 (2015 年 2 月 ) ( 注 ) 1. 調 査 対 象 時 期 は 図 表 1と 同 じ 2. 正 社 員 と 何 らかの 区 分 の 非 正 社 員 を 雇 用 している 企 業 での 集 計 38
出 てきた 3 非 正 社 員 という 働 き 方 で 生 計 を 支 えてい る 人 がいる 1と2は 基 幹 業 務 の 担 い 手 の 変 化 を 表 し ています これまでは 通 常 基 幹 業 務 は 正 社 員 が 担 ってきました 異 動 や 転 勤 残 業 の 要 請 に 無 理 なく 応 える 正 社 員 の 方 が 任 せやすいからです このような 正 社 員 は 働 くうえでの 制 約 がないという 意 味 で 無 制 約 社 員 とも 呼 ばれます( 今 野 浩 一 郎 学 習 院 大 学 教 授 による) 一 方 非 正 社 員 は 主 に 周 辺 業 務 を 担 って きました 非 正 社 員 の 多 くは 何 らかの 制 約 を 抱 える 制 約 社 員 であるからです 正 社 員 と 非 正 社 員 の 役 割 分 担 は 無 制 約 社 員 は 基 幹 業 務 担 当 制 約 社 員 は 周 辺 業 務 担 当 という 分 担 だったのです ところが この 分 担 に 前 述 の 変 化 (1 2)が 起 きました 1は 制 約 社 員 が 基 幹 業 務 の 一 部 を 担 うようになり 2は 基 幹 業 務 を 担 う 正 社 員 の 一 部 が 制 約 社 員 化 して いることを 示 しています つまり 基 幹 業 務 を 担 当 するのは 無 制 約 社 員 である とい う 前 提 が 崩 れているのです 3は 社 員 の 私 的 な 問 題 とも 言 えますが 生 活 不 安 は 仕 事 への 集 中 力 を 妨 げます 事 故 やトラブルの 可 能 性 もありますので 会 社 としては 軽 視 できません 1から3を 再 度 書 き 直 すと 制 約 社 員 の 重 要 さが 見 えてきます 制 約 社 員 が 基 幹 業 務 を 担 うようになって いる 基 幹 業 務 を 担 っていた 社 員 が 制 約 社 員 化 している 制 約 社 員 が 家 計 を 支 えるようになってい る では 制 約 社 員 の 働 き 方 である 多 様 な 働 き 方 はこれからどのように 動 いていく 2015.8.25 先 見 労 務 管 理 のでしょうか 5. 多 様 な 働 き 方 の 今 後 と 意 義 人 生 の 各 ステージで 働 き 方 を 変 える 人 も まず 思 い 浮 かぶのは 法 律 改 正 の 影 響 です ご 存 知 のとおり 2012 年 の 高 年 齢 者 雇 用 安 定 法 の 改 正 によって 65 歳 までの 雇 用 が 原 則 義 務 化 され 企 業 は 1 定 年 年 齢 の 引 き 上 げ 2 継 続 雇 用 制 度 の 導 入 ( 定 年 再 雇 用 ) 3 定 年 制 の 廃 止 のいずれか を 迫 られました 労 働 政 策 研 究 研 修 機 構 の 高 年 齢 社 員 や 有 期 契 約 社 員 の 法 改 正 後 の 活 用 状 況 に 関 する 調 査 (2013 年 7 月 8 月 )によると 83%の 企 業 が2 定 年 再 雇 用 を 選 んでおり 定 年 再 雇 用 者 の 増 加 が 見 込 まれます 同 じく 2012 年 に 労 働 契 約 法 が 改 正 され 2013 年 4 月 以 降 有 期 雇 用 契 約 が 繰 り 返 し 更 新 されて 通 算 5 年 を 超 えると 労 働 者 に 無 期 雇 用 契 約 への 転 換 権 が 生 じることにな りました( 4) 2013 年 4 月 以 降 の 雇 用 契 約 が 対 象 ですので 通 算 5 年 に 達 する 2018 年 4 月 以 降 フルタイム 無 期 契 約 社 員 と パートタイム 無 期 契 約 社 員 の 増 加 が 見 込 まれます 4:2014 年 の 法 改 正 により 高 度 の 専 門 知 識 等 を 有 する 労 働 者 は 一 定 期 間 無 期 転 換 申 込 み 権 が 発 生 しないこと になりました( 上 限 10 年 ) 正 社 員 の 多 様 化 も 進 みそうです 図 表 1 と 同 じ 調 査 において 自 社 における 多 様 な 正 社 員 の 可 能 性 を 尋 ねたところ 2 割 弱 (19.1%)の 企 業 が 多 様 な 正 社 員 区 分 を 新 設 ( 既 にある 場 合 は 拡 充 )することを 検 討 し 得 る と 答 えています 検 討 し 得 る とした 理 由 で 最 も 多 いのは 改 正 労 働 契 約 39
法 による 無 期 転 換 への 対 応 でした(44.3%) 2 番 目 は 少 子 高 齢 化 が 進 展 するなか 必 要 な 労 働 力 をいかに 確 保 するかに 危 機 感 を 持 っているから (42.7%)という 理 由 でし た この 調 査 から 今 日 までに 人 手 不 足 が 急 速 に 進 んだので 危 機 感 はさらに 高 まって いると 思 います 今 年 6 月 の 有 効 求 人 倍 率 はバブル 期 並 みの 1.19 で 新 卒 中 途 とも に 採 用 競 争 が 激 化 しています 一 方 労 働 力 人 口 は 減 少 し さらには 家 族 の 介 護 や 育 児 等 が 制 約 となって 長 時 間 勤 務 や 転 勤 ができない 働 き 手 も 増 えています このように 無 限 定 に 働 ける 正 社 員 ( 無 限 定 正 社 員 )が 減 る 見 通 しであることから 限 定 正 社 員 という 働 き 方 に 注 目 が 集 まっ ています 総 合 すると 制 約 社 員 は 増 え 制 約 の 内 容 も 多 様 化 が 見 込 まれますので 働 き 方 の 多 様 化 は 避 けられません また 人 生 の 各 ステージで 働 き 方 を 変 える 人 も 増 えるでし ょう 同 じ 会 社 に 勤 めながら 無 限 定 正 社 員 と 限 定 正 社 員 パート 社 員 など 複 数 の 雇 用 形 態 を 行 き 来 することも 十 分 考 えられ ます 多 様 化 への 対 応 は 簡 単 ではありませんが 働 き 方 が 増 えることは 社 員 と 会 社 の 双 方 に とって 大 きな 意 義 があると 思 います 社 員 は 自 分 に 合 った 働 き 方 を 選 択 することで 制 約 とバランスをとりながら より 充 実 した 職 業 人 生 を 送 ることができます 会 社 は 労 働 力 の 確 保 や 人 件 費 の 節 約 だけでな く 多 様 な 社 員 のアイディアの 融 合 によっ て 新 たな 価 値 を 創 る 機 会 が 増 えます このような 社 員 と 会 社 の Win-Win の 関 係 をつくるには 一 人 ひとりの 活 躍 が 最 も 重 要 であり それを 支 える 人 事 施 策 が 求 められます 単 なる 雇 用 形 態 の 増 加 ではな く 雇 用 形 態 間 の 行 き 来 まで 考 えると 対 症 療 法 的 な 対 応 では 行 き 詰 ります 社 員 が なるほど と 感 じ 会 社 も 無 理 なく 運 用 で きる 包 括 的 かつ 持 続 可 能 な 人 事 施 策 が 必 要 です 本 連 載 ではその 1 つとして 多 様 な 社 員 の 活 躍 を 支 えるわかりやすい 賃 金 制 度 について 次 回 以 降 ご 提 案 していきたい と 思 います たなか ひろし 1966 年 生 まれ 広 島 大 学 理 学 部 卒 業 後 東 ソー にて 研 究 開 発 技 術 営 業 に 従 事 英 語 教 育 業 を 経 て 2006 年 プライムコンサルタントに 入 社 幅 広 い 業 種 で 会 社 と 社 員 の 良 い 絆 づくりを 目 指 したコンサルティン グを 展 開 する 中 小 企 業 診 断 士 日 本 人 材 マネジメント 協 会 会 員 ゴール ドラット スクール 認 定 トレーナー(TOC Management Tools Basic) TOC-ICO 認 定 Jonah 40